説明

シール構造体を備えた回転装置

【課題】廻り止め構造を必要としなくても、ゴム製環状部材が磨耗やむしれが発生することを防止できるシール構造体を備えた回転装置を提供する。
【解決手段】シール部材120を樹脂製環状部材120aの環状収容室120c内にゴム製環状部材120bを配置した構造とする。これにより、ゴム製環状部材120bが駆動軸54に直接接しない構造にでき、シール部材120の廻り止め構造を必要としなくても、ゴム製環状部材120bの磨耗やむしれが発生することを防止できる。また、第1、第2連通孔120e、120fを備えることで、環状収容室120cのうちゴム製環状部材120bによって区画された両区画室120k、120mにブレーキ液圧が印加されるようにする。これにより、ゴム製環状部材120bが押されて弾性変形し、その弾性力により樹脂製環状部材120aを押し広げる。これにより、高い押圧力に基づくセルフシールを行うことが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シール構造体を備えた回転装置に関するものであり、例えばブレーキ装置に備えられる回転式ポンプの駆動軸と回転式ポンプを収容するケースとの間に備えられ、駆動軸とケースとの間からのブレーキ液漏れを防止するためのシール構造体が備えられる回転式ポンプ装置に用いると好適である。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1において、回転式ポンプが備えられたブレーキ装置が開示されている。図6は、この従来のブレーキ装置に備えられた回転式ポンプを含むポンプ本体の断面図である。この図に示されるように、回転式ポンプJ1、J2を駆動するための駆動軸J3と回転式ポンプJ1、J2を収容するケースJ4と間に樹脂製環状部材J5a、J6aとゴム製環状部材J5b、J6bとを有するシール構造体J5、J6を配置し、これらシール構造体J5、J6によって、駆動軸J3とケースJ4との間のブレーキ液漏れを防止している。
【0003】
具体的には、シール構造体J5、J6は、樹脂製環状部材J5a、J6aが駆動軸J3に接し、かつ、ゴム製環状部材J5b、J6bがケースJ4側に接するように配置されている。そして、駆動軸J3と共に樹脂製環状部材J5a、J6aおよびゴム製環状部材J5b、J6bが回転すると、ゴム製環状部材J5b、J6bとケースJ4との摩擦が生じてゴム製環状部材J5b、J6bが磨耗したり、むしれたりするため、ケースJ4に対して樹脂製環状部材J5a、J6aおよびゴム製環状部材J5b、J6bが相対回転しない構造とされている。
【0004】
例えば、図7に示す図6のZ−Z矢視断面図のように、樹脂製環状部材J5aに固定される環状のカバーセパレータJ5cの外周に突起部J5dを設けると共に、ケースJ4のうちその突起部J5dと対応する部位にキー溝J4aを設けることによって樹脂製環状部材J5aがケースJ4に対して回転しない構造とされ、これにより、樹脂製環状部材J5aの外周に配置されるゴム製環状部材J5bもケースJ4に対して回転しない構造とされている。
【0005】
また、図6に示すように、シール構造体J6については、樹脂製環状部材J6aの廻り止めを行うピンJ6cが備えられている。この廻り止めによって樹脂製環状部材J6aがケースJ4に対して回転しない構造とされ、これにより、樹脂製環状部材J6aの外周に配置されるゴム製環状部材J6bもケースJ4に対して回転しない構造とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−278084号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記した駆動軸J3とケースJ4との間のシールを行うためのシール構造体J5、J6では、ゴム製環状部材J5b、J6bの磨耗やむしれを防止するために、駆動軸J3が回転してもシール構造体J5、J6が回転しないように、廻り止め構造が必要となる。このため、シール構造体J5、J6の構造を複雑化させていると共に、部品点数を増大させ、ひいてはコスト高になっているという問題がある。
【0008】
本発明は上記点に鑑みて、廻り止め構造を必要としなくても、ゴム製環状部材が磨耗やむしれが発生することを防止できるシール構造体を備えた回転装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、軸(54)と密着する軸側シール面と、ケース(71b、71d)と密着するケース側シール面とを有し、かつ、軸側シール面とケース側シール面との間に環状収容室(120c、122c)が備えられた樹脂製環状部材(120a、122a)と、樹脂製環状部材(120a、122a)における環状収容室(120c、122c)内に配置され、該環状収容室(120c、122c)の内周側および外周側それぞれの内壁面(120i、122i)に密着することで、環状収容室(120c、122c)を区画した区画室(120k、120m、122k、122m)を形成するゴム製環状部材(120b、122b)とを有し、樹脂製環状部材(120a、122a)には、軸(54)とケース(71b、71d)との隙間のうちシール構造体(120、122)によって区画される両部位の一方と環状収容室(120c、122c)のうちゴム製環状部材(120b、122b)にて区画された両区画室(120k、120m、122k、122m)の一方とを連通させる第1連通孔(120e、122e)と、軸(54)とケース(71b、71d)との隙間のうちシール構造体(120、122)によって区画される両部位の他方と環状収容室(120c、122c)のうちゴム製環状部材(120b、122b)にて区画された両区画室(120k、120m、122k、122m)の他方とを連通させる第2連通孔(120f、122f)とが形成されていることを特徴としている。
【0010】
このように、樹脂製環状部材(120a、122a)の環状収容室(120c、122c)内にゴム製環状部材(120b、122b)を配置したシール構造体(120、122)としている。このため、ゴム製環状部材(120b、122b)が駆動軸(54)に直接接しない構造とすることが可能となり、シール部材(120、122)の廻り止め構造を必要としなくても、ゴム製環状部材(120b、122b)の磨耗やむしれが発生することを防止できるシール構造体とすることが可能となる。
【0011】
また、第1、第2連通孔(120e、122e、120f、122f)のいずれか一方を通じて環状収容室(120c、122c)うちゴム製環状部材(120b、122b)によって区画された両区画室(120k、120m、122k、122m)の少なくとも一方に液圧が印加されると、ゴム製環状部材(120b、122b)が押されて弾性変形し、その弾性力により樹脂製環状部材(120a、122a)を押し広げる。このため、ブレーキ液圧が印加されたときには、シール構造体(120、122)によって、より高い押圧力に基づくセルフシールを行うことが可能となり、シール性を向上させることが可能となる。
【0012】
請求項2に記載の発明では、第1、第2連通孔(120e、120f、122e、122f)のうちの一方のみが環状の挿入口(120j、122j)を構成し、この挿入口(120j、122j)からゴム製環状部材(120b、122b)が環状収容室(120c、122c)内に収容されていることを特徴としている。
【0013】
このように、第1、第2連通孔(120e、120f、122e、122f)のうちの一方によって環状の挿入口(120j、122j)を構成し、そこからゴム製環状部材(120b、122b)を環状収容室(120c、122c)内に容易に収容することができるため、構造を簡素とすることができる。
【0014】
この場合、請求項3に記載したように、樹脂製環状部材(120a、122a)のうち環状収容室(120c、122c)を構成する内壁面(120i、122i)が、ゴム製環状部材(120b、122b)から離れるほど環状収容室(120c、122c)が径方向に狭くなるテーパ面(120g、120h、122g、122h)とされていると好ましい。
【0015】
このように、環状収容室(120c、122c)の内壁面(120i、122i)にテーパ面(120g、122g、120h、122h)を設けるとシール対象の流体圧力によるゴム製環状部材(120b、122b)の移動により、ゴム製環状部材(120b、122b)をより弾性変形させることができる。このため、ブレーキ液圧が印加されたときには、シール構造体(120、122)によって、より高い押圧力に基づくセルフシールを行うことが可能となり、さらにシール性を向上させることが可能となる。そして、このようなテーパ面(120g、122g、120h、122h)を両区画室(120k、120m、122k、122m)に設けた場合は、例えば両区画室(120k、120m、122k、122m)のブレーキ液圧の高低が逆転を繰り返すような圧力脈動が生じても、シール性をより好適に高く維持することが可能となる。また、ゴム製環状部材(120b、122b)の樹脂製環状部材(120a、120b)からの脱落防止の効果もある。
【0016】
請求項4に記載の発明では、樹脂製環状部材(120a、122a)のうち挿入口(120j、122j)側の外周面には凸部(120d、122d)が形成されており、中心孔(72b、72d)に挿入することにより、凸部(120d、122d)が内側に押されることで挿入口(120j、122j)が押し縮められ、挿入口(120j、122j)側のテーパ面(120h、122h)が形成されていることを特徴としている。
【0017】
このような構造とすれば、シール構造体(120、122)を中心孔(72b、72d)に挿入するまでは挿入後よりも樹脂製環状部材(120a、122a)における環状収容室(120c、122c)の挿入口(120j、122j)の開口幅を広くしておくことができる。このため、容易にゴム製環状部材(120b、122b)を環状収容室(120c、122c)内に挿入できる。そして、その後、ゴム製環状部材(120b、122b)と共に樹脂製環状部材(120a、122a)を組付ければ、凸部(120d、122d)が内側に押されることで挿入口(120j、122j)が押し縮められ、挿入口(120j、122j)側のテーパ面(120h、122h)を容易に形成することができる。
【0018】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1実施形態にかかる回転式ポンプ装置を適用した車両用ブレーキ装置1のブレーキ配管概略図である。
【図2】回転式ポンプ19、39を含むポンプ本体100の断面図である。
【図3】図2のA−A断面図である。
【図4】ポンプ本体100に組付けられているシール部材120を示した断面図である。
【図5】シール部材120の組付け前の様子を示した断面図である。
【図6】従来のブレーキ装置に備えられた回転式ポンプを含むポンプ本体の断面図である。
【図7】図6のZ−Z矢視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付して説明する。
【0021】
(第1実施形態)
以下、本発明を図に示す実施形態について説明する。図1に、本発明の一実施形態にかかる回転装置である回転式ポンプ装置が適用された車両用ブレーキ装置1のブレーキ配管概略図を示す。以下、車両用ブレーキ装置1の基本構成を図1に基づいて説明する。ここでは前輪駆動の4輪車において、前後配管の油圧回路を構成する車両に本発明による車両用ブレーキ装置1を適用した例について説明するが、右前輪−左後輪、左前輪−右後輪の各配管系統を備えるX配管などにも適用可能である。
【0022】
図1において、ドライバがブレーキ操作部材としてのブレーキペダル11を踏み込むと、倍力装置12にて踏力が倍力され、マスタシリンダ(以下、M/Cという)13に配設されたマスタピストン13a、13bを押圧する。これにより、これらマスタピストン13a、13bによって区画されるプライマリ室13cとセカンダリ室13dとに同圧のM/C圧が発生する。M/C圧は、ブレーキ液圧制御用アクチュエータ50を通じて各ホイールシリンダ(以下、W/Cという)14、15、34、35に伝えられる。このM/C13には、プライマリ室13cおよびセカンダリ室13dそれぞれと連通する通路を有するマスタリザーバ13eが備えられている。
【0023】
ブレーキ液圧制御用アクチュエータ50は、第1配管系統50aと第2配管系統50bとを有している。第1配管系統50aは、左前輪FLと右前輪FRに加えられるブレーキ液圧を制御し、第2配管系統50bは、右後輪RRと左後輪RLに加えられるブレーキ液圧を制御する。
【0024】
第1配管系統50aと第2配管系統50bとは、同様の構成であるため、以下では第1配管系統50aについて説明し、第2配管系統50bについては説明を省略する。
【0025】
第1配管系統50aは、上述したM/C圧を左前輪FLに備えられたW/C14および右前輪FRに備えられたW/C15に伝達し、W/C圧を発生させる主管路となる管路Aを備える。
【0026】
また、管路Aは、連通状態と差圧状態に制御できる第1差圧制御弁16を備えている。この第1差圧制御弁16は、ドライバがブレーキペダル11の操作を行う通常ブレーキ時(車両運動制御が実行されていない時)には連通状態となるように弁位置が調整されており、第1差圧制御弁16に備えられるソレノイドコイルに電流が流されると、この電流値が大きいほど大きな差圧状態となるように弁位置が調整される。
【0027】
この第1差圧制御弁16が差圧状態のときには、W/C14、15側のブレーキ液圧がM/C圧よりも所定以上高くなった際にのみ、W/C14、15側からM/C13側へのみブレーキ液の流動が許容される。このため、常時W/C14、15側がM/C13側よりも所定圧力以上高くならないように維持される。
【0028】
管路Aは、この第1差圧制御弁16よりも下流になるW/C14、15側において、2つの管路A1、A2に分岐する。管路A1にはW/C14へのブレーキ液圧の増圧を制御する第1増圧制御弁17が備えられ、管路A2にはW/C15へのブレーキ液圧の増圧を制御する第2増圧制御弁18が備えられている。
【0029】
第1、第2増圧制御弁17、18は、連通・遮断状態を制御できる2位置電磁弁により構成されている。具体的には、第1、第2増圧制御弁17、18は、第1、第2増圧制御弁17、18に備えられるソレノイドコイルへの制御電流がゼロとされる時(非通電時)には連通状態となり、ソレノイドコイルに制御電流が流される時(通電時)に遮断状態に制御されるノーマルオープン型となっている。
【0030】
管路Aにおける第1、第2増圧制御弁17、18および各W/C14、15の間と調圧リザーバ20とを結ぶ減圧管路としての管路Bには、連通・遮断状態を制御できる2位置電磁弁により構成される第1減圧制御弁21と第2減圧制御弁22とがそれぞれ配設されている。これら第1、第2減圧制御弁21、22は、第1、第2減圧制御弁21、22に備えられるソレノイドコイルへの制御電流がゼロとされる時(非通電時)には遮断状態となり、ソレノイドコイルに制御電流が流される時(通電時)に連通状態に制御されるノーマルクローズ型となっている。
【0031】
調圧リザーバ20と主管路である管路Aとの間には還流管路となる管路Cが配設されている。この管路Cには調圧リザーバ20からM/C13側あるいはW/C14、15側に向けてブレーキ液を吸入吐出するモータ60によって駆動される自吸式のポンプ19が設けられている。モータ60は図示しないモータリレーに対する通電が制御されることで駆動される。
【0032】
そして、調圧リザーバ20とM/C13の間には補助管路となる管路Dが設けられている。この管路Dを通じ、ポンプ19にてM/C13からブレーキ液を吸入し、管路Aに吐出することで、車両運動制御時において、W/C14、15側にブレーキ液を供給し、対象となる車輪のW/C圧を加圧する。なお、ここでは第1配管系統50aについて説明したが、第2配管系統50bも同様の構成であり、第1配管系統50aに備えられた各構成と同様の構成を第2配管系統50bも備えている。具体的には、第1差圧制御弁16と対応する第2差圧制御弁36、第1、第2増圧制御弁17、18と対応する第3、第4増圧制御弁37、38、第1、第2減圧制御弁21、22と対応する第3、第4減圧制御弁41、42、ポンプ19と対応するポンプ39、リザーバ20と対応するリザーバ40、管路A〜Dと対応する管路E〜Hがある。
【0033】
また、ブレーキECU70は、ブレーキ制御システム1の制御系を司るもので、CPU、ROM、RAM、I/Oなどを備えた周知のマイクロコンピュータによって構成され、ROMなどに記憶されたプログラムに従って各種演算などの処理を実行し、横滑り防止制御等の車両運動制御を実行する。すなわち、ブレーキECU70は、図示しないセンサ類の検出信号に基づいて各種物理量を演算し、その演算結果に基づいて車両運動制御を実行すか否かを判定し、実行する際には、制御対象輪に対する制御量、すなわち制御対象輪のW/Cに発生させるW/C圧を求める。その結果に基づいて、ブレーキECU70が各制御弁16〜18、21、22、36〜38、41、42への電流供給制御およびポンプ19、39を駆動するためのモータ60の電流量制御を実行することで、制御対象輪のW/C圧が制御され、車両運動制御が行われる。
【0034】
例えば、トラクション制御や横滑り防止制御のようにM/C13に圧力が発生させられていないときには、ポンプ19、39を駆動すると共に、第1、第2差圧制御弁16、36を差圧状態にすることで、管路D、Hを通じてブレーキ液を第1、第2差圧制御弁16、36の下流側、つまりW/C14、15、34、35側に供給する。そして、第1〜第4増圧制御弁17、18、37、38や第1〜第4減圧制御弁21、22、41、42を適宜制御することで制御対象輪のW/C圧の増減圧を制御し、W/C圧が所望の制御量となるように制御する。
【0035】
また、アンチスキッド(ABS)制御時には、第1〜第4増圧制御弁17、18、37、38や第1〜第4減圧制御弁21、22、41、42を適宜制御すると共に、ポンプ19、39を駆動することでW/C圧の増減圧を制御し、W/C圧が所望の制御量となるように制御する。
【0036】
次に、上記のように構成される車両用ブレーキ装置1における回転式ポンプ装置の構成、つまり回転式ポンプ19、39の詳細構造について説明する。図2は、回転式ポンプ19、39を含むポンプ本体100の断面図である。この図は、ポンプ本体100をブレーキ液圧制御用アクチュエータ50のハウジング101に組付けたときの様子を示しており、例えば、紙面上下方向が車両天地方向となるように組付けられる。
【0037】
上述したように、車両用ブレーキ装置1は、第1配管系統50aと第2配管系統50bの2系統から構成されている。このため、ポンプ本体100には図1および図2に示された第1配管系統用の回転式ポンプ19と、図2に示された第2配管系統用の回転式ポンプ39の2つが備えられている。
【0038】
ポンプ本体100に内蔵される回転式ポンプ19、39は、モータ60が第1ベアリング51および第2ベアリング52で支持された駆動軸54を回転させることによって駆動される。ポンプ本体100の外形を構成するケーシングは、第1、第2、第3、第4シリンダ71a、71b、71c、71dおよび円筒状の第1、第2中央プレート73a、73bによって構成されており、第1ベアリング51は第1シリンダ71aに配置され、第2ベアリング52は第3シリンダ71cに配置されている。
【0039】
第1シリンダ71a、第1中央プレート73a、第2シリンダ71b、第2中央プレート73b、第3シリンダ71cが順に重ねられ、重なり合う部分の外周が溶接されることで接合されている。そして、これら溶接されてユニット化された部分が第1ケースとなる。また、第1ケースに含まれていない第4シリンダ71dを第2ケースとして、第1ケースと第2ケースとの間に皿バネ200を挟むようにしつつ、第1ケースおよび第2ケースが同軸的に配置されている。このようにして一体構造のポンプ本体100が構成されている。
【0040】
そして、一体構造とされたポンプ本体100が、ブレーキ液圧制御用アクチュエータ50のハウジング101に形成された略円筒形状の凹部101a内に紙面左方向から挿入されている(以下、このポンプ本体100のハウジング101の凹部101aへの挿入方向のことを単に挿入方向という)。
【0041】
そして、凹部101aの入口に掘られた雌ネジ溝101bにリング状の雄ネジ部材(スクリュー)102がネジ締めされて、ポンプ本体100がハウジング101に固定されている。この雄ネジ部材102のネジ締めによってポンプ本体100がハウジング101から抜けない構造とされている。
【0042】
また、挿入方向の先端位置のうち駆動軸54の先端と対応する位置において、ハウジング101の凹部101aに円形状の第2の凹部101cが形成されている。この第2の凹部101c内に第1ベアリング51のうち第1シリンダ71aの挿入方向前方側の端面(前方端面)から突出する部分が入り込み、凹部101aの底面うち第2の凹部101c以外の部分が第1シリンダ71aの端面と対向する構造となる。
【0043】
また、第1〜第4シリンダ71a〜71dには、それぞれ第1、第2、第3、第4中心孔72a、72b、72c、72dが形成されている。これら第1〜第4中心孔72a〜72d内に駆動軸54が挿入され、第1シリンダ71aに形成された第1中心孔72aの内周に固定された第1ベアリング51と第3シリンダ71cに形成された第3中心孔72cの内周に固定された第2ベアリング52にて支持されている。第1、第2ベアリング51、52にはどのような構造のベアリングを適用しても良いが、本実施形態では、ボールベアリングを用いている。
【0044】
具体的には、第1ベアリング51は、内輪51aと外輪51bおよび転動体51cを備えた構成とされ、駆動軸54が内輪51aの穴内に嵌め込まれることで駆動軸54を軸支している。第1ベアリング51は、第1シリンダ71aの中心孔72aが挿入方向前方において第1ベアリング51の外径と対応する寸法に拡径されていることから、この拡径された部分において第1シリンダ71aに固定されている。
【0045】
また、第2ベアリング52は、内輪52a、外輪52bおよび転動体52cを備えた構成とされ、外輪52bが第3シリンダ71cの中心孔72d内に圧入されることによって固定されている。この第2ベアリング52の内輪52aの穴内に駆動軸54が嵌め込まれることで、駆動軸54が軸支されている。ただし、駆動軸54が第2ベアリング52の内輪52a内において軸方向に移動可能なように、遊嵌合とされている。
【0046】
そして、第1、第2ベアリング51、52に挟まれた領域に、回転式ポンプ19、39が備えられている。図3に図2のA−A断面図を示し、回転式ポンプ19、39の詳細構造について説明する。
【0047】
回転式ポンプ19は、円筒状の第1中央プレート73aの両側を第1シリンダ71aおよび第2シリンダ71bで挟み込んで形成されたロータ室(第1ロータ室)100a内に配置されており、ロータ室100a内に挿通された駆動軸54によって駆動される内接型ギアポンプ(トロコイドポンプ)で構成されている。
【0048】
具体的には、回転式ポンプ19は、内周に内歯部が形成されたアウターロータ19aと外周に外歯部が形成されたインナーロータ19bとからなる回転部を備えており、インナーロータ19bの中心にある孔内に駆動軸54が挿入された構成となっている。そして、駆動軸54に形成された穴54a内にキー54bが嵌入されており、このキー54bによってインナーロータ19bへのトルク伝達がなされる。
【0049】
アウターロータ19aとインナーロータ19bは、それぞれに形成された内歯部と外歯部とが噛み合わさって複数の空隙部19cを形成している。そして、駆動軸54の回転によって空隙部19cが大小変化することで、ブレーキ液の吸入吐出が行われる。
【0050】
一方、回転式ポンプ39は、円筒状の第2中央プレート73bの両側を第2シリンダ71bおよび第3シリンダ71cで挟み込んで形成されたロータ室(第2ロータ室)100b内に配置されており、ロータ室100b内に挿通される駆動軸54にて駆動される。回転式ポンプ39も、回転式ポンプ19と同様にアウターロータ39aおよびインナーロータ39bを備え、これらの両歯部が噛み合わさって形成される複数の空隙部39cにてブレーキ液の吸入吐出を行う内接型ギアポンプで構成されている。この回転式ポンプ39は、駆動軸54を中心として回転式ポンプ19をほぼ180°回転させた配置となっている。このように配置することで、回転式ポンプ19、39のそれぞれの吸入側の空隙部19c、39cと吐出側の空隙部19c、39cとが駆動軸54を中心として対称位置となるようにし、吐出側における高圧なブレーキ液圧が駆動軸54に与える力を相殺できるようにしている。
【0051】
ただし、ここでは回転式ポンプ19と回転式ポンプ39との吸入と吐出の位置関係を正確に反対にした訳ではなく、回転式ポンプ19の吐出タイミングと回転式ポンプ39の吐出タイミングとの位相が180°ずれるようにしてある。すなわち、回転式ポンプ19の回転に伴って空隙部19cが後述する吐出口81に繋がるタイミングと、回転式ポンプ39の回転に伴って空隙部39cが後述する吐出口82に繋がるタイミングとが同時ではなく、180°位相がずらされている。このようにすることで、ポンプ本体100内でのブレーキ液の圧力脈動を回転式ポンプ19と回転式ポンプ39との間において相殺することが可能となり、より脈動低減を図ることが可能となる。
【0052】
第1シリンダ71aには、回転式ポンプ19の吸入側の空隙部19cと連通する吸入口80が備えられている。吸入口80は、第1シリンダ71aの回転式ポンプ19側の端面から反対側の端面まで貫通するように形成されている。この吸入口80は、ハウジング101に対して凹部101aの底面に至るように形成された吸入用管路90に接続されている。このため、回転式ポンプ19は、吸入用管路90および吸入口80を通じてポンプ本体100における凹部101aの底部側からブレーキ液を吸入する構造となる。
【0053】
第2シリンダ71bには、回転式ポンプ19の吐出側の空隙部19cと連通する吐出口81が形成されている。この吐出口81は、第2シリンダ71bのうち回転式ポンプ19側の端面から外周面に至るように延設されている。そして、吐出口81は、ハウジング101に対して凹部101aの内周面に沿って周方向を全周を囲むように形成された環状溝91aを介して、この環状溝91aの一部に繋がるように形成された吐出用管路91bに接続されている。このため、回転式ポンプ19は、吐出口81や環状溝91aおよび吐出用管路91bを通じてポンプ本体100の外周側からブレーキ液が排出される構造となる。より詳しくは、吐出口81は以下のように構成される。
【0054】
吐出口81には、第2シリンダ71bの回転式ポンプ19側の端面から外周面に至るように形成された部分に加えて、第2シリンダ71bのうち回転式ポンプ19の回転部側の端面において、駆動軸54を囲むように形成された環状溝110にて構成される通路も含まれる。
【0055】
具体的には、環状溝110内には、アウターロータ19aおよびインナーロータ19bを軸方向に押さえ込むように配置されたリング状のシール部材111が備えられている。シール部材111は、回転部側に配置された樹脂部材111aと、樹脂部材111aを回転部側に押圧するゴム部材111bとから構成されている。このシール部材111の内周側には、吸入側の空隙部19cおよび吸入側の空隙部19cに対向するアウターロータ19aの外周と第1中央プレート73aとの隙間が含まれ、シール部材111の外周側には、吐出側の空隙部19cおよび吐出側の空隙部19cに対向するアウターロータ19aの外周と第1中央プレート73aとの隙間が含まれるようにされている。すなわち、シール部材111によって、シール部材111の内外周の比較的低圧な部位と比較的高圧な部位とのシールが行われている。
【0056】
また、シール部材111は、環状溝110の内周と接し、外周とは一部しか接しないように構成されており、環状溝110のうちシール部材111よりも外周側の一部接しない部分は隙間となっている。つまり、環状溝110には、外周全周がシール部材111と接しないように構成された領域があり、この領域をブレーキ液が流動できるようになっている。このように構成された環状溝110の隙間を含めて吐出口81が構成されている。
【0057】
第2シリンダ71bにおける吐出口81が形成された端面と反対側の端面には、回転式ポンプ39における吐出側の空隙部39cと連通する吐出口82が備えられている。吐出口82は、第2シリンダ71bのうち回転式ポンプ39側の端面から外周面に至るように形成されている。そして、吐出口82は、ハウジング101に対して凹部101aの内周面に沿って周方向を全周囲むように形成された環状溝92aを介して、この環状溝92aの一部に繋がるように形成された吐出用管路92bに接続されている。このため、回転式ポンプ39は、吐出口82や環状溝92aおよび吐出用管路92bを通じてポンプ本体100の外周側からブレーキ液を排出する構造となる。より詳しくは、吐出口82は以下のように構成されている。
【0058】
吐出口82には、第2シリンダ71bの回転式ポンプ39側の端面から外周面に至るように形成された部分に加えて、第2シリンダ71bのうち回転式ポンプ39の回転部側の端面において、駆動軸54を囲むように形成された環状溝112にて構成される通路も含まれる。
【0059】
具体的には、環状溝112内には、アウターロータ39aおよびインナーロータ39bを押さえ込むように配置されたリング状のシール部材113が備えられている。このシール部材113は、回転部側に配置された樹脂部材113aと、樹脂部材113aを回転部側に押圧するゴム部材113bとから構成されている。このシール部材113の内周側には、吸入側の空隙部39cおよび吸入側の空隙部39cに対向するアウターロータ39aの外周と第2中央プレート73bとの隙間が含まれ、シール部材113の外周側には、吐出側の空隙部39cおよび吐出側の空隙部39cに対向するアウターロータ39aの外周と第2中央プレート73bとの隙間が含まれるようにされている。すなわち、シール部材113によって、シール部材113の内外周の比較的低圧な部位と比較的高圧な部位とがシールされるように構成されている。
【0060】
また、シール部材113は、環状溝112の内周と接し、外周とは一部しか接しないように構成されており、環状溝112のうちシール部材113よりも外周側の一部接しない部分は隙間となっている。つまり、環状溝112には、外周全周がシール部材113と接しないように構成された領域があり、この領域をブレーキ液が流動できるようになっている。このように構成された環状溝112の隙間を含めて吐出口82が構成されている。
【0061】
また、第3シリンダ71cには、回転式ポンプ39の吸入側の空隙部39cと連通する吸入口83が備えられている。吸入口83は、第3シリンダ71cのうちの回転式ポンプ39側の端面から反対側の端面(後方端面)まで貫通するように形成されている。この吸入口83は、第3シリンダ71cと第4シリンダ71dの間の隙間94を通じて、ハウジング101に対して凹部101aの内周面に沿って周方向を全周囲むように形成された環状溝93a、およびこの環状溝92aの一部に繋がるように形成された吸入用管路93bに接続されている。このため、回転式ポンプ39は、ポンプ本体100の外周面側から吸入用管路93b、環状管路93a、隙間94および吸入口83を通じてブレーキ液を吸入する構造となる。
【0062】
したがって、図2において、吸入用管路90および吐出用管路91bが図1における管路Cに相当し、吸入用管路93bおよび吐出用管路92bが図1における管路Gに相当する。
【0063】
また、第2シリンダ71bの第2中心孔72bは部分的に駆動軸54の外径より径大とされており、この径大とされた部位に、駆動軸54と第2シリンダ71bとの間の隙間をシールし、この隙間を区画することで回転式ポンプ19と回転式ポンプ39とを遮断するシール部材120が収容されている。具体的には、シール部材120は、第2シリンダ71bの第2中心孔72bに対して第1シリンダ71a側から挿入されており、その挿入方向後方に配置された規制リング121により、回転式ポンプ19に接する方向に移動することが規制されるようにして配置されている。同様に、第4シリンダ71dの第4中心孔72dも部分的に駆動軸54の外径より径大とされており、この径大とされた部位に、駆動軸54と第4シリンダ71dとの間の隙間をシールし、この隙間を区画することで回転式ポンプ39とハウジング101の外部とを遮断するシール部材122が収容されている。これら、シール部材120およびシール部材122が本発明の特徴となるシール構造体を構成するものであり、この詳細構造については後述する。
【0064】
さらに、シール部材122よりもモータ60側には、オイルシール(シール部材)123が備えられている。このような構成により、基本的には、シール部材122によって第4中心孔72dを通じた外部へのブレーキ液洩れを防止しつつ、オイルシール123により、より確実にその効果が得られるようにしている。
【0065】
また、第3シリンダ71cのうち第4シリンダ71d側では、内径が第4シリンダ71dの挿入方向先端側の外径よりも大きくされており、この部分に第4シリンダ71dの先端部が嵌め込まれている。そして、第4シリンダ71dの先端部のうち第3シリンダ71c内に嵌め込まれていない部分を囲むように皿バネ200が配置され、この皿バネ200によって第1ケースおよび第2ケースを軸方向に付勢し、第1、第2ケースの軸力を発生させている。
【0066】
このような構造により、第3シリンダ71cと第4シリンダ71dのうち互いに対向配置されている面の間に形成された隙間94を通じて回転式ポンプ39の吐出口83から排出されるブレーキ液が吐出用管路93側に導かれるようになっている。
【0067】
また、第1〜第4シリンダ71a〜71dのそれぞれの外周面にはOリング74a、74b、74c、74dが配置されている。これらOリング74a〜74dは、ハウジング101に形成された吸入用管路90、93bや吐出用管路91b、92bにおけるブレーキ液をシールするものであり、Oリング74aは吸入用管路90と吐出用管路91bの間、Oリング74bは吐出用管路91bと吐出用管路92bの間、Oリング74cは吐出用管路92bと吸入用管路93bの間、Oリング74dは吸入用管路93bとハウジング101の外部の間に配置されている。
【0068】
そして、第4シリンダ71dの凹み部分の入口側の先端の外周面は縮径されており、段付き部を構成している。上記したリング状の雄ネジ部材102はこの縮径された部分に嵌装され、ポンプ本体100が固定されるようになっている。これにより、駆動軸54が回転させられても、それに伴って第4シリンダ71dが回転してしまわないようにされている。
【0069】
以上のような構造によってポンプ本体100が構成されている。このように構成されたポンプ本体100では、内蔵された回転式ポンプ19、39が駆動軸54がモータ60の回転軸によって回転させられることにより、ブレーキ液の吸入・吐出というポンプ動作を行う。これにより、車両用ブレーキ装置1による車両運動制御が為される。
【0070】
次に、上記のような構成のポンプ本体100に備えられたシール部材120、122の詳細なシール構造について説明する。図4は、図2に示したポンプ本体100に組付けられているシール部材120を示した断面図である。また、図5は、シール部材120の組付け前の様子を示した断面図である。なお、ここでは、シール部材120の断面図を示したが、シール部材122の断面も同様であり、カッコ内に示した符号は、シール部材120の各部(あるいはその関連部材)と対応するシール部材122の各部(あるいはその関連部材)について、符号を付したものである。
【0071】
図4に示すシール部材120(122)は、樹脂製環状部材120a(122a)とゴム製環状部材120b(122b)とを有した構成とされている。
【0072】
樹脂製環状部材120a(122a)は、駆動軸54側となる内周壁を軸側シール面、第2シリンダ71b(シール部材122の場合は第4シリンダ71d)側となる外周壁をケース側シール面として駆動軸54や第2シリンダ71b(第4シリンダ71d)に密着させられる。この樹脂製環状部材120a(122a)における軸側シール面とケース側シール面との間には環状収容室120c(122c)が構成され、この環状収容室120c(122c)内にゴム製環状部材120b(122b)が収容されている。
【0073】
具体的には、樹脂製環状部材120a(122a)は、図5に示すように、組み付け前には、断面U字状とされ、軸方向における一方にのみゴム製環状部材120b(122b)を挿入するための環状の挿入口120j(122j)が形成された構造とされている。また、樹脂製環状部材120a(122a)には、第2シリンダ71bの中心孔72b(シール部材122の場合は第4シリンダ71dの中心孔72d)への挿入方向後方位置に前方位置よりも外径を広げた凸部120d(122d)が形成されている。そして、ゴム製環状部材120b(122b)と共に樹脂製環状部材120a(122a)を中心孔72bに挿入する際に凸部120d(122d)が中心孔72bの内壁面に接して押圧されることで、挿入口120j(122j)が内側に押し縮められ、ゴム製環状部材120b(122b)が環状収容室120c(122c)内に保持されるようになっている。
【0074】
また、押し縮められた挿入口120j(122j)が閉塞されないようにすること、もしくは、樹脂製環状部材120a(122a)の内壁面120i(122i)のうちの挿入口120j(122j)側にスリットを設けることにより、組付け後においても樹脂製環状部材120a(122a)のうちの挿入口120j(122j)側に第1連通孔120e(122e)が構成されるようにしている。この第1連通孔120e(122e)を通じて、環状収容室120c(122c)内のうちゴム製環状部材120b(122b)により区画された挿入口120j(122j)側の区画室120k(122k)と、シール部材120(122)によって区画された駆動軸54と第2シリンダ71b(シール部材122の場合は第4シリンダ71d)との間の隙間の両部位の一方とが連通させられている。
【0075】
同様に、樹脂製環状部材120a(122a)の挿入口120j(122j)とは反対側となる底面側(中心孔72bへの挿入方向前方側)にも第2連通孔120f(122f)が形成されている。第2連通孔120f(122f)は、周方向に等間隔に複数個備えられている。この第2連通孔120f(122f)を通じて環状収容室120c(122c)のうちゴム製環状部材120b(122b)により区画された底面側の区画室120m(122m)とシール部材120(122)によって区画された駆動軸54と第2シリンダ71b(シール部材122の場合は第4シリンダ71d)との間の隙間の両部位の他方とが連通させられている。
【0076】
さらに、環状収容室120c(122c)内において、樹脂製環状部材120a(122a)の内壁面120i(122i)のうちの底面側および挿口側は、ゴム製環状部材120b、122bから離れるほど環状収容室120c、122cが径方向に狭くなるテーパ面120g(122g)、120h、(122h)とされている。樹脂製環状部材120a(122a)の挿入口120j(122j)側のテーパ面120h、(122h)は、押し縮められた樹脂製環状部材120a(122a)の内壁面120i(122i)が傾斜することによって構成されている。なお、テーパ面は断面が直線形状のみならず曲線形状も含まれる。
【0077】
ゴム製環状部材120b(122b)は、環状収容室120c(122c)内においてゴム製環状部材120b(122b)により区画された両区画室120k、120m(122k、122m)間をシールする。ゴム製環状部材120b(122b)の径方向の幅(外径と内径の差)は、環状収容室120c(122c)内における同方向の樹脂製環状部材120a(122a)の内壁間寸法程度とされ、樹脂製環状部材120a(122a)の環状収容室120c(122c)内における内周壁面(駆動軸54側の壁面)および外周側壁面(駆動軸54と反対側の壁面)に接触させられることで、環状収容室120c(122c)内をシールしている。本実施形態では、ゴム製環状部材120b(122b)をOリングにて構成する場合について図示しているが、Xリング、Cリングなど、他のゴム製の環状シールでも良い。また、ゴム製環状部材120b(122b)は、少なくとも樹脂製環状部材120a(122a)と接する部分が外壁がゴム製とされていれば良く、例えば内部が軟性樹脂等で構成されていても良い。
【0078】
このようにして、シール部材120(122)が構成されている。このように構成されたシール部材120(122)は、樹脂製環状部材120a(122a)内にゴム製環状部材120b(122b)を配置した状態で中心孔72b(72d)内に挿入されると、樹脂製環状部材120a(122a)の内周壁の全周が駆動軸54に接し、かつ、外周壁の全周が第2(第4)シリンダ71b(71d)に接する。また、樹脂製環状部材120a(122a)の環状収容室120c(122c)内に配置されているゴム製環状部材120b(122b)が環状収容室120c(122c)内における内周壁面および外周側壁面に接触させられる。このため、基本的には、これらの接触によって、樹脂製環状部材120a(122a)と駆動軸54との間のシールや樹脂製環状部材120a(122a)と第2(第4)シリンダ71b(71d)との間をシールすることができる。
【0079】
さらに、樹脂製環状部材120a(122a)の環状収容室120c(122c)内にゴム製環状部材120b(122b)を配置した構造としているため、環状収容室120c(122c)のうちゴム製環状部材120b(122b)によって区画された両区画室120k、120m(122k、122m)の少なくとも一方にブレーキ液圧が印加されると、ゴム製環状部材120b(122b)がテーパ面120g(122g)、120h(122h)側に押されて弾性変形し、その弾性力により樹脂製環状部材120a(122a)を押し広げる。このため、ブレーキ液圧が印加されたときには、シール部材120(122)によって、より高い押圧力に基づくセルフシールを行うことが可能となり、シール性を向上させることが可能となる。また、ゴム製環状部材120b(122b)の樹脂製環状部材120a(122a)からの脱落防止の効果もある。
【0080】
そして、このようなセルフシール構造が樹脂製環状部材120a(122a)の環状収容室120c(122c)内にゴム製環状部材120b(122b)を配置することによって実現しているため、ゴム製環状部材120b(122b)が駆動軸54に直接接することがない。このため、ゴム製環状部材120b(122b)の磨耗やむしれが問題になることがなくなる。これにより、シール部材120(122)の廻り止め構造を必要としなくても、ゴム製環状部材120b(122b)の磨耗やむしれが発生することを防止できるシール構造体とすることが可能となる。
【0081】
また、樹脂製環状部材120a(122a)が磨耗しても、環状収容室120c(122c)のうちゴム製環状部材120b(122b)によって区画された両区画室120k、120m(122k、122m)の少なくとも一方にブレーキ液圧が印加されるとセルフシールが為されるため、樹脂製環状部材120a(122a)の磨耗に限らずシール機能を果たすことができる。
【0082】
以上説明したように、本実施形態の回転式ポンプ装置に備えられたシール部材120(122)は、樹脂製環状部材120a(122a)の環状収容室120c(122c)内にゴム製環状部材120b(122b)を配置している。このため、ゴム製環状部材120b(122b)が駆動軸54に直接接しない構造とすることが可能となり、シール部材120(122)の廻り止め構造を必要としなくても、ゴム製環状部材120b(122b)の磨耗やむしれが発生することを防止できるシール構造体とすることが可能となる。そして、このように廻り止めが不要な簡素なシール構造体にできるため、シール構造体の部品点数の削減およびコスト削減を図ることが可能となる。
【0083】
また、環状収容室120c(122c)のうちゴム製環状部材120b(122b)によって区画された両区画室120k、120m(122k、122m)の少なくとも一方に液圧が印加されるとセルフシールが為されるような構造としている。すなわち、環状収容室120c(122c)のうちゴム製環状部材120b(122b)によって区画された両区画室120k、120m(122k、122m)の少なくとも一方にブレーキ液圧が印加されると、ゴム製環状部材120b(122b)が押されて弾性変形し、その弾性力により樹脂製環状部材120a(122a)を押し広げる。このため、ブレーキ液圧が印加されたときには、シール部材120(122)によって、より高い押圧力に基づくセルフシールを行うことが可能となり、シール性を向上させることが可能となる。
【0084】
特に、環状収容室120c(122c)の内壁面120i(122i)にテーパ面120g(122g)、120h(122h)を設けているため、ゴム製環状部材120b(122b)をより弾性変形させることができる。したがって、ブレーキ液圧が印加されたときには、シール部材120(122)によって、より高い押圧力に基づくセルフシールを行うことが可能となり、さらにシール性を向上させることが可能となる。そして、本実施形態では、このようなテーパ面120g(122g)、120h(122h)を両区画室120k、120m、(122k、122m)に設けているため、例えば両区画室120k、120m、(122k、122m)のブレーキ液圧の高低が逆転を繰り返すような圧力脈動が生じても、シール性を高く維持することが可能となる。
【0085】
さらに、環状収容室120c(122c)のうちゴム製環状部材120b(122b)によって区画された両区画室120k、120m(122k、122m)とその外部との連通を図る第1、第2連通孔120e(122e)、120f(122f)を備えた構造としている。このため、車両用ブレーキ装置1を構成する各部にブレーキ液を充填する際に、第1、第2連通孔120e(122e)、120f(122f)を通じて各区画室120k、120m(122k、122m)内へのブレーキ液を充填することができ、エア抜きを良好に行うことも可能となる。
【0086】
(他の実施形態)
上記実施形態では、シール部材120(122)を中心孔72b(72d)に挿入したときに、樹脂製環状部材120a(122a)における環状収容室120c(122c)の挿入口120j(122j)が縮まるような構造としたが、挿入前から図4に示したような構造となるようにしても良い。
【0087】
ただし、図5のような構造にすると、シール部材120(122)を中心孔72b(72d)に挿入するまでは挿入後よりも樹脂製環状部材120a(122a)における環状収容室120c(122c)の挿入口120j(122j)の開口幅を広くしておくことができる。このため、容易にゴム製環状部材120b(122b)を環状収容室120c(122c)内に挿入できる。また、樹脂製環状部材120a(122a)を樹脂成形によって形成する際に、最初から図4のような構造とする場合には挿入口120j(122j)が幅狭となっているため、型抜きの際に無理抜きをしなければならなくなるが、図5のような構造にすればそのような無理抜きしなくても、容易に型抜きすることが可能となる。これにより、樹脂製環状部材120a(122a)の製造を容易に行うことができ、製造コストの削減を図ることも可能となる。
【0088】
また、上記実施形態では、回転装置として、駆動軸54が回転させられることで、回転式ポンプ19、39が駆動される形態のものを例に挙げて説明したが、回転式ポンプ19、39に限るものではなく、ケースに対して軸が相対的に回転させられるような回転装置における軸とケースとの間のシール構造体として、本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0089】
1…車両用ブレーキ装置、19、39…回転式ポンプ、19a、39a…アウターロータ、19b、39b…インナーロータ、19c、39c…空隙部、54…駆動軸、71a〜71d…第1〜第4シリンダ、72a〜72d…中心孔、73a、73b…第1、第2中央プレート、80、83…吸入口、81、82…吐出口、100…ポンプ本体、101…ハウジング、101a…凹部、120、122…シール部材、120a、122a…樹脂製環状部材、120b、122b…ゴム製環状部材、120c、122c…環状収容室、120e、120f、122e、122f…第1、第2連通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸(54)と、
前記軸(54)を相対回転可能に収容する中心孔(72a〜72d)が形成されたケース(71a〜71d、73a、73b)と、
前記ケース(71b、71d)における前記中心孔(72b、72d)内に配置されることで、前記軸(54)と前記ケース(71b、71d)との間の隙間をシールするシール構造体(120、122)と、を有してなる回転装置であって、
前記軸(54)と密着する軸側シール面と、前記ケース(71b、71d)と密着するケース側シール面とを有し、かつ、前記軸側シール面と前記ケース側シール面との間に環状収容室(120c、122c)が備えられた樹脂製環状部材(120a、122a)と、
前記樹脂製環状部材(120a、122a)における前記環状収容室(120c、122c)内に配置され、該環状収容室(120c、122c)の内周側および外周側それぞれの内壁面(120i、122i)に密着することで、前記環状収容室(120c、122c)を区画した区画室(120k、120m、122k、122m)を形成するゴム製環状部材(120b、122b)とを有し、
前記樹脂製環状部材(120a、122a)には、前記軸(54)と前記ケース(71b、71d)との隙間のうち前記シール構造体(120、122)によって区画される両部位の一方と前記環状収容室(120c、122c)のうち前記ゴム製環状部材(120b、122b)にて区画された両区画室(120k、120m、122k、122m)の一方とを連通させる第1連通孔(120e、122e)と、前記軸(54)と前記ケース(71b、71d)との隙間のうち前記シール構造体(120、122)によって区画される両部位の他方と前記環状収容室(120c、122c)のうち前記ゴム製環状部材(120b、122b)にて区画された両区画室(120k、120m、122k、122m)の他方とを連通させる第2連通孔(120f、122f)とが形成されていることを特徴とするシール構造体を備えた回転装置。
【請求項2】
前記第1、第2連通孔(120e、120f、122e、122f)のうちの一方のみが環状の挿入口(120j、122j)を構成し、この挿入口(120j、122j)から前記ゴム製環状部材(120b、122b)が前記環状収容室(120c、122c)内に収容されていることを特徴とする請求項1に記載のシール構造体を備えた回転装置。
【請求項3】
前記樹脂製環状部材(120a、122a)のうち前記環状収容室(120c、122c)を構成する内壁面(120i、122i)は、前記ゴム製環状部材(120b、122b)から離れるほど前記環状収容室(120c、122c)が径方向に狭くなるテーパ面(120g、120h、122g、122h)とされていることを特徴とする請求項2に記載のシール構造体を備えた回転装置。
【請求項4】
前記樹脂製環状部材(120a、122a)のうち前記挿入口(120j、122j)側の外周面には凸部(120d、122d)が形成されており、前記中心孔(72b、72d)に挿入することにより、前記凸部(120d、122d)が内側に押されることで前記挿入口(120j、122j)が押し縮められ、前記テーパ面(120g、120h、122g、122h)のうちの前記挿入口(120j、122j)側のテーパ面(120h、122h)が形成されていることを特徴とする請求項3に記載のシール構造体を備えた回転装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−241793(P2011−241793A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−116757(P2010−116757)
【出願日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】