説明

ジメチルエーテルを燃料とする燃焼機関

【課題】ジメチルエーテル(DME)を気化して燃料とするガスタービン等の燃焼機関において、燃焼器官の停止時にDMEの燃料供給管路内で液化するのを防止し、燃焼機関の円滑な再起動を行う。
【解決手段】燃料供給管路10に燃料のDMEを大気中に放出する放出弁14を接続し、燃焼機関への燃料の供給を遮断しこれを停止するときに、その放出弁14を開放する。放出弁14の開放によって燃料供給管路10内の圧力は大気圧に低下し、DMEは大気圧の下では低温となっても液化しないので、管路中で液化することはない。したがって、燃料管路中の機器等に液体として付着して管路を閉塞することはなく、次の起動を円滑に行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジメチルエーテル(DME)を燃料として使用する燃焼機関、特に、気体状態のDMEを燃料とするガスタービン装置、にDMEを供給するための燃料供給装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エネルギーの安定供給あるいはエネルギー源となる燃料の多様化等の観点から、近年、ジメチルエーテル(DME)が燃焼機関の燃料として注目を浴びている。DMEは天然ガス、石炭またはバイオマスなどから製造され、人体には無害であり、燃焼によって煤やSOx等を排出することはなく、環境面でも優れた燃料である。
【0003】
DMEは化学式がCH3OCH3の構造を有するエーテルであって、加圧又は低温とすることによって容易に液化することが可能で、20℃、2気圧で液体となる。このため、輸送及び貯蔵が簡便であり、民生用に広く用いられるLPGと同等の取扱いをすることができる。DMEを燃焼機関、つまりエンジン用の燃料として利用する研究開発も精力的に行われており、DMEが容易に液化可能であり排気ガス中の有害成分が少ないという特性から、例えば、特開2001−115908号公報に示されるように、これをディーゼルエンジン用の燃料に使用する開発が実用化に向け推進されている。
【0004】
燃焼機関の中には、ディーゼル機関等の往復動式内燃機関以外にガスタービンも存在する。最近では、電力事情の変化に伴って商用電力の利用について見直しが行われ、小規模工場あるいは店舗等では、分散電力となる自家用発電設備を設置する事例が増加しているが、自家用発電設備としては、ガスタービンにより発電機を駆動する発電設備、ことに、マイクロガスタービンと呼ばれる小型のガスタービンにより駆動される高速発電機を備えた発電設備が増加している。
【0005】
ガスタービンは、圧縮機、燃焼器及びタービンを備え、圧縮機により圧縮された空気中で燃料を連続的に燃焼させ、発生した燃焼ガスによりタービンを回転させる連続燃焼式内燃機関である。ガスタービンは、ディーゼルエンジン又はガソリンエンジンと比べると、小型軽量であり、かつ、排気ガス中の有害成分の量が少なく環境特性にも優れている。また、各種の燃料が使用可能であって、気体燃料を燃焼させるガスタービンでは、基本的な機器を殆ど代えることなくDMEを燃料とすることができる。ガスタービンの燃料としてDMEを使用することは従来から知られており、一例として特開2004−225546号公報に開示されている。
【特許文献1】特開2001−115908号公報
【特許文献2】特開2004−225546号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
マイクロガスタービンを有する自家発電設備では、LPG等の気体燃料を使用することが多い。DMEはLPGと類似の性質を備えているので、このようなガスタービンにおいてDMEを燃料とするときは、気体燃料として燃焼器に供給することが望ましい。ところが、DMEは液化し易く、ガスタービンの燃焼器に至る燃料供給管路が低温であるときは容易に液体となってしまう。そこで、上記の特許文献2には、ガスタービンの起動時に燃料供給管路でDMEが液化するのを防止するため、起動時には軽油等の通常燃料を用いてガスタービンを作動させ、その間にDMEの燃料供給管路に高温の蒸気を注入して管路のウォーミングを図る技術が記載されている。しかし、この液化防止技術は、蒸気の発生源を必要とするとともに、注入された蒸気が管内に残留し燃料供給管路の機器に悪影響を及ぼし、さらに、燃焼器で失火する恐れを生じるという問題がある。
【0007】
また、DMEの液化は、ガスタービンが停止し燃料供給管路が冷却されると、その時点から始まることとなる。例えば、昼間に運転を行い夜間は停止する自家発電設備では、夜間にDMEが液化して長時間液体として燃料供給管路中に滞留する。燃料供給管路中には、燃料遮断弁や減圧弁が配置されており、これらは燃料の圧力に応動させるための細い通路又はオリフィスなどを備えた精密機器である。液化したDMEがこれらの機器に長時間滞留すると、細い通路等に液体のまま付着して、次の起動の際に弁が作動せず燃料が供給できないことがあり、また、シール材等を傷めてしまうことがある。本発明は、DMEの液化に起因するこうした課題を解決するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題に鑑み、本発明は、DMEを燃料とするガスタービン等の燃焼機関において、DMEの燃料管路内での液化防止を目的とし、燃焼機関の停止時には燃料管路内のDMEを大気中に放出するものである。すなわち、本発明は、
「ジメチルエーテルを気体とし燃焼機関の燃料として供給する燃料供給装置において、
前記燃料供給装置は、燃料を供給する管路を有するとともに、その管路には管路内の燃料を大気中に放出する放出弁が接続されており、
前記燃料供給装置は、前記燃焼機関への燃料の供給を遮断し前記燃焼機関を停止するときに、前記放出弁を開放する制御装置を備えている」
ことを特徴とする燃料供給装置となっている。
【0009】
請求項2に記載のように、本発明の燃料供給装置では、燃料タンクの近傍に置かれたタンク出口弁と、前記燃焼機関の近傍に置かれた燃料遮断弁とを配置し、前記燃焼機関への燃料の供給を遮断し前記燃焼機関を停止するときに、前記制御装置が、前記燃料遮断弁及び前記タンク出口弁を閉鎖した後、前記放出弁を開放するように構成することができる。
【0010】
この構成においては、請求項3に記載のように、前記制御装置が、前記燃料供給管路内の圧力が大気圧となったときに前記放出弁を閉鎖するように制御することが好ましい。
【0011】
請求項4に記載のように、前記燃料供給装置の管路には、電熱線によるヒーターを設置することができる。
【0012】
請求項5に記載のように、本発明は、DMEを燃料とするガスタービンに好適であり、ガスタービンに適用したときは、前記燃料供給装置はその燃焼器に燃料を供給することとなる。
【0013】
また、本発明は方法の発明として実施することができる。この場合には、請求項6に記載のように、
「ジメチルエーテルを気体とし燃焼機関の燃料として供給する燃料供給方法において、
燃料を供給する管路に管路内の燃料を大気中に放出する放出弁を接続し、
前記燃焼機関への燃料の供給を遮断し前記燃焼機関を停止するときは、前記放出弁を開放し管路内の燃料を大気中に放出する」
ことを特徴とする燃料供給方法となる。
【発明の効果】
【0014】
DMEを燃料とする本発明の燃料供給装置では、燃料供給管路に燃料のDMEを大気中に放出する放出弁を接続し、燃焼機関への燃料の供給を遮断しこれを停止するときに、その放出弁を開放する。放出弁の開放によって管路の圧力は大気圧に低下し、DMEは大気圧の下では低温となっても液化しないので、管路中で液化することはない。したがって、燃料管路中の減圧弁あるいは燃料遮断弁の細い通路中に液体として残留することはなく、これらの機器に不具合が生じない。
【0015】
本発明では、放出弁からDMEを放出した後は、燃料管路中には大気圧状態の気体のDMEが充満している。このため、燃料管路中に空気等が侵入することが防止され、ガスタービン等の次回の起動が円滑に行われる。必要があれば、DMEの放出が完了し燃料管路が大気圧となった時点で、放出弁を閉鎖し空気の侵入を防ぐように構成してもよい。このような効果は、方法の発明として本発明を実施しても同様に達成することができる。
【0016】
請求項2の発明のように、燃料タンクの近傍に置かれたタンク出口弁と、燃焼機関の近傍に置かれた燃料遮断弁とを配置したときは、放出弁を開放に際してこれらの弁を閉じることにより、燃料タンク及び燃焼機関に影響を及ぼすことなく、燃料供給管路のDMEを放出できる。また、このときに請求項3の発明のように、燃料供給管路内の圧力が大気圧となったときに前記放出弁を閉鎖する制御を行うと、燃料供給管路内に空気が入り込むことが回避される。
【0017】
請求項4の発明は、燃料供給装置の管路に電熱線によるヒーターを設置したものであり、これによって燃焼機関の運転中または起動前に燃料管路を加熱しDMEの液化を確実に防止できる。具体的にはヒーターで管路を常時30℃以上に維持するのが好ましい。この発明では電熱線により加熱を行っているので、特許文献2に記載の技術のように、残留蒸気が燃焼器に入り失火を起こすような恐れはない。
【0018】
請求項5の発明は、ガスタービンに適用したものであり、ことにマイクロガスタービンを備えた自家用発電設備に適用した場合は、LPG燃料との併用も可能となり、燃料の多様化の効果がより向上することとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図面によって本発明の燃料供給装置の実施例について説明する。図1は、DMEを燃料とするマイクロガスタービンにより駆動される発電機を備えた自家発電設備に、本発明を適用したときの概略図である。
【0020】
ガスタービンは、圧縮機1及びタービン2を備え、これらを連結する軸に発電機3が直結され、例えば90000rpmを超える回転数で駆動されている。発電機3の出力電力は、整流器4及びインバータ5によってその周波数が変換され、自家発電設備の電力を使用する照明、空調等の電力負荷6に供給される。また、インバータ5は商用電力にも接続されており、電力負荷6には商用電力も供給可能であるとともに、発電機3の余剰電力は商用電力側に提供することが可能である。
【0021】
このガスタービンは、熱効率の向上の目的でいわゆる再生サイクルとして構成されており、圧縮機1で圧縮された空気は、燃焼器7に導かれる前に再生熱交換器8においてタービン2の排気ガスが保有する熱によって昇温される。ガスタービンの燃焼器7には、温風による気化装置を備えたDME燃料タンク9から、燃料供給管路10を経て気体のDMEが供給される。燃焼器7の中で、DMEは圧縮機1からの圧縮空気によって燃焼し、生じた燃焼ガスはタービン2の作動流体となってこれを駆動して圧縮機1と発電機3を回転させる。
【0022】
燃料供給管路10には、燃焼器7の近傍に燃料遮断弁12が、また、DME燃料タンク9の出口にタンク出口弁13が配置され、その管路の途中には放出弁14が接続されている。この放出弁14は、管路中のドレンを排出するドレンブロー弁としての機能も果たすものである。また、ガスタービンの停止時に、燃料遮断弁12、タンク出口弁13及び放出弁14の開閉を制御する制御装置15が設けられる。
【0023】
実際の燃料供給管路10には、図2に示すように、これらの弁の他に多数の機器が取付けられる。具体的には、DME燃料タンク9内の高圧DMEの圧力を低下させてガスタービンに供給する減圧弁16、緊急時に燃料を遮断する緊急遮断弁17、異常高圧時にDMEを放出する高圧側安全弁18a及び低圧側安全弁18bが配置してある。また、DMEの供給状況を監視・制御する計測器として、高圧側圧力計19a及び低圧側圧力計19b並びに流量計20が配置される。そして、ガスタービン停止時にDMEを放出する放出弁は、高圧側放出弁14aと低圧側放出弁14bとが、減圧弁16の上流と下流にそれぞれ取付けられている。
【0024】
燃料供給管路10には、電熱線による加熱及び保温の手段が施されている。すなわち、図3に示すように、耐熱被覆された電熱線によるヒーター21(トレース・ヒーター)が、DMEの流れる管10aの表面に接触させて長さ方向に沿って設けられるとともに、外側周囲にはグラスウール等の断熱材22が配置され、これらは鉄板等の被覆材23に覆われている。ヒーター21は管10aに巻きつけるようにしてもよい。この加熱及び保温の手段は、図2において2点鎖線を付した、DMEタンク9の出口部からガスタービン入口部まで燃料供給管路10のほぼ全長に亘って施されている。
【0025】
次いで、本発明の制御方法について図4のフローチャートを参照しながら説明する。ガスタービンを停止するため停止ボタンが押され停止信号が入力されると(S1)、ガスタービンの直前に置かれた燃料遮断弁13が閉となり、さらに、タンク出口弁12も閉となる(S2、S3)。これらの弁の閉鎖が検出されると、放出弁14(高圧側放出弁14a及び低圧側放出弁14b)を開放し(S4)、燃料供給管路10からDMEを大気中に放出する。大気中への放出が好ましくないときは、容器に回収するようにしてもよい。その後、高圧側圧力計19a及び低圧側圧力計19bにより燃料供給管路10内の圧力が大気圧となったことが検出されると(S5)、放出弁14を閉鎖して(S6)、燃料供給管路10内に空気が侵入するのを防止する。なお、ガスタービンの燃料遮断後であっても、タービン等の冷却のため、タービン2は暫くは回転を継続する。これにより、燃料遮断弁13から燃焼器7に至る管路中のDMEは、燃焼器7から大気中に放出される。
【0026】
このようにして、ガスタービンの停止後は燃料供給管路10内の圧力は大気圧となり、DMEの液化を回避することができる。この実施例で使用される燃料遮断弁13は、ダイヤフラムの弁座を有しその上下に作用する燃料圧の差圧によって開閉するタイプであり、そのダイヤフラムには小孔が形成されているが、本発明の装置では、細い通路等が存在したとしても液体のDMEが付着し閉塞を起こすことはなく、次回の起動をスムースに行うことができる。また、電熱線のヒーターによる加熱を行った場合には、より確実にDMEの液化を防ぐことが可能となる。
【0027】
以上詳述したように、本発明は、DMEを燃料とする燃焼機関において、DMEの燃料供給管路内での液化防止のため、燃焼機関の停止時には燃料管路内のDMEを大気中に放出するものであり、さらには、燃料供給管路を電熱線ヒーターによって加熱保温するものである。したがって、燃焼機関としては上記のガスタービンに限らず、例えばDMEを燃焼させる往復動式内燃機関に適用することができ、蒸気タービンやスターリングエンジンのような外燃機関にも適用できることは明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明によるガスタービン発電設備の概要を示す図である。
【図2】本発明に基づく燃料供給管路の詳細を示す図である。
【図3】本発明の電熱線ヒーターを示す図である。
【図4】本発明の作動を表すフローチャートである。
【符号の説明】
【0029】
1 圧縮機
2 タービン
7 燃焼器
9 DME燃料タンク
10 燃料供給管路
12 タンク出口弁
13 燃料遮断弁
14 放出弁
15 制御装置
21 ヒーター
22 断熱材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジメチルエーテルを気体とし燃焼機関の燃料として供給する燃料供給装置において、
前記燃料供給装置は、燃料を供給する燃料供給管路(10)を有するとともに、その燃料供給管路(10)には管路内の燃料を大気中に放出する放出弁(14)が接続されており、
前記燃料供給装置は、前記燃焼機関への燃料の供給を遮断し前記燃焼機関を停止するときに、前記放出弁(14)を開放する制御装置(15)を備えていることを特徴とする燃料供給装置。
【請求項2】
前記燃料供給装置は、燃料タンク(9)とその近傍に置かれたタンク出口弁(12)とを備え、かつ、前記燃焼機関の近傍には燃料遮断弁(13)を備えており、
前記燃焼機関への燃料の供給を遮断し前記燃焼機関を停止するときに、前記制御装置(15)が、前記燃料遮断弁(13)及びタンク出口弁(12)を閉鎖した後、前記放出弁(14)を開放するよう制御する請求項1に記載の燃料供給装置。
【請求項3】
前記制御装置(15)が、前記燃料供給管路(10)内の圧力が大気圧となったときに前記放出弁(14)を閉鎖するよう制御する請求項2に記載の燃料供給装置。
【請求項4】
前記燃料供給装置の管路には、電熱線によるヒーター(21)が設置されている請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の燃料供給装置。
【請求項5】
前記燃焼機関はガスタービンであり、前記燃料供給装置は、ガスタービンの燃焼器(7)に燃料を供給する請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の燃料供給装置。
【請求項6】
ジメチルエーテルを気体とし燃焼機関の燃料として供給する燃料供給方法において、
燃料を供給する燃料供給管路(10)に管路内の燃料を大気中に放出する放出弁(14)を接続し、
前記燃焼機関への燃料の供給を遮断し前記燃焼機関を停止するときは、前記放出弁を開放して管路内の燃料を大気中に放出することを特徴とする燃料供給方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−118367(P2006−118367A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−304155(P2004−304155)
【出願日】平成16年10月19日(2004.10.19)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2004年10月20日、21日 社団法人日本ガスタービン学会、社団法人日本機械学会共催の「第32回 ガスタービン定期講演会」において文書をもって発表
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【Fターム(参考)】