説明

ジオクチルソジウムスルホサクシネート配合固形製剤

ロウ状物質であることから、腸溶性被膜などで被覆する一般的な大腸近位放出型の製剤にしにくいジオクチルソジウムスルホサクシネートは、消化管の上部で放出されることから直接作用としては効果的ではなかった。本発明はジオクチルソジウムスルホサクシネートが作用部位の大腸近位で放出され、効果的な瀉下効果を有する固形製剤の提供を目的として完成したものであり、ジオクチルソジウムスルホサクシネートを配合した溶液を用いて、軽質無水ケイ酸を配合した粉体を造粒した顆粒を含む核粒子に、腸溶性被膜が施されていることを特徴とする固形製剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明はジオクチルソジウムスルホサクシネートを配合した製剤に関する。
【背景技術】
ジオクチルソジウムスルホサクシネートは瀉下薬として知られている。その作用は腸内で硬便に直接作用して水を浸透させ、便を軟化、膨潤させることにより排泄を促進させるものである。しかし、ジオクチルソジウムスルホサクシネートはロウ状物質であることから、腸溶性被膜などで被覆する一般的な大腸近位放出型の製剤にはしにくいことが知られている。そのため、従来のジオクチルソジウムスルホサクシネートを配合した内服薬剤は、経口投与後、消化管の上部で放出されることから直接作用としては効果的ではなかった。
従来ジオクチルソジウムスルホサクシネートを配合した製剤を製造する技術として、ジオクチルソジウムスルホサクシネートおよび微粉末を特殊な条件で粉末化する技術(日本国特許特開平2−255613)などが知られているが、ジオクチルソジウムスルホサクシネートを作用部位の大腸近位で放出させる技術は知られていない。
本発明はジオクチルソジウムスルホサクシネートが作用部位の大腸近位で放出され、効果的な瀉下効果を有する固形製剤の提供を目的とする。
【発明の開示】
本発明者らは課題を解決するために種々検討した結果、ジオクチルソジウムスルホサクシネートおよび軽質無水ケイ酸を配合した粉体を造粒し、得られた顆粒、もしくはその顆粒を製錠して得られた錠剤に対して腸溶性被膜を施すことにより、ジオクチルソジウムスルホサクシネートが大腸付近で放出される、優れた製剤が得られることを見出し本発明を完成した。
すなわち本発明は、ジオクチルソジウムスルホサクシネートおよび軽質無水ケイ酸を含む核粒子に、腸溶性被膜が施されていることを特徴とする固形製剤である。
本発明で核粒子とは腸溶性被膜を施す対象物であり、ジオクチルソジウムスルホサクシネートおよび軽質無水ケイ酸を配合した粉体を練合造粒した顆粒、もしくはそれを製錠した錠剤などを用いることができる。
本発明では軽質無水ケイ酸と共にステアリン酸マグネシウムを同時に配合すると打錠時の作業性の点で好ましい。
本発明で腸溶性被膜とはエンテリックコーティングに一般的に用いられるものを使用することができるが、特にメタクリル酸コポリマー(L、S、LD)、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、カルボキシメチルエチルセルロースおよび酢酸フタル酸セルロースからなる群から選ばれる成分が好ましい。それらは単独または2種以上を混合させて用いることができる。
腸溶性被膜を直接核粒子に被覆する際の被覆量は、核粒子の質量に対して1〜30質量%が好ましい。
また、本発明では腸溶性被膜として、腸溶性のカプセルを用いることもできる。その場合は核粒子の顆粒などを腸溶性のカプセルに詰めカプセル剤とする。
本発明では特にジオクチルソジウムスルホサクシネートと他の瀉下作用のある活性成分を同顆粒中、もしくは別顆粒とし、これを混合して配合すると瀉下作用の向上が期待できるので好ましい。他の瀉下作用のある活性成分としては効果の点でビサコジルが好ましく、その配合量は1日投与量で3〜15mgが好ましい。
ここで、ビサコジルは難溶性のため、製剤に配合しても十分な効果が得られないことがあったが、本発明でビサコジルをジオクチルソジウムスルホサクシネートと同時配合することにより溶解度が向上することも見出した。したがって、本発明でビサコジルとジオクチルソジウムスルホサクシネートを同時配合することにより、それぞれ単独に投与する場合に比べて相乗効果が期待できる。そのため、本発明では核粒子にビサコジルを同時配合した処方がより好ましい。
本発明では、ジオクチルソジウムスルホサクシネートを溶解させる溶媒に水溶性高分子を配合すると、得られる顆粒の性状の点で好ましい。
ここで配合する水溶性高分子は、結合剤として通常用いられるものを使用することができるが、好ましいものとしてヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドンおよびヒドロキシプロピルメチルセルロースをあげることができる。水溶性高分子の配合量は、ジオクチルソジウムスルホサクシネート1質量部に対し0.1〜0.3質量部が好ましい。
本発明において、軽質無水ケイ酸はジオクチルソジウムスルホサクシネート1質量部に対して0.5〜1.5質量部の配合が好ましく、0.6〜1.3質量部の配合がさらに好ましい。1.5質量部を超えて配合すると、余剰の軽質無水ケイ酸などに起因する微粉末により、打錠時に障害が発生することがあるからである。
本発明においてステアリン酸マグネシウムはジオクチルソジウムスルホサクシネート1質量部に対して0.05〜0.5質量部が好ましく、0.1〜0.3質量部の配合がより好ましい。
本発明の核粒子は以下のように製造される。
ジオクチルソジウムスルホサクシネートを水、エタノールなどの溶媒に溶解して溶液とする。その溶液を噴霧しながらもしくは一括に添加し、軽質無水ケイ酸および必要があればステアリン酸マグネシウムを混合した粉体を造粒して粉体を得る。
得られた粉体に、必要があれば通常の医薬品製造に使用される他の薬効成分、添加剤などを加え、常法により、混合、粉砕、造粒等の工程を経て、顆粒剤、錠剤などの形態の核粒子を得ることができる。
本発明の核粒子は錠剤とすることもできるが、一般的に錠剤を製造する際に滑沢剤であるステアリン酸マグネシウムを高濃度で配合すると、得られた錠剤は物性が低いことが知られている。しかし、本発明ではステアリン酸マグネシウムを粉体中に練り込むことにより、造粒後に打錠した際にもその錠剤物性、特に崩壊性や錠剤硬度が低下すること無く配合することができる。したがって腸溶性被膜を施したフィルム錠剤も優れた物性のものを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
第1図は、実施例および比較例の溶出性試験の結果を示した図であり、縦軸に溶出率、横軸に時間およびpHを示した。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、実施例、比較例および試験例により本発明をさらに詳細に説明する。
【実施例1】
[内核錠の製造]
ビサコジル600g、乳糖1248g、ヒドロキシプロピルセルロース632g、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース932gおよび軽質無水ケイ酸120gを混合して得られた粉体に、精製水を造粒溶媒として攪拌造粒し乾燥し顆粒Aとした。
次にジオクチルソジウムスルホサクシネート960gおよびヒドロキシプロピルセルロース200gをアルコールに溶解し、軽質無水ケイ酸960gステアリン酸マグネシウム288gの混合粉体と共に練合造粒を行い、乾燥、整粒後、顆粒Bを得た。顆粒A、顆粒B、ステアリン酸マグネシウム30gおよび軽質無水ケイ酸30gを添加して混合した。得られた顆粒を打錠して、錠径5mm、1錠重量50mgの錠剤を得た。これを核粒子とした。
[腸溶性被膜の製造]
タルク167g、クエン酸トリエチル31g、メタクリル酸コポリマー(S、L混合物)335gおよびヒドロキシプロピルセルロース67gをアルコールに分散溶解させた。コーティング装置に内核錠を入れ、腸溶性被膜液をスプレーコーティングし、1錠当たり約10mgまで腸溶性被膜層を施し本発明の固形製剤を得た。
比較例
実施例1と同様にして製造した核粒子の錠剤を比較例として用いた。
試験例1
実施例および比較例で得られた製剤を、日局溶出試験法第3法フロースルーセル法にて、溶出試験液のpHを1.2、6.55、7.21、6.71に変化させ、経時的にサンプリングし、HPLCにてジオクチルソジウムスルホサクシネートを定量し、溶出率を求めた。その結果を図1に示した。
図1から明らかなように、実施例1より、ジオクチルソジウムスルホサクシネートは胃内を想定した低いpHでは溶出せず、pH7.21の小腸下部で溶出を開始し、比較例に比べて、より作用部位に近いところで放出させることができることが判った。
試験例2
以下の方法により、ビサコジルとジオクチルソジウムスルホサクシネートを同時配合した際の溶解性を測定した。
ビサコジルを精製水に分散させ、一定条件下で5時間振とうさせた液を3000min−1,5minの条件にて遠心分離した。その後、上澄液を採取しHPLCにてビサコジル含量を定量した。
同様にして、濃度が0.07%、0.14%、0.35%となるようにジオクチルソジウムスルホサクシネートを添加した溶液にビサコジルを分散させ、5時間振とうさせた液を3000min−1,5minの条件にて遠心分離した。その後、上澄液を採取しHPLCにてビサコジル含量を定量した。結果を表1に示した。

表から明らかなようにジオクチルソジウムスルホサクシネートが共存することによりビサコジルの溶解度が大幅に向上することがわかった。
【産業上の利用可能性】
本発明によりジオクチルソジウムスルホサクシネートを作用部位である大腸近位に効率的に放出させることが可能になったので、効果的な瀉下薬として有用である。
【図1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジオクチルソジウムスルホサクシネートおよび軽質無水ケイ酸を含む核粒子に、腸溶性被膜が施されていることを特徴とする固形製剤。
【請求項2】
核粒子中に、さらにビサコジルを含むことを特徴とする1記載の固形製剤。
【請求項3】
核粒子中に、さらにステアリン酸マグネシウムを含む1または2に記載の固形製剤。
【請求項4】
腸溶性被膜の被覆量が、核粒子の質量に対して1〜30質量%である1〜3のいずれかに記載の固形製剤。
【請求項5】
腸溶性被膜が、メタクリル酸コポリマーL、メタクリル酸コポリマーS、メタクリル酸コポリマーLD、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、カルボキシメチルエチルセルロースおよび酢酸フタル酸セルロースから選ばれる少なくとも1種である1〜4のいずれかに記載の固形製剤。
【請求項6】
ジオクチルソジウムスルホサクシネート1質量部に対する軽質無水ケイ酸の配合量が0.5〜1.5質量部である1〜5のいずれかに記載の固形製剤。
【請求項7】
ジオクチルソジウムスルホサクシネート1質量部に対するステアリン酸マグネシウムの配合量が0.05〜0.5質量部である1〜6のいずれかに記載の固形製剤。
【請求項8】
ジオクチルソジウムスルホサクシネートを製剤全体の10質量%以上配合したことを特徴とする1〜7のいずれかに記載の固形製剤。
【請求項9】
ジオクチルソジウムスルホサクシネートを配合した溶液を用いて、軽質無水ケイ酸を配合した粉体を造粒した顆粒を含む核粒子に、腸溶性被膜が施されていることを特徴とする固形製剤。
【請求項10】
ジオクチルソジウムスルホサクシネートを配合した溶液を用いて、軽質無水ケイ酸を配合した粉体を造粒し、得られた顆粒を含む核粒子に対して、腸溶性被膜を施すことを特徴とする固形製剤の製造方法。

【国際公開番号】WO2004/024138
【国際公開日】平成16年3月25日(2004.3.25)
【発行日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−535937(P2004−535937)
【国際出願番号】PCT/JP2003/011585
【国際出願日】平成15年9月10日(2003.9.10)
【出願人】(000002819)大正製薬株式会社 (437)
【Fターム(参考)】