シール材
【課題】バックアップリングなどの補助部材を併用せずとも高圧条件下において使用可能であるとともに、摺動抵抗が小さく、シール材の長寿命化を図ることが可能なシール材を提供すること。
【解決手段】装着体に形成されたシール溝に装着され、相手側部材のシール面と当接することで、装着体と相手側部材との間を封止するシール材であって、弾性材料から形成された弾性部材と、弾性部材よりも低摩擦性の材料から形成されるとともに、弾性部材の上面に接合されたシール部材と、を備え、弾性部材には、外側下方に延伸するリップ部が形成されており、シール溝に装着された際に、弾性部材のリップ部がシール溝の底面と当接するとともに、シール部材の上面がシール面と当接するように構成されている。
【解決手段】装着体に形成されたシール溝に装着され、相手側部材のシール面と当接することで、装着体と相手側部材との間を封止するシール材であって、弾性材料から形成された弾性部材と、弾性部材よりも低摩擦性の材料から形成されるとともに、弾性部材の上面に接合されたシール部材と、を備え、弾性部材には、外側下方に延伸するリップ部が形成されており、シール溝に装着された際に、弾性部材のリップ部がシール溝の底面と当接するとともに、シール部材の上面がシール面と当接するように構成されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【０００１】
本発明は、シール材に関し、特に、油空圧機器などにおけるロッドやピストンなど、回転・摺動する部材に用いられて好適なシール材に関する。
【背景技術】
【０００２】
従来より、油空圧機器などにおけるロッドやピストンなど、回転・摺動する部材に用いられるシール材として、キャップＯリングと呼ばれる環状のシール材が知られている。
図１０は、従来のキャップＯリングと呼ばれるシール材を示した断面図、図１１は、従来のキャップＯリングと呼ばれるシール材が、シール溝に装着されてシール面と当接している状態を示した断面図である。
【０００３】
この従来のシール材１００は、図１０に示したように、断面円形状のゴム製のＯリング１１０の内径面に、フッ素樹脂からなる断面三日月状のシール部材１２０が一体成形によって接合されることで構成されている。
【０００４】
そして、図１１に示したように、例えばハウジング１３０などの内周面に形成されているシール溝１３２に装着される。そして、シール部材１２０がハウジング１３０に収容されているロッド１４０の外周面（シール面１４２）と当接し、ハウジング１３０とロッド１４０との間をシールする。ハウジング１３０とロッド１４０の間には、図中の矢印で示した方向から流体圧力Ｐが作用しており、このシール材１００によって、ハウジング１３０とロッド１４０との間が、高圧空間１３５ａと低圧空間１３５ｂの２つの空間に隔てられている。
【０００５】
また、図１１に示したように、シール溝１３２の低圧空間１３５ｂ側には、シール材１００を保持するための部材として、シール材１００とシール溝１３２の側面との間を埋めるように、バックアップリング１１５が配置されている。このバックアップリング１１５は、シール面１４２とも当接するように配置され、上述したシール部材１２０と同様に、フッ素樹脂によって形成されている。
【０００６】
このような構成からなる従来のシール材１００は、シール面１４２と当接するシール部材１２０が摺動性に富むフッ素樹脂により形成されているため、摺動抵抗が小さくなっている。また、ゴム製のＯリング１１０は高い弾力性を備えている。したがって、シール面１４２によって図中の矢印Ｆで示した方向にシール部材１２０が押圧されると、Ｏリング１１０が圧縮され、その弾性復元力Ｒによってシール部材１２０がシール面１４２に押し付けられるため、高いシール性を発揮することができるようになっている。
【０００７】
また、シール溝１３２の低圧空間１３５ｂ側にバックアップリング１１５が配置されているため、図中の矢印で示した方向から流体圧力Ｐが作用した場合でも、シール材１００が転動して捻じれたり、シリンダ１３０とピストン１４０の間にはみ出したりすることがないようになっている。
【０００８】
なお、この従来のシール材１００は、流体圧力Ｐ´が低い場合は、バックアップリング１１５がなくとも使用可能である。しかしながら、流体圧力Ｐ´が約２．９ＭＰａを超えるような高圧条件下では、シール材１００の捻じれやはみ出しを防止するために、バックアップリング１１５を併用する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【０００９】
ところで、回転・摺動する部材に用いられるシール材において長寿命化を図るためには、シール材とシール面との間の摺動抵抗を極力小さくして、摺動抵抗によるシール材の損傷を防ぐことが重要である。また、摺動抵抗を小さくすることは、ロッドやピストンなどの回転・摺動する部材の低トルク化を図る上でも重要である。
【００１０】
シール面とシール材との摺動抵抗を小さくするためには、シール材がシール面に押し付けられる力（シール材の当接力）を小さくする必要がある。しかしながら、上述した従来のシール材１００では、シール材の当接力を十分に小さくすることはできず、所望の長寿命化、低トルク化に必要な程度にまで摺動抵抗を小さくすることはできなかった。
【００１１】
また、上述した従来のシール材１００にあっては、流体圧力Ｐが高い場合にはバックアップリング１１５を併用する必要があるが、シール材１００とシール溝１３２の側面との間にバックアップリング１１５を配置すると、シール面１４２によってシール部材１２０が押圧された際に、そのＯリング１１０の圧縮変形が抑制されてしまう。したがって、シール面１４２によって押圧されたＯリング１１０の弾性復元力Ｒがその分だけ大きくなり、シール材１００の当接力も大きくなってしまう。また、バックアップリング１１５を併用すると、部品点数が多くなり、コスト高となる他、シール材１００の装着性にも難があった。
【００１２】
本発明は、このような現状に鑑みなされたものであって、従来のシール材と比べて、シール面との摺動抵抗を小さくすることができ、シール材の長寿命化を図ることが可能なシール材を提供することを目的とする。
【００１３】
また、本発明は、シール面との摺動抵抗を小さくすることで、ロッドやピストンなどの摺動・回転する部材の低トルク化を図ることが可能なシール材を提供することを目的としている。
【００１４】
また、本発明は、バックアップリングなどの補助部材を併用せずとも高圧条件下において使用可能であり、低コスト化で装着性にも優れたシール材を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【００１５】
本発明は、前述したような従来技術の問題点を解決するために発明されたものであって、
本発明のシール材は、
装着体に形成されたシール溝に装着され、相手側部材のシール面と当接することで、装着体と相手側部材との間を封止するシール材であって、
弾性材料から形成された弾性部材と、該弾性部材よりも低摩擦性の材料から形成されるとともに、該弾性部材の上面に接合されたシール部材と、を備え、
前記弾性部材には、外側下方に延伸するリップ部が形成されており、
前記シール溝に装着された際に、前記弾性部材のリップ部がシール溝の底面と当接するとともに、前記シール部材の上面が前記シール面と当接するように構成されていることを特徴とする。
【００１６】
このように構成することによって、シール溝に装着された際に、弾性部材に形成されているリップ部がシール溝の底面と当接するように構成されているため、シール材の圧縮性を高めることができ、シール材とシール面との摺動抵抗を小さくすることができる。
【００１７】
上記発明において、
前記シール部材の上面において、その断面両端部の内の少なくともいずれか一方にテーパーが付されていることが望ましい。
【００１８】
このように構成することによって、シール面と当接するシール部材の上面にテーパーが付されているため、シール材とシール面との当接面積を小さくすることができ、シール材とシール面との摺動抵抗を小さくすることができる。
【００１９】
また、上記発明において、
前記シール材は、
装着体に形成されたシール溝に装着され、相手側部材のシール面と当接することで、装着体と相手側部材との間を圧力差のある２つの空間に隔てるものであることが望ましい。
【００２０】
このように本発明のシール材は、圧力差のある２つの空間を隔てるシール材として特に好適に用いることができるものである。
上記発明において、
前記シール溝に装着され、相手側部材のシール面と当接した際において、
少なくとも、低圧空間側に形成されている前記弾性部材とシール部材との接合部が、前記シール溝の開口端部よりも下方に位置するように構成されていることが望ましい。
【００２１】
このように構成されていれば、流体圧力によってシール材がシール溝の側面に押し付けられた状態にあっても、シール部材がシール溝の開口端部と当接するため、弾性部材が装着体と相手側部材との間にはみ出したりすることがない。
【００２２】
したがって、従来のシール材のようにバックアップリングなどの補助部材を併用せずとも、高圧条件下で使用することが可能となり、部品点数を少なくでき、コストを低減できる他、装着性に優れたシール材とすることができる。
【００２３】
上記発明において、
前記弾性部材のリップ部が、少なくとも、前記シール溝に装着された際における高圧空間側に形成されていることが望ましい。
【００２４】
このように、弾性部材のリップ部が少なくとも高圧空間側に形成されていれば、高圧条件下で使用した場合であっても、流体圧力によってリップ部がシール溝の底面に押し付けられるため、シール材が安定した状態でシール溝に保持される。
【００２５】
また、上記発明において、
前記シール材の断面が、左右方向に線対称形状となるように形成されていることが望ましい。
【００２６】
このように、シール材の断面が左右方向に線対称形状となるように形成されていれば、例えばピストンの移動に応じて、高圧空間と低圧空間とが入れ替わるような場合においても、本発明のシール材を用いることが可能となる。
【００２７】
また、左右方向に線対称形状となるように形成されていれば、装着方向を間違えることがないため、シール材の装着性がより一層向上する。
【発明の効果】
【００２８】
本発明によれば、従来のシール材と比べて、シール面との摺動抵抗を小さくすることができ、シール材の長寿命化を図ることが可能なシール材を提供することができる。
また、シール面との摺動抵抗を小さくすることで、ロッドやピストンなどの摺動・回転する部材の低トルク化を図ることが可能なシール材を提供することができる。
【００２９】
また、バックアップリングなどの補助部材を併用せずとも高圧条件下において使用可能であり、低コスト化で装着性にも優れたシール材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【００３０】
【図１】図１は、本発明のシール材を示した平面図である。
【図２】図２は、図１のＡ−Ａ線における断面図である。
【図３】図３は、本発明のシール材の断面を拡大して示した拡大断面図である。
【図４】図４は、本発明のシール材をシール溝に装着した状態を示した断面図である。
【図５】図５は、本発明のシール材がシール溝に装着され、装着体と相手側部材との間を圧力差のある２つの空間に隔てている状態を示した断面図である。
【図６】図６は、本発明の別の実施形態のシール材の断面を拡大して示した拡大断面図である。
【図７】図７は、本発明の別の実施形態のシール材をシール溝に装着した状態を示した断面図である。
【図８】図８は、本発明の別の実施形態のシール材が、シール溝に装着され、装着体と相手側部材との間を圧力差のある２つの空間に隔てている状態を示した断面図である。
【図９Ａ】図９Ａは、本発明のシール材の変形例を示した断面図である。
【図９Ｂ】図９Ｂは、本発明のシール材の別の変形例を示した断面図である。
【図１０】図１０は、従来のキャップＯリングと呼ばれるシール材を示した断面図である。
【図１１】図１１は、従来のキャップＯリングと呼ばれるシール材が、シール溝に装着されてシール面と当接している状態を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【００３１】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
なお、本明細書において、「上面側」および「上面」とはシール材がシール溝に装着された際のシール面側およびその側の面を指し、「下面側」および「下面」とは用シール材がシール溝に装着された際のシール溝の底面側およびその側の面を指す。
【００３２】
図１は、本発明のシール材を示した平面図、図２は、図１のＡ−Ａ線における断面図、図３は、本発明のシール材の断面を拡大して示した拡大断面図である。
本発明のシール材１は、図１に示したように、環状のシール材であって、図１および図２に示したように、シール材１の外周側に位置する環状の弾性部材１０と、シール材１の内周側に位置する環状のシール部材２０とから構成されている。この弾性部材１０とシール部材２０とは、図３に示したように、弾性部材１０の上面１２ａと、シール部材２０の下面２２ｂとが接合されることで、一体化されている。
【００３３】
また、本発明のシール材１は、図３に示したように、中心線ＣＬを境界として左右方向に線対称形状に形成されている。そして、後述する図４に示すように、装着体３０に形成されているシール溝３２に装着される。この際、シール材１は、弾性部材１０のリップ部１６ｌ、１６ｒの先端部がシール溝３２の底面３４と当接するとともに、シール部材２０の上面２２ａが、相手側部材４０のシール面４２と当接するように装着される。
【００３４】
本実施形態において、上述した装着体３０は、例えばハウジング３０であり、相手側部材４０は、例えばロッド４０である。すなわち、本実施形態においては、シール溝３２はハウジング３０の内周面に形成されており、シール面４２は、ロッド４０の外周面に相当している。また、ハウジング３０とロッド４０との間には、後述するように、その左右少なくともいずれか一方側から流体圧力Ｐが作用する。そして、シール材１がシール溝３２に装着されることで、ハウジング３０とロッド４０との間が圧力差のある２つの空間に隔てられるようになっている。
【００３５】
弾性部材１０は、図３に示したように、略水平方向に延伸する上面１２ａと、この上面１２ａの端部から略垂直方向に延伸する左右の側面１４ｌ、１４ｒとを有する本体部１８と、左右の側面１４ｌ、１４ｒに接続するともに、シール溝３２に装着された際に上述したシール溝３２の底面３４と当接する左右のリップ部１６ｌ、１６ｒと、を備えている。また、左右のリップ部１６ｌ、１６ｒとの間には、凹所１９が形成されている。
【００３６】
左右のリップ部１６ｌ、１６ｒは、ともに弾性部材１０から外側下方に延伸するように形成されている。すなわち、シール材１がシール溝３２の略中央に装着されている状態において、シール溝３２の側面および底面に向かって斜め方向に延伸するように形成されている。このリップ部１６ｌ、１６ｒの傾斜角度θは、シール材１が所望の圧縮性を発揮するように、シール材１やシール溝３２の寸法、後述する流体圧力Ｐの大きさなどに応じて適宜設定すればよい。この際、傾斜角度θが大きすぎると、後述する流体圧力Ｐがシール材１に作用した際に、リップ部１６ｌ、１６ｒが内側に倒れ込むなどの不所望な変形をすることがあるため、好ましくない。また、傾斜角度θが小さ過ぎると、シール材１の圧縮量が小さくなるため好ましくない。
【００３７】
よって、本発明のシール材１にあっては、リップ部１６ｌ、１６ｒの傾斜角度θが１５°〜７５°の範囲、さらには３０〜６０°の範囲で設定されるのが好ましい。なお、本実施形態のシール材１では、傾斜角度θは約４５°に設定されている。
【００３８】
また、弾性部材１０の凹所１９には、その断面略中央部に湾曲状の凸部１７が形成されている。この凸部１７は、後述する図４に示すように、シール材１がその上下方向に圧縮変形した際に、その圧縮量を制御する機能を発揮するものであるが、本発明のシール材１にあっては、このような凸部１７は必ずしも形成されていなくともよい。
【００３９】
このような弾性部材１０は、弾力性に富んだ弾性材料、例えばゴム材料などによって形成することができる。具体的には、ニトリルゴム、水素化ニトリルゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、エチレンプロピレンゴムなどの合成ゴム材料により形成することができる。本実施形態の弾性部材１０は、ニトリルゴムにより形成されている。
【００４０】
このように、弾性部材１０を弾力性に富んだ弾性材料によって形成することで、後述するように、弾性部材１０の弾性復元力Ｒによって、シール部材２０がシール面４２に押し付けられ、ハウジング３０とロッド４０との間を封止するようになっている。
【００４１】
シール部材２０は、図３に示したように、その断面の両端部に直線状のテーパー２３ｒ、２３ｌが形成されている上面２２ａと、略水平方向に延伸する下面２２ｂと、これら上面２２ａと下面２２ｂとを接続する左右の側面２４ｌ、２４ｒとを備えている。
【００４２】
そして、後述する図４に示すように、シール溝３２に装着され、ロッド４０のシール面４２と当接した際に、断面側方における弾性部材１０とシール部材２０との接合部１５が、シール溝３２の開口端部３６よりも下方に位置するように構成されている。
【００４３】
このようなシール部材２０は、弾性部材１０よりも低摩擦性の材料から形成されており、摺動性に富んだフッ素樹脂材料や、高機能樹脂と呼ばれる樹脂材料によって形成することができる。具体的には、例えば、ＰＴＦＥ（ポリテトラフルオロエチレン）、ＰＦＡ（テトラフルオロエチレン）、ＦＥＰ（テトラフルオロエチレン）、ＥＴＦＥ（テトラフルオロエチレン）、ＰＶＤＦ（ポリビニリデンフルオライド）、ＰＣＴＦＥ（ポリクロロトリフルオロエチレン）、ＥＣＴＦＥ（クロロトリフルオエチレン）などの各種フッ素樹脂や、ポリアミド、ポリアセタール、ポリエチレン、布入りフェノールなどの高機能樹脂により形成することができる。本実施形態のシール部材２０は、ＰＴＦＥにより形成されている。
【００４４】
このように、シール部材２０が弾性部材１０よりも低摩擦性の材料から形成されていれば、本発明のシール材１をロッド４０などの回転・摺動する部材に用いた際に、シール材１とシール面４２との摺動抵抗を小さくすることができる。
【００４５】
上述した弾性部材１０とシール部材２０とは、例えば接着剤などによって接合することも可能であるが、インサート成形などの方法によって一体成形されることで、接合されていることが好ましい。このように、弾性部材１０とシール部材２０とが一体成形によって接合されていれば、弾性部材１０とシール部材２０とが高い強度で接合されるとともに、シール材１の取り扱いも容易となる。
【００４６】
次に、本発明のシール材１がシール溝３２に装着された際における、シール面４２とシール材１との摺動抵抗について、図４および図５を基に説明する。
ここで、図４は、本発明のシール材がシール溝に装着され、シール材がシール面と当接している状態を示した断面図である。また、図５は、図４に示した状態において、シール材にその側方から流体圧力が作用した状態を示した断面図である。
【００４７】
先ず、図４に示した状態において、シール面４２と当接するシール材１には、シール面４２から図中の矢印Ｆに示した方向に押圧力Ｆが作用している。そして、シール溝３２の底面３４に押し付けられた弾性部材１０が変形し、その弾性復元力Ｒによって、シール材１がシール面４２に押し付けられている。
【００４８】
この際、本発明のシール材１は、上述したように、シール溝３２に装着された際に、弾性部材１０のリップ部１６ｌ、１６ｒの先端部がシール溝３２の底面３４と当接するように構成されている。そして、シール材１に押圧力Ｆが作用した際には、リップ部１６ｌ、１６ｒが外側に拡がるように変形するとともに、本体部１８も圧縮変形するため、上述した従来のシール材１００と比べて圧縮変形し易くなっている。したがって、上述した従来のシール材１００と比べてその弾性復元力Ｒが小さくなっており、シール材１とシール面４２との摺動抵抗も小さくなっている。
【００４９】
また、上述したように、シール面４２と当接するシール部材２０の上面２２ａには、その両端部にテーパー２３ｌ、２３ｒが形成されている。したがって、シール材１とシール面４２との当接面積が小さくなっており、これにより、シール材１とシール面４２との摺動抵抗がより小さくなっている。
【００５０】
次に、図５に示した状態において、シール溝３２に装着されたシール材１には、図中の左側から流体圧力Ｐが作用している。そして、ハウジング３０とロッド４０との間が、高圧空間３５ａと低圧空間３５ｂの２つの空間に隔てられている。
【００５１】
また、この流体圧力Ｐにより、シール材１がシール溝３２の側面３８ｒに押し付けられるとともに、高圧空間３５ａ側のリップ部１６ｌが、シール溝３２の底面に押し付けられる。また、シール溝３２の側面３８ｒに押し付けられた低圧空間３５ｂ側のリップ部１６ｒは、凹所１９に倒れ込むように変形している。
【００５２】
この際、本発明のシール材１では、上述したように、弾性部材１０とシール部材２０との低圧空間３５ｂ側の接合部１５が、シール溝３２の開口端部３６よりも下方に位置するように構成されている。よって、シール部材２０の側面２４ｒがシール溝３２の開口端部３６と当接し、ハウジング３０とロッド４０との間を塞ぐような形になるため、弾性部材１０がハウジング３０とロッド４０との間にはみ出したりすることがない。したがって、従来のシール材１００のようにバックアップリングなどの補助部材を併用せずとも、高圧条件下で使用することが可能となり、部品点数を少なくでき、コストを低減できる他、装着性に優れたシール材１とすることができる。
【００５３】
また、上述したように、流体圧力Ｐによって高圧空間３５ａ側のリップ部１６ｌがシール溝３２の底面に押し付けられるため、シール材１が安定した状態でシール溝３２に保持される。
【００５４】
また、本発明のシール材１では、上述したように、中心線ＣＬを境界として左右方向に線対称形状に形成されている。このように左右方向に線対称形状に形成されていれば、例えばピストン４０の移動に応じて、高圧空間３５ａと低圧空間３５ｂとが交互に入れ替わるような油圧機器に対しても、本発明のシール材１を好適に用いることができる。また、左右方向に線対称形状となるように形成されていれば、装着方向を間違えることがないため、シール材１の装着性がより一層向上する。
【００５５】
以上のとおり、本発明のシール材１によれば、従来のシール材１００と比べてシール面４２との摺動抵抗を小さくすることができ、シール材の長寿命化を図ることができる。また、シール面４２との摺動抵抗を小さくすることで、ロッド４０などの摺動・回転する部材の低トルク化を図ることできる。
【００５６】
次に、本発明の別の実施形態のシール材１について、図６〜図８に基づいて説明する。ここに、図６は、本発明の別の実施形態のシール材の断面を拡大して示した拡大断面図、図７は、本発明の別の実施形態のシール材をシール溝に装着した状態を示した断面図、図８は、本発明の別の実施形態のシール材が、シール溝に装着され、装着体と相手側部材との間を圧力差のある２つの空間に隔てている状態を示した断面図である。
【００５７】
この別の実施形態のシール材１は、上述した実施形態のシール材１と基本的に同様な構成を有しており、同一の構成部材には同一の符号を付して、その詳細な説明を省略する。
図６に示したように、この別の実施形態のシール材１は、その弾性部材１０の左右の側面１４ｌ、１４ｒが、外側下方に延伸するように形成されている。そして、弾性部材１０の左右のリップ部１６ｌ、１６ｒは、この左右の側面１４ｌ、１４ｒと連続して、外側下方に延伸している。また、この別の実施形態における弾性部材１０のリップ部１６ｌ、１６ｒの傾斜角度θは、上述した実施形態と同様に約４５°に形成されている。
【００５８】
また、この別の実施形態のシール材１では、その断面幅Ｂと断面高Ｈとの比が約２：３となっている。これに対して、図３に示した、上述した実施形態では、その断面幅Ｂと断面高Ｈとの比が約１：１となっており、本実施形態のシール材１の方が、上述した実施形態よりも、シール材１の断面形状が縦長にコンパクトに形成されている。
【００５９】
このように構成されているシール材１であっても、上述した実施形態のシール材１と同様に作用する。すなわち、図７に示したように、シール材１に押圧力Ｆが作用した際に、リップ部１６ｌ、１６ｒが外側に拡がるように変形するとともに、本体部１８も圧縮変形するため、上述した従来のシール材１００と比べて圧縮変形し易くなっており、シール材１とシール面４２との摺動抵抗も小さくなっている。
【００６０】
また、上シール面４２と当接するシール部材２０の上面２２ａには、その両端部にテーパー２３ｌ、２３ｒが形成されており、シール材１とシール面４２との当接面積が小さくなっているため、シール材１とシール面４２との摺動抵抗がより小さくなっている。
【００６１】
また、図８に示したように、流体圧力Ｐが作用した場合でも、弾性部材１０とシール部材２０との低圧空間３５ｂ側の接合部１５が、シール溝３２の開口端部３６よりも下方に位置するように構成されているため、弾性部材１０がハウジング３０とロッド４０との間にはみ出したりすることがないようになっている。
【００６２】
また、流体圧力Ｐによって高圧空間３５ａ側のリップ部１６ｌがシール溝３２の底面に押し付けられるため、シール材１が安定した状態でシール溝３２に保持されるようになっている。
【００６３】
以上、本発明の好ましい実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されない。本発明の目的を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
例えば、上述した実施形態では、弾性部材１０に２つのリップ部１６ｌ、１６ｒが形成されていた。しかしながら、本発明のシール材１はこれに限定されず、例えば、図９Ａに示したように、弾性部材１０に１つのリップ部１６ｌが形成されていてもよい。この際、１つだけ形成されるリップ部１６ｌが高圧空間３５ａ側に形成されていれば、上述したように、流体圧力Ｐによってリップ部１６ｌがシール溝３２の底面に押し付けられ、シール材１が安定した状態でシール溝３２に保持されるため、好ましい。
【００６４】
また、上述した実施形態では、弾性部材１０の上面１２ａは略水平に形成されるとともに、シール部材２０の下面２２ｂも略水平に形成されていた。しかしながら、本発明のシール材１はこれに限定されず、例えば、図９Ｂに示したように、弾性部材１０の上面１２ａが断面略凸状に形成されるとともに、シール部材２０の下面２２ｂは断面略凹状に形成され、その両者が嵌合するように構成されていてもよい。この際、弾性部材１０とシール部材２０との低圧空間３５ｂ側の接合部１５が、シール溝３２の開口端部３６よりも下方に位置するように構成されていれば、上述したように、弾性部材１０がハウジング３０とロッド４０との間にはみ出したりすることがないため、好ましい。
【００６５】
また、上述した実施形態では、ハウジング３０の内周面に形成されたシール溝３２に、シール材１を装着する場合を例に説明したが、本発明のシール材１はこれに限定されず、例えば、ロッド４０の外周面に形成されたシール溝に装着するようにシール材１を構成することも可能である。この場合、上述した実施形態では、シール材１の外周側に弾性部材１０が位置し、内周側にシール部材２０が位置するように構成されていたが、それを逆向きに、すなわち、外周側にシール部材２０が、内周側に弾性部材１０が位置するように、シール材１を構成すればよい。
【００６６】
また、上述した実施形態では、シール材１によってハウジング３０とロッド４０との間を圧力差のある２つの空間に隔てる場合を例に説明したが、本発明のシール材１はこれに限定されず、圧力差のない２つの空間を隔てる場合にも使用することができる。
【符号の説明】
【００６７】
１ シール材
１０ 弾性部材
１２ａ 上面
１４ｌ、１４Ｒ 側面
１５ 接合部
１６ｌ、１６Ｒ リップ部
１７ 凸部
１８ 本体部
１９ 凹所
２０ シール部材
２２ａ 上面
２２ｂ 下面
２３ｌ、２３Ｒ テーパー
２４ｌ、２４ｒ 側面
３０ 装着体（ハウジング）
３２ シール溝
３４ 底面
３５ａ 高圧空間
３５ｂ 低圧空間
３６ 開口端部
３８ｒ 側面
４０ 相手側部材（ロッド）
４２ シール面
１００ シール材
１１０ Ｏリング
１１５ バックアップリング
１２０ シール部材
１３０ シリンダ
１３２ シール溝
１３５ａ 高圧空間
１３５ｂ 低圧空間
１４０ ピストン
１４２ シール面
【技術分野】
【０００１】
本発明は、シール材に関し、特に、油空圧機器などにおけるロッドやピストンなど、回転・摺動する部材に用いられて好適なシール材に関する。
【背景技術】
【０００２】
従来より、油空圧機器などにおけるロッドやピストンなど、回転・摺動する部材に用いられるシール材として、キャップＯリングと呼ばれる環状のシール材が知られている。
図１０は、従来のキャップＯリングと呼ばれるシール材を示した断面図、図１１は、従来のキャップＯリングと呼ばれるシール材が、シール溝に装着されてシール面と当接している状態を示した断面図である。
【０００３】
この従来のシール材１００は、図１０に示したように、断面円形状のゴム製のＯリング１１０の内径面に、フッ素樹脂からなる断面三日月状のシール部材１２０が一体成形によって接合されることで構成されている。
【０００４】
そして、図１１に示したように、例えばハウジング１３０などの内周面に形成されているシール溝１３２に装着される。そして、シール部材１２０がハウジング１３０に収容されているロッド１４０の外周面（シール面１４２）と当接し、ハウジング１３０とロッド１４０との間をシールする。ハウジング１３０とロッド１４０の間には、図中の矢印で示した方向から流体圧力Ｐが作用しており、このシール材１００によって、ハウジング１３０とロッド１４０との間が、高圧空間１３５ａと低圧空間１３５ｂの２つの空間に隔てられている。
【０００５】
また、図１１に示したように、シール溝１３２の低圧空間１３５ｂ側には、シール材１００を保持するための部材として、シール材１００とシール溝１３２の側面との間を埋めるように、バックアップリング１１５が配置されている。このバックアップリング１１５は、シール面１４２とも当接するように配置され、上述したシール部材１２０と同様に、フッ素樹脂によって形成されている。
【０００６】
このような構成からなる従来のシール材１００は、シール面１４２と当接するシール部材１２０が摺動性に富むフッ素樹脂により形成されているため、摺動抵抗が小さくなっている。また、ゴム製のＯリング１１０は高い弾力性を備えている。したがって、シール面１４２によって図中の矢印Ｆで示した方向にシール部材１２０が押圧されると、Ｏリング１１０が圧縮され、その弾性復元力Ｒによってシール部材１２０がシール面１４２に押し付けられるため、高いシール性を発揮することができるようになっている。
【０００７】
また、シール溝１３２の低圧空間１３５ｂ側にバックアップリング１１５が配置されているため、図中の矢印で示した方向から流体圧力Ｐが作用した場合でも、シール材１００が転動して捻じれたり、シリンダ１３０とピストン１４０の間にはみ出したりすることがないようになっている。
【０００８】
なお、この従来のシール材１００は、流体圧力Ｐ´が低い場合は、バックアップリング１１５がなくとも使用可能である。しかしながら、流体圧力Ｐ´が約２．９ＭＰａを超えるような高圧条件下では、シール材１００の捻じれやはみ出しを防止するために、バックアップリング１１５を併用する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【０００９】
ところで、回転・摺動する部材に用いられるシール材において長寿命化を図るためには、シール材とシール面との間の摺動抵抗を極力小さくして、摺動抵抗によるシール材の損傷を防ぐことが重要である。また、摺動抵抗を小さくすることは、ロッドやピストンなどの回転・摺動する部材の低トルク化を図る上でも重要である。
【００１０】
シール面とシール材との摺動抵抗を小さくするためには、シール材がシール面に押し付けられる力（シール材の当接力）を小さくする必要がある。しかしながら、上述した従来のシール材１００では、シール材の当接力を十分に小さくすることはできず、所望の長寿命化、低トルク化に必要な程度にまで摺動抵抗を小さくすることはできなかった。
【００１１】
また、上述した従来のシール材１００にあっては、流体圧力Ｐが高い場合にはバックアップリング１１５を併用する必要があるが、シール材１００とシール溝１３２の側面との間にバックアップリング１１５を配置すると、シール面１４２によってシール部材１２０が押圧された際に、そのＯリング１１０の圧縮変形が抑制されてしまう。したがって、シール面１４２によって押圧されたＯリング１１０の弾性復元力Ｒがその分だけ大きくなり、シール材１００の当接力も大きくなってしまう。また、バックアップリング１１５を併用すると、部品点数が多くなり、コスト高となる他、シール材１００の装着性にも難があった。
【００１２】
本発明は、このような現状に鑑みなされたものであって、従来のシール材と比べて、シール面との摺動抵抗を小さくすることができ、シール材の長寿命化を図ることが可能なシール材を提供することを目的とする。
【００１３】
また、本発明は、シール面との摺動抵抗を小さくすることで、ロッドやピストンなどの摺動・回転する部材の低トルク化を図ることが可能なシール材を提供することを目的としている。
【００１４】
また、本発明は、バックアップリングなどの補助部材を併用せずとも高圧条件下において使用可能であり、低コスト化で装着性にも優れたシール材を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【００１５】
本発明は、前述したような従来技術の問題点を解決するために発明されたものであって、
本発明のシール材は、
装着体に形成されたシール溝に装着され、相手側部材のシール面と当接することで、装着体と相手側部材との間を封止するシール材であって、
弾性材料から形成された弾性部材と、該弾性部材よりも低摩擦性の材料から形成されるとともに、該弾性部材の上面に接合されたシール部材と、を備え、
前記弾性部材には、外側下方に延伸するリップ部が形成されており、
前記シール溝に装着された際に、前記弾性部材のリップ部がシール溝の底面と当接するとともに、前記シール部材の上面が前記シール面と当接するように構成されていることを特徴とする。
【００１６】
このように構成することによって、シール溝に装着された際に、弾性部材に形成されているリップ部がシール溝の底面と当接するように構成されているため、シール材の圧縮性を高めることができ、シール材とシール面との摺動抵抗を小さくすることができる。
【００１７】
上記発明において、
前記シール部材の上面において、その断面両端部の内の少なくともいずれか一方にテーパーが付されていることが望ましい。
【００１８】
このように構成することによって、シール面と当接するシール部材の上面にテーパーが付されているため、シール材とシール面との当接面積を小さくすることができ、シール材とシール面との摺動抵抗を小さくすることができる。
【００１９】
また、上記発明において、
前記シール材は、
装着体に形成されたシール溝に装着され、相手側部材のシール面と当接することで、装着体と相手側部材との間を圧力差のある２つの空間に隔てるものであることが望ましい。
【００２０】
このように本発明のシール材は、圧力差のある２つの空間を隔てるシール材として特に好適に用いることができるものである。
上記発明において、
前記シール溝に装着され、相手側部材のシール面と当接した際において、
少なくとも、低圧空間側に形成されている前記弾性部材とシール部材との接合部が、前記シール溝の開口端部よりも下方に位置するように構成されていることが望ましい。
【００２１】
このように構成されていれば、流体圧力によってシール材がシール溝の側面に押し付けられた状態にあっても、シール部材がシール溝の開口端部と当接するため、弾性部材が装着体と相手側部材との間にはみ出したりすることがない。
【００２２】
したがって、従来のシール材のようにバックアップリングなどの補助部材を併用せずとも、高圧条件下で使用することが可能となり、部品点数を少なくでき、コストを低減できる他、装着性に優れたシール材とすることができる。
【００２３】
上記発明において、
前記弾性部材のリップ部が、少なくとも、前記シール溝に装着された際における高圧空間側に形成されていることが望ましい。
【００２４】
このように、弾性部材のリップ部が少なくとも高圧空間側に形成されていれば、高圧条件下で使用した場合であっても、流体圧力によってリップ部がシール溝の底面に押し付けられるため、シール材が安定した状態でシール溝に保持される。
【００２５】
また、上記発明において、
前記シール材の断面が、左右方向に線対称形状となるように形成されていることが望ましい。
【００２６】
このように、シール材の断面が左右方向に線対称形状となるように形成されていれば、例えばピストンの移動に応じて、高圧空間と低圧空間とが入れ替わるような場合においても、本発明のシール材を用いることが可能となる。
【００２７】
また、左右方向に線対称形状となるように形成されていれば、装着方向を間違えることがないため、シール材の装着性がより一層向上する。
【発明の効果】
【００２８】
本発明によれば、従来のシール材と比べて、シール面との摺動抵抗を小さくすることができ、シール材の長寿命化を図ることが可能なシール材を提供することができる。
また、シール面との摺動抵抗を小さくすることで、ロッドやピストンなどの摺動・回転する部材の低トルク化を図ることが可能なシール材を提供することができる。
【００２９】
また、バックアップリングなどの補助部材を併用せずとも高圧条件下において使用可能であり、低コスト化で装着性にも優れたシール材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【００３０】
【図１】図１は、本発明のシール材を示した平面図である。
【図２】図２は、図１のＡ−Ａ線における断面図である。
【図３】図３は、本発明のシール材の断面を拡大して示した拡大断面図である。
【図４】図４は、本発明のシール材をシール溝に装着した状態を示した断面図である。
【図５】図５は、本発明のシール材がシール溝に装着され、装着体と相手側部材との間を圧力差のある２つの空間に隔てている状態を示した断面図である。
【図６】図６は、本発明の別の実施形態のシール材の断面を拡大して示した拡大断面図である。
【図７】図７は、本発明の別の実施形態のシール材をシール溝に装着した状態を示した断面図である。
【図８】図８は、本発明の別の実施形態のシール材が、シール溝に装着され、装着体と相手側部材との間を圧力差のある２つの空間に隔てている状態を示した断面図である。
【図９Ａ】図９Ａは、本発明のシール材の変形例を示した断面図である。
【図９Ｂ】図９Ｂは、本発明のシール材の別の変形例を示した断面図である。
【図１０】図１０は、従来のキャップＯリングと呼ばれるシール材を示した断面図である。
【図１１】図１１は、従来のキャップＯリングと呼ばれるシール材が、シール溝に装着されてシール面と当接している状態を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【００３１】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
なお、本明細書において、「上面側」および「上面」とはシール材がシール溝に装着された際のシール面側およびその側の面を指し、「下面側」および「下面」とは用シール材がシール溝に装着された際のシール溝の底面側およびその側の面を指す。
【００３２】
図１は、本発明のシール材を示した平面図、図２は、図１のＡ−Ａ線における断面図、図３は、本発明のシール材の断面を拡大して示した拡大断面図である。
本発明のシール材１は、図１に示したように、環状のシール材であって、図１および図２に示したように、シール材１の外周側に位置する環状の弾性部材１０と、シール材１の内周側に位置する環状のシール部材２０とから構成されている。この弾性部材１０とシール部材２０とは、図３に示したように、弾性部材１０の上面１２ａと、シール部材２０の下面２２ｂとが接合されることで、一体化されている。
【００３３】
また、本発明のシール材１は、図３に示したように、中心線ＣＬを境界として左右方向に線対称形状に形成されている。そして、後述する図４に示すように、装着体３０に形成されているシール溝３２に装着される。この際、シール材１は、弾性部材１０のリップ部１６ｌ、１６ｒの先端部がシール溝３２の底面３４と当接するとともに、シール部材２０の上面２２ａが、相手側部材４０のシール面４２と当接するように装着される。
【００３４】
本実施形態において、上述した装着体３０は、例えばハウジング３０であり、相手側部材４０は、例えばロッド４０である。すなわち、本実施形態においては、シール溝３２はハウジング３０の内周面に形成されており、シール面４２は、ロッド４０の外周面に相当している。また、ハウジング３０とロッド４０との間には、後述するように、その左右少なくともいずれか一方側から流体圧力Ｐが作用する。そして、シール材１がシール溝３２に装着されることで、ハウジング３０とロッド４０との間が圧力差のある２つの空間に隔てられるようになっている。
【００３５】
弾性部材１０は、図３に示したように、略水平方向に延伸する上面１２ａと、この上面１２ａの端部から略垂直方向に延伸する左右の側面１４ｌ、１４ｒとを有する本体部１８と、左右の側面１４ｌ、１４ｒに接続するともに、シール溝３２に装着された際に上述したシール溝３２の底面３４と当接する左右のリップ部１６ｌ、１６ｒと、を備えている。また、左右のリップ部１６ｌ、１６ｒとの間には、凹所１９が形成されている。
【００３６】
左右のリップ部１６ｌ、１６ｒは、ともに弾性部材１０から外側下方に延伸するように形成されている。すなわち、シール材１がシール溝３２の略中央に装着されている状態において、シール溝３２の側面および底面に向かって斜め方向に延伸するように形成されている。このリップ部１６ｌ、１６ｒの傾斜角度θは、シール材１が所望の圧縮性を発揮するように、シール材１やシール溝３２の寸法、後述する流体圧力Ｐの大きさなどに応じて適宜設定すればよい。この際、傾斜角度θが大きすぎると、後述する流体圧力Ｐがシール材１に作用した際に、リップ部１６ｌ、１６ｒが内側に倒れ込むなどの不所望な変形をすることがあるため、好ましくない。また、傾斜角度θが小さ過ぎると、シール材１の圧縮量が小さくなるため好ましくない。
【００３７】
よって、本発明のシール材１にあっては、リップ部１６ｌ、１６ｒの傾斜角度θが１５°〜７５°の範囲、さらには３０〜６０°の範囲で設定されるのが好ましい。なお、本実施形態のシール材１では、傾斜角度θは約４５°に設定されている。
【００３８】
また、弾性部材１０の凹所１９には、その断面略中央部に湾曲状の凸部１７が形成されている。この凸部１７は、後述する図４に示すように、シール材１がその上下方向に圧縮変形した際に、その圧縮量を制御する機能を発揮するものであるが、本発明のシール材１にあっては、このような凸部１７は必ずしも形成されていなくともよい。
【００３９】
このような弾性部材１０は、弾力性に富んだ弾性材料、例えばゴム材料などによって形成することができる。具体的には、ニトリルゴム、水素化ニトリルゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、エチレンプロピレンゴムなどの合成ゴム材料により形成することができる。本実施形態の弾性部材１０は、ニトリルゴムにより形成されている。
【００４０】
このように、弾性部材１０を弾力性に富んだ弾性材料によって形成することで、後述するように、弾性部材１０の弾性復元力Ｒによって、シール部材２０がシール面４２に押し付けられ、ハウジング３０とロッド４０との間を封止するようになっている。
【００４１】
シール部材２０は、図３に示したように、その断面の両端部に直線状のテーパー２３ｒ、２３ｌが形成されている上面２２ａと、略水平方向に延伸する下面２２ｂと、これら上面２２ａと下面２２ｂとを接続する左右の側面２４ｌ、２４ｒとを備えている。
【００４２】
そして、後述する図４に示すように、シール溝３２に装着され、ロッド４０のシール面４２と当接した際に、断面側方における弾性部材１０とシール部材２０との接合部１５が、シール溝３２の開口端部３６よりも下方に位置するように構成されている。
【００４３】
このようなシール部材２０は、弾性部材１０よりも低摩擦性の材料から形成されており、摺動性に富んだフッ素樹脂材料や、高機能樹脂と呼ばれる樹脂材料によって形成することができる。具体的には、例えば、ＰＴＦＥ（ポリテトラフルオロエチレン）、ＰＦＡ（テトラフルオロエチレン）、ＦＥＰ（テトラフルオロエチレン）、ＥＴＦＥ（テトラフルオロエチレン）、ＰＶＤＦ（ポリビニリデンフルオライド）、ＰＣＴＦＥ（ポリクロロトリフルオロエチレン）、ＥＣＴＦＥ（クロロトリフルオエチレン）などの各種フッ素樹脂や、ポリアミド、ポリアセタール、ポリエチレン、布入りフェノールなどの高機能樹脂により形成することができる。本実施形態のシール部材２０は、ＰＴＦＥにより形成されている。
【００４４】
このように、シール部材２０が弾性部材１０よりも低摩擦性の材料から形成されていれば、本発明のシール材１をロッド４０などの回転・摺動する部材に用いた際に、シール材１とシール面４２との摺動抵抗を小さくすることができる。
【００４５】
上述した弾性部材１０とシール部材２０とは、例えば接着剤などによって接合することも可能であるが、インサート成形などの方法によって一体成形されることで、接合されていることが好ましい。このように、弾性部材１０とシール部材２０とが一体成形によって接合されていれば、弾性部材１０とシール部材２０とが高い強度で接合されるとともに、シール材１の取り扱いも容易となる。
【００４６】
次に、本発明のシール材１がシール溝３２に装着された際における、シール面４２とシール材１との摺動抵抗について、図４および図５を基に説明する。
ここで、図４は、本発明のシール材がシール溝に装着され、シール材がシール面と当接している状態を示した断面図である。また、図５は、図４に示した状態において、シール材にその側方から流体圧力が作用した状態を示した断面図である。
【００４７】
先ず、図４に示した状態において、シール面４２と当接するシール材１には、シール面４２から図中の矢印Ｆに示した方向に押圧力Ｆが作用している。そして、シール溝３２の底面３４に押し付けられた弾性部材１０が変形し、その弾性復元力Ｒによって、シール材１がシール面４２に押し付けられている。
【００４８】
この際、本発明のシール材１は、上述したように、シール溝３２に装着された際に、弾性部材１０のリップ部１６ｌ、１６ｒの先端部がシール溝３２の底面３４と当接するように構成されている。そして、シール材１に押圧力Ｆが作用した際には、リップ部１６ｌ、１６ｒが外側に拡がるように変形するとともに、本体部１８も圧縮変形するため、上述した従来のシール材１００と比べて圧縮変形し易くなっている。したがって、上述した従来のシール材１００と比べてその弾性復元力Ｒが小さくなっており、シール材１とシール面４２との摺動抵抗も小さくなっている。
【００４９】
また、上述したように、シール面４２と当接するシール部材２０の上面２２ａには、その両端部にテーパー２３ｌ、２３ｒが形成されている。したがって、シール材１とシール面４２との当接面積が小さくなっており、これにより、シール材１とシール面４２との摺動抵抗がより小さくなっている。
【００５０】
次に、図５に示した状態において、シール溝３２に装着されたシール材１には、図中の左側から流体圧力Ｐが作用している。そして、ハウジング３０とロッド４０との間が、高圧空間３５ａと低圧空間３５ｂの２つの空間に隔てられている。
【００５１】
また、この流体圧力Ｐにより、シール材１がシール溝３２の側面３８ｒに押し付けられるとともに、高圧空間３５ａ側のリップ部１６ｌが、シール溝３２の底面に押し付けられる。また、シール溝３２の側面３８ｒに押し付けられた低圧空間３５ｂ側のリップ部１６ｒは、凹所１９に倒れ込むように変形している。
【００５２】
この際、本発明のシール材１では、上述したように、弾性部材１０とシール部材２０との低圧空間３５ｂ側の接合部１５が、シール溝３２の開口端部３６よりも下方に位置するように構成されている。よって、シール部材２０の側面２４ｒがシール溝３２の開口端部３６と当接し、ハウジング３０とロッド４０との間を塞ぐような形になるため、弾性部材１０がハウジング３０とロッド４０との間にはみ出したりすることがない。したがって、従来のシール材１００のようにバックアップリングなどの補助部材を併用せずとも、高圧条件下で使用することが可能となり、部品点数を少なくでき、コストを低減できる他、装着性に優れたシール材１とすることができる。
【００５３】
また、上述したように、流体圧力Ｐによって高圧空間３５ａ側のリップ部１６ｌがシール溝３２の底面に押し付けられるため、シール材１が安定した状態でシール溝３２に保持される。
【００５４】
また、本発明のシール材１では、上述したように、中心線ＣＬを境界として左右方向に線対称形状に形成されている。このように左右方向に線対称形状に形成されていれば、例えばピストン４０の移動に応じて、高圧空間３５ａと低圧空間３５ｂとが交互に入れ替わるような油圧機器に対しても、本発明のシール材１を好適に用いることができる。また、左右方向に線対称形状となるように形成されていれば、装着方向を間違えることがないため、シール材１の装着性がより一層向上する。
【００５５】
以上のとおり、本発明のシール材１によれば、従来のシール材１００と比べてシール面４２との摺動抵抗を小さくすることができ、シール材の長寿命化を図ることができる。また、シール面４２との摺動抵抗を小さくすることで、ロッド４０などの摺動・回転する部材の低トルク化を図ることできる。
【００５６】
次に、本発明の別の実施形態のシール材１について、図６〜図８に基づいて説明する。ここに、図６は、本発明の別の実施形態のシール材の断面を拡大して示した拡大断面図、図７は、本発明の別の実施形態のシール材をシール溝に装着した状態を示した断面図、図８は、本発明の別の実施形態のシール材が、シール溝に装着され、装着体と相手側部材との間を圧力差のある２つの空間に隔てている状態を示した断面図である。
【００５７】
この別の実施形態のシール材１は、上述した実施形態のシール材１と基本的に同様な構成を有しており、同一の構成部材には同一の符号を付して、その詳細な説明を省略する。
図６に示したように、この別の実施形態のシール材１は、その弾性部材１０の左右の側面１４ｌ、１４ｒが、外側下方に延伸するように形成されている。そして、弾性部材１０の左右のリップ部１６ｌ、１６ｒは、この左右の側面１４ｌ、１４ｒと連続して、外側下方に延伸している。また、この別の実施形態における弾性部材１０のリップ部１６ｌ、１６ｒの傾斜角度θは、上述した実施形態と同様に約４５°に形成されている。
【００５８】
また、この別の実施形態のシール材１では、その断面幅Ｂと断面高Ｈとの比が約２：３となっている。これに対して、図３に示した、上述した実施形態では、その断面幅Ｂと断面高Ｈとの比が約１：１となっており、本実施形態のシール材１の方が、上述した実施形態よりも、シール材１の断面形状が縦長にコンパクトに形成されている。
【００５９】
このように構成されているシール材１であっても、上述した実施形態のシール材１と同様に作用する。すなわち、図７に示したように、シール材１に押圧力Ｆが作用した際に、リップ部１６ｌ、１６ｒが外側に拡がるように変形するとともに、本体部１８も圧縮変形するため、上述した従来のシール材１００と比べて圧縮変形し易くなっており、シール材１とシール面４２との摺動抵抗も小さくなっている。
【００６０】
また、上シール面４２と当接するシール部材２０の上面２２ａには、その両端部にテーパー２３ｌ、２３ｒが形成されており、シール材１とシール面４２との当接面積が小さくなっているため、シール材１とシール面４２との摺動抵抗がより小さくなっている。
【００６１】
また、図８に示したように、流体圧力Ｐが作用した場合でも、弾性部材１０とシール部材２０との低圧空間３５ｂ側の接合部１５が、シール溝３２の開口端部３６よりも下方に位置するように構成されているため、弾性部材１０がハウジング３０とロッド４０との間にはみ出したりすることがないようになっている。
【００６２】
また、流体圧力Ｐによって高圧空間３５ａ側のリップ部１６ｌがシール溝３２の底面に押し付けられるため、シール材１が安定した状態でシール溝３２に保持されるようになっている。
【００６３】
以上、本発明の好ましい実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されない。本発明の目的を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
例えば、上述した実施形態では、弾性部材１０に２つのリップ部１６ｌ、１６ｒが形成されていた。しかしながら、本発明のシール材１はこれに限定されず、例えば、図９Ａに示したように、弾性部材１０に１つのリップ部１６ｌが形成されていてもよい。この際、１つだけ形成されるリップ部１６ｌが高圧空間３５ａ側に形成されていれば、上述したように、流体圧力Ｐによってリップ部１６ｌがシール溝３２の底面に押し付けられ、シール材１が安定した状態でシール溝３２に保持されるため、好ましい。
【００６４】
また、上述した実施形態では、弾性部材１０の上面１２ａは略水平に形成されるとともに、シール部材２０の下面２２ｂも略水平に形成されていた。しかしながら、本発明のシール材１はこれに限定されず、例えば、図９Ｂに示したように、弾性部材１０の上面１２ａが断面略凸状に形成されるとともに、シール部材２０の下面２２ｂは断面略凹状に形成され、その両者が嵌合するように構成されていてもよい。この際、弾性部材１０とシール部材２０との低圧空間３５ｂ側の接合部１５が、シール溝３２の開口端部３６よりも下方に位置するように構成されていれば、上述したように、弾性部材１０がハウジング３０とロッド４０との間にはみ出したりすることがないため、好ましい。
【００６５】
また、上述した実施形態では、ハウジング３０の内周面に形成されたシール溝３２に、シール材１を装着する場合を例に説明したが、本発明のシール材１はこれに限定されず、例えば、ロッド４０の外周面に形成されたシール溝に装着するようにシール材１を構成することも可能である。この場合、上述した実施形態では、シール材１の外周側に弾性部材１０が位置し、内周側にシール部材２０が位置するように構成されていたが、それを逆向きに、すなわち、外周側にシール部材２０が、内周側に弾性部材１０が位置するように、シール材１を構成すればよい。
【００６６】
また、上述した実施形態では、シール材１によってハウジング３０とロッド４０との間を圧力差のある２つの空間に隔てる場合を例に説明したが、本発明のシール材１はこれに限定されず、圧力差のない２つの空間を隔てる場合にも使用することができる。
【符号の説明】
【００６７】
１ シール材
１０ 弾性部材
１２ａ 上面
１４ｌ、１４Ｒ 側面
１５ 接合部
１６ｌ、１６Ｒ リップ部
１７ 凸部
１８ 本体部
１９ 凹所
２０ シール部材
２２ａ 上面
２２ｂ 下面
２３ｌ、２３Ｒ テーパー
２４ｌ、２４ｒ 側面
３０ 装着体（ハウジング）
３２ シール溝
３４ 底面
３５ａ 高圧空間
３５ｂ 低圧空間
３６ 開口端部
３８ｒ 側面
４０ 相手側部材（ロッド）
４２ シール面
１００ シール材
１１０ Ｏリング
１１５ バックアップリング
１２０ シール部材
１３０ シリンダ
１３２ シール溝
１３５ａ 高圧空間
１３５ｂ 低圧空間
１４０ ピストン
１４２ シール面
【特許請求の範囲】
【請求項１】
装着体に形成されたシール溝に装着され、相手側部材のシール面と当接することで、装着体と相手側部材との間を封止するシール材であって、
弾性材料から形成された弾性部材と、該弾性部材よりも低摩擦性の材料から形成されるとともに、該弾性部材の上面に接合されたシール部材と、を備え、
前記弾性部材には、外側下方に延伸するリップ部が形成されており、
前記シール溝に装着された際に、前記弾性部材のリップ部がシール溝の底面と当接するとともに、前記シール部材の上面が前記シール面と当接するように構成されていることを特徴とするシール材。
【請求項２】
前記シール部材の上面において、その断面両端部の内の少なくともいずれか一方にテーパーが付されていることを特徴とする請求項１に記載のシール材。
【請求項３】
前記シール材は、
装着体に形成されたシール溝に装着され、相手側部材のシール面と当接することで、装着体と相手側部材との間を圧力差のある２つの空間に隔てるものであることを特徴とする請求項１または２に記載のシール材。
【請求項４】
前記シール溝に装着され、相手側部材のシール面と当接した際において、
少なくとも、低圧空間側に形成されている前記弾性部材とシール部材との接合部が、前記シール溝の開口端部よりも下方に位置するように構成されていることを特徴とする請求項３に記載のシール材。
【請求項５】
前記弾性部材のリップ部が、少なくとも、前記シール溝に装着された際における高圧空間側に形成されていることを特徴とする請求項３または４に記載のシール材。
【請求項６】
前記シール材の断面が、左右方向に線対称形状となるように形成されていることを特徴とする請求項１から５のいずれかに記載のシール材。
【請求項１】
装着体に形成されたシール溝に装着され、相手側部材のシール面と当接することで、装着体と相手側部材との間を封止するシール材であって、
弾性材料から形成された弾性部材と、該弾性部材よりも低摩擦性の材料から形成されるとともに、該弾性部材の上面に接合されたシール部材と、を備え、
前記弾性部材には、外側下方に延伸するリップ部が形成されており、
前記シール溝に装着された際に、前記弾性部材のリップ部がシール溝の底面と当接するとともに、前記シール部材の上面が前記シール面と当接するように構成されていることを特徴とするシール材。
【請求項２】
前記シール部材の上面において、その断面両端部の内の少なくともいずれか一方にテーパーが付されていることを特徴とする請求項１に記載のシール材。
【請求項３】
前記シール材は、
装着体に形成されたシール溝に装着され、相手側部材のシール面と当接することで、装着体と相手側部材との間を圧力差のある２つの空間に隔てるものであることを特徴とする請求項１または２に記載のシール材。
【請求項４】
前記シール溝に装着され、相手側部材のシール面と当接した際において、
少なくとも、低圧空間側に形成されている前記弾性部材とシール部材との接合部が、前記シール溝の開口端部よりも下方に位置するように構成されていることを特徴とする請求項３に記載のシール材。
【請求項５】
前記弾性部材のリップ部が、少なくとも、前記シール溝に装着された際における高圧空間側に形成されていることを特徴とする請求項３または４に記載のシール材。
【請求項６】
前記シール材の断面が、左右方向に線対称形状となるように形成されていることを特徴とする請求項１から５のいずれかに記載のシール材。
【図１】
【図２】
【図３】
【図４】
【図５】
【図６】
【図７】
【図８】
【図９Ａ】
【図９Ｂ】
【図１０】
【図１１】
【図２】
【図３】
【図４】
【図５】
【図６】
【図７】
【図８】
【図９Ａ】
【図９Ｂ】
【図１０】
【図１１】
【公開番号】特開２０１２−１５４３８８（Ｐ２０１２−１５４３８８Ａ）
【公開日】平成２４年８月１６日（２０１２．８．１６）
【国際特許分類】
【出願番号】特願２０１１−１２７５１（Ｐ２０１１−１２７５１）
【出願日】平成２３年１月２５日（２０１１．１．２５）
【出願人】（０００２２９５６４）日本バルカー工業株式会社 (145)
【Ｆターム（参考）】
【公開日】平成２４年８月１６日（２０１２．８．１６）
【国際特許分類】
【出願日】平成２３年１月２５日（２０１１．１．２５）
【出願人】（０００２２９５６４）日本バルカー工業株式会社 (145)
【Ｆターム（参考）】
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