説明

ジルコニア−炭素含有耐火物及びその製造方法

【課題】ZrO含有率が80質量%程度以上の領域の高ジルコニア領域におけるジルコニア−炭素含有耐火物の耐蝕性及び耐熱衝撃性を、に改善する。
【解決手段】骨材粒子間にカーボン・ボンドが形成され、ZrO成分を80質量%以上及び炭素基質材料を含有するジルコニア−炭素含有耐火物において、耐火物組織内に占める開口気孔体積と炭素基質材料の体積の合計を42体積%以下25体積%以上とし、耐火物組織中の全開口気孔中の10μm以上の気孔を30%以下とし、かつ、前記のジルコニア−炭素含有耐火物中の炭素基質材料中の、最大長さが45μmを超える炭素基質材料粒を、前記のジルコニア−炭素含有耐火物中のボンドカーボンを除く全炭素基質材料中の60質量%未満とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼の連続鋳造に使用される浸漬ノズル等に使用される耐火物であって、高い耐蝕性と高い耐熱衝撃性を兼備したジルコニア−炭素含有耐火物に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼の連続鋳造において使用される浸漬ノズルは、タンディッシュからモールドに溶鋼を移送するために使用される。浸漬ノズルは、溶鋼と大気との接触を防ぐことで溶鋼の酸化を防止すると同時に、モールド内部へ整流化した状態で溶鋼を注入するために使用される。これにより、鋼上表面に浮上されているスラグ層や鋼中に存在する非金属介在物が鋼中に混入することを防止され、鋼の品質が改善されると同時に操業の安定性が確保される。一般に、モールド内部の鋼上表面には、モールド・パウダー層と呼ばれる熔融ガラス層が存在する。この熔融ガラス層は、CaO,SiO,NaO,KO,Al,CaF,Cなどを含有する。そのため、浸漬ノズルの構成材料であるAl,SiO,Cなどに対しては強い浸食性を持っており、長時間の操業に対しては浸漬ノズルの耐蝕性に問題を生じる。従って、浸漬ノズルのモールド・パウダーと接触する部位には、熔融ガラスに対して耐蝕性が高いジルコニア材料を適用することが多く、熱衝撃性を確保する必要から、パウダー・ライン材質としては、一般には、ジルコニア−炭素(ZrO−C)材質が適用されている。
【0003】
パウダー・ライン材質の耐蝕性の改善は、ノズルの寿命にも直結するため、従来から様々な改善が行われてきた。一般的には、材質中のジルコニア含有率を上げることにより耐蝕性が向上することが知られている。一方で、ジルコニア含有率を上げるとZrO−C材質の熱膨張率や弾性率の上昇を招くため、使用時の割れを引き起こし、操業に支障を与えるという問題があった。耐熱衝撃性を改善するためには黒鉛含有率を増やせばよい。しかしながら、上述のように、黒鉛量の増加は耐蝕性の低下を招くことから、ジルコニア含有率と黒鉛含有率とのバランスが重要となる。一般的には、浸漬ノズルを安定的に使用する上では、ジルコニア骨材の配合量としては約90質量%が上限となる。
【0004】
さらに、アルミナ−黒鉛材質やアルミナ−シリカ−黒鉛材質など、数種類の材質から構成された浸漬ノズルには、受鋼時の熱的な構造安定性の観点から、比較的リニアな熱膨張特性を示すCaO,MgO,Y等を3〜10質量%含有する部分安定化骨材や完全安定化骨材原料を適用するのが一般的である。また、骨材間を接着する結合炭素を含むため、パウダー・ライン部に使用されるZrO−C材質中のZrO成分の含有率は約86質量%が上限となる。さらに、割れの発生頻度が少なく、安定操業が可能な高耐蝕性用パウダー・ライン部として使用するため、一般にはZrO成分の含有率は82質量%以下として使用されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、ジルコニア原料70〜95質量%、黒鉛5〜30質量%からなり、前記ジルコニアの粒度構成が45μm以下のジルコニア粒子が70%以上である耐蝕性に優れたジルコニア−黒鉛質耐火物が開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、シリカ含有率が0.30質量%以下であるCaO安定化ジルコニア原料50〜90質量%、バデライト原料0〜30質量%(但し、CaO安定化ジルコニア原料とバデライト原料の合計量が60〜91質量%)、及び黒鉛原料10〜35質量%を含有してなるジルコニア−黒鉛材料を連続鋳造用浸漬ノズルの熔融モールド・パウダーと接触する部位に配設する技術が開示されている。
【特許文献1】特開平11−302073号公報
【特許文献2】特開平8−1293号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1,2に記載のジルコニア−黒鉛質耐火物及びジルコニア−黒鉛材料は、現在の高生産の操業時においては、耐熱衝撃性と耐蝕性の双方を十分に満足するものとはいえない。
【0008】
故に、操業時の熱衝撃による割れの問題がなく、耐蝕性が上記従来の材料よりも大幅に良好なジルコニア−黒鉛材料が望まれていた。
【0009】
従来技術では、ZrO成分の含有率が80質量%程度までは、ZrO成分の含有率が高いほどパウダーに対する耐蝕性は向上するが、ZrO成分が80質量%程度を超える領域になると、逆に耐蝕性が低下する傾向となる。このことからZrO成分の含有率の上限は83質量%程度に止まっていた。
【0010】
そこで、本発明の第1の課題は、ZrO含有率が80質量%程度を超える領域の高ジルコニア領域におけるジルコニア−炭素含有耐火物の耐蝕性を改善することにあり、第2の目的は、ZrO含有率が83質量%程度以下(ZrO含有率が80質量%程度まで)のジルコニア−炭素含有耐火物の耐蝕性もさらに改善することにあり、これらにより連続鋳造の長時間操業の動向に耐え得る連続鋳造用浸漬ノズルを提供することにある。
【0011】
本発明のさらなる目的は、ZrO含有量を高めることで耐蝕性を改善した連続鋳造用浸漬ノズルについては、耐熱衝撃性が低下する傾向となるので、耐熱衝撃性の改善をも行って、耐蝕性に優れると共に耐熱衝撃性にも優れるジルコニア−炭素含有耐火物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、高ジルコニア領域、特にZrO成分の含有率が80質量%程度を超える領域になると逆に耐蝕性が低下する傾向となる原因が、主としてZrO成分の含有率の上昇に伴って見掛け気孔率(開口気孔の割合)が高くなること、さらにこれは、このような高ZrO成分の含有率の耐火物では残部の炭素質材料、特に黒鉛の含有量が少なくなることで、この耐火物の製造における加圧成形時に十分な耐火骨材相互の滑り即ち固体潤滑性が得られず、結果として耐火物の充填度合いが低下して組織が粗くなることにあることを見出した。
【0013】
そこで、本発明者らは、高ジルコニア領域のジルコニア−炭素含有耐火物における組織内に存在する開口気孔の量に着目し、この開口気孔の存在が、熔融パウダーが組織中へ浸透するのを促進し、連続鋳造用溶鋼鋳型内の熔融パウダーとの間の接触面積の増大をもたらすため、ジルコニア骨材の崩壊(脱安定化現象)が加速されることを確認した。
【0014】
一方、連続鋳造用ノズルのパウダー・ライン部におけるジルコニア−炭素含有耐火物の溶損メカニズムは、
(a)溶鋼がジルコニア−炭素含有耐火物に接触した際に、耐火物内の炭素質成分が溶鋼中に溶出する段階と、
(b)炭素質成分の溶失により、パウダー・ライン部の表面に露出したジルコニア骨材が、パウダー層へと溶出する段階と、
が交互に繰り返されることで、溶損現象が進行する。一般に、溶鋼は炭素含有率が低いため、炭素の溶解速度が速く、炭素質成分の溶失は短時間で完了する。そのため、溶損現象は、主として酸化物骨材のパウダー成分への溶出時間によって律速される。したがって、溶損界面においてZrOの面積率を上げ、炭素基質材料骨材の面積率を下げれば耐蝕性が向上する。
【0015】
したがって耐火物内の炭素質成分が溶鋼に接触する面積、耐火物内のZrOがパウダー層に接触する面積を小さくすることも、これら耐火物の溶損を低減することに寄与することになる。
【0016】
このような知見に基づき本発明者らは、高ジルコニア領域のジルコニア−炭素含有耐火物では、開口気孔体積と炭素基質材料の体積の両方の合計の体積割合を低減することが、その溶損速度の低減効果が大きいことを確認した。
【0017】
すなわち、本発明に係るジルコニア−炭素含有耐火物は、骨材粒子間に炭素の結合が形成され、ZrO成分を80質量%以上及び炭素基質材料を含有するジルコニア−炭素含有耐火物において、前記耐火物組織内に占める開口気孔体積と炭素基質材料の体積の合計が42体積%以下25体積%以上であって、前記耐火物組織中の全開口気孔中の10μm以上の気孔が30%以下であり、かつ、前記のジルコニア−炭素含有耐火物中の炭素基質材料中の、最大長さが45μmを超える炭素基質材料粒が、前記のジルコニア−炭素含有耐火物中の結合炭素を除く全炭素基質材料中の60質量%未満であることを特徴とする。
【0018】
ここで「ZrO成分」の量は、分離が難しいHfOを含み、CaO,MgO,Y等の安定化剤を除外した量をいう。「炭素の結合」とは、有機質結合材が非酸化雰囲気で炭素化して耐火物を構成する粒子等の間を相互に接着又は固定するように形成した組織をいう。
【0019】
また、「開口気孔」とは、組織内の閉ざされた気孔(密閉気孔)を除いた、外部に開かれた気孔をいう。この開口気孔の体積の程度に応じて、耐火物内の炭素質及びZrOが溶鋼やパウダーに接触する面積の程度も変化する。全体に占める開口気孔の割合(開口気孔率)は、JIS R 2205に示される測定方法での見掛け気孔率として測定することができる。
【0020】
種々の実験・検討を行った結果、組織内に占める開口気孔体積と炭素基質材料の体積の合計が42体積%以下とすることによって、従来のジルコニア−炭素含有耐火物の耐用レベルを大幅に超える耐蝕性が示されることを見いだした。
【0021】
組織内に占める開口気孔及び炭素基質材料は、耐火物の熱衝撃に対する抵抗性(以下、「耐熱衝撃性」ともいう。)を付与する機能をも有する。この両方の合計の体積割合が25%未満であると耐蝕性は向上するものの、耐熱衝撃性が低下して割れの危険性が増すため好ましくない。
【0022】
従来技術には炭素質成分又は見掛け気孔率をそれぞれ単独で耐熱衝撃性との関係を示唆するものはあったが、特に耐蝕性を向上する手段として炭素基質材料の体積及び耐火物組織の見掛け気孔率の両方を同時に制御することは、特にZrO成分の含有率が約83質量%を超える耐火物については見出されていなかった。
【0023】
ジルコニア−炭素含有耐火物の、開口気孔体積と炭素基質材料の体積との合計の割合は、対象の耐火物につき測定した開口気孔体積と計算で求めた開口気孔体積との合計で求められる。開口気孔体積は、JIS R 2205に示される測定方法での見掛け気孔率として示される数値である。炭素基質材料の体積と算出(決定)方法は、炭素基質材料の体積は、ジルコニア−炭素含有耐火物の化学成分値とZrO骨材の密度、炭素基質材料粒子等の単体の密度から計算により炭素基質の体積割合を得ることができる。
【0024】
このように、溶鋼との接触によって容易に溶出する炭素質成分の体積と開口気孔体積の合計を同時に制御することで、高ジルコニア領域でのジルコニア−炭素含有耐火物の耐蝕性を大幅に向上させることができる。
【0025】
さらに前述の開口気孔については、連続鋳造のモールド内溶鋼表面に熔融パウダーが存在する条件の操業に前述の耐火物を適用する場合においては、その開口気孔の気孔径が10μm以上で熔融パウダーが浸入し易いこと、及び10μm以上の気孔の量(体積割合)と耐蝕性との間には相関関係があることを本発明者らは見出した。
【0026】
この気孔径はJIS R 1655 水銀圧入法による成形体気孔径分布の測定方法により求めることができる。
【0027】
全開口気孔中の、気孔径が10μm以上の気孔の体積割合が少なくなるほど耐蝕性は向上し、30%以下の場合に顕著に向上することを本発明者らは、見出した。(表???)
【0028】
これは、部分的にでも存在する10μm以上の気孔に熔融パウダーが侵入することで、その気孔付近の炭素基質をはじめとする部分的な耐火物組織の喪失や崩壊を生じ、そのような損傷を生じた耐火物組織部分が多いほど耐火物組織の損傷を拡大、連結し易くして広範囲の耐火物組織の損傷を促進するためと考えられる。
【0029】
したがって、気孔径が10μm以上の気孔の体積割合が0%、言い換えると全開口気孔が、気孔径が10μm未満である場合が最も好ましい。
【0030】
そこで炭素基質材料中の最大長さが45μmを超える炭素基質材料粒子を、当該ジルコニア−炭素含有耐火物中の結合炭素を除く全炭素基質材料中の60質量%以下にすることで、気孔径が10μm以上の気孔の体積割合を少なくして、より容易に本発明のジルコニア−炭素含有耐火物を得ることができる。
【0031】
製造面では、一般的に連続鋳造用ノズルの成形はCold Isostatic Pressing(静水圧等方成形。以下単に「CIP」という。)が用いられることから配合状態の成形性が、最終品質とくに見掛け気孔率や気孔径分布に大きな影響を及ぼすことはよく知られている。前述のような開口気孔体積と炭素基質材料の体積との合計の割合、及び気孔径が10μm以上の気孔の体積割合を有するジルコニア−炭素含有耐火物は、ZrO含有量が80%未満の耐火物では成形前のはい土の粒度構成、湿潤特性、成形圧力等を調整することによりある程度目的とする状態のものを得ることは可能である。しかしZrO骨材量が増えるにしたがい、特に、ZrO量が80%以上で、成形過程での粒子の再配列を容易にする潤滑性に富んだ黒鉛などの炭素基質材料が減る場合、一定成形圧力下でのZrO−黒鉛材質の見掛け気孔率は増加する傾向となり、前記のような製造時の条件の変更のみでは不十分であることが多い。また、配合設計面では、ZrO−黒鉛材質中のZrO骨材は、一般的に熔融スラグへの溶解速度を低減と耐熱衝撃性の改善のためにその粒度は1mm以下0.045mm以上の粒度を主体に使用する場合が多い。熔融スラグへのジルコニア骨材の溶解速度は、ちょうど粒径の大きな氷砂糖が粉砂糖よりも水への溶解が遅いこととよく似ており、粗粒骨材の使用で改善する。また、熱衝撃性に関しては、鋳造途中に焼結現象が起こりやすい45μm以下の微粉末を使用すると焼結現象により強度や弾性率の上昇を招き割れ現象が発生しやすくなる。このため45μmアンダーの微粉量の使用に制限が生じる。このような理由によりZrO骨材粒度は上述した粒度が主体に使用される。
【0032】
以上、連続鋳造ノズルの製造面からの制約および使用されるジルコニア骨材粒度など配合設計面の観点から、成形時の潤滑性を向上させて緻密な成形体を得る目的および鋳造途中の焼結現象を抑制するために、ジルコニア骨材粒度よりも細かな45μm以下の炭素基質材料を使用するのが最もよい。
【0033】
さらに、45μmを超える炭素基質材料粒が、当該ジルコニア−炭素含有耐火物中の結合炭素を除く全炭素基質材料中の60質量%以下にすることで、製品状態としての耐火物の見掛け気孔率及び気孔径が10μm以上の開口気孔の割合の大幅な低減効果が得られ、その結果耐蝕性向上に大きな改善効果が得られることを見いだした。45μm以下の炭素基質が40%未満では、ジルコニア粒子の再配列が十分でなく、上述したような十分な効果は得られない。
【0034】
ここで、炭素基質材料としては、鱗状黒鉛や土壌黒鉛などの黒鉛質微粉末や非晶質や結晶質のカーボンブラックなどを単独もしくは併用しての使用が可能である。
【0035】
ところで前述の耐蝕性に優れたジルコニア−炭素含有耐火物の組織は、緻密になるので、耐熱衝撃性が低下する傾向になる。特にZrO成分が86%を超えるあたりから熱衝撃性が低下し割れやすくなるため、操業変動を吸収して安定して鋳造することが難しくなる。そこで本発明の耐火物においては、前記の本発明に係るジルコニア−炭素含有耐火物において、前記耐火物の組織中の炭素の結合に、直径50nm以下の繊維状組織を有する炭素基質材料を含有させて、耐熱衝撃性を顕著に向上させるようにしてもよい。
【0036】
この直径50nm以下の繊維状組織を有する炭素基質材料を含む組織により、ジルコニア−炭素含有耐火物の耐熱衝撃性を大幅に向上させることができる理由は、次のように考えられる。
【0037】
ジルコニア−炭素含有耐火物の組織は、ZrO骨材、黒鉛等の炭素基質材料等の骨材粒子と炭素の結合とからなるが、これらジルコニア骨材粒子が黒鉛等の炭素質骨材と炭素の結合からなる炭素の結合のマトリックスに取り囲まれるように三次元的に構成されている。この炭素の結合のマトリックスは黒鉛をフィラーとして三次元的に繋がっているため、この炭素の結合のマトリックス部分の性質が、ジルコニア−炭素含有耐火物のマクロ物性に大きな影響を及ぼす。
【0038】
一方、骨材粒子間を繋ぐ炭素の結合は、一般には高残炭性を示す、フェノール樹脂を非酸化焼成することによって形成される。この炭素は、一般的に非晶質のグラッシーカーボン(以下、単に「ガラス状炭素」という。)と呼ばれるものであり、緻密で弾性率が高く脆い性質を有する。
【0039】
直径50nm以下の繊維状組織を有する炭素基質材料(以下、単に「繊維状炭素」という。)は、それ自体3次元的に不規則な配向をし、またそれら繊維状炭素は相互に複雑に絡み合って組織内に分散されている。このような構造の炭素基質材料は、それ自体が高い機械的な変形能を有し、かつ高い応力分散又は応力吸収能をも有している、いわゆる「柔構造体」である。したがってこのような柔構造体を含む炭素の結合のマトリックス部分も柔構造化する。
【0040】
またこの繊維状炭素はガラス状炭素や炭素の結合内の他の組織に比べて引っ張り強度にも優れており、組織強化材として機能する。したがって、この繊維状炭素によって、炭素の結合の破壊靱性も高くなる。
【0041】
このような繊維状炭素を炭素の結合のマトリックス内に微細な黒鉛微粉末やカーボンブラックなどとフィラーとして3次元的に連続的に分散して配置させることで、その炭素の結合のマトリクス部分が柔構造化、かつ高靱性化した結合組織(以下、単に「繊維状炭素含有組織」という。)となる。すなわち、炭素系繊維フィラーとしての繊維状炭素を含む炭素の結合組織を骨材粒子等の間の耐火物組織内に連続的に構成させることで、その耐火物が柔構造化、かつ高靱性化し、その耐火物のマクロ物性が改善され、弾性率、熱膨張率が低減され、またミクロ組織の強度も向上することで耐火物の破壊に至る破壊の起点の発生をも抑制し、高い破壊抵抗性を得ることができると考えられる。
【0042】
ここで、「直径50nm以下の繊維状炭素の組織」とは、カーボンナノチューブ(以下単に「CNT」という。)やカーボンナノファイバー(以下単に「CNF」という。)のようなナノスケールの極微細な繊維状の炭素及びその集合組織をいう。
【0043】
連続鋳造用ノズルに使用されるカーボン・マトリックスにおける炭素質フィラー間に存在する炭素の結合の厚さは数百nm程度である。微細な繊維状組織による連続性を高めるためには繊維状組織の構成単位が細かいほどよいと考えられる。50nmを超えるとフィラーとなる炭素基質原料との微細な接着が十分でなくなるため50nm以下が好ましい。
【0044】
また、前記本発明の耐火物において、前記耐火物組織内には、粒子径が1000nm以下の遷移金属若又は遷移金属化合物の微粒子が含有され、かつ当該遷移金属若又は遷移金属化合物の耐火物全体における金属含有率が0.5質量%以下(0質量%を除く。)である構成とすることができる。
【0045】
このように、耐火物組織内に粒子径が1000nm以下の遷移金属または遷移金属塩を含む微粒子を存在させておいた場合、遷移金属の微粒子が触媒となって、耐火物の製造工程中の熱処理工程等の熱間で炭素の微細繊維化が促進される。
【0046】
したがって、耐火物の耐熱衝撃性の向上には、耐火物組織内でも特に炭素の結合内に分散された状態で存在させることが効果的であり、好ましい。
【0047】
粒子径が1000nm以下である理由は、カーボン・マトリックスにおける炭素質フィラー間に存在する炭素の結合の厚さが数百nm程度であるため、炭素の結合の厚さより大きな粒子を存在させると触媒の効果が十分でなく非酸化雰囲気での熱処理途中に炭素の結合との触媒効果による繊維状炭素組織ができ難かったり、多量の触媒を添加する必要が生じるためである。0.5質量%以上の金属触媒の添加は、金属触媒が酸化触媒として作用するため耐酸化性を著しく低下させる弊害が生じるため好ましくない。
【0048】
現在のところ微細な炭素繊維上組織ができる詳細については不明であるが、触媒となるFe,Ni,Coなどの遷移金属の微細粒子が加熱途中に発生したフェノール樹脂などからの炭化水素系ガスと触媒粒子の表面で反応しCNTやCNFを作るメカニズムや、フェノール樹脂などが熱処理の過程で炭素化し、炭素化した結合炭素内に取り込まれた金属触媒粒子の周りの炭素が一旦金属触媒粒子に固溶し、炭素原子が再配列し触媒粒子を核としてCNT,CNFなどを形成するメカニズムが考えられる。
【0049】
いずれにしても、炭素繊維のサイズを決定しているのは核となる触媒金属の粒子サイズと考えられる。1000nm以下の粒子サイズに限定することにより効率よく炭素の結合内で微細な炭素の繊維状の組織を形成することが可能となる。好ましくは50nm以下の粒子サイズである。
【0050】
またこのような遷移金属は、熱処理を含む製造工程を経た製品としての前記耐火物の組織内では、金属の形態として存在が確認できる場合と、炭化物等の遷移金属の化合物として存在を確認できる場合がある。
【0051】
遷移金属としては、例えば、Ni,Co,Fe,Ti,Cr,Pt,Rh,Pdの何れか、又はそれらの化合物の一種若しくは複数種を使用することができる。
【0052】
なお、現在のところ、CNTのような極微細な炭素繊維状組織の合成方法としては、炭化水素と触媒を気相において高温下で反応させることにより、多層CNTが高効率で生成する炭化水素触媒分解法が知られている。また、熱分解性樹脂と金属系触媒とを加熱処理することによりアモルファスナノスケールカーボンチューブを製造する方法も知られている(WO00/40509,特開2002−293524号参照)。
【0053】
しかしこれらの方法では大量に生産することができず、また製造コストが極めて高く、産業上実用化できる状況にはない。
【0054】
これに対し、熱間における耐火物内においては、骨材粒子間の狭い空間(炭素の結合が形成される空間)では、前述したようなプロセスにより炭素の結合全域の微小な空間に形成されると考えられる。
【0055】
その結果生成される極微細な炭素繊維状組織により、また極微細な炭素繊維状組織内に同時に形成される微小な空間による応力吸収能、周囲の組織の変形吸収能、さらには亀裂伸長停止等の機能も加わって、上述したとおり、炭素の結合が高強度化、低弾性率化及び高靱性化される。
【0056】
このような、前記の本発明に係るジルコニア−炭素含有耐火物において、前記耐火物の組織中の炭素の結合に、直径50nm以下の繊維状組織を有する炭素基質材料を含有させ、また、前記耐火物組織内には、粒子径が1000nm以下の遷移金属若又は遷移金属化合物の微粒子が含有されている構成とすることで、耐熱衝撃性を顕著に向上させることができることを見出した。
【発明の効果】
【0057】
以上のように、本発明によれば、ZrO含有率が80質量%以上の高ジルコニア含有率のジルコニア−炭素含有耐火物において、熔融パウダーが耐火物組織中へ浸透することが抑制され、従来よりもさらに優れた高耐蝕性を有するジルコニア−炭素含有耐火物を提供することができる。
【0058】
また、上記高ジルコニア含有率のジルコニア−炭素含有耐火物の組織内に、直径50nm以下の炭素繊維状組織を含有せることにより、弾性率、熱膨張率が低減され、破壊靱性が向上する。その結果、従来よりも高い耐蝕性と高い耐熱衝撃性とを兼備したジルコニア−炭素含有耐火物を提供することができる。
【0059】
本発明に係るジルコニア−炭素含有耐火物の製造方法は、骨材粒子間に炭素の結合を有するとともに、ZrO成分を80質量%以上及び炭素基質材料を含有するジルコニア−炭素含有耐火物を製造する製造方法であって、結合炭素を除く全炭素基質骨材粒子中に、最大長さが45μm以下の炭素基質骨材粒子を炭素基質骨材粒子中の40質量%以上含有するはい土を混練する第1工程、前記第1工程により製造される混練物のはい土を成形する第2工程、及び前記成形体を熱処理し加工する第3工程を有することを特徴とする。
【0060】
この方法によれば、製品としての耐火物組織内に占める開口気孔体積と炭素基質材料の体積の合計が42体積%以下25体積%以上であり、かつ前記耐火物組織中の全開口気孔中の10μm以上の気孔が30%以下であるジルコニア−炭素含有耐火物を得ることができる。
【0061】
また、前記第1工程に於いて、前記はい土中に、粒子径が1000nm以下の遷移金属又若しくは遷移金属化合物の微粒子又は炭素の微細繊維化を促進する金属触媒を、耐火物全体に対する当該遷移金属若又は遷移金属化合物に由来する金属の割合が0.5質量%以下(0質量%を除く。)となる分量だけ配合して混練するようにしてもよい。
【0062】
このようにはい土中に金属触媒を配合し混練することで、はい土中に金属触媒が分散され、上述したように、はい土に含まれる有機バインダーが熱間で炭化して炭素の結合を形成する際に、触媒効果によって炭素の結合内部に集中的に炭素質繊維状組織を形成させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0063】
まず本発明の請求項1にかかるジルコニア−炭素含有耐火物の製造方法(以下単に、「第1の製造方法」という。)について述べる。
【0064】
まず、第1の工程として、ジルコニア材料、炭素基質材料、耐火物中の炭素成分の酸化防止や耐火物組織の強度向上等の目的で含ませる金属、金属炭化物、金属窒化物等の微量材料等の、粉末状の耐火原料(以下単に「骨材粒子」ともいう。)を混和して混合粉体を得、さらにそれに有機バインダーを添加して混練し、成形用のはい土を得る。
【0065】
本発明のジルコニア−炭素含有耐火物を得るためには、その製造工程における成形時のはい土(はい土を構成する骨材粒子間及びはい土と型枠の間を含む)の固体潤滑性を高めることが必要である。
【0066】
骨材粒子の大部分を占めるジルコニア粒は固体潤滑性に乏しく、ジルコニア骨材粒子が相互に接触した部分が多い状態で高圧を付加して成形しても本発明の緻密な耐火物組織を得ることは困難である。
【0067】
従来技術においては、骨材粒子としての炭素基質材料としては、その炭素基質材料自体に優れた応力緩和能と固体潤滑性を備えた、比較的大きいサイズの鱗状黒鉛を主体として使用している。
【0068】
しかし、ZrO成分の含有量が80質量%以上の、炭素基質材料の含有量が少ないジルコニア−炭素含有耐火物においては、そのような大きいサイズの鱗状黒鉛を使用すると、ZrO成分の含有量が多くなるにしたがい、即ち炭素基質材料の含有量が少なくなるにしたがい、はい土内(耐火物組織内)の潤滑機能は低下する傾向となり、かつ、はい土内(耐火物組織内)の潤滑性の程度のばらつきも増大する。
【0069】
その結果、成形時の充填性(緻密化)は低下し、開口気孔が多くなり、また開口気孔の気孔径も大きくなって、得られた耐火物組織内への熔融パウダーの侵入が増大し、耐蝕性の低下を来す。さらには耐火物組織の不均一性により、耐熱衝撃性の低下も生じ易くなる。
【0070】
ZrO成分の含有量が80質量%を超えて炭素基質材料の含有量が少ない本発明の対象であるジルコニア−炭素含有耐火物においては、従来技術の大きな鱗状黒鉛では、本発明の特徴の見掛け気孔率や開口気孔率を得ることは困難である。
【0071】
ここで「炭素基質材料」とは、黒鉛等の結晶性の炭素質骨材原料、カーボンブラック等の無定形炭素質骨材原料、炭素の結合を含む炭素質材料全体をいうが、この成形時のはい土の性状を改善するのに有効な炭素基質材料は、炭素の結合を含まない。
【0072】
なお、「炭素の結合」とは、有機質結合材が非酸化雰囲気で炭素化して、耐火物を構成する粒子等の間を相互に接着又は固定するように形成した組織であり、耐火物の組織において構成原料粒子を結合している連続的な構造の炭素質相をいう。炭素の結合は、フェノール樹脂、タール若しくはピッチの何れか一又はこれらを任意に組み合わせた混合物からなる有機バインダーを焼成して炭化させることで形成される。
【0073】
また「組織」とは、耐火物製品中の種々の形や大きさの気孔や粒子の間の関係をいう(JIS R2001)。
【0074】
そこで本発明は、前述の通り、はい土中の全炭素基質材料中(結合炭素を除く)に45μm以下の大きさの炭素基質材料の微粉末を使用し、さらにそれを前記全炭素基質材料全体の40質量%以上含む。
【0075】
なお、45μm以下の大きさの炭素基質材料の割合を、製品としての耐火物中に換算して言い換えると、結合炭素を含む耐火物中の全炭素量の中の最大長さ45μmを超える大きさの炭素基質材料が60質量%未満であることが必要である。
【0076】
ここで「45μm以下」とはJIS Z8801の 篩により目開き45μmの篩い網を通過する大きさをいう。
【0077】
また、製品としての耐火物中に換算してその割合は、対象の耐火物を350℃〜550℃程度で5時間から24時間酸化焼成し、低温域で酸化する結合炭素を消失させる。ジルコニア骨材粒子を含む粉状になった耐火物を前記のJIS Z8801 篩により目開き45μmの篩いで分級し、その篩い上の粉体と篩い下の粉体に分ける。それぞれの粉体中の炭素量を測定する。篩下の炭素量を合計の篩上下の炭素量合計で除すことで45μm以下の炭素基質材料の割合を求めることが可能である。
【0078】
45μm以下の炭素基質材料の微粉原料としては、鱗状黒鉛の他、土状黒鉛、人造黒鉛、カーボンブラック等の1種を単独で、又は複数種を組み合わせて使用することができる。これらの1種を単独で使用する場合には、これら中でも、微粉原料自体の固体潤滑性及び応力緩和能に富む鱗状黒鉛が最も好ましい。
【0079】
黒鉛としては、炭素純度90質量%以上の鱗状黒鉛、土状黒鉛等を使用することができる。また、前述の通り最大長さが45μm以下の黒鉛原料は、さらに厚さが10μm以下である黒鉛微粉末を40質量%以上含有するものを使用することが好ましい。
【0080】
厚さが10μmを超えると、成形時の潤滑性の骨材枚数が減ることになるため期待した成形性が得られにくい。また厚さが10μm以下である黒鉛微粉末が40質量%未満の場合は、固体潤滑剤の枚数が減ることになるために同様に期待した潤滑性が得られず緻密な成形体が得られない。
【0081】
「カーボンブラック」としては、一般的な非晶質のカーボンブラックや結晶性の発達した黒鉛化カーボンブラックの使用も可能である。
【0082】
複数種を組み合わせて使用する場合は、例えば45μm以下の鱗状黒鉛に粒子サイズが約100nm以下と極めて小さいカーボンブラック等を炭素基質材料全体を100質量%とするときに1質量%以上20質量%以下程度含有させることで相乗的効果が得られるので、好ましい。
【0083】
このように、炭素基質材料の骨材粒子サイズが小さくなることで、耐火物の使用中に炭素基質材料が侵食や酸化等により消失した際の耐火物組織の欠損部分の単位容積を小さくすることも可能となり、それによる耐蝕性、耐酸化性の向上効果も得られる。
【0084】
さらに、見掛け気孔率以外の物性面においても、微細黒鉛やカーボンブラックを使用することで、これらが有機バインダーの炭化によって形成される三次元的なカーボン・マトリックスに取り込まれ易くなり、三次元的なカーボン・マトリックスの形成がより促進されるため、低膨張化、低弾性化、高強度化、高靱性化等に有利となる。
【0085】
このように、45μm以下の大きさの炭素基質材料の微粉末を適用すること等で、このような従来技術に於ける欠点を改善し、緻密で特に耐蝕性に優れたジルコニア−炭素含有耐火物を得ることができる。
【0086】
本発明に係るジルコニア−炭素含有耐火物においては、前記骨材粒子中のジルコニア骨材粒子の粒度構成において、全ジルコニア骨材粒子中の粒径45μm以上のZrO骨材の占める割合が、ZrO骨材全体の65質量%以上90質量%以下である構成とすることが好ましい。
【0087】
粒径が45μm未満のZrO骨材の割合が多いと、ZrO成分がモールド内の熔融パウダー層に容易に溶出し、耐蝕性が大幅に低下する。そこで、粒径45μm以上のZrO骨材の占める割合が、ZrO骨材全体の65質量%以上90質量%以下とすることで、ZrOの溶出を抑制し耐蝕性を向上させることができる。
【0088】
ZrO骨材の粒径が45μmより小さくなると、ZrOの熔融パウダー層への溶解速度が大きくなるため耐蝕性を向上させる観点からは不利である。しかし、成分的な偏析を抑制してジルコニア−炭素含有耐火物の組織の緻密化を図る観点からは、粒径45μm未満のZrO骨材の適量必要である。本発明のジルコニア−炭素含有耐火物においては、粒径45μm未満のZrO骨材の割合は、ZrO骨材全体の10質量%以上35質量%以下の範囲とすることが好ましい。
【0089】
なお、ZrO骨材の粒径の上限は、ジルコニア−炭素含有耐火物をCIP成形用型枠(以下、単に「成形用型枠」という。)に充填する際の偏析の発生を抑える観点から、0.5mm以下とすることが好ましい。
【0090】
ジルコニア骨材粒子中には、CaO,MgO,Y等により安定化した安定化ジルコニア又は部分安定化ジルコニア(以下、総称して「安定化ジルコニア」という。)及び、未安定化ジルコニアを含むことができる。
【0091】
ここで、「安定化度50%以上のジルコニア」としては、CaO,MgO,Y等で部分安定化又は完全安定化されたジルコニア骨材を使用することができる。特に、耐熱衝撃性を高めつつZrO含有率を高める点から、少量の添加で安定化効果が比較的大きなCaO安定化ジルコニアを用いるのが最も好ましい。
【0092】
耐酸化性付与、又は強度向上を目的として、Al,Mg,Siの金属微粉末やSiCやBCなどの炭化物粉末、BN等の窒化物の粉末等を別途(前記、各原料等の質量割合の合計の外)に、製品としてのジルコニア−炭素質耐火物の成分合計全体を100質量%とする場合に合量で2質量%以下程度の範囲で(個別の操業における酸化の変動条件に応じて調整することができる)、はい土に適量配合してもよい。
【0093】
前述の骨材粒子の混和物に、有機バインダーを添加して混練し、はい土を得る。
【0094】
混和、混練にはそれぞれ耐火物の混和、混練用に使用される一般的なミキサーが使用できる。
【0095】
混練時に添加する有機バインダーとしては、ピッチ、タール、フェノール樹脂等、熱処理により残留炭素を示すものを使用することができ、これらの何れか一若しくはこれらを任意に組み合わせた混合物等を使用することができる。炭素の結合の形成を多くするために、できるだけ残留炭素の割合が多いものが好ましい。
【0096】
第2の工程として、前記はい土を、その外部を覆う弾性体と金属製芯棒等からなる成形用の型枠内に充填し、CIPにより一定の成形圧で成形する。
【0097】
なお、この成形時の圧力等は、成形体の構造、大きさ等の個別の設計条件に応じて最適な条件に適宜調整することができる。
【0098】
第3の工程として、前記成形体を乾燥し、非酸化雰囲気中で焼成する。
【0099】
焼成工程における非酸化雰囲気は、炭素質の充填材で満たされた、又は単に外気を遮断した密閉容器による非酸化雰囲気中であればよい。最高焼成温度は約600℃〜約1200℃程度とすることができる。しかし、操業時の予熱工程での熱を利用して焼成と同様の効果を得ることができる場合は、約600℃未満での焼成による製品とすることも可能である。いずれの場合にも、最高温度での焼成前に、溶剤や水分を除去するため、又はバインダーの強度発現を促進する目的で、150℃〜250℃程度の温度での乾燥工程を加えることが好ましい。
【0100】
その後、前記乾燥、焼成した成形体を必要に応じて表面加工し、メタルケース等の付帯物を設置する。
【0101】
次に直径50nm以下の繊維状組織を有する炭素基質材料、及び粒子径が1000nm以下の遷移金属若しくは遷移金属塩又は炭素の微細繊維化を促進する金属触媒若しくは金属触媒塩を含む微粒子が含有されている、本発明のジルコニア−炭素含有耐火物の製造方法(以下単に、「第2の製造方法」という。)について述べる。
【0102】
基本的な製造工程は前記第1の製造方法と同じであるが、この第2の製造方法では、はい土を得るための混和又は混練工程において、遷移金属若しくは遷移金属塩又は炭素の微細繊維化を促進する金属触媒若しくは金属触媒塩を耐火原料又は有機バインダーに配合する。
【0103】
以下、前記第1の製造方法と異なる部分につき述べる。
【0104】
前記第1の工程において、遷移金属若しくは遷移金属塩又は炭素の微細繊維化を促進する金属触媒若しくは金属触媒塩を粒径1000nm以下の微粒子の状態ではい土中に配合することが好ましい。
【0105】
この粒径1000nm以下の遷移金属若しくは遷移金属塩又は炭素の微細繊維化を促進する金属触媒若しくは金属触媒塩の微粒子をはい土に配合するには、粉体として他の耐火原料配合物中に混和して混練することもできるが、はい土の混練前の原料としての有機バインダーの中に予め配合して分散させておくことが、分散性を高めるためには好ましい。
【0106】
このように有機バインダーの中に遷移金属若しくは遷移金属塩又は炭素の微細繊維化を促進する金属触媒若しくは金属触媒塩を予め分散させることで、有機バインダーの炭化により形成する炭素の結合の内部に集中的に繊維状炭素を形成することができ、耐火物の物性を効率的に改善することが可能となる。
【0107】
すなわち、フェノール樹脂、タール、ピッチ等の何れか一又はこれらを任意に組み合わせた混合物からなる有機バインダーと、溶液状、粒径1000nm以下の微粒子が溶媒中に分散されたコロイド状の、遷移金属若しくは遷移金属塩又は炭素の微細繊維化を促進する金属触媒若しくは金属触媒塩の溶液(以下単に「遷移金属液」という。)との混合液を、他の耐火原料の混和物に添加して混練することが好ましい。
【0108】
遷移金属としては、Ni,Co,Fe,Ti,Zr,Cr,Ptを使用することができる。特に、CNT等の極微細な炭素繊維状組織の合成反応における触媒としての効果の高さの観点からは、Ni,Co,Fe,Crを使用するのが好適である。
【0109】
遷移金属液において遷移金属を塩として使用する場合には、加水分解してフェノール樹脂の経時変化を起こさないような遷移金属塩を使用する。かかる遷移金属塩としては、例えば、金属石鹸(R)n−M(O)、アセチルアセトン金属塩(C)n−M(O)やオクチル酸金属化合物やナフテン酸金属化合物を使用するのが好適である。ここで、MはTi,Zr,Cr,Ni,Co,Fe,Cu,Ptなどの金属であり、Rはメチル、エチル、プロピル、n−ブチル、フェニルなどのアルキル基を示す。さらに、遷移金属無機化合物、例えば遷移金属の塩化物、硫化物、酢酸化合物、リン酸化合物などを液体の形として使用することも可能である。これらの遷移金属化合物は、水あるいはアルコールや鉱物油などの有機溶媒に溶解した形で液体(遷移金属触媒液)として使用する。
【0110】
また、特に、遷移金属塩としては、有機バインダーと混合する際に均質に混合できるようにするため、有機バインダーとの相溶性のよいものを適宜選択する。例えば、有機バインダーとしてフェノール樹脂を使用する場合には、オクチル酸金属化合物やナフテン酸金属化合物のようにフェノール樹脂と相溶性のある遷移金属塩を選択する。
【0111】
また、遷移金属を超微粉末の金属酸化物粉末の懸濁液、若しくは金属ゾル等のコロイド溶液として使用してもよい。この場合、上記の各遷移金属又はその塩を粒径が1000nm以下の微粒子として溶媒中に分散させたコロイド溶液を使用する。
【0112】
遷移金属溶液の配合割合は、ジルコニア骨材、炭素基質原料酸化防止材等の混練前の粉体部分、及び有機バインダーの炭化後の固形分換算値、並びに残留遷移金属量の全合計量即ち製品としての状態の耐火物を100質量%とするとき、その残留遷移金属量の割合が、0.5質量%以下になるように遷移金属溶液中の遷移金属量の濃度や添加量を調整する。
【0113】
次に、このようにして得られた混練物を、前記第2工程と同様にCIPにて加圧成形後、前記第3工程と同様に乾燥・非酸化雰囲気で熱処理を行う。
【0114】
成形した後の焼成工程においては、遷移金属の種類によって、耐火物組織内、特に炭素の結合内に極微細な炭素繊維状組織が形成されるのに最適な温度・時間で行うことが好ましい。
【0115】
例えば、遷移金属としてFeを使用する場合、極微細な炭素繊維状組織の生成を促進する観点からは、600〜800℃で30〜120分間熱処理を行うのが好適である。また、遷移金属としてNiを使用する場合、同様の観点からは、600〜1200℃、好ましくは900〜1100℃で30〜120分間熱処理を行うのがよい。
【0116】
但し、実際には熱処理の時間は、有機バインダーや炭素基質材料原料の変性も考慮して決定する必要がある。例えば、有機バインダーにフェノール樹脂を使用する場合には、フェノール樹脂の揮発成分がなくなり製品が安定化する温度が800℃以上なので、熱処理温度は800℃以上、好ましくは900℃程度とする必要がある。
【0117】
以上のような第2の製造方法により製造された本発明のジルコニア−炭素含有耐火物は、図1のような組織構造となる。図1において、ジルコニア−炭素含有耐火物の組織は、ジルコニア骨材の粗粒子1、黒鉛粒子2、有機バインダーが炭化して形成された炭素の結合3、及び炭素の結合3の内部に一様に分散された遷移金属含有ナノ粒子4からなる。
【0118】
図2は、図1の炭素の結合の部分を拡大したTEM写真を示す。炭素の結合3内の炭素においては、遷移金属含有ナノ粒子4の周囲に、直径が20nm程度の極微細な炭素繊維状組織6が多く観察される。
【実施例】
【0119】
CaO安定ジルコニア骨材、炭素基質原料として98%純度の鱗状黒鉛及びカ−ボンブラック、有機バインダーとしてフェノール樹脂を使用して所定配合量にて混練を行い、はい土を得た。はい土の可塑性を調整した後に、CIPにて成形後、乾燥・非酸化雰囲気下で900℃の熱処理を3時間行った。
【0120】
耐蝕性即ち溶損性の評価は、1550〜1570℃で溶解した低炭鋼の表面にCaO/SiO質量比を1.0に調整したモールド・パウダーを約30mm浮かべたルツボ中に、所定のジルコニア−黒鉛の角柱試料(20×20×160mm)を120分間浸漬し、引き上げた後に、溶鋼−熔融パウダー界面位置の溶損量を測定し、その程度を比較する方法にて行った。この溶損量の値は比較例1の溶損量を100とする指数にて表示しており、溶損指数100以上の場合に耐蝕性面で問題が生じる。
【0121】
耐熱衝撃性の評価基準としてのΔTは、端面を同材質の蓋で閉じた円筒状の試料(外径150/内径100mm×高さ80mm)を所定の温度まで上げて、蓋をした側より試料内部に水が入らないように水中に浸漬し熱衝撃を与えて割れの有無により限界のΔTを確認した、その試験時の温度である。1000℃以上の耐熱衝撃性があれば一般的な予熱が行われる操業では熱衝撃による破壊等の問題はない。
【0122】
耐酸化性評価は、試料を大気雰囲気下1400℃で3時間熱処理した後の酸化層の厚みを、実施例12の酸化層厚みを100とする指数にて評価した値である。
【0123】
(実施例A)
表1に、見掛け気孔率と炭素基質材料の合計の体積%、及び10μm以上の気孔径の割合 (%)が耐蝕性及び耐熱衝撃性に及ぼす影響を調査した結果を示す。
【0124】
実施例1から実施例6には、ZrO骨材を86質量%の割合で配合したジルコニア−黒鉛材質を示しているが、見掛け気孔率と炭素基質材料の合計の体積%が25体積%以上42体積%以下であれば、耐蝕性および耐熱衝撃性の面で良好であることが分かる。一方比較例1は見掛け気孔率と炭素基質材料の合計の体積%が44%と高く、ZrO含有量83%のジルコニア−黒鉛材質であるが、耐熱衝撃性は優れるものの耐蝕性面で劣る結果となった。比較例2では見掛け気孔率と炭素基質材料の合計の体積%が24%でジルコニア含有量が86%の場合であるが、見掛け気孔率が低く緻密なため、ΔT温度が900℃と低く、耐熱衝撃性の低下が観られる。また、比較例3及び比較例4は、実施例5〜6の材質と見掛け気孔率はほぼ同じで、全気孔体積中の10μm以上の割合が30%超と多い材質の場合であるが、耐蝕性が低下していることが分かる。比較例5では見掛け気孔率と炭素基質材料の合計の体積%が43%の場合であるが、耐蝕性の低下が観られる。
【0125】
【表1】

【0126】
(実施例B)
表2に、結合炭素を除く炭素基質材料中の45μm以下の黒鉛微粉末やカ−ボンブラック添加量の割合を変えた場合の、ジルコニア−黒鉛材質の品質を示す。
【0127】
比較例6,7及び実施例8から実施例11までは結合炭素を除く炭素基質材料中の45μm以下の粒度の炭素基質材料が占める割合を0から100%まで置換した場合を示している。比較例6,7の置換率0%及び35%では見掛け気孔率と炭素基質材料の合計の体積%は43%以上となり耐蝕性の低下が観られた。しかし微粉黒鉛の置換率が40,60,100%である実施例8〜10では耐蝕性、耐熱衝撃性共に良好であり、大幅な改善が観られる。また、実施例11は微粉黒鉛の一部(10%)をカーボンブラックに置換した例であるが、組織が緻密化し耐蝕性がさらに改善された。
【0128】
【表2】

【0129】
(実施例C)
表3にジルコニア含有量がさらに高めてさらなる耐蝕性の向上を図ったZrO88質量%のジルコニア−黒鉛材質につき、ZrO含有量の増加に伴う耐摩耗性の低下を改善する目的で、耐火物マトリクス組織内に微細な炭素繊維状組織を形成させてその効果を確認した結果を示す。
【0130】
微細な炭素繊維状組織を形成するために、粒子径30nmの金属Niを含むゾル溶液を金属Ni量として0.2,0.5,0.6質量%添加した場合の影響について調査した結果を示している。Ni触媒を全く含有していない実施例12では耐蝕性の面では問題ないものの、耐熱衝撃性のΔTスポ−ル限界温度が1000℃と下限の程度であることを示している。実施例13のNi添加量0.2質量%、および実施例14のNi添加量0.5質量%では、耐蝕性の面では同様に問題なく、Ni触媒添加により実施例12と比較して耐熱衝撃性温度ΔTが100℃以上改善した。試験後のこの耐火物中のボンド組織をTEM(透過形電子顕微鏡)にて観察したところ50nm以下の炭素繊維状の集合組織を観察することができた。ボンド組織が触媒により改質されることにより熱衝撃性が改善できたと考えられる。実施例15では同じNi触媒を0.6質量%添加した場合であるが、許容内ではあるものの耐蝕性が低下する傾向が観られ、実施例14(Ni触媒を0.5質量%添加した場合)に比較して急激に耐酸化性が低下する傾向となった。
【0131】
【表3】

【0132】
以上の実験結果から、最大長さが45μm以下の黒鉛微粉末をはじめとする炭素基質材料の割合を、炭素基質材料中の40%以上とすることにより、CIP成形時におけるはい土の内部摩擦の低減を図ることができ、また開口気孔率(見掛け気孔率)及び10μm以上の開口気孔の量が大幅に低減されることが確認され、それにより組織の緻密化と耐蝕性の大幅な改善効果が得られることが確認された。更に、繊維状の炭素組織の形成を促す触媒金属を0.5質量%以下の範囲で含有させることにより耐熱衝撃性をさらに改善できることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0133】
【図1】(a),(b)共にZrO88質量%のジルコニア−炭素含有耐火物の約500μm視野範囲の組織の写真である。(a)は本発明(b)は比較例
【図2】(a),(b)共に本発明のジルコニア−炭素含有耐火物の、50nm以下の微細繊維状炭素を含む部分の組織の写真である。(a)は約600nm視野範囲の拡大(b)は約100nm視野範囲の拡大
【符号の説明】
【0134】
1 ジルコニア粒子
2 マトリクス(炭素基質材料及び結合炭素)
3 気孔
4 微細繊維状炭素

【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨材粒子間に炭素の結合が形成され、ZrO成分を80質量%以上及び炭素基質材料を含有するジルコニア−炭素含有耐火物において、
前記耐火物組織内に占める開口気孔体積と炭素基質材料の体積の合計が42体積%以下25体積%以上であって、
前記耐火物組織中の全開口気孔中の10μm以上の気孔が30%以下であり、
かつ、前記のジルコニア−炭素含有耐火物中の炭素基質材料中の、最大長さが45μmを超える炭素基質材料粒が、前記のジルコニア−炭素含有耐火物中の結合炭素を除く全炭素基質材料中の60質量%未満であることを特徴とする、ジルコニア−炭素含有耐火物。
【請求項2】
前記耐火物において、直径50nm以下の炭素質繊維状組織を有する炭素基質材料が含有されていることを特徴とする、請求項1に記載のジルコニア−炭素含有耐火物。
【請求項3】
前記耐火物において、粒子径が1000nm以下の遷移金属又若しくは遷移金属化合物の微粒子又は炭素の微細繊維化を促進する金属触媒が含有され、かつ当該遷移金属若又は遷移金属化合物の耐火物全体における金属含有率が0.5質量%以下(0質量%を除く。)であることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載のジルコニア−炭素含有耐火物。
【請求項4】
骨材粒子間に炭素の結合を有するとともに、ZrO成分を80質量%以上及び炭素基質材料を含有するジルコニア−炭素含有耐火物を製造する製造方法であって、
結合炭素を除く全炭素基質骨材粒子中に、最大長さが45μm以下の炭素基質骨材粒子を炭素基質骨材粒子中の40質量%以上含有するはい土を混練する第1工程、
前記第1工程により製造される混練物のはい土を成形する第2工程、
及び前記成形体を熱処理し加工する第3工程を有することを特徴とするジルコニア−炭素含有耐火物の製造方法。
【請求項5】
前記第1工程に於いて、前記はい土中に、粒子径が1000nm以下の遷移金属又若しくは遷移金属化合物の微粒子又は炭素の微細繊維化を促進する金属触媒を、耐火物全体に対する当該遷移金属若又は遷移金属化合物に由来する金属の割合が0.5質量%以下(0質量%を除く。)となる分量だけ配合して混練することを特徴とする、請求項4記載のジルコニア−炭素含有耐火物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−221031(P2009−221031A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−64978(P2008−64978)
【出願日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年9月18日 Unified International Technical Conference on Refractories発行の「Proceedings of the UNITECR 2007 Congress」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年9月18日 インターネットアドレス「http://www.ctw−congress.de/unitecr/」に発表
【出願人】(000170716)黒崎播磨株式会社 (314)
【Fターム(参考)】