説明

スクロール圧縮機

【課題】脈動を抑え、中間圧の追随性を良くすることができ、しかも、デッドボリュームを小さくすることが可能なスクロール圧縮機を提供する。
【解決手段】可動スクロール26の鏡板26aにおけるラップ26bが形成された側と反対側には、背圧室63が形成されている。固定スクロール24の鏡板24aにおけるラップ26bが形成された側の面には、圧縮室40と連通可能な少なくとも1個の中間圧溝61が形成されている。可動スクロール26の鏡板26aには、中間圧溝61と背圧室63との間を間欠的に連通することが可能な少なくとも1個の貫通孔62が、可動スクロール26の鏡板26aの厚さ方向に貫通して形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可動スクロールの背圧室に中間圧を間欠的に導入するスクロール圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、可動スクロールを固定スクロールに押し付けるスラスト押圧力を得るために、可動スクロールの背圧室に中間圧を間欠的に導入するスクロール圧縮機が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1(特許第2707517号公報)記載のスクロール圧縮機では、可動スクロールの旋回運動によって中間圧を間欠的に導入している構造で、可動スクロールの連絡通路を介して固定スクロールの導入通路へ中間圧を供給している。
【0004】
この構造では、可動スクロールの連絡通路は、鏡板の内部を中央から周縁へ向けて半径方向に貫通して形成されている。連絡通路の鏡板中央側の端部は、スクロールの中央付近の圧縮室に連通している。一方、連絡通路の周縁側の端部は、固定スクロールの鏡板に形成された窪みの位置に重なり合ったときだけ窪みと間欠的に連通する。そして、この窪みは、可動スクロールのラップと反対側に位置する背圧室に連通している。
【0005】
これにより、連絡通路の周縁側の端部が固定スクロールの窪みと重なり合ったときに、連絡通路および窪みを介して、圧縮室と背圧室が間欠的に連通し、その結果、中間圧を背圧室に導入することが可能になる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記の特許文献1記載のスクロール圧縮機の構造では、中間圧の連絡通路の長さが可動スクロールの鏡板の半径分程度の長さが必要になり、相当長い。このため、デッドボリュームが大きい構造になっている。
【0007】
その結果、このスクロール圧縮機では、最適なスラスト押圧力を得ることが困難となり、所望の中間圧を効率よく得られなくなり、そのため、脈動を抑え、中間圧の追随性を良くすることが困難である。
【0008】
本発明の課題は、脈動を抑え、中間圧の追随性を良くすることができ、しかも、デッドボリュームを小さくすることが可能なスクロール圧縮機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1発明のスクロール圧縮機は、それぞれの鏡板の一方の面に螺旋状のラップが設けられた固定スクロールおよび可動スクロールを備えている。固定スクロールのラップと可動スクロールのラップとが互いに組み合されることにより、隣接する固定スクロールのラップと可動スクロールのラップとの間に圧縮室が形成されている。可動スクロールの鏡板におけるラップが形成された側と反対側には、背圧室が形成されている。固定スクロールの鏡板におけるラップが形成された側の面には、圧縮室と連通可能な少なくとも1個の凹部が形成されている。可動スクロールの鏡板には、凹部と背圧室との間を間欠的に連通することが可能な少なくとも1個の貫通孔が、可動スクロールの鏡板の厚さ方向に貫通して形成されている。
【0010】
ここでは、固定スクロールの鏡板におけるラップが形成された側の面には、圧縮室と連通可能な少なくとも1個の凹部が形成され、可動スクロールの鏡板には、凹部と背圧室との間を間欠的に連通することが可能な少なくとも1個の貫通孔が、可動スクロールの鏡板の厚さ方向に貫通して形成されているので、従来の中間圧を導入する連絡通路よりも凹部と貫通孔を小さくできる。その結果、背圧室へ所望の中間圧を効率よく導入でき、脈動を抑え、中間圧の追随性を良くすることができる。
【0011】
第2発明のスクロール圧縮機は、第1発明のスクロール圧縮機であって、凹部は、可動スクロールの公転にともなって貫通孔が移動する軌跡に対して交差する向きに延びる溝である。
【0012】
ここでは、凹部として、可動スクロールの公転にともなって貫通孔が移動する軌跡に対して交差する向きに延びる溝を用いることにより、溝と貫通孔とをピンポイントで確実に連通させることができる。
【0013】
第3発明のスクロール圧縮機は、第2発明のスクロール圧縮機であって、溝は、可動スクロールの公転にともなって貫通孔が移動する軌跡に対して直交する向きに延びる。
【0014】
ここでは、溝が可動スクロールの公転にともなって貫通孔が移動する軌跡に対して直交する向きに延びるので、溝と貫通孔とを最も短い時間で確実に連通させることができる。これにより、所望の中間圧を背圧室に導入することができ、脈動をおさえて安定した中間圧を導入することができる。
【0015】
第4発明のスクロール圧縮機は、第1発明から第3発明のいずれかのスクロール圧縮機であって、貫通孔は、長穴状の断面を有する。
【0016】
ここでは、貫通孔が長穴状の断面を有するので、脈動を抑えて、中間圧の追随性を良くすることが可能である。しかも、連通時間を増やさずに中間圧の追随性をさらに良くすることができる。
【0017】
第5発明のスクロール圧縮機は、第1発明から第4発明のいずれかのスクロール圧縮機であって、貫通孔は、複数個形成されており、2個以上の貫通孔は、凹部に同時に連通可能である。
【0018】
ここでは、貫通孔が複数個形成されており、かつ、2個以上の貫通孔が凹部に同時に連通可能であるので、脈動を抑えて、中間圧の追随性を良くすることが可能である。しかも、連通時間を増やさずに中間圧の追随性をさらに良くすることができる。
【0019】
第6発明のスクロール圧縮機は、第1発明から第5発明のいずれかのスクロール圧縮機であって、凹部は、固定スクロールのラップの最も外側から1周分内側の間に形成されている。
【0020】
ここでは、凹部が固定スクロールのラップの最も外側から1周分内側の間に形成されているので、スラスト損失が少なく、可動スクロールが転覆しない中間圧を確実に得ることができ、
【発明の効果】
【0021】
第1発明によれば、従来の中間圧を導入する連絡通路よりも凹部と貫通孔を小さくできる。その結果、背圧室へ所望の中間圧を効率よく導入でき、脈動を抑え、中間圧の追随性を良くすることができる。
【0022】
第2発明によれば、溝と貫通孔とをピンポイントで確実に連通させることができる。これにより、所望の中間圧を背圧室に導入することができ、脈動をおさえて安定した中間圧を導入することができる。
【0023】
第3発明によれば、溝と貫通孔とを最も短い時間で確実に連通させることができる。これにより、所望の中間圧を背圧室に導入することができ、脈動をおさえて安定した中間圧を導入することができる。しかも、1回転あたりの導入体積を最も小さくすることができ、デッドボリュームを最も少なくすることができる。
【0024】
第4発明によれば、脈動を抑えて、中間圧の追随性を良くすることが可能である。しかも、連通時間を増やさずに中間圧の追随性をさらに良くすることができる。
【0025】
第5発明によれば、脈動を抑えて、中間圧の追随性を良くすることが可能である。しかも、連通時間を増やさずに中間圧の追随性をさらに良くすることができる。
【0026】
第6発明によれば、スラスト損失が少なく、可動スクロールが転覆しない中間圧を確実に得ることができ、また、凹部を他の部分と干渉しない位置に確実に形成することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施形態に係わるスクロール圧縮機の縦断面図。
【図2】図1の固定スクロールを下方から見上げた状態の図。
【図3】図1の固定スクロールに形成された中間圧溝の配置を模式的に示す図。
【図4】図1の固定スクロールの縦断面図。
【図5】クランク角度と吐出圧力との関係を示すグラフ。
【図6】本発明の変形例に係る固定スクロールに形成された中間圧溝の配置を模式的に示す図。
【図7】本発明の他の変形例に係る固定スクロールに形成された中間圧溝の配置を模式的に示す図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
〔実施形態〕
つぎに本発明のスクロール圧縮機の実施形態を図面を参照しながら説明する。
【0029】
図1に示されるスクロール圧縮機1は、高低圧ドーム型のスクロール圧縮機であり、蒸発器や、凝縮器、膨張機構などと共に冷媒回路を構成し、その冷媒回路中のガス冷媒を圧縮する役割を担うものであって、主に、縦長円筒状の密閉ドーム型のケーシング10、スクロール圧縮機構15、オルダムリング39、駆動モータ16、下部主軸受60、吸入管19、および吐出管20から構成されている。以下、このスクロール圧縮機1の構成部品についてそれぞれ詳述していく。
【0030】
〔スクロール圧縮機1の構成部品の詳細〕
(1)ケーシング
ケーシング10は、略円筒状の胴部ケーシング部11と、胴部ケーシング部11の上端部に気密状に溶接される椀状の上壁部12と、胴部ケーシング部11の下端部に気密状に溶接される椀状の底壁部13とを有する。そして、このケーシング10には、主に、ガス冷媒を圧縮するスクロール圧縮機構15と、スクロール圧縮機構15の下方に配置される駆動モータ16とが収容されている。このスクロール圧縮機構15と駆動モータ16とは、ケーシング10内を上下方向に延びるように配置される駆動軸17によって連結されている。そして、この結果、スクロール圧縮機構15と駆動モータ16との間には、間隙空間18が生じる。
【0031】
(2)スクロール圧縮機構
スクロール圧縮機構15は、図1に示されるように、主に、ハウジング23と、ハウジング23の上方に密着して配置される固定スクロール24と、固定スクロール24に噛合する可動スクロール26とから構成されている。
【0032】
以下、このスクロール圧縮機構15の構成部品についてそれぞれ詳述していく。
【0033】
a)固定スクロール
固定スクロール24は、図1に示されるように、主に、平板状の鏡板24aと、鏡板24aの下面に形成された渦巻き状(インボリュート状)のラップ24bとから構成されている。
【0034】
鏡板24aには、後述する圧縮室40に連通する吐出口41が鏡板24aの略中心に貫通して形成されている。吐出口41は、鏡板24aの中央部分において上下方向に延びるように形成されている。吐出口41の開口面の形状は、開口面積を大きくして吐出圧損を低減するため、非円形の形状である。また、鏡板24aの上面には、吐出口41に連通する座ぐり空間141(図4参照)が形成されている。なお、図4の符号80は、座ぐり空間141を開閉する逆止弁である吐出弁を示す。
【0035】
さらに、鏡板24aの上面には、吐出口41および座ぐり空間141に連通する拡大凹部42(図1参照)が形成されている。拡大凹部42は、鏡板24aの上面に凹設された水平方向に広がる凹部により構成されている。そして、固定スクロール24の上面には、この拡大凹部42を塞ぐように蓋体44がボルト44aにより締結固定されている。そして、拡大凹部42に蓋体44が覆い被せられることによりスクロール圧縮機構15の運転音を消音させる膨張室からなるマフラー空間45が形成されている。固定スクロール24と蓋体44とは、図示しないパッキンを介して密着させることによりシールされている。
【0036】
b)可動スクロール
可動スクロール26は、図1に示されるように、主に、鏡板26aと、鏡板26aの上面に形成された渦巻き状(インボリュート状)のラップ26bと、鏡板26aの下面に形成された軸受部26cと、鏡板26aの両端部に形成される溝部26dとから構成されている。
【0037】
可動スクロール26は、アウタードライブの可動スクロールである。すなわち、可動スクロール26は、駆動軸17の外側に嵌合する軸受部26cを有している。
【0038】
可動スクロール26は、溝部26dにオルダムリング39が嵌め込まれることによりハウジング23に支持される。また、軸受部26cには駆動軸17の上端が嵌入される。可動スクロール26は、このようにスクロール圧縮機構15に組み込まれることによって駆動軸17の回転により自転することなくハウジング23内を公転する。そして、可動スクロール26のラップ26bは固定スクロール24のラップ24bに噛合させられており、両ラップ24b,26bの接触部の間には圧縮室40が形成されている。そして、この圧縮室40では、可動スクロール26の公転に伴い、両ラップ24b,26b間の容積が中心に向かって収縮する。本実施形態に係るスクロール圧縮機1では、このようにしてガス冷媒を圧縮するようになっている。
<中間圧溝についての説明>
図1〜3に示されるように、可動スクロール26の鏡板26aにおけるラップ26bが形成された側と反対側には、背圧室63が形成されている。背圧室63は、ハウジング23上面中央に凹設されたハウジング凹部31と、可動スクロール26の鏡板26aと、オルダムリング39とで囲まれた空間である。
【0039】
固定スクロール24の鏡板24aにおけるラップ26bが形成された側の面には、圧縮室40と連通可能な中間圧溝61が形成されている。
【0040】
また、可動スクロール26の鏡板26aには、中間圧溝61と背圧室63との間を間欠的に連通することが可能な貫通孔62が、可動スクロール26の鏡板26aの厚さ方向に貫通して形成されている。図3の貫通孔62は、丸孔である。
【0041】
図3に示されるように、可動スクロール26の旋回運動によって、可動スクロール26側の貫通孔62は、固定スクロール24側の中間圧溝61に対して、円形の回転軌跡Rに沿って移動する。したがって、貫通孔62が中間圧溝61に重なるときには、背圧室63へ中間圧を導入できる。
【0042】
このように、固定スクロール24の鏡板24aに圧縮室40と連通する中間圧溝61が形成され、一方、可動スクロール26の鏡板26aには、中間圧溝61と背圧室63との間を連通する貫通孔62が形成されているので、従来の中間圧を導入する連絡通路よりも中間圧溝61と貫通孔62を小さくできる。その結果、背圧室63へ所望の中間圧を効率よく導入でき、脈動を抑え、中間圧の追随性を良くすることができる。
【0043】
ここで、脈動は、図5に示されるように、クランク角度θ(度)と吐出圧力P(kgf/mm)との関係を見れば、ある所定のクランク角度θの範囲において、局所的に吐出圧力Pが上昇する現象である。
【0044】
また、図2〜3に示されるように、中間圧溝61は、可動スクロール26の公転にともなって貫通孔62が移動する回転軌跡Rに対して交差する向きに延びるように、先端部61aが折れ曲がった形状をしている。
【0045】
とくに、中間圧溝61の先端部61aは、可動スクロール26の公転にともなって貫通孔62が移動する回転軌跡Rに対して直交する向きに延びている。
ここで、中間圧溝61は、回転軌跡Rに直交するように先端部61aが折れ曲がった形状であるが、中間圧溝61を直線状に形成することも可能であるが、中間圧溝61の長さが長くなる。
【0046】
また、図2に示されるように、中間圧溝61は、固定スクロール24のラップ24bの最も外側から1周分内側の間に形成されている。
【0047】
c)ハウジング
ハウジング23は、その外周面において周方向の全体に亘って胴部ケーシング部11に圧入固定されている。つまり、胴部ケーシング部11とハウジング23とは全周に亘って気密状に密着されている。このため、ケーシング10の内部は、ハウジング23下方の高圧空間28とハウジング23上方の低圧空間29とに区画されていることになる。また、このハウジング23には、上端面が固定スクロール24の下端面と密着するように、固定スクロール24がボルト等により固定されている。また、このハウジング23には、上面中央に凹設されたハウジング凹部31と、下面中央から下方に延設された軸受部32とが形成されている。そして、この軸受部32には、上下方向に貫通する軸受孔33が形成されており、この軸受孔33に駆動軸17が軸受34を介して回転自在に嵌入されている。
【0048】
d)その他
また、このスクロール圧縮機構15には、固定スクロール24とハウジング23とに亘り、連絡通路46が形成されている。この連絡通路46は、固定スクロール24とハウジング23に切欠形成されたハウジング側通路48とが連通するように形成されている。そして、連絡通路46の上端は拡大凹部42に開口し、連絡通路46の下端、即ちハウジング側通路48の下端はハウジング23の下端面に開口している。つまり、このハウジング側通路48の下端開口により、連絡通路46の冷媒を間隙空間18に流出させる吐出口49が構成されていることになる。
【0049】
(3)オルダムリング
オルダムリング39は、上述したように、可動スクロール26の自転運動を防止するための部材であって、ハウジング23に形成されるオルダム溝(図示せず)に嵌め込まれている。なお、このオルダム溝は、長円形状の溝であって、ハウジング23において互いに対向する位置に配設されている。
【0050】
(4)駆動モータ
駆動モータ16は、本実施形態において直流モータであって、主に、ケーシング10の内壁面に固定された環状のステータ51と、ステータ51の内側に僅かな隙間(エアギャップ通路)をもって回転自在に収容されたロータ52とから構成されている。そして、この駆動モータ16は、ステータ51の上側に形成されているコイルエンド53の上端がハウジング23の軸受部32の下端とほぼ同じ高さ位置になるように配置されている。
【0051】
ステータ51には、ティース部に銅線が巻回されており、上方および下方にコイルエンド53が形成されている。また、ステータ51の外周面には、ステータ51の上端面から下端面に亘り且つ周方向に所定間隔をおいて複数個所に切欠形成されているコアカット部が設けられている。そして、このコアカット部により、胴部ケーシング部11とステータ51との間に上下方向に延びるモータ冷却通路55が形成されている。
【0052】
ロータ52は、上下方向に延びるように胴部ケーシング部11の軸心に配置された駆動軸17を介してスクロール圧縮機構15の可動スクロール26に駆動連結されている。また、連絡通路46の吐出口49を流出した冷媒をモータ冷却通路55に案内する案内板58が、間隙空間18に配設されている。
【0053】
(5)下部主軸受
下部主軸受60は、駆動モータ16の下方の下部空間に配設されている。この下部主軸受60は、胴部ケーシング部11に固定されるとともに駆動軸17の下端側軸受を構成し、駆動軸17を支持している。
【0054】
(6)吸入管
吸入管19は、冷媒回路の冷媒をスクロール圧縮機構15に導くためのものであって、ケーシング10の上壁部12に気密状に嵌入されている。吸入管19は、低圧空間29を上下方向に貫通すると共に、内端部が固定スクロール24に嵌入されている。
【0055】
(7)吐出管
吐出管20は、ケーシング10内の冷媒をケーシング10外に吐出させるためのものであって、ケーシング10の胴部ケーシング部11に気密状に嵌入されている。そして、この吐出管20は、胴体内面から中心に下方に向かって突き出した位置で開口されており、高圧空間28である間隙空間18に連通している。
【0056】
〔スクロール圧縮機1の運転動作〕
つぎに、スクロール圧縮機1の運転動作について図1を参照しながら簡単に説明する。まず、駆動モータ16が駆動されると、駆動軸17が回転し、可動スクロール26が自転することなく公転運転を行う。すると、低圧のガス冷媒が、吸入管19を通って圧縮室40の周縁側から圧縮室40に吸引され、圧縮室40の容積変化に伴って圧縮され、高圧のガス冷媒となる。そして、この高圧のガス冷媒は、圧縮室40の中央部から吐出口41および座ぐり空間141を通ってマフラー空間45へ吐出される。
【0057】
また、それとともに、可動スクロール26が旋回運動をする間に、可動スクロール26の鏡板26aの厚さ方向に貫通する貫通孔62が、固定スクロール24の鏡板24aに形成された中間圧溝61と連通したときには、中間圧溝61および貫通孔62を介して、圧縮室40が可動スクロール26の下側の背圧室63と連通する。それにより、背圧室63へ所望の中間圧を効率よく導入でき、脈動を抑え、中間圧の追随性を良くすることができる。
【0058】
その後、連絡通路46、ハウジング側通路48、吐出口49を通って間隙空間18へ流出し、案内板58と胴部ケーシング部11の内面との間を下側に向かって流れる。そして、このガス冷媒は、案内板58と胴部ケーシング部11の内面との間を下側に向かって流れる際に、一部が分流して案内板58と駆動モータ16との間を円周方向に流れ、ガス冷媒に混入している潤滑油が分離される。一方、分流したガス冷媒の他部は、モータ冷却通路55を下側に向かって流れ、モータ下部空間にまで流れた後、反転してステータ51とロータ52との間のエアギャップ通路、または連絡通路46に対向する側(図1における左側)のモータ冷却通路55を上方に向かって流れる。その後、案内板58を通過したガス冷媒と、エアギャップ通路又はモータ冷却通路55を流れてきたガス冷媒とは、間隙空間18で合流して吐出管20から、ケーシング10外に吐出される。そして、ケーシング10外に吐出されたガス冷媒は、冷媒回路を循環した後、再度吸入管19を通ってスクロール圧縮機構15に吸入されて圧縮される。
【0059】
<実施形態の特徴>
(1)
実施形態のスクロール圧縮機1では、図3に示されるように、可動スクロール26の旋回運動によって、可動スクロール26側の貫通孔62は、固定スクロール24側の中間圧溝61に対して、円形の回転軌跡Rに沿って移動する。したがって、貫通孔62が中間圧溝61に重なるときには、中間圧を導入でき、重ならないときには中間圧を導入できなくなっている。
【0060】
このように、固定スクロール24の鏡板24aに圧縮室40と連通する中間圧溝61が形成され、一方、可動スクロール26の鏡板26aには、中間圧溝61と背圧室63との間を連通する貫通孔62が形成されているので、従来の中間圧を導入する連絡通路よりも中間圧溝61と貫通孔62を小さくできる。その結果、背圧室63へ所望の中間圧を効率よく導入でき、脈動を抑え、中間圧の追随性を良くすることができる。
【0061】
(2)
しかも、固定スクロール24の中間圧溝61および可動スクロール26の貫通孔62の幅を小さく形成でき、それにより、可動スクロール26の旋回における1回転あたりの脈動を小さくすることが可能である。
【0062】
また、可動スクロール26の1回転あたりに中間圧溝61と貫通孔62とが連通する経路の形状および面積を適宜変更することにより、背圧室63その他の中間圧の空間(中間圧室)に溜まった油(攪拌損失の原因となる油)を圧縮室40へ効率良く運ぶことができ、圧縮室40内シールの油を確保できる
【0063】
以上のように、固定スクロール24の鏡板24aに形成された、圧縮室40と連通する中間圧溝61と、可動スクロール26の鏡板26aに形成された、中間圧溝61と背圧室63との間を連通する貫通孔62とを備えたことにより、圧縮室40内部で圧縮途中に得られる中間圧をピンポイントで背圧室63へ導入することができる。その結果、脈動をおさえて安定した中間圧を導入することができる。
【0064】
しかも、1回転あたりの導入体積が小さいためデッドボリュームを少なくすることができる。
【0065】
さらに、圧縮室40と連通する中間圧溝61は、固定スクロール24の鏡板24aの表面に形成されているので、中間圧溝61の加工が容易である。また、中間圧溝61と背圧室63との間を連通する貫通孔62も、可動スクロール26の鏡板26aを厚さ方向に貫通することにより、容易に形成することが可能である。
【0066】
(3)
また、実施形態のスクロール圧縮機1では、図2〜3に示されるように、中間圧溝61は、可動スクロール26の公転にともなって貫通孔62が移動する回転軌跡Rに対して交差する向きに延びているので、中間圧溝61と貫通孔62とをピンポイントで確実に連通させることができる。これにより、所望の中間圧を背圧室63に導入することができ、脈動をおさえて安定した中間圧を導入することができる。
【0067】
(4)
また、実施形態のスクロール圧縮機1では、中間圧溝61の先端部61aは、可動スクロール26の公転にともなって貫通孔62が移動する回転軌跡Rに対して直交する向きに延びているので、中間圧溝61と貫通孔62とを最も短い時間で確実に連通させることができる。これにより、所望の中間圧を背圧室63に導入することができ、脈動をおさえて安定した中間圧を導入することができる。しかも、1回転あたりの導入体積を最も小さくすることができ、デッドボリュームを最も少なくすることができる。
【0068】
(5)
さらに、実施形態のスクロール圧縮機1では、図2に示されるように、中間圧溝61は、固定スクロール24のラップ24bの最も外側から1周分内側の間に形成されているので、スラスト損失が少なく、可動スクロール26が転覆しない中間圧を確実に得ることができ、また、中間圧溝61を他の部分と干渉しない位置に確実に形成することが可能である。
【0069】
<実施形態の変形例>
(A)
上記実施形態のスクロール圧縮機1では、円形断面の貫通孔62(図3参照)が可動スクロール26の鏡板26aに形成された例が、本発明はこれに限定されるものではなく、種々の形状の貫通孔を採用しても良く、例えば、図6に示されるように、長円形断面の貫通孔62を採用しても良い。この場合、脈動を抑えて、中間圧の追随性を良くすることが可能である。
【0070】
とくに、中間圧を導入するための貫通孔62の形状を長穴にすることで連通時間を増やさずに中間圧の追随性をさらに良くすることができる。
【0071】
(B)
さらに他の変形例として、図7に示されるように、貫通孔62の個数を複数にしてもよい。2個以上の貫通孔62は、中間圧溝61に同時に連通可能するように配置されている。この場合も、脈動を抑えて、中間圧の追随性を良くすることが可能である。
【0072】
しかも、貫通孔62を複数にすることで連通時間を増やさずに中間圧の追随性をさらに良くすることができる。
なお、上記変形例(A)のような長穴を複数個形成しても良い。
【0073】
(C)
また、固定スクロール24および可動スクロール26のスクロール形状を平たく扁平にして径を大きくすることで貫通孔62の形成位置の自由度を向上させ、中間圧の導入位置の制限が少なくなるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は、可動スクロールの背圧室に中間圧を間欠的に導入するスクロール圧縮機に種々適用することが可能である。
【符号の説明】
【0075】
1 スクロール圧縮機
24 固定スクロール
24a 鏡板
24b ラップ
26 可動スクロール
26a 鏡板
26b ラップ
40 圧縮室
61 中間圧溝(凹部)
62 貫通孔
63 背圧室
【先行技術文献】
【特許文献】
【0076】
【特許文献1】特許第2707517号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれの鏡板(24a、26a)の一方の面に螺旋状のラップ(24b、26b)が設けられた固定スクロール(24)および可動スクロール(26)を備えており、
前記固定スクロール(24)のラップ(24b)と前記可動スクロール(26)のラップ(26b)とが互いに組み合されることにより、隣接する前記固定スクロール(24)のラップ(24b)と前記可動スクロール(26)のラップ(26b)との間に圧縮室(40)が形成され、
前記可動スクロール(26)の鏡板(26a)における前記ラップ(26b)が形成された側と反対側には、背圧室(63)が形成され、
前記固定スクロール(24)の鏡板(24a)における前記ラップ(26b)が形成された側の面には、前記圧縮室(40)と連通可能な少なくとも1個の凹部(61)が形成され、
前記可動スクロール(26)の鏡板(26a)には、前記凹部(61)と前記背圧室(63)との間を間欠的に連通することが可能な少なくとも1個の貫通孔(62)が、前記可動スクロール(26)の鏡板(26a)の厚さ方向に貫通して形成されている、
スクロール圧縮機(1)。
【請求項2】
前記凹部(61)は、前記可動スクロール(26)の公転にともなって前記貫通孔(62)が移動する軌跡に対して交差する向きに延びる溝である、
請求項1に記載のスクロール圧縮機(1)。
【請求項3】
前記溝は、前記可動スクロール(26)の公転にともなって前記貫通孔(62)が移動する軌跡に対して直交する向きに延びる、
請求項2に記載のスクロール圧縮機(1)。
【請求項4】
前記貫通孔(62)は、長穴状の断面を有する、
請求項1から3のいずれかに記載のスクロール圧縮機(1)。
【請求項5】
前記貫通孔(62)は、複数個形成されており、
2個以上の前記貫通孔(62)は、前記凹部(61)に同時に連通可能である、
請求項1から4のいずれかに記載のスクロール圧縮機(1)。
【請求項6】
前記凹部(61)は、前記固定スクロール(24)のラップ(24a)の最も外側から
1周分内側の間に形成されている、
請求項1から5のいずれかに記載のスクロール圧縮機(1)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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