説明

シール部材及びシール部材の取付方法

【課題】通常のシール部材を使用したとしても、シール部材を軌道輪に容易且つ確実に取り付けることができるシール部材及びシール部材の取付方法を提供する。
【解決手段】シール部材20は、円環形状の芯金21と、芯金21に射出成形される樹脂製の弾性体22と、を備え、弾性体22が加熱又は超音波振動により軟化状態とされた後、シール部材20が軌道輪11に設けられる嵌合溝11bに圧入固定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シール部材及びシール部材の取付方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車、工作機械等の回転部材には、シール部材を備える軸受がよく利用される。この種の軸受は、例えば、互いに相対回転可能に配置される外輪(軌道輪)及び内輪(軌道輪)を備え、この外輪又は内輪に設けられる嵌合溝にシール部材を取り付けて、外輪及び内輪の間の空間が密封されるものである。これにより、軸受内部の潤滑剤の漏洩が防止されると共に、外部からの粉塵や水等の異物の浸入が防止されて、軸受の信頼性及び耐久性等を高めることができる。なお、シール部材としては、円環形状の芯金とこの芯金により補強される樹脂製の弾性体を備えるものがよく使用される。
【0003】
そして、シール部材を転がり軸受に取り付ける一般的な方法は、例えば、外輪又は内輪の端面側からシール部材を配置・挿入した後、シール部材の外側面を専用の治具等で内側に押圧して、大きな圧入力により嵌合溝に圧入固定するという手順で行われる。
【0004】
ここで、このようなシール部材の取り付け方法においては、嵌合溝とシール部材との物理的干渉が大きい場合には挿入に大きな圧入力を必要とし、逆に、圧入力が不十分或いは嵌合溝とシール部材との物理的干渉が少ない場合にはシール部材の外れが発生する可能性がある。
【0005】
そこで、これを改善するため、従来のシール部材として、嵌合溝に芯金が挿入されるに従って、徐々に弾性体が嵌合溝に引き込まれるように構成されたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2969246号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1のシール部材では、弾性体が嵌合溝に引き込まれるように、弾性体が芯金の周縁部より軸方向外側で傾斜して突出する形状に形成されるため、挿入の際に芯金と弾性体が分離してしまう可能性があった。また、上記特許文献1のシール部材では、通常のシール部材とは形状が異なるため、その採用にあたっては軸受側の新規設計や専用金型の作成など、製造コストが増加する可能性があった。
【0008】
本発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、通常のシール部材を使用したとしても、シール部材を軌道輪に容易且つ確実に取り付けることができるシール部材及びシール部材の取付方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1)円環形状の芯金と、前記芯金に射出成形される樹脂製の弾性体と、を備え、相対回転可能に対向して配置される一対の軌道輪の一方に取り付けられ、前記一対の軌道輪間の空間を密封するシール部材であって、前記弾性体が加熱又は超音波振動により軟化状態とされた後、前記軌道輪に設けられる嵌合溝に圧入固定されることを特徴とするシール部材。
(2)相対回転可能に対向して配置される一対の軌道輪の一方に取り付けられ、前記一対の軌道輪間の空間を密封するシール部材の取付方法であって、前記シール部材は、円環形状の芯金と、前記芯金に射出成形される樹脂製の弾性体と、を備え、前記弾性体を、加熱により雰囲気温度に対して20℃〜50℃高い温度、且つ前記弾性体が劣化する温度以下又は前記シール部材を圧入固定する際に耳残りが発生する温度以下に調整して、軟化状態にした後、前記シール部材を前記軌道輪に圧入固定することを特徴とするシール部材の取付方法。
(3)相対回転可能に対向して配置される一対の軌道輪の一方に取り付けられ、前記一対の軌道輪間の空間を密封するシール部材の取付方法であって、前記シール部材は、円環形状の芯金と、前記芯金に射出成形される樹脂製の弾性体と、を備え、前記弾性体を、超音波振動により前記弾性体が劣化する温度以下又は前記シール部材を圧入固定する際に耳残りが発生する温度以下に調整して、軟化状態にした後、前記シール部材を前記軌道輪に圧入固定することを特徴とするシール部材の取付方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、シール部材の樹脂製の弾性体を加熱又は超音波振動により軟化状態にした後、シール部材が軌道輪に設けられる嵌合溝に圧入固定されるため、シール部材を軌道輪に固定する際の圧入力を低減することができる。これにより、通常のシール部材を使用したとしても、シール部材を軌道輪に容易且つ確実に取り付けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係るシール部材の一実施形態を備える転がり軸受を説明する要部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係るシール部材及びシール部材の取付方法の一実施形態について、図面に基づいて詳細に説明する。
【0013】
本実施形態の転がり軸受10は、図1に示すように、例えば、深溝玉軸受であり、内周面に外輪軌道面11aを有する外輪(軌道輪)11と、外輪11に対向して配置され、外周面に内輪軌道面12aを有する内輪(軌道輪)12と、外輪軌道面11aと内輪軌道面12aとの間に転動自在に設けられる複数の玉13と、複数の玉13を周方向に所定の間隔で回転自在に保持する保持器14と、を備える。
【0014】
外輪11の軸方向両端部には、外輪11及び内輪12間の軸受空間15を密封する一対のシール部材20がそれぞれ取り付けられている。シール部材20は、円環形状の芯金21と、芯金21に射出成形される樹脂製の弾性体22と、を備える。
【0015】
また、外輪11の内周面の軸方向両端部には、一対の嵌合溝11bが全周に亘ってそれぞれ形成されており、この嵌合溝11bには、シール部材20の弾性体22の外周縁部に形成される嵌合部23が圧入嵌合される。これにより、シール部材20が転がり軸受10に固定される。
【0016】
また、内輪12の外周面の軸方向両端部には、一対のシール溝12bが全周に亘ってそれぞれ形成されており、このシール溝12bには、シール部材20の弾性体22の内周縁部に形成されるシールリップ24が摺接する。
【0017】
そして、本実施形態では、シール部材20の弾性体22を、ホットプレート又はヒートガン等の加熱器を用いて加熱して軟化状態にした後、外輪11の嵌合溝11bに圧入固定する。なお、転がり軸受10は、雰囲気温度(常温)に維持されている。
【0018】
そして、弾性体22を加熱する温度は、雰囲気温度に対して20℃〜50℃高い温度、且つ弾性体22が劣化する温度以下又はシール部材20を圧入固定する際に耳残りが発生する温度以下に調整する。なお、弾性体22の加熱温度を、雰囲気温度に対して20℃〜50℃高い温度に設定したのは、弾性体22に通常使用される樹脂材料の劣化温度を考慮したためであるが、他の樹脂材料を用いる場合は、使用する樹脂材料の特性に応じて加熱温度を調整する。さらに、劣化温度に達していなくとも、弾性体22が軟化し過ぎると耳残り等が生じる可能性があり、特に、弾性体22の嵌合部23ではこの傾向になりやすいため、シール部材20の形状によっても加熱温度を調整する。
【0019】
以上説明したように、本実施形態のシール部材20の取付方法によれば、シール部材20の樹脂製の弾性体22を加熱により軟化状態にした後、シール部材20が外輪11の嵌合溝11bに圧入嵌合されるため、シール部材20を外輪11に固定する際の圧入力を低減することができる。これにより、通常のシール部材を使用したとしても、シール部材20を外輪11に容易且つ確実に取り付けることができる。
【0020】
また、本実施形態のシール部材20の取付方法によれば、シール部材20に対して何ら設計変更を加える必要がないので、従来の製造工程にシール部材の加熱工程を加えるのみで、製造工程の大幅な変更を伴うものではない。
【0021】
なお、本実施形態のシール部材20の取付方法の変形例として、シール部材20の弾性体22を、超音波発振装置等の超音波振動により軟化状態にした後、外輪11の嵌合溝11bに圧入固定してもよい。
【0022】
そして、弾性体22の温度は、超音波振動によって、弾性体22が劣化する温度以下又はシール部材20を圧入固定する際に耳残りが発生する温度以下に調整されている。また、超音波振動の強さ及び付与時間は、弾性体22に使用する樹脂材料やシール部材20の形状に応じて調整する。
【0023】
従って、本変形例によれば、シール部材20の樹脂製の弾性体22を超音波振動により軟化状態にした後、シール部材20が外輪11の嵌合溝11bに圧入嵌合されるため、シール部材20を外輪11に固定する際の圧入力を低減することができる。これにより、通常のシール部材を使用したとしても、シール部材20を外輪11に容易且つ確実に取り付けることができる。
【0024】
なお、本発明は上記実施形態に例示したものに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。
例えば、上記実施形態では、本願発明を深溝玉軸受に適用する場合を例示したが、これに限定されず、シール部材を有する各種の転がり軸受に本願発明を適用してもよい。
また、上記実施形態では、シール部材は、外輪に取り付けられているが、内輪に取り付けられていてもよい。この場合、嵌合溝は内輪に、シール溝は外輪に形成される。
また、上記実施形態では、シール部材のシールリップは内輪のシール溝に摺接しているが、摺接していなくてもよい。
【符号の説明】
【0025】
10 転がり軸受
11 外輪(軌道輪)
11a 外輪軌道面
11b 嵌合溝
12 内輪(軌道輪)
12a 内輪軌道面
12b シール溝
13 玉
14 保持器
15 軸受空間
20 シール部材
21 芯金
22 弾性体
23 嵌合部
24 シールリップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円環形状の芯金と、前記芯金に射出成形される樹脂製の弾性体と、を備え、
相対回転可能に対向して配置される一対の軌道輪の一方に取り付けられ、前記一対の軌道輪間の空間を密封するシール部材であって、
前記弾性体が加熱又は超音波振動により軟化状態とされた後、前記軌道輪に設けられる嵌合溝に圧入固定されることを特徴とするシール部材。
【請求項2】
相対回転可能に対向して配置される一対の軌道輪の一方に取り付けられ、前記一対の軌道輪間の空間を密封するシール部材の取付方法であって、
前記シール部材は、円環形状の芯金と、前記芯金に射出成形される樹脂製の弾性体と、を備え、
前記弾性体を、加熱により雰囲気温度に対して20℃〜50℃高い温度、且つ前記弾性体が劣化する温度以下又は前記シール部材を圧入固定する際に耳残りが発生する温度以下に調整して、軟化状態にした後、前記シール部材を前記軌道輪に圧入固定することを特徴とするシール部材の取付方法。
【請求項3】
相対回転可能に対向して配置される一対の軌道輪の一方に取り付けられ、前記一対の軌道輪間の空間を密封するシール部材の取付方法であって、
前記シール部材は、円環形状の芯金と、前記芯金に射出成形される樹脂製の弾性体と、を備え、
前記弾性体を、超音波振動により前記弾性体が劣化する温度以下又は前記シール部材を圧入固定する際に耳残りが発生する温度以下に調整して、軟化状態にした後、前記シール部材を前記軌道輪に圧入固定することを特徴とするシール部材の取付方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−237368(P2012−237368A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−106458(P2011−106458)
【出願日】平成23年5月11日(2011.5.11)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】