説明

スクラバ排水の処理方法

【課題】有機性廃棄物の燃料回収工程に設置されたスクラバから排出されるスクラバ排水に含まれるシアン成分を安全に、かつ低コストで処理することができるスクラバ排水の処理方法を提供する。
【解決手段】有機性廃棄物の燃料回収工程に設けられたスクラバ5から排出されるスクラバ排水を、pH調整槽10でpH2〜pH5に調整したうえ、曝気槽11に導いて排水中のシアン成分を気相側に移行させ、これにより生じたシアン含有ガスをボイラ20で燃焼処理する。ボイラ14は回収燃料の一部を燃焼させるもので、シアン含有ガスをその燃焼用空気として使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機性廃棄物の燃料回収工程に設置されたスクラバから排出されるスクラバ排水の処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
窒素化合物を含有する有機性廃棄物、特にタンパク質を多く含む下水汚泥等から、熱分解やガス化処理により燃料ガスを回収する燃料回収工程では、窒素化合物のガス化反応により高濃度のシアン化水素(HCN)等のシアン成分やアンモニア(NH)が副生される。燃料ガスはスクラバを通して浄化したうえで回収されるが、燃料ガス中のシアン成分やアンモニアはスクラバ排水中に移行するため、スクラバ排水中のシアン成分の処理が必要である。また、アンモニア成分も低減させる必要がある場合がある。
【0003】
シアン含有廃水の処理方法には、次亜塩素酸ソーダを用いたアルカリ塩素法が一般的に用いられている。またアンモニア成分については、次亜塩素酸ソーダを用いたブレークポイント法が知られている。
【0004】
ところが、これらのアルカリ塩素法やブレークポイント法は、次亜塩素酸ソーダを酸化剤として用いるため、排水中の被酸化成分の同伴により、過剰に次亜塩素酸ソーダが使用されるほか、pH調整に用いるアルカリ薬剤も緩衝作用により多量に必要となるため、コスト高になってしまうという問題があった。
【0005】
そこで、特許文献1〜3に示されるような、放散塔や曝気塔による気相側へのシアン揮散法が提案されている。また、アンモニア成分については、放散塔によるアンモニアストリッピング法がある。しかしながら、これらの放散塔や揮散塔を用いた、シアン成分やアンモニア成分の気相側への揮散処理では、気相側へ移行したシアン成分の安全な処理方法が未確立であるという問題があった。
【0006】
また、特許文献2に示される揮散シアン成分を炉に返送する方法を燃料回収工程のガス化炉に適用すると、ガス化炉内が低酸素雰囲気であるため、シアン成分の分解が進ます、かえって燃料ガス中のシアン成分が濃縮されてしまう恐れがあった。
【特許文献1】特開平11−302667号公報
【特許文献2】特開平7−148493号公報
【特許文献3】特許昭54−156343号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、有機性廃棄物の燃料回収工程に設置されたスクラバから排出されるスクラバ排水に含まれるシアン成分を安全に、かつ低コストで処理することができるスクラバ排水の処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためになされた本発明は、有機性廃棄物の燃料回収工程に設けられたスクラバから排出されるスクラバ排水を、気相移行手段に導いて排水中のシアン成分を気相側に移行させ、これにより生じたシアン含有ガスをボイラで燃焼処理することを特徴とするものである。
【0009】
なお、スクラバ排水からのシアン成分の気相側への移行を、曝気により行うことができ、その場合にはスクラバ排水量の20〜100倍の体積比の空気を、スクラバ排水に吹き込んで曝気することが好ましい。また、スクラバ排水をpH2〜pH5に調整したうえ、曝気することが好ましい。また、ボイラが回収燃料の一部を燃焼させるボイラであり、シアン含有ガスをその燃焼用空気として使用することが好ましく、そのボイラで発生させた蒸気を燃料回収工程に供給される有機性廃棄物の乾燥に利用することが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、スクラバ排水に含まれるシアン成分を気相側に移行させたうえ、シアン含有ガスをボイラで燃焼処理するので、安全確実にシアン成分を処理することが可能となる。またシアン成分を気相側に移行させる手段として曝気を採用すれば、効果的に気相側に移行させることが可能となり、特にスクラバ排水を予めpH2〜pH5に調整しておけば、シアンの揮散が促進される。またボイラの発生蒸気を有機性廃棄物の乾燥に利用することにより、エネルギの無駄をなくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、図面を参照しつつ本発明の好ましい実施の形態を示す。
図1は本発明の実施の形態を示す説明図であり、ここでは下水処理場から発生する脱水汚泥を原料として燃料を回収する工程を示す。ただし有機性廃棄物は脱水汚泥に限定されるものではなく、都市ゴミその他のバイオマスを用いることもできる。
【0012】
図1において1は脱水汚泥の乾燥機、2はガス化炉、3は排熱ボイラ、4は集塵機、5はガス浄化用のスクラバ、6はブロア、7は回収された燃料ガスを燃料とするガスエンジン、8は発電機である。
【0013】
脱水汚泥は乾燥機1で乾燥したうえ、ガス化炉2に供給される。乾燥汚泥は、ガス化炉2内で流動撹拌されながら熱分解し、可燃性の熱分解ガスに分解される。
【0014】
得られたガスは排熱ボイラ3で排熱回収され、水蒸気を発生させる。この水蒸気は乾燥機1の熱源として使用される。
【0015】
また得られたガスは、セラミックフィルタ等の集塵機4で灰分が除去され、スクラバ5を通して浄化されて清浄な燃料ガスとなり、ガスエンジン13に導かれる。スクラバ10、11内で洗浄水と気液接触することにより、改質ガス中のシアン化水素(HCN)等のシアン成分やアンモニアは、スクラバ排水に移行する。
【0016】
スクラバ5で、浄化された燃料ガスは、ブロア6によりガスエンジン7に供給され、発電機8を駆動するためのエネルギ源として利用される。ガスエンジン7の排ガスはボイラ14に供給され、水蒸気を発生させたうえで、煙突16から排出される。脱水汚泥が高含水の場合や、運転条件によっては、排熱ボイラ3やボイラ14から乾燥機1に供給される水蒸気の熱量では、乾燥機1内での脱水汚泥の乾燥が不十分となって、ガス化炉2のガス化の効率が落ちる恐れがある。そこで、乾燥機1に供給される熱量の不足分を補うために、ボイラ14内にバーナ15を設け、燃料回収工程で回収された燃料ガスの一部を燃焼させて、乾燥機1の熱源としている。
【0017】
スクラバ5から排出されるスクラバ排水は、ポンプ9でpH調整槽10に送給される。なお、スクラバ5から排出されるスクラバ排水の水温は40℃〜60℃である。このpH調整槽10には酸、例えば硫酸を投入して、pH2〜5に調整する。このようなpH領域に調整することにより、シアンが水中から解離し易くなる。
【0018】
pH調整槽10でpH調整されたスクラバ排水は、その後段に設けられた気相移行手段である曝気槽11に導かれる。この曝気槽11は水深が1〜4mであり、散気板や散気管などの散気手段11aにブロア12で空気を送給して微細気泡を吹き込み、曝気する。この曝気により、スクラバ排水に含まれるシアン成分やアンモニア成分等の有害物質が揮散し、気相側に移行する。なお、スクラバ排水から前記有害物質を、確実に気相側に移行させるためには、少なくともスクラバ排水量の20〜100倍の体積比の空気をスクラバ排水に吹き込んで曝気することが好ましい。前述したように、スクラバ排水をpH調整槽10でpH2〜5に調整するのは、この曝気槽17で前記有害物質、特にシアン成分の気相側への移行を迅速かつ確実にするためである。また、pH調整を曝気槽内で行うことにより、pH調整槽10でpH調整をする工程を省略することが可能となり、この場合にはpH調整槽10は不要となる。
【0019】
なお、曝気槽11内のスクラバ排水の曝気により、気相側に移行したシアン成分を含有するガスが外部に漏洩しないように、曝気槽11はブロア等で陰圧に保持されている。
【0020】
スクラバ排水は40℃〜60℃の温水であるので、スクラバ排水に含まれる前記有害物質の、気相側への移行が促進される。しかし、必要に応じて、前記有害物質の気相側への移行を促進させるために、曝気槽11に、スクラバ排水を保温する保温手段や、スクラバ排水を加温する加温手段を設けることが好ましい。また、このスクラバ排水を加温する加温手段の熱源に、例えば、排熱ボイラ3で得られた熱等のような、有機性廃棄物のガス化処理工程の排熱を利用することが好ましく、この場合には、排熱を利用することから、環境負荷を低減することが可能となる。
【0021】
なお、本実施形態では気相移行手段として曝気槽11を使用したがこれに限定されず、塔高さ4〜8mの多段放散塔や、ラシヒリング等を充填した充填塔等を気相移行手段として用いることもできる。
【0022】
曝気槽11から排出されるシアン含有ガスは、前述したボイラ14内に設けられたバーナ15の燃焼空気として供給され、燃焼処理される。このように、燃料ガスとともに高温で酸化燃焼させるので、シアン成分やアンモニア成分等の有害物質を、完全に燃焼処理することができる。なお、シアン含有ガスをガス化炉内へ返送した場合にはシアンやアンモニアの濃縮や、NOなどの温暖化ガスの発生が懸念されるが、本発明ではそのような問題は生じない。
【0023】
また、燃焼熱はボイラ14で回収され、有機性廃棄物を乾燥機1で乾燥させるための熱源として利用するので、排熱を利用してガス化炉2における有機性廃棄物のガス化の効率を向上させることが可能となり、環境負荷を低減することが可能となる。
【0024】
曝気槽11でシアン成分等が除去されたスクラバ排水は、中和槽13に導かれる。中和槽13には例えば水酸化ナトリウム等のアルカリが投入され、スクラバ排水を中和する。このスクラバ排水は例えば下水処理場の最初沈殿地へ返送され、処理される。
【実施例】
【0025】
図1に示される下水汚泥ガス変換設備に設置されたスクラバから排出されるスクラバ排水には、濃度300mg/Lのシアン化水素(HCN)と、濃度1000mg/Lのアンモニアが含有されていた。その水温は60℃である。このスクラバ排水に硫酸を添加してpHを2に調整したうえ、水温を60℃に保持しながら、容積比で30倍の空気により曝気した。曝気開始から3時間後の水中のシアン化水素(HCN)、アンモニア濃度を測定したところ、シアン化水素(HCN)濃度0.1mg/L、アンモニア濃度300mg/Lにまで低下していた。曝気槽から排出されるシアン含有ガスをボイラのバーナの燃焼用空気として用い、燃焼処理をした。ボイラから排出される排ガス中のシアン化水素(HCN)、アンモニア(NH)はともに検出限界以下であることを確認した。
【0026】
以上、現時点において、もっとも、実践的であり、かつ好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲および明細書全体から読み取れる発明の要旨あるいは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴うスクラバ排水の処理方法及びスクラバ排水の処理装置もまた技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施の形態を示す説明図である。
【符号の説明】
【0028】
1 乾燥機
2 ガス化炉
3 排熱ボイラ
4 集塵機
5 スクラバ
6 ブロア
7 ガスエンジン
8 発電機
9 ポンプ
10 pH調整槽
11 曝気槽
11a 散気手段
12 ブロア
13 中和槽
14 ボイラ
15 バーナ
16 煙突

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機性廃棄物の燃料回収工程に設けられたスクラバから排出されるスクラバ排水を、気相移行手段に導いて排水中のシアン成分を気相側に移行させ、これにより生じたシアン含有ガスをボイラで燃焼処理することを特徴とするスクラバ排水の処理方法。
【請求項2】
気相移行手段として曝気槽を使用することを特徴とする請求項1に記載のスクラバ排水の処理方法。
【請求項3】
スクラバ排水量の20〜100倍の体積比の空気を、スクラバ排水に吹き込んで曝気することを特徴とする請求項2に記載のスクラバ排水の処理方法。
【請求項4】
スクラバ排水をpH2〜pH5に調整したうえ、曝気することを特徴とする請求項2に記載のスクラバ排水の処理方法。
【請求項5】
ボイラが回収燃料の一部を燃焼させるボイラであり、シアン含有ガスをその燃焼用空気として使用することを特徴とする請求項1に記載のスクラバ排水の処理方法。
【請求項6】
ボイラで発生させた蒸気を燃料回収工程に供給される有機性廃棄物の乾燥に利用することを特徴とする請求項1に記載のスクラバ排水の処理方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−200578(P2008−200578A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−37912(P2007−37912)
【出願日】平成19年2月19日(2007.2.19)
【出願人】(507214083)メタウォーター株式会社 (277)
【Fターム(参考)】