説明

ジャッキアップスティフナ

【課題】 ジャッキアップポイントでのサイドシルインナの変形を防止するためのジャッキアップスティフナを提供する。
【解決手段】 ジャッキアップスティフナ16のジャッキ係合部17は、サイドシルインナ11下端の接合フランジ11eにスポット溶接されている。縦板部18は、その上縁がサイドシルインナ11上端の接合フランジ11dにスポット溶接されている。前部バルクヘッド19には、サイドシルインナ11の側壁11bにスポット溶接される接合フランジ19bと、下壁11cにスポット溶接される接合フランジ19cとが前方に向けて延設されている。後部バルクヘッド20には、サイドシルインナ11の側壁11bにスポット溶接される接合フランジ20bと、下壁11cにスポット溶接される接合フランジ20cとが後方に向けて延設されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のジャッキアップポイントの補強に用いられるジャッキアップスティフナに関する。
【背景技術】
【0002】
4輪自動車では、下回りの点検整備時やタイヤ交換時等に、油圧ジャッキ等により車体がジャッキアップされる。モノコック構造のボディを備えた乗用車の場合、ジャッキアップは、サイドシルに設けられたジャッキアップポイントにジャッキの頭部を係合させて行う。ジャッキアップポイントにはジャッキアップ時に大きな荷重(例えば、車体重量の1/4程度)が作用するため、サイドシルにはその変形を防止すべくジャッキアップスティフナが取り付けられている(例えば、特許文献1,2参照)。
【0003】
コ字断面形状のサイドシルインナを有するサイドシルをジャッキアップスティフナによって補強する形式としては、図7(a)に示すように、L形の接合面を有するジャッキアップスティフナ16をサイドシルインナ11の下壁11cと側壁11bとに接合し、荷重による下壁11cと側壁11bとの間の角度変化(下壁の曲がり)が抑制するものが一般的である。
【特許文献1】特許第3454376号公報(段落0011、図3)
【特許文献2】特開平10−194163号公報(段落0010、図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した形式のジャッキアップスティフナ16では、走行時にタイヤからの入力によりサイドシルに曲げ応力が作用し、図7(b)に示すように、サイドシルインナ11の開口幅が変化することがあった。
【0005】
本発明は、このような背景に鑑みなされたもので、ジャッキアップポイントでのサイドシルインナの変形を防止するためのジャッキアップスティフナを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の発明に係るジャッキアップスティフナは、車体外側に向いて開いた断面コ字形状のサイドシルインナに接合されるジャッキアップスティフナであって、前記サイドシルインナの上部接合フランジと下部接合フランジとを連結する縦板部と、前記縦板部から延設され、前記サイドシルインナの側壁および下壁に固着されるバルクヘッド部とを備えたことを特徴とする。
【0007】
また、請求項2の発明に係るジャッキアップスティフナは、請求項1に記載のジャッキアップスティフナにおいて、前記バルクヘッド部が前記縦板部の前部に連結された前部バルクヘッドと、前記縦板部の後部に連結された後部バルクヘッドとからなり、前記前部バルクヘッドと前記後部バルクヘッドとの少なくとも一方に切欠が形成されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
請求項1のジャッキアップスティフナによれば、ジャッキアップ時に大きな荷重が作用しても、サイドシルインナの変形が起こり難くなるとともに、サイドシルの剛性が向上してノイズや振動の発生が抑えられる。また、請求項2のジャッキアップスティフナによれば、サイドシルインナとリヤフロアパネルとをスポット接合するための溶接ガンの先端をジャッキアップスティフナの内部に挿入することができ、ボディの溶接作業性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図面を参照して、本発明を適用したジャッキアップスティフナの一実施形態を詳細に説明する。
図1は実施形態に係る自動車のボディを示す斜視図であり、図2は図1中のA部を別の角度から視た拡大透視斜視図であり、図3は実施形態に係るサイドシルの要部横断面図であり、図4は図3中のB矢視図である。また、図5は実施形態の作用説明図であり、図6は一部変形例に係るジャッキアップスティフナを示す拡大透視斜視図である。
【0010】
≪実施形態の構成≫
図1に示すように、本実施形態は、セダン型4ドア乗用車のボディに本発明を適用したものである。本実施形態のボディ1は、フロントボディ2や、ルーフパネル3、フロアパネル4、左右のアウタパネル5,6等をスポット溶接によって組み立ててなるモノコック構造が採られている。ボディ1の側面には、フロントドア(図示せず)がその前端にヒンジ結合される前部ドア開口7と、リヤドア(図示せず)がその前端にヒンジ結合される後部ドア開口8とが形成されている。そして、後部ドア開口8の下部には後部サイドシル(以下、単にサイドシルと記す)10が形成されている。
【0011】
<サイドシル>
図2〜図4に示すように、サイドシル10は、車体内側のサイドシルインナ11と、車体外側のサイドシルアウタ12と、補強部材であるリーンフォースメントパネル13とをスポット溶接(各図中に溶接部を符号SWで示す)によって接合することで形成されている。
【0012】
サイドシルインナ11は、上壁11aと側壁11bと下壁11cとからなる外向きに開いた断面コ字形状を呈しており、上壁11aおよび下壁11cの先端部にはそれぞれ外向き(上向きおよび下向き)の接合フランジ11d,11eが立設されている。また、リーンフォースメントパネル13は、内向きに開いた断面コ字形状を呈しており、その上下端にはサイドシルインナ11の接合フランジ11d,11eに接合されるそれぞれ外向きの接合フランジ13d,13eが立設されている。また、サイドシルアウタ12は、サイドシル10の強度や剛性への寄与が少ない外板パネルであり、その上下端にはリーンフォースメントパネル13の接合フランジ13d,13eに接合されるそれぞれ外向きの接合フランジ12d,12eが立設されている。なお、サイドシルインナ11には、上壁11aの上面に、ミドルフロアクロスメンバ14と、リヤフロアパネル15とが接合されている。
【0013】
<ジャッキアップスティフナ>
サイドシルインナ11の車両外側には、ミドルフロアクロスメンバ14の若干後方に、鋼板プレス成形品のジャッキアップスティフナ16が接合されている。ジャッキアップスティフナ16は、図示しないジャッキの頭部が係合するジャッキ係合部17と、ジャッキ係合部17から上方に延設された縦板部18と、縦板部18の前縁から車両内側に延設された前部バルクヘッド19と、縦板部18の後縁から車両内側に延設された後部バルクヘッド20とからなっている。ジャッキ係合部17は、サイドシルインナ11の接合フランジ11eの下に回り込む略L字断面形状を呈しており、サイドシルインナ11下端の接合フランジ11eとサイドシルアウタ12の接合フランジ12eとに挟まれるかたちでスポット溶接されている。また、縦板部18は、矩形の平板形状を呈しており、その上縁がサイドシルインナ11上端の接合フランジ11dとスポット溶接されている。一方、前部バルクヘッド19には、サイドシルインナ11の側壁11bにスポット溶接される接合フランジ19bと、下壁11cにスポット溶接される接合フランジ19cとが前方に向けて延設されている。また、後部バルクヘッド20には、サイドシルインナ11の側壁11bにスポット溶接される接合フランジ20bと、下壁11cにスポット溶接される接合フランジ20cとが後方に向けて延設されている。
【0014】
≪実施形態の作用≫
整備工場での下回りの点検整備時や路上でのタイヤ交換時等には、自動車のボディ1がジャッキアップされる。ジャッキアップにあたっては、図5に示すように、ジャッキの頭部30をジャッキアップポイントであるジャッキアップスティフナ16にあてがった後、油圧等によりジャッキの頭部30を上昇させてボディ1を押し上げる。この際、ジャッキアップスティフナ16では、サイドシルインナ11の下方の接合フランジ11eに接合されたジャッキ係合部17にジャッキの頭部30からの大きな力が加えられる。ところが、本実施形態では、ジャッキアップスティフナ16の縦板部18がサイドシルインナ11の接合フランジ11d,11eを連結しているため、サイドシルインナ11の口開きの変化が起こり難くなった。また、ジャッキアップスティフナ16の両バルクヘッド19,20がサイドシルインナ11の側壁11bおよび下壁11cに接合されているため、側壁11bと下壁11cとの間の角度変化も起こり難くなった。更に、サイドシルインナ11は、ジャッキアップスティフナ16により各部が拘束されることでその剛性が向上し、走行時におけるノイズや振動も減少するようになった。
【0015】
≪一部変形例≫
図6は、上記実施形態の一部変形例に係るジャッキアップスティフナを示す拡大透視斜視図である。同図に示すように、一部変形例のジャッキアップスティフナ16では、上述した実施形態と略同様の構成が採られているが、前部バルクヘッド19に切欠き21が形成されている点が異なっている。一部変形例では、この切欠き21を設けたことにより、図6に示すように、サイドシルインナ11とリヤフロアパネル15とをスポット接合する際に、溶接ガン32の先端をジャッキアップスティフナ16の中に挿入することができるようになった。なお、一部変形例の発明に係る作用は実施形態と同様である。
【0016】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。例えば、上記実施形態は本発明をセダン型4ドア乗用車の後部のジャッキアップスティフナに適用したものであるが、他の形式の自動車に設けられるジャッキアップスティフナに本発明を適用してもよいし、前部のジャッキアップスティフナに本発明を適用してもよい。また、上記実施形態ではジャッキアップスティフナを鋼板プレス成形品としたが、鋼板溶接構造品やアルミ鋳造品としてもよい。また、上記実施形態では切欠きを前部バルクヘッドに形成するようにしたが、後部バルクヘッドに形成するようにしてもよい。その他、縦板部やバルクヘッド等の具体的形状等についても、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施形態に係る自動車のボディを示す斜視図である。
【図2】図1中のA部を別の角度から視た拡大透視斜視図である。
【図3】実施形態に係るサイドシルの要部横断面図である。
【図4】図3中のB矢視図である。
【図5】実施形態の作用説明図である。
【図6】一部変形例に係るジャッキアップスティフナを示す要部透視斜視図である。
【図7】従来のジャッキアップスティフナの一例を示す図である。
【符号の説明】
【0018】
1 ボディ
10 サイドシル
11 サイドシルインナ
11a 上壁
11b 側壁
11c 下壁
11d 接合フランジ
11e 接合フランジ
12 サイドシルアウタ
13 リーンフォースメントパネル
16 ジャッキアップスティフナ
17 ジャッキ係合部
18 縦板部
19 前部バルクヘッド
20 後部バルクヘッド
21 切欠き

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体外側に向いて開いた断面コ字形状のサイドシルインナに接合されるジャッキアップスティフナであって、
前記サイドシルインナの上部接合フランジと下部接合フランジとを連結する縦板部と、
前記縦板部から延設され、前記サイドシルインナの側壁および下壁に固着されるバルクヘッド部とを備えたことを特徴とするジャッキアップスティフナ。
【請求項2】
前記バルクヘッド部が前記縦板部の前部に連結された前部バルクヘッドと、前記縦板部の後部に連結された後部バルクヘッドとからなり、
前記前部バルクヘッドと前記後部バルクヘッドとの少なくとも一方に切欠が形成されたことを特徴とする、請求項1記載のジャッキアップスティフナ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−224702(P2006−224702A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−37526(P2005−37526)
【出願日】平成17年2月15日(2005.2.15)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】