説明

シートパッドの製造方法

【課題】シートパッドの硬さやヒステリシス特性を低下させることなく、シートパッドの振動特性を改善する。
【解決手段】脱型直後の収縮が進行していない状態のシートパッド10に、押付台31の表面に直径が0.8mm未満の多数本の細針32をそのピッチが1〜4mmになるように2次元的に配置したクラッシュ用冶具30を、上記細針32の侵入深さが当該シートパッド10の厚さの半分以上になるように押しつけて、上記シートパッド10を破泡処理することにより、上記シートパッド10の芯の部分もクラッシュされるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、車両用シートのクッション材などに用いられるシートパッドの製造方法に関するもので、特に、シートパッドの振動特性の改善に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用シートのクッション材に用いられるシートパッドとしては、例えば、軟質ポリウレタンフォームなどから成る発泡成形品が多く用いられている。上記シートパッドは、例えば、ウレタンフォーム発泡形成材料を金型のキャビティ内に注入して発泡・成形し、その後脱型して得られる。また、脱型後は、上記発泡・成形工程において上記シートパッドを構成する発泡体の独泡中に取り込まれているガスが冷え込んで上記シートパッドが収縮する、いわゆる、シュリンクを防止するとともに、振動特性を改善する目的で、上記シートパッドにローラークラッシュ処理や真空クラッシュ処理を施して、上記発泡体の独泡を潰す破泡処理を行うようにしている(例えば、特許文献1,2参照)。
また、所望の形状に成形されたパッド材をプレス装置に配置し、プレス装置の基盤に適宜の間隔をおいて配設された多数の刺し針を、上記パッド材の表面側から裏面側に向かって刺し込んで、上記パッド材に針穴を形成することにより、パッド材の硬さを調整する方法が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【特許文献1】特開2002−52616号公報
【特許文献2】特開2002−69226号公報
【特許文献3】実開昭59−2242号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記ローラークラッシュ処理や真空クラッシュ処理では、振動特性の改善、すなわち、共振点での振動伝達率(共振倍率)を低下させることはできるものの、破泡の度合いがシートパッドの厚みに左右されやすいため、残存独泡率の制御が難しく、そのため、振動特性が一様にならないといった問題点があった。特に、ローラークラッシュ処理では、ローラの幅に対して厚さが薄い小物の場合に、安定した振動特性が得られなかった。
一方、パッド材に刺し針による針穴を形成する方法では、針穴を形成することが主であり、破泡処理や振動性能の改善については、全く考慮されていない。すなわち、上記針穴を形成する方法は、単に、出来上がったシートパッドに穴をあけてその硬さを低下させるだけなので、成形されたシートパッドの硬さを所定の硬さに保持しながら、残存独泡率を低下させシートパッドの振動吸収性能を向上させることは困難である。
【0004】
本発明は、従来の問題点に鑑みてなされたもので、シートパッドの硬さやヒステリシス特性を低下させることなく、シートパッドの振動特性を改善することのできるシートパッドの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願の請求項1に記載の発明は、樹脂材料を金型内に注入して発泡・成形して成るシートパッドの製造方法であって、脱型直後の収縮が進行していない状態のシートパッドに、直径が0.8mm未満の多数本の細針を、その侵入深さが当該シートパッドの厚さの半分以上になるように上記シートパッドに突き刺して、上記シートパッドを破泡処理することを特徴とする。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のシートパッドの製造方法において、上記細針が、当該シートパッドの長さ方向のピッチ及び幅方向のピッチが1〜4mmになるように配置されていることを特徴とする。
請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載のシートパッドの製造方法において、上記細針を上記シートパッドの両面から侵入させるようにしたものである。
また、請求項4に記載の発明は、請求項1〜請求項3のいずれかに記載のシートパッドの製造方法において、上記細針による破泡処理が施されたシートパッドを、所定の距離離れて配置されたクラッシュローラー間に通して更に破泡処理を施すようにしたものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、シートパッドの芯の部分もクラッシュされるので、共振周波数を変更できるとともに、共振倍率を大幅に低減できる。したがって、シートパッドの振動特性を適正に制御することができる。また、シュリンクを防止できるとともに、シートパッドの硬さやヒステリシス特性などの他の性能を低下させることがないので、クッション性に優れたシートパッドを得ることができる。
また、細針のピッチを1〜4mmの範囲とすれば、シートパッドを均一にクラッシュできるので、振動特性のばらつきを低減できる。
また、上記細針を上記シートパッドの両面から侵入させれば、シートパッドを更に均一にクラッシュできる。
更に、上記細針による破泡処理後に更にローラークラッシュ処理を行えば、共振周波数を低周波側に移動できるので、体に感じやすい10Hz近傍の振動を更に低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の最良の形態について、図面に基づき説明する。
図1は、本実施の形態に係る車両用シートパッド10の製造方法を示す模式図である。車両用シートパッド(以下、シートパッドという)10を形成する際には、例えば、イソシアネート成分とポリオール成分を主な原料とした液状のポリウレタンを、上型21と下型22との間に形成された金型20のキャビティ23内に注入して発泡・成形した後脱型して得られる。本例では、この脱型直後の収縮が進行していない状態のシートパッド10に、細針による破泡処理(ニードルクラッシュ処理)を施す。具体的には、図1の右下図に示すように、上記シートパッド10の座面11よりも大きな面積を有する押付台31の表面に、上記シートパッド10内に侵入する部分の直径が0.8mm未満で、かつ、上記押付台31からの突出長さが上記シートパッド10の厚さの半分よりも長い多数本の細針32が、そのピッチPが、同図の矢印で示すシートパッド10の長さ方向と、同図の紙面に垂直な方向である幅方向でそれぞれ1〜4mmになるように2次元的に配置されているクラッシュ用冶具30を準備し、脱型直後のシートパッド10が縮む前、すなわち、脱型直後のシートパッド10を構成するウレタンフォームが熱い(30〜80℃)状態で、上記細針32が上記フォームの厚さの半分以上まで浸入するように、上記クラッシュ用冶具30を上記フォーム方向に押しつける。これにより、従来のローラークラッシュ処理や真空クラッシュ処理では破泡ができなかったシートパッド10の芯の部分の独泡についても確実にクラッシュすることができる。
上記のような破泡処理を施したシートパッド10は、硬度及びヒステリシスロスが、従来のローラークラッシュ処理したシートパッドと同等で、かつ、ピークの共振倍率を従来に比較して大幅に低減することができる。また、本例では、シートパッド10の芯の部分の独泡もクラッシュされるので、共振周波数を変更する(ここでは、高周波側にずらす)ことができる。
なお、上記細針32のシートパッド10内に侵入する部分の直径が0.8mmを超えると、シートパッド10にあく針穴が大きくなり、シートパッド10の硬さが所望の硬さよりも柔らかくなる恐れがある。また、上記細針32の直径の下限については、シートパッド10の材質やシートパッド10の厚さ(細針32の浸入深さ)により適宜決定される。
また、細針32の配列ピッチについては、1〜4mmとするのが好ましく、2〜3mmとすれば、更に好ましい。これにより、残存独泡率を適度に制御しながら、シートパッド10全体を均一に破泡することができる。
【0008】
このように、本実施の形態によれば、脱型直後の収縮が進行していない状態のシートパッド10に、押付台31の表面に直径が0.8mm未満の多数本の細針32をそのピッチが1〜4mmになるように2次元的に配置したクラッシュ用冶具30を、上記細針32の侵入深さが当該シートパッド10の厚さの半分以上になるように押しつけて、上記シートパッド10を破泡処理することにより、上記シートパッド10の芯の部分もクラッシュされるようにしたので、共振周波数を変更できるとともに、共振倍率を大幅に低減することができる。したがって、シートパッド10の振動特性を適正に制御することができる。
また、上記細針32を、ピッチが1〜4mmになるように2次元的に配置して、シートパッド10全体を均一に破泡するようにしたので、安定した振動特性を有するシートパッドを得ることができる。
【0009】
なお、上記最良の形態では、細針32をシートパッド10の座面11側から侵入させたが、座面11と裏面12の両方から侵入させるようにしてもよい。この場合、上記細針32の片側からの侵入深さとしては、当該シートパッド10の厚さの半分であればよく、これにより、上記シートパッド10の芯の部分を十分にクラッシュすることができる。
また、上記細針32による破泡処理が施されたシートパッド10に、更に、ローラークラッシュ処理を行ってもよい。具体的には、図2に示すように、上記破泡処理したシートパッド10を、それぞれが所定の距離離れて配置された多段のクラッシュローラー41a,41b〜43a,43b間に順次通して上記シートパッド10に更に破泡処理を施すようにしてもよい。これにより、細針32による破泡処理により高周波側に移動した共振周波数を低周波側に移動させることができるので、体に感じやすい10Hz周辺の振動を吸収することができるシートパッドを得ることができる。
【実施例】
【0010】
寸法が350×350×70tのウレタンフォームの試験片を成形するとともに、脱型直後の試験片に以下の3種類のクラッシュ処理を施して得られた各試験片の25%硬度、振動特性、及び、ヒステリシス特性を調べた結果を以下の表1に示す。
試験片1(従来例) ;ローラークラッシュ処理
試験片2(本発明1);ニードルクラッシュ処理
針:0.6φ、長さ50mm、ピッチ:2〜3mm四方
試験片3(本発明2);ニードルクラッシュ処理後にローラークラッシュ処理
25%硬度は、試験機の水平台に搭載した試験片にφ200の加圧板を乗せ、上記試験片に5Nの初期荷重を加えて初期厚さを測定した後、この試験片を初期厚さの25%の距離まで圧縮したときの荷重を測定し、これを25%硬度とする。
振動試験は、試験片を加振台上に搭載し、その上に50kgの加圧板を乗せて、振幅±2.5mm、掃引周波数1〜10Hzの正弦波振動を5分間加え、その伝達特性を変位計で測定した。図3に、伝達特性を示す。
ヒステリシスは、試験機の水平台に搭載した試験片にφ200の圧板を乗せ、この圧板を押し込み速度10mm/分で、試験片をその厚さの70%(ここでは、49mm)まで押し込んでから元に戻す試験を行い、その時に圧板に作用する反力を測定して荷重−ストローク曲線を求めた後、この荷重−ストローク曲線の行きと帰りとで囲まれた面積から求めた。図4に、測定した荷重−ストローク曲線を示す。
なお、試験片1のローラークラッシュ処理と試験片2,3のニードルクラッシュ処理とは、試験片が縮む前、すなわち、脱型直後の試験片が熱い(30〜80℃)状態で行った。また、試験片3のニードルクラッシュ処理後のローラークラッシュ処理は、試験片が冷えた状態(常温)で行った。
【表1】

表1及び図3,図4から明らかなように、脱型直後にニードルクラッシュ処理した本発明1のウレタンフォームは、硬度及びヒステリシスロスが従来例と同等でありながら、ピークの周波数を従来のローラークラッシュ処理を行ったときのピークの周波数からずらすことが可能であり、かつ、ピークの共振倍率を大幅に低減できることが確認された。
また、ニードルクラッシュ処理後にローラークラッシュ処理を行った本発明2のウレタンフォームは、ピークの周波数を上記ニードルクラッシュ処理した場合よりも低周波側に移動させることができるとともに、ピークの共振倍率についても、ローラークラッシュ処理のみを行った従来例に比較して大幅に低減できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0011】
以上説明したように、本発明によれば、シートパッドの硬さやヒステリシス特性を低下させることなく、シートパッドの振動特性を改善することができるので、クッション性に優れたシートパッドを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の最良の形態に係るシートパッドの製造方法を示す模式図である。
【図2】ローラークラッシュ処理の概要を示す図である。
【図3】本発明によるニードルクラッシュ処理を施したフォームの振動特性の一例を示す図である。
【図4】本発明によるニードルクラッシュ処理を施したフォームの荷重−ストローク曲線の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0013】
10 車両用シートパッド、11 座面、12 裏面、
20 金型、21 上型、22 下型、23 キャビティ、
30 クラッシュ用冶具、31 押付台、32 細針。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂材料を金型内に注入して発泡・成形して成るシートパッドの製造方法において、脱型直後の収縮が進行していない状態のシートパッドに、直径が0.8mm未満の多数本の細針を、その侵入深さが当該シートパッドの厚さの半分以上になるように上記シートパッドに突き刺して、上記シートパッドを破泡処理することを特徴とするシートパッドの製造方法。
【請求項2】
上記細針は、当該シートパッドの長さ方向のピッチ及び幅方向のピッチが1〜4mmになるように配置されていることを特徴とする請求項1に記載のシートパッドの製造方法。
【請求項3】
上記細針を上記シートパッドの両面から侵入させることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のシートパッドの製造方法。
【請求項4】
上記細針による破泡処理が施されたシートパッドを、所定の距離離れて配置されたクラッシュローラー間に通して更に破泡処理を施すことを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載のシートパッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−292022(P2009−292022A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−147302(P2008−147302)
【出願日】平成20年6月4日(2008.6.4)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】