説明

シール装置及びシール装置を備えたガスタービン

【課題】
面接触による高いシール効果と、部材のオフセットに対応した高い信頼性を両立したシール装置を提供する。
【解決手段】
隣り合う部材である静翼体セグメント21a,21bの対向する面にそれぞれシール溝32b,35aを設け、シール溝32b,35aにシール部材であるシールプレート36を挿入して隣り合う部材の間を通過する流体の流れをシールするシール装置において、シール部材であるシールプレート36は溝の長さ方向(図7の奥行き方向)に垂直な面の断面が略円形である円形状弾性体40であり、隣り合う部材のそれぞれの対向面と溝との間にシール部材であるシールプレート36と面接触可能に構成されたシール面であるエッジシール面38a,38b,38c,38dを有するよう構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シール装置及びシール装置を用いたガスタービンに関する。
【背景技術】
【0002】
例えばガスタービンの静翼体を構成する部材では、周方向に隣接するセグメントの両側面にシール溝を形成し、そのシール溝間に平板状シールプレートを装着して、リーク空気を抑制する手法が採られている。但し、この種のシールプレートは、近年のガスタービンの作動ガスの高温化に伴うセグメントの半径方向の熱伸び偏差によって生じるシール溝の半径方向のずれ(オフセットと呼称)への対応が困難である。
【0003】
これに対し、平板状シールプレートのシール溝との接触部分を円弧状に形成し、中央を薄く加工したシールプレートの開発が進められている。その代表例が、米国特許第5158430号明細書に記載されているような、シールプレート外端部を楕円状に成形したドッグボーン型シールプレートである。ドックホーン型シールプレートを利用すると、セグメントの半径方向の熱伸び偏差によりシール溝に多少のオフセットが生じても、溝面で接触点が確保できる。また、プレート中央部が薄肉化されていることで、このプレート中央部とシール溝エッジ部との干渉を抑制できる。
【0004】
【特許文献1】米国特許第5158430号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、ドッグボーン型シールプレートのように、トレードオフ設計によってプレート形状を高温化に伴う半径方向の熱伸び偏差であるオフセットに対応させた結果、シール溝におけるシールプレートの接触状態は、線接触になる。シール面が線接触として構成されたドッグボーン型シールプレートでは、面接触するよう構成された平板状シールプレートに比べ、リーク流量の増加が予想される。このように、シールプレートの開発には、リーク流量の低減と熱伸び偏差によるオフセットへの対応という、相反する課題が含まれている。
【0006】
本発明の目的は、面接触による高いシール効果と、部材のオフセットに対応した高い信頼性を両立したシール装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明のシール装置は、隣り合う部材の対向する面にそれぞれシール溝を設け、前記シール溝にシール部材を挿入して前記隣り合う部材の間を通過する流体の流れをシールするシール装置において、前記シール部材は前記溝の長さ方向に垂直な面の断面が略円形である弾性体であり、前記隣り合う部材のそれぞれの対向面と前記溝との間に前記シール部材と面接触可能に構成されたシール面を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、面接触による高いシール効果と、部材のオフセットに対応した高い信頼性を両立したシール装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
実施例として、本発明のシール装置をガスタービンに用いた例について説明する。ガスタービンおいては、熱効率の向上を目的として作動ガスの高温化が図られているが、特に、作動ガス中に配置されているタービン静・動翼が高温に耐えられるように、翼内部に冷却媒体を供給している。現在稼働しているこの種のガスタービンは、空気冷却によるオープン冷却方式を採用していることが多い。即ち、圧縮機から抽気した空気を冷却空気として用い、この空気をケーシングや、タービン内部を経由させて、翼内部を冷却するようにしている。そして、翼内部を冷却した後の空気は、翼外表面のフィルム冷却孔や翼の後縁冷却孔等から、ガスパス中に排出させている。また、静翼冷却用に導入された冷却空気の一部を、タービンホィールスペースのシール空気として分岐するが、この空気もイングレス抑制用としてガスパスに排出されることになる。
【0010】
ところで、動翼シュラウドや静翼体は、セグメント構造として周方向に環状配置されるが、セグメント部材の熱伸びを考慮して、セグメント間には、周方向に間隙を有する。熱応力の発生防止の観点から、この間隙は、定格点においても接触しないように設計される。つまり、ケーシング内部外端側キャビティとガスパスは、この間隙路によって半径方向に連通することになる。従って、静翼の冷却用にケーシング内部側キャビティに導いた冷却空気の一部が、このセグメント間からの間隙を通過して、ガスパス中に漏洩する。所謂、リークである。同様に、静翼のダイアフラムもセグメント構造として環状に構成されるが、同様に、シール空気の一部がリークすることになる。
【0011】
これらのリークは、それ自体が損失である。リーク量の増加は冷却空気必要量の増加につながり、圧縮機で圧縮された圧縮空気を無駄に浪費してしまうからである。その上、比較的低温であるリーク空気がガスパスの作動ガスへ混入することから、希釈されることによる作動ガスの温度低下や混合損失により、タービンの出力低下を起こすため、作動ガス高温化の効果が十分に発揮できない嫌いがある。
【0012】
例えばガスタービンの静翼体を構成する部材では、周方向に隣接するセグメントの両側面にシール溝を形成し、そのシール溝間に平板状シールプレートを装着して、リーク空気を抑制する手法が採られている。但し、この種のシールプレートにおいては、近年のガスタービンの作動ガスの高温化に伴うセグメントの半径方向の熱伸び偏差によって生じるシール溝の半径方向のずれ(オフセットと呼称)への対応が困難である。
【0013】
これに対し、平板状シールプレートのシール溝との接触部分を円弧状に形成し、中央を薄く加工したシールプレートの開発が進められている。その代表例が、シールプレート外端部を楕円状に成形したドッグボーン型シールプレートである。ドックホーン型シールプレートを利用すると、セグメントの半径方向の熱伸び偏差によりシール溝に多少のオフセットが生じても、溝面で接触点が確保できる。また、プレート中央部が薄肉化されていることで、このプレート中央部とシール溝エッジ部との干渉をある程度抑制できる。
【0014】
シールプレートとシール溝エッジ部との干渉は深刻な状況を引き起こす可能性がある。静翼セグメントのシール溝の半径方向のずれに対して、当初、シールプレートは溝位置の半径方向変位に従って移動するが、シール溝エッジによるプレート中央部の拘束に始まり、プレート変形によるリーク流量増大や、プレートを介したエッジ部端への曲げ力による静翼体の損傷に到る可能性もある。従来多く利用されてきた平板上シールプレートでは、一定幅以上のオフセットがおきた場合の干渉への対応が困難である。
【0015】
ガスタービンにおけるセグメント構造面や分割構造面の多くには平板状シールプレートが装着されている。また、シール溝構成で、シールプレート以外のシール部材を設けている例もあるが、上記と同様のことが言える。
【0016】
後述する本発明のシール装置によれば、ガスタービンの起動時にも定格運転時にも、矩形断面状プレートとシール溝内面、或いは、円形状弾性体とエッジシール面を接触させることができる。即ち、セグメントの熱伸び偏差に起因するオフセットも、容易に吸収可能であり、プレート変形やセグメント部材に掛かる力の発生を防止できることから、高い信頼性を図れ、その本来の目的に沿った効率の高いガスタービン装置を得るという優れた実用的効果をもたらす。
【0017】
以下、本発明の第1の実施例を図1−図7を用いて説明する。図1は本発明のガスタービンを示す構成図、図2は、本発明の構成を示すタービン部の部分断面図、図3は本発明によるシールプレートの配置を示す静翼体の概念図、図4は本発明によるシールプレートの装着を示す概念図、図5は従来例によるシールプレートの装着を示す概念図、図6は本発明による弾性体を用いたシールプレートを装着した概念図、図7は運転中の状態を示す弾性体を用いたシールプレートによるシール装置の概念図を示してある。
【0018】
図1を用いて、作動ガスと冷却空気の流れからガスタービン1の全体構成を説明する。図1は本発明のガスタービンの構成図を示す。ガスタービン1は、主として多段のタービン4と、このタービンに連結され、燃焼用の圧縮空気を得る圧縮機2,圧縮空気を高温高圧ガスに変換する燃焼器3、及び、発電機5を備えている。圧縮機2から抽気した冷却空気は、第2段静翼を冷却するための静翼低圧冷却空気経路6a,第1段静翼を冷却するための静翼高圧冷却空気経路6b、また第1,2段動翼を冷却するための動翼冷却空気経路7を経て、各々のタービン被冷却部に供給される。このとき、抽気空気圧力は、各翼でのガスパス圧力に応じた値から選定しており、静翼高圧冷却空気経路6b,動翼冷却空気経路7には、圧縮機2の最終段からの抽気空気、静翼低圧冷却空気経路6aには、圧縮機2の中圧段からの抽気空気を導入する。被冷却部を冷却して熱交換した各冷却空気は、図示しない翼のフィルム冷却、或いは後縁からの噴出し等として、タービン4のガスパス中に排出され、作動ガスと混合されて、最終的には排気ガスとして大気に放出される。
【0019】
図2は、タービン4の第1段静翼10a,第2段静翼11a,第1段動翼10b及び第2段動翼11b部分のタービン部分断面、すなわち本発明のガスタービンのタービン部の部分断面図を示したものである。各冷却空気経路6a,6b、及び7は、それぞれの被冷却部に連通するが、ここでは、本発明のシール装置を明確にするため、第2段静翼11aまわりを対象として説明する。静翼低圧冷却空気経路6aを径由して、ケーシング12に設けた導入孔(図示せず)を介して供給された冷却空気は、ケーシング12内部の外端側にある第2段静翼供給キャビティ13を経て、周方向に環状に配置された第2段静翼体21に供給される。この冷却空気は、第2段静翼体21の図示しない冷却パスを通過するときに熱交換を行い、第2段静翼11aを冷却するとともに、温度上昇して、ガスパス9に排出される。一方、第2段静翼体21に供給された空気の一部は、第2段静翼体21とダイアフラム15で形成されるダイアフラムキャビティ14を経て、第1段ホィール19a,スペーサー22及びダイアフラム15で形成される第1段動翼後側ホィールスペース16aに供給された後、ダイアフラム15とスペーサー22の間で協働するシールフィン24によって、第2段ホィール19b,スペーサー22及びダイアフラム15で形成される第2段動翼前側ホィールスペース16bに分配され、それぞれのホィールスペース16a,16bへの作動ガスの侵入を抑制するためのシール空気として使用される。
【0020】
図3は、本発明のガスタービンのシール溝の配置を示す静翼体の断面図を示す。図3は、周方向に複数個配置された第2段静翼体21の1つである静翼体セグメント21aと、ダイアフラム15aを示したものである。静翼体セグメント21aの外径側エンドウォール31aには、シール溝32a,32b、及び32cが設けられており、内径側エンドウォール31bには、シール溝33a,33b、及び33cが設けられている。また、ダイアフラム15aには、シール溝34a,34b,34c,34d,34e,34f、及び34gがある。ところで、第2段静翼供給キャビティ13とガスパス9は、連通しており、図中の矢印で示したようなリーク流路が存在する。同様に、内径側エンドウォール31bやダイアフラム15aにもリーク流路が存在することになるが、以下、本発明を詳細に説明するため、シール溝32bに着目して本発明のシール装置を説明する。
【0021】
図4は、静翼体セグメント21aとこれに隣接する静翼体セグメント21bを半径方向外側から眺めた図を示す。第2段静翼体21は、複数個のセグメントとして環状に配置されたものである。図4は代表的に2つの静翼体セグメント21a,21bを示したものである。両静翼体セグメント21a,21bの間は、周方向間隙σc_coldをもたせて、組み立てられている。静翼体セグメント21aの外径側エンドウォール31aに対向して、静翼体セグメント21bの外径側エンドウォール37aがあり、それぞれ、シール溝32b,35aが形成されている。ここに、周方向間隙σc_coldを塞ぐように、シールプレート36が装着されている。これによって、前記した第2段静翼供給キャビティ13からガスパス9にかけてのリーク流路を介した半径方向のリークが抑制されることになる。
【0022】
ここで、本発明を明確にするため、図5を用いて比較例のシールプレートについて説明する。図5は、比較例のシール装置の断面図を示す。静翼体セグメント21a,21bの外径側エンドウォール31a,37aの互いのセグメント対向面42a,42bには、対向するシール溝32bとシール溝35aが設けられている。対向面42a,42bとシール溝シール面39a,39b,39c、及び、39dが直交して4つの対向面エッジ43a,43b,43c、及び、43dを形成する。なお、シールプレート36に対するシール面は、シール溝の内部に設けられたシール溝シール面39a,39b,39c、及び、39dである。
【0023】
比較例の平板状シールプレートを利用した場合、セグメントの半径方向の熱伸び偏差によりシール溝にオフセットが生じてプレート中央部とシール溝エッジ部とが干渉する可能性がある。
【0024】
この干渉は深刻な状況を引き起こす可能性がある。静翼セグメントのシール溝の半径方向のずれに対して、当初、平板上シールプレートは溝位置の半径方向変位に従って移動する。そうすると、やがてシール溝エッジ部によってプレート中央部が拘束されることになる。ずれがさらに進むと、プレート変形によるリーク流量増大や、プレートを介したエッジ部端への曲げ力による静翼体の損傷に到る可能性もある。
【0025】
次に、図6を用いて本発明の実施例であるシール装置について説明する。図6は、本発明の実施例であるシールプレート36の詳細形状と装着時の状態を示す。シールプレート36は、中空管状体である円形状弾性体40と、それに接合されたシール溝の奥行き方向(図6上で、左から右、或いは、右から左)に伸びる矩形断面状プレート41a,41bから成る。矩形断面状プレート41aは、円形状弾性体40の外径端に固着される。矩形断面状プレート41bは、矩形断面状プレート41aの180度反対位置に固着される。矩形断面状プレート41a,41bは、円形状弾性体40の中心点付近から放射線上に延びた面を有する。すなわち、この放射線上に延びた面は、シール溝シール面39a,39b,39c、及び、39dと略平行な面を有する。また、矩形断面状プレート41a,41bは円形状弾性体40の中心点付近からのびる放射線と直交する面における断面が矩形形状を有している。言い換えると、円形状弾性体40の中心線付近から放射線方向に矩形断面を有している。本実施例のシール部材であるシールプレート36は、矩形断面状プレート41a,41bを、円形状弾性体40の中心線で略線対称に設けている。このように構成することで、オフセットが発生していない状態では、矩形断面状プレート41a,41bがシール溝シール面39b,39dに面接触するため、比較例の平板状シールプレートと同様のシール効果を得ることができる。また、本実施例では円形状弾性体40として、比較的高い弾性力を備えることができる中空管状体を用いた例を示したが、弾性力の高い素材からなる中実のもの等、弾性力を備えていれば他の形状でも構わない。熱による塑性変形を起こす素材を用いたものであれば、弾性力を備えていなくても同様の効果を得ることが可能である。
【0026】
ガスタービン1の組立て時には、両矩形断面状プレート41a,41bは、シール溝シール面39b,39dに面接触している。尚、矩形断面状プレートの厚みt(図面の上下方向)は、セグメント間の半径方向最大偏差Δrとシール溝高さh(図面の上下方向)との関係において、h≧(Δr+t)を有する。すなわち、矩形断面状プレートの厚みが、シール溝の高さとセグメント間の半径方向最大偏差との差以下である。ここで、セグメント間の半径方向偏差Δrとは、設計上予想される半径方向偏差の最大値を意味する。このように構成することで、オフセットが生じた場合でも、両矩形断面状プレート41a,41bとシール溝シール面39b,39dとの干渉の発生を抑制することができ、シール装置の信頼性や耐久性を高めることができる。
【0027】
また、前述した対向面エッジ43a,43b,43c、及び、43d部は成形されて、直線状のエッジシール面38a,38b,38c、及び、38dを備えている。ガスタービン1の運転前、シールプレート36の装着状態においては、少なくともエッジシール面38b、とエッジシール面38dの一つは、エッジシール面に対して非接触状態にしておくことで、両矩形断面状プレート41a,41bと、シール溝シール面39b,39dを面接触させておくことができる。
【0028】
このように構成された本実施例のシールプレート36は、矩形断面状プレート41a,41bを有しているため、組立て時は、平板状シールプレートを用いた場合と同様、シール溝に矩形断面状プレートを挿入して容易に位置決めが可能である。なお、矩形断面状プレート41a,41bのうち少なくとも片方を有していれば、矩形断面状プレートを有していないシール部材に比べて、組立時の位置決めの容易が向上する。
【0029】
ガスタービン1の運転とともに圧縮機2と燃焼器3で発生する高温高圧の作動ガスは、圧力が約1.2MPa、温度が1200℃程度で、タービン内部の第1段静翼10aの入口に流入する。以下、第1段動翼10bをはじめとする各段で、流体エネルギーをタービンの回転エネルギーに変化させながら、圧力,温度を低下させ、約600℃で最終段動翼を流出後、排気される。この時、ガスタービン1に直結した発電機5を回転させることで電力を得る。
【0030】
タービン翼は、高温のガスに晒されるため、圧縮機2で得られる高圧空気の一部を抽気して冷却空気として用いる。この冷却空気は、静翼用冷却空気と動翼用冷却空気に区分される。さらに静翼用冷却空気としても各段に適した適正圧力からの抽気が利用される。第2段静翼11aへの冷却空気は、静翼低圧冷却空気経路6aを経由して、第2段静翼体21に導入される。耐熱性の高いNi基合金を用いた翼材の許容温度は800℃程度である。冷却空気は、第2段静翼11a等の翼内部で熱交換し、翼材の許容温度以下にメタル温度を減温する。翼材へのNi基合金の採用は、その耐熱性から冷却空気の削減を可能とする。
【0031】
次に、図7を用いて、ガスタービン1の運転中の本実施例のシール装置について説明する。図7は、本発明の実施例であるシール装置の、ガスタービン1の運転時における状態を示す。
【0032】
ガスタービン1の運転を開始すると、作動ガスや冷却空気を通じて、各部材の温度は上昇する。その結果、静翼体セグメント21a,21bには熱伸びが生じる。この熱伸びにより、周方向では、組立時のセグメント間隙σc_coldが、σc_hotまで狭まる。ただし、この間隙σc_hotは定格点においても接触しないように設計されているため零になることはない。セグメント間隙が狭まると、静翼体セグメント21a,21bの動きに連動して、円形状弾性体40の外径端がエッジシール面38a,38dと接触するようになる。また、このとき円形状弾性体40は弾性変形をおこし、エッジシール面38a,38dとの接触状態が線接触から面接触に移行する。
【0033】
一方、静翼体セグメント21a,21b間には、熱流動上の熱偏差に伴う半径方向の熱伸び偏差によりσr_hotの段差が生じる。すなわち、シール溝にオフセットが生じる。このオフセットにより、矩形断面状プレート41a,41bとシール溝シール面39b,39d、及び、円形状弾性体40の外径端とエッジシール面38bの面接触は解消される。しかし、新たに円形状弾性体40の外径端とエッジシール面38a,38dの間で面接触を生成する。尚、円形状弾性体40の弾性変形による変位は、円形状弾性体40の外径端と、エッジシール面38b,38cの間に生じるスペースに開放されるため、大きな応力を発生することはない。従って、第2段静翼供給キャビティ13とガスパス9の間のセグメント間隙σc_hotによる連通が運転中の常時にわたり面接触により遮断されるため、この間からのリークを抑制できる。
【0034】
静翼体セグメント21a,21b間の間隙の幅やオフセットの度合い、及び円形状弾性体の弾性力によっては、エッジシール面38a,38dに加え、エッジシール面38bを加えた3点で円形状弾性体40の外径端と面接触する状況も考えられる。この場合、シールプレート36でシールされた上下空間の圧力差が、円形状弾性体40を各エッジシール面に押しつける力を強くするように作用するため、より優れたシール効果を得ることができる。
【0035】
ここで説明した、ガスタービン運転時のシール効果は、主に円形状弾性体40による作用によるものである。すなわちシールプレート36が矩形断面状プレート41a,41bを有さず円形状弾性体40のみからなるものであっても、上記効果を得ることができる。
【0036】
本発明のシール装置は、隣り合う部材である静翼体セグメント21a,21bの対向する面にそれぞれシール溝32b,35aを設け、シール溝32b,35aにシール部材であるシールプレート36を挿入して隣り合う部材の間を通過する流体の流れをシールするシール装置において、シール部材であるシールプレート36は溝の長さ方向(図7の奥行き方向)に垂直な面の断面が略円形である円形状弾性体40であり、隣り合う部材のそれぞれの対向面と溝との間にシール部材であるシールプレート36と面接触可能に構成されたシール面であるエッジシール面38a,38b,38c,38dを有するよう構成されている。
【0037】
このように構成することで、オフセットが発生していないときには、円形状弾性体40とエッジシール面38b,38dとが面接触し、オフセットが発生した場合でも他のエッジシール面38a,38b,38c,38dのうち少なくとも二面と円形状弾性体40が面接触するため、面接触による高いシール効果と、部材のオフセットに対応した高い信頼性を両立したシール装置を提供可能である。なお、例えば円形状弾性体40に矩形断面状プレート41a,41bを設けた場合には、オフセットが発生していない場合に、この矩形断面状プレート41a,41bとシール溝シール面39b,39dとを面接触させることができる。そうすると、円形状弾性体40とエッジシール面38b,38dとを面接触させる場合よりもさらに強力なシール効果を得ることもできる。
【0038】
以上に説明したセグメント間に装着したシール装置において、円形状弾性体40に接合した2枚の矩形断面状プレートを接合するとともに、シール溝の対向面エッジ部にシール面を設ける構成により、シールプレートの組立て性の効率向上と、リーク流量低減を達成することができる。さらに、オフセットによって起こりうるシールプレートの変形や、プレートを介してシール溝エッジに掛かる応力の発生を防止し、損傷破壊を未然に防ぐことのできる信頼性の高いシール装置を得ることができる。このシール装置をガスタービンに用いると、この効果を十分に享受できるガスタービンを提供できる。具体的には、空気を圧縮する圧縮機と、圧縮機で圧縮された空気と燃料とを混合燃焼させる燃焼器と、燃焼器で生成された燃焼ガスにより回転駆動するタービンとを有し、タービンを構成する部材のうち、周方向のセグメント構造を有し複数のセグメントが一体化されて機能する部材のセグメント間の間隙面にそれぞれ対向するシール溝を設け、シール溝にシール部材を装着して流体のリークを抑制するシール装置を備えたガスタービンにおいて、シール部材は、シール溝の長さ方向と直交する面の断面が略円形状である円形状弾性体に、円形状弾性体の中心線付近から放射線方向に矩形断面を有するように設けられた矩形断面状プレートを固着した部材であり、間隙面とシール溝の境界であるエッジ部には、平面状のエッジシール面が設けられている。
【0039】
本発明の実施例では、第2段静翼体の外径側エンドウォールについて説明し、外径側エンドウォール37bが外径側エンドウォール31aに対して、半径方向外側(図面上,上方向)にずれるオフセットの場合を説明したが、その逆のオフセットでも、同様の効果が成立するのは明らかである。さらに、外径側エンドウォールのみならず、内径側エンドウォール,多段の静翼セグメント,動翼のシュラウドや静翼ダイアフラム、或いは、これ以外の熱偏差を伴う部材間にも適用すれば、さらに大きな効果が期待できるのは自明である。また、本実施例では、2つの矩形断面状プレート41a,40bを、円形状弾性体40に接合したが、1つでも上記効果を得ることができる。この場合はコスト低減効果を生む。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明のガスタービンの構成図を示す。
【図2】本発明のガスタービンのタービン部の部分断面図を示す。
【図3】本発明のガスタービンのシール溝の配置を示す静翼体の断面図を示す。
【図4】本発明のガスタービンの、静翼体セグメント21aとこれに隣接する静翼体セグメント21bを半径方向外側から眺めた図を示す。
【図5】比較例のシール装置の断面図を示す。
【図6】本発明の実施例であるシールプレート36の詳細形状と装着時の状態を示す。
【図7】本発明の実施例であるシール装置の、ガスタービン運転時における状態を示す。
【符号の説明】
【0041】
1 ガスタービン
2 圧縮機
3 燃焼器
4 タービン
5 発電機
6a,6b,7 冷却空気経路
9 ガスパス
10a 第1段静翼
10b 第1段動翼
11a 第2段静翼
11b 第2段動翼
12 ケーシング
13 第2段静翼供給キャビティ
14 ダイアフラムキャビティ
15 ダイアフラム
16a,16b ホィールスペース
19a 第1段ホィール
19b 第2段ホィール
21 第2段静翼体
21a,21b 静翼体セグメント
22 スペーサー
24 シールフィン
31a,37b 外径側エンドウォール
31b 内径側エンドウォール
32a〜32c,33a〜33c,34a〜34g,35a シール溝
36 シールプレート
38a〜38d エッジシール面
39a〜39d シール溝シール面
40 円形状弾性体
41a,41b 矩形断面状プレート
42a,42b 対向面
43a〜43d 対向面エッジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
隣り合う部材の対向する面にそれぞれシール溝を設け、前記シール溝にシール部材を挿入して前記隣り合う部材の間を通過する流体の流れをシールするシール装置において、
前記シール部材は前記溝の長さ方向に垂直な面の断面が略円形である弾性体であり、
前記隣り合う部材のそれぞれの対向面と前記溝との間に前記シール部材と面接触可能に構成されたシール面を有することを特徴とするシール装置。
【請求項2】
平面同士が対向するように配置された隣り合う部材に、対向するシール溝を設け、前記シール溝にシール部材を挿入して前記隣り合う部材の隙間からの流体のリークを抑制するシール装置において、
前記シール部材は、前記シール溝の長さ方向に垂直な面の断面が略円形である弾性体と、前記シール溝の下面と略平行な面を有するプレートとからなる部材であり、
前記隣り合う部材の平面と前記シール溝との境界であるエッジ部には平面状のシール面が設けられていることを特徴とするシール装置。
【請求項3】
空気を圧縮する圧縮機と、該圧縮機で圧縮された空気と燃料とを混合燃焼させる燃焼器と、該燃焼器で生成された燃焼ガスにより回転駆動するタービンとを有し、
前記タービンを構成する部材のうち、周方向のセグメント構造を有し前記複数のセグメントが一体化されて機能する部材のセグメント間の間隙面にそれぞれ対向するシール溝を設け、前記シール溝にシール部材を装着して流体のリークを抑制するシール装置を備えたガスタービンにおいて、
前記シール部材は、前記シール溝の長さ方向と直交する面の断面が略円形状である円形状弾性体に、前記円形状弾性体の中心線付近から放射線方向に矩形断面を有するように設けられた矩形断面状プレートを固着した部材であり、
前記間隙面と前記シール溝の境界であるエッジ部には、平面状のエッジシール面が設けられていることを特徴とするガスタービン。
【請求項4】
請求項3に記載のガスタービンにおいて、
前記シール部材は、前記矩形断面状プレートを、前記円形状弾性体の中心線で略線対称に設けたことを特徴とするガスタービン。
【請求項5】
請求項3に記載のガスタービンにおいて、
前記円形状弾性体は、中空環状体であることを特徴とするガスタービン。
【請求項6】
請求項3に記載のガスタービンにおいて、
前記矩形断面状プレートの厚みが、前記シール溝の高さと前記セグメント間の半径方向最大偏差との差以下であることを特徴とするガスタービン。
【請求項7】
空気を圧縮する圧縮機と、該圧縮機で圧縮された空気と燃料とを混合燃焼させる燃焼器と、該燃焼器で生成された燃焼ガスにより回転駆動するタービンとを有し、
前記タービンを構成する部材のうち、周方向のセグメント構造を有し前記複数のセグメントが一体化されて機能する部材のセグメント間の間隙面にそれぞれ対向するシール溝を設け、前記シール溝にシール部材を装着して流体のリークを抑制するシール装置を備えたガスタービンの改造方法において、
前記シール部材を前記溝の長さ方向に垂直な面の断面が略円形である弾性体とし、
前記間隙面と前記シール溝の境界であるエッジ部に平面状のシール面を設けることを特徴とするガスタービンの改造方法。
【請求項8】
空気を圧縮する圧縮機と、該圧縮機で圧縮された空気と燃料とを混合燃焼させる燃焼器と、該燃焼器で生成された燃焼ガスにより回転駆動するタービンとを有し、
前記タービンを構成する部材のうち、周方向のセグメント構造を有し、前記複数のセグメントが一体化されて機能する部材のセグメント間の間隙面に、それぞれ対向するシール溝を設け、前記シール溝にシール部材を装着して流体のリークを抑制するシール装置を備えたガスタービンの運転方法において、
前記間隙面と前記シール溝の境界であるエッジ部に平面状のシール面を設け、前記シール部材として前記溝の長さ方向に垂直な面の断面が略円形である弾性体を用いることで、前記弾性体を前記エッジ部に面接触させることにより前記流体のリークを抑制することを特徴とするガスタービンの運転方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−14161(P2010−14161A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−172884(P2008−172884)
【出願日】平成20年7月2日(2008.7.2)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】