説明

ジニトリル類の調製方法

本発明は、酸化状態0の金属元素と有機リンリガンドとを基剤とする触媒の存在下において不飽和ニトリル化合物をヒドロシアン化することによるジニトリル類の調製方法に関する。より特定的には、本発明は、不飽和ニトリルをヒドロシアン化してジニトリルにするための触媒をヒドロシアン化媒体から回収する方法に関する。この方法は、ヒドロシアン化反応から得られる反応媒体中の不飽和ニトリルの濃度を該媒体中に20%未満の不飽和ニトリルの重量濃度が得られるように調節し、次いで該媒体を上相及び下相の2つの相にする沈降工程に供給することから成る。前記下相は触媒系のほとんどを含み、一方、上相は本質的にジニトリルから成る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化状態0の金属元素と有機リンリガンドとを基剤とする触媒の存在下において不飽和ニトリル化合物をヒドロシアン化することによるジニトリル類の調製方法に関する。
【0002】
より特定的には、本発明は、不飽和ニトリルをヒドロシアン化してジニトリルにするための触媒をヒドロシアン化媒体から回収する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
ヒドロシアン化反応は、不飽和を含む化合物からニトリル官能基を含む化合物を合成するために工業的に用いられている。かくして、(特にポリアミドのような多くのポリマーのためのモノマーであるヘキサメチレンジアミンの製造において)重要な化学中間体であるアジポニトリルは、ブタジエン又はブタジエンを含む炭化水素留分(C4留分と称される)の2段階でのヒドロシアン化によって製造される。この製造プロセスにおいては、同じ構成要素(即ち有機金属配位錯体及び亜リン酸トリトリルのような単座オルガノホスファイトタイプの少なくとも1種の有機リンリガンド)から本質的に成る触媒系を用いて2つの反応が実施される。
【0004】
多くの特許明細書に、このアジポニトリルの製造方法及び前記触媒の製造方法が開示されている。さらに、このプロセスの経済性のためには、触媒系を回収してヒドロシアン化工程に再循環することができることが重要である。かくして、米国特許第4539302号明細書には、アジポニトリルの調製方法の第2工程、即ち不飽和ニトリルのジニトリルへのヒドロシアン化において得られる反応媒体から触媒を回収するための方法が開示されている。
【0005】
沈降(デカンテーション)によるこの回収方法によれば、金属元素の損失を抑制することができ、不飽和ニトリルのヒドロシアン化のための低い有機リンリガンド/金属元素比の調節が容易になる。従って、高いリガンド/金属元素比を有する触媒系を回収することも可能になり、これにより、触媒の製造工程及び/又はブタジエンのヒドロシアン化若しくは分枝鎖状ペンテンニトリルの異性化工程に触媒系を再循環して再利用することが可能になる。
【0006】
多くのその他の有機リンリガンドが、これらのヒドロシアン化反応を触媒するために提供されてきている。
【0007】
かくして、例えば国際公開WO99/06355号、同WO99/06356号、同WO99/06357号、同WO99/06358号、同WO99/52632号、同WO99/65506号、同WO99/62855号各パンフレット、米国特許第5693843号明細書、国際公開WO96/1182号、同WO96/22968号各パンフレット、米国特許第5981772号明細書、国際公開WO01/36429号、同WO99/64155又は同WO02/13964号各パンフレットのような数多くの特許明細書に、オルガノホスファイト、オルガノホスフィナイト、オルガノホスホナイト及びオルガノホスフィンタイプの二座リガンドが開示されている。
【0008】
最後に、国際公開WO03/11457号パンフレットには、ヒドロシアン化反応を触媒するために単座リガンドと二座リガンドとの混合物を使用することが提唱されている。かかる混合物を使用することにより、特に二座リガンドを有する有機金属錯体の合成方法に関して、触媒の合成及び有機金属錯体の生成を容易にすることができる。
【0009】
リガンドの混合物の場合にもまた、リガンドや金属元素を損失することなく触媒を回収できることが重要である。
【特許文献1】米国特許第4539302号明細書
【特許文献2】国際公開WO99/06355号パンフレット
【特許文献3】国際公開WO99/06356号パンフレット
【特許文献4】国際公開WO99/06357号パンフレット
【特許文献5】国際公開WO99/06358号パンフレット
【特許文献6】国際公開WO99/52632号パンフレット
【特許文献7】国際公開WO99/65506号パンフレット
【特許文献8】国際公開WO99/62855号パンフレット
【特許文献9】米国特許第5693843号明細書
【特許文献10】国際公開WO96/1182号パンフレット
【特許文献11】国際公開WO96/22968号パンフレット
【特許文献12】米国特許第5981772号明細書
【特許文献13】国際公開WO01/36429号パンフレット
【特許文献14】国際公開WO99/64155号パンフレット
【特許文献15】国際公開WO02/13964号各パンフレット
【特許文献16】国際公開WO03/11457号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の1つの目的は、ジニトリル類の調製方法において、単座リガンドと二座リガンドとの混合物によって形成される触媒の回収方法を提供すること、並びにこうして回収された触媒をヒドロシアン化及び/又は異性化工程において再利用できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的で、本発明は、金属元素と、少なくとも1種の単座オルガノホスファイト化合物並びにオルガノホスファイト、オルガノホスフィナイト、オルガノホスホナイト及びオルガノホスフィンより成る群から選択される少なくとも1種の二座有機リン化合物を含む有機リンリガンド混合物とから構成される有機金属錯体、並びに随意としての促進剤を含む触媒系の存在下で、不飽和モノニトリル化合物をヒドロシアン化することによるジニトリル化合物の調製方法であって、触媒系の回収を含み、ヒドロシアン化反応から得られる反応媒体中の不飽和ニトリルの濃度を該媒体中に20%未満の不飽和ニトリルの重量濃度が得られるように調節し、該媒体を上相及び下相の2つの相にする沈降工程に供給し、この2つの相を分離し、前記下相の少なくとも一部をヒドロシアン化工程に再循環し、前記上相中に存在する有機金属錯体及び有機リン化合物をジニトリルから分離するために該上相を液液抽出に付すことを特徴とする、前記調製方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明にとって好適な単座オルガノホスファイトリガンドの例としては、亜リン酸トリフェニル、亜リン酸トリトリル(TTP)又は亜リン酸トリシメニルを挙げることができる。
【0013】
本発明にとって好適な二座リガンドとしては、以下の構造を有する化合物を挙げることができる(これら式中、Phはフェニルを意味する)。
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

【0014】
本発明の好ましい特徴に従えば、反応媒体中に存在させる触媒は一般的に、金属元素1原子に対するリン原子の数として表わした二座リガンドのモル数が1〜4の範囲であり、リン原子の数として表わした単座リガンドのモル数が4〜7の範囲である。本明細書において「リガンド/ニッケル」という表現は、別途記載がない限り常に、単座リガンド及び/又は二座リガンドの全分子数対ニッケル原子の数の比を指す。
【0015】
ヒドロシアン化反応において触媒作用を示す金属元素は、例えばニッケル、コバルト、鉄、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金、銅、銀、金、亜鉛、カドミウム又はセリウムである。好ましい触媒元素はニッケルである。よりわかりやすくするために、本明細書の続きにおいては金属元素を用語「ニッケル」によって示すが、これは限定的な意味を持つものではない。
【0016】
さらに、不飽和ニトリルのヒドロシアン化反応においては、促進剤又は助触媒を用いるのが一般的である。好ましい促進剤としては、一般的にルイス酸が用いられる。
【0017】
例として、G. A. Olah編集の「Friedel-Crafts and Related Reactions」第1巻、第191〜197頁(1963年)に挙げられたルイス酸を用いることができる。
【0018】
本方法において助触媒として用いることができるルイス酸は、元素周期表第Ib、IIb、IIIa、IIIb、IVa、IVb、Va、Vb、VIb、VIIb及びVIII族からの元素の化合物から選択されるのが有利である。これらの化合物は、一般的に塩、特に塩化物又は臭化物のようなハロゲン化物、硫酸塩、スルホン酸塩、ハロアルキルスルホン酸塩、ペルハロアルキルスルホン酸塩、特にフルオロアルキルスルホン酸又はペルフルオロアルキルスルホン酸塩、ハロ酢酸塩、ペルハロ酢酸塩、カルボン酸塩及びリン酸塩である。
【0019】
かかるルイス酸の非限定的な例としては、塩化亜鉛、臭化亜鉛、ヨウ化亜鉛、塩化マンガン、臭化マンガン、塩化カドミウム、臭化カドミウム、塩化第一錫、臭化第一錫、硫酸第一錫、酒石酸第一錫、塩化インジウム、トリフルオロメチルスルホン酸インジウム、トリフルオロ酢酸インジウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ハフニウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム及びルテチウムのような希土類元素の塩化物若しくは臭化物、塩化コバルト、塩化第一鉄又は塩化イットリウムを挙げることができる。
【0020】
また、トリフェニルボランやチタンテトライソプロポキシドのような化合物も、ルイス酸として用いることができる。
【0021】
もちろん、数種のルイス酸の混合物を用いることもできる。
【0022】
ルイス酸の中では、塩化亜鉛、臭化亜鉛、塩化第一錫、臭化第一錫、トリフェニルボラン、トリフルオロメチルスルホン酸インジウム、トリフルオロ酢酸インジウム及び塩化亜鉛/塩化第一錫混合物が特に好ましい。用いられるルイス酸助触媒は一般的に、ニッケル1モル当たりに0.005〜50モルを占める。
【0023】
本発明の好ましい特徴に従えば、沈降工程に供給する媒体を25℃〜75℃の範囲、有利には30℃〜55℃の範囲の温度まで冷ます。
【0024】
反応媒体の沈降及び2つの相への分離を達成するためには、沈降工程に供給する反応媒体中のニッケルの重量濃度が0.2〜2%の範囲であるのが有利である。
【0025】
かかるニッケル濃度を得るためには、ヒドロシアン化工程から出てきた反応媒体に所定量の触媒系を添加することが必要な場合がある。何故ならば、二座リガンドと組み合わせてニッケルを用いる場合に反応媒体中に用いられるニッケルの濃度は、例えば反応媒体1kg当たりにニッケル100〜2000mg程度のように、非常に低いことがあるからである。
【0026】
本発明の好ましい具体例に従えば、ヒドロシアン化工程から得られる媒体中のニッケルの濃度を、沈降工程において得られる下相の少なくとも一部を導入することによって、好適な所望の値に調節する。
【0027】
本発明のさらに別の好ましい特徴に従えば、沈降工程に供給する媒体中の不飽和ニトリルの濃度を20重量%又はそれ未満、有利には4〜20重量%の範囲にする。
【0028】
かかる濃度の調節又は形成は、以下のような様々な方法で行うことができる。
【0029】
・第1の可能性は、反応の最後における反応媒体又は反応器から出てくる反応媒体中の不飽和ニトリルの濃度を20重量%又はそれ未満にするためにヒドロシアン化工程における不飽和ニトリルの転化度を調節して規定することである。
【0030】
・本発明の別の具体例に従えば、ヒドロシアン化工程から出てくる反応媒体を減圧下における蒸留工程又は未転化不飽和ニトリルのフラッシング工程に供給する。この工程によって、沈降工程に供給する媒体中の不飽和ニトリルの濃度を調節することができる。
【0031】
蒸留ボトム中において沈殿形成することによってニッケルが失われるのを回避するためには、この蒸留工程のボトム温度を140℃より低くするのが有利である。用語「蒸留ボトム温度」とは、ボイラー中に見出される媒体の温度だけではなく、該ボイラーの壁の温度をも意味するものとする。
【0032】
不飽和ニトリルの一部を蒸留する工程を含むこの具体例においては、沈降工程に供給される蒸留ボトム中のニッケルの濃度の調節又は制御を、沈降からの下相の一部を再循環することによって実施することができる。この再循環は、蒸留工程に媒体を供給する前に実施するのが有利である。
【0033】
本発明の方法に従えば、沈降容器(デカンター)中に得られる下相又は重質相は、ニッケル及び二座リガンドのほとんど並びに単座リガンドの一部を含む。しかしながら、2つの相の間の金属元素及び有機リンリガンドの分配係数は異なるので、リガンド/金属元素原子のモル比は、下相においては低く、上相においては高くなるであろう。さらに、本発明の方法によれば、不飽和ニトリルのヒドロシアン化工程において優先的に二座リガンドのほとんどを用いることができ、かくして直鎖状ジニトリルに対する高い選択性が達成される。
【0034】
本発明の方法の別の特徴に従えば、沈降工程において回収される上相中のリン原子の数として表わしたリガンド/ニッケルのモル比が8より大きいのが有利である。
【0035】
本発明に従えば、ジニトリルと不混和性の抽出溶剤を用いて触媒及びリガンドを液液抽出することによって、これらの全回収を実施する。
【0036】
好適な抽出溶剤としては、例えばヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、シクロペンタン、シクロヘプタン及びより一般的にシクロパラフィン又は類似体のような飽和の直鎖状又は環状脂肪族炭化水素を挙げることができる。好ましい抽出溶剤は、シクロヘキサンである。
【0037】
抽出後に、有機金属錯体及びリガンドのシクロヘキサン溶液を抽出溶剤の蒸発又は蒸留工程に供給する。沈殿形成によるニッケルの損失を抑制するためには、ニッケル原子の数に対するリン原子の数として表わしたリガンド/ニッケルモル比が高いこと、特に8より大きいことが重要である。この高い比は、本発明の方法においては、沈降工程において上相と下相との間の様々な化学物質の分配係数によって得られる。
【0038】
さらに、ニッケルの損失を抑制するために、蒸留又は蒸発工程のボトム温度を、大気圧又は大気圧より高い圧力下において、180℃未満にするのが有利である。用語「ボトム温度」とは、該工程のボイラー中に存在する媒体の温度及び該ボイラーの壁の温度を意味するものとする。
【0039】
かくして、本発明の触媒回収方法は、触媒及び有機リンリガンドの完全な回収を可能にする。
【0040】
本発明は一般的に、ブタジエンのようなジオレフィンを二重ヒドロシアン化することによるジニトリル化合物の製造方法の第2工程を構成する不飽和モノニトリルのジニトリルへの転化方法に適用される。前記の製造方法は、ジオレフィンをヒドロシアン化して不飽和ニトリルにする第1工程を含み、この第1工程を実施するのに用いられる触媒系は、第2工程において用いられる触媒系のものと同じ化合物から成る(化合物間の比は異なっていてもよい)のが有利である。この第1工程は、生成した分枝鎖状モノニトリルを直鎖状不飽和モノニトリルに転化させるための異性化反応と組み合わされるのが一般的であり、この直鎖状不飽和モノニトリルが第2工程に供給される。この異性化は、第1工程のものと同等の触媒系を用いて、シアン化水素の不在下において実施される。
【0041】
このような2つの工程を含む方法においては、抽出溶剤の蒸発後に回収される触媒及びリガンドを、ジオレフィン(若しくはC4炭化水素留分)のヒドロシアン化工程又は触媒の調製工程のいずれかにおいて、及び/或は分枝鎖状不飽和ニトリルの異性化に又は沈降下相から回収されて不飽和ニトリル化合物のヒドロシアン化工程に導入する前の触媒に、再循環するのが有利である。
【0042】
本発明の1つの具体例においては、抽出溶剤を蒸発させた後に回収される触媒の少なくとも一部を分枝鎖状ニトリルの異性化工程及び次いで随意にジエンのヒドロシアン化工程に導入する。後者の工程の後に回収された触媒は、液液抽出工程において直接再循環することができる。この具体例においては、異性化工程及びジエンのヒドロシアン化工程において用いられた触媒は二座リガンドを低い割合で含み、従って例えば加水分解反応やジエン中に存在する化合物(例えばブタジエン中に存在するt−ブチルカテコール(TBC))との反応によって引き起こされるこのリガンドの損失を減らすことが可能である。
【0043】
本発明は、次式:
Ni(L1)x(L2)y
{ここで、L1は単座リガンドを、L2は二座リガンドを表わし、
x及びyは0〜4の範囲の数(少数を含む)を表わし、和x+2yは3又は4である}
で示されるタイプの触媒を用いることによる3〜8個の炭素原子を有する直鎖状又は分枝鎖状不飽和ニトリルのヒドロシアン化、より好ましくはアジポニトリルの製造のための3−ペンテンニトリル及び/又は4−ペンテンニトリルのヒドロシアン化に適用される。触媒は、上の一般式に相当する錯体の混合物から成ることもできる。
【0044】
触媒系又は反応媒体はまた、遊離の形の単座有機リンリガンド及び/又は二座有機リンリガンド、即ちニッケルに結合していない単座有機リンリガンド及び/又は二座有機リンリガンドを所定量含むこともできる。本発明の触媒系は、次のようにして得られる。まず、第1工程においてニッケルと単座リガンドとの間の有機金属錯体を形成させる。かかる錯体の形成方法は、例えば米国特許第3903120号及び同第4416825号の両明細書に開示されている。第2工程において、前記有機金属錯体を含む媒体に二座リガンドを添加する。
【0045】
第1のヒドロシアン化工程及び第2のヒドロシアン化工程を直列で実施するのが有利である。この場合、回収される触媒の少なくとも一部(特に液液抽出において回収されるもの、より特定的には沈降工程の上相において回収される触媒)を再循環して、第1工程のブタジエンのヒドロシアン化工程及び/又は分枝鎖状不飽和ニトリルの直鎖状不飽和ニトリルへの異性化工程において触媒として用いるのが有利である。ブタジエンのヒドロシアン化及びペンテンニトリルのヒドロシアン化について同一の又は類似の触媒系を用いるのが好ましい。
【0046】
しかしながら、もっぱら不飽和ニトリルのヒドロシアン化工程において上記の触媒系を用い、第1工程のブタジエンのヒドロシアン化工程及び異性化工程において用いる触媒系は化合物の性状や各種化合物間の比が異なっていることも可能である。
【実施例】
【0047】
本発明のその他の詳細及び利点は、もっぱら指標及び例示として与えた下記の実施例を見ればより一層明らかになるであろう。
【0048】
略語
PN:ペンテンニトリル
DN:ジニトリル(ジニトリルAdN、MGN及びESNの混合物であって主としてAdNを含む)
AdN:アジポニトリル
MGN:メチルグルタロニトリル
ESN:エチルスクシノニトリル
【0049】
例1:
酸化状態0のニッケル、促進剤ZnCl2及び下記の式の有機リン化合物から得られた有機金属錯体を含む触媒系を用いて、ペンテンニトリルのヒドロシアン化を実施した。
【化5】

【0050】
PNをフラッシングした後に、得られた反応媒体は次の組成を有する(重量で表わした%、比はモル比である):
Ni=0.58%
TTP/Ni=5
リガンドA/Ni=1.2
P/Ni=7.4
DN=64.0%
PN=6.4%
ZnCl2=0.16%
【0051】
この混合物を50℃まで冷ます。2つの液相に分離するのが観察される。濃密相はNi(0)の約83%及びリガンドAの約73%を含む。TTP/Ni比は、下相において約3、上相において約15である。TTP/リガンドAモル比は上相において8付近である。アジポニトリルを含む上相をシクロヘキサンによる液液抽出に付す。得られたシクロヘキサン溶液を蒸発させる。蒸発からの残渣としての触媒系の回収は定量的だった。
【0052】
例2:TTP/リガンドB混合系の沈降
リガンドAを下記の式のリガンドBに置き換えて、例1を繰り返す。
【化6】

【0053】
PNをフラッシングした後に、得られた反応媒体は次の組成を有する(重量で表わした%、比はモル比である):
Ni=0.70%
TTP/Ni=4
リガンドB/Ni=1
P/Ni=6
DN=67.7%
PN=6.7%
ZnCl2=0.17%
【0054】
この媒体を50℃まで冷ます。2つの液相に分離するのが観察される。濃密相はNi(0)の約70%及びリガンドBの約70%を含む。TTP/Ni比は、濃密相において約2未満、軽質相において約9である。TTP/リガンドB比は軽質相において9付近である。上相をシクロヘキサンによる液液抽出に付す。シクロヘキサン溶液を蒸発させる。蒸発からの残渣としての触媒系の回収は定量的だった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属元素と、少なくとも1種の単座オルガノホスファイト化合物並びにオルガノホスファイト、オルガノホスフィナイト、オルガノホスホナイト及びオルガノホスフィンより成る群から選択される少なくとも1種の二座有機リン化合物を含む有機リンリガンド混合物とから構成される有機金属錯体、並びに随意としての促進剤を含む触媒系の存在下で、不飽和モノニトリル化合物をヒドロシアン化することによってジニトリル化合物を製造する方法であって、
触媒系の回収を含み、
ヒドロシアン化反応から得られる反応媒体中の不飽和ニトリルの濃度を該媒体中に20%未満の不飽和ニトリルの重量濃度が得られるように調節し、該媒体を上相及び下相の2つの相にする沈降工程に供給し、この2つの相を分離し、前記下相の少なくとも一部をヒドロシアン化工程に再循環し、前記上相中に存在する有機金属錯体及び有機リン化合物を抽出するために該上相を液液抽出に付すことから成ることを特徴とする、前記製造方法。
【請求項2】
前記反応媒体を前記沈降工程に導入する前に25℃〜75℃の範囲の温度まで冷ますことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記沈降工程に供給する媒体中のニッケルの重量濃度を0.2〜2%の範囲にすることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記沈降工程に供給する媒体中の不飽和ニトリルの重量濃度を4〜20重量%の範囲にすることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記ヒドロシアン化工程から得られる反応媒体中の不飽和ニトリルの濃度を20重量%未満にすることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記ヒドロシアン化工程から得られる反応媒体を不飽和ニトリルの蒸留工程に供給し、蒸留ボトムを前記沈降工程に供給することを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記沈降工程からの下相の少なくとも一部をヒドロシアン化から得られる反応媒体に再循環することを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記ヒドロシアン化から得られる反応媒体に前記の不飽和ニトリルの蒸留工程の前に前記下相の一部を再循環することを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記ヒドロシアン化媒体中の金属元素1原子に対するリン原子の数として表わした二座リガンドのモル数を1〜4の範囲にすることを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記ヒドロシアン化媒体中の金属元素1原子に対するリン原子の数として表わした単座リガンドのモル数を4〜7の範囲にすることを特徴とする、請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記上相中に存在する触媒及び有機リン化合物の液液抽出を実施するために用いる溶剤が飽和又は不飽和脂肪族又は環状脂肪族炭化水素より成る群から選択されることを特徴とする、請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
液液抽出工程において抽出された触媒及び有機リンリガンドを抽出溶剤を蒸発させることによって回収することを特徴とする、請求項1〜11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記抽出溶剤がヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、シクロペンタン及びシクロヘプタンより成る群から選択されることを特徴とする、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項14】
液液抽出工程に供給される媒体中の金属元素1原子に対するリン原子の数として表わした有機リンリガンドのモル数を8より大きくすることを特徴とする、請求項1〜13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記単座リガンドが亜リン酸トリフェニル、亜リン酸トリトリル及び亜リン酸トリシメニルより成る群から選択される化合物であることを特徴とする、請求項1〜14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
前記二座有機リンリガンドがオルガノホスファイト、オルガノホスホナイト、オルガノホスフィナイト及びオルガノホスフィンより成る群から選択されることを特徴とする、請求項1〜15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
前記二座有機リンリガンドが以下の構造:
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

(これら式中、Phはフェニルを意味する)
を有する化合物より成る群から選択されることを特徴とする、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記触媒系がルイス酸から成る促進剤又は助触媒を含むことを特徴とする、請求項1〜17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
前記促進剤が元素周期表第Ib、IIb、IIIa、IIIb、IVa、IVb、Va、Vb、VIb、VIIb及びVIII族からの元素のハロゲン化物、硫酸塩、スルホン酸塩、ハロアルキルスルホン酸塩、ペルハロアルキルスルホン酸塩、ハロ酢酸塩、ペルハロ酢酸塩、カルボン酸塩、リン酸塩、アリールホウ酸塩、フルオロアルキルスルホン酸塩及びペルフルオロアルキルスルホン酸塩を含む群の中から選択される化合物より成る群から選択されることを特徴とする、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記ルイス酸が塩化亜鉛、臭化亜鉛、ヨウ化亜鉛、塩化マンガン、臭化マンガン、塩化カドミウム、臭化カドミウム、塩化第一錫、臭化第一錫、硫酸第一錫、酒石酸第一錫、塩化インジウム、トリフルオロメチルスルホン酸インジウム、トリフルオロ酢酸インジウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ハフニウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム及びルテチウムのような希土類元素の塩化物又は臭化物、塩化コバルト、塩化第一鉄、塩化イットリウム、トリフェニルボラン、チタンテトライソプロポキシド並びにそれらの混合物より成る群から選択されることを特徴とする、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記不飽和ニトリルの蒸留工程におけるカラムボトム温度を140℃未満にすることを特徴とする、請求項6〜20のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
前記不飽和ニトリルが3〜8個の炭素原子を有する直鎖状又は分枝鎖状脂肪族化合物であることを特徴とする、請求項1〜21のいずれかに記載の方法。
【請求項23】
前記不飽和ニトリルがペンテンニトリルであることを特徴とする、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記液液抽出工程の後に回収される触媒系溶液を抽出溶剤の蒸留に付し、この蒸留のボトム温度を180℃未満にすることを特徴とする、請求項1〜23のいずれかに記載の方法。
【請求項25】
ジオレフィンをヒドロシアン化して不飽和モノニトリルを得るための第1工程、随意としての第1工程において生成した分枝鎖状不飽和モノニトリルの異性化反応、及び請求項1〜24のいずれかに記載の不飽和モノニトリルをヒドロシアン化してジニトリル化合物を得る方法から成る第2工程を含む、ジオレフィンからジニトリル化合物を製造する方法。
【請求項26】
前記沈降工程の上相から回収された触媒の少なくとも一部を前記の異性化反応及び/又は前記の第1のヒドロシアン化工程に再循環することを特徴とする、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記沈降工程の上相から回収された触媒の少なくとも一部を前記の異性化反応及び次いで前記の第1のヒドロシアン化工程に再循環することを特徴とする、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記の第1工程のヒドロシアン化媒体から回収された触媒を前記沈降工程又は前記液液抽出工程に供給することを特徴とする、請求項27に記載の方法。

【公表番号】特表2006−528673(P2006−528673A)
【公表日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−530333(P2006−530333)
【出願日】平成16年5月7日(2004.5.7)
【国際出願番号】PCT/FR2004/001108
【国際公開番号】WO2004/101497
【国際公開日】平成16年11月25日(2004.11.25)
【出願人】(598051417)ロディア・ポリアミド・インターミーディエッツ (14)
【Fターム(参考)】