説明

シート状ビーム発生装置

【課題】冷電極を用いてシート状のビームを発生させることのできる、シート状ビーム発生装置を提供する。
【解決手段】平板型電極1と、接地電極7と、平板型電極1と接地電極7との間に電圧を印加する電源3と、平板型電極1と接地電極7が収容される真空容器4と、真空容器4の外部に設けられ平板型電極1から発生する粒子ビームを誘導する磁場を発生させる磁場発生コイル6とを備えた。平板型電極1の表面に粒子ビームを発生させるための粒子ビーム発生部2を形成した。粒子ビーム発生部2は略均一の粗さを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱の必要がない冷電極を用いて、シート状ビームを発生させるシート状ビーム発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
加熱の必要がない冷電極を用いて、円板型電極に電圧を印加することにより円環状の電子ビームを発生させ、その円環状の電子ビームを円筒型の金属体の内部に入射させることにより、GHz帯域又はTHz帯域の電磁波(マイクロ波)を発生させることが非特許文献1に開示されている。なお、ここで用いられる円板型電極は、円板の周縁部において電極表面上に均一な粗さの加工が施されており、この円板の周縁部から電子ビームが発生するようになっている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】H. Oe, 他6名 「Experimental Study on Disk Type Cold Cathode in Weakly Relativistic Energy Region」Journal of Plasma and Fusion Research SERIES, vol. 8 pp. 1477-1482 (2009).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、加熱の必要がない冷電極を用いて、シート状のビームを発生させることは、今まで実現されていなかった。
【0005】
そこで、本発明は、冷電極を用いてシート状ビームを発生させることのできる、シート状ビーム発生装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の請求項1記載のシート状ビーム発生装置は、平板型電極と、接地電極と、前記平板型電極と前記接地電極との間に電圧を印加する電圧印加手段と、前記平板型電極と前記接地電極が収容される真空容器と、この真空容器の外部に設けられ前記平板型電極から発生する粒子ビームを誘導する磁場を発生させる磁場発生手段とを備え、前記平板型電極の表面に粒子ビームを発生させるための粒子ビーム発生部が形成され、この粒子ビーム発生部は略均一の粗さを有することを特徴とする。
【0007】
また、請求項2記載のシート状ビーム発生装置は、請求項1において、前記粒子ビーム発生部は、前記平板型電極の対向する2辺の表面に形成され、Ra=0.1〜4μm、Ry=0.5〜9μm、Rz=0.3〜8μmの範囲内の略均一の粗さを有することを特徴とする。
【0008】
また、請求項3記載のシート状ビーム発生装置は、請求項2において、前記粒子ビーム発生部は、サンドペーパーによる研磨又は放電加工により形成されたことを特徴とする。
【0009】
また、請求項4記載のシート状ビーム発生装置は、請求項2において、前記粒子ビーム発生部は、ベルベット繊維の貼付けにより形成されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の請求項1記載のシート状ビーム発生装置によれば、真空容器に収容された平板型電極と接地電極との間に電圧を印加することにより、平板型電極の表面に形成された略均一の粗さを有する粒子ビーム発生部からシート状の粒子ビームを発生させることができ、このシート状の粒子ビームを磁場によって所定の方向へ誘導することができる。
【0011】
また、請求項2記載のシート状ビーム発生装置によれば、粒子ビーム発生部が所定の範囲内の略均一の粗さを有することにより、確実にシート状の粒子ビームを発生させることができる。
【0012】
また、請求項3記載のシート状ビーム発生装置によれば、サンドペーパーによる研磨又は放電加工により粒子ビーム発生部が形成されることにより、安価にシート状ビーム発生装置を提供することができる。
【0013】
また、請求項4記載のシート状ビーム発生装置によれば、ベルベット繊維の貼付けにより粒子ビーム発生部が形成されることにより、安価にシート状ビーム発生装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明のシート状ビーム発生装置の一実施例を示す概要図である。
【図2】本発明のシート状ビーム発生装置の平板型電極の一実施例を示す展開図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明のシート状ビーム発生装置の一実施例を示す図1において、1は平板型電極であり、この平板型電極1は、銅、ステンレスなどの金属から形成されているが、平板型電極1を形成する金属としては、無酸化銅が最も好ましく用いられる。本実施例においても無酸素銅が用いられている。平板型電極1の形状は正方形や直方形などの矩形であり、その大きさも特に限定されるものではないが、例えば、短辺26mmm、長辺40mm、厚さ10〜30mm程度の直方体とすることができる。なお、本実施例においては、短辺26mmm、長辺40mm、厚さ10mmとなっている。
【0016】
本実施例において、平板型電極1には、図2に示すように、対向する長辺である2辺の表面に粒子ビーム発生部2が形成されている。粒子ビーム発生部2は、Ra(算術平均粗さ)=0.1〜4μm、Ry(JIS1994の最大高さ粗さ)=0.5〜9μm、Rz(JIS1994の十点平均粗さ)=0.3〜8μmの範囲内の略均一の粗さを有しており、サンドペーパーによる研磨、放電加工、又はベルベット繊維の貼付けにより形成されたものとなっている。また、本実施例において、粒子ビーム発生部2は、平板型電極1の対向する2辺の端部からそれぞれ2mmの幅で形成されている。
【0017】
平板型電極1は、電圧印加手段としての電源3が接続しているとともに、真空容器4の内部に収容されている。また、平板型電極1は、導電体からなる電極支持棒5により支持され、この電極支持棒5を経由して電源3と電気的に接続している。真空容器4の外部には、磁場発生手段としての磁場発生コイル6が配置されている。さらに、真空容器4の内部には、接地電極7が設けられ、接地電極7は電源3に電気的に接続している。接地電極7は四角環形状に形成され、平板型電極1から発生したシート状ビーム8が接地電極7の内側を通るように構成されている。また、本実施例において、平板型電極1と接地電極7の間隔は10mmとなっている。
【0018】
以上の構成において、真空容器4の内部を10−3Pa程度の真空にする。なお、真空容器4の内部に封入ガスを封入しても良く、封入ガスとしては、ヘリウムやアルゴンなどの不活性ガスが使用可能である。また、不活性ガスに酸素、窒素ガスなどを添加したガスを封入ガスとして用いることもできる。
【0019】
つぎに、電源3によって、平板型電極1と接地電極7との間に電圧を印加すると、粒子ビーム発生部2から、平板型電極1の形状に対応した形状のシート状ビーム8が発生する。このとき、好ましくは、電源3から30〜100kV程度の電圧を印加する。なお、図1において、平板型電極1には正の極性の電圧が印加されるように示されているが、負の極性の電圧が印加されてもよい。また、平板型電極1に印加される電圧は、直流、10Hz程度の交流、或いは、パルス幅がナノ秒からマイクロ秒のパルス電圧であることが好ましい。本実施例においては、80kVの直流電圧を印加する。ここで、平板型電極1は、熱源を必要としない冷陰極又は冷陽極として作用する。
【0020】
粒子ビーム発生部2から発生したシート状ビーム8は、磁場発生コイル6から発生する磁場により誘導されて所定の方向に進行する。本実施例において、この磁場は、7T程度の強度を有し、真空容器4の内部で略均一に分布している。
【0021】
上記のシート状ビーム発生装置を用いて実際に実験を行ったところ、平板型電極1の長さ40mmの2つの長辺からシート状ビーム8が発生し、このシート状ビーム8は相互に平行の位置関係を保ったまま、平板型電極1から200mm離れた感熱紙9まで進行し、感熱紙9上では、粒子ビームがシート形状であると確認できる焼き付け状態が確認された。
【0022】
以上のように、本実施例のシート状ビーム発生装置は、平板型電極1と、接地電極7と、前記平板型電極1と前記接地電極7との間に電圧を印加する電圧印加手段としての電源3と、前記平板型電極1と前記接地電極7が収容される真空容器4と、この真空容器4の外部に設けられ前記平板型電極1から発生する粒子ビームを誘導する磁場を発生させる磁場発生手段としての磁場発生コイル6とを備え、前記平板型電極1の表面に粒子ビームを発生させるための粒子ビーム発生部2が形成され、この粒子ビーム発生部2は略均一の粗さを有するものである。
【0023】
本実施例のシート状ビーム発生装置によれば、真空容器4に収容された平板型電極1と接地電極7との間に電圧を印加することにより、平板型電極1の表面に形成された略均一の粗さを有する粒子ビーム発生部2からシート状の粒子ビームを発生させることができ、このシート状の粒子ビームを磁場によって所定の方向へ誘導することができる。
【0024】
また、前記粒子ビーム発生部2は、前記平板型電極1の対向する2辺の表面に形成され、Ra=0.1〜4μm、Ry=0.5〜9μm、Rz=0.3〜8μmの範囲内の略均一の粗さを有するので、粒子ビーム発生部2が所定の範囲内の略均一の粗さを有することにより、確実にシート状の粒子ビームを発生させることができる。
【0025】
また、前記粒子ビーム発生部2は、サンドペーパーによる研磨又は放電加工により形成されたものであり、安価にシート状ビーム発生装置を提供することができる。
【0026】
さらに、前記粒子ビーム発生部2は、ベルベット繊維の貼付けにより形成されたものであり、安価にシート状ビーム発生装置を提供することができる。
【0027】
なお、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の思想を逸脱しない範囲で種々の変形実施が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明のシート状ビーム発生装置は、シート状の粒子ビームを発生させることができるものであり、この粒子ビームによりGHzからTHz帯域の電磁波を発生させることによって、加熱源や、非破壊検査の電磁波源として利用することが可能である。
【符号の説明】
【0029】
1 平板型電極
2 粒子ビーム発生部
3 電源(電圧印加手段)
4 真空容器
6 磁場発生コイル(磁場発生手段)
7 接地電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板型電極と、接地電極と、前記平板型電極と前記接地電極との間に電圧を印加する電圧印加手段と、前記平板型電極と前記接地電極が収容される真空容器と、この真空容器の外部に設けられ前記平板型電極から発生する粒子ビームを誘導する磁場を発生させる磁場発生手段とを備え、前記平板型電極の表面に粒子ビームを発生させるための粒子ビーム発生部が形成され、この粒子ビーム発生部は略均一の粗さを有することを特徴とするシート状ビーム発生装置。
【請求項2】
前記粒子ビーム発生部は、前記平板型電極の対向する2辺の表面に形成され、Ra=0.1〜4μm、Ry=0.5〜9μm、Rz=0.3〜8μmの範囲内の略均一の粗さを有することを特徴とする請求項1記載のシート状ビーム発生装置。
【請求項3】
前記粒子ビーム発生部は、サンドペーパーによる研磨又は放電加工により形成されたことを特徴とする請求項2記載のシート状ビーム発生装置。
【請求項4】
前記粒子ビーム発生部は、ベルベット繊維の貼付けにより形成されたことを特徴とする請求項2記載のシート状ビーム発生装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−256433(P2012−256433A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−127271(P2011−127271)
【出願日】平成23年6月7日(2011.6.7)
【出願人】(304027279)国立大学法人 新潟大学 (310)
【Fターム(参考)】