説明

シール部材、液体収容体及び液体噴射装置

【課題】接続孔に対する管状部の挿脱時においてもシール性能を保持することのできるシール部材並びに該シール部材を備えた液体収容体及び液体噴射装置を提供する。
【解決手段】インクカートリッジ21がプリンタに装着されると、インクカートリッジ21に設けられた中空針21cがプリンタ側に設けられた導出孔32b内に挿入される。導出孔32b端部には、円環状に形成された基部33aと、一対の外周側環状突起部33bと、1つの内周側環状突起部33cとを備えたシール部材33が環挿されており、外周側環状突起部33bが導出孔32bの内周面に圧接するとともに、内周側環状突起部33cが中空針21cの外周面に圧接することで、中空針21cと導出孔32bの間の隙間を封止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管状部が挿脱される接続孔内に管状部と接続孔の間の隙間を封止するように環装されるシール部材並びに該シール部材を備えた液体収容体及び液体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体噴射ヘッドから液体をターゲットに対して噴射する液体噴射装置として、例えば、インクジェット式プリンタ(以下、単に「プリンタ」と言う)が知られている。こうしたプリンタのうち、インクを収容するインクカートリッジから液体噴射ヘッドへインクを加圧供給するタイプのプリンタでは、インクカートリッジ内に袋状のインクパックを収容し、インクカートリッジとインクパックとの間に加圧空気を導入することにより、インクパックを加圧して強制的にインクを導出するようにしている。(例えば、特許文献1。)
そのため、インクカートリッジには加圧空気を導入するための中空針が設けられるとともに、プリンタ本体のカートリッジ装着部には加圧空気供給路の下流側端部となる導出孔が設けられている。そして、インクカートリッジ装着時に導出孔内に中空針が挿入されることにより、インクカートリッジ内に加圧空気が導入されるようになっている。また、インクパックには円筒形状の導出部材が溶着されており、この導出部材内に導出孔が設けられるとともに、プリンタ本体のカートリッジ装着部にはインク供給路の上流端に接続された中空針が設けられている。そして、インクカートリッジ装着時に導出孔内に中空針が挿入されることにより、インクパック内のインクがプリンタ本体のインク供給路に導出されるようになっている。
【0003】
このように、加圧空気をプリンタ本体側からインクカートリッジ内へ、あるいはインクをインクカートリッジ内からプリンタ本体側へと供給する際には、供給される流体(加圧空気、インク)の漏洩を防止することが望ましい。そのため、中空針のような管状部と導出孔のような接続孔との間には、接続孔に管状部を挿入した場合に生じる隙間を封止するためにシール部材が環装されていた。
【0004】
そして、こうしたシール部材として、従来は、管状部の外周面と対応する内周部が管状部の挿入方向に向かって先細りとなった漏斗形状に形成されることにより調芯機能を有し、その内周部の最小径部位に内周側環状突起部が形成されるとともに、接続孔の内周面と対応する外周部に外周側環状突起部が設けられたものが一般に用いられていた。
【特許文献1】特開2005−059322号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、このように形成されたシール部材においては、管状部の挿脱時にシール部材の内周側環状突起部と管状部の外周面との摺動摩擦抵抗に起因して生じる応力でシール部材が撓んでしまい、シール性能が損なわれることがあった。すなわち、既に挿入された状態にある管状部を引き抜く脱着時には、シール部材が前述した漏斗形状を拡げるように撓むため問題はないが、その一方、管状部の挿入時には、シール部材が前述した漏斗形状を窄ませるように撓んでしまうため、シール部材の外周部と接続孔との間のシール性能が低下してしまうという問題があった。
【0006】
なお、上記インクジェット式プリンタにおいてインクカートリッジをプリンタ本体に装着する場合に限らず、管状部が挿脱される接続孔内に管状部と接続孔の間の隙間を封止するように環装されるシール部材にあっては、こうした実情も概ね共通したものとなっている。
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、接続孔に対する管状部の挿脱時においてもシール性能を保持することのできるシール部材並びに該シール部材を備えた液体収容体及び液体噴射装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明のシール部材は、管状部が挿脱される接続孔内に管状部と接続孔の間の隙間を封止するように環装されるシール部材であって、前記接続孔内へ環装可能な円環状に形成された基部と、該基部の内周側に設けられ、該基部に対する前記管状部の挿脱時に該管状部の外周面に摺接する内周側環状突起部と、前記基部の外周側に該基部の軸線方向において前記内周側環状突起部よりも前記管状部の挿入方向前側及び後側にそれぞれ設けられ、前記基部の前記接続孔内への環装状態において該接続孔の内周面に圧接する複数の外周側環状突起部とを備える。
【0009】
この構成によれば、外周側環状突起部が基部の軸線方向において内周側環状突起部の両側にそれぞれ設けられているので、接続孔内に環装された状態にある基部に対する管状部の挿脱時にシール部材の一方の端部側に撓みが生じてしまった場合にも、他方の端部寄りに設けられた外周側環状突起部によってシール性能を保持することができる。
【0010】
また、本発明のシール部材において、前記内周側環状突起部は、前記基部の軸線方向における略中央部に一つ設けられ、前記外周側環状突起部は、前記基部の軸線方向において前記内周側環状突起部を中心として対称となる位置に対をなすように設けられている。
【0011】
この構成によれば、基部の軸線方向において、その略中央部に一つだけ設けられた内周側環状突起部を中心として対称となる位置に外周側環状突起部が対をなすように設けられているので、管状部の挿脱時に負荷が偏ってシール部材が撓んでしまうことを抑制することができる。
【0012】
また、本発明のシール部材において、前記一対の外周側環状突起部及び前記内周側環状突起部における前記基部の軸線を含む平面での断面形状は、それぞれ前記基部の軸線方向に対して対称である。
【0013】
この構成によれば、各突起部にかかる摺動摩擦抵抗が管状部の挿入時と脱着時とで等しくなるため、挿入時又は脱着時における各突起部自体の変形を平準化することができる。
また、本発明のシール部材においては、前記内周側環状突起部は前記基部の軸線を含む平面での断面形状が山形であり、前記一対の外周側環状突起部は前記内周側環状突起部よりも小さく形成されるとともに前記内周側環状突起部の山裾部に配置される。
【0014】
この構成によれば、内周側環状突起部は断面形状が山形であるため、山形の側面部で挿入された管状部を摺動案内することができる。また、外周側環状突起部は内周側環状突起部よりも小さく形成され、内周側環状突起部の山裾部に配置されているため、部材の小型化を図ることができる。
【0015】
また、本発明の液体収容体は、液体を噴射する液体噴射装置に着脱される液体収容体であって、前記液体噴射装置への着脱時に、該液体噴射装置に設けられた管状部が挿脱される接続孔と、上述したシール部材とを備えた。
【0016】
この構成によれば、上記発明のシール部材と同様の作用効果が得られる。
また、本発明の液体噴射装置は、液体を収容した液体収容体を着脱可能な液体噴射装置であって、前記液体収容体の着脱時に、該液体収容体に設けられた管状部が挿脱される接続孔と、上述したシール部材とを備えた。
【0017】
この構成によれば、上記発明のシール部材と同様の作用効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
(第1の実施形態)
以下、本発明をインクジェット式プリンタ(以下、単にプリンタという)に具体化した第1の実施形態を図1〜図5に従って説明する。
【0019】
図1に示すように、本実施形態の液体噴射装置としてのプリンタ11は、略矩形箱状をなす本体ケース12を備えるとともに、この本体ケース12内の前方下部には、プラテン13が主走査方向となる本体ケース12の長手方向(図1において左右方向)に沿って架設されている。プラテン13は、ターゲットとしての記録用紙Pを支持する支持台であって、このプラテン13上には、図示しない紙送り機構により記録用紙Pが主走査方向と直交する副走査方向に沿って給送されるようになっている。
【0020】
本体ケース12内においてプラテン13の後方上部には、主走査方向に沿って棒状のガイド軸14が架設され、このガイド軸14にはキャリッジ15が挿通支持されている。また、本体ケース12内の後方側面においてガイド軸14の両端部と対応する位置には、駆動プーリ16及び従動プーリ17が回転自在に支持されている。駆動プーリ16にはキャリッジモータ18が連結されるとともに、一対のプーリ16,17間にはキャリッジ15を固定支持した無端状のタイミングベルト19が掛装されている。したがって、キャリッジ15は、キャリッジモータ18の駆動により、ガイド軸14に沿って主走査方向に往復移動可能となっている。
【0021】
本体ケース12内の一端側(図1では右端側)にはカートリッジホルダ20が設けられている。カートリッジホルダ20には、液体収容体としてのインクカートリッジ21が液体としてのインクの色毎に複数個、着脱可能に装着されている。各インクカートリッジ21はカートリッジホルダ20に装着された場合にインク供給路22の上流端に接続されるようになっている。また、各インク供給路22の下流端は、キャリッジ15上に搭載されたバルブユニット23の上流側とそれぞれ接続されるとともに、バルブユニット23の下流側はキャリッジ15の下面側に設けられた記録ヘッド24に接続されている。
【0022】
カートリッジホルダ20とプラテン13との間には、記録ヘッド24の退避位置となるホームポジションHPが設けられている。印刷の開始前などには、このホームポジションHPにおいて記録ヘッド24に対するクリーニング等、各種メンテナンス処理が実行される。
【0023】
カートリッジホルダ20の上方には、加圧ユニット25が搭載されている。この加圧ユニット25は、加圧空気をインクカートリッジ21内に圧送する装置であって、加圧空気の供給源である加圧ポンプ26が加圧空気供給路27の上流端に接続されている。加圧空気供給路27の途中には圧力検出器28が設けられるとともに、圧力検出器28の下流側には大気開放弁29が設けられている。加圧空気が送られる際には、圧力検出器28によって加圧空気供給路27内の加圧空気の圧力が検出され、この検出値に基づいて加圧ポンプ26の駆動制御が行われる。また、何らかの事情により加圧空気供給路27内の圧力が過度の状態になった場合は、大気開放弁29が開放動作して加圧空気供給路27内の圧力を大気中に放出するようになっている。
【0024】
加圧空気供給路27は、大気開放弁29の下流側に配設された分配器30を境にインクカートリッジ21の個数と同数に分岐されている。そして、分岐された各加圧空気供給路27は、それぞれの下流端が対応するインクカートリッジ21に接続されている。
【0025】
次に、本実施形態のプリンタにおけるインク供給システムについて図2に基づいて説明する。
図2に示すように、矩形箱状のインクカートリッジ21の内部は加圧室21aとなっており、この加圧室21a内にインクパック31が収容されている。そして、加圧空気供給路27の下流端が加圧室21a内に連通するとともに、インク供給路22の上流端がインクパック31内に連通している。
【0026】
加圧ユニット25の加圧ポンプ26が駆動された場合には、加圧ポンプ26から圧送された加圧空気が加圧空気供給路27を介して加圧室21a内に導入され、加圧空気の空気圧によってインクパック31が押し潰される。すると、インクパック31内のインクがインク供給路22を通じてバルブユニット23に圧送される。そして、バルブユニット23においてインクの流動圧が調整されたインクが記録ヘッド24に送られ、記録ヘッド24の下面に設けられた複数のノズル(図示略)から記録用紙Pにインク滴が噴射されることで印刷が行われるようになっている。
【0027】
次に、インクカートリッジ21と加圧空気供給路27との接続部について図3に基づいて説明する。
インクカートリッジ21の一側面(図3では右側面)には、カートリッジホルダ20に装着された場合に、加圧空気供給路27の下流端との接続部位となる凹部21bが形成されており、凹部21bの加圧室21a側の内壁面からは管状部としての中空針21cが突設されている。中空針21c内には流路21dが形成されており、この流路21dは中空針21cの先端に上流側開口21eが設けられているとともに、加圧室21a内に下流側開口21fが設けられている。
【0028】
また、加圧空気供給路27の下流端には円筒形状をなす接続部材32が接続されるとともに、その接続部材32の先端部には円筒形状のヘッド部32aが形成されている。ヘッド部32aを含む接続部材32内には、接続孔としての導出孔32bが形成されている。この導出孔32bの出口端部には、導出孔32bよりも口径の大きい円形溝32cが導出孔32bの一部を構成するべく拡径形成されており、この円形溝32c内に可撓性素材からなるシール部材33が環装されている。
【0029】
接続部材32のヘッド部32aには円形溝32cの開口を覆うようにキャップ部材34が嵌着されており、このキャップ部材34によってシール部材33は円形溝32c内からの抜け防止が図られている。このキャップ部材34は、接続部材32のヘッド部32aの外周面に外嵌合する円筒部34aと、この円筒部34aの一方の開口(図3において左側の開口)を塞ぐ底部34bとから形成されている。そして、底部34bの中央には中空針21cよりも直径がやや大きく且つ円形溝32cよりも開口径が小さく形成された円孔34cが設けられている。
【0030】
したがって、インクカートリッジ21がカートリッジホルダ20に装着された場合には、中空針21cが円孔34cに挿通されてその先端が導出孔32b内に挿入されることにより、流路21dを通じて導出孔32b内と加圧室21a内とが連通されるようになっている。
【0031】
次に、シール部材33について図3と図4(a)〜図4(d)とをあわせて参照しながら、説明する。
シール部材33は、導出孔32bの一部である円形溝32cと対応するように円環状に形成された基部33aを備えている。基部33aの外周面には、一対の外周側環状突起部33bが設けられるとともに、基部33aの内周面には、基部33aの軸線方向における略中央部に1つの内周側環状突起部33cが設けられている。そして、この内周側環状突起部33cを境とした基部33aの軸線方向両側の各内周面は、内周側環状突起部33cに向かって先細りとなった漏斗形状に各々形成されることにより、シール部材33に中空針21cを導出孔32bの中心に向けて挿入ガイドする調芯機能を付与するようになっている。
【0032】
基部33aの外周面上において、一対の外周側環状突起部33bは、それぞれ基部33aの軸線方向において互いに離間するように設けられている。また、各外周側環状突起部33bは、内周側環状突起部33cとの位置関係では、基部33aの軸線方向において、内周側環状突起部33cよりも中空針21cの導出孔32bに対する挿入方向前側及び後側に位置するようにそれぞれ設けられている。換言すると、内周側環状突起部33cは、基部33aの軸線方向において一対の外周側環状突起部33bの間に位置するように設けられている。
【0033】
内周側環状突起部33cは基部33aの軸線Sを含む平面での断面形状が山形であり、一対の外周側環状突起部33bは内周側環状突起部33cよりも小さく形成されるとともに内周側環状突起部33cの山裾部に基部33aの軸線方向において内周側環状突起部33cを中心として対称位置に配置されている。さらに、一対の外周側環状突起部33b及び内周側環状突起部33cは、基部33aの軸線Sを含む平面での各々の断面形状が該軸線方向に対して対称となっているため、シール部材33は基部33aの軸線方向に対してシール部材33全体の断面形状が対称となっている。
【0034】
シール部材33は、基部33aが導出孔32b(円形溝32c)内へ環装された状態において、外周側環状突起部33bが導出孔32b(円形溝32c)の内周面に圧接するようになっている。また、シール部材33は、中空針21cが基部33a及び導出孔32bに対して挿脱される場合には、内周側環状突起部33cが中空針21cの外周面に圧接状態となって摺接するようになっている。そして、このように外周側環状突起部33bが導出孔32b(円形溝32c)の内周面に圧接するとともに、内周側環状突起部33cが中空針21cの外周面に圧接することで、中空針21cと導出孔32bの間の隙間を封止するようになっている。
【0035】
次に、以上のように構成されたシール部材33の作用について説明する。
プリンタ11においては、印刷を行う前の準備作業として、カートリッジホルダ20にインクカートリッジ21が装着される。
【0036】
すると、このインクカートリッジ21の装着に伴い、インクカートリッジ21に設けられた凹部21b内にカートリッジホルダ20側の接続部材32が挿入される。また、凹部21bの内壁面から突設された中空針21cは接続部材32における導出孔32bの先端部(すなわち、円形溝32c)に環装されたシール部材33の内周側環状突起部33cの側面部(すなわち、漏斗形状をなす内周面)で摺動案内されながら、導出孔32b内に挿入される。
【0037】
以上のようにインクカートリッジ21を装着する準備作業が終了した後、加圧ユニット25の加圧ポンプ26が駆動された場合には、加圧ポンプ26から圧送された加圧空気が加圧空気供給路27を介して加圧室21a内に導入され、インクパック31内のインクがインク供給路22を通じて記録ヘッド24に送られて印刷が行われる。
【0038】
次に、プリンタ11において印刷が行われ、インクカートリッジ21がインク切れになった場合には、新しいインクカートリッジ21と交換するために、インク切れとなったインクカートリッジ21をカートリッジホルダ20から取り外す作業が行われる。この場合には、接続部材32が凹部21b内から取り出されるのに伴い、中空針21cがシール部材33の内周側環状突起部33cと摺接しながら導出孔32bから抜き出される(脱着される)ことで、加圧空気供給路27とインクカートリッジ21との接続が解除される。 このように、交換等のためにインクカートリッジ21が着脱されるのに伴い、中空針21cは導出孔32bに対して挿脱される。そして、中空針21cの挿脱時において、シール部材33は、内周側環状突起部33cが中空針21cとの摺接により摺動摩擦抵抗を受けるために、その摺動摩擦抵抗により生じる応力の影響で、シール部材33には撓みが生じる。
【0039】
こうしたシール部材33の撓みはシール性能の低下を招く場合がある。このシール性能の低下について、図5(a)〜図5(d)に示す従来のシール部材35を例に挙げて説明する。
【0040】
従来のシール部材35は、円環状に形成された基部35aの軸線方向において一端寄り(図5(c)及び図5(d)において右端寄り)の外周面に外周側環状突起部35bが一つ設けられるとともに、他端寄りに内周面が漏斗形状に形成された内周側環状突起部35cが設けられていた。このシール部材35は、中空針21cの挿入方向に向かって内周面が先細りとなっており、この内周面で中空針21cを摺動案内した後に中空針21cの外周面に圧接されるとともに、外周側環状突起部35bが導出孔32bの内周面に圧接されることで、隙間を封止するようになっていた。
【0041】
そのため、中空針21cの挿脱時において、特に挿入時には、内周側環状突起部35cが中空針21cの外周面に圧接状態となって摺接するため、その摺動摩擦抵抗により生じる応力の影響で基部35aが撓み変形する。すなわち、外周側環状突起部35bが導出孔32bの内周面から離間するようにシール部材35は撓み変形する。そして、この撓み変形でシール部材35と導出孔32bとの間には加圧空気の漏洩につながる隙間が形成されてしまい、シール部材35の外周部と導出孔32bとの間のシール性能が低下してしまうという問題があった。
【0042】
これに対して、本実施形態におけるシール部材33は、中空針21cの挿入に伴い基部33aが撓み変形したときに、一対の外周側環状突起部33bのうち中空針21cの挿入方向後側(図3では左側)に位置する外周側環状突起部33bが円形溝32c(導出孔32b)の内周面から離間するようにシール部材33は撓み変形する。しかし、同時に、一対の外周側環状突起部33bのうち中空針21cの挿入方向前側(図3では右側)に位置する外周側環状突起部33bは円形溝32c(導出孔32b)の内周面に対してさらに圧接されるようになる。
【0043】
つまり、シール部材33には外周側環状突起部33bが一対、すなわち2つ設けられているため、基部33aの撓み変形により一方の外周側環状突起部33bが導出孔32bの内周面から離間した場合にも、他方の外周側環状突起部33bが導出孔32bの内周面との圧接状態を維持することによってシール性能が保持されるようになっている。したがって、中空針21c内に形成された流路21dを通じて導出孔32b内と加圧室21a内とが連通される際に、シール部材33と導出孔32bとの間からの加圧空気の漏洩が抑制される。
【0044】
また、中空針21cの脱着時には、挿入時とは逆に、シール部材33は、一対の外周側環状突起部33bのうち中空針21cの抜き出し方向後側(図3では右側)に位置する外周側環状突起部33bが導出孔32bの内周面から離間するように撓み変形する。そして、その際の撓み変形では、一対の外周側環状突起部33bのうち中空針21cの抜き出し方向前側(図3では左側)に位置する外周側環状突起部33bが円形溝32c(導出孔32b)の内周面に対してさらに圧接されることになる。したがって、シール部材33は、中空針21cが導出孔32bから抜き出される(脱着される)際にも、シール部材33と導出孔32bとの間からの加圧空気の漏洩を抑制可能である。
【0045】
また、そのシール部材33は、基部33aの軸線方向における略中央部に内周側環状突起部33cが設けられているので、内周部における摺動摩擦抵抗に基づく応力が基部33aの軸線方向の片側に集中して作用することもない。また、シール部材33は基部33aの軸線方向に対して断面形状が対称となっているため、シール部材33の各突起部33b,33cにかかる摺動摩擦抵抗による応力は中空針21cの挿入時と脱着時とで等しく、挿入時又は脱着時における各突起部33b,33cの変形が平準化される。
【0046】
上記説明した第1の実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)上記実施形態では、シール部材33に外周側環状突起部33bが2つ設けられているので、一方の外周側環状突起部33bが撓んだ場合にも、他方の外周側環状突起部33bによってシール部材33と導出孔32bとの間のシール性能を保持することができる。
【0047】
(2)上記実施形態では、シール部材33は基部33aの軸線方向に対して、内周側環状突起部33cの両側に外周側環状突起部33bが設けられているので、シール部材33の一方の端部側が撓んだ場合にも、他方の端部寄りに設けられた外周側環状突起部33bによってシール性能を保持することができる。
【0048】
(3)上記実施形態では、シール部材33の基部33aの軸線方向における略中央部に内周側環状突起部33cが設けられているので、内周部における摺動摩擦抵抗が片側に集中しないようにすることができ、シール部材33の撓みを抑制することができる。また、シール部材33に設けられた一対の外周側環状突起部33bは、基部33aの軸線方向において内周側環状突起部33cを中心として対称位置に設けられているので、中空針21cの挿脱時に負荷が偏ってシール部材33が撓んでしまうことを抑制することができる。
【0049】
(4)上記実施形態では、シール部材33の各突起部33b,33cにかかる摺動摩擦抵抗が中空針21cの挿入時と脱着時とで等しくなるため、挿入時又は脱着時における各突起部33b,33cの変形を平準化することができる。
【0050】
(5)上記実施形態では、シール部材33の内周側環状突起部33cは断面形状が山形であるため、山形の側面部で挿入された中空針21cを摺動案内することができる。また、外周側環状突起部33bは内周側環状突起部33cよりも小さく形成され、内周側環状突起部33cの山裾部に配置されているため、部材の小型化を図ることができる。
【0051】
(第2の実施形態)
次に、本発明にかかる発明の第2の実施形態について説明する。
なお、この実施形態も先の第1の実施形態と同様、本発明にかかる液体噴射装置をインクジェット式プリンタに具体化したものであるが、本実施形態においては、インクをインクカートリッジ21内からプリンタ11本体側へと供給する際に、インクの漏洩を防止するために上述したシール部材33を用いている点が第1の実施形態と異なる。
【0052】
したがって、インクカートリッジ21とインク供給路22との接続部について図6に基づいて説明する。
本実施形態のインクカートリッジ21内に収容されたインクパック31は、2枚のフィルムを重ね合わせて3辺を熱溶着するとともに、残りの一辺(図6では左側の辺)をその中央から円筒形状の導出部材36が突出するように配置された状態で熱溶着することで構成されている。
【0053】
導出部材36のインクパック31から突出した端部には略円筒形状のヘッド部36aが形成されている。また、ヘッド部32aを含む導出部材36内には、接続孔としての導出孔36bが形成されている。ヘッド部36a内に形成された導出孔36bの出口端部には、導出孔36bよりも口径の大きい円形溝36cが導出孔36bの一部を構成するべく拡径形成されており、この円形溝32c内にシール部材33が環装されている。
【0054】
導出部材36のヘッド部36aの開口端面にはフィルム部材37が溶着されており、このフィルム部材37によってシール部材33は円形溝32c内に封入されるとともに、インクパック31の開口が封止されている。
【0055】
また、カートリッジホルダ20には、管状部としての中空針38の基端側が接続されている。中空針38内には流路38aが形成されており、この流路38aの下流端はインク供給路22の上流端と接続されるとともに、中空針38の先端部には連通孔38bが設けられている。
【0056】
次に、以上の構成におけるシール部材33の作用について説明する。
プリンタ11においては、印刷を行う前の準備作業として、カートリッジホルダ20にインクカートリッジ21が装着される。
【0057】
すると、中空針38がフィルム部材37を貫通し、導出部材36の先端部に環装されたシール部材33の内周側環状突起部33cの側面部で摺動案内されながら、導出孔36b内に挿入される。
【0058】
このとき、中空針38と導出孔36bとの間の隙間はシール部材33に設けられた外周側環状突起部33b及び内周側環状突起部33cが各々対応する周面に圧接されることで封止される。そのため、中空針38内に形成された流路38aを通じて導出孔36b内とインク供給路22内とが連通される際に、インクの漏洩が抑制される。
【0059】
以上のようにインクカートリッジ21を装着する準備作業が終了した後、加圧ユニット25の加圧ポンプ26が駆動された場合には、加圧ポンプ26から圧送された加圧空気が加圧空気供給路27を介して加圧室21a内に導入され、インクパック31内のインクがインク供給路22を通じて記録ヘッド24に送られて印刷が行われる。
【0060】
次に、プリンタ11において印刷が行われ、インクカートリッジ21がインク切れになった場合には、新しいインクカートリッジ21と交換するために、インク切れとなったインクカートリッジ21をカートリッジホルダ20から取り外す作業が行われる。この場合には、中空針38がシール部材33の内周側環状突起部33cの側面部で摺動案内されながら導出孔36bから抜き出されることで、インク供給路22とインクカートリッジ21との接続が解除される。
【0061】
このように、交換等のためにインクカートリッジ21が着脱されるのに伴い、中空針38は導出孔36bに対して挿脱され、シール部材33は、内周側環状突起部33cが中空針38との摺接により摺動摩擦抵抗を受ける。そのため、シール部材33には撓みが生じるが、本実施形態においても、第1の実施形態と同様の効果を奏することができるため、シール性能が保持される。
【0062】
なお、上記各実施形態は以下のような別の実施形態に変更してもよい。
・上記第1の実施形態においては、プリンタ11本体側に中空針21cを設けるとともに、インクカートリッジ21側に導出孔32b及びシール部材33を設けるようにしてもよい。
【0063】
・上記第2の実施形態においては、インクカートリッジ21側に中空針38を設けるとともに、プリンタ11本体側に導出孔36b及びシール部材33を設けるようにしてもよい。
【0064】
・各実施形態においては、インク及び加圧空気の漏洩を防止するために、シール部材33を2つ備えるようにしてもよい。その際には、両方のシール部材33をプリンタ11本体側に備えるようにしてもよいし、インクカートリッジ21側に両方のシール部材33を設けるようにしてもよい。あるいは、プリンタ11本体側とインクカートリッジ21側に一つずつシール部材33を備えるようにしてもよい。
【0065】
・上記各実施形態においては、シール部材33の内周側環状突起部33cの基部33aの軸線Sを含む平面での断面形状を山形としたが、この断面形状は山形に限らず、例えば半円形状等でもよい。
【0066】
・上記各実施形態においては、シール部材33の一対の外周側環状突起部33bを内周側環状突起部33cよりも小さく形成するようにしたが、同じ大きさに形成してもよいし、内周側環状突起部33cより大きく形成するようにしてもよい。
【0067】
・上記各実施形態においては、2つの外周側環状突起部33bを同形状としたが、基部33aの軸線方向中心を鏡とした鏡面対称となる形状としてもよいし、管状部や接続孔の形状にあわせて異なる大きさや形状としてもよい。
【0068】
・上記各実施形態においては、シール部材33の一対の外周側環状突起部33bを内周側環状突起部33cの山裾部に配置されるようにしたが、内周側環状突起部33cより基部33aの軸線方向外側に配置するようにしてもよい。
【0069】
・上記各実施形態においては、シール部材33の一対の外周側環状突起部33b及び内周側環状突起部33cにおける基部33aの軸線Sを含む平面での断面形状を基部33aの軸線方向に対して対称としたが、管状部や接続孔の形状にあわせて変形するようにしてもよい。
【0070】
・上記各実施形態においては、シール部材33の内周側環状突起部33cを基部33aの軸線方向における略中央部に設けるとともに一対の外周側環状突起部33bを内周側環状突起部33cを中心として対称位置に設けるようにしたが、各突起部33b,33cの配置を管状部や接続孔の形状にあわせてずらすようにしてもよい。
【0071】
・各実施形態においては、本発明にかかる液体噴射装置をインクジェット式プリンタに適用する場合について説明したが、こうしたプリンタに限らない他の液体噴射装置にも本発明は同様に適用することができる。例えば、ファクシミリや複写機等に用いられる印刷装置や、液晶ディスプレイ、ELディスプレイ、あるいは面発光ディスプレイの製造などに用いられる電極材や色材などの液体を噴射する液体噴射装置、バイオチップ製造に用いられる生体有機物を噴射する液体噴射装置、さらには精密ピペットとしての試料噴射装置等であってもよい。
【0072】
以下、前記実施形態及び各変形例から把握される技術的思想を記載する。
(1)前記基部の軸線方向に対して断面形状が対称であることを特徴とする請求項1〜4のうちいずれか一項に記載のシール部材。この構成によれば、管状部の挿入時及び脱着時において同等のシール性能を保持することができる。したがって、装着向きを問わずにシール部材を使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】実施形態におけるインクジェット式プリンタの概略平面図。
【図2】実施形態におけるプリンタのインク供給システムを説明する模式図。
【図3】第1の実施形態におけるインクカートリッジと加圧空気供給路との接続部を示す断面図。
【図4】(a)、(b)は実施形態におけるシール部材の斜視図、(c)は同じく側面図、(d)は同じく断面図。
【図5】(a)、(b)は従来のシール部材の斜視図、(c)は同じく側面図、(d)は同じく断面図。
【図6】第2の実施形態におけるインクカートリッジとインク供給路との接続部を示す断面図。
【符号の説明】
【0074】
11…液体噴射装置としてのプリンタ、21…液体収容体としてのインクカートリッジ、21c,38…管状部としての中空針、32b,36b…接続孔としての導出孔、33,35…シール部材、33a,35a…基部、33b,35b…外周側環状突起部、33c,35c…内周側環状突起部、S…軸線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
管状部が挿脱される接続孔内に管状部と接続孔の間の隙間を封止するように環装されるシール部材であって、
前記接続孔内へ環装可能な円環状に形成された基部と、
該基部の内周側に設けられ、該基部に対する前記管状部の挿脱時に該管状部の外周面に摺接する内周側環状突起部と、
前記基部の外周側に該基部の軸線方向において前記内周側環状突起部よりも前記管状部の挿入方向前側及び後側にそれぞれ設けられ、前記基部の前記接続孔内への環装状態において該接続孔の内周面に圧接する複数の外周側環状突起部とを備えることを特徴とするシール部材。
【請求項2】
前記内周側環状突起部は、前記基部の軸線方向における略中央部に一つ設けられ、前記外周側環状突起部は、前記基部の軸線方向において前記内周側環状突起部を中心として対称となる位置に対をなすように設けられていることを特徴とする請求項1に記載のシール部材。
【請求項3】
前記外周側環状突起部及び前記内周側環状突起部における前記基部の軸線を含む平面での断面形状は、それぞれ前記基部の軸線方向に対して対称であることを特徴とする請求項1又は2に記載のシール部材。
【請求項4】
前記内周側環状突起部は前記基部の軸線を含む平面での断面形状が山形であり、前記外周側環状突起部は前記内周側環状突起部よりも小さく形成されるとともに前記内周側環状突起部の山裾部に配置されることを特徴とする請求項1〜3のうちいずれか一項に記載のシール部材。
【請求項5】
液体を噴射する液体噴射装置に着脱される液体収容体であって、
前記液体噴射装置への着脱時に、該液体噴射装置に設けられた管状部が挿脱される接続孔と、
請求項1〜4のうちいずれか一項に記載のシール部材とを備えたことを特徴とする液体収容体。
【請求項6】
液体を収容した液体収容体を着脱可能な液体噴射装置であって、
前記液体収容体の着脱時に、該液体収容体に設けられた管状部が挿脱される接続孔と、
請求項1〜4のうちいずれか一項に記載のシール部材とを備えたことを特徴とする液体噴射装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2008−105258(P2008−105258A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−289990(P2006−289990)
【出願日】平成18年10月25日(2006.10.25)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】