説明

スクリーン印刷版の補強方法及びスクリーン印刷版

【課題】耐刷性に優れ、且つ画像再現性を向上させる。
【解決手段】多孔性支持体11のみを所定のテンションで枠張りした補強用版10を、製版済みの感熱孔版原紙21を補強用版10よりも弱いテンションで枠張りした印刷用版20の枠内に結合してスクリーン印刷版1を作製する版結合工程と、スクリーン印刷版1の支持体層4側から補強部材2を塗布して支持体層4に含浸させる補強部材塗布工程と、熱可塑性樹脂フィルム21bが表面となるよう配置し、フィルム面側から開口部21cと対応する部分の補強部材2をチキソトロピー性を有する置換部材3で置換する置換部材充填工程と、支持体層4に含浸した補強部材2を硬化させる補強部材硬化工程と、置換部材充填工程で充填した置換部材3を除去する置換部材除去工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐刷性に優れ、且つ画像再現性を向上させるスクリーン印刷版の補強方法及びスクリーン印刷版に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スクリーン印刷で用いられるスクリーン印刷版は、枠張りされた紗に感光乳剤を塗工して乾燥させた後、これに画像パターンを設けたマスクを重ねて露光することで、非画像部を硬化させるとともに、画像部の未硬化の感光乳剤を洗浄除去することで製版されていた。しかしながら、この製版方法では、専用の露光装置、暗室などの設備が必要であり、また、未硬化の感光乳剤を洗浄除去する際に出る廃液の処理が必要となるなどの欠点があった。
【0003】
一方、従来、多孔性支持体に熱可塑性樹脂フィルムを積層してなる感熱孔版原紙の熱可塑性樹脂フィルムをサーマルヘッドなどの加熱装置で選択的に加熱して溶融させることにより画像に対応する開口部を設ける感熱製版も、簡便にスクリーン印刷版を得る方法として重用されている。この感熱製版は、暗室などの設備を必要とせず、通常の環境下で製版ができ、また、洗浄工程や廃液処理も必要とせず、環境負荷が小さいというメリットがある。
【0004】
しかし、感熱製版で良好な穿孔を得るためには、感熱孔版原紙の熱可塑性樹脂フィルムの厚さを薄くしなければならないが、この厚さが薄すぎると衝撃や摩擦などでフィルムが破れ易くなり、印刷版の耐刷性が低下するという欠点があった。特に、ポスター、看板などの表示用途では、紙以外に樹脂板、金属板、陶板、コンクリートなど多種の基材に印刷する必要があるが、感熱製版で得られたスクリーン印刷版は、硬く凹凸の多い基材に印刷すると、バリ、ササクレ、砂粒などが版と擦れることにより、非開口部のフィルムが裂け、ピンホールが発生し、版の耐久性が著しく低下する。また、バリがあると、たった1回の印刷で版にピンホールが発生することがあり、版自体の強度も低いので印刷によって版が伸び、画像が変形する欠点があった。
そこで、このような問題を解決するべく、下記特許文献1に開示されるサーマルスクリーン版が提供されている。
【0005】
下記特許文献1に開示されるサーマルスクリーン版では、スクリーン印刷用紗と熱溶融穿孔性フィルムとを貼り合わせたサーマルスクリーンシートにおけるスクリーン印刷用紗全面に樹脂溶液を塗布し、熱溶融穿孔性フィルムの穿孔された領域に対応する領域の樹脂溶液を除去した後、乾燥している。このように製版することで、未製版部分が樹脂により補強され、スクリーン印刷版の耐刷性、寸法安定性、位置合わせの作業性などを改善している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3471861号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、特許文献1に開示されるスクリーン印刷版では、フィルム穿孔後に支持体であるスクリーン印刷用紗側に補強材料として樹脂溶液を含浸させ開口部に対応する部分の補強材料を除去した後、非開口部に残留する補強材料を乾燥させてフィルムの補強を行っている。
【0008】
しかしながら、開口部や支持体層から不要な補強材料を完全に除去することは困難であるため、補強材料により開口部が塞がれることで支持体層のインク通過抵抗変化による塗工膜圧の減少、色ムラの発生などの画像の劣化が問題であった。特に、開口部が細字部や細線部で形成されている場合は、上記閉塞により、細字の欠けや細線の飛びが発生することがある。また、より一層の耐刷性の向上も求められていた。
【0009】
更に、感熱孔版原紙自体の強度が弱いため、インクの版離れを良くして画質向上を図るべく、スクリーン印刷に必要なテンションを加えながら製版後の感熱孔版原紙の枠張り作業を行うと、開口部(特に細線部分)が伸張して画像に歪みが生じるという問題があった。
【0010】
また、高詳細な画像を得るためには高いメッシュ数の感熱孔版原紙が必要となるが、メッシュ数が高くなると糸径も細く支持体自体が薄くなるため、印刷されたインクの盛り厚さが低くなるという問題があった。従って、導電性ペーストをスクリーン印刷するような場合では、規定の厚さになるまで数回に亘って同一箇所に印刷処理を施さなければならず、製造工程が増えるとともに高度な印刷技術が必要となり作業が煩雑であった。
【0011】
そこで、本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、感熱孔版原紙を用いて耐刷性に優れ、且つ高いスクリーンテンションの確保による高画像再現性を有するスクリーン印刷版の補強方法及びスクリーン印刷版を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記した目的を達成するために、請求項1記載のスクリーン印刷版の補強方法は、選択的に加熱して画像に対応する開口部を形成する熱可塑性樹脂フィルムに多孔性支持体が積層された感熱孔版原紙を備えるスクリーン印刷版の補強方法であって、
前記多孔性支持体のみを所定のテンションで枠張りした補強用版を、前記開口部が形成された製版済みの感熱孔版原紙を前記補強用版よりも弱いテンションで枠張りした印刷用版の枠内に、前記補強用版の多孔性支持体と前記印刷用版の多孔性支持体とを接触させ支持体層となるように結合してスクリーン印刷版を作製する版結合工程と、
前記スクリーン印刷版の前記支持体層側から補強部材を塗布して当該支持体層に含浸させる補強部材塗布工程と、
前記熱可塑性樹脂フィルムが表面となるよう前記スクリーン印刷版を配置し、フィルム面側から前記開口部と対応する部分の前記補強部材をチキソトロピー性を有する置換部材で置換する置換部材充填工程と、
前記支持体層に含浸した前記補強部材を硬化させる補強部材硬化工程と、
前記置換部材充填工程で充填した前記置換部材を除去する置換部材除去工程と、
を含むことを特徴とする。
【0013】
請求項2記載のスクリーン印刷版の補強方法は、請求項1記載のスクリーン印刷版の補強方法において、前記補強部材の硬度HM と前記置換部材の硬度HR との関係は、前記補強部材硬化工程前ではHM <HR となり、前記補強部材硬化工程後ではHM >HR となることを特徴とする。
【0014】
請求項3記載のスクリーン印刷版の補強方法は、請求項1又は2記載のスクリーン印刷版の補強方法において、前記置換部材充填工程における前記置換部材としてチキソトロピー性を有するインクを使用し、
前記置換部材除去工程として、前記置換部材充填工程で充填した前記インクに対し、スキージを用いたスキージング動作を行うことを特徴とする。
【0015】
請求項4記載のスクリーン印刷版は、請求項1〜3の何れかに記載の補強方法により製版され、前記補強部材が硬化した補強部材層に前記熱可塑性樹脂フィルム面に対して垂直な内周壁を有する通孔部が前記開口部に対応した形状で形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明のスクリーン印刷版の補強方法によれば、感熱孔版原紙における熱可塑性樹脂フィルムに形成した開口部及び開口部に対応した多孔性支持体を置換部材で置換した状態で補強部材によるスクリーン印刷版の補強を行うため、開口部が補強材料により開口部が塞がれることで起こる支持体のインク通過抵抗変化による塗工膜圧の減少、色ムラの発生などの画像の劣化といった問題を解消することができる。特に、開口部が細字部や細線部で形成されている場合であっても細字の欠けや細線の飛びが発生することないため、より高精度のスクリーン印刷を実現することができる。
【0017】
また、本発明の補強方法によって得られたスクリーン印刷版は、十分に補強されているため、従来の感熱スクリーン印刷版と異なり版の再利用が可能となり、同一の版を用いて長期間に亘って高画質印刷を行うことができる。
【0018】
更に、補強用版と印刷用版とを結合した状態で補強部材により補強されているため、枠張り時に開口部を伸張させることなくスクリーン印刷に必要なテンションが付与された状態となり、インクの版離れを良くして画質向上を図ることができる。
【0019】
また、スクリーン印刷版が補強用版と印刷用版と2層構造となっているため、高詳細な画像を得るために高いメッシュ数の感熱孔版原紙を用いた場合であっても1回の印刷で形成されるインクの盛り厚さを高く確保できる。
【0020】
更に、置換部材と補強部材の硬さは、補強部材塗布工程時では補強部材より置換部材の方が硬さが高く、補強部材硬化工程後では置換部材より補強部材の方が硬さが高くなるような関係であるため、置換部材充填時に確実に開口部に対応する部分の補強部材と置換でき、補強部材硬化後は補強部材を損傷することなく置換部材を除去することができる。
【0021】
また、置換部材充填工程における置換部材としてチキソトロピー性を有するインクを使用し、置換部材除去工程として置換部材充填工程で充填した前記インクに対し、スキージを用いたスキージング動作を行うことで、置換部材除去工程と印刷工程とを同一の工程とすることができるため、置換部材として使用したインクが無駄にならず、印刷工程初回から印刷処理を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係るスクリーン印刷版の補強方法における補強工程を示す説明図である。
【図2】同スクリーン印刷版を構成する補強用版と印刷用版の構成を示す説明図である。
【図3】版結合工程において作製されたスクリーン印刷版の支持体層を示す説明図である。
【図4】(a) 同方法において防汚材を用いたときの補強部材塗布中の概念図である。 (b) 同方法において防汚材を用いたときの補強部材塗布後の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を実施するための形態について、添付した図面を参照しながら詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではなく、この形態に基づいて当業者などによりなされる実施可能な他の形態、実施例及び運用技術などはすべて本発明の範疇に含まれる。
【0024】
まず、本発明に係るスクリーン印刷版の補強方法について、図1〜3を参照しながら詳細に説明する。本例のスクリーン印刷版1の補強方法は、図1に示すように、(1)補強用版作製工程、(2)印刷用版作製工程、(3)版結合工程、(4)補強部材塗布工程、(5)置換部材充填工程、(6)補強部材硬化工程、(7)置換部材除去工程の順に工程を経て補強処理される。なお、これらの工程の前後又は中間には、各工程の処理に支障をきたさない処理内容であれば、所望によって他の工程を付加してもよい。
【0025】
(1.補強用版作製工程)
本発明の補強用版作製工程は、図1(a)に示すように、多孔性支持体11(以下、単に「支持体11」ともいう)のみを所定の張力で枠張りした第1の版である補強用版10を作製する工程である。
【0026】
多孔性支持体11は、製版時に加熱により寸法が変化せず、印刷時にインキが通過できるものであれば特に限定されるものではなく、薄葉紙、抄造紙、不織布、織布、スクリーン紗の他、スポンジシートなどの連続気孔体などが挙げられる。このうち、ポリエステル、絹、綿、ナイロン、レーヨン、ステンレスなどの紗を使用することが好適である。和紙、不織布などの場合の坪量は、1〜20g/m2 の範囲が好ましく、更には5〜15g/m2 の範囲がより好適であり、紗の場合のメッシュ数は、50メッシュ〜450メッシュの範囲が好ましく、更には70〜200メッシュの範囲がより好適である。
【0027】
また、多孔性支持体11が張られるスクリーン枠12としては、印刷後の洗浄作業や複数回の印刷に耐え得るようアルミニウムなどの金属製スクリーン枠が好ましい。また、スクリーン枠12は、図2に示すように版結合工程において後述するスクリーン枠22と嵌合結合するため、スクリーン枠22の内寸よりも僅かに小さいものを選択する。
【0028】
多孔性支持体11の枠張り方法としては、一般的なスクリーン製版の製造方法と同様、スクリーン枠12を紗張り機に装着し、装置の手順に従って皺やたるみが入らないよう所定のテンションを均一に加えながら多孔性支持体11を枠に固定して作製する。スクリーン枠12に多孔性支持体11を枠張りした場合のテンションとしては、印刷用版の補強という観点から印刷用版よりもテンションを高くする必要があり、加重落し込み式のテンションゲージで約0.85〜2mmの範囲である。
【0029】
(2.印刷用版作製工程)
本発明の印刷用版作製工程は、図1(b)に示すように、多孔性支持体21a(以下、単に「支持体21a」ともいう)に熱可塑性樹脂フィルム21b(以下、単に「フィルム21b」ともいう)を積層してなる感熱孔版原紙21を用意し、該熱可塑性樹脂フィルム21bを選択的に加熱して画像に対応する開口部21cを形成し、この製版済みの感熱孔版原紙21を簡易的に枠張りして印刷用版20を作製する工程である。
【0030】
感熱孔版原紙21は、多孔性支持体21aに熱可塑性樹脂フィルム21bを積層してなるものであれば特に限定されず、両者が接着剤を介して貼り合わされたものであっても、両者が熱接着などで直接貼り合わされたものであってもよい。
【0031】
熱可塑性樹脂フィルム21bとしては、加熱により開口部21cが形成される熱穿孔性又は熱収縮性のものであれば特に限定されず、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリナフタレンテレフタレート、ポリスルフォンサルファイド、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリ酢酸ビニル、アクリル樹脂、シリコーン樹脂などが用いられる。これらの樹脂成分は単独若しくは混合して、又は共重合体として用いてもよい。このうち、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステルフィルムが好ましく用いられる。熱可塑性樹脂フィルム21bの厚さは、0.5〜50μmの範囲が好ましく、更には1〜20μmの範囲がより好適である。
【0032】
多孔性支持体21aは、製版時に加熱により寸法が変化せず、印刷時にインキが通過できるものであれば特に限定されるものではなく、薄葉紙、抄造紙、不織布、織布、スクリーン紗の他、スポンジシートなどの連続気孔体などが挙げられる。このうち、ポリエステル、絹、綿、ナイロン、レーヨン、ステンレスなどの紗を使用することが好適である。和紙、不織布などの場合の坪量は、1〜20g/m2 の範囲が好ましく、更には5〜15g/m2 の範囲がより好適であり、紗の場合のメッシュ数は、50メッシュ〜450メッシュの範囲が好ましく、更には70〜200メッシュの範囲がより好適である。
【0033】
なお、後述する版結合工程において補強用版10と印刷用版20とを結合した際のモアレを防止するため、多孔性支持体11と多孔性支持体21aのメッシュ数を変える必要がある。多孔性支持体11のメッシュ数をMA 、多孔性支持体21aのメッシュ数をMB とすると、多孔性支持体11と多孔性支持体21aのメッシュ数の関係は、MA <MB とすることが好ましい。また、各支持体11、21aに10度以上の角度差を付けることで、よりモアレを抑制することができる。
【0034】
感熱孔版原紙21としては、市販のものを用いることもできる。かかる市販品としては、理想科学工業株式会社製のRISOマスターZ タイプ37、Z タイプ77又はRISOデジタルスクリーンマスター200P-32ASHQ 、200P-32 、70P-32(何れも商品名)などが挙げられる。
【0035】
感熱孔版原紙21の熱可塑性樹脂フィルム21bを選択的に加熱して画像に対応する開口部21cを形成する方法としては、感熱孔版原紙21の製版に用いられている通常の方法を使用することができる。
【0036】
かかる製版方法しては、例えば、カーボンブラックやトナーなどの光を吸収して発熱する物質で形成された画像を感熱孔版原紙21と重ね合わせ、赤外線ランプを光源として用いて該感熱孔版原紙21に光を照射するいわゆるフラッシュ製版の他、レーザー光線、サーマルヘッドを熱源として用いて感熱孔版原紙21に画像に対応する穿孔を施す方法が挙げられる。このうち、本発明の印刷用版作製工程は、サーマルヘッドのように、熱可塑性樹脂フィルム21bに画像に対応した独立穿孔の集合体を形成する加熱手段を用いて行うことが好適である。
【0037】
また、多孔性支持体21aが張られるスクリーン枠12としては、製版済みの感熱孔版原紙21の画像が歪まないよう低いテンションで簡易的に固定するスクリーン枠22を使用する。また、スクリーン枠22は、図2に示すように版結合工程において補強用版10を枠内に嵌合結合するため、スクリーン枠12の外寸よりも僅かに大きいものを選択する。
【0038】
感熱孔版原紙21の枠張り方法としては、一般的なスクリーン製版の製造方法と同様、スクリーン枠を紗張り機に装着し、装置の手順に従って皺やたるみが入らないよう所定のテンションを均一に加えながら感熱孔版原紙21をスクリーン枠22に固定して作製する。かかる多孔性支持体21aのテンションとしては、加重落し込み式のテンションゲージで約2.5〜3.5mmの範囲となり、補強用版10のテンションの1/2〜1/4程度である。すなわち、補強用版10のテンションをTA 、印刷用版20のテンションをTB とすると、補強用版10と印刷用版20のテンションの関係はTA >TB となる。
【0039】
(3.版結合工程)
本発明の版結合工程は、図1(c)に示すように、補強用版作製工程で作製した補強用版10と印刷用版作製工程で作製した印刷用版20とを嵌合結合してスクリーン印刷版1を作製する工程である。
【0040】
補強用版10と印刷用版20との結合方法としては、図3に示すように多孔性支持体11と21aとが接触して支持体層4となるよう補強用版10と印刷用版20とを嵌合し、位置固定しながら結合してスクリーン印刷版1を作製する。補強用版10と印刷用版20との結合時の位置固定方法としては、予め各枠12、22に設けた結合用凹凸部による噛み込み、スリットなどを用いた嵌め込みにより結合する方法の他、別途ネジやクランプなどの固定器具を用いて位置固定することができる。
【0041】
(4.補強部材塗布工程)
本発明の補強部材塗布工程は、図1(d)に示すように版結合工程で作製したスクリーン印刷版1のフィルム面を裏面となるよう配置し、支持体層4側から補強部材2を塗布する工程である。
【0042】
補強部材2としては、室温(25℃)で液状で多孔性支持体11、21aからなる支持体層4に含浸し、且つ補強部材硬化工程において硬化するものであれば特に限定されない。更に、補強部材2は、硬化した後に、印刷時の衝撃に耐える柔軟性、伸びを生まない高い弾性と引っ張り強度を有するものであることが好適である。
【0043】
このような観点から、補強部材2の特性条件としては、構造粘性を持たないニュートン流体であることが条件であり、具体的には置換部材3よりも粘度が低くなるよう0.01(Pa・s)以上10(Pa・s)未満が好適である。
【0044】
かかる補強部材2としては、紫外線補強部材、赤外線硬化樹脂、熱補強部材、湿気硬化型樹脂、熱可塑性樹脂、パラフィン類、高周波の電波、各種電子線などによって硬化する樹脂などを用いることができる。補強部材2は、光開始剤、粘度調整剤、重合開始剤などを適宜含有してもよい。
【0045】
このうち、好ましい補強部材2は、紫外線硬化型樹脂のオリゴマー又はモノマーから主として構成されるものである。かかるオリゴマー又はモノマーとしては、例えば、ウレタン系、エポキシ系、ポリエステル系、ポリオール系の(メタ)アクリル酸変性された樹脂の各種オリゴマー及びモノマーなどが挙げられる。オリゴマーとしては、例えばエポキシアクリレート、エポキシ油化アクリレート、ウレタンアクリレート、不飽和ポリエステル、ポリエステルアクリレート、ポリエーテルアクリレート、ビニルアクリレートなどを好ましく用いることができる。モノマーとしては、ジシクロペンテニルエチルアクリレート、イソボルニルアクリレート、フェノール・エチレンオキサイド変性アクリレートなどの単官能アクリレートや、トリプロピレングリコールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、ビスフェノールAジグリシジルエーテルジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、トリメチールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートなどの多官能アクリレートを用いることが好ましい。
【0046】
また、別の好ましい補強部材2としては、湿気硬化型シリコーン樹脂が挙げられる。湿気硬化型シリコーン樹脂としては、空気中の水分や物質の表面のOH基と化学反応して硬化するものであれば、特に限定されない。湿気硬化型シリコーン樹脂としては、例えば、湿気硬化型シリコーンゴムが挙げられる。湿気硬化型シリコーンゴムの具体例としては、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製「TSE-399 (商品名)」などが挙げられる。
【0047】
補強部材2の塗布方法としては、ゴムスキージで支持体層4の全体に満遍なく摺り込む方法、スプレーなどの噴霧器による噴霧する方法など、支持体層4の全面に補強部材2を均一に塗布でき、且つ置換部材3が損傷しない方法であれば特に制限されない。また、支持体層4の全面に補強部材2を均一に含浸させた後は、ゴムスキージなどを用いて余剰の補強部材2を除去することが好ましい。
【0048】
更に、図4に示すように、補強部材2を塗布する際にフィルム21b側を予め紙などの防汚材40で塞いだ状態で補強部材2の塗布を行い、補強部材2を塗布した後に防汚材40を除去することで、補強部材2が開口部21cからはみ出て熱可塑性樹脂フィルム21bが汚れるのを防止することができる。
【0049】
(5.置換部材充填工程)
本発明の置換部材充填工程では、図1(e)に示すように、印刷用版作製工程によって製版されたスクリーン印刷版1の開口部21cから置換部材3を充填して開口部21cと対応する部分の補強部材2と置換する工程である。
【0050】
スクリーン印刷版1の開口部21cに置換部材3を充填する場合、図1(e)に示すように熱可塑性樹脂フィルム21bが表面となるようスクリーン印刷版1を反転して配置し、フィルム21b側に置換部材3を載せ、スクリーン印刷動作を用いて開口部21cに対応する補強部材2を全て押し出して置換するように充填する。
【0051】
置換部材3としては、室温(25℃)で液状で、熱可塑性樹脂フィルム21bの開口部21cから充填され、該開口部21cから除去可能な非硬化性流動体であれば特に限定されない。従って、置換部材3は、スクリーン印刷版1への塗布操作が容易に行えるように、スクリーン印刷に適した流動特性を持つことが望ましく、補強部材硬化工程での補強部材2の硬化を阻害しないものであればよい。
【0052】
置換部材3に求められる物性としては、フィルム21bがが表面となるようスクリーン印刷版1を反転させ中空に保持した状態で、スキージ30を用いて印刷作業と同様の動作を行い、フィルム21b側から支持体層4内に充填するため、支持体層4を通過する際に、置換部材3に力が加わった状態での粘度が低くなければならない。また、粘度が高すぎると開口部21cを通過しにくくなり、均一に置換することができない。更に、充填後は、滲み、流動、変形により形状が崩れ置換性能が損なわれないよう、速やかに流動性を失い形状を保つ必要がある。すなわち、置換部材3を開口部21cから充填した際に、開口部21cの形状に対応してフィルム面に垂直方向に掃引した形状となる材質のものが適当である。
【0053】
このような観点から、置換部材3の物性条件としては、補強部材塗布工程の際に、補強部材2と混合せずに開口部21cに充填された状態を維持するために十分なチキソトロピー性を備えた非ニュートン流体であることが必要である。従って、チキソトロピー性の条件としては、補強部材2よりも高い粘度及び降伏値を有することが好適である。置換部材3の粘度としては、10〜1000(Pa・s)、好ましくは10〜100(Pa・s)の範囲がよい。また、降伏値としては、30(Pa)以上、好ましくは50(Pa)以上がよい。
【0054】
更に、置換部材3は、充填時に開口部21cに対応した部分の補強部材2を支持体側へ押し出し、且つ速やかに支持体層4中に浸透することが求められる。よって、置換部材HR と補強部材2の硬度HM との関係は、後述する補強部材硬化工程における硬化前の補強部材2と置換部材3ではHR >HM 、硬化工程後の補強部材2と置換部材3ではHR <HM となる。
【0055】
かかる置換部材3としては、例えば、W/O エマルジョンインキを使用することができる。かかるW/O エマルジョンインキは、色材を含有していても含有していなくてもよい。W/O エマルジョンインキの粘度及び/又は降伏値は、該インキの油相と水相の配合割合を変化させることにより容易に調整することができる。
【0056】
また、置換部材3は、粘度及び/又は降伏値調整のための粘度調整剤を含有してもよい。粘度調整剤としては、補強部材2に関して上記したものを使用することができる。また、置換部材3は、置換操作時にフィルム残渣の除去を促進するよう、界面活性剤、溶剤などの洗浄剤成分を含んでも良い。置換部材3への置換を確認しやすくするため、補強部材2と置換部材3に異なる色を付けておいてもよい。
【0057】
(6.補強部材硬化工程)
本発明の硬化工程では、図1(f)に示すように補強部材塗布工程でスクリーン印刷版1の非開口部に塗布された補強部材2を硬化させる処理である。
【0058】
補強部材硬化工程は、使用する補強部材2に応じて、スクリーン印刷版1に紫外線、赤外線、熱などを照射することにより行うことができる。また、補強部材2が湿気硬化型シリコーン樹脂である場合は、空気中又は支持体層4中若しくは置換部材3中の水分と反応して硬化するので、この工程は該樹脂を該支持体層4に含浸させた後、そのまま放置することにより行うことができる。この工程により、支持体層4に塗布された補強部材2が硬化され、フィルム21bの非開口部に対応する部分に補強部材層として機能する。
【0059】
(7.置換部材除去工程)
本発明に係る置換部材除去工程は、図1(g)に示すように補強部材2が硬化した後、開口部21cに充填された置換部材3を除去する処理である。
【0060】
置換部材除去工程では、洗浄により除去することも可能である。その際使用する洗浄剤としては、水や有機溶剤などから適宜選択することができる。その際、界面活性剤などの薬剤を併用してもよい。また、補強部材2の硬さによっては、ブラシやたわしなどを用いて洗浄することもできる。本発明の製版方法で得られたスクリーン印刷版1は、補強部材2からなる補強部材層により非開口部が補強されており、耐溶剤性が高められているので、有機溶剤を用いて十分に洗浄を行うことができ、同一の版を用いて長期間に亘り高画質の印刷が行える。
【0061】
置換部材除去工程によって置換部材を除去することで、スクリーン印刷版における補強部材層3には、フィルム面に対して垂直な内周壁を有する通孔部5が開口部21cに対応した形状(すなわち、充填された置換部材3の立体形状における外周面を象った形状)で形成されることで、開口部21cと非開口部との境界部分が補強される。
【0062】
また、置換部材3として印刷時に使用するインクを使用した場合、印刷時に使用するインクを支持体層4側に載置してスクリーン印刷動作を行う。これにより、印刷処理と同時に置換部材3として機能したインクが被印刷媒体に転写されることで置換部材3の除去が可能となるため、置換部材除去工程を省略することができる。
【0063】
かくして得られたスクリーン印刷版1は、感光乳剤を用いて得られたスクリーン印刷版1と同など又はそれ以上の耐久性を有するので、同様の方法及び設備を利用してスクリーン印刷を行うことができる。また、従来の感熱製版で得られたスクリーン印刷版1よりも耐溶剤性が優れているので、溶剤系インク、UVインクなど従来よりも広範囲のインクを選択して印刷を行える。
【0064】
以上説明したように、本発明に係るスクリーン印刷版1の補強方法は、多孔性支持体11のみをスクリーン枠12に貼った補強用版10と、多孔性支持体21aに熱可塑性樹脂フィルム21bが積層されフィルム面を選択的に加熱して画像に対応する開口部21cを形成して感熱孔版原紙21をスクリーン枠22に簡易的に貼った印刷用版20とを結合してスクリーン印刷版1を作製する。次に、このスクリーン印刷版1の支持体層4全体に補強部材3を塗布した後、フィルム面が表面となるようスクリーン印刷版1を反転して配置し、フィルム21b側からのスキージ処理により開口部21c対応した補強部材2を置換部材3に置換する。そして、補強部材2を硬化させた後、開口部21cに充填された置換部材3を除去する処理を行う。
【0065】
これにより、開口部21cを置換部材3で保護した状態で補強部材2によるスクリーン印刷版1の補強を行うため、開口部21cが補強材料により開口部21cが塞がれることで起こる支持体層4のインク通過抵抗変化による塗工膜圧の減少、色ムラの発生などの画像の劣化といった問題を解消することができる。特に、開口部21cが細字部や細線部で形成されている場合であっても細字の欠けや細線の飛びが発生することないため、より高精度のスクリーン印刷を実現することができる。
【0066】
また、本発明の補強方法によって得られたスクリーン印刷版1は、十分に補強されているため、従来の感熱スクリーン印刷版と異なり版の再利用が可能となり、同一の版を用いて長期間にわたり、高画質の印刷を行うことができる。更に、開口部21cの部分が補強部材2によって補強されているため、万が一、支持体21aからフィルム21bが剥離(デラミ)した場合であっても、開口部21cの形状が維持された状態となり、画質劣化の無い印刷を行うことができる。
【0067】
また、補強用版10と印刷用版20とを結合した状態で補強部材2により補強されているため、枠張り時に開口部21cを伸張させることなくスクリーン印刷に必要なテンションが付与された状態となり、インクの版離れを良くして画質向上を図ることができる。
【0068】
更に、スクリーン印刷版1が補強用版10と印刷用版20と2層構造となっているため、高詳細な画像を得るために高いメッシュ数の感熱孔版原紙21を用いた場合であっても1回の印刷で形成されるインクの盛り厚さを高く確保できる。よって、導電性ペーストの印刷作業のようなインクの盛り厚さがある程度必要な場合であっても簡便に行うことができる。
【実施例】
【0069】
以下、本発明に係るスクリーン印刷版1の補強方法について実施例に基づき詳細に説明する。なお、下記実施例は本発明を限定するものではなく、前・後記の趣旨に照らし合わせて設計変更することは何れも本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【0070】
以下の各実施例において、実施例1は置換部材3としてインクを用いた例であり、実施例2は置換部材3としてインク以外の部材を用いた例である。
【0071】
[実施例1]
(1.補強用版作製工程)
スクリーン枠12としてアルミニウム製スクリーン印刷枠を使用し、これを紗張り機に装着する。そして、多孔性支持体11((株)NBCメッシュテック製 #70 モノフィラメントスクリーン)を前記枠12に貼り付けて固定する。固定時の多孔性支持体11のテンションは、テンションゲージ(SEFAR社製 Tensocheck-100)による計測で約1mmとなるよう設定した。なお、補強用版10の枠の外寸は、印刷用版20の内寸よりも僅かに小さくなるよう選択した。
【0072】
(2.印刷用版作製工程) 製版機としてRISOデジタル製版機SP400D(理想科学)を、感熱孔版原紙21としてRISOデジタルスクリーンマスター200P-32 (理想科学工業(株)製)をそれぞれ使用し、装置の手順に従って製版機に感熱孔版原紙21を装着した。次に、準備した原稿をスキャナーに置き感熱製版を約30秒行って、原稿の黒部分が穿孔されたデジタルスクリーン版(感熱孔版原紙21)を得た。これをスクリーン枠22である簡易スクリーン枠(理想科学工業(株)製)に装着した。固定時の多孔性支持体11のテンションは、テンションゲージ(SEFAR社製 Tensocheck-100)による計測で約3mmとなるよう設定した。
【0073】
(3.版結合工程)
印刷用版20の多孔性支持体21aと補強用版10の多孔性支持体11とが接触するように重ねて結合してスクリーン印刷版1を作製した。なお、本実施例では、補強用版10と印刷用版11の各枠に嵌合用の凹凸部(不図示)を備え、結合時に各凹凸部を嵌合させることで位置固定した。
【0074】
(4.補強部材塗布工程)
スクリーン印刷版1における積層された支持体層4側から紫外線硬化型樹脂を約20g入れ、支持体層4全体に均一に行き渡るよう硬度40のゴムスキージで摺り込み、版上に余った補強部材2 はゴムスキージで回収した。この際、印刷時に使用するスクリーン印刷台などに装着すると作業しやすくなる。
【0075】
また、本実施例で使用する紫外線硬化型樹脂としては、エポキシアクリレートオリゴマー(ハリマ化成(株)製)9重量%、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA:東亞合成(株)製)38.2重量%、フェノール・エチレンオキサイド変性アクリレート(東亞合成(株)製)38.2重量%、光開始剤としてイルガキュアー369 (チバガイギー社製)3.5重量%、粘度調整剤としてベントン38(RHEOX社製)10重量%、分散剤としてソルスパースS24000GR(ゼネカ社製)1重量%、重合禁止剤としてハイドロキノン0.1重量%を攪拌機で攪拌、混合し、その後3本ロールの混連機で混連し、反応硬化性樹脂を調整したものを使用した。
【0076】
(5.置換部材充填工程)
補強部材2が塗布されたスクリーン印刷版1をフィルム面が表面となるよう反転する。次に、スクリーン印刷版1のフィルム21b側に、リソー布用スクリーンインク(黒)を20g取り、スクリーン印刷版1を中空に保持した状態で、補強部材塗布工程で使用したゴムスキージを用いて手動でスキージ処理を10回行った。余剰インクを回収後、スクリーン印刷版1を裏返し目視で支持体層4側の版面を確認すると、開口部21cから黒色のインクが支持体層4側に押し出され原稿と同じ画像が形成されているのが確認できた。
【0077】
(6.補強部材硬化工程)
紫外線硬化性樹脂を噴霧後、ハンディUV照射装置(OHD-320:ORC 社製)を用いて紫外線を30秒照射し樹脂を硬化させた。
【0078】
なお、本実施例では、置換部材3としてインクを使用しているため、置換部材除去工程として印刷処理を行った。
【0079】
(印刷性能)
リソー布用スクリーンインク(黒)30gを取り、置換部材充填工程で用いたゴムスキージを用いてTシャツに印刷を行った。その結果、目詰まりなどの無い良好な印刷物が得られた。
【0080】
(耐久性能)
上記で制作した版を用い、スクリーン印刷インク(黒)で10×10cm、厚さ7mmの合板に印刷を行った。30枚印刷を行ったが、画像は劣化しなかった。また、インクを補給しながら100回印刷を行い版面を確認したが、ピンホール、版の摩耗などはみられなかった。
【0081】
(保管性能)
印刷終了後、余剰なインクを除去した後、スクリーン用洗浄剤(クリーンコール)で版を洗浄し、乾燥後、常温の室内で2週間保管した。この版を用いて再度印刷をTシャツに印刷を行ったが、画像の目詰まり、欠け、地汚れなどの画像劣化は認められなかった。
【0082】
(従来品との比較)
比較対象として、本発明の補強方法を用いず、デジタルスクリーンマスター(200P-32 )を従来の方法により製版したスクリーン印刷版を用いて上記印刷を行った結果、3枚目で合板の端面と接触する部分のフィルム21bが破れ、インクが板を汚してしまった。また、10枚目では、合板接触面全体にピンホールが見られ、画像が汚れてしまった。この結果から、本発明の補強方法を用いることでスクリーン印刷版1が画像劣化することなく補強されていることが証明された。
【0083】
[実施例2]
(1.補強用版作製工程)
実施例1と同様の補強用版作製工程を行い、多孔性支持体11が貼り付け固定された補強用版10を得た。
【0084】
(2.印刷用版作製工程)
実施例1と同様の印刷用版作製工程を行い、所望の開口部21cが形成された印刷用版20を得た。
【0085】
(3.版結合工程)
実施例1と同様に版結合工程を行い、補強用版10と印刷用版20とを結合してスクリーン印刷版1を得た。
【0086】
(4.補強部材塗布工程)
スクリーン印刷版1における積層された支持体層4側から補強部材2として湿気硬化型液状シリコーン樹脂(TSE397透明:モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン社)を約40g入れ、支持体層4全体に均一に行き渡るよう硬度40のゴムスキージで摺り込み、版上に余った補強部材2 はゴムスキージで回収した。この際、印刷に使用するスクリーン印刷台(不図示)に装着すると操作しやすい。また、スクリーン印刷版1のフィルム面に防汚材40として紙を密着させた状態に保って塗布工程を行った。これにより、補強部材3の塗布後に防汚材40を取り去ると、フィルム21b側へ補強部材2がはみ出ることなく塗布されていた。
【0087】
(5.置換部材充填工程)
補強部材2が塗布されたスクリーン印刷版1をフィルム面が表面となるよう反転する。次に、スクリーン印刷版1のフィルム21b側に、置換部材3として歯磨き粉(ガードハロー:花王(株)製)を20g取り、スクリーン印刷版1を中空に保持した状態で、補強部材塗布工程で使用したゴムスキージを用いて手動でスキージ処理を行った。置換部材3は、版1の開口部21cから支持体層4に摺り込まれ、裏面から目視で確認できるチノー度(約0.5mm)突出するまでスキージ処理を行い、開口部21cに対応した部分の補強部材2を置換部材3で置換したスクリーン印刷版1を得た。スキージ処理後、余剰の置換部材3は、ゴムスキージで回収・除去した。
【0088】
(6.補強部材硬化工程)
置換部材2による充填工程終了後、版を立てた状態で30分静置したところ、樹脂はスクリーン印刷版1の支持体層4に浸透し、ゴム状に硬化した。なお、余剰な樹脂は流下し枠部分で硬化した。
【0089】
(7.置換部材除去工程)
補強部材2を硬化後、水洗いをして置換部材3を除去し、非開口部のみ補強されたスクリーン印刷版1を得た。
【0090】
(印刷性能)
リソー布用スクリーンインク(黒)30gを取り、置換部材充填工程で用いたゴムスキージを用いてTシャツに印刷を行った。その結果、目詰まりなどの無い良好な印刷物が得られた。
【0091】
また、耐久性能、保管性能共に、実施例1と同様の結果が得られた。以上より、本発明の補強方法を用いることでスクリーン印刷版1が画像劣化することなく補強されていることを示している。
【符号の説明】
【0092】
1…スクリーン印刷版
2…補強部材(補強部材層)
3…置換部材
4…支持体層
5…通孔部
10…補強用版
11…多孔性支持体
12…スクリーン枠
20…印刷用版
21…感熱孔版原紙(21a…多孔性支持体、21b…熱可塑性樹脂フィルム、21c…開口部)
22…スクリーン枠
30…スキージ
40…防汚材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
選択的に加熱して画像に対応する開口部を形成する熱可塑性樹脂フィルムに多孔性支持体が積層された感熱孔版原紙を備えるスクリーン印刷版の補強方法であって、
前記多孔性支持体のみを所定のテンションで枠張りした補強用版を、前記開口部が形成された製版済みの感熱孔版原紙を前記補強用版よりも弱いテンションで枠張りした印刷用版の枠内に、前記補強用版の多孔性支持体と前記印刷用版の多孔性支持体とを接触させ支持体層となるように結合してスクリーン印刷版を作製する版結合工程と、
前記スクリーン印刷版の前記支持体層側から補強部材を塗布して当該支持体層に含浸させる補強部材塗布工程と、
前記熱可塑性樹脂フィルムが表面となるよう前記スクリーン印刷版を配置し、フィルム面側から前記開口部と対応する部分の前記補強部材をチキソトロピー性を有する置換部材で置換する置換部材充填工程と、
前記支持体層に含浸した前記補強部材を硬化させる補強部材硬化工程と、
前記置換部材充填工程で充填した前記置換部材を除去する置換部材除去工程と、
を含むことを特徴とするスクリーン印刷版の補強方法。
【請求項2】
前記補強部材の硬度HM と前記置換部材の硬度HR との関係は、前記補強部材硬化工程前ではHM <HR となり、前記補強部材硬化工程後ではHM >HR となることを特徴とする請求項1記載のスクリーン印刷版の補強方法。
【請求項3】
前記置換部材充填工程における前記置換部材としてチキソトロピー性を有するインクを使用し、
前記置換部材除去工程として、前記置換部材充填工程で充填した前記インクに対し、スキージを用いたスキージング動作を行うことを特徴とする請求項1又は2に記載のスクリーン印刷版の補強方法。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載の補強方法により製版され、前記補強部材が硬化した補強部材層に前記熱可塑性樹脂フィルム面に対して垂直な内周壁を有する通孔部が前記開口部に対応した形状で形成されることを特徴とするスクリーン印刷版。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−45774(P2012−45774A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−188531(P2010−188531)
【出願日】平成22年8月25日(2010.8.25)
【出願人】(000250502)理想科学工業株式会社 (1,191)
【Fターム(参考)】