説明

スクシンイミジル基を持つポルフィリン化合物もしくはその金属錯体、ポルフィリン金属錯体結合アルブミンおよびそれを含有する酸素輸液

【課題】より長期にわたって安定な酸素錯体を形成し、酸素輸液として有効に作用し得るポルフィリン金属錯体またはその前駆体としてのポルフィリン化合物を提供する。
【解決手段】 式[I]:
【化1】


(ここで、R1は、置換基を有してもよい直鎖または脂環式炭化水素基、R2は、アルキレン基、R3は第4〜5周期の遷移金属イオンMを配位させたときに、イミダゾリル基の中心遷移金属イオンMへの配位を許容する基、Rは、メチレン基またはエチレン基)で示されるポルフィリン化合物、または、第4〜5周期の遷移金属イオンが配位したその金属錯体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可逆的に酸素を結合解離でき、しかも蛋白質に直接結合可能なスクシンイミジル基を有するポルフィリン化合物もしくはその金属錯体、それをアルブミンに共有結合して得たポルフィリン金属錯体結合アルブミン、およびそのポルフィリン金属錯体結合アルブミンを含有する酸素輸液(人工酸素運搬体)に関する。
【背景技術】
【0002】
生体内で酸素運搬・貯蔵の役割を担うヘモグロビンやミオグロビンの補欠分子族であるヘム、すなわちポルフィリン鉄(II)錯体は、酸素分圧に応答して分子状酸素を可逆的に結合解離する。このような天然のヘムと同じ酸素吸脱着能を合成のポルフィリン鉄(II)錯体で再現しようとする研究は1970年代から報告されているが、初期の研究例としては、非特許文献1、非特許文献2等が代表的であり、また、最近の開発動向は非特許文献3、非特許文献4等に体系的に記載されている。
【0003】
室温条件下で安定な酸素錯体を形成できるポルフィリン鉄(II)錯体としては、5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−ピバルアミドフェニル)ポルフィリン鉄(II)錯体(以下、FeTpivPP錯体と呼ぶ)が知られている(非特許文献5)。FeTpivPP錯体は、軸塩基、例えば1−アルキルイミダゾール、1−アルキル−2−メチルイミダゾール等を過剰に共存させると、ベンゼン、トルエン、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミド等の有機溶媒中、室温で分子状酸素を可逆的に結合解離できる。また、この錯体をリン脂質から成る二分子膜小胞体に包埋させれば、生理条件下(水相系、pH7.4、37℃)でも同様の酸素吸脱着機能が発揮される(例えば、非特許文献6等)。FeTpivPP錯体が酸素を可逆的に結合解離するためには、上述したように過剰モル数の軸塩基分子を外部から添加することが不可欠である。しかし、軸塩基として広く用いられているイミダゾール誘導体には薬理作用を持つものがあり、体内毒性の高い場合が多い。また、リン脂質小胞体を利用する場合、過剰に共存させたイミダゾール誘導体がその形態を不安定化させる要因ともなり得る。この軸塩基の添加量を極限的に少なくする方法は、分子内に共有結合でイミダゾール誘導体を導入することに他ならない。
【0004】
本発明者らのグループは、ポルフィリン鉄(II)錯体の分子内へ置換基として、例えばアルキルイミダゾール誘導体を共有結合すれば、軸塩基を外部添加することなく安定な酸素運搬体を供給できるものと考え、既にポルフィリン環の2位に置換基を有するFeTpivPP類縁体を合成し、これをリン脂質小胞体中やヒト血清アルブミンに包接させた系について、可逆的な酸素の吸脱着反応を明らかにしている(特許文献1、特許文献2、特許文献3)。
【0005】
しかしながら、一般的に水溶液中では中心鉄(II)の酸化反応が加速されるため、得られる酸素錯体の安定度は著しく低い。換言すると、可逆的な酸素配位活性を発現できるのは、ポルフィリン鉄錯体の中心鉄が2価の状態にある時のみで、中心鉄が酸化し、鉄(III)錯体になると、その酸素配位活性は完全に失われる。本発明者らのグループが開発したポルフィリン鉄(II)錯体を水中に分散させる上記のリン脂質小胞体中やヒト血清アルブミンに包接させる先行技術は、ポルフィリン鉄(II)錯体を均一に水中へ溶解させるだけでなく、酸素配位座近傍に微小な疎水空間を提供することにより、酸素錯体の安定度を延長させる効果もあった。
【0006】
他方、これらの系ではポルフィリン鉄(II)錯体の包接駆動力は、いずれも疎水性相互作用、すなわち非共有結合であるため、酸素結合サイトであるポルフィリン金属錯体が、疎水場から解離してしまう可能性もある。上記ポルフィリン金属錯体水溶液や分散液を人工酸素運搬体として、例えば赤血球代替物として体内へ投与した場合、ある程度の期間、血流中に留まり、酸素輸送体の役割を担ってくれることが望ましい。実際、アルブミン−ポルフィリン金属錯体複合体を血中に投与すると、ポルフィリン金属錯体はアルブミンから解離する。つまり、より長い血中半減期を実現するためには、アルブミンに強固な結合様式で固定できるポルフィリン金属錯体の設計と合成が待たれていたのが現状であった。
【非特許文献1】J. P. Collman, Acc. Chem. Res., 10, 265 (1977)
【非特許文献2】F. Basolo, B. M. Hoffman, J. A. Ibers, Acc. Chem. Res., 8, 384 (1975)
【非特許文献3】Momentau et al., Chem. Rev., 110, 7690 (1994)
【非特許文献4】J. P. Collman, Chem. Rev., 104, 561 (2004)
【非特許文献5】J. P. Collman, et al., J. Am. Chem. Soc., 97, 1427 (1975)
【非特許文献6】E. Tsuchida et al., J. Chem. Soc., Dalton Trans., 1984, 1147 (1984)
【特許文献1】特開昭59−164791号公報
【特許文献2】特開昭59−162924号公報
【特許文献3】特開平8−301873号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明は、上記従来技術の問題点を解消し、より長期にわたって安定な酸素錯体を形成し、酸素輸液として有効に作用し得るポルフィリン金属錯体またはその前駆体としてのポルフィリン化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、より強固な結合様式でアルブミンに固定できるポルフィリン金属錯体の分子設計と機能発現に鋭意研究を重ねた結果、2位置へ酸素吸着能を有効に発揮させるために必要な置換基、すなわち塩基性軸配位子であるイミダゾール誘導体を結合させた5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−置換アミドフェニル)ポルフィリン金属錯体の側鎖部分に、アルブミンのアミノ酸残基と特異的に共有結合を形成し得るスクシンイミドエステル基を導入し、その活性基とアルブミンを共有結合で連結すると、従来の非共有結合でアルブミンの疎水領域へ包接させていた系に比べ、ポルフィリン金属錯体が格段に強固な力で固定されたアルブミン(すなわち、ポルフィリン金属錯体結合アルブミン)の合成が可能となり、安定な酸素錯体を形成し得る新しい酸素輸液が提供できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の第1の側面によれば、式[I]:
【化2】

【0010】
(ここで、R1は、置換基を有してもよい直鎖または脂環式炭化水素基、R2は、アルキレン基、R3は周期律表第4〜5周期の遷移金属イオンMを配位させたときに、イミダゾリル基の中心遷移金属イオンMへの配位を許容する基、Rは、メチレン基またはエチレン基)で示されるポルフィリン化合物、または周期律表第4〜5周期の遷移金属イオンが配位したその金属錯体が提供される。
【0011】
また、本発明の第2の側面によれば、本発明のポルフィリン金属錯体のスクシンイミジル基をアルブミンと反応させることによって得られるポルフィリン金属錯体結合アルブミンが提供される。
【0012】
さらに、本発明の第3の側面によれば、本発明のポルフィリン金属錯体結合アルブミンを含有する酸素輸液が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明のポルフィリン金属錯体は、テトラフェニルポルフィリン金属錯体の2位置に塩基性軸配位子として機能するイミダゾリル基と、蛋白質に共有結合可能な活性側鎖置換基としてスクシンイミジル基を有するので、アルブミンのリジン残基とアミド結合を形成し、安定度高い酸素錯体を形成することができる。つまり、本発明のポルフィリン金属錯体は、酸素結合能を保持したまま、アルブミンに共有結合により強固に結合させることができる。これを含有する新規な酸素輸液は、血中に投与した後も、ポルフィリン金属錯体が解離することのない、実用に耐える、安定度高い製剤として提供できる。また、本発明のポルフィリン金属錯体は前記した酸素輸液のほか、ガス吸着剤、酸素吸脱着剤、酸化還元触媒、酸素酸化反応触媒等としても有用なものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明のポルフィリン化合物は、上記式[I]で示される。
【0015】
式[I]において、R1は置換基を有してもよい直鎖または脂環式炭化水素基である。R1は、1位に置換基を有する直鎖または脂環式炭化水素基であることが好ましい。そのような直鎖または脂環式炭化水素基の例を挙げると、1,1−二置換C1〜C18アルカン基、1−置換シクロプロピル基、1−置換シクロペンチル基、1−置換シクロヘキシル基、2−置換ノルボルニル基(これら基における置換基は、メチル基、アルキルアミド基(R’CONH−)、アルキルエステル基(R’OOC−)、アルキルエーテル基(R’O−)、1−メチル−2−シクロヘキセニル基、または1−アダマンチル基等である。ここで、R’で表されるアルキル基としては、C1〜C6アルキル基が好ましい。
【0016】
式[I]において、R2はアルキレン基であり、好ましくは、C1〜C10アルキレン基である。
【0017】
式[I]において、R3は周期律表第4〜5周期の遷移金属イオンMを配位させたときに、イミダゾリル基の中心遷移金属イオンMへの配位を許容する(配位を阻害しない)基である。かかるR4の例を挙げると、水素原子、メチル基、エチル基またはプロピル基である。
【0018】
また、式[I]において、Rは、メチレン基またはエチレン基である。
【0019】
本発明は、式[I]のポルフィリン化合物に周期律表第4〜第5周期の遷移金属イオンMが配位したポルフィリン金属錯体をも提供する。遷移金属イオンMとしては、FeまたはCoが好ましい。Feの原子価は+2または+3であり得、またCoの原子価は+2であり得る。このポルフィリン金属錯体は、式[II]で示すことができる。
【化3】

【0020】
式[II]において、X-は、塩化物イオン、臭化物イオン等のハロゲン化物イオンを表し、X-の個数nは、遷移金属イオンMの価数から2を差し引いた数である。
【0021】
MがFe(II)、Co(II)等の+2価の遷移金属イオンである場合に、このポルフィリン金属錯体は、下記式[III]に示すように、ポルフィリン分子内に結合されたイミダゾール基が遷移金属イオンMに配位した状態になる。
【化4】

【0022】
このようなポルフィリン金属錯体は、当該分子のみで酸素結合能を発揮できるものである。また、本発明のポルフィリン金属錯体では、側鎖置換基として、蛋白質と共有結合可能なスクシンイミジル基を有しているため、これをアルブミンと室温で混合するだけで、酸素結合サイトであるポルフィリン金属錯体が、アルブミンのリジンアミノ基と共有結合を形成し、アルブミン内部にアミド結合を介して固定される。つまり、体内へ投与した場合でも、血液循環系でポルフィリン金属錯体がアルブミンから解離することはなく、より長い血中滞留時間が期待される。
【0023】
酸素輸液の適応は、出血ショックの蘇生液(輸血用血液の血液代替物)のほか、術前血液希釈液、人工心肺等体外循環回路の補填液、移植臓器の灌流液、虚血部位への酸素供給液(心筋梗塞、脳梗塞、呼吸不全等)、慢性貧血治療剤、液体換気の環流液、癌治療用増感剤、再生組織細胞の培養液、さらに、稀少血液型患者への利用、宗教上の理由による輸血拒否患者への対応、動物医療への応用が期待されている。酸素輸液は、本発明のポルフィリン金属錯体結合アルブミンを生理食塩水に分散させることによって得られる。ポルフィリン金属錯体結合アルブミンの濃度は、その用途によって異なるが、代用血液としてはヘム濃度で9.2mM/L程度、その他では、それ以上の濃度を用いることができる。
【0024】
加えて、ポルフィリンが例えば第4〜5周期に属する金属イオンの錯体である場合、酸化還元反応、酸素酸化反応または酸素添加反応の触媒としての付加価値も高い。従って、本発明のポルフィリン金属錯体は、酸素輸液のほか、ガス吸着剤、酸化還元触媒、酸素酸化反応触媒、酸素添加反応触媒としての特徴を持つ。
【0025】
本発明のポルフィリン化合物の製造方法には特に制限はないが、例えば、次の式[IV]:
【化5】

【0026】
で示される2−ヒドロキシメチル−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−置換アミドフェニル)ポルフィリンを出発物質として合成することができる。式[IV]において、R1は、上に定義した通りである。このポルフィリンは、例えば、Tsuchida et al., J. Chem. Soc. Perkin Trans 2, 1995, 747 (1995)に記載の方法を用いて合成することができる。
【0027】
具体的には、式[A]:R”OOCRC(NH−Fmoc)COOH(ここで、Rは、上に定義した通り、Fmocは、9−フルオレニルメチルオキシカルボニル、R”は、例えば、t−ブチル)で示されるアスパラギン酸もしくはグルタミン酸誘導体を適当な乾燥溶媒(例えば、ジクロロメタン、ベンゼン、ジメチルホルムアミド等)に溶解し、縮合剤としてジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)を加え、室温で1〜12時間撹拌する。反応の進行に伴い白色の沈殿が生成するので、反応溶液を2〜30分間氷浴中で冷却した後、析出したN,N’−ジシクロヘキシル尿素(DCU)を濾過により除去する。濾液に、式[IV]の2−ヒドロキシメチル−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−置換アミドフェニル)ポルフィリンを加え、遮光下で1〜12時間攪拌する。薄層クロマトグラフィー(TLC)で反応の進行を追跡し、必要であれば適当な塩基(ピリジン、ジメチルアミノピリジン、トリエチルアミン等)を加える。溶媒を減圧除去し、残渣をベンゼンに溶解し、析出したDCUを再び濾過により除去する。溶媒を減圧除去後、冷ヘキサンを加え、ポルフィリンを析出させる。得られた混合物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製すると、2−(N−Fmoc−t−ブトキシカルボニル−アミノアシル)メチル−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−置換アミドフェニル)ポルフィリンが得られる。ここで、アミノアシルは、いうまでもなく、アスパラギルまたはグルタミルである(以下、同じ)。
【0028】
得られたポルフィリンをジメチルホルムアミドに溶解し、ピペリジンを加え、遮光下、室温で6〜24時間撹拌する。ジメチルホルムアミドとピペリジンを減圧除去した後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製すると、2−(t−ブトキシカルボニル−アミノアシル)メチル−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−置換アミドフェニル)ポルフィリンが得られる。
【0029】
次に、下記式[B]で示されるω−イミダゾリルアルカン酸(式[B]において、R2およびR3は、上に定義した通り)の塩酸塩を蒸留ジメチルホルムアミドに溶解し、DCCと適当な塩基(例えばピリジン、ジメチルアミノピリジン、トリエチルアミン等)を加え、室温で30分〜4時間撹拌する。
【化6】

【0030】
反応の進行に伴い生成したDCUを濾過により除去し、濾液に2−(t−ブトキシカルボニル−アミノアシル)メチル−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−置換アミドフェニル)ポルフィリンを加え、遮光下で15分〜2時間攪拌する。溶媒を減圧除去し、残渣をジクロロメタンとトリエチルアミンの混合溶媒に再溶解し、6〜24時間、室温、遮光下にて攪拌する。DCUを濾過により除去した後、残渣をベンゼンに溶解し、析出物を濾別して、溶媒を減圧除去する。残渣をクロロホルムに溶解し、純水と炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄し、脱水後、クロロホルムを除去して、2−(N−(ω−イミダゾリルアルカノイル)−t−ブトキシカルボニル−アミノアシル)メチル−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−置換アミドフェニル)ポルフィリンを得る。本化合物は、光、シリカゲルカラムによる分離操作で分解してしまうので、そのまま次の反応に用いる。
【0031】
こうして得られたポルフィリンを適当な乾燥溶媒(ジクロロメタン、クロロホルム、ベンゼン等)に溶解し、トリフルオロ酢酸を加え、室温、遮光下で1〜6時間撹拌する。TLCで反応の進行を追跡、溶媒を減圧除去し、残渣にベンゼンを加え、2−(N−(ω−イミダゾリルアルカノイル)−アミノアシル)メチル−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−置換アミドフェニル)ポルフィリンを得る。本化合物は、光、シリカゲルカラムによる分離操作で分解してしまうので、そのまま次の反応に用いる。
【0032】
得られたポルフィリンへ中心金属Mを導入する。この中心金属Mの導入は、例えばD. Dolphin 編、The Porphyrin、1978年、アカデミック・プレス社等に記載の一般法により達成され、相当のポルフィリン金属錯体として得られる。一般に、鉄錯体の場合にはポルフィリン鉄(III)錯体が、コバルト錯体の場合にはポルフィリンコバルト(II)錯体が得られる。
【0033】
具体的には、2−(N−(ω−イミダゾリルアルカノイル)−アミノアシル)メチル−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−置換アミドフェニル)ポルフィリンの蒸留THF溶液を電解鉄と臭化水素酸により調製した臭化鉄(II)へ、乾燥アルゴン雰囲気下ですばやく加え、60〜80℃で2〜24時間反応させる。溶媒を減圧除去後、残渣をクロロホルムに溶解させ、純水で十分に洗浄する。脱水、溶媒除去後、得られた混合物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで分画精製すると、茶色固体の2−(N−(ω−イミダゾリルアルカノイル)−アミノアシル)メチル−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−置換アミドフェニル)ポルフィナト鉄(III)が得られる。
【0034】
このポルフィリンを適当な乾燥溶媒(ジクロロメタン、クロロホルム、ベンゼン、ジエチルエーテル等)に溶解し、DCCを加え、室温で10分〜2時間撹拌する。そこへN−ヒドロキシスクシンイミドのジクロロメタン溶液を添加し、室温、遮光下にて2〜24時間反応させる。TLCで反応の進行を追跡し、析出物を0℃で濾別し、溶媒を減圧除去する。残渣をベンゼンに溶解し、DCUを再び濾過により除去した後、溶媒を減圧除去すると、目的化合物2−(N−(ω−イミダゾリルアルカノイル)−スクシンイミジル−アミノ酸エステル)メチル−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−ピバルアミドフェニル)ポルフィナト鉄(III)が得られる。ここで、アミノ酸エステルは、いうまでもなく、アルギネートまたはグルタメートである。
【0035】
なお、上記ポルフィリン金属錯体のうち、鉄(III)錯体の形を有する場合は、適当な還元剤(亜二チオン酸ナトリウム、アスコルビン酸等)を用い、常法により中心金属を3価から2価へ還元すれば、酸素結合活性が付与できる。
【0036】
これらのポルフィリン鉄(II)錯体をアルブミンと結合させるには、まずポルフィリン鉄(II)錯体のカルボニル錯体エタノール溶液を調製し、それを例えばヒト血清アルブミンのリン酸緩衝水溶液と混合し、ゆっくりと室温で30分〜3時間攪拌する。得られた溶液をリン酸緩衝水溶液に対して、10〜24時間透析し、エタノールを除去する。こうして得られたポルフィリン鉄(II)錯体結合アルブミンは、下記式[V]で示されるように、ポルフィリンのスクシンイミジルオキシ基が離脱したアシル基がアルブミンのリシンアミノ基とアミド結合を形成しているものである。一酸化炭素錯体として遮光下にて冷蔵保存する。
【化7】

【0037】
組換えヒト血清アルブミンに共有結合した系、アルブミン多量体に共有結合した系、いずれの場合も酸素と接触すると速やかに安定な酸素錯体を生成する。また、これらの錯体は酸素分圧に応じて酸素を吸脱着できる。この酸素結合解離は可逆的に繰り返し行うことができ、酸素吸脱着剤、酸素運搬体として作用する。
【0038】
酸素以外にも金属に配位性である気体の場合、相当する配位錯体を形成できる(例えば、一酸化炭素、一酸化窒素、二酸化窒素等)。これらの理由から、本発明のポルフィリン金属錯体は、特に鉄(II)またはコバルト(II)錯体の場合、有効な酸素輸液として機能することはもちろん、均一系、不均一系での酸化還元反応触媒、およびガス吸着剤としての応用が可能となる。
【実施例】
【0039】
以下、この発明をいくつかの例により詳細に説明するが、本発明はそれらの例により限定されるものではない。
【0040】
例1
Fmoc−L−グルタミン酸(t−ブチルエステル)(314mg,0.74mmol)をジクロロメタン2mLに溶解し、DCC(152mg,0.74mmol)を加え、室温で2時間撹拌した。反応の進行に伴い白色の沈殿が生成した。10分間氷浴中で冷却し、析出したDCUを濾過により除去した。濾液に2−ヒドロキシメチル−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−ピバルアミドフェニル)ポルフィリン(76mg,73μmol)を加え、溶液を1mLまで濃縮。遮光下で2時間攪拌した。TLCで反応の進行を追跡し、必要であればジメチルアミノピリジン(3.0mg,25μmol)のジクロロメタン溶液を加える。溶媒を減圧除去し、残渣をベンゼンに溶解し、析出したDCUを再び濾過により除去した。溶媒を減圧除去後、冷ヘキサンを加え、紫色のポルフィリンを析出させた。得られた混合物をシリカゲルカラム(展開溶媒:クロロホルム/酢酸エチル=10/1)で精製し、目的化合物2−(N−Fmoc−t−ブトキシカルボニル−L−グルタミル)メチル−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−ピバルアミドフェニル)ポルフィリンを195mg得た(収率:92%)。
【0041】
<分析結果>
薄層クロマトグラフィー:Rf=0.71(CHCl3:CH3OH = 20:1(v/v))
赤外吸収スペクトル(ν/cm-1): 3432(NH); 1726(C=O(エステル)), 1690(C=O(アミド))
紫外可視吸収スペクトル(λmax/nm, CHCl3): 640, 589, 545, 513, 420
1H−NMRスペクトル(500 MHz, CDCl3, d(ppm)), -2.7(s, 2H, 内部H), 0.0-0.3(m, 36H, But), 1.5(d, 9H, O-But of Glu), 1.9, 2.4(m, 4H, -CH2CH2-), 4.0-4.5(m, 4H, >CHNHCOOCH2CH<), 5.2-5.5(m, 2H, -CH2-Por), 7.1-7.8(m, 24H, フェニルH), 8.6-8.8(m, 11H, アミドH, ピロールH)
ESI−MSスペクトル(m/z): 1448 [M]+; 1470 [M+Na]+。
【0042】
例2
2−(N−Fmoc−t−ブトキシカルボニル−L−グルタミル)メチル−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−ピバルアミドフェニル)ポルフィリン(215mg,0.15mmol)をジメチルホルムアミド30mLに溶解し、ピペリジン(20mL)を加え、遮光下、室温で13時間撹拌した。ジメチルホルムアミドとピペリジンを減圧除去した後、残渣をシリカゲルカラム(展開溶媒:クロロホルム/メタノール/酢酸:100/5/1)で精製し、目的化合物2−(t−ブトキシカルボニル−L−グルタミル)メチル−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−ピバルアミドフェニル)ポルフィリンを131mg得た(収率:72%)。
【0043】
<分析結果>
薄層クロマトグラフィー:Rf=0.31(CHCl3:CH3OH/20:1(v/v))
赤外吸収スペクトル(ν/cm-1): 3432(NH); 1730(C=O(エステル)), 1689(C=O(アミド))
紫外可視吸収スペクトル(λmax/nm, CHCl3): 646, 589, 545, 514, 420
1H−NMRスペクトル(500 MHz, CDCl3, d(ppm)), -2.7(s, 2H, 内部H), 0.0-0.2(m, 36H, But), 1.4(d, 9H, GluのO-But), 2.1, 2.4(m, 4H, -CH2CH2-), 3.5(s, 1H, >CH), 5.2, 5.4(d, 2H, -CH2-Por), 7.0-7.8(m, 16H, フェニルH), 8.6-8.8(11H, m, アミド H, pyrrole H)
ESI−MSスペクトル(m/z): 1226 [M]+; 1248 [M+Na]+
【0044】
例3
8−(2−メチルイミダゾリル)オクタン酸・塩酸塩(106mg,0.48mmol)を蒸留ジメチルホルムアミドに溶解し、DCC(84mg,0.48mmol)、トリエチルアミン(85mL,0.612mmol)を加え、室温で2時間撹拌した。反応の進行に伴い生成したDCUを濾過により除去し、濾液に2−(t−ブトキシカルボニル−L−グルタミル)メチル−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−ピバルアミドフェニル)ポルフィリン(50mg,40.8μmol)を加え、遮光下で30分間攪拌した。溶媒を減圧除去し、残渣をジクロロメタン2mLとトリエチルアミン3mLに再溶解し、18時間室温、遮光下にて攪拌した。DCUを濾過により除去した後、残渣をベンゼン2mLに溶解、析出物を濾別して、溶媒を減圧除去した。残渣をクロロホルムに溶解し、純水と炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄した。脱水後、クロロホルムを除去して、2−(N−(8−(2−メチルイミダゾリルオクタノイル))−t−ブトキシカルボニル−L−グルタミル)メチル−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−ピバルアミドフェニル)ポルフィリンを得た。本化合物は、光、シリカゲルカラムによる分離操作で分解してしまうので、そのまま次の反応に用いた。
【0045】
<分析結果>
薄層クロマトグラフィー:Rf=0.22(CHCl3:CH3OH=20:1(v/v))
紫外可視吸収スペクトル(λmax/nm, CHCl3): 643, 588, 544, 513, 421
ESI−MSスペクトル(m/z): 1432 [M]+。
【0046】
例4
例3で得られた2−(N−(8−(2−メチルイミダゾリルオクタノイル))−t−ブトキシカルボニル−L−グルタミル)メチル−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−ピバルアミドフェニル)ポルフィリンをジクロロメタン5mLに溶解し、トリフルオロ酢酸5mLを加え、室温、遮光下で3時間撹拌した。TLCで反応の進行を追跡、溶媒を減圧除去し、残渣にベンゼン5mLを加え、2−(N−(8−(2−メチルイミダゾリルオクタノイル))−L−グルタミル)メチル−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−ピバルアミドフェニル)ポルフィリンを得た。本化合物は、光、シリカゲルカラムによる分離操作で分解してしまうので、そのまま次の反応に用いた。
【0047】
<分析結果>
薄層クロマトグラフィー:Rf=0.17(CHCl3:CH3OH=10:1(v/v))
紫外可視吸収スペクトル(λmax/nm, CHCl3): 643, 589, 544, 513, 420
ESI−MSスペクトル(m/z): 1376 [M]+。
【0048】
例5
ポルフィリンへの鉄導入反応は、例えばD. Dolphin編、The Porphyrin、1978年、アカデミック・プレス社等に記載の一般法により達成できる。
【0049】
三つ口フラスコに臭化水素酸水溶液(1.62mL)を入れ、窒素を30分間通気して、完全に脱酸素した。素早く電解鉄107.8mg(1.93mmol)を加え、80℃まで昇温し1時間攪拌した。電解鉄が溶解し、透明薄緑色の溶液となったら、130℃まで昇温し、臭化水素酸及び水を蒸発除去した。得られた薄白色固体のFeBr2へ、例4で合成した2−(N−(8−(2−メチルイミダゾリルオクタノイル))−L−グルタミル)メチル−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−ピバルアミドフェニル)ポルフィリン50mgと2,6−ルチジン50mLの乾燥テトラヒドロフラン溶液(5mL)を窒素雰囲気下で滴下し、17時間沸点還流を行った。反応が終了したら、溶媒を減圧除去し、これをクロロホルムで抽出し、溶媒を減圧除去後、残渣をクロロホルムに溶解させ、純水で十分に洗浄した。脱水、溶媒除去後、得られた混合物をシリカゲルカラム(CHCl3/CH3OH=10/1)で分画精製した。得られた成分を真空乾燥し、茶色固体の2−(N−(8−(2−メチルイミダゾリルオクタノイル))−t−ブトキシカルボニル−L−グルタミル)メチル−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−ピバルアミドフェニル)ポルフィナト鉄(III)を22mg得た(2−(t−ブトキシカルボニル−L−グルタミル)メチル−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−ピバルアミドフェニル)ポルフィリンからの収率37%)。
【0050】
<分析結果>
薄層クロマトグラフィー:Rf=0.64(CHCl3:CH3OH=1:1(v/v))
赤外吸収スペクトル(ν/cm-1): 3429(NH); 1740(C=O(エステル)), 1683(C=O(アミド))
紫外可視吸収スペクトル(λmax/nm, CHCl3): 574.5, 417.5
ESI−MSスペクトル(m/z): 1430 [M-Br]+。
【0051】
例6
2−(N−(8−(2−メチルイミダゾリルオクタノイル))−t−ブトキシカルボニル−L−グルタミル)メチル−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−ピバルアミドフェニル)ポルフィナト鉄(III)(11mg,7.7μmol)をジクロロメタン1.5mLに溶解し、DCC(4.2mg,20μmol)を加え、室温で30分間撹拌した。そこへN−ヒドロキシスクシンイミド(2.1mg)のジクロロメタン溶液(1mL)を添加し、室温、遮光下にて14時間反応させた。TLCで反応の進行を追跡し、析出物を0℃で濾別し、溶媒を減圧除去した。残渣をベンゼンに溶解、DCUを再び濾過により除去した。溶媒を減圧除去して、目的化合物2−(N−(8−(2−メチルイミダゾリルオクタノイル))−スクシンイミジル−L−グルタメート)メチル−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−ピバルアミドフェニル)ポルフィナト鉄(III)錯体・臭化物を12mg得た(収率:100%)。このポルフィリンの分析結果は、以下の通りである。
【0052】
薄層クロマトグラフィー:Rf=0.38(CHCl3:MeOH=10:1)
赤外吸収スペクトル(ν/cm-1): 3428(NH); 1740(C=O(エステル)), 1685(C=O(アミド))
紫外可視吸収スペクトル(λmax/nm, EtOH):421, 568 nm
ESI−MSスペクトル(m/z): 1527 [M-Br]+。
【0053】
例7
例1において2−ヒドロキシメチル−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−ピバルアミドフェニル)ポルフィリンの代わりに2−ヒドロキシメチル−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−(1−メチルシクロヘキサノイル)アミノフェニル)ポルフィリンを用い、例3において8−(2−メチルイミダゾリル)オクタン酸・塩酸塩の代わりに8−イミダゾリルオクタン酸・塩酸塩を用いた以外は例1〜6と全く同様な方法に従って、2−(N−(8−(イミダゾリルオクタノイル))−スクシンイミジル−L−グルタメート)メチル−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−(1−メチルシクロヘキサノイル)アミノフェニル)ポルフィリン鉄(III)錯体・臭化物を定量的に合成した。
【0054】
<分析結果>
薄層クロマトグラフィー(クロロホルム/メタノール:10/1(容量/容量):Rf:0.45(モノスポット))
赤外吸収スペクトル(cm-1): 1741(νC=O(エステル))、1686(νC=O(アミド))
紫外可視吸収スペクトル(CHCl3、λmax: 421, 505, 581, 647, 682 nm)
ESI−MSスペクトル(m/z):1688 [M-Br]+。
【0055】
例8
例1において2−ヒドロキシメチル−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−ピバルアミドフェニル)ポルフィリンの代わりに2−ヒドロキシメチル−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−(1−メチルペンタノイル)アミノフェニル)ポルフィリンを用い、例3において8−(2−メチルイミダゾリル)オクタン酸・塩酸塩の代わりに12−イミダゾリルドデカン酸・塩酸塩を用いた以外は例1〜6と全く同様な方法に従って、2−(N−(8−(イミダゾリルドデカノイル))スクシンイミジル−L−グルタメート)メチル−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−(1−メチルシクロペンタノイル)アミノフェニル)ポルフィリン鉄(III)錯体・臭化物を定量的に合成した。
【0056】
<分析結果>
薄層クロマトグラフィー(クロロホルム/メタノール:10/1(容量/容量):Rf:0.37(モノスポット))
赤外吸収スペクトル(cm-1): 1739(νC=O(エステル))、1683(νC=O(アミド))
紫外可視吸収スペクトル(CHCl3、λmax:420, 503, 578, 647, 685 nm)
ESI−MSスペクトル(m/z): 1674 [M-Br]+。
【0057】
例9
例1において2−ヒドロキシメチル−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−ピバルアミドフェニル)ポルフィリンの代わりに2−ヒドロキシメチル−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−(アダマンタノイル)アミノフェニル)ポルフィリンを、Fmoc−L−グルタミン酸(t−ブチルエステル)の代わりにFmoc−L−アスパラギン酸(t−ブチルエステル)を用いた以外は例1〜6と全く同様な方法に従って、2−(N−(8−(2−メチルイミダゾリルオクタノイル))スクシンイミジル−L−グルタメート)メチル−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−(アダマンタノイル)アミノフェニル)ポルフィリン鉄(III)錯体・臭化物を定量的に合成した。
【0058】
<分析結果>
薄層クロマトグラフィー(クロロホルム/メタノール:10/1(容量/容量):Rf:0.54(モノスポット))
赤外吸収スペクトル(cm-1): 1740(νC=O(エステル))、1685(νC=O(アミド))
紫外可視吸収スペクトル(CHCl3、λmax:420, 503, 582, 649, 679 nm)
ESI−MSスペクトル(m/z): 1826 [M-Br]+。
【0059】
例10
例6で合成したポルフィリン鉄(III)錯体・臭化物48.2μg(0.03μmol)を10mLの無水トルエン溶液とし、窒素置換後、亜二チオン酸水溶液と不均一系で約2時間混合攪拌し、鉄(II)へ還元した。窒素雰囲気下、トルエン層だけを抽出、無水硫酸ナトリウムで脱水乾燥後、濾別し、得られたトルエン溶液を測定セルに移し密閉した。こうしてポルフィリン鉄(II)錯体のトルエン溶液を得た。この溶液の可視吸収スペクトルはλmax:440、538、557nmで、当該錯体はイミダゾールが1つ配位した5配位デオキシ型に相当するものである。
【0060】
この溶液に、酸素ガスを吹き込むと直ちにスペクトルが変化し、λmax:425、551nmのスペクトルが得られた。これは明らかに酸素化錯体になっていることを示す。この酸素化錯体溶液に窒素ガスを1分間吹き込むことにより、可視吸収スペクトルは酸素化型スペクトルからデオキシ型スペクトルへ可逆的に変化し、酸素の吸脱着が可逆的に生起することを確認した。なお、酸素を吹き込み、次に窒素を吹き込む操作を繰り返し、酸素吸脱着を連続して行うことができた。
【0061】
例11
例6で合成したポルフィリン鉄(III)錯体・臭化物482μg(0.3μmol)のエタノール溶液(2.0mL)に、一酸化炭素雰囲気下、亜二チオン酸水溶液を加え、5分間撹拌、ヘムが直ちに還元されて一酸化炭素錯体を形成し、溶液の色はオレンジ色に変化した。吸収スペクトル測定から、カルボニル錯体が形成されていることを確認後、テフロンチューブを介して、一酸化炭素圧により、ゆっくりと組換えヒト血清アルブミン(rHSA,0.075μmol,4.98mg)のリン酸緩衝水溶液(pH7.3,30mM)中へ滴下した(FepivP−SI/rHSA=4/1(mol/mol))。ゆっくりと室温で1時間攪拌、得られた溶液をリン酸緩衝水溶液(pH7.3,30mM)に対して、15時間透析を行い、エタノールを除去した。得られたポルフィリン鉄(II)錯体結合アルブミンは、一酸化炭素錯体として遮光下にて冷蔵(4℃)保存した。
【0062】
例12
例11で得られたポルフィリン鉄(II)錯体結合アルブミンの分子量測定は、Matrix-Assisted Laser Desorption Time of Flight Mass Spectra(MALDI-TOFMS)AXIMA-CFR(KRATOS)により行った。分子イオンピークがm/z:70,643に現れ、ポルフィリン鉄(II)錯体がアミド結合でアルブミンに共有結合していることが示唆された。通常、アルブミンにポルフィリン金属錯体を包接させた複合体についてMALDI−TOFMSやESI−TOFMS測定で分子量測定すると、イオン化の途中でポルフィリン金属錯体が脱離してしまうため、アルブミン自身の質量(m/z:66,500)のみが観測される。今回の結果は、ポルフィリン金属錯体がアルブミンに共有結合して強固に固定された結果、分子イオンピークが明確に観測されたことを示している。アルブミン1分子当りにはポルフィリン鉄(II)錯体が約3分子結合していることが明らかとなった。
【0063】
例13
例11で調製したポルフィリン鉄(II)錯体結合アルブミン(一酸化炭素錯体)溶液(4mL)を1cm石英製分光用セルに入れ、氷水浴で冷やしながら、酸素を通気(フロー)しながら、ハロゲンランプ(500W)を用いてポルフィリン鉄(II)錯体結合アルブミン水溶液に光照射した(10分間)。その後、得られた水溶液の紫外可視吸収スペクトル測定を行った。酸素錯体の形成を確認後、窒素を通気して、脱酸素を行いデオキシ体を調製した。ポルフィリン鉄(II)錯体結合アルブミンの窒素雰囲気下における吸収スペクトルは、Fe(II)5配位高スピン錯体型を示し、トルエン溶液中と同様に、軸塩基が中心鉄に分子内配位したデオキシ体であることが明らかとなった。そこへ酸素を通気すると、直ちに酸素錯体型のスペクトルへ移行し、その酸素結合は酸素分圧に応答して可逆的に変化した。酸素錯体の半減期は37℃において、5時間であった。また、一酸化炭素を通気すると安定な一酸化炭素錯体が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式[I]:
【化1】

(ここで、R1は、置換基を有してもよい直鎖または脂環式炭化水素基、R2は、アルキレン基、R3は周期律表第4〜5周期の遷移金属イオンMを配位させたときに、イミダゾリル基の中心遷移金属イオンMへの配位を許容する基、Rは、メチレン基またはエチレン基)で示されるポルフィリン化合物、または周期律表第4〜5周期の遷移金属イオンMが配位したその金属錯体。
【請求項2】
1が、1位に置換基を有する直鎖または脂環式炭化水素基であり、R2が、C1〜C10アルキレン基であり、R3が、水素原子またはメチル基、エチル基もしくはプロピル基である請求項1に記載のポルフィリン化合物またはその金属錯体。
【請求項3】
1が、1,1−二置換C1〜C18アルカン基、1−置換シクロプロピル基、1−置換シクロペンチル基、1−置換シクロヘキシル基、2−置換ノルボルニル基(これら基における置換基は、メチル基、アルキルアミド基、アルキルエステル基またはアルキルエーテル基)、1−メチル−2−シクロヘキセニル基、または1−アダマンチル基である請求項2に記載のポルフィリン化合物またはその金属錯体。
【請求項4】
Mが、FeまたはCoである請求項1ないし3のいずれか1項に記載の金属錯体。
【請求項5】
Feの価数が+2価または+3価である請求項4に記載の金属錯体。
【請求項6】
Coの価数が+2価である請求項4に記載の金属錯体。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載の金属錯体のスクシンイミジル基をアルブミンと反応させることによって得られるポルフィリン金属錯体結合アルブミン。
【請求項8】
前記スクシンイミジル基が前記アルブミンのリジンアミノ基と反応し、アミド結合を形成した請求項7記載のポルフィリン金属錯体結合アルブミン。
【請求項9】
アルブミンがヒト血清アルブミン、ウシ血清アルブミン、組換えヒト血清アルブミン、アルブミン多量体である請求項8記載のポルフィリン金属錯体結合アルブミン。
【請求項10】
請求項9記載のポルフィリン金属錯体結合アルブミンを含有する酸素輸液。

【公開番号】特開2006−8623(P2006−8623A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−190190(P2004−190190)
【出願日】平成16年6月28日(2004.6.28)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(000218719)
【Fターム(参考)】