説明

スクロール圧縮機

【課題】近年の冷凍空調機器の高効率化に伴い、スクロール圧縮機における背圧室でのオイル圧縮による動力損失低減と背圧室への漏れ低減が課題となっていた。
【解決手段】主軸受部材11の内周部に、主軸受部材11の固定スクロール12との締結面11bにおける内周部の内径D1よりも大きいD2を内径とした凹部85を設けることにより、高圧部から背圧室29へのシール長さを十分に確保しつつ、主軸受部材11の内周部11cに設けた凹部85によって、旋回スクロール13の鏡板13aの外周部と主軸受部材11の内周部11cが接近することによって生じるオイルを圧縮する動力損失を低減することができ、圧縮機全体の小型化、軽量化が可能で、かつ高効率で高信頼性を実現することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷暖房空調装置や冷蔵庫等の冷却装置、あるいはヒートポンプ式の給湯装置等に用いられるスクロール圧縮機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、冷凍空調機や冷凍機に用いられるスクロール圧縮機は、一般に、鏡板から渦巻きラップが立ち上がる固定スクロール及び旋回スクロールを噛み合わせて双方間に圧縮室を形成し、旋回スクロールを自転拘束機構による自転の拘束のもとに円軌道に沿って旋回させたとき、圧縮室が容積を変えながら移動することで、吸入、圧縮、吐出を行うものである。ここで、旋回スクロールは、固定スクロールと主軸受部材を締結することによって、支持されており、運転中、旋回スクロールにはその背面の背圧室にオイルを供給することにより圧力が印加され、固定スクロールに張り付いた状態となっており、軸方向の密封を保っている。また、旋回スクロールの鏡板外周部は、主軸受部材の内周部に接近しながら旋回運動するため、背圧室のオイルを圧縮することによる動力損失が発生する。その動力損失を低減するため、主軸受部材の内周部に溝等を設ける構成をとっていた(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図8は、特許文献1に記載された従来のスクロール圧縮機の圧縮機構部断面図である。主軸受部材11に溝90を設けており、この構成により、旋回スクロール13の鏡板外周部が主軸受部材11に接近しても、溝90によりオイルを逃がすことができるため、背圧室29のオイルを圧縮することによる動力損失の低減を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平3−229984号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特開平3−229984号公報に記載されているような従来の構成では、主軸受部材11の固定スクロール12との締結面11bに溝90を設けているため、主軸受部材11の外側の高圧部と内側である背圧室29とのシール長さが小さくなり、背圧室29に高圧の冷媒ガスが流入することにより、背圧室29の圧力が過大になる恐れがある。
【0006】
すなわち、旋回スクロール13の背面に過剰な圧力が印加することで固定スクロール12との軸方向の摺動面(スラスト面)には過大な押し付け力が発生するため、摺動損失増大による性能悪化やかじりや異常磨耗等の信頼性悪化を引き起こすことになる。
【0007】
また、背圧室29に圧縮した冷媒ガスが流入するため、再圧縮による動力が発生し、性能悪化を引き起こしてしまう。
【0008】
また、主軸受部材11の固定スクロール12との締結面11bに溝90を設けているため、主軸受部材11の強度低下により、主軸受部材11と固定スクロール12をボルト締結した時の主軸受部材11の変形および、運転中の圧力による主軸受部材11の変形が大きく、高圧が高い高負荷運転時や高圧冷媒を用いた場合、旋回スクロール13の鏡板が主軸受部材11と固定スクロール12の間で接触し、かじりや異常摩耗等の信頼性悪化を引き起こすこととなる。
【0009】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、主軸受部材の小径化を図り、かつ主軸受部材と固定スクロールの締結面での冷媒ガスの漏れを抑制するとともに、旋回スクロールの鏡板外周部と主軸受部材の内周部が接近することによって生じるオイルを圧縮する動力損失を低減することにより、圧縮機全体の小型化、軽量化が可能で、高効率、高信頼性を実現するスクロール圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
少なくとも旋回スクロールの鏡板外周部における厚みの範囲において、主軸受部材の内周部の内径を主軸受部材の固定スクロールとの締結面における内周部の内径よりも大きくしたものである。
【0011】
この構成により、主軸受部材の小径化を図り、かつ主軸受部材と固定スクロールの締結面での冷媒ガスの漏れを抑制できるとともに、旋回スクロールの鏡板外周部と主軸受部材の内周部が接近することによって生じるオイルを圧縮する動力損失を低減することにより、圧縮機全体の小型化、軽量化が可能で、高効率、高信頼性を実現することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明のスクロール圧縮機は、主軸受部材の小径化を図り、かつ主軸受部材と固定スクロールの締結面での冷媒ガスの漏れを抑制できるとともに、旋回スクロールの鏡板外周部と主軸受部材の内周部が接近することによって生じるオイルを圧縮する動力損失を低減することにより、圧縮機全体の小型化、軽量化が可能で、高効率で高信頼性を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施の形態1におけるスクロール圧縮機の断面図
【図2】本発明の実施の形態1におけるスクロール圧縮機の圧縮機構部の断面図
【図3】本発明の実施の形態1におけるスクロール圧縮機の旋回スクロールのラップ方向から見た正面図
【図4】本発明の実施の形態1におけるスクロール圧縮機の第1及び第2の経路の連通状態図
【図5】本発明の実施の形態2におけるスクロール圧縮機の圧縮機構部の断面図
【図6】本発明の実施の形態3におけるスクロール圧縮機の圧縮機構部の断面図
【図7】本発明の実施の形態3におけるスクロール圧縮機の圧縮機構部の断面図
【図8】従来のスクロール圧縮機の断面図
【発明を実施するための形態】
【0014】
第1の発明は、スクロール圧縮機において、鏡板から渦巻きラップが立ち上がる固定スクロール及び旋回スクロールを噛み合わせて双方間に圧縮室を形成し、旋回スクロールを自転拘束機構による自転の拘束のもとに円軌道に沿って旋回させたとき圧縮室が容積を変えながら移動することで、吸入、圧縮、吐出を行い、前記旋回スクロールの鏡板背面部を微小な隙間を持って略支持する背面規制部と、旋回スクロールを旋回させたときに、旋回スクロールの外周部が近接する内周部を有する主軸受部材と、固定スクロールと主軸受部材を締結することにより、旋回スクロールを支持し、旋回スクロール背面に吐出圧力雰囲気の高圧領域と背圧室を形成したスクロール圧縮機において、少なくとも旋回スクロールの鏡板外周部における厚みの範囲において、主軸受部材の内周部の内径を主軸受部材の固定スクロールとの締結面における内周部の内径よりも大きくしたものである。
【0015】
これによって、主軸受部材の小径化を図りつつ、高圧部から背圧室へのシール長さを十分に確保できるため、主軸受部材と固定スクロールの締結面での冷媒ガスの漏れを抑制で
きるとともに、少なくとも旋回スクロールの鏡板外周部における厚みの範囲において、主軸受部材の内周部の内径を、主軸受部材と固定スクロールの締結面での主軸受部材の内周部の内径よりも大きくすることにより旋回スクロールの鏡板外周部と主軸受部材の内周部が接近することによって生じるオイルを圧縮する動力損失を低減することができ、圧縮機全体の小型化、軽量化が可能で、かつ高効率で高信頼性を実現することができる。
【0016】
第2の発明は、特に、第1の発明において、主軸受部材の固定スクロールとの締結面における内周部の内径よりも大きくした凹部を主軸受部材の内周部に設けたものである。
【0017】
これによって、高圧部から背圧室へのシール長さを十分に確保しつつ、主軸受部材の内周部に設けた凹部によって、旋回スクロールの鏡板外周部と主軸受部材の内周部が接近することによって生じるオイルを圧縮する動力損失を低減することができ、圧縮機全体の小型化、軽量化が可能で、かつ高効率で高信頼性を実現することができる。また、簡単構成で加工工数を削減できるため、より低コストで高効率なスクロール圧縮機を提供することができる。
【0018】
第3の発明は、特に、第1の発明において、主軸受部材の内周部に、主軸受部材と固定スクロールの締結面から主軸受部材の背面規制部の方向に内径が大きくなるような傾斜を設けたものである。
【0019】
これによって、旋回スクロールが旋回運動したときに、旋回スクロールの鏡板外周部と主軸受部材の内周部が接近することによってオイルが圧縮されずに、効果的に、主軸受部材の背面規制部の方向つまり、背圧室の空間にオイルが逃がされるため、オイルが圧縮することによる動力損失を低減し、高効率で高信頼性を実現することができる。
【0020】
第4の発明は、特に、第1から3のいずれか1つの発明において、少なくとも主軸受部材の内周部と自転拘束機構が接近する範囲において、主軸受部材の内周部の内径を主軸受部材の固定スクロールとの締結面における内周部の内径よりも大きくしたものである。
【0021】
これによって、主軸受部材の内周部と自転拘束機構が接近しても、主軸受部材の内周部の内径を主軸受部材の固定スクロールとの締結面における内周部の内径よりも大きくしているため、オイルを圧縮することがなく、オイル圧縮による動力損失を低減することができ、圧縮機全体の小型化、軽量化が可能で、かつ高効率で高信頼性を実現することができる。
【0022】
第5の発明は、特に、第1から4のいずれか1つの発明において、高圧領域と背圧室を間欠的に連通させる第1の経路と、背圧室と前記圧縮室を間欠的に連通させる経路を設け、第1の経路の連通タイミングと第2の経路の連通タイミングが異なるものである。
【0023】
これによって、第1の経路によって高圧領域から背圧室に間欠に連通している時は、オイルが背圧室に供給され、その後、そのオイルが、第2の経路によって、背圧室から圧縮室へ間欠的に供給されるため、背圧室にオイルが常に充満している状態となる。
【0024】
そのような場合においても、第1から第4の発明により、特に効果的に、オイルを圧縮することによる動力損失を低減することができ、高効率で高信頼性なスクロール圧縮機を実現することができる。
【0025】
第6の発明は、特に、第1から5のいずれか1つの発明において、作動流体を、高圧冷媒、例えば二酸化炭素としたものである。二酸化炭素冷媒を使用する場合、圧縮機の吐出圧力と吸入圧力の圧力差は、フロンを冷媒とする従来の冷凍サイクルの圧力差の約7〜1
0倍以上高い。そのため、高圧領域から背圧室および高圧領域から圧縮室の差圧も大きいため、多量のオイルが流入しやすく、背圧室にオイルが充満した状態となるが、第1から5の発明により、特に効果的に、オイルを圧縮することによる動力損失を低減することができ、高効率で高信頼性なスクロール圧縮機を実現することができる。また、高圧領域と背圧室との差圧が大きいことにより、主軸受部材と固定スクロールとの締結面でのシールが十分でないと、高圧領域と背圧室との差圧が大きいことにより漏れが発生し、背圧室の圧力が過大となるが、第1から第5の発明により、主軸受部材と固定スクロールとの締結面でのシールを十分にとれる構成であるため、差圧が大きな場合でも、締結面での漏れにより背圧室の圧力が過大になることなく、安定した背圧の印加を実現でき、高効率で高信頼性なスクロール圧縮機を実現することができる。
【0026】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0027】
(実施の形態1)
図1は本発明の第1の実施の形態に係わるスクロール圧縮機の縦断面図、図2は本発明の第1の実施の形態におけるスクロール圧縮機の圧縮機構部の断面図、図3は本発明の第1の実施の形態におけるスクロール圧縮機の図2(a)の旋回スクロールのラップ方向から見た正面図である。
【0028】
図1に示すように、本発明のスクロール圧縮機は、密閉容器1内に溶接や焼き嵌めなどして固定したクランク軸4の主軸受部材11と、この主軸受部材11上にボルト止めした固定スクロール12との間に、固定スクロール12と噛み合う旋回スクロール13を挟み込んでスクロール式の圧縮機構2を構成している。
【0029】
以上のように構成されたスクロール圧縮機について、以下その動作、作用を説明する。
【0030】
旋回スクロール13と主軸受部材11との間に旋回スクロール13の自転を防止して円軌道運動するように案内するオルダムリングなどによる自転規制機構14を設けて、クランク軸4の上端にある偏心軸部4aにて旋回スクロール13を偏心駆動することにより旋回スクロール13を円軌道運動させ、これにより固定スクロール12と旋回スクロール13との間に、固定スクロール12のラップ12b外壁と旋回スクロール13のラップ13bの内壁と固定スクロール12のラップ12b内壁と旋回スクロール13のラップ13bの外壁に圧縮室15を形成し、その圧縮室15のそれぞれが外周側から中央部に移動しながら小さくなるのを利用して、密閉容器1外に通じた吸入パイプ16および固定スクロール12の外周部の吸入口17から冷媒ガスを吸入して圧縮していき、所定圧以上になった冷媒ガスは固定スクロール12の中央部の吐出口18からリード弁19を押し開いて密閉容器1内に吐出させることを繰り返す。
【0031】
旋回スクロール13には、アルミ系材料、固定スクロール12には、鉄系材料、主軸受部材には、鉄系材料を使用している。
【0032】
旋回スクロール13のラップ底面13cには、運転中の温度分布を測定した結果をもとに、中心部である巻き始め部から外周部である巻き終わり部にかけて、徐々にハネ高さが高くなるようにスロープ形状が設けられている。これにより熱膨張による寸法変化を吸収し、局所摺動を防止することができる。
【0033】
また、吸入圧力と吐出圧力との差圧が大きく、吐出される冷媒の温度も高い高負荷運転条件において、主軸受部材11と旋回スクロール13が圧力および温度変形しても、旋回スクロール13の鏡板背面と、主軸受部材11の旋回スクロール13の鏡板背面との背面
規制部11aとが接触することによって焼き付かないように、組立時に適正量の微小な隙間を設けている。
【0034】
そして、旋回スクロール13の背面部分には、主軸受部材11に配置されている摺動仕切り環78があり、旋回運動を行いながら摺動仕切り環78により、摺動仕切り環78の内側領域である吐出圧力雰囲気の高圧領域30と、外側領域である高圧と低圧の中間圧に設定された背圧室29とに仕切られている。この背面の圧力付加により旋回スクロール13は固定スクロール12に安定的に押しつけられ、漏れを低減するとともに安定して円軌道運動を行うことができる。
【0035】
圧縮機運転中は、クランク軸4の下向きの他端にはポンプ25が設けられ、スクロール圧縮機と同時に駆動される。これによりポンプ25は密閉容器1の底部に設けられたオイル溜め20にあるオイル6を吸い上げてクランク軸4内を通縦しているオイル供給穴26を通じて圧縮機構2に供給する。
【0036】
このときの供給圧は、スクロール圧縮機の吐出圧力とほぼ同等であり、旋回スクロール13に対する背圧源ともなる。これにより、旋回スクロール13は固定スクロール12から離れたり片当たりしたりするようなことはなく、所定の圧縮機能を安定して発揮する。
【0037】
このように供給されたオイル6の一部は、供給圧や自重によって、逃げ場を求めるようにして偏心軸部4aと旋回スクロール13との嵌合部、クランク軸4と主軸受部材11との間の軸受部66に進入してそれぞれの部分を潤滑した後落下し、オイル溜め20へ戻る。
【0038】
旋回スクロール13の鏡板13aの背面の高圧領域30に供給されたオイル6の別の一部を、旋回スクロール13の旋回運動によって摺動仕切り環78をまたいで、間欠的に背圧室29へ給油する第1の経路81を旋回スクロール13に設けている。
【0039】
図2のように、旋回スクロール13は、旋回運動に伴い、図の(a)、(b)の状態を繰り返す。この時、旋回スクロール13の鏡板13aの背面において、環状仕切り環78の内側が高圧領域30を形成し、その外周部は背圧室29を形成している。
【0040】
したがって、第1の経路81の背圧室側の開口部81bが環状仕切り環78の外周部に位置する場合のみ高圧領域30と背圧室29が連通され、高圧のオイル6が背圧室29に供給される。図においては、オイル6が供給可能となるのは(a)の状態である。
【0041】
上記構成により、背圧室29への高圧のオイル6の供給が間欠的になされ、連通時間を調整することにより背圧室29へ適量のオイルを供給することが可能となり、自転規制機構14の摺動部を潤滑するのに併せ、背圧室29にて旋回スクロール13の背圧を印加する。
【0042】
また、背圧室29と圧縮室15を連通するように、第2の経路82は、背圧室側の開口部82aを、旋回スクロール13の鏡板13aの外周部に設け、旋回スクロール13の内部を経て、ラップ先端13dから圧縮室側に開口するように設けるとともに、旋回スクロール13の旋回運動によって、第2の経路82の圧縮室15側の開口部82bが間欠的に開口するように、固定スクロール12のラップ溝底面12cに凹部84を設けている。
【0043】
図2に示す構成の場合、第2の経路82の他方の開口部82bを、固定スクロール12のラップ溝底面12cに形成された凹部84に周期的に開口させることで、間欠連通を実現させている。
【0044】
図2の(b)の状態で開口部82bが凹部84に開口しており、この状態では第2の経路82を通って背圧室29から圧縮室15へとオイルが供給される。これに対し(a)では、開口部82bが凹部84に開口していないため、背圧室29から圧縮室15へとオイルが供給されることはない。
【0045】
以上のことから、第1の経路81を通って背圧室29に進入したオイル6は、第2の経路82を通って圧縮室15へと導かれ、圧縮時のシール性向上や潤滑性向上の役割を果たす。
【0046】
ここで、第1の経路81と第2の経路82の連通状態について説明する。図4は旋回スクロール13の回転位相に対して、第1の経路81と第2の経路82の連通状態を示している。
【0047】
図4に示すように、1回転のうち第1の経路81が高圧領域30から背圧室29へ連通している区間のタイミングと、第2の経路82が背圧室29から圧縮室15に連通している区間のタイミングを異なるように設定する。
【0048】
この構成によると、第1の経路81によって高圧領域30から背圧室29に間欠に連通している時は、オイルが背圧室29に供給され、その後、第2の経路82によって、異なる連通タイミングで背圧室29から圧縮室15へ間欠的に供給されるため、高圧領域30と圧縮室15が第1の経路81と第2の経路82によって、連通状態にならず、背圧室29にオイルが常に充満している状態となる。
【0049】
よって、圧縮機が停止しても、オイル溜め20にあるオイル6が停止時の差圧により、圧縮室へ供給されることがなく、オイル溜め20のオイル6を確保することができるため、圧縮機が再度運転しても、オイル溜め20のオイル6により、圧縮時のシール性向上や潤滑性向上の役割を果たすことができる。
【0050】
また、上記構成により、背圧室29と圧縮室15bが短い時間で間欠的に連通できるため、背圧室29の圧力を、変動の少ない所定の圧力に維持することが容易となる。
【0051】
ここで、上記記述では、第2の経路82が片方の圧縮室15に間欠に連通しているが、もう一方の圧縮室に連通したり、両方の圧縮室に連通しても、同様の効果があることは言うまでもない。
【0052】
また、図に示すように、主軸受部材11の内周部11cに、主軸受部材11の固定スクロール12との締結面11bにおける内周部11cの内径D1よりも大きいD2を内径とした凹部85を設けている。
【0053】
上述した実施の形態では、特に、背圧室29にオイルが充満した状態であり、その背圧室29のオイル中を旋回スクロール13が旋回運動している。通常、旋回スクロール13の鏡板13aの外周部と主軸受部材11の内周部11cは、接近することにより、オイルを圧縮し、その圧縮動力により損失が発生するが、主軸受部材11の内周部11cに、主軸受部材11の固定スクロール12との締結面11bにおける内周部11cの内径D1よりも大きいD2を内径とした凹部85を設けているため、旋回スクロール13の鏡板13aの外周部と主軸受部材11の内周部11cが近接しても凹部85にオイルが逃げ、旋回スクロール13の鏡板13aの背面側の背圧室29に導かれるため、オイルを圧縮する動力損失を低減することができる。
【0054】
また、主軸受部材11の締結面のシール長は確保できる構成であるため、差圧が大きな場合でも、主軸受部材11の外側領域の高圧の冷媒ガスが背圧室29へ漏れることによって生じる背圧室の圧力の増大を抑制し、安定した背圧の印加を実現でき、高効率で高信頼性なスクロール圧縮機を実現することができる。
【0055】
また、凹部85は、簡単構成で加工工数を削減できるため、より低コストでかつ高効率なスクロール圧縮機を提供することができる。
【0056】
(実施の形態2)
図5を用いて、本発明の第2の実施の形態について説明する。図5は、本発明の第2の実施の形態に係るスクロール圧縮機の圧縮機構部の断面図を示す。図に示すように、主軸受部材11の内周部11cに、主軸受部材11と固定スクロール12の締結面11bから主軸受部材11の背面規制部11aの方向に内径が大きくなるような傾斜86を設けたものである。
【0057】
これによって、旋回スクロール13が旋回運動したときに、旋回スクロール13の鏡板13aの外周部と主軸受部材11の内周部11cが接近することによってオイルが圧縮されずに、効果的に、主軸受部材11の背面規制部11aの方向つまり、背圧室29の空間にオイルが逃がされるため、オイルが圧縮することによる動力損失を低減し、高効率で高信頼性を実現することができる。
【0058】
更に、主軸受部材11の内周部11cに、主軸受部材11と固定スクロール12の締結面11bから主軸受部材11の背面規制部11aの方向に内径が大きくなるような傾斜86を設け、かつ主軸受部材11の固定スクロール12との締結面11bにおける内周部11cの内径よりも大きい内径とした凹部85を設けても、上述する同様の効果が得られることは言うまでもない(図示せず)。
【0059】
(実施の形態3)
図6を用いて、本発明の第3の実施の形態について説明する。図6は、本発明の第3の実施の形態に係るスクロール圧縮機の圧縮機構部の断面図を示す。図に示すように、少なくとも主軸受部材11の内周部11cと自転規制機構14が接近する範囲において、主軸受部材11の内周部11cの内径を主軸受部材11の固定スクロール12との締結面11bにおける内周部11cの内径よりも大きくした凹部85を設けている。
【0060】
これによって、主軸受部材11の内周部11cと自転規制機構14が接近しても、主軸受部材11の内周部11cの内径を主軸受部材11の固定スクロール12との締結面11bにおける内周部11cの内径よりも大きくしているため、オイルを圧縮することがなく、オイル圧縮による動力損失を低減することができ、圧縮機全体の小型化、軽量化が可能で、かつ高効率で高信頼性を実現することができる。
【0061】
また、図7に示すように、主軸受部材11の内周部11cに、主軸受部材11と固定スクロール12の締結面11bから主軸受部材11の背面規制部11aの方向に内径が大きくなるような傾斜86を設けているが、上述する同様の効果が得られることは言うまでもない。
【0062】
更に、主軸受部材11の内周部11cに、主軸受部材11と固定スクロール12の締結面11bから主軸受部材11の背面規制部11aの方向に内径が大きくなるような傾斜86を設け、かつ主軸受部材11の固定スクロール12との締結面11bにおける内周部11cの内径よりも大きい内径とした凹部85を設けても、上述する同様の効果得られることは言うまでもない(図示せず)。
【0063】
最後に、作動流体を、高圧冷媒、例えば二酸化炭素とした場合、吐出圧力と吸入圧力の差圧が大きいため、高圧領域から背圧室の差圧も大きく、多量のオイルが流入しやすく、また、主軸受部材の外側の高圧から背圧室29へ冷媒ガスの漏れが生じやすくなるが、本発明の実施の形態を用いることにより、特に効果が顕著に現れ、高効率、高信頼性を実現するスクロール圧縮機を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
以上のように、本発明にかかるスクロール圧縮機は、あらゆる運転条件下においても、高効率、高信頼性を実現することがき、作動流体を冷媒と限ることなく、空気スクロール圧縮機、真空ポンプ、スクロール型膨張機等のスクロール流体機械の用途にも適用できる。
【符号の説明】
【0065】
6 オイル
11 主軸受部材
11a 背面規制部
11b 締結面
11c 内周部
12 固定スクロール
12a 鏡板
12b ラップ
12c ラップ溝底面
12d ラップ先端部
13 旋回スクロール
13a 鏡板
13b ラップ
13c ラップ底面
14 自転規制機構
15、圧縮室
29 背圧室
30 高圧領域
81 第1の経路
81a 高圧領域側開口部
81b、82a 背圧室側の開口部
82 第2の経路
82b 開口部
84 凹部
85 凹部
86 傾斜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鏡板から渦巻きラップが立ち上がる固定スクロール及び旋回スクロールを噛み合わせて双方間に圧縮室を形成し、旋回スクロールを自転拘束機構による自転の拘束のもとに円軌道に沿って旋回させたとき圧縮室が容積を変えながら移動することで、吸入、圧縮、吐出を行い、前記旋回スクロールの鏡板背面部を微小な隙間を持って略支持する背面規制部と、前記旋回スクロールを旋回させたときに、前記旋回スクロールの外周部が近接する内周部を有する主軸受部材と、前記固定スクロールと前記主軸受部材を締結することにより、前記旋回スクロールを支持し、前記旋回スクロール背面に吐出圧力雰囲気の高圧領域と背圧室を形成したスクロール圧縮機において、少なくとも前記旋回スクロールの鏡板外周部における厚みの範囲において、前記主軸受部材の内周部の内径を前記主軸受部材の前記固定スクロールとの締結面における内周部の内径よりも大きくしたスクロール圧縮機。
【請求項2】
前記主軸受部材の前記固定スクロールとの締結面における内周部の内径よりも大きくした凹部を前記主軸受部材の内周部に設けた請求項1に記載のスクロール圧縮機。
【請求項3】
前記主軸受部材の内周部に、前記主軸受部材と前記固定スクロールの締結面から前記主軸受部材の背面規制部の方向に内径が大きくなるような傾斜を設けた請求項1に記載のスクロール圧縮機。
【請求項4】
少なくとも前記主軸受部材の内周部と前記自転拘束機構が接近する範囲において、前記主軸受部材の内周部の内径を前記主軸受部材の前記固定スクロールとの締結面における内周部の内径よりも大きくした請求項1〜3のいずれか1項に記載のスクロール圧縮機。
【請求項5】
前記高圧領域と前記背圧室を間欠的に連通させる第1の経路と、前記背圧室と前記圧縮室を間欠的に連通させる第2の経路を設け、前記第1の経路の連通タイミングと前記第2の経路の連通タイミングが異なる請求項1〜4のいずれか1項に記載のスクロール圧縮機。
【請求項6】
作動流体を、高圧冷媒、例えば二酸化炭素としてなる請求項1から5のいずれか1項に記載のスクロール圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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