説明

シート状物の加熱方法及び装置

【課題】 シート状物を非接触加熱する際に生じる恐れのあるフラッタ現象を抑制し、シート状物を高速で走行させながら非接触加熱すること可能とする加熱方法及び装置を提供する。
【解決手段】 放射加熱器5を、下向きに走行しているシート状物1の前に対向、配置して非接触加熱するに際し、放射加熱器5とシート状物1との間の空間6の両側面に邪魔板11を設け、側面から空間6内に流れ込む空気を抑制することで、空間6に生じる上昇気流の速度を低下させ、上昇気流の動圧に基づくフラッタ現象の発生を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチックフィルム、プラスチックシート、紙、積層材などのシート状物を加熱するための方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
シート状物の製造工程、処理工程等において、走行中のシート状物を加熱することが広く行われており、その加熱方法の一つに、赤外線ヒータ等の放射エネルギーを用いた非接触加熱方式がある。シート状物を非接触加熱する場合の1例として、図4に示すように、シート状物1を上下に配置したガイドロール、駆動ロール等のロール2、3で上から下に向かって走行するように支持し、そのシート状物1の、上下のロール2、3の間を走行している領域に対向して赤外線ヒータ、遠赤外線ヒータ等の放射エネルギーを用いた非接触方式の加熱装置(放射加熱器という)5を配置し、その放射加熱器5でその前を下向きに走行しているシート状物1を非接触加熱するように構成したものが知られている。赤外線ヒータ等の放射エネルギーを用いた非接触加熱では、シート状物を敏速に加熱できるとか、加熱熱量の制御が容易であるといった利点を有している。
【0003】
ところが、図4に示す方式での非接触加熱において、生産性を上げるべく放射加熱器5の加熱出力を増大させ、シート状物1の走行速度を増大させたところ、シート状物1がフラッタ(ばたつき)現象を起こすことが判明した。このフラッタ現象は加熱出力を上げ、且つシート状物の走行速度を上げるほど大きくなり、シート状物1の振れ幅が大きくなって、放射加熱器5に接触して火災を起こす危険性が増す。このため、従来は加熱出力をあまり上げられず、低速度(例えば、30〜40m/min程度)でシート状物を加熱処理せざるを得なかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明はかかる従来の問題点に鑑みてなされたもので、シート状物を非接触加熱する際に生じる恐れのあるフラッタ現象を抑制し、シート状物を高速で走行させながら非接触加熱すること可能とする加熱方法及び装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、シート状物の非接触加熱時に生じるフラッタ現象を防止すべく検討の結果、次の事項を見出した。すなわち、図4に示すように、シート状物1を放射加熱器5によって非接触加熱する際、シート状物1と放射加熱器5との間の空間6には、矢印Aで示すように上昇気流(加熱による強制対流)が生じており、加熱出力を上げた時にはこの上昇気流がきわめて大きくなる。この上昇気流が高速となる結果、その上昇気流の生じている領域における静圧が低下し、負圧となる。一方、シート状物1の背面側(放射加熱器5に面する側とは反対側)では上昇気流はあまり生じていないので、シート状物には矢印Bで示す方向に大気圧が作用している。このため、シート状物1の前面と背面には圧力差が生じ、その圧力差によってシート状物1が二点鎖線1aで示すように放射加熱器5側に引き寄せられ、シート状物は常時走行しているため、ばたつきが発生し、フラッタ現象を生じる。従って、シート状物1と放射加熱器5との間の空間6に生じている上昇気流を小さくすればフラッタ現象を抑制することができる。そして、上昇気流を抑制するには、シート状物1と放射加熱器5との間の空間6への空気の出入りを抑制することが有効であることを見出した。
【0006】
本発明はかかる知見に基づいてなされたもので、本願請求項1に係る発明は、シート状物を連続的に走行させる工程と、走行中の前記シート状物に対向、配置した放射加熱器で且つ前記シート状物と放射加熱器との間の空間への空気の出入りを抑制した状態で前記シート状物を非接触加熱する工程を有するシート状物の加熱方法である。
【0007】
請求項2に係る発明は、上記した加熱方法を実施するための装置であって、所定の経路を走行するシート状物に対向、配置された放射加熱器と、前記シート状物と放射加熱器との間の空間を取り囲む位置の少なくとも一部領域に配置され、前記空間への空気の出入りを抑制する邪魔板を有するシート状物の加熱装置である。
【0008】
請求項3に係る発明は、上記した請求項2に係る発明において、前記放射加熱器を、上から下に向かって走行するシート状物に対向、配置し、そのシート状物と放射加熱器との間の空間の両側面に前記邪魔板を配置するという構成としたものである。
【0009】
請求項4に係る発明は、上記した請求項2又は3に係る発明において、前記邪魔板を多孔板又は金網で形成するという構成としたものである。
【発明の効果】
【0010】
上記した本発明の加熱方法は、シート状物と放射加熱器との間の空間への空気の出入りを抑制した状態でシート状物の非接触加熱を行う構成としたことにより、加熱出力を上げた場合でも加熱中にシート状物と放射加熱器との間の空間に生じる上昇気流の速度を低く抑えることができ、これによって走行中のシート状物に作用する圧力差を小さくしてフラッタ現象の発生を抑制でき、シート状物の走行速度を増加させて生産性を向上させることができる。
【0011】
また、本発明の加熱装置は、シート状物と放射加熱器との間の空間を取り囲む位置の少なくとも一部領域に邪魔板を配置して、前記空間への空気の出入りを抑制した状態でシート状物の非接触加熱を行う構成としたことにより、上記した本発明の加熱方法を実施でき、放射加熱器による加熱出力を増加させ且つシート状物の走行速度を増加させて生産性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施の形態を説明する。図1は本発明の一実施の形態に係るシート状物の加熱装置の概略断面図、図2はその加熱装置を図1のC−C方向に見て示す概略断面図であり、図4に示す従来例と同一部品には同一符号を付している。図1、図2において、1は加熱されるべき樹脂フィルム等のシート状物、2、3は、シート状物1が所定の垂直の経路を上から下に向かって走行するように支持する上ロール及び下ロール、5は、そのシート状物1の、上下のロール2、3の間を走行している領域に対向して配置された赤外線ヒータ等の放射加熱器5、11は、シート状物1と放射加熱器5との間の空間6への空気の出入りを抑制するように、空間6を取り囲む位置の少なくとも一部領域に配置された邪魔板、12はその邪魔板11を補強するよう取り付けられた枠である。この実施の形態では、邪魔板11は、空間6を取り囲む位置すなわち空間の両側面及び上下端面のうち、両側面のみに配置している。邪魔板11としては、空気の流れに対して抵抗を与え、空気の出入りを抑制できるものであれば、その構造は任意であり、金属製、プラスチック製等の無孔の板材を用いても良いが、この実施の形態では、ステンレス等の金属製の多孔板又は金網が用いられている。ここで、邪魔板11に金属製の多孔板又は金網を用いた理由は、シート状物1の加熱領域をその多孔板又は金網を通して監視できるようにするため、及び放射加熱器5が周囲に放出する熱によって邪魔板11が加熱された際に極力変形しないようにするためである。邪魔板11に使用する多孔板又は金網は、その開口径D(多孔板の場合には開口の直径、金網の場合には開口の一辺の長さ)を0.1〜5mm、開口のピッチを1.1D〜1.5Dとすることが望ましい。
【0013】
上記構成の加熱装置では、シート状物1が放射加熱器5の前を下向きに連続的に走行しており、放射加熱器5はそのシート状物1を非接触加熱する。この加熱の際、シート状物1と放射加熱器5との間の空間6にある空気も昇温し、その空間6に上昇気流が生じる。図3(a)に示すように、シート状物1と放射加熱器5の間の空間6の両側面に邪魔板を設けず、空間6の両側面をフリーとしていた場合、空間6内の空気が加熱されて上方に流出した際、周囲の空気が矢印Dで示すように自由に空間6内に流れ込み、結局、空間6には高速の上昇気流が生じ、その静圧が低下することで、シート状物1の両面に作用している圧力に大きい差が生じ、シート状物1にフラッタ現象を生じている。これに対し、図3(b)に示すように、空間6の両側面に邪魔板11を設けておくと、空間6の両側面から空間6内に流入しようとする空気の流れが抑制される。このため、空間6内の空気が加熱されて上昇する際の上昇速度が抑えられることとなり、上昇気流の発生は防止できないが、その上昇気流の速度は大幅に低下する。かくして、シート状物1の両面の圧力差が低下してフラッタ現象が生じにくくなり、シート状物1の走行速度を増大させ且つ放射加熱器5の加熱出力を上げることが可能となる。本発明者らが確認した結果、シート状物1として、厚さ120〜170μmの樹脂フィルムを用い、上下のロール2、3間のパス長を130〜140cm、加熱有効長さを110〜120cmとし、放射加熱器5として赤外線ヒータを用いてシート状物1を約140〜170℃に加熱する場合において、邪魔板11を設けないと、フラッタ現象が生じやすいため、シート状物1の走行速度は40〜50m/minが限度であったが、邪魔板11を用いたことで、赤外線ヒータの出力を2倍程度に上げ、シート状物1の走行速度を80〜100m/minに上げても、フラッタ現象はあまり生じなかった。かくして、図1、図2に示す加熱装置を用いることで、シート状物1の走行速度を大幅に上げることが可能となり、生産性を大幅に向上できる。
【0014】
なお、図1、図2に示す実施の形態では、シート状物1と放射加熱器5との間の空間6の両側面に邪魔板11を設けて空間6への空気の出入りを抑制する構成としているが、邪魔板11の設置位置はこれに限らず、空間6の一方の側面のみに設けるとか、両側面に設けるのみならず、あるいは、両側面に設ける代わりに、空間6の下端面及び/又は上端面に設けるように変更しても良い。空間6の下端面に邪魔板を設けることで、下端面から空間6内に流入する空気を抑制して上昇気流を抑制できる。また、空間6の上端面に邪魔板を設けることで、空間6から上方に流出する空気を抑制して上昇気流を抑制できる。なお、図1に示す実施の形態では、下ロール3の直ぐ上に放射加熱器5を配置しており、空間6の下端を下ロール3で遮ったような構造となっているため、空間6に対する下端からの空気の流入はさほど多くなく、このため空間6の下端面に邪魔板を設けることの効果はさほど大きくはないが、放射加熱器5と下ロール3との間隔が大きく開いた場合のように、空間6の下方が大きく開いている場合には、空間6の下端面に邪魔板を設けて空間6への空気の流入を防止することは、上昇気流防止にきわめて有効である。
【0015】
上記した実施の形態では、垂直な経路に沿って下方に走行しているシート状物1を、それに対向して配置した放射加熱器5で加熱する構成であるが、加熱対象のシート状物1の走行経路はこれに限らず、シート状物1が上向きに走行する垂直な経路であってもよいし、更には斜め方向に走行する経路であってもよい。図示した実施形態のように、垂直な経路に沿って下方に走行しているシート状物1を、それに対向、配置した放射加熱器5で加熱する構成とした場合には、上昇気流が大きく且つシート状物に対する上昇気流の相対速度も大きくなるので、フラッタ現象が生じやすく、本発明適用の効果が大きい。
【0016】
以上に、本発明の好適な実施の形態を説明したが、本発明はこの実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載範囲内で適宜変更可能であることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態に係る加熱装置の概略断面図
【図2】図1のC−C矢視断面図
【図3】(a)は邪魔板を設けない場合において、シート状物と放射加熱器の間に上昇気流が発生する状況を説明する、シート状物の概略正面図、(b)は、邪魔板で上昇気流を抑制する状況を説明する、シート状物の概略正面図
【図4】従来の加熱装置の概略断面図
【符号の説明】
【0018】
1 シート状物
2 上ロール
3 下ロール
5 放射加熱器
6 空間
11 邪魔板
12 枠

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状物を連続的に走行させる工程と、走行中の前記シート状物に対向、配置した放射加熱器で且つ前記シート状物と放射加熱器との間の空間への空気の出入りを抑制した状態で前記シート状物を非接触加熱する工程を有するシート状物の加熱方法。
【請求項2】
所定の経路を走行するシート状物に対向、配置された放射加熱器と、前記シート状物と放射加熱器との間の空間を取り囲む位置の少なくとも一部領域に配置され、前記空間への空気の出入りを抑制する邪魔板を有するシート状物の加熱装置。
【請求項3】
前記放射加熱器が、上から下に向かって走行するシート状物に対向、配置されており、前記邪魔板が前記シート状物と放射加熱器との間の空間の両側面に配置されていることを特徴とする請求項2記載のシート状物の加熱装置。
【請求項4】
前記邪魔板が、多孔板又は金網で形成されていることを特徴とする請求項2又は3記載のシート状物の加熱装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−35788(P2006−35788A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−222796(P2004−222796)
【出願日】平成16年7月30日(2004.7.30)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】