説明

シール構造

【課題】オイルシールが並んで配置される場合に、該オイルシールが組み込まれる装置の軸方向の短縮化を図る。
【解決手段】筒状部30Aの外周が外部空間(第1の空間)SPoに面しているメイン減速機ケーシング(第1の部材)30と、メイン減速機ケーシング30の筒状部30Aの内周に並んで配置された第1、第2オイルシール50、52と、第1オイルシール50の内周と当接しているプレ減速機ケーシング(第2の部材)27と、第2オイルシール52の内周と当接すると共に、プレ減速機ケーシング27と当接し、且つメイン減速機28の内部空間SPiにその一部が面している内ピン部材(第3の部材)46と、を備え、第1、第2オイルシールによって前記外部空間SPoと内部空間SPiとがシールされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑剤等のシール構造に関する。
【背景技術】
【0002】
図3及び図4に示されるように、例えば、特許文献1に、ロボットアームRの第1リンク部材4と第2リンク部材6との間に、第1のオイルシール8と第2のオイルシール10とを並べて配置したシール構造が開示されている。第1、第2のオイルシール8、10は、若干の隙間SLを空けて配置されており、この隙間SLを含む空間に真空グリス12が充填されている。第2リンク部材6には筒部14Aを備えた受動体14が連結・固定されている。受動体14の筒部14Aは、該受動体14自体の部材強度を確保すると共に、軸受16の設置スペースを確保するためのものである。軸受16は、この受動体14の筒部14Aと第1リンク部材4との間に配置されており、これにより、第1リンク部材4と第2リンク部材6は、軸CLの周りで互いに相対回転可能である。
【0003】
このシール構造によれば、第1、第2のオイルシール8、10によりほぼ真空の空間SP1とロボットアームR内の不活性ガスの空間SP2との間を、エアや不活性ガス等の流体が相互に行き来しないように密閉シールすることができる。
【0004】
【特許文献1】特開平5−305596号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このように、オイルシールを並べて配置するようなシール構造の場合(とりわけ上記特許文献1に開示された構造のように、該2つのオイルシール8、10を隙間SLを空けて配置するような構成の場合)、当然に該オイルシール8、10の軸方向の端部から端部までの長さL1(図4参照)が長くなり易くなる。
【0006】
しかも、オイルシールは、その機能上、例えば上記図3、図4のように、部材と部材の連結部の付近で設けられることが非常に多い。そのため、該オイルシールの付近にはこれらの部材の強度を確保するための曲げ部が存在したり、部材同士を回転自在に支持するための軸受、或いは部材同士を連結・固定するためのボルトを配置しなければならない場合が多々ある。したがって、該曲げ部、軸受スペース、或いはボルトの配置位置等の関係で周辺部材の軸方向の長さが一層長くなり易いという傾向がある。これは、上記特許文献1の装置の例で言うならば、例えば、第1リンク部材4の曲げの開始部P1から第2リンク部材6の曲げの開始部P2まで(第1リンク部材4と第2リンク部材6の連結のために必要となる部分)の軸方向寸法L2が大きくなり易いということである。
【0007】
本発明は、このような不具合を解決するためになされたものであって、オイルシールを2つ並べて配置するようなシール構造において、特に、該オイルシールの周辺の部材の軸方向長をより合理的に短縮できるようにすることをその課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、第1の空間と第2の空間との間の流体の漏出を阻止するシール構造において、筒状部を有し、該筒状部の外周が前記第1の空間に面している第1の部材と、該第1の部材の前記筒状部の内周に並んで配置され2つのオイルシールと、該2つのオイルシールのうち、一方のオイルシールの内周と接している第2の部材と、前記2つのオイルシールのうち、他方のオイルシールの内周と接すると共に、前記第2の部材と当接し、且つ前記第2の空間にその一部が面している第3の部材と、を備え、前記第1の部材と、前記第2及び第3の部材との間に配置された前記2つのオイルシールによって、前記第1の空間と第2の空間とがシールされることにより、上記課題を解決したものである。
【0009】
また、本発明は、第1の空間と第2の空間との間での流体の漏出を阻止するシール構造において、筒状部を有し、該筒状部の外周が前記第1の空間に面している第1の部材と、該第1の部材の前記筒状部の外周に並んで配置された2つのオイルシールと、該2つのオイルシールのうち、一方のオイルシールの外周と接している第2の部材と、前記2つのオイルシールのうち、他方のオイルシールの外周と接すると共に、前記第2の部材と当接し、且つ前記第2の空間にその一部が面している第3の部材と、を備え、前記第1の部材と、前記第2及び第3の部材との間に配置された前記2つのオイルシールによって、前記第1の空間と第2の空間とがシールされることにより、同じく上記課題を解決したものである。
【0010】
従来、オイルシールを2つ並べて配置する場合には、該2つのオイルシールのそれぞれの外周側及び内周側にそれぞれ単一の部材が当接されるようにしていたが、本発明によればそのうちの一方(内周側又は外周側)については、個々のオイルシールがそれぞれ別の部材に当接するような構造としている。この結果、内周側の部材(あるいは外周側の部材)に対して更に第3の部材を接合する際に、この第3の部材を2つのオイルシールの軸方向中間位置にまで入り込ませることができるようになり、(入り込ませた分)軸方向の短縮に寄与させることができるようになる。
【0011】
なお、本発明は、オイルシールが3個以上並んで配置されている場合にも適用可能である。この場合には、その中の特定の2つのオイルシールに対して本発明に係る構成が成立していれば本発明本来の作用をそのまま得ることができる。
【発明の効果】
【0012】
オイルシールを2個(或いは2個以上)並べて配置するような場合であっても、該オイルシールの周辺の部材の軸方向の収まりを合理化でき、オイルシールの組み込まれた装置全体の軸方向長さをそれだけ短縮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下図面に基づいて本発明の実施形態の一例を詳細に説明する。
【0014】
図1に本発明の実施形態に係るシール構造が適用されたギヤドモータを示す。図2は、その要部拡大図である。
【0015】
このギヤドモータ20は、図示せぬ工具マガジンを駆動するためのもので、モータ24、プレ減速機26、及びメイン減速機28とから構成されている。後に詳述するように、この実施形態では、プレ減速機26のプレ減速機ケーシング27とメイン減速機28の出力軸に相当するメイン減速機ケーシング30の連結部付近のシールを行うための構造として、本発明が適用されている。
【0016】
プレ減速機26は、ベベルピニオン34及びベベルギヤ36を有する1段型の減速機である。メイン減速機28は、いわゆる内接噛合遊星歯車構造の減速機であり、前記ベベルギヤ36の取り付けられた入力軸38を備える。入力軸38には偏心体40A〜40Cが一体的に形成されている。偏心体40A〜40Cの外周には外歯歯車42A〜42Cが揺動回転可能に組み込まれている。外歯歯車42A〜42Cは、揺動回転しながら内歯歯車44に内接噛合する。
【0017】
この実施形態では、外歯歯車42A〜42Cの自転が内ピン部材46によって拘束されている。この構成により、該内歯歯車44が回転し、該内歯歯車44と一体化されている前記メイン減速機ケーシング30が回転する。メイン減速機ケーシング30は、取付フランジ32を備えており、該取付フランジ32に図示せぬ工具マガジンの回転円盤部が連結可能とされている。
【0018】
このギヤドモータ20は、クーラントの存在する環境で使用される。そのため、シール構造には、2つの機能が必要である。第1の機能は、「ギヤドモータ20の外部空間(第1の空間)SPoのクーラント(流体)を、メイン減速機28の内部空間(第2の空間)SPiに漏出させない。」という機能である。第2の機能は、「外部空間SPoに内部空間SPiの潤滑剤(流体)を漏出させない。」という機能である。
【0019】
そこで、ギヤドモータ20の外部空間SPoのクーラント、及びメイン減速機28の内部空間SPiの潤滑剤が、相互に出入りし合うのを(両方向とも)阻止するための構造として、本発明に係るシール構造が適用されている。
【0020】
具体的な構造を図1、図2を参照しながら説明する。
【0021】
このシール構造においては、メイン減速機ケーシング(第1の部材)30の筒状部30Aの外周が外部空間(第1の空間)SPoに面している。メイン減速機ケーシング30の筒状部30Aの内周には、第1、第2オイルシール50、52が、メイン減速機28の軸方向に並んで配置されている。
【0022】
第1、第2オイルシール50、52のうち、第1オイルシール50の内周は、プレ減速機26のプレ減速機ケーシング(第2の部材)27と当接している。しかしながら、第1、第2オイルシール50、52のうち、第2オイルシール52の内周は、メイン減速機28の内ピン部材(第3の部材)46と接している。即ち、第1、第2オイルシール50、52の内周は、それぞれ別の部材と当接していることになる。内ピン部材46は、図1に示されるように、円板状のフランジ部46fの円周方向等間隔の位置から円柱状のピン部46pが、軸方向に突出・延在された形状とされ(図1ではこのうちの1本のピン部のみ描写されている)、その一部が第2の空間であるメイン減速機28の内部空間SPiに面している。
【0023】
第1、第2オイルシール50、52は、各々の有効シール方向が逆とされている。第1オイルシール50は、外部空間SPoから内部空間SPiへのクーラントの浸入(漏出)を有効に阻止し、第2オイルシール52は内部空間SPiから外部空間SPoへの潤滑剤の漏出を有効に阻止する。即ち、メイン減速機ケーシング(第1の部材)30と、プレ減速機ケーシング(第2の部材)27及び内ピン部材(第3の部材)46との間に第1、第2オイルシール50、52が並んで配置されることにより、外部空間(第1の空間)SPoとメイン減速機28の内部空間(第2の空間)SPiとがシールされる構成とされている。
【0024】
図1、図2から明らかなように、プレ減速機ケーシング27と内ピン部材46は、それぞれの合わせ面27B、46Bが当接され、第1、第2オイルシール50、52が並んだ方向、即ちメイン減速機28の軸Omと平行に配置されたボルト60によって連結されている。プレ減速機ケーシング27のボルト60の頭部当接面27Aの軸方向位置は、第1オイルシール50の端部50Aの軸方向位置とほぼ同じである。しかし、プレ減速機ケーシング27の合わせ面27Bが第1、第2オイルシール50、52の軸方向中間位置に位置されることにより、ボルト60の押さえ厚みD1が確保されている。
【0025】
プレ減速機ケーシング(第2の部材)27と内ピン(第3の部材)46のそれぞれの合わせ面27B、46Bの間にはOリング64が配置されている。Oリング64は、合わせ面27B、46Bの気密性を維持し、結果として第1、第2オイルシール50、52の存在する空間SPsとプレ減速機の内部空間SPpとを遮断する。
【0026】
この実施形態では、更に、プレ減速機ケーシング27とメイン減速機ケーシング30とを所定の隙間δ1を有して対峙させている。これは、該隙間δ1の存在によってプレ減速機ケーシング27とメイン減速機ケーシング30との相対回転を確保しつつ、外部空間SPoと内部空間SPiとの間の流体の行き来をしにくくするためである。
【0027】
なお、図の符号68は、メイン減速機28の内部空間SPiとプレ減速機26の内部空間SPpとの間をシールするためのオイルシールである。
【0028】
次に、このシール構造の作用を説明する。
【0029】
ギヤドモータ20の外部空間SPoは、隙間δ1及び(有効シール方向が適正な)第1オイルシール50によって内部空間SPiに対して有効に遮断されている。また更に、有効シール方向は異なるが、第2オイルシール52が第1オイルシール50と並んで存在している。そのため、外部空間SPo内のクーラントや異物等が、内部空間SPi内に浸入するのが更に確実に阻止される。
【0030】
一方、メイン減速機28の内部空間SPiは、(有効シール方向が適正な)第2オイルシール52によって外部空間SPoに対して有効に遮断されている。また更に、有効シール方向は異なるが、第1オイルシール50が第2オイルシール52と並んで存在している。そのため、内部空間SPi内の潤滑剤が外部空間SPoに漏出するのも確実に阻止される。
【0031】
第1、第2オイルシール50、52の軸方向中間位置には、プレ減速機ケーシング27と内ピン46の合わせ面27B、46Bが位置しているが、両部材27、46は、ボルト60によって強固に連結されており、且つ該合わせ面27B、46Bの間にはOリング64が介在されているため、万一第1、第2オイルシール50、52を通り抜けてきたクーラントや潤滑剤が存在したとしても、それが合わせ面27B、46Bの間を経由してプレ減速機26の内部空間SPp側に入り込むことはない。
【0032】
ここで、プレ減速機ケーシング27と内ピン46とを連結するボルト60の頭部当接面27Aの軸方向位置は、第1オイルシール50の端部50Aの軸方向位置とほぼ同じである。しかし、プレ減速機ケーシング27の合わせ面27Bが第1、第2オイルシール50、52の軸方向中間位置にまで進入した位置に位置決めされていることから十分な押さえ厚みD1が確保されている。この結果、進入した長さの分だけ、プレ減速機ケーシング27のボルト60の頭部押さえ面60Aの軸方向位置P1から内ピン46の端面46Aの軸方向位置P2との軸方向長さL3を短縮することが可能となっている。
【0033】
なお、本発明では、有効シールの方向が逆方向であることは、必ずしも必須ではなく、例えば、2つのオイルシールの有効シール方向を同一にした状態で並べて配置し、一方のみのシールをより厳格に実現する構成としてもよい。但し、上記実施形態のように、両方向のシールを効果的に行いたい場合には、第1、第2オイルシールの有効シール方向を逆向きとするのが望ましい。
【0034】
なお、上記実施形態においては、第1、第2オイルシールの外周側に(単一の)第1の部材、内周側に第2、第3の2つの部材が当接している例が示されていたが、連結しようとする部材の構成によっては、第1、第2オイルシールの内周側に(単一の)第1の部材、外周側に第2、第3の2つの部材が当接するように構成した方が有利な場合もあり得る。即ち、本発明は、第1の空間と第2の空間との間の流体の出入りを阻止するシール構造において、筒状部を有し、該筒状部の内周が前記第1の空間に面している第1の部材と、該第1の部材の前記筒状部の外周に並んで配置され2つのオイルシールと、該2つのオイルシールのうち、一方のオイルシールの外周と接している第2の部材と、前記2つのオイルシールのうち、他方のオイルシールの外周と接すると共に、前記第2の部材と当接し、且つ前記第2の空間にその一部が面している第3の部材と、を備え、前記第1の部材と、前記第2及び第3の部材との間に配置された前記2つのオイルシールによって、前記第1の空間と第2の空間とがシールされるような状況においても適応でき、同様な作用効果を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
オイルシールを2個(或いは2個以上)並べて配置するような構造、或いは装置に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の実施形態の一例に係るシール構造の主要部を示す拡大断面図
【図2】上記シール構造が適用された工具マガジン駆動用のギヤドモータの断面図
【図3】従来のシール構造の例を示す断面図
【図4】図3の要部を示す一部拡大断面図
【符号の説明】
【0037】
20…ギヤドモータ
24…モータ
26…プレ減速機
27…プレ減速機ケーシング(第2の部材)
27A…頭部当接面
27B…合わせ面
28…メイン減速機
30…メイン減速機ケーシング(第1の部材)
30A…筒状部
38…入力軸
40A〜40C…偏心体
42A〜42C…外歯歯車
44…内歯歯車
46…内ピン部材(第3の部材)
46B…合わせ面
50、52…第1、第2オイルシール
60…ボルト
64…Oリング
66…軸受
68…オイルシール
SPo…外部空間(第1の空間)
SPi…内部空間(第2の空間)
δ1…隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の空間と第2の空間との間での流体の漏出を阻止するシール構造において、
筒状部を有し、該筒状部の外周が前記第1の空間に面している第1の部材と、
該第1の部材の前記筒状部の内周に並んで配置された2つのオイルシールと、
該2つのオイルシールのうち、一方のオイルシールの内周と当接している第2の部材と、
前記2つのオイルシールのうち、他方のオイルシールの内周と当接すると共に、前記第2の部材と当接し、且つ前記第2の空間にその一部が面している第3の部材と、を備え、
前記第1の部材と、前記第2及び第3の部材との間に配置された前記2つのオイルシールによって、前記第1の空間と第2の空間とがシールされる
ことを特徴とするシール構造。
【請求項2】
請求項1において、
前記第2の部材と第3の部材が、前記オイルシールが並んだ方向と平行に配置されたボルトによって結合されていることを特徴とするシール構造。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記第2の部材と第3の部材とが当接している合わせ面の間にOリングが配置されていることを特徴とするシール構造。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかにおいて
前記オイルシールのそれぞれの有効シール方向が、互いに逆向きとされ、前記第1の空間と第2の空間との間の流体の漏出を両方向とも阻止するようにしたことを特徴とするシール構造。
【請求項5】
第1の空間と第2の空間との間での流体の漏出を阻止するシール構造において、
筒状部を有し、該筒状部の内周が前記第1の空間に面している第1の部材と、
該第1の部材の前記筒状部の外周に並んで配置された2つのオイルシールと、
該2つのオイルシールのうち、一方のオイルシールの外周と接している第2の部材と、
前記2つのオイルシールのうち、他方のオイルシールの外周と接すると共に、前記第2の部材と当接し、且つ前記第2の空間にその一部が面している第3の部材と、を備え、
前記第1の部材と、前記第2及び第3の部材との間に配置された前記2つのオイルシールによって、前記第1の空間と第2の空間とがシールされる
ことを特徴とするシール構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−275731(P2009−275731A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−125221(P2008−125221)
【出願日】平成20年5月12日(2008.5.12)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】