説明

シール付車輪支持用軸受ユニット

【課題】シールリングによるシール性能を向上させて内部空間への異物侵入防止効果をより一層良好にし、優れた耐久性を有するシール付車輪支持用軸受ユニットを実現する。
【解決手段】庇リップ21aは、最も径方向外側に設けられた前記シールリップ19aよりも更に径方向外方に設けられ、円輪部23aの外径側縁から軸方向両側に延びて全体を略円筒形状に形成されており、軸方向内側から空気の流入部30a、絞り部31aおよび流出部32aをこの順に設けたベンチュリ機構を構成している。絞り部31aの内径側には、円輪部23a及びシール材18aを軸方向に貫通して、流入口から絞りに連通する貫通孔35aが、円周方向に複数設けられており、絞り部31aは、前記環状隙間27と径方向に重畳し、絞り部31aの絞りと環状隙間27との間で空気の流通を可能としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の車輪を懸架装置に対して回転自在に支持する為のシール付車輪支持用軸受ユニットの改良に関するものである。具体的には、シールリングによるシール性能を向上させて軸受内部空間への異物侵入防止効果を良好にし、優れた耐久性を有するシール付車輪支持用軸受ユニットを実現するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車の車輪は、例えば図4に示す様な、シール付車輪支持用軸受ユニット1により、懸架装置に対して回転自在に支持されている。このシール付車輪支持用軸受ユニット1は、外輪2の内径側にハブ3を、複数個の転動体4、4を介して回転自在に支持して成る。このうちの外輪2は、外周面に懸架装置に支持固定する為の静止フランジ5を、内周面に複列の外輪軌道6、6を、それぞれ設けている。又、前記ハブ3は、ハブ本体7と内輪8とを、ハブ本体7の内端部を径方向外方に塑性変形させて形成した加締め部9により組み合わせ固定したもので、外周面に複列の内輪軌道10、10を有する。又、前記各転動体4、4は、これら両内輪軌道10、10と前記両外輪軌道6、6との間に、各列毎に複数個ずつ、それぞれ保持器11、11により保持された状態で転動自在に設けられている。
【0003】
又、前記ハブ本体7の外端寄り部分で、前記外輪2の外端開口部から突出した部分には、回転フランジ12を設けている。この回転フランジ12には複数本のスタッド13の基端部を支持固定しており、これら各スタッド13によりこの回転フランジ12に、図示しない車輪を構成するホイール、及びブレーキを構成するブレーキロータを支持固定できる様にしている。尚、軸方向に関して内とは、車両への組み付け状態で幅方向中央側を言い、各図の右側。同じく外とは、幅方向外側を言い、各図の左側となる。
【0004】
又、前記外輪2の軸方向外端部内周面と前記ハブ3の中間部外周面との間にシールリング14を装着して、外輪2の内周面とハブ3の外周面との間に存在し、前記複数個の転動体4、4を設けた内部空間15の外端開口部を塞いでいる。更に、前記外輪2の軸方向内端開口部をカバー16で塞ぐ事により、内部空間15の両端開口部から前記内部空間15内への塵芥や雨水等の異物の侵入防止、及び、この内部空間15内に充填されたグリースの外部への漏洩防止を図っている。
【0005】
尚、図示の例では、前記各転動体4、4として玉を使用しているが、重量の嵩む自動車に組み込むシール付車輪支持用軸受ユニットの場合には、各転動体として円すいころを使用する場合もある。又、図示の例は、従動輪(FR車、RR車、MR車の前輪、FF車の後輪)用のシール付車輪支持用軸受ユニットである為、ハブ本体7が中実体であるが、駆動輪(FR車、RR車、MR車の後輪、FF車の前輪、4WD車の全輪)用のシール付車輪支持用軸受ユニットの場合には、ハブ本体の中心部にスプライン孔を、このハブ本体を軸方向に貫通する状態で設ける。
【0006】
前記内部空間15内への異物侵入防止と、この内部空間15内に充填されたグリースの漏洩防止とを十分に図る為には、この内部空間15の両端開口部を十分にシールする必要がある。特に、この内部空間15の外端開口部をシールする為のシールリング14に就いては、回転フランジ12の軸方向内側面に沿って径方向内方に導かれた異物が前記内部空間15内に入り込むのを防止する為に、優れたシール性能を要求される。しかも、この内部空間15の外端開口部に関しては、図4に示す様な、カバー16によるシールは行えない。
【0007】
前述した様な問題を解決する為に、特許文献1に記載された技術に係る従来構造の1例に就いて、図5により説明する。この従来構造のシール付車輪支持用軸受ユニットに組み込まれるシールリング14は、芯金17とシール材18とから成る。このうちの芯金17は、軟鋼板等の金属板を曲げ成形して成るもので、嵌合筒部22と、この嵌合筒部22の軸方向外端縁から径方向内方に折れ曲がった円輪部23と、この円輪部23の内周縁から内方に折れ曲がった折れ曲がり部24とを備える。そして、このうちの嵌合筒部22を、外輪2の外端部外周面に締り嵌めで外嵌固定すると共に、前記円輪部23の軸方向内側面を、この外輪2の外端面に突き当てている。
【0008】
前記シール材18は、ゴムの如きエラストマー等の弾性材製で、前記芯金17に接合固定しており、3本の接触式のシールリップ19a、19b、19cと、ラビリンスシールを構成する庇リップ21とを備える。このうちの各シールリップ19a〜19cは、それぞれの先端部を前記回転フランジ12の軸方向内側面或いは前記ハブ3の中間部外周面に、全周に亙って摺接させている。尚、図5、及び後述する図1〜3は、各シールリップの自由状態での形状を示している。
一方、前記庇リップ21は、最も径方向外側に設けられた前記シールリップ19aよりも更に径方向外方に設けられており、この庇リップ21の先端部と回転フランジ12の内側面とを、全周に亙り近接対向させている。
【0009】
以上の様な構成を有する従来構造の場合には、前記庇リップ21が径方向のラビリンスシールと軸方向のラビリンスシールとを設けている為、ラビリンスシールの全長を、十分に長くできる。更に、庇リップ21を径方向外方に位置させている為、この庇リップ21の先端部を、前記回転フランジ12の内側面のうちで周速の速い部分に近接対向させる事ができて、庇リップ21によるラビリンス効果を向上させる事ができる。従って、前記シールリング14によるシール性能を向上させて、前記各転動体4、4を設置した内部空間15への異物侵入防止効果を良好にし、優れた耐久性を有するシール付車輪支持用軸受ユニット1を、回転抵抗を大きくする事なく実現できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2010−210085号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、この先行技術には、シール付車輪支持用軸受ユニット1の使用時において、車輪によって路面から跳ね上げられた塵埃や泥水、或いは回転フランジ12やブレーキロータの回転により発生する風と共にタイヤハウス内を舞う水滴等の異物は、前記庇リップ21が構成するラビリンスシールのラビリンス隙間を通過して、庇リップ21の内径側に侵入する。この時、前記回転側フランジ12の軸方向内側面に付着した異物は、回転する回転フランジ12の遠心力により直ちに外部に排出される。一方、静止しているシールリング14に付着した泥水は、庇リップ21により勢いを削がれている為、回転フランジ12に摺接するシールリップ19aの外径側面や、前記円輪部23の軸方向外側面を伝って比較的ゆっくりと下方に移動する為、その間に泥の様な固形物と水とに分離しやすい。その結果、水だけは庇リップ21のラビリンス隙間を通過して下方から外部空間へ排出されるが、固形物は庇リップ21とシールリップ19aとの間の空間に残り、堆積する事がある。このような固形物の堆積が発生すると、シールリップ19aの動作が阻害され、シール性能が悪化する虞がある。特に、泥水が集積するシールリング14の下方、及びシールリップが水平方向に摺接する為に泥水の流動性が低いシールリング14の上方に堆積が起こり易い。
【0012】
本発明は、前述の様な事情に鑑み、シールリングによるシール性能を向上させて転動体設置空間への異物侵入防止効果をより一層良好にし、優れた耐久性を有するシール付車輪支持用軸受ユニットを、回転抵抗を大きくする事なく実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のシール付車輪支持用軸受ユニットは、内周面に外輪軌道を有し、懸架装置に支持された状態で回転しない外輪と、外周面のうちで前記外輪軌道と対向する部分に内輪軌道を有し、前記外輪と同心に配置されたハブと、これら外輪軌道と内輪軌道との間に転動自在に設けられた複数個の転動体と、前記ハブの外周面のうちで前記外輪の外端開口部よりも外方に突出した部分に設けられた、前記ハブに対し車輪を支持固定する為のフランジと、前記外輪の内周面と前記ハブの外周面との間に存在する内部空間の外端開口部を塞ぐシールリングとを備えている。
又、前記フランジは、径方向外方に放射状に延びる複数のスキャロップを内側面に形成し、前記シールリングは、前記外輪の外端部に固定される芯金と、この芯金により補強された弾性材製のシール材とから成り、このシール材は、前記フランジの内側面若しくは上記ハブの外周面に全周に亙り摺接する、少なくとも1本のシールリップと、このシールリップよりも更に径方向外方に設けられ、その外端部を前記スキャロップに近接対向させた庇リップとを備えている。
特に本発明のシール付車輪支持用軸受ユニットに於いては、前記庇リップは、内側から空気の流入部、絞り部および流出部をこの順に設けたベンチュリ機構を構成し、前記絞り部と前記シールリップの外周側空間とを連通する環状隙間を有し、前記スキャロップのポンプ作用と庇リップのベンチュリ効果とにより、前記シールリップの外周側空間への異物の堆積を防止ししている。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、シールリングによるシール性能を向上させて軸受内部空間への異物侵入防止効果をより一層良好にし、優れた耐久性を有するシール付車輪支持用軸受ユニットを、回転抵抗を大きくする事なく実現する事ができる。
即ち、本発明のシール付車輪支持用軸受ユニットによれば、回転する回転フランジに形成されたスキャロップのポンプ作用により、庇リップ(ベンチュリ機構)に軸方向内側から外側への気流を発生させ、ベンチュリ効果により絞り部の気圧が低下する。この為、絞り部とシールリップの外周側空間とを連通する環状隙間を通じて、シールリップの外周側空間から庇リップの流出部への空気の流れが発生し、この空気流を利用して異物を外部空間に排出して異物の堆積を防止できる。これにより、軸受内部空間への異物侵入を防止すると共にシールの耐久性が向上する。
又、庇リップが構成するベンチュリ機構には摺動部が存在しないので、シールリングにより回転抵抗が増大する事はない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態の第1例を示す、図4のa部に相当する拡大断面図。
【図2】本発明の実施の形態の第2例を示す、図1と同様の図。
【図3】本発明の実施の形態の第3例を示す、図1と同様の図。
【図4】シール付車輪支持用軸受ユニットの従来構造の1例を示す断面図。
【図5】シールリングの従来構造の1例を示す、図4のa部の拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[実施の形態の第1例]
図1は、本発明の実施の形態の第1例を示している。本例の特徴は、回転フランジ12aに形成したスキャロップ26のポンプ作用と、庇リップ21aが構成するベンチュリ機構とにより、シールリップ19aの外周側空間に存在する異物を外部空間に排出する構造にある。車輪支持用軸受ユニットの構造を含め、シールリング14a及び回転フランジ12a以外の構造及び作用効果に就いては、先に述べた、図4、5に示した従来構造の場合とほぼ同じであるから、重複する説明並びに図示は省略若しくは簡略にし、以下、本例の特徴部分に就いて説明する。
【0017】
本例の場合、前記回転フランジ12aの軸方向内側面の基端部で、前記外輪2の軸方向外端外周面よりも径方向位置が僅かに大径となる位置に段部25を設け、さらに、この段部25の軸方向外寄り部分から径方向外方に放射状に延びる複数のスキャロップ26を、回転フランジ12aの軸方向内側面に形成している。
【0018】
又、前記シールリング14aは、芯金17aとシール材18aとから成る。このうちの芯金17aは、軟鋼板等の金属板を曲げ形成して成るもので、嵌合筒部22aと、この嵌合筒部22aの軸方向外端縁から径方向外方に折れ曲がった円輪部23aと、この嵌合筒部22aの軸方向内端縁から径方向内方及び軸方向外方に向けてU字形に折り返された折れ曲がり部24aとを備える。そして、このうちの嵌合筒部22aを、外輪2の外端部内周面に締め嵌めで内嵌固定すると共に、前記円輪部23aの内側面を、前記外輪2の外端面に当接させている。そして、前記円輪部23aの外径側縁を、外輪2の外端部外周面よりも径方向外方に突出させている。さらに、回転フランジ12aの段部25よりも内径側の軸方向内側面と前記円輪部23aの軸方向外側面を覆うシール材18aとの間で環状隙間27を形成し、ラビリンスシールを構成している。
【0019】
上記シール材18aは、ゴムの如きエラストマー等の弾性材製で、前記芯金17aに接
合固定しており、4本の接触式のシールリップ19a〜19dと、ベンチュリ機構を構成する、庇リップ21aと、リップ部33とを備える。このうちの各シールリップ19a〜19dは、それぞれの先端部を回転フランジ12aの内側面或いはハブ3の中間部外周面に、全周に亙り摺接させている。又、リップ部33の内周縁部(先端部)を外輪2の外周面に締め代を持って接触させ、外輪2の外端部と前記円輪部23との間から泥水等の異物が浸入する事を防止している。
【0020】
一方、前記庇リップ21aは、最も径方向外側に設けられた前記シールリップ19aよりも更に径方向外方に設けられ、前記円輪部23aの外径側縁から軸方向両側に延びて全体を略円筒形状に形成されており、軸方向内側から空気の流入部30a、絞り部31aおよび流出部32aをこの順に設けたベンチュリ機構を構成している。前記流入部30aは、前記円輪部23aよりも軸方向内側に設けられ、その内径寸法は、軸方向内側に向かうに従い大径となる部分円錐面形状として、流入部30aの内周面と外輪2の外端部外周面との間で空気の流入口を形成している。
【0021】
前記流出部32aは、前記円輪部23aよりも軸方向外側に設けられ、その内径寸法は、軸方向外側に向かうに従い大径となる部分円錐面形状として、流出部32aの内周面と回転フランジ12aの段部25との間で空気の流出口を形成している。流出部32aの外端部は、前記スキャロップ26と所定の隙間により近接対向しており、この隙間は、軸受使用時に於いて外輪2とハブ3との間に相対傾きが発生しても、流出部32aの先端部とスキャロップ26とが接触しない寸法としている。
【0022】
前記絞り部31aは、前記円輪部23aの外径側縁に位置し、その内径は略円筒形状であり、前記流入部30a及び前記流出部32aの各内径寸法よりも小径として、絞り部31aの内周面と回転フランジ12aの段部25との間で空気の絞りを形成している。さらに、絞り部31aの内径側には、前記円輪部23a及びシール材18aを軸方向に貫通して、前記流入口から前記絞りに連通する貫通孔35aが、円周方向に複数設けられている。そして、この貫通孔35aの形状及び個数は、貫通孔35aの開口面積の総和が、前記絞り(絞り部31aの内周面と回転フランジ12aの段部25との間)の径方向における断面積と略同一となるようにしている。従って、貫通孔35aは大きく開ける事が望ましく、例えば、ビーンズ型、扇型とする事ができる。ただし、貫通孔35aの開口を大きくし過ぎると、外輪2の外周面或いは流入部30aの内周面を伝わる泥水等の異物を吸い込む虞があるので、貫通孔35aの内接円径は、外輪2の外端部外径寸法よりも大径とし、且つ貫通孔35aの外接円径は、流入部30aの内径寸法よりも小径とする。
更に、絞り部31aは、前記環状隙間27と径方向に重畳し、絞り部31aの絞りと環状隙間27との間で空気の流通を可能としている。
【0023】
以上の様な構成を有する本例のシール付車輪支持用軸受ユニットの場合には、シールリング14aによるシール性能を向上させて内部空間15への異物侵入防止効果をより一層良好にし、優れた耐久性を有するシール付車輪支持用軸受ユニットを、回転抵抗を大きくする事なく実現する事ができる。
即ち、車両が走行すると、車輪と共に回転する回転フランジ12aに形成されたスキャロップ26のポンプ作用により、庇リップ21a(ベンチュリ機構)に軸方向内側から外側への気流を発生する。空気は、流入部30aの流入口から取り込まれ(図1の矢印A)、絞り部31aの絞り(貫通孔35a)を通過後、流出部32aの流出口を経て(図1の矢印B)、スキャロップ26のポンプ作用により外部へ排出される。この時、絞り部31aにおいて空気流を絞る事によって流速が増加し、ベンチュリ効果により絞り部31aの気圧が低下する。この為、絞り部31aとシールリップ19aの外周側空間とを連通する環状隙間27を通じて、シールリップ19aの外周側空間から庇リップ21aの流出部32aへの空気の流れが発生し、この空気流を利用して異物を外部空間に排出して異物の堆積を防止できる。従って、シールリップ19aの動作が堆積物により阻害される事が無いので、軸受内部空間への異物侵入を防止すると共にシールの耐久性が向上する。
【0024】
更に、庇リップ21aが構成するベンチュリ機構には摺動部が存在しないので、シールリング17aにより回転抵抗が増大する事はない。
又、庇リップ21aの外周面の形状を鼓型(中央部がくびれた円筒形)としているので、庇リップ21aの外周面に付着した泥水等は小径である絞り部31aの外周面を伝って下方に流れるので、異物が庇リップ21aの内部に侵入する事を防止している。
【0025】
[実施の形態の第2例]
本例の場合には、ベンチュリ機構を有する第1例の前記庇リップ21aを、軸受ユニット装着時に於いて、シールリング14bの上方及び下方の位相にのみ設け、それ以外の位相部分には図2に示す様なベンチュリ機構を持たない庇リップ21bを設けている。
【0026】
前述した様に、泥水が集積するシールリング14bの下方、及びシールリップが水平方向に摺接する為に泥水の流動性が低いシールリング14bの上方において、特に異物の堆積が起こり易い。従って、堆積が発生し易い上方及び下方のみに前記庇リップ21aを設け、その異物排出作用により堆積を防止しつつ、堆積が発生し難い(泥水が流れ易い)それ以外の部分にはラビリンスシールの機能を有する庇リップ21bを設けている。
又、上方及び下方以外の部分に於いて、前記庇リップ21bも廃して、シールリップ19a〜19dのみの構成とすることも出来る。
【0027】
以上の様な構造を有する第2例の場合には、回転フランジ12aの回転時に於いて、ベンチュリ機構を持つ庇リップ21aを備えた部分(上方向及び下方向)の環状隙間27は気圧が低下するのに対して、ベンチュリ機構を持たない庇リップ21b(或いは庇リップなし)を備えた部分(車両装着時の前後方向)の環状隙間27は大気圧のままである。これにより、庇リップ21bを備えた部分から空気を取り込み、環状隙間27及びシールリップ19aの外周側空間を通過して庇リップ21aから放出される空気の流れが発生する。この空気流れを利用して、異物が堆積しやすい上方向及び下方向部分への異物の堆積を防止する事が出来る。
更に、回転フランジ12aの回転開始時或いは加速時(車両の発進時或いは加速時)に効果が限定される第1例に対して、本例は、回転フランジ12aが回転状態(車両が走行状態)であれば、常に異物を排出する効果がある。
その他の構成及び作用効果に就いては、前述した第1例の場合とほぼ同様である。
【0028】
[実施の形態の第3例]
図3は、本発明の実施の形態の第3例を示している。本例の場合には、貫通孔35cを、前記円輪部23a及びシール材18aを軸方向に貫通して、前記流入口から前記流出口まで連通する孔としている。そして、貫通孔35cの内径側部分で、前記環状隙間27と径方向に重畳する部分を切り欠くことで、絞り部31cの絞りと環状隙間27との間で空気の流通を可能としている。この為、貫通孔35cの開口面積の総和と、前記絞り(絞り部31cの内周面と前記段部25との間)の径方向における断面積との面積差を減らす事が出来る。
更に、庇リップ21cの外周面を円筒面とし、シールリング14cの輸送時における棒巻き包装を容易とし、さらに、組立て時の定配動作も容易にしている。
又、絞り部31cの内周面の軸方向外側寄り部分に段部25と摺接するシールリップを設け、貫通孔25cの内径側部分で、環状隙間27と径方向に重畳する部分のみを切り欠く事で、前記面積差を完全に解消することも可能である。
【0029】
本発明を実施する場合、転動体として円すいころを使用しても良いし、駆動輪用のシール付車輪支持用軸受ユニットに適用する事もできる。又、前述した実施の形態の各例では、内輪回転型のシール付車輪支持用軸受ユニットに就いて示したが、外輪回転型のシール付車輪支持用軸受ユニットにも、本発明を適用する事ができる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明に係るシール付車輪支持用軸受ユニットは、外輪とハブとの間に形成された環状空間の開口部にシールが装着された車輪支持用軸受ユニットに適用することができる。
【符号の説明】
【0031】
1 シール付車輪支持用軸受ユニット
2 外輪
3 ハブ
4 転動体
5 静止フランジ
6 外輪軌道
7 ハブ本体
8 内輪
9 加締め部
10 内輪軌道
11 保持器
12、12a 回転フランジ
13 スタッド
14、14a〜14c シールリング
15 内部空間
16 カバー
17、17a〜17c 芯金
18、18a〜18c シール材
19a〜19d シールリップ
21、21a〜21c 庇リップ
22、22a 嵌合筒部
23、23a〜23c 円輪部
24、24a 折れ曲がり部
25 段部
26 スキャロップ
27 環状隙間
30a、30c 流入部
31a、31c 絞り部
32a、32c 流出部
33 リップ部
35a、35c 貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に外輪軌道を有し、懸架装置に支持された状態で回転しない外輪と、外周面のうちで前記外輪軌道と対向する部分に内輪軌道を有し、前記外輪と同心に配置されたハブと、これら外輪軌道と内輪軌道との間に転動自在に設けられた複数個の転動体と、前記ハブの外周面のうちで前記外輪の外端開口部よりも外方に突出した部分に設けられた、前記ハブに対し車輪を支持固定する為のフランジと、前記外輪の内周面と前記ハブの外周面との間に存在する内部空間の外端開口部を塞ぐシールリングとを備え、
前記フランジは、径方向外方に放射状に延びる複数のスキャロップを内側面に形成し、前記シールリングは、前記外輪の外端部に固定される芯金と、この芯金により補強された弾性材製のシール材とから成り、このシール材は、前記フランジの内側面若しくは上記ハブの外周面に全周に亙り摺接する、少なくとも1本のシールリップと、このシールリップよりも更に径方向外方に設けられ、その外端部を前記スキャロップに近接対向させた庇リップとを備えた、シール付車輪支持用軸受ユニットに於いて、
前記庇リップは、内側から空気の流入部、絞り部および流出部をこの順に設けたベンチュリ機構を構成し、前記絞り部と前記シールリップの外周側空間とを連通する環状隙間を有し、前記スキャロップのポンプ作用と庇リップのベンチュリ効果とにより、前記シールリップの外周側空間への異物の堆積を防止した事を特徴とするシール付車輪支持用軸受ユニット。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2013−92209(P2013−92209A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−235008(P2011−235008)
【出願日】平成23年10月26日(2011.10.26)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】