説明

シール構造

【課題】例えば発泡樹脂成形におけるように、シール部の形成前後において、弾性シール部材の大なる変形が要求される場合にも、弾性シール部材の耐久性の低下あるいはシール性の低下を緩和ないし防止できるようにしたシール構造を与える。
【解決手段】それぞれの当接面を介して互いに当接されることによりシール部を形成する一対の金型部材の少なくとも一方の当接面に弾性シール部材の収容溝を形成し、且つ該収容溝の側縁に、より浅い付加収容溝を設けることにより、前記一対の金型部材の当接位置ならびに該当接位置より後退した中間位置においてもなおシール部を形成するように構成したことを特徴とする発泡樹脂成形金型用シール構造。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂成形金型、特に比較的広範囲の金型位置において良好なシール特性を要求される発泡樹脂成形金型、に適したシール構造に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂部品の発泡成形において、スワールマーク(気泡の破裂によって起こる銀白色の条痕)の発生による外観不具合を抑制するために、溶融樹脂を金型内に射出するときに、同時に(あるいはこれに先立って)金型内に高圧のガスを注入する(カウンタープレッシャーの印加)。これにより生成する金型内圧力を保持するために、通常、図1に示すように、金型1を構成する一対の金型部材、すなわち、樹脂成形キャビティ2を含む雌型部材1aおよびこれと当接される雄型部材1bの少なくとも一方(図1の例においては雄型部材1b)のキャビティ2を包囲する位置に、収容溝3を設け、ここに通常は円形断面を有する弾性シール部材(いわゆるOリング)を配置する。また発泡樹脂成形においては、図1のA部の拡大図である図2に示すように、雄型部材1bに設けた収容溝3よりも、より正確にはその周囲の雌型部材1aとの当接面1b1よりも、Oリング4が寸法Sだけ突出するものとし、この突出寸法Sは、キャビティ2への樹脂注入後、金型部材1aおよび1bの(少なくとも)一方を後退させて、樹脂の発泡成型を完了させる際の金型部材1aおよび1b(の当接面1a1−1b1)間距離(いわゆるコアバック距離、CBとする)よりも大なるものとし、発泡樹脂成形中の金型内圧力を保持する必要がある。このため、発泡樹脂成形においては、Oリングの圧縮しろが通常の樹脂成形におけるよりも大なるものとなり、樹脂注入のために金型を閉じた時には、図3に示すように、Oリング4の圧縮により生じたOリング4dの一部4dpが、金型部材の当接面1a1−1b1間に潰されて挟持されることになり、金型開放時との対比における大なる変形とも相俟って、Oリングの耐久性が著しく低下するという問題があった。
【0003】
他方、上述の問題を緩和し得るシール機構として、シール部を形成する一対の部材11aおよび11bの少なくとも一方に設ける弾性シール部材の収容溝13の底部に付加的な陥没溝13aを設けて、シール時の弾性シール部材の変形ならびにシール後の加熱による膨張しろを吸収するようにしたシール機構の提案もある(特許文献1)。しかしながら、このようにして形成した収容溝の底部に設けた陥没溝によっては、発泡樹脂成形に要求されるようなOリングの大なる変形には対処し切れず、また却ってシール性の低下を招くおそれもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−97684号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、例えば発泡樹脂成形におけるように、シール部の形成前後において、弾性シール部材の大なる変形が要求される場合にも、弾性シール部材の耐久性の低下あるいはシール性の低下を緩和ないし防止できるようにしたシール構造を与えることを主要な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のシール構造は、上述の目的を達成するために開発されたものであり、より詳しくは、それぞれの当接面を介して互いに当接されることによりシール部を形成する一対の金型部材の少なくとも一方の当接面に弾性シール部材の収容溝を形成し、且つ該収容溝の側縁に、より浅い付加収容溝を設けることにより、前記一対の金型部材の当接位置ならびに該当接位置より後退した中間位置においてもなおシール部を形成するように構成したことを特徴とするものである。本発明のシール構造を採用すると、シール部の形成の前後において、Oリング等の弾性シール部材の大なる圧縮しろを、当接面の近傍に設けた付加収容溝により吸収してシール時における対向部材と接触する弾性シール部材の面積(すなわち、シール面積の増加)を増加させて、シール特性の向上に寄与するとともに、一対のシール当接部材(例えば金型部材)の当接面間に弾性シール部材の一部が潰れて挟み込まれることによる過大な圧縮力の印加ならびにこれに伴う弾性シール部材の耐久性の劣化が防止可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】従来の発泡樹脂成形用金型のキャビティおよびOリング収容溝を含む正断面模式図。
【図2】図1のA部において雄型収容溝にOリングを収容した状態の模式断面図。
【図3】閉鎖位置における図1金型のA部の拡大図。
【図4】従来技術における底部に付加的陥没溝を有するOリング収容溝の断面構造を示す模式断面図。
【図5】図2に対応して示す本発明のシール構造の一例における雄型の収容溝にOリングを収容した状態の模式断面図。
【図6】図5のシール構造の金型閉鎖位置における模式断面図。
【図7】(a)は図5の各部の寸法関係の説明図、(b)および(c)はそれぞれ(a)におけるA断面およびB断面形状の説明図。
【図8】図5に対応する本発明のシール構造の別の一例を示す模式断面図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図5は、図2(従来例)に対応して、本発明のシール構造の一例としての発泡樹脂成形用金型の雄型5bに設けた収容溝周辺の構造を示す模式断面図である。図5を参照してキャビティ(図示せず)を設けて配置された雌型5a(そのコアバック位置における当接面5a1とともに点線にて示す)に対向して配置された雄型5bのキャビティを囲む位置の当接面5b1にはOリング54の収容溝53に加えて、その両側側縁に、収容溝53よりも浅い断面形状としてはほぼ対称な付加収容溝61および62が設けられている。図5は図1のA部に対応する拡大図として示すものであるため、より正確には、付加収容溝62が収容溝53および付加収容溝61を包囲するように配置される。そして、収容溝53には、一般に強度、耐久性に優れるウレタン系ゴム等からなるOリング54が配置される。この配置に対して、発泡樹脂成形における発泡性樹脂(例えば、重曹系発泡剤を含むポリプロピレン樹脂系重合体あるいは共重合体)を注入するに先立って、金型5を閉じる(一対の金型部材5aと5bをそれらの当接面5a1と5b1とで当接する)と、Oリング54が押し潰されて変形したOリング54dの収容溝53に収容し切れない部分は、付加収容溝61および62に無理なく拡げられ、拡大した面積で雌型5aの当接面5a1に当接され、向上したシール性を発揮するとともに、金型部材5a−5bの当接面5a1−5b1間にまで拡げられることがない。従って、これら当接面間に挟まれて、Oリング54の一部が過大な圧力により劣化されることもない。
【0009】
他方、発泡性樹脂注入後に、発泡を促進するために、雌型5aの当接面5a1を図5の点線位置まで、雌型5bから後退させる(コアバックさせる)ときにも、Oリング54は、その頂部で一定面積に亘って雌型5aの当接面5a1(点線で示す)に対して当接されるため、金型内圧力を保ちつつ発泡樹脂成形を完了させることができる。
【0010】
本発明のシール構造が、図5および図6を参照して上記したように良好な作用効果を発揮するためには、各部材間で一定の寸法関係が満たされることが望ましい。この点をほぼ図5と実質的に同等な模式断面図である図7(a)に寸法線を入れて説明する。すなわち、Oリング54の当接面5b1からの突出距離aは、コアバック距離CB以上であること、より具体的には、例えばa=2.0〜3.0mmの範囲であること、が好ましい。収容溝53の深さbは、Oリングの脱落防止のためOリング54の半径以上(より好ましくは半径の1.05倍以上、1.10倍以下)とすることが好ましい。収容溝53の直径cは、Oリングの脱落防止のためにOリング54の直径以下(より好ましくは0.90倍以上、0.95倍以下)とすることが好ましい。また、付加収容溝の深さ(最大値)eと収容溝53の深さbとの比e/bは20〜30%程度であることが好ましい。なお、収容溝53の直径をOリング54の直径より小さくして、Oリング54を嵌め込む形とすると、変形したOリング断面は若干縦長の楕円形となり、Oリング54の直径−収容溝53の深さbとして計算したOリング54の当接面5b1からの突出距離aがコアバック距離CBと全く同じ場合であっても、実質的な突出距離aはコアバック距離CBよりも大となり、コアバック位置において、Oリング54の頂部と雌型5aの当接面5a1との一定当接面積が確保され、従って発泡樹脂成形完了までの金型内圧保持が可能となる。
【0011】
また収容溝53に収容されないOリング54の断面(すなわち図7(a)および(b)のA断面)の面積は、(当接面5b1と収容溝53の開口面との間の距離e)×(付加収容溝61と62の側壁間距離d)で定まる断面(図7(a)および(c)のB断面)の面積以下、(より好ましくは0.5〜0.9倍)として、金型閉鎖時における金型当接面5a1−5b1間でのOリング部分の挟持を効果的に防止することが好ましい。
【0012】
特定の実施例においては、図5〜図7を用いて説明したシール構造において、a=2mm,b=2.5mm,c(=Oリング直径)=5mm,d=20mm,e=0.5mm,A断面積=約9.82mm(=π×2.5),B断面積=10mm(=20mm×0.5mm),コアバック距離CB=1.6mmと設定しウレタン系ゴム製Oリングを用いることにより、重曹系発泡剤を含むポリプロピレン系樹脂の約180〜230℃での約1.5〜1.8倍の発泡樹脂成形が円滑に行なわれることが確認され、且つ200回以上の発泡樹脂成形の後においても、金型当接面間でのOリングの挟持(噛み込み)による変形跡は認められなかった。これに対し、図2〜図3で説明した従来型のシール構造においては、10回程度の発泡樹脂成形においてOリングの損傷が見られ交換が必要であった。
【0013】
(変形例)
上記において、本発明のシール構造の好ましい一態様を図5〜図7を参照しつつ説明した。しかしながら、本発明のシール構造は、本発明の範囲内で、上記実施態様を各種変形して実施可能であることは、当業者にとっては容易に理解できるものと解される。例えば、上記においては、付加収容溝61および62を金型部材の収容溝と当接面との間に階段状に形成されたほぼ矩形断面を有するものの例を示したが、図8に示すように金型部材の収容溝と当接面の間に曲面をなし、曲率Rを持つ付加収容溝81及び82として構成することも可能であり、一般に本来の収容溝より突出する弾性シール部材断面積(A断面積)よりも大なる断面積(B断面積)を与える任意の断面形状の付加収容溝を形成することが可能である。
【0014】
また、上記の例においては、付加収容溝を有する収容溝を雄型に設ける例を示したが、勿論キャビティを有する雌型側に設けることも可能であり、シール性のより向上のために雄型と雌型の双方に設けることも可能である。
【0015】
また上記においては、付加収容溝を有する収容溝を樹脂成形、特に発泡樹脂成形用金型に適用する好ましい適用例を示したが、本発明のシール構造はこれに限らず、弾性シール部材の大きな変形(例えば相手側シール部材との当接幅が、弾性シール部材の直径を超え、好ましくは1.5倍以上となるような変形)を可能とするシール構造一般を提供するために、極めて有効に適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0016】
上述したように、本発明によれば、例えば発泡樹脂成形におけるように、シール部の構成前後において、弾性シール部材の大なる変形が要求される場合にも、弾性シール部材の耐久性の低下あるいはシール性の低下を緩和ないし防止できるようにしたシール構造が提供される。
【符号の説明】
【0017】
1 金型(1a、11a:雌型(1a1:当接面)、1b:雄型(1b1:当接面))
2 キャビティ
3、53 Oリング(弾性シール部材)収容溝
4、54 Oリング (4d、54d:変形状態、4dp:噛み込み部)
5 本発明による金型(5a:雌型(5a1:当接面)、5b 雄型(5b1:当接面)
61,62,81,82:付加収容溝
S Oリングの収容溝からの突出寸法
CB コアバック距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれの当接面を介して互いに当接されることによりシール部を形成する一対の金型部材の少なくとも一方の当接面に弾性シール部材の収容溝を形成し、且つ該収容溝の側縁に、より浅い付加収容溝を設けることにより、前記一対の金型部材の当接位置ならびに該当接位置より後退した中間位置においてもなおシール部を形成するように構成したことを特徴とする発泡樹脂成形金型用シール構造。
【請求項2】
弾性シール部材の収容溝の両側にほぼ対称な付加収容溝を設けてなる請求項1に記載のシール構造。
【請求項3】
付加収容溝が前記少なくとも一方の金型部材の収容溝と当接面との間に階段状に形成されている請求項1または2に記載のシール構造。
【請求項4】
付加収容溝が前記少なくとも一方の金型部材の収容溝と当接面との間に曲面をなして形成されている請求項1または2に記載のシール構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−218643(P2011−218643A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−89209(P2010−89209)
【出願日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】