説明

シートモールディングコンパウンドとその製造方法および人造大理石の製造方法

【課題】マーブル調の流れ柄を有する人造大理石を得ることができるシートモールディングコンパウンドとその製造方法および人造大理石の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明のシートモールディングコンパウンド2は、樹脂細片と、繊維強化材と、樹脂細片および繊維強化材を含有するシート状のベースコンパウンド4とを有し、樹脂細片は、第1の増粘剤を含有する流れ柄形成用のコンパウンド3の半固形状の増粘物を切断して得られたものであり、ベースコンパウンド4は、第2の増粘剤を含有し、この第2の増粘剤により樹脂細片よりも低い粘度に増粘したものであることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートモールディングコンパウンドとその製造方法および人造大理石の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、天然の大理石と同じ素材感、質感、自然感等を持たせた人造大理石は、住宅等の建材や、キッチン、バス、洗面化粧台等の広範な用途に利用されてきている。
【0003】
このような人造大理石の製造においては、柄付けが行われており、形成された柄により天然石に近い印象を与えている。
【0004】
このような柄付けとして、硬化または半硬化した樹脂の粉砕品を人造大理石に混ぜ込む方法等が提案されているが、つぶ状の天然石柄を表現することができるものの、流れ柄を有する天然石のような風合いは出せなかった。
【0005】
流れ柄を有する人造大理石を製造する方法としては、ベースとなる樹脂に、これとは色調の異なる樹脂を線状に賦形したものを配置する技術が知られている。
【0006】
しかしながら、この方法は、開いた型を用いる注型成形や、押出成形等のように、線状に賦形した樹脂が型内で流動しにくい成形法を採用しない限り、流れ柄を作製することは困難であった。
【0007】
一方、近年の人造大理石においては、繊維強化材を含むシートモールディングコンパウンドを原料とするものが用いられるようになってきている。シートモールディングコンパウンドを用いた成形品は、高温高圧のプレス工程により非常に短サイクルでの作製が可能となっている。
【0008】
シートモールディングコンパウンドを原料とする人造大理石は、一般に直圧成形により製造される。従って、直圧成形において流れ柄を形成できる技術が望まれていた。
【0009】
直圧成形において流れ柄を形成する技術として、特許文献1では、色調や模様の異なるシート状の樹脂組成物を積層した後、増粘させてシートモールディングコンパウンドとし、これを金型内に仕込み直圧成形する方法が提案されている。
【0010】
また特許文献2では、樹脂組成物を金型に入れ、加圧して展延した後、型を一旦開き、シート状の樹脂組成物の上に模様材料を配置して再度加圧する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開昭61−108515号公報
【特許文献2】特開平9−11257号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、これらの直圧成形を用いた方法では、マーブル調の流れ柄による天然石のような風合いを出すことは一般に難しい。そのため、流れ柄を付与する新規な方法が望まれていた。
【0013】
本発明は、以上のとおりの事情に鑑みてなされたものであり、マーブル調の流れ柄を有する人造大理石を得ることができるシートモールディングコンパウンドとその製造方法および人造大理石の製造方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題を解決するために、本発明のシートモールディングコンパウンドは、樹脂細片と、繊維強化材と、樹脂細片および繊維強化材を含有するシート状のベースコンパウンドとを有し、樹脂細片は、第1の増粘剤を含有する流れ柄形成用のコンパウンドの半固形状の増粘物を切断して得られたものであり、ベースコンパウンドは、第2の増粘剤を含有し、この第2の増粘剤により樹脂細片よりも低い粘度に増粘したものであることを特徴としている。
【0015】
このシートモールディングコンパウンドにおいて、樹脂細片の粘度が8000〜20000Pa・sの範囲内であり、ベースコンパウンドの粘度が樹脂細片の粘度よりも低いことが好ましい。
【0016】
このシートモールディングコンパウンドにおいて、第1の増粘剤の流れ柄形成用のコンパウンド全量に対する含有率が、第2の増粘剤のベースコンパウンド全量に対する含有率の0.7〜2倍であることが好ましい。
【0017】
このシートモールディングコンパウンドにおいて、流れ柄形成用のコンパウンドとベースコンパウンドは、増粘剤と着色剤以外の組成が同一であることが好ましい。
【0018】
このシートモールディングコンパウンドにおいて、樹脂細片は、最大長さが1〜5mmであることが好ましい。
【0019】
本発明の人造大理石の製造方法は、前記のシートモールディングコンパウンドを直圧成形する工程を含むことを特徴としている。
【0020】
本発明のシートモールディングコンパウンドの製造方法は、第1の増粘剤を含有する流れ柄形成用のコンパウンドを第1の増粘剤により増粘させて半固形状の増粘物を得た後、この半固形状の増粘物を切断して樹脂細片を調製する工程と、第2の増粘剤を含有する液状のベースコンパウンドに樹脂細片を分散させる工程と、樹脂細片を分散させたベースコンパウンドを繊維強化材に含浸したシート体を調製する工程と、このシート体のベースコンパウンドを第2の増粘剤により増粘させてシートモールディングコンパウンドを調製する工程とを含むことを特徴としている。
【0021】
このシートモールディングコンパウンドの製造方法において、樹脂細片の増粘後の粘度を8000〜20000Pa・sとし、ベースコンパウンドの増粘後の粘度を樹脂細片の増粘後の粘度よりも小さくすることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明のシートモールディングコンパウンドとその製造方法、および人造大理石の製造方法によれば、マーブル調の流れ柄を有する人造大理石を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】(a)〜(d)は本発明のシートモールディングコンパウンドを用いて直圧成形により人造大理石を製造する工程を説明する図であり、左側は金型断面を示し、右側は成形面の状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0025】
本発明では、第1の増粘剤を含有する流れ柄形成用のコンパウンドを、この第1の増粘剤により増粘させて半固形状の増粘物を得た後、この半固形状の増粘物を切断して樹脂細片を調製する。そして、この樹脂細片を、第2の増粘剤を含有する液状のベースコンパウンドに分散させる。
【0026】
このときベースコンパウンドは液状であることから、増粘した樹脂細片との間で粘度差を有している。そのため、樹脂細片は通常の撹拌によってはベースコンパウンドに溶解せず、分散した状態を保ったまま均一にベースコンパウンドに分散させることができる。
【0027】
そして樹脂細片の増粘後の粘度をベースコンパウンドの増粘後の粘度よりも高くしている。直圧成形の場合、通常であればプレス時の温度上昇による粘度低下とせん断力により樹脂細片は拡散溶融し、樹脂細片は次第に消失する。しかし、ベースコンパウンドと樹脂細片との間で粘度差を有することで、直圧成形時において温度上昇による粘度低下に時間差を持つことになる。そのため樹脂細片の拡散溶融を抑制したままベースコンパウンドは金型末端まで充填される。また樹脂細片を固形状ではなく半固形状とすることで、樹脂細片はプレス時にある程度流動し、マーブル調の流れ柄を形成することができる。そしてベースコンパウンドが金型末端まで充填された後、樹脂細片もベースコンパウンドと共に硬化し、流れ柄を形成することが可能となる。
【0028】
本発明において、流れ柄形成用のコンパウンドおよびベースコンパウンドには、次のものを用いることができる(以下、両者を合わせて「コンパウンド」と略記することがある)。
【0029】
コンパウンドとしては、例えば、熱硬化性樹脂として不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂等を用いた熱硬化性樹脂組成物を用いることができる。中でも、熱硬化性樹脂としては不飽和ポリエステル樹脂が好ましい。
【0030】
熱硬化性樹脂として不飽和ポリエステル樹脂を用いたコンパウンドは、不飽和ポリエステル樹脂、重合性単量体、低収縮剤、無機充填剤、および増粘剤を含有する。
【0031】
コンパウンドに配合される不飽和ポリエステル樹脂は、α,β−不飽和多塩基酸またはその無水物を必須成分として含む多塩基酸成分と多価アルコールとを反応させて得られる。
【0032】
α,β−不飽和多塩基酸またはその無水物としては、例えば、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、無水マレイン酸、これらの無水物等のα,β−不飽和二塩基酸またはその無水物等を用いることができる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0033】
多塩基酸成分として、α,β−不飽和多塩基酸と共に、飽和多塩基酸またはその無水物を併用することができる。具体的には、例えば、フタル酸、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラヒドロフタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、3,6−エンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、グルタル酸、アジピン酸、セバチン酸、トリメリット酸、無水トリメリット酸、ピロメリット酸、ダイマー酸、こはく酸、アゼライン酸、ロジン−マレイン酸付加物等を用いることができる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0034】
多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、ビスフェノールA、ビスフェノールS、水素添加ビスフェノールA等の二価アルコール、グリセリン、トリメチロールプロパン等の三価アルコール、ペンタエリスリトール等の四価アルコール等を用いることができる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0035】
不飽和ポリエステル樹脂の数平均分子量は、粘性や物性等を考慮すると、2000〜6000の範囲内が好ましい。
【0036】
不飽和ポリエステル樹脂は、上記の各成分を原料として、公知の方法により製造することができる。例えば、窒素等の不活性ガス気流中において140〜230℃の温度で所要の段階までエステル化する方法で製造することができる。エステル化反応では、必要に応じて、酢酸マンガン、ジブチル錫オキサイド、シュウ酸第一錫、酢酸亜鉛、酢酸コバルト等のエステル化触媒を用いることができる。
【0037】
重合性単量体は、不飽和ポリエステル樹脂と架橋可能なものであれば特に限定されないが、例えば、スチレン、クロルスチレン、ジビニルベンゼン、ターシャリーブチルスチレン、臭化スチレン等のスチレンおよびその誘導体、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル等のメタクリル酸またはアクリル酸のアルキルエステル、β−ヒドロキシメタクリル酸エチル、β−ヒドロキシアクリル酸エチル等のメタクリル酸またはアクリル酸のヒドロキシアルキルエステル、ジアリルフタレート、アクリルアミド、フェニルマレイミド等を用いることができる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、エチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、トリメチールプロパントリメタクリレート等の多官能のメタクリル酸またはアクリル酸のエステルを用いることもできる。
【0038】
不飽和ポリエステル樹脂と重合性単量体との配合割合は、特に限定されないが、両者の合計量100質量部に対して、不飽和ポリエステル樹脂25〜90質量部とするのが好ましい。不飽和ポリエステル樹脂の配合割合を25質量部以上にすると、コンパウンドの粘度低下を抑制してシート状に塗布することが容易となり、沈降、硬化収縮等も抑制することができる。不飽和ポリエステル樹脂の配合割合を90質量部以下にすると、コンパウンドの粘度上昇を抑制してシート状に塗布することが容易となり、コンパウンドに配合する他の成分との混合も容易になる。
【0039】
低収縮剤は、不飽和ポリエステル樹脂の硬化収縮を低減させる目的で配合されるものであり、通常は熱可塑性樹脂が用いられる。具体的には、例えば、ポリスチレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂、飽和ポリエステル樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリスチレン酢酸ビニル共重合体樹脂、ポリスチレン変性共重合体樹脂等を用いることができる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0040】
低収縮剤の配合量は、特に限定されないが、不飽和ポリエステル樹脂、重合性単量体、および低収縮剤の合計量100質量部に対して5〜20質量部が好ましい。低収縮剤の配合量を5質量部以上にすると、不飽和ポリエステル樹脂の硬化収縮を十分に抑制することができ、これにより成形時にクラックの発生や表面外観の不良発生を抑制することができる。低収縮剤の配合量を20質量部以下にすると、不飽和ポリエステル樹脂との相溶性が良好となり、シートモールディングコンパウンドのベタつきの発生や、成形品の色むらを抑制することができる。
【0041】
無機充填剤は、特に限定されないが、例えば、平均粒径30μm以下の粒子状無機物を用いることができる。なお、ここで粒子状無機物の平均粒径はレーザ回折・散乱法等の手段により測定することができる。平均粒径が30μm以下のものを用いることで、成形品の強度を高めることができ、表面平滑性も向上させることができる。
【0042】
このような無機充填剤としては、例えば、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、硫酸バリウム、クレー、アルミナ粉末、珪砂、タルク、シリカ、ガラスビーズ、マイカ等を用いることができる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0043】
無機充填剤の配合量は、不飽和ポリエステル樹脂、重合性単量体、および低収縮剤の合計量100質量部に対して100〜200質量部が好ましい。無機充填剤の配合量を100質量部以上にすると、シートモールディングコンパウンドに含有されるガラス繊維等の繊維強化材の流動時における分散が均一になり、強度バラツキを低減することができる。無機充填剤の配合量を200質量部以下にすると、コンパウンドの粘性上昇が抑制され、ガラス繊維等の繊維強化材への含浸性が良好になり、成形品の強度を高めることができる。
【0044】
増粘剤としては、例えば、アルカリ土類金属の酸化物、水酸化物等を用いることができる。具体的には、例えば、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム等を用いることができる。
【0045】
増粘剤(第1および第2の増粘剤)の配合量は、不飽和ポリエステル樹脂、重合性単量体、および低収縮剤の合計量100質量部に対して0.6〜2.0質量部が好ましい。増粘剤の配合量を0.6質量部以上にすると、コンパウンドが十分に増粘するためハンドリング性を向上させることができ、分離による色むらの発生も抑制することができる。増粘剤の配合量を2.0質量部以下にすると、増粘速度を調整してガラス繊維等の繊維強化材を十分に含浸することができる。また、最終到達粘度の上昇による成形品の強度低下や欠肉等の成形不良を抑制することができる。
【0046】
流れ柄形成用のコンパウンドは、ベースコンパウンドと異なる色調とするために、着色剤が配合される。着色剤としては、例えば、無機系顔料、有機系顔料、トナー等を用いることができる。着色剤の配合量は、特に制限はないが、例えば、不飽和ポリエステル樹脂、重合性単量体、および低収縮剤の合計量100質量部に対して5〜20質量部とすることができる。
【0047】
コンパウンドには、上記の成分以外に、本発明の効果を損なわない範囲内において、他の成分を配合することができる。このような他の成分としては、例えば、硬化触媒、重合禁止剤、離型剤等が挙げられる。
【0048】
コンパウンドは、上記の各成分を配合して調製することができる。例えば、主剤の不飽和ポリエステル樹脂を含有する主剤液、および副剤の増粘剤を含有する増粘材料を調製し、使用時にこれらを混合することにより調製することもできる。
【0049】
以上に説明したコンパウンドを用いて、本発明のシートモールディングコンパウンドは次の工程により製造することができる。
【0050】
最初の工程として、第1の増粘剤を含有する流れ柄形成用のコンパウンドを第1の増粘剤により増粘させて半固形状の増粘物を得た後、この半固形状の増粘物を切断して樹脂細片を調製する。
【0051】
流れ柄形成用のコンパウンドは、上記したコンパウンドを用いることができる。そしてベースコンパウンドとは異なる色調となるように着色剤が配合される。
【0052】
半固形状の増粘物は、例えば、上記したようなコンパウンドをシート状に成形し、養生することにより増粘させて得ることができる。
【0053】
すなわち、このシート状のコンパウンドを第1の増粘剤により増粘させて半固形状の増粘物を調製する。
【0054】
例えば室温〜60℃の養生室に一定期間放置して増粘させることにより、半固形状の増粘物を製造することができる。
【0055】
樹脂細片は、例えば、シート状に成形した半固形状の増粘物を切断することにより調製することができる。
【0056】
樹脂細片の形状は、例えば、粒子状、鱗片状等にすることができる。
【0057】
樹脂細片は、最大長さが1〜5mmのものとすることができる。これにより、マーブル調の流れ柄を形成することができる。天然石に近い流れ柄を人造大理石に付与することができる。
【0058】
なお、最大長さは、樹脂細片が粒子状の場合は長径、鱗片状の場合は長辺である。
【0059】
樹脂細片の粘度は、8000〜20000Pa・sの範囲内が好ましく、10000〜20000Pa・sの範囲内がより好ましい。
【0060】
樹脂細片の粘度が8000Pa・s以上であると、前記の半固形状の増粘物を切断することにより樹脂細片を調製することができ、かつ通常の撹拌ではベースコンパウンドに溶解せず、分散した状態を保ったまま均一に分散させることができる。また、直圧成形時に拡散溶融を抑制することができる。
【0061】
樹脂細片の粘度が20000Pa・s以下であると、直圧成形時に拡散溶融を抑制したままマーブル調を形成する程度に流動させることができる。
【0062】
第1の増粘剤の流れ柄形成用のコンパウンド全量に対する含有率は、第2の増粘剤のベースコンパウンド全量に対する含有率の0.7〜2倍が好ましい。これにより、第2の増粘剤の量をベースコンパウンドの増粘等を考慮して適切な範囲としたときに、樹脂細片の第1の増粘剤による増粘後の粘度を適切な範囲にすることができる。
【0063】
次の工程として、第2の増粘剤を含有する液状のベースコンパウンドに樹脂細片を分散させる。
【0064】
このときベースコンパウンドは液状であることから、増粘した樹脂細片との間で粘度差を有している。そのため、樹脂細片は通常の撹拌によってはベースコンパウンドに溶解せず、分散した状態を保ったまま均一にベースコンパウンドに分散させることができる。
【0065】
流れ柄形成用のコンパウンドとベースコンパウンドは、増粘剤と着色剤以外の組成が同一であることが好ましい。ここで組成が同一とは、コンパウンドを構成する熱硬化性樹脂組成物の配合成分と配合量が等しいことを意味する。例えば不飽和ポリエステル樹脂を用いた熱硬化性樹脂組成物の場合は、流れ柄形成用のコンパウンドとベースコンパウンドにおける不飽和ポリエステル樹脂、重合性単量体、低収縮剤、無機充填剤等の配合成分と配合量が等しいことを意味する。
【0066】
このように、流れ柄形成用のコンパウンドとベースコンパウンドにおける、増粘剤と着色剤以外の組成が同一であることで、成形時において、流れ柄形成用のコンパウンドの樹脂細片の収縮によるヒケの発生を抑制することができる。
【0067】
樹脂細片の撹拌時におけるベースコンパウンドの粘度は、1〜200Pa・sが好ましい。ベースコンパウンドの粘度をこの範囲とすることにより、樹脂成分や無機充填剤等が分離するのを抑制しつつ、繊維強化材の含浸時にはベースコンパウンドを低粘度に維持して十分に含浸させることができる。さらに、その後の養生によりシート体を十分に増粘させることができる。
【0068】
次の工程として、以上のようにして樹脂細片を分散させたベースコンパウンドを調製した後、これを繊維強化材に含浸させたシート体を調製する。
【0069】
シート体は、通常の方法により調製することができる。例えば、樹脂細片を分散させたベースコンパウンドをポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム等のキャリアフィルムに均一な厚さになるように塗布する。そして所定の長さに切断された繊維強化材をキャリアフィルム上のベースコンパウンドに散布し、次いで、全体を加圧ロールの間に通し、圧力を加えて繊維強化材を含浸させることによりシート体が得られる。シート体の厚みは、例えば1〜8mmにすることができる。
【0070】
繊維強化材としては、ガラス繊維を用いることができる。その他、炭素繊維、金属繊維、ビニロン繊維、アラミド繊維、ポリエステル繊維等を用いることもできる。
【0071】
これらの繊維強化材は、0.5〜2インチ(12.7〜50.8mm)に切断されて、樹脂細片を分散させたベースコンパウンドに含浸される。
【0072】
繊維強化材のガラス繊維としては、ガラス繊維ロービングを切断したチョップドストランドを用いることができる。ガラス繊維の含有量は、人造大理石の強度や含浸性等を考慮すると、シートモールディングコンパウンドの全量に対して10〜40質量%が好ましい。
【0073】
次の工程として、このシート体のベースコンパウンドを第2の増粘剤により増粘させてシートモールディングコンパウンドを調製する。
【0074】
例えば、室温〜60℃の養生室に一定期間放置して増粘させることにより、シートモールディングコンパウンドを製造することができる。
【0075】
ベースコンパウンドの増粘後の粘度は、樹脂細片の粘度よりも1000〜10000Pa・sの範囲内で低い値が好ましく、中でもベースコンパウンドの増粘後の粘度を6000〜15000Pa・sの範囲内とすることが好ましい。
【0076】
シートモールディングコンパウンドの粘度をこの範囲内にすることで、人造大理石に十分な硬さが得られ、成形時の流動性も確保できる。
【0077】
以上のようにして得たシートモールディングコンパウンドを成形して人造大理石を製造する際には、製造時に用いたキャリアフィルムを剥がした後、シートモールディングコンパウンドを金型内に設置し、直圧成形装置でプレスすることにより行うことができる。
【0078】
図1は、本発明のシートモールディングコンパウンドを用いて直圧成形により人造大理石を製造する工程を説明する図であり、左側は金型断面図を示し、右側は成形面の状態を示す。
【0079】
図1に示すように、直圧成形は、上金型(キャビティ)1aおよび下金型(コア)1bを備えた金型1を用いて行うことができる。
【0080】
そして図1(a)に示すように、まずシートモールディングコンパウンド2を金型1内に設置する。なお、シートモールディングコンパウンド2は1枚を単独で用いて成形することもできるが、複数枚のシートモールディングコンパウンド2を設置して2枚以上の積層体により成形することもできる。
【0081】
次に、上金型1aを下金型1b側に降下させて、シートモールディングコンパウンド2の上面に付けて図1(b)に示すように接触圧の状態とし、さらに図1(c)に示すように上金型1aを降下させる。
【0082】
上金型1aは、図1(b)の接触圧の状態から一番下の位置まで、例えば1分に1mm程度の速度で降下させることができる。あるいは、図1(b)の接触圧の状態で一旦保持して溶融させてから、前半は急激に降下させて後半は1分に1mm程度で降下させるような条件でもよい。このようにして5〜10分前後のプレスを行う。
【0083】
成形条件は、特に限定されないが、例えば、プレス圧力3〜10MPa、金型温度125〜150℃で行うことができる。
【0084】
このようにして、上金型1aを次第に降下させ、樹脂細片である流れ柄形成用のコンパウンド3をその降下圧でベースコンパウンド4中において流動させ、マーブル調の流れ柄を形成することができる。その後、図1(d)に示すように脱型して成形品の人造大理石5を取り出す。
【0085】
本発明により製造される人造大理石は、例えば、浴槽、洗面化粧台、キッチンのカウンター等の住宅設備機器等に好適である。
【実施例】
【0086】
以下に、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0087】
なお、以下において流れ柄形成用のコンパウンドおよびベースコンパウンドの粘度は、東機産業株式会社製TVB−10MおよびTVB−10Uを用い、測定条件:ローターNo.M4、回転数6〜0.3rpm、35±1℃で測定を行った。なお、TVB−10Uの測定上限を超える高粘度のものについては、T−バーステージを用い、測定条件:ローターNo.F、回転数0.5rpm、40±1℃で測定を行った。シートモールディングコンパウンドはシート化されており、その粘度を粘度計で測定することは不可能である。そのためベースコンパウンドを養生の時間と同じだけ放置し、増粘されたベースコンパウンドの粘度を測定することにより粘度値を得た。
【0088】
以下の実施例および比較例において、コンパウンドの配合成分および繊維強化材として次のものを用いた。
・不飽和ポリエステル樹脂
昭和高分子株式会社製「M−580」
・重合性単量体
スチレン、三菱化学株式会社製、CAS(100−42−5)準拠スチレンモノマー
・低収縮剤
ポリスチレン、昭和高分子株式会社製「M−5590−2」
・無機充填剤
炭酸カルシウム、日東粉化工業株式会社製「SS#80」
・増粘剤
酸化マグネシウム、協和化学株式会社製「キョーマグ#40」
・繊維強化材
ガラス繊維、日東紡績株式会社製「RS480PB−549」
・着色剤
トナー(黒色、白色)
【0089】
<実施例1>
次の手順によりシートモールディングコンパウンドを製造した。まず流れ柄形成用のコンパウンドを調製した。不飽和ポリエステル樹脂80質量部、低収縮剤/重合性単量体溶液15質量部(質量比35/65)、炭酸カルシウム150質量部、および黒色のトナー10質量部を混合して樹脂組成物を得た。また、酸化マグネシウム1.5質量部と低収縮剤/重合性単量体溶液5質量部を予備混合して増粘材料を得た。
この増粘材料と前記の樹脂組成物とを本混合し、その後シート状に賦形した。このコンパウンドを養生させて増粘し、半固形状の増粘物を得た。その粘度は15000Pa・sであった。その後、この半固形状の増粘物を切断して最大長さが3mmの樹脂細片を調製した。
【0090】
次に、ベースコンパウンドを調製した。ベースコンパウンドは、白色のトナー10質量部、酸化マグネシウム1質量部とした以外は流れ柄形成用のコンパウンドと同様にして調製した。
【0091】
この液状のベースコンパウンド100質量部に、流れ柄形成用のコンパウンドの樹脂細片10質量部を添加し、撹拌混合して分散した。
【0092】
この樹脂細片を分散したベースコンパウンドをキャリアフィルムに塗布し、次いでガラス繊維をベースコンパウンドに散布し、その後加圧ロールによりガラス繊維を含浸させてシート体を得た。その後、シート体を養生させて増粘し、厚み4mmのシートモールディングコンパウンドを作製した。なお、増粘後のベースコンパウンドの粘度は10000Pa・sであった。
【0093】
以上のようにして得たシートモールディングコンパウンドを直圧成形して人造大理石を製造した。
【0094】
型温を140〜150℃の一定値に保持した図1に示す金型内に、シートモールディングコンパウンドを4枚重ねた積層体を設置した。
【0095】
その後、上金型を接触圧の状態から1分に1mmの速度でゆっくり降下させながら、7MPaで5分間のプレスを行った。その後脱型して人造大理石の成形品を取り出した。
【0096】
<実施例2>
実施例1において、流れ柄形成用のコンパウンドの酸化マグネシウムの配合量を2.0質量部に変更し、増粘後の粘度を20000Pa・sにした。それ以外は実施例1と同様にしてシートモールディングコンパウンドを製造し、このシートモールディングコンパウンドを直圧成形して人造大理石を製造した。
【0097】
<比較例1>
実施例1において、流れ柄形成用のコンパウンドの酸化マグネシウムの配合量を0.8質量部に変更し、増粘後の粘度を7500Pa・sにした。またベースコンパウンドの酸化マグネシウムの配合量を0.7質量部に変更し、増粘後の粘度を6000Pa・sにした。それ以外は実施例1と同様にしてシートモールディングコンパウンドを製造し、このシートモールディングコンパウンドを直圧成形して人造大理石を製造した。
【0098】
<比較例2>
実施例1において、流れ柄形成用のコンパウンドの酸化マグネシウムの配合量を2.4質量部に変更し、増粘後の粘度を25000Pa・sにした。それ以外は実施例1と同様にしてシートモールディングコンパウンドを製造し、このシートモールディングコンパウンドを直圧成形して人造大理石を製造した。
【0099】
上記の実施例および比較例について次の評価を行った。
[流れ柄形成用のコンパウンドの増粘後の切断細片化]
流れ柄形成用のコンパウンドの増粘後の切断による細片化を次の基準により評価した。
○:細片化が可能であった。
×:べたつきが大きく細片化が困難であった。
【0100】
[樹脂細片の形状保持性]
流れ柄形成用のコンパウンドの樹脂細片をベースコンパウンド中で撹拌したときの樹脂細片の形状維持性を次の基準により評価した。
○:撹拌時のせん断力によっても形状を保った。
×:撹拌時のせん断力により、ベースコンパウンドに溶解した。
【0101】
[マーブル調の流れ柄の現出性]
人造大理石の成形品におけるマーブル調の流れ柄の現出性を次の基準により評価した。
○:マーブル調の流れ柄が現出した。
×:マーブル調の流れ柄が現出しなかった。
【0102】
以上の測定結果および評価結果を表1に示す。
【表1】

【0103】
表1より、実施例1〜2は、流れ柄形成用のコンパウンドが増粘により樹脂細片を調製できる程度に半固形状となり、さらに、ベースコンパウンドに溶解せず均一に分散させることができた。また、成形時には拡散溶融を抑制したまま流れ柄を形成する程度に流動し、マーブル調の流れ柄が現出した。
【0104】
これに対して比較例1は、流れ柄形成用のコンパウンドが増粘後もべたつきが大きく、切断による細片化が困難であった。またベースコンパウンド中での撹拌時において撹拌時のせん断力により溶解した。わずかに溶解せずに残った樹脂細片も、直圧成形時の流動で拡散溶融し、流れ柄は現出しなかった。
【0105】
比較例2は、流れ柄形成用のコンパウンドの増粘後の粘度が高過ぎ、直圧成形時において流動せず細片形状を維持したままであったため、マーブル調の流れ柄は現出しなかった。
【符号の説明】
【0106】
2 シートモールディングコンパウンド
3 流れ柄形成用のコンパウンド
4 ベースコンパウンド
5 人造大理石

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂細片と、繊維強化材と、前記樹脂細片および前記繊維強化材を含有するシート状のベースコンパウンドとを有し、前記樹脂細片は、第1の増粘剤を含有する流れ柄形成用のコンパウンドの半固形状の増粘物を切断して得られたものであり、前記ベースコンパウンドは、第2の増粘剤を含有し、この第2の増粘剤により前記樹脂細片よりも低い粘度に増粘したものであることを特徴とするシートモールディングコンパウンド。
【請求項2】
前記樹脂細片の粘度が8000〜20000Pa・sの範囲内であり、前記ベースコンパウンドの粘度が前記樹脂細片の粘度よりも低いことを特徴とする請求項1に記載のシートモールディングコンパウンド。
【請求項3】
前記第1の増粘剤の前記流れ柄形成用のコンパウンド全量に対する含有率が、前記第2の増粘剤の前記ベースコンパウンド全量に対する含有率の0.7〜2倍であることを特徴とする請求項1または2に記載のシートモールディングコンパウンド。
【請求項4】
前記流れ柄形成用のコンパウンドと前記ベースコンパウンドは、増粘剤と着色剤以外の組成が同一であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のシートモールディングコンパウンド。
【請求項5】
前記樹脂細片は、最大長さが1〜5mmであることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載のシートモールディングコンパウンド。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載のシートモールディングコンパウンドを直圧成形する工程を含むことを特徴とする人造大理石の製造方法。
【請求項7】
第1の増粘剤を含有する流れ柄形成用のコンパウンドを前記第1の増粘剤により増粘させて半固形状の増粘物を得た後、この半固形状の増粘物を切断して樹脂細片を調製する工程と、第2の増粘剤を含有する液状のベースコンパウンドに前記樹脂細片を分散させる工程と、前記樹脂細片を分散させた前記ベースコンパウンドを繊維強化材に含浸したシート体を調製する工程と、このシート体の前記ベースコンパウンドを前記第2の増粘剤により増粘させてシートモールディングコンパウンドを調製する工程とを含むことを特徴とするシートモールディングコンパウンドの製造方法。
【請求項8】
前記樹脂細片の増粘後の粘度を8000〜20000Pa・sとし、前記ベースコンパウンドの増粘後の粘度を前記樹脂細片の増粘後の粘度よりも小さくすることを特徴とする請求項7に記載のシートモールディングコンパウンドの製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2013−23595(P2013−23595A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−160308(P2011−160308)
【出願日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】