説明

ジャイロパッケージの構造及び作製方法

【課題】キャップを金属製ステムにシール封止する際に、ステム胴部とキャップとの間で接触を生じ、スパーク等を生じて、内部の部品に影響を及ぼすことのないジャイロパッケージを得る。
【解決手段】ジャイロ部品を搭載した金属製ステム(10)に金属製キャップ(20)を位置決めしてシール封止する構造を有するジャイロパッケージにおいて、金属製ステムのステム胴部(11)をテーパ状に形成し、金属製キャップのフランジ部(22)と金属製ステムのフランジ部(12)との間で電気溶接により接合したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はジャイロパッケージの構造及びその作製方法、特にジャイロパッケージのキャップを金属製ステムに位置決めして気密に封止する構造及びその方法に関する。
【背景技術】
【0002】
運動している物体が回転するときに生ずる角速度を検出する、例えば振動子として圧電素子を使用したジャイロは、自動車、航空機、船舶等あらゆる移動体のナビ装置として広く使用されている。近年は1m単位で移動体の位置を補正するためのより精密なジャイロが求められるようになってきている。このように圧電素子を使用したジャイロでは、圧電素子及びその振動を電気的に取り出す電極や回路部分を金属製ステム上に搭載し、キャップで封止してジャイロパッケージとして構成する。したがって、このようなジャイロパッケージを作製するにあたっては、内部の振動子の微妙な動きを計測する関係上、各部品に必要な精度や作製上の作業管理の精確さが要求される。
【0003】
従来、ジャイロパッケージの金属製キャップを金属製ステムに位置決めしてシール接合する構造としては次のようなものであった。即ち、図1及び図2に示すように、金属製ステム10は、ステム胴部11’とそのフランジ12とが一体的に構成されたもので、ステム胴部11’はフランジ12上面に対してほぼ垂直に立ち上がった構造を有する。一方、キャップ20は周囲フランジ22と、このフランジの周囲からほぼ垂直に立ち上がり、ステム胴部11’の上面上の搭載される電極や圧電素子等の部品を覆うキャップ本体部21とが一体的に構成されたものである。そして、キャップ20をステム10に位置決めし、ステム10のフランジ12と、キャップ20のフランジ22との間で電気溶接を行ってキャップ20をステム10に接合する。なお、図1及び図2においては、ステム胴部11’の上面上の搭載される電極や圧電素子等の部品の図示を省略している。
【0004】
図3は、内部に圧電体からなる振動子13、振動子13を支持するセラミック14等を具備したジャイロパッケージの概略の外観を示す。振動子13は鉛直軸Zに対して所定角度θ傾斜した回転軸O中心に搭載され、回転軸Oに関する振動子13の角速度が検出される。
【0005】
このような構造のジャイロパッケージにおいて、金属製キャップ20のこの金属製ステム10への位置出しは、製品や電極ガイドの寸法精度によって決まる。また、金属製ステム10の胴部11’及びキャップ20の内径寸法は、双方が誤差にして最大又は最小に振れた場合においても、相互に接触しないように設計されている。
【0006】
関連する先行技術として、特許文献1(特開平5−102332号公報)があるが、この文献では、半導体レーザのような半導体装置において、金属製ステムとキャップを電気溶接によって封止する構造において、ステムとキャップの各々の中心位置ずれが生じない精度の良い半導体装置を複雑な封止装置を用いることなく得ることを課題としている。これによると、ステムの上面にキャップの内径と同一又は大きい底辺のテーパ状突起を設けることによって、その突起にガイドされてキャップがステム上に載置されるようにしたもので、その状態でキャップとステムを電気溶接する。したがって、キャップとステムの中心位置のばらつき、ひいてはレーザ出力のばらつきが小さくなる。
【0007】
【特許文献1】特開平5−102332号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来のジャイロパッケージにおいては、その一例を図1及び図2に示したが、実際の具体的な態様としては、金属製キャップ20を金属製ステム10に対して封止する方法や電極ガイドの寸法精度も様々であるため、基本的には、金属製ステム10のステム胴部11とキャップ20との間のクリアランスだけではキャップ20を金属製ステム10に対してシール封止する際の双方の接触を十分防ぐことが出来ない、という問題がある。即ち、金属製キャップ20と金属製ステム10との間において、どんなに製品寸法でクリアランスをとったとしても、電極を案内する際のガイド性が悪くて、図1のAで示すように、金属製ステム10と金属製キャップ20との間で位置ズレが生ずると、同図のBで示す個所においてステム胴部11と金属製キャップ20との間で接触を生じてしまう。
【0009】
また、金属製キャップを金属製ステムにシール封止する際に、ステム胴部とキャップ内径とが接触してしまうと、接触個所から電流が逃げてしまったり、電圧が一箇所に集中してしまったりして、図2のCで示す個所において、溶接不良となってしまう場合がある。また、電気溶接時に接触個所からスプラッシュやスパークが発生し、内部に搭載されている部品に悪影響を及ぼすおそれもある。
【0010】
特許文献1では、ステムの上面にキャップの内径と同一又は大きい底辺のテーパ状突起を設けることによって、その突起にガイドされてキャップがステム上に載置されるようにしたもので、その状態でキャップとステムを電気溶接する。
【0011】
しかしながら、特許文献1では、半導体レーザ装置を対象としており、ステム上には半導体チップが搭載され、キャップには半導体チップ(半導体レーザ)から発振されたレーザ光をキャップの設けてあるレンズの中心位置を通して出力する構造であるため、キャップをステムに対して中心位置を位置決めするために、上述のように、ステムの上面にキャップの内径と同一又は大きい底辺のテーパ状突起を設けている。そして、その突起にガイドされてキャップがステム上に載置されるようにし、その状態でキャップとステムを電気溶接する。
【0012】
このように、特許文献1では、キャップをステムに対して中心位置に正確に位置決めしなければならないため、上述のような構造を採用しているが、キャップのレンズと半導体チップとの位置関係は、ステムに対する半導体チップの取り付け位置、キャップに対するレンズの取り付け位置、ステムに対するテーパ状突起の位置等を精確に規定しなければならず、これらの誤差が蓄積されて、半導体チップに対するレンズの位置の誤差となってあらわれるため、各部品の精度管理や作製上の作業管理が複雑になるという問題がある。
【0013】
そこで、本発明では、ジャイロパッケージにおいて、キャップを金属製ステムにシール封止するに際して、ステム胴部とキャップとの間で接触を生じ、スプラッシュやスパーク等を生じて、内部の部品に影響を及ぼすことのないジャイロパッケージの構造を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題を達成するために、本発明によれば、振動部品を搭載した金属製ステムに金属製キャップを位置決めして封止する構造を有する振動部品搭載用パッケージにおいて、金属製ステムのステム胴部をテーパ状に形成し、金属製キャップのフランジと金属製ステムのフランジとの間で電気溶接により接合したことを特徴とする振動部品搭載用パッケージの構造が提供される。
【0015】
また、本発明によれば、ジャイロ部品を搭載した金属製ステムに金属製キャップを位置決めして封止する構造を有するジャイロパッケージにおいて、金属製ステムのステム胴部をテーパ状に形成し、金属製キャップのフランジと金属製ステムのフランジとの間で電気溶接により接合したことを特徴とするジャイロパッケージの構造が提供される。
【0016】
これらの場合において、金属製ステムのフランジと金属製キャップのフランジの接合面の少なくとも一方に電気溶接用の突条を設けたことを特徴とする。
【0017】
また、本発明によれば、ジャイロ部品を搭載した金属製ステムに金属製キャップを位置決めして封止するジャイロパッケージの作製方法において、金属製ステムのステム胴部をテーパ状に形成し、該テーパ状のステム胴部に沿って金属製キャップを案内且つ位置決めし、金属製キャップのフランジと金属製ステムのフランジとの間で電気溶接をすることを特徴とするジャイロパッケージの作製方法が提供される。
【発明の効果】
【0018】
本発明では、金属製ステムのステム胴部をテーパ状に形成したので、金属製キャップを金属製ステムに接合する際に、金属製キャップの内周壁が金属製ステムのテーパ状のステム胴部に案内されるので、たとえその時点で、金属製キャップと金属製ステムとの間に電圧が作用して電気溶接のスパークが発生したとしても、スパークはテーパ状のステム胴部により遮断され、内部に収容されているジャイロ部品に影響を与えることはなくなり、金属製ステムのフランジと金属製キャップのフランジとの接合面にて適切に電気溶接を行うことができる。
【0019】
この場合において、金属製ステムのフランジと金属製キャップのフランジとの接合面の、少なくとも一方に、電気溶接用の突条を設けた場合は、電気溶接の際、この突条の部分に局部的に電流が集中し、この突条に沿って電気溶接が行われる。
【0020】
また、本発明のジャイロパッケージの作製方法によれば、金属製ステムのステム胴部をテーパ状に形成したので、金属製キャップを金属製ステムに接合する際の電気溶接のスパークが内部に収容されているジャイロ部品に影響を与えることはなくなり、良好な性能のジャイロパッケージを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、添付図面を参照して本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0022】
図4及び図5は本発明のジャイロパッケージの構造を示す。金属製ステム10は、ステム胴部11とそのフランジ12とが、例えば鉄材によりプレスや鍛造等で一体的に構成され、その表面に電解又は無電解ニッケルにてめっきされ、或いは金などが電解めっきされたものである。ステム胴部11は、その壁部が周囲のフランジ12上面に対して内側へテーパ状に傾斜した構造を有する。ステム胴部11の上面には、前述のように、圧電体からなる振動子、振動子を支持するセラミック等のジャイロ部品(図示せず)が実装されている。符号16は内部のジャイロ部品に接続される内部電極、符号17はステム10の外部へ延びた外部電極を示す。
【0023】
金属製キャップ20は、周囲フランジ22とこのフランジの周囲からほぼ垂直に立ち上がり、ステム胴部11の上面上の搭載される電極16や圧電素子等の部品(図示せず)を覆うキャップ本体部21とが、鉄板材によりプレスの深絞り加工等で一体的に形成され、その表面が例えばニッケル等で無電解めっきされたものである。
【0024】
金属製ステム10はその平面形状が矩形又は円形であり、金属製キャップ20もその平面形状は金属製ステム10の形状に対応した矩形又は円形であり、金属製キャップ20のキャップ本体部21の内径の寸法は、金属製ステム10のテーパ状のステム胴部11下部の寸法より僅かに大きく形成されている。例えば、キャップ本体部21の内壁とテーパ状のステム胴部11下部の隙間が0.5μm以上となるようにされる。金属製ステム10のフランジ12の上面である、金属製キャップ20のフランジ22との接合面に、フランジ12の電気溶接の際の突条15が形成されている。この突条5はフランジ12の全周にわたって形成されている。
【0025】
図6は金属製キャップを金属製ステムに案内し且つ位置決めすると共に、金属製キャップのフランジと金属製ステムのフランジとの間で電気溶接をする状態を示す。金属製ステム10を保持する、上電極を兼ねた治具30は、金属製ステム10のフランジ12の周囲を案内・位置決めするガイド溝31を有し、このガイド溝31に沿って金属製ステムが所定位置に保持される。一方、金属製キャップ20は下電極を兼ねた治具40によって保持される。そして、金属製キャップ20を金属製ステム10に封止する際は、治具30、40が相互に接近する方向に上下移動され、金属製キャップ20のフランジ22が金属製ステム10のフランジ12に接合される。接合と同時に、上電極30と下電極40との間に電圧が印加され、これらの間で電気溶接が行われる。この時、金属製ステム10のフランジ12に設けてある突条15には集中的に電流が流れ、この部分が局部的に溶融して両フランジ12、22間の電気溶接による封止性がより堅固なものとなる。
【0026】
本発明では、上述のように、金属製ステム10のステム胴部21をテーパ状に形成したので、金属製キャップ20と金属製ステム10との間で電気溶接をする際の位置決めにおいて、図4のAで示すように、各種の部品の精度上、作業管理上の誤差等に起因して、或いは、部品間の熱膨張差に起因して、金属製キャップ20が金属製ステム10に対して正規の位置から水平方向に位置ずれを生じていたとしても、金属製キャップ20のキャップ本体21の内周壁が金属製ステム10のテーパ状のステム胴部11に案内されて、その斜面にそって金属製キャップ20は金属製ステム10に対して水平方向の正規の位置に修正され、金属製ステム10のフランジ11と金属製キャップ20のフランジ21との間で適正位置にて電気溶接が行われる。
【0027】
また、たとえ、金属製キャップ20のフランジ22が金属製ステム10のテーパ状のステム胴部11に接触した時点で、上下電極30、40間に電圧が印加されて電気溶接のスプラッシュやスパークが発生したと仮定しても、その際に生ずる電気火花等はテーパ状のステム胴部11によって遮断され、ジャイロパッケージの内部には到達しないため、内部収容されているジャイロ部品(図示せず)に影響を与えることはない。このようにして、金属製キャップ20のフランジ22と金属製ステム10のフランジ12との間で溶接不良を生ずることなく、ジャイロパッケージは気密に封止される。
【0028】
なお、上記のように気密封止されたジャイロパッケージの内部は、減圧され、例えば窒素等の希薄な不活性ガスが存在する。
【0029】
以上添付図面を参照して本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の精神ないし範囲内において種々の形態、変形、修正等が可能である。例えば、図示の実施形態では、金属製ステム10の電気溶接用の突条15を形成したが、逆に金属製キャップ20のフランジ22の、金属製ステム10のフランジ12に接合される面に、或いは、金属製ステム10と金属製キャップ20の両側にこのような突条15を形成すること、又は、このような突条15をいずれかに複数本形成すること等も可能である。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明では、金属製ステムのステム胴部をテーパ状に形成したので、金属製キャップを金属製ステムに接合する際に、金属製キャップの内周壁が金属製ステムのテーパ状のステム胴部に案内され、金属製ステムのフランジと金属製キャップのフランジとの接合面にて適正位置にて電気溶接が行われる。よって、本発明は、自動車、航空機、船舶等あらゆる移動体のナビ装置におけるジャイロパッケージについて適用可能である。また、本発明はジャイロパッケージに限らず、内部に振動子を有するあらゆるセンサー類又は機器類において、金属製キャップを金属製ステムに対して気密封止するパッケージについて適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】図1は従来のジャイロパッケージの構造を示す。
【図2】図2は接合時の従来のジャイロパッケージを示す。
【図3】図3はジャイロパッケージの概略を示す斜視図である。
【図4】図4は本発明の実施形態に係るジャイロパッケージの構造を示す。
【図5】図5は本発明のジャイロパッケージにおいて、金属製キャップを金属製ステムに接合する状態を示す。
【図6】図6は本発明のジャイロパッケージにおいて、金属製キャップを金属製ステムに接合する装置の構成の概略を示す。
【符号の説明】
【0032】
10 金属製ステム
11 ステム胴部
12 ステムのフランジ
15 電気溶接用の突条
20 金属製キャップ
21 キャップ本体
22 キャップのフランジ
30、40 電極
31 ガイド溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動部品を搭載した金属製ステムに金属製キャップを位置決めして封止する構造を有する振動部品搭載用パッケージにおいて、金属製ステムのステム胴部をテーパ状に形成し、金属製キャップのフランジと金属製ステムのフランジとの間で電気溶接により接合したことを特徴とする振動部品搭載用パッケージの構造。
【請求項2】
ジャイロ部品を搭載した金属製ステムに金属製キャップを位置決めして封止する構造を有するジャイロパッケージにおいて、金属製ステムのステム胴部をテーパ状に形成し、金属製キャップのフランジと金属製ステムのフランジとの間で電気溶接により接合したことを特徴とするジャイロパッケージの構造。
【請求項3】
金属製ステムのフランジと金属製キャップのフランジの接合面の少なくとも一方に電気溶接用の突条を設けたことを特徴とする請求項1又は2に記載の振動部品搭載用パッケージの構造。
【請求項4】
ジャイロ部品を搭載した金属製ステムに金属製キャップを位置決めして封止するジャイロパッケージの作製方法において、金属製ステムのステム胴部をテーパ状に形成し、該テーパ状のステム胴部に沿って金属製キャップを案内且つ位置決めし、金属製キャップのフランジと金属製ステムのフランジとの間で電気溶接をすることを特徴とするジャイロパッケージの作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−264845(P2009−264845A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−112981(P2008−112981)
【出願日】平成20年4月23日(2008.4.23)
【出願人】(000190688)新光電気工業株式会社 (1,516)
【Fターム(参考)】