説明

ジャンプスタート方法、およびジャンプスタート方法を実施するための装置

本発明は、ジャンプスタートを行う側の電気自動車(100)の車載電源網(100A)とジャンプスタートを受ける側の電気自動車(101)の車載電源網(101A)とを、ジャンプスタートの期間中、一時的に電気的に接続して、両電気自動車間においてジャンプスタートを行う方法に関する。さらに本発明は、電気自動車間においてジャンプスタートを行うための装置にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
先行技術
本発明は、請求項1の上位概念に記載されているジャンプスタート方法に関し、さらに本発明は、請求項9の上位概念に記載された、前記ジャンプスタートを実施するための装置に関する。
【0002】
従来の自動車は通常、駆動用の内燃機関と、電気エネルギーを蓄積するための少なくとも1つのバッテリーとを含む。たとえばバッテリーが空であるかまたはバッテリーの充電量が少ない場合等の走行不能時には、この走行不能車を別の自動車が比較的容易に進行させることができる。こうするためには、2極のブースターケーブルを介して両車の車載電源網を相互に接続する。その際には、両車の車載電源電圧が等しく、ジャンプスタートを行う側の車両が、走行不能車の内燃機関の始動に必要な約1〜5kWの電力を出力できるように留意するだけでよい。エンジンが作動すれば、ジェネレータを介して空のバッテリーに再充電することができる。比較的旧式の車両やオートマチックトランスミッションを備えていない車両では、牽引したり押すことも可能であるが、電気自動車(以下ではEVと称する)ではこの話は異なってくる。電気自動車は通常は、電力網でのみ再充電されるように構成されている。
【0003】
DE10110615A1から、パワー半導体のための駆動パルスを生成するための方法が公知である。この方法はとりわけ、多相インバータまたは直流電圧インバータに設けられたハーフブリッジのために相互にずらされた駆動パルスを発生させるための方法である。この公知の方法では、駆動パルスのずれに相当する遅延時間だけ参照電圧をシフトさせるか、または、周期期間をずれの数で除算して得られたものに相当する遅延時間だけPWM信号をシフトさせる。
【0004】
DE10119985A1から、自動車の多電圧車載電源網にエネルギーを供給するための装置が公知である。この装置は、自動車内に配置された多電圧車載電源網を有し、この多電圧車載電源網は、少なくとも1つの第1の電圧レベルと1つの第2の電圧レベルとを生成し、これらの電圧レベルは参照電位と異なる。この多電圧車載電源網には、少なくとも1つの電気エネルギー蓄積器から電気エネルギーが供給される。この多電圧車載電源網はさらに、前記2つの電圧レベルを接続するための少なくとも1つの変換器を有する。また、外部から前記多電圧車載電源網にエネルギー供給を行うための給電手段も設けられている。上記変換器は、多相変換器として実現することができる。この種の変換器では、比較的低電力の複数の変換セルが相互に並列接続されており、タイミングがずらされてパワー部がクロック制御される。このようにすると、相殺作用によってフィルタモジュールを削減することができる。このような多相変換器により、第1の変換器および第2の変換器を、1つの多相変換器に存在する相によって実現することができる。こうするためには、降圧変換機能を有する変換器と昇圧変換機能を有する変換器とに前記1つの多相変換器の複数の相を分ける。その際には前記複数の相は、変換器内部で入力側においてスイッチを介して分離される。
【0005】
DE102007043603.5から、相互に並列に配置されタイミングをずらされてタイミング制御される複数の変換セルを含む、多相直流電圧変換器が公知である。この多相直流電圧変換器では、各2つの変換セルの出力端の相互間にそれぞれ、磁気的な測定ブリッジが配置されている。
【0006】
DE69617026T1から、単相の電圧源から自動車の蓄電池のバッテリーに充電するためのシステムが公知である。この文献では、3つの巻線を有する多相電流駆動モータと、3つの遮断器を備えた、該多相電流駆動モータ給電用のインバータとが自動車に設けられている。この構成では、整流昇圧段を備えた交流/直流電圧変換器として前記インバータを動作させるための手段と、降圧段とが設けられており、該インバータを動作させるための手段は該インバータの第1の遮断分岐と第2の遮断分岐とを有し、該降圧段は該インバータの第3の遮断分岐を有する。さらに、前記第1の遮断分岐および前記第2の遮断分岐を前記単相の電圧源に接続し、かつ直流電圧を前記バッテリーに供給するために前記第3の遮断分岐の中間タップを該バッテリーに接続するための手段が設けられている。このようなシステムでは、前記第1の遮断分岐の中間タップと前記第2の遮断分岐と中間タップとが、第1のインダクタンスを介して前記単相の電圧源に接続されており、該第1のインダクタンスは前記多相電流モータの少なくとも1つの巻線から形成されている。さらに、前記第3の遮断分岐の中間タップは第2のインダクタンスを介して前記バッテリーに接続されており、該第2のインダクタンスは、前記第1のインダクタンスを成す巻線と異なる、前記多相電流モータの少なくとも1つの巻線から形成される。
【0007】
電動自動車、または、バッテリーの充電を電力網で行うことができるハイブリッド車であるいわゆるプラグインハイブリッド車は通常、電動自動車を牽引するために多相電流電気機器を駆動するための3相インバータを少なくとも1つ有する。この3相インバータは、配電網チョークコイルと共働して電力網からエネルギーを取り出したり電力網へエネルギーを供給したりするのに使用することもできる。このことはたとえば、リフト駆動またはクレーン駆動でも知られている。このことを行うためにはまず、抵抗器を有する事前充電開閉器を介して、整流された配電網電圧より僅かに高い電圧まで中間回路の充電を緩慢に行い、その後、配電網多相電流を整流するか昇圧器として、または、該中間回路における直流電流を多相電流システムに交流変換する昇圧器として、インバータを使用する。この公知の用途では配電網電流は、中間回路における電圧と目標値との電圧偏差と、場合によっては負荷電流とに基づいて、インバータによって調整される。しかしバッテリー充電機器として使用する場合には、インバータを異なる手法で駆動しなければならない。というのもその際には、バッテリー充電電流が、設定すべき所望のパラメータとなり、所望の中間回路電圧ではないからである。
【0008】
本発明の概要
本発明の課題は、走行不能となった場所に電動自動車に充電するための電力網が存在しない場合に該電動自動車のジャンプスタートを行える方法および装置を提供することである。
【0009】
前記課題は、請求項1に記載された方法によって解決される。請求項9に、前記方法を実施するための装置が記載されている。本発明の方法および装置の利点は、エネルギー不足によって走行不能になった車両が、電力網に接続された充電ステーションに自力で到達できるまで、約10〜15分の十分に短い時間内で該車両に充電できることである。こうするためには、中央ヨーロッパでは車両は約10〜20km走行できなければならない。その場合に本発明では、救援を行う側の車両の放電時に、該車両自体がジャンプスタートを行った後に走行不能にならないことを保証する。つまり、救援を行う側の車両も、少なくとも10〜20kmの走行を実現できるエネルギーを残さなければならない。本発明ではさらに、高電圧でも両車両間のエネルギー伝送が確実に行われることも保証する。というのも、約12V〜42Vの通常の車載電源電圧では、有効な救援作業を行うのに必要なエネルギー量を上記の短時間以内で伝送することができないからである。汎用的に使用できるようにするため、本発明では、標準化されたインタフェースを使用する。このことにより、任意の電気自動車間で救援作業を行うことができる。従属請求項、明細書および図面から、本発明の他の利点を明確に導き出すことができる。
【0010】
以下で図面を参照しながら本発明の実施例を詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】ジャンプスタートを行う側の車両の車載電源網とジャンプスタートを受ける側の車両の車載電源網との第1の実施例を示し、両車両の車載電源網の重要な構成要素を示す。
【図2】ジャンプスタートを行う側の車両の車載電源網とジャンプスタートを受ける側の車両の車載電源網との別の実施例を示し、両車両の車載電源網の重要な構成要素を示す。
【図3】ジャンプスタートを行う側の車両の充電状態の、時間に対する依存関係を示すグラフである。
【図4】ジャンプスタート過程を説明するためのフローチャートである。
【図5】ジャンプスタートを行う側の車両の車載電源網とジャンプスタートを受ける側の車両の車載電源網との別の実施例を示し、両車両の車載電源網の重要な構成要素を示す。
【図6】ジャンプスタートを行う側の車両の車載電源網とジャンプスタートを受ける側の車両の車載電源網との別の実施例を示し、両車両の車載電源網の重要な構成要素を示す。
【0012】
図1に、ジャンプスタートを行う側の車両100と、ジャンプスタートを受ける側の車両101とを示し、ジャンプスタートを行う側の車両100の車載電源網100Aの重要な構成要素と、ジャンプスタートを受ける側の車両101の車載電源網101Aの重要な構成要素も併せて示す。両車両100,101は電動自動車であり、これらはそれぞれ、電気機器ELMによって駆動される。この電気機器ELMは、図1では概略的にのみ示されている。両車両100,101の車載電源網100A,101Aは基本的に同じであるため、以下では、車両100の車載電源網100Aのうち、図1に示された構成要素のみを説明する。車載電源網100Aは、3相電力網に接続するための配電網接続端1.1を有し、さらに付加的に、2相電力網に接続するための配電網接続端1.2も有する。このことにより、複数の異なる電力網で車両100のエネルギー蓄積器の充電を行える高いフレキシビリティを実現することができる。配電網接続端1.1のすぐ後に、配電網フィルタ1.3、配電網チョークコイル1.4および事前充電開閉器/主開閉器1.5が後置されている。この事前充電開閉器/主開閉器1.5に、整流器1.6および電圧変換器1.7が接続されている。EMCフィルタ1.8を介して、車載電源網100Aの中間回路バスバー1.9に接続されている。車載電源網100Aはさらに制御装置100Bを有し、この制御装置100Bを介してスイッチング素子S1,S2,S3,S4,S5,S6,S7,S8,S9が制御されるように構成されている。ジャンプスタートを行うための装置の簡単な実施形態の場合、従来技術の車載電源網と同様に、適切なケーブルによって、ジャンプスタートを行う側の車両のバッテリーないしは直流電圧中間回路と、ジャンプスタートを受ける側の車両のバッテリーないしは直流電圧中間回路とを接続することが考えられるが、その場合には残念ながら、ジャンプスタートを受ける側の車両のバッテリーの電圧が、ジャンプスタートを行う側の車両のバッテリーの電圧より高いという理由から、許容範囲外の高い電流が流れたり、ジャンプスタートを行うことができないと判定される危険性が生じる。この問題を回避するためには、電圧を整合して電力を制御するために直流変換器を設けなければならない。この構成については、該当の車載電源網の構造に応じて種々の実施形態が考えられる。車両100,101の車載電源網100A,101Aが、図1に示されたように、整流器と、該整流器に後置接続された直流電圧変換器(DC/DCコンバータ)を含む場合、図1に示された構成が適している。その際には、ジャンプスタートを行う側の車両100の中間回路1.9が線路100.1,100.2を介して、ジャンプスタートを受ける側の車両101の直流バスバーに接続される。好適には、これら複数の線路100.1,100.2は1つのブースターケーブルにまとめられる。このブースターケーブルには適切なコネクタが設けられ、このコネクタが、車両に固定的に設けられたコネクタに接続されることにより、両車両100,101が相互に、逆極性接続保護されて電気的に接続される。したがって一般的には、一方の車両100の中間回路バスバー(バッテリー端子)と他方の車両101の(整流ユニットに後置されかつ直流電圧変換器に後置された)直流バスバーとを確実にコンタクトさせて接続するためのコネクタを、どの車両にも設けるべきである。その際には、前記少なくとも2つの線路100.1,100.2を有するブースターケーブルの各端子が、前記車両100.101のうちどの車両が、ジャンプスタートを受ける側の車両として選択され、どの車両がジャンプスタートを行う側の車両として選択されたかを決定する。特に好適には、導線100.1および100.2と制御装置100Bとの間にも接続部が設けられる。制御装置100Bは線路100.1,100.2を監視し、逆極性で接続されている場合には、該制御装置100Bはこのことを信号で指示する。特に確実なのは、逆極性で接続されている場合に警報信号を出力するだけでなく念のために付加的に適切なスイッチング素子を用いて両車載電源網100A,101A間の接続の遮断も行う装置である。このスイッチング素子は好適には、制御装置100Bによって制御される。エネルギー伝送の電力制御は、ジャンプスタートを受ける側の車両101の直流電圧変換器によって行われる。充電制御の配分調整は、両車両の車載電源網100A,101Aのバッテリーマネージメントシステムによって行われなければならない。この制御にソフトウェアが使用される場合、好適には、この制御に必要なソフトウェアを制御装置100B,101Bに実装することができる。ジャンプスタートを行う側の車両100ではとりわけ、バッテリーの放電が過度に大きくならないように、また放電電力が許容範囲を超えて高くならないように監視しなければならない。ジャンプスタートを受ける側の車両101ではとりわけ、バッテリー充電電力が過度に大きくならないように監視しなければならない。こうするためには、ジャンプスタートを行う側の車両とジャンプスタートを受ける側の車両との間で通信を行う必要がある。この通信は好適には、制御装置100B,101Bによって処理される。こうするためには、線路100.1,100.2の配線で、制御装置100B,101Bに接続するためのインタフェースSAを設けることも有利である。直流電圧変換器によって調整すべき充電電力は好適には、両車両のバッテリーの可能な電力の最小値選択に基づいて決定される。その際には、両車両のうちどの車両が、電力制御を行う直流電圧変換器の制御を行うかも決定しなければならない。その際に有利なのは、ジャンプスタートを受ける側の車両によって制御が行われることである。というのも、ジャンプスタートを受ける側の車両の直流電圧変換器もジャンプスタートを実施するのに使用されるからである。
【0013】
図2を参照して本発明の一実施形態を説明する。この実施形態は、インバータ(配電網に接続されるアクティブフロントエンド)が設けられた車両においてジャンプスタートを行うための構成である。有利には、このインバータないしは該インバータの一部を、ジャンプスタート過程のための電力制御装置として使用することができる。ジャンプスタートを行う側の車両は200で示されており、ジャンプスタートを受ける側の車両は201で示されている。車両200,201の車載電源網200A,201Aは基本的に同一に構成されているため、以下では車載電源網200Aの構成要素のみを詳細に説明する。ジャンプスタートを行う側の車両200の車載電源網200Aは入力側に、多相電力網に接続するための配電網接続端1.1と、2相の交流電力網に選択的に接続するための配電網接続端1.2とを有する。このことにより、車両のバッテリーに充電するフレキシビリティが高くなる。配電網フィルタおよび配電網チョークコイル等のフィルタ手段の後に、まずは主開閉器1.5が続き、この主開閉器1.5にインバータ20が接続されている。このインバータ20にEMCフィルタ1.8が続き、該EMCフィルタ1.8にHV車載電源網(HV=高電圧)が接続されている。ELMは、車両200の少なくとも1つの電気機器を示す。ジャンプスタートを行うためには、線路200.1および200.2を介して、ジャンプスタートを行う側の車両200の車載電源網200Aとジャンプスタートを受ける側の車両201の車載電源網201Aとを接続する。その際には、線路200.1が両車載電源網200Aおよび201Aの配電網接続端1.1を相互に接続する。ここでは、図2に単なる一例として、相線路L1間の接続が示されている。第2の線路200.2は、両車載電源網200A,201Aの中間回路バスバーの負端子を相互に接続する。ジャンプスタートを受ける側の車両201の実際の車載電源電圧が、ジャンプスタートを行う側の車両200Aの車載電源電圧より高い場合、車両200から車両201へエネルギー伝送を行えるようにするためには昇圧動作が必要となる。こうするためには、スイッチング素子T2およびT3を阻止し、かつ、スイッチング素子T1が連続的に導通状態であり、スイッチング素子T4がタイミング制御されるようにしなければならない。スイッチング素子T1,T2,T3,T4は好適には、IGBT技術のパワートランジスタである。上述の回路構成では、昇圧コンバータはスイッチング素子T4と、入力側に接続された配電網フィルタのチョークコイル1.3,1.4と、スイッチング素子T3の逆並列ダイオードとから構成される。ジャンプスタートを受ける側の車両200Aの車載電源電圧が、ジャンプスタートを行う側の車両200の車載電源電圧より低い場合、電圧レベルを適合するために降圧コンバータを使用するのが好適である。この降圧コンバータは有利には、スイッチング素子T1と、スイッチング素子T2の逆並列ダイオードと、入力側に接続された配電網チョークコイル1.4とから構成される。その際には、スイッチング素子T1がタイミング制御されている間、スイッチング素子T2,T3およびT4は相応に阻止される。その際には最大可能伝送電力は、最大許容放電電力および最大許容充電電力の最小値に相当する。このような電力要件は、両車両200,201のバッテリーマネージメントシステムによって制御しなければならない。こうするためには、双方の車載電源網200A,201Aは制御装置200B,201Bを含み、これらの制御装置200B,201Bは各車載電源網においてスイッチング素子を制御し、かつ、ジャンプスタートが行われている間、両制御装置200B,201Bは相互間で通信する。たとえば、制御装置200Bは車載電源網200Aのスイッチング素子T1,T2を制御し、制御装置201Bは車載電源網201Aのスイッチング素子T3,T4を制御する。これらの制御装置200B,201B間の通信を、相応に符号が付された矢印200B,201Bによって図中に示している。好適には上述の両制御装置間の通信は、制御装置200B,201Bを相互に接続するためのインタフェースSBを介して行われる。もちろん、ここで説明した本発明の実施形態でも、ジャンプスタートを行う側の車両200自体が走行不能にならないように、ジャンプスタートを行う側の車両200のエネルギー蓄積器の放電が過度に大きくならないように留意しなければならない。ジャンプスタートを行う側の車両200が未だ、少なくとも約10〜20kmの最低航続距離を走行できる程度まで、該ジャンプスタートを行う側の車両200のエネルギー蓄積器の放電を行うことができる。このことは、この距離の範囲内で、エネルギー蓄積器を再充電するための適切な充電ステーションに到達できることを考慮したものである。ここで好適には、ジャンプスタートを行う側の車両の充電状態に対して閾値S1を設定する。以下、図3を参照してこのことを説明する。同図中には、時間tの関数として、ジャンプスタートを行う側の車両の充電状態LZを示す。ここでは、両車両の車載電源網が相互に接続されており、時点t1においてジャンプスタートが開始されることを前提とする。ジャンプスタートを受ける側の車両201へエネルギーを供給することにより、ジャンプスタートを行う側の車両200の充電状態は低下する。時点t3において所定の閾値SW1に達し、ジャンプスタート過程を中断する。というのも、ジャンプスタート過程を中断しないと、ジャンプスタートを行う側の車両自体が走行不能車となって走行できなくなってしまう可能性が生じるからである。本発明の1つの実施形態では、閾値SW1を固定的に設定する代わりに、設定される閾値SW1は可変である。この可変の閾値SW1の値はたとえば、走行不能となった場所から最も直近の充電ステーションまでの実際の距離に依存する。走行不能となった場所が充電ステーションに近いほど、ジャンプスタートを行う側の車両の充電状態、ひいては閾値SW1を低く選択することができる。このことにより、可能な限り効率的な救援作業を行うことができる。走行不能となった場所から最も直近の充電ステーションまでの実際の距離はたとえば、ナビゲーションシステムのデジタル地図から求めることができる。電気自動車の航続距離を拡大するためには、いわゆるレンジエクステンダを装備することがすでに知られている。このレンジエクステンダとは、ジェネレータを介して電気自動車のエネルギー蓄積器の充電を行うためだけに設けられた小型の内燃機関である。電気自動車の充電状態が所定の最小値を下回った場合に、このレンジエクステンダを作動させる。ジャンプスタートを行う側の車両にこのようなレンジエクステンダ102(図2を参照)が装備されている場合、図3に示されているように、有利には充電状態の第2の閾値SW2を設定することができる。この第2の閾値SW2は、上述の閾値SW1より高い。ジャンプスタートを行っている間に閾値SW2に達することは、図3では時点t2に相当し、その場合には、長くても閾値SW1に達するまでジャンプスタート過程を継続できるように、レンジエクステンダ102を始動させる。有利には、電力制御は各車両によって行われ、ジャンプスタートが行われている間は、各車両のインバータにおいてスイッチング素子がタイミング制御されて動作する。したがって降圧変換動作では、ジャンプスタートを行う側の車両200が制御を行う。昇圧変換動作では、ジャンプスタートを受ける側の車両201が制御を行う。それぞれタイミング制御されて動作する各スイッチング素子を制御するために好適なのは、2値制御またはパルス幅変調等を使用することである。この実施形態においても、線路200.1,200.2を、適切なコネクタ接続部を有する逆接続保護されたケーブルとして実現することができる。もちろん、車両200,201においても適切な電気的コネクタ接続部を設けるべきである。特に有利には、線路200.1,200.2を含む前記ケーブルも、双方の車載電源網200A,201Aにおいて、とりわけ双方の制御装置200B,201Bにおいて接続を行うためのインタフェースSBを有する。
【0014】
以下、一例として図4に示されたフローチャートを参照して、2つの電気自動車間で行われるジャンプスタート、たとえば電気自動車100,101間で行われるジャンプスタート過程を説明する。このジャンプスタート方法の開始時点40では、ジャンプスタートを行う側の車両100の車載電源網100Aと、ジャンプスタートを必要とする側の車両101の車載電源網101Aとが電気的に接続されている。すなわち両車両は、導線100.1,100.2とインタフェースSAとを含むブースターケーブルを使用して、逆接続保護されて相互に接続されている。インタフェースSAによって制御装置100Bおよび101Bも相互に接続され、このことにより、ジャンプスタート過程を制御するために制御装置100Bと制御装置101Bとが相互に通信できるようになる。ステップ41において、両車両100,101の充電状態を検査する。ジャンプスタートを行う側の車両100の充電状態に応じて、次の分岐ステップ(ステップ42)において、以下のいずれかのステップに分かれる。ジャンプスタートを行う側の車両100の充電状態が過度に低く、有効なジャンプスタートを行えない場合、該車両100が走行不能になる危険性をなくすために、ジャンプスタート方法を直ちに中断する。すなわち、ステップ42Bを通って終了点50に移行し、この終了点50においてジャンプスタート方法を終了する。車両100の充電状態が十分に大きい場合、ステップ42Aを通ってステップ43に移行し、該ステップ43において双方の車載電源網100A,101Aの電圧レベルを検査する。分岐ステップ44においてこの電圧検査の結果に依存して、ステップ44Aを通ってステップ45に移行するか、または、ステップ44Bを通ってステップ46に移行する。ステップ44Aを通る経路はたとえば、車両101の車載電源網101Aの電圧レベルが、ジャンプスタートを行う側の車両100の車載電源網100Aの電圧レベルより高い場合に選択される。この場合、車両100の車載電源網100Aはステップ45において昇圧変換動作に切り換えられることにより、双方の車載電源網の電圧レベルを整合する。ステップ44Bを通る経路はたとえば、車両101の車載電源網101Aの電圧レベルが、ジャンプスタートを行う側の車両100の車載電源網100Aの電圧レベルより低い場合に選択される。この場合、車両100の車載電源網100Aはステップ46において降圧変換動作に切り換えられることにより、双方の車載電源網の電圧レベルを整合する。ステップ47において、ジャンプスタートを受ける側の車両101において充電過程を行う。ステップ48において、ジャンプスタートを行う側の車両100の充電状態を、有利には周期的に、規則的なインターバルで、検査する。ステップ49においてこの検査の結果に依存して、ステップ49Aまたはステップ49Bに分かれる。ステップ49Aを通る場合、ステップ47へ戻り、ジャンプスタートを受ける側の車両101の充電過程を継続する。ジャンプスタートを行う側の車両の充電状態が過度に低くなったことが検出された場合、ステップ49Bを通り、ジャンプスタート過程を終了する終了点50へ移行する。このことはたとえば、充電状態に対して規定された閾値を該充電状態が下回ることによって検出される。たとえば、図3中の閾値S1を参照されたい。
【0015】
図5に、ジャンプスタートを行う側の車両の車載電源網300Aと、ジャンプスタートを受ける側の車載電源網301Aとの別の実施例を、ブロック回路図として簡略化して示す。同図では、両車両自体は示されていない。ジャンプスタートを行う側の車両の車載電源網を300Aで示し、ジャンプスタートを必要とする車両の車載電源網を301Aで示す。車載電源網300Aは、相互に並列接続された3つの充電分岐LZ1A,LZ2A,LZ3Aを有する。各充電分岐は、フィルタと、昇圧コンバータと、電位分離変換器とりわけ降圧コンバータとを有する。したがって、充電分岐LZ1AはフィルタF1Aと昇圧コンバータHS1Aと変換器W1Aとを有し、充電分岐LZ2AはフィルタF2Aと昇圧コンバータHS2Aと変換器W2Aとを有し、充電分岐LZ3AはフィルタF3Aと昇圧コンバータHS3Aと変換器W3Aとを有する。これらの充電分岐LZ1A,LZ2A,LZ3Aによって生成される電圧により、車載電源網300AのバッテリーBAの充電を行う。300Bは、車載電源網300Aの別の構成要素を概略的に示す。これらの構成要素は、ここでは詳細に示していない。
【0016】
車載電源網301Aも、バッテリーBBに給電するための3つの充電分岐LZ1B,LZ2B,LZ3Bを有し、各充電分岐は、車載電源網300Aの充電分岐に相応して構成されている。すなわち、充電分岐LZ1BはフィルタF1Bと昇圧コンバータHS1Bと変換器W1Bとを有し、充電分岐LZ2BはフィルタF2Bと昇圧コンバータHS2Bと変換器W2Bとを有し、充電分岐LZ3BはフィルタF3Bと昇圧コンバータHS3Bと変換器W3Bとを有する。符号301Bによって示されたブロックもまた、車載電源網301Aの別の構成要素を概略的に表している。ジャンプスタートを行うためには、線路300.1および300.2を介して双方の車載電源網300A,301Aを相互に接続することができる。上述の線路は、車載電源網300AのバッテリーBAを、車載電源網301Aの少なくとも1つの充電分岐に接続し、とりわけ充電分岐LZ1Bに接続する。この構成の代わりに、バッテリーBAを車載電源網301Aのすべての充電分岐LZ1B,LZ2B,LZ3Bに接続することもできる。図5においてこの接続を、破線で示された配線構成によって示す。また車載電源網は、3つの相互に並列接続された充電分岐LZ1A,LZ2A,LZ3Aを有する代わりに、1つの充電分岐のみを有することもでき、たとえば充電分岐LZ1Aのみを有することもできる。線路300.1,300.2は1つの充電ケーブルを構成し、この充電ケーブルは、インタフェースSAに関して上記ですでに説明された機能を有するインタフェースSCを含む。さらに、インタフェースSCとともに、またはその代わりに、インタフェースSCに組み込まれた構成要素として、通信モジュールSCKを設けることもできる。遅くとも、充電ケーブル(線路300.1,300.2)を介して双方の車載電源網300A,301Aが相互に接続されるときには、これらの車載電源網は有線または無線で相互に通信することができるようになる。このようにして、双方の車載電源網が一緒に動作してジャンプスタートを安全に行えるか否かを検査し、両車載電源網が一緒に動作してジャンプスタートを安全に行えることを保証することができる。
【0017】
図6に、ジャンプスタートを行う側の車両の車載電源網400Aと、ジャンプスタートを受ける側の車両の車載電源網401Aとを含む、別の実施形態を示す。ジャンプスタートを行う側の車両の車載電源網400AはバッテリーBAを有し、該バッテリーBAの充電は、配電網接続端N400と降圧コンバータT400と昇圧コンバータH400とを介して行うことができる。ジャンプスタートを受ける側の車両の車載電源網401AはバッテリーBBを有し、該バッテリーBBの充電は、配電網接続端N401と降圧コンバータT401と昇圧コンバータH401とを介して行うことができる。ジャンプスタートを行う場合、線路400.1および400.2を介して、車載電源網400AのバッテリーBAの端子と、車載電源網401Aの配電網接続端N401の2つの相端子とを接続する。有利にはブースターケーブルとして構成された線路400.1および400.2はさらに、上記ですでに述べた機能を有するインタフェースSDも有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジャンプスタートを行う側の電気自動車(100)の車載電源網(100A)とジャンプスタートを受ける側の電気自動車(101)の車載電源網(101A)とを、ジャンプスタートの期間中、一時的に電気的に接続して、該ジャンプスタートを行う側の電気自動車(100)と該ジャンプスタートを受ける側の電気自動車(101)との間でジャンプスタートを行う方法であって、
前記電気自動車(100,101)に充電装置として電圧変換器(1.7)が装備されている場合、前記ジャンプスタートを行う側の電気自動車(100)の中間回路バスバー(1.9)と、前記ジャンプスタートを受ける側の電気自動車(101)の直流電流バスバー(1.6)とを接続する
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
ジャンプスタートを行う側の電気自動車(200)の車載電源網(200A)とジャンプスタートを受ける側の電気自動車(201)の車載電源網(201A)とを、ジャンプスタートの期間中、一時的に電気的に接続して、該ジャンプスタートを行う側の電気自動車(200)と該ジャンプスタートを受ける側の電気自動車(201)との間でジャンプスタートを行う方法であって、
前記電気自動車(200,201)に充電装置としてインバータ(20)が装備されている場合、前記ジャンプスタートを行う側の電気自動車(200)の中間回路バスバーと、前記ジャンプスタートを受ける側の電気自動車(200A)の中間回路バスバーとを接続し、かつ、該ジャンプスタートを行う側の電気自動車(200)の車載電源網(200A)の配電網接続端(1.1)と該ジャンプスタートを受ける側の電気自動車(201)の車載電源網(201A)の配電網接続端とを接続する
ことを特徴とする方法。
【請求項3】
前記方法の開始時に、前記ジャンプスタートを行う側の電気自動車(100,200)の充電状態と、前記ジャンプスタートを受ける側の電気自動車(101,201)の充電状態とを検出し、
前記ジャンプスタートを行う側の電気自動車(100,200)の充電状態に対して第1の閾値(S1)を設定し、
前記ジャンプスタートを行う側の電気自動車(100,200)の充電状態が前記第1の閾値(S1)を下回る場合、前記方法を遮断または終了する、
請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記方法の開始時に、前記ジャンプスタートを行う側の電気自動車の車載電源網の電圧値と、前記ジャンプスタートを受ける側の電気自動車の車載電源網の電圧値とを検出し、
前記ジャンプスタートを受ける側の電圧値が前記ジャンプスタートを行う側の電圧値より高い場合、該ジャンプスタートを受ける側の車載電源網を昇圧変換動作で動作させる、
請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記方法の開始時に、前記ジャンプスタートを行う側の電気自動車の車載電源網の電圧値と、前記ジャンプスタートを受ける側の電気自動車の車載電源網の電圧値とを検出し、
前記ジャンプスタートを受ける側の電圧値が前記ジャンプスタートを行う側の電圧値より低い場合、該ジャンプスタートを行う側の車載電源網を降圧変換動作で動作させる、
請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記ジャンプスタートを行う側の電気自動車(100,200)にレンジエクステンダ(102)が装備されている場合、前記充電状態に対して、前記第1の閾値(S1)より高い第2の閾値(S2)を設定し、
遅くとも、前記ジャンプスタートを行う側の電気自動車の充電状態が前記第2の閾値(S2)を下回ったときに、該ジャンプスタートを行う側の電気自動車(100,200)のレンジエクステンダ(102)を始動させる、
請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記第1の閾値(S1)は可変である、請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記閾値(S1)の値を、走行不能になった場所から最も直近の充電ステーションまでの距離に依存して選択する、請求項1から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
2つの電気自動車(100,101,200,201)間でジャンプスタートを行うための装置であって、
前記装置は、
・両電気自動車に使用される、逆極性接続保護されたコネクタ接続部と、
・前記ジャンプスタートが行われる時間にわたって両電気自動車を接続するための、逆極性接続保護された充電ケーブル(100.1,100.2,200.1,200.2)と
を有することを特徴とする装置。
【請求項10】
前記充電ケーブル(100.1,100.2,200.1,200.2)は、前記ジャンプスタートの過程のシーケンスを制御するためのインタフェース(SA,SB)を有する、請求項9記載の装置。
【請求項11】
前記ジャンプスタートを行うために相互に接続された両電気自動車の各車載電源網(100A,101A,200A,201A)にそれぞれ、前記ジャンプスタートの過程を制御するための少なくとも1つの制御装置(100B,101B,200B,201B)が設けられている、請求項9または10記載の装置。
【請求項12】
前記両制御装置(100B,101B,200B,201B)は前記充電ケーブル(100.1,100.2,200.1,200.2)のインタフェース(SA,SB)を介して相互に接続されており、前記ジャンプスタートの制御のために該インタフェースを介して相互に通信する、請求項9から11までのいずれか1項記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2013−504291(P2013−504291A)
【公表日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−527273(P2012−527273)
【出願日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際出願番号】PCT/EP2010/061773
【国際公開番号】WO2011/026721
【国際公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(390023711)ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング (2,908)
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【住所又は居所原語表記】Stuttgart, Germany
【Fターム(参考)】