説明

スクリーン印刷方法

【課題】段差による凹部を有する基板などの板状の被印刷物の表面にスクリーン印刷を行う際に色抜けなどの印刷不良を防止し、高品質な印刷を可能にするスクリーン印刷方法、及び該印刷方法を用いてスクリーン印刷された基板を有する光記録媒体の提供。
【解決手段】(1)印刷面に凹部を有する板状の被印刷物の該印刷面上にスクリーンを設置し、該スクリーンに対してスキージを相対移動させることにより、該被印刷面に凹部を含めてスクリーン印刷を行うに際し、スクリーンに対し一つの方向にスキージを相対移動させる第1スキージ工程と、第1スキージ工程における相対移動方向と異なる方向にスキージを相対移動させる第2スキージ工程とを備えたことを特徴とするスクリーン印刷方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板状の被印刷物のスクリーン印刷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光ディスク基板は、金型の固定金型と可動金型との間に形成されるキャビティ内に環状の金属薄板からなるスタンパを装着し、キャビティ内に溶融樹脂を射出注入して圧縮することにより、スタンパに記録されているピットやグルーブで構成される凹凸パターンを転写して成形されている。
このようにして成形された光ディスク基板は、一般的に、型開き時には可動金型表面に保持されているため、可動金型に設けられたエジェクタ機構が突出することにより離型し取り出される。また、金型から光ディスク基板を取り出す際には、光ディスク基板の離型性を向上させるために、可動鏡面盤とその径方向内側に設けられた可動ブッシュとの隙間から圧縮空気が吹き出されている。このため可動金型のキャビティ側表面は、可動鏡面盤と可動ブッシュとの境目に隙間と段差が生じるため、成形された光ディスク基板においても境界部にはバリと段差が生じ完全に平坦な光ディスク基板を成形する事は困難である。このように平滑ではない光ディスク基板を用いて作成した光ディスクの表面に印刷を行うと、光ディスク基板の段差やバリの発生部で色抜けなどの不良を起しやすい。
なお、特許文献1には、スクリ−ン印刷用多層版及びこれを利用したペ−スト膜印刷方法が開示されているが、表面に凹部を有する基板の印刷に関する記載はない。
【0003】
【特許文献1】特開平08−281905号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年では、意匠効果による商品価値向上等の目的で光記録媒体表面の略全面に印刷出来るようにするため、表面の略全面を平滑面とした光記録媒体が要求されている。しかし、前述したように、成形により作成される光記録媒体の基板には段差による凹部があるため、略全面に高品質なスクリーン印刷を行うことは難しい。
本発明は、このような段差による凹部を有する基板などの板状の被印刷物の表面にスクリーン印刷を行う際に色抜けなどの印刷不良を防止し、高品質な印刷を可能にするスクリーン印刷方法、及び該印刷方法を用いてスクリーン印刷された基板を有する光記録媒体の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題は次の1)〜7)の発明によって解決される。
1) 印刷面に凹部を有する板状の被印刷物の該印刷面上にスクリーンを設置し、該スクリーンに対してスキージを相対移動させることにより、該被印刷面に凹部を含めてスクリーン印刷を行うに際し、スクリーンに対し一つの方向にスキージを相対移動させる第1スキージ工程と、第1スキージ工程における相対移動方向と異なる方向にスキージを相対移動させる第2スキージ工程とを備えたことを特徴とするスクリーン印刷方法。
2) スクリーン印刷に用いられるインクは、紫外線硬化型であり、第2スキージ工程に先立って、第1スキージ工程で印刷されたインクを紫外線硬化させる第1紫外線硬化工程と、第2スキージ工程で印刷されたインクを紫外線硬化させる第2紫外線硬化工程とを備えたことを特徴とする1)記載のスクリーン印刷方法。
3) 第1スキージ工程における相対移動方向と、第2スキージ工程における相対移動方向とが為す角度が、50〜180度であることを特徴とする1)又は2)記載のスクリーン印刷方法。
4) 凹部の深さが、5〜40μmであることを特徴とする1)〜3)の何れかに記載のスクリーン印刷方法。
5) スクリーンのメッシュサイズが、180〜305メッシュであることを特徴とする1)〜4)の何れかに記載のスクリーン印刷方法。
6) スキージの硬度が、50〜65であることを特徴とする1)〜5)の何れかに記載のスクリーン印刷方法。
7) 1)〜6)の何れかに記載のスクリーン印刷方法によって印刷が為されたことを特徴とする光記録媒体。
【0006】
以下、上記本発明について詳しく説明する。
図1は、段差による凹部を有する基板の一例を示す図であり、(a)は全体図、(b)は部分拡大断面図である。被印刷物は、例えば光記録媒体(CD、DVDなど)である。光記録媒体は、印刷面の中心部に段差を介して円形の凹部が形成されている。そして該凹部の底面には、ターンテーブルにセットするための円形開口が凹部と同心円状に形成されている。
このような凹部のある基板の表面にスクリーン印刷を行う際に、色抜けなどの印刷不良を防止し、高品質な印刷を可能にするには、スクリーンに対してスキージを相対移動させる工程を第1スキージ工程と第2スキージ工程の二段階に分け、これらの段階における相対移動の方向を変えればよいことが分った。これにより、凹部をインクで埋め、その周辺部と面一にすることができ、凹部に対しても均一にインクを塗布することが可能となる。
【0007】
図2及び図3は、スクリーン印刷装置において、スクリーンに対し、第1スキージ工程におけるスキージの相対移動方向と、第2スキージ工程におけるスキージの相対移動方向とが異なるようにして、被印刷物にスクリーン印刷を行う工程フロー図である。なお、本実施形態では、紫外線硬化型のインクを用いているが、これに限定されるものではなく、スクリーン印刷用のインクであれば何でもよい。
図2は、スキージ工程毎にスキージの進行方向を換えることにより、第1スキージ工程と第2スキージ工程とでスキージの相対移動方向が異なるようにしている。
この図では、スクリーン印刷装置は、投入された被印刷物を載置する載置ステージと、二つのスキージ(第1スキージ及び第2スキージ)と、該二つのスキージを個別に直線移動させるスキージ移動機構と、紫外線(UV)照射機構とを備えている。そして、第1スキージの移動方向(第1方向)と第2スキージの移動方向(第2方向)とが為す角度は、90度となっている。
【0008】
まず、印刷前の準備として、印刷対象となる被印刷物が載置ステージに投入されると共に、被印刷物上にスクリーンが設置される。その後、スクリーン印刷装置は、スキージ移動機構により、第1スキージを第1方向に移動させ、第1スキージ工程を行う。第1スキージ工程後、紫外線(UV)照射機構により、被印刷物に紫外線を照射してインクを硬化させ、第1紫外線硬化工程を行う。次に、スキージ移動機構により、第2スキージを第2方向に移動させ、第2スキージ工程を行う。第2スキージ工程後、第1紫外線硬化工程と同様にして、インクを硬化させて第2紫外線硬化工程を行う。最後に、このようにして二段階の印刷が為された被印刷物を載置ステージから搬出し、一連の工程が終了する。
なお、第1スキージ工程におけるスキージの相対移動方向(第1方向)と第2スキージ工程におけるスキージの相対移動方向(第2方向)とが為す角度は、本実施形態のように90度であることが好ましいが、これに限定されるものではなく、50〜180度であればよい(詳細は後述する)。また、本実施形態では、2つのスキージを用いたが、スキージの移動方向を変更する機構を設け、1つのスキージを、異なる方向に移動させることで、第1スキージ工程及び第2スキージ工程を行うようにしてもよい。
【0009】
図3は、スキージ工程毎に被印刷物を載置面内で回転させることにより、第1スキージ工程と第2スキージ工程でのスキージの相対移動方向が異なるようにしている。
この図では、スクリーン印刷装置は、投入された被印刷物を載置する載置ステージと、載置ステージを介して被印刷物を回転させるステージ回転機構と、スキージと、スキージを1つの方向に移動させるスキージ移動機構と、紫外線(UV)照射機構とを備えている。
図2の場合と同様にして、まず、印刷前の準備として、印刷対象となる被印刷物が載置ステージに投入されると共に、被印刷物上にスクリーンが設置される。その後、スクリーン印刷装置は、スキージ移動機構によりスキージを移動させ、第1スキージ工程を行う。第1スキージ工程後、紫外線(UV)照射機構により、被印刷物に紫外線を照射してインクを硬化させ、第1紫外線硬化工程を行う。次に、ステージ回転機構により、被印刷物を90度回転させる。そして、スキージを移動させ、第2スキージ工程を行う。第2スキージ工程後、第1紫外線硬化工程と同様にして、インクを硬化させて第2紫外線硬化工程を行う。最後に、このようにして二段階の印刷が為された被印刷物を載置ステージから搬出し、一連の工程が終了する。
なお、上記と同様に、第1スキージ工程におけるスキージの相対移動方向と第1スキージ工程におけるスキージの相対移動方向とが為す角度、すなわちステージ回転機構による被印刷物の回転角度は、本実施形態のように90度であることが好ましいが、これに限定されるものでなく、50〜180度であればよい(詳細は後述する)。
【0010】
次に、好ましい印刷条件について説明する。
表面に断差による深さ5〜60μmの凹部を有する直径12cm、厚さ0.6mmのポリカーボネート樹脂製成形基板に対し、次の条件でスクリーン印刷テストを実施した。スキージ硬度は、JIS K 6253に準拠し、デュロメータを用いて測定した。
≪条件≫
・スクリーンメッシュ:305メッシュ
・スキージ硬度:65
表1に結果を示す。横方向の数値は凹部の深さであり、縦方向の数値は第1スキージ工程と第2スキージ工程の相対移動方向の為す角度である。
凹部の深さによって変わるが、表1から、概ね、角度が50〜180度の範囲が好ましく、90度が最も好ましいことが分かる。
【表1】

【0011】
表1の場合と同じ成形基板に対し、次の条件でスクリーン印刷テストを実施した。スキージ硬度は、JIS K 6253に準拠し、デュロメータを用いて測定した。
≪条件≫
・印刷角度:90度(表1において最も効果の得られた角度)
・スキージ硬度:65
表2に結果を示す。横方向の数値は凹部の深さであり、縦方向の数値はスクリーンメッシュ(インチ)である。
凹部の深さによって変わるが、表2から、凹部の深さが深くなるにつれて、スクリーンメッシュサイズが小さい方が、凹部による印刷不良を低減するのに効果があることが分かる。また、凹部の深さが40μm以下であれば、スクリーンメッシュが180〜305の範囲において、不良なし(○)の良好な印刷ができることが分かる。
【表2】

【0012】
表1の場合と同じ成形基板に対し、次の条件でスクリーン印刷テストを実施した。スキージ硬度は、JIS K 6253に準拠し、デュロメータを用いて測定した。
≪条件≫
・印刷角度:90度(表1において最も効果の得られた角度)
・スクリーンメッシュ:200メッシュ(表2において最も効果の得られた値)
表3に結果を示す。横方向の数値は凹部の深さであり、縦方向の数値はスキージ硬度である。
凹部の深さによって変わるが、表3から、凹部の深さが深くなるほど、好ましいスキージ硬度の範囲が狭くなり、深さ60μmでは、スキージ硬度55の場合のみ「○」になることが分かる。また、凹部の深さが40μm以下であれば、スキージが50〜65の範囲において、不良なし(○)の良好な印刷ができることが分かる。
【表3】

上記表1〜表3の結果から分るように、スキージを相対移動させる角度、スクリーンメッシュ、スキージ硬度を適切に選択することにより、段差の深さ60μmまでは印刷不良を防止する事ができる。但し、段差の深さ40μmまでの方が条件の許容範囲が広い。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、段差による凹部を有する基板などの板状の被印刷物の表面にスクリーン印刷を行う際に色抜けなどの印刷不良を防止し、高品質な印刷を可能にするスクリーン印刷方法、及び該印刷方法を用いてスクリーン印刷された基板を有する光記録媒体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】段差による凹部を有する基板の一例を示す図。(a)全体図、(b)部分拡大断面図。
【図2】スキージの移動方向を変えることにより、第1スキージ工程と第2スキージ工程とで、スキージの相対移動方向を変更する印刷工程フロー図。
【図3】被印刷物を回転させることにより、第1スキージ工程と第2スキージ工程とで、スキージの相対移動方向を変更する印刷工程フロー図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷面に凹部を有する板状の被印刷物の該印刷面上にスクリーンを設置し、該スクリーンに対してスキージを相対移動させることにより、該被印刷面に凹部を含めてスクリーン印刷を行うに際し、スクリーンに対し一つの方向にスキージを相対移動させる第1スキージ工程と、第1スキージ工程における相対移動方向と異なる方向にスキージを相対移動させる第2スキージ工程とを備えたことを特徴とするスクリーン印刷方法。
【請求項2】
スクリーン印刷に用いられるインクは、紫外線硬化型であり、第2スキージ工程に先立って、第1スキージ工程で印刷されたインクを紫外線硬化させる第1紫外線硬化工程と、第2スキージ工程で印刷されたインクを紫外線硬化させる第2紫外線硬化工程とを備えたことを特徴とする請求項1記載のスクリーン印刷方法。
【請求項3】
第1スキージ工程における相対移動方向と、第2スキージ工程における相対移動方向とが為す角度が、50〜180度であることを特徴とする請求項1又は2記載のスクリーン印刷方法。
【請求項4】
凹部の深さが、5〜40μmであることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のスクリーン印刷方法。
【請求項5】
スクリーンのメッシュサイズが、180〜305メッシュであることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載のスクリーン印刷方法。
【請求項6】
スキージの硬度が、50〜65であることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載のスクリーン印刷方法。
【請求項7】
請求項1〜6の何れかに記載のスクリーン印刷方法によって印刷が為されたことを特徴とする光記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−137321(P2008−137321A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−327192(P2006−327192)
【出願日】平成18年12月4日(2006.12.4)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】