説明

スクロール圧縮機

【課題】リリーフポートからの吐出時の圧損を低減して効率の向上を図るとともに、リリーフ弁の数を最小限に抑えて構成の複雑化を回避しつつ、その配置の自由度を高めることができるスクロール圧縮機を提供することを目的とする。
【解決手段】吐出ポートの外周側に圧縮室を吐出チャンバー16に連通する複数孔群からなるリリーフポート31Aが設けられているスクロール圧縮機において、固定スクロール16の端板端面の少なくとも複数孔群のリリーフポート31Aが開口されている部分に対応してプレート部材を設け、該プレート部材と固定スクロール16の端板端面との間に、リリーフポート31Aの複数孔群を1つに集約し、該リリーフポート31A位置から離れた位置で吐出チャンバーに連通する単一のリリーフ流路37を形成するとともに、該リリーフ流路37の吐出チャンバーへの開口部39にリリーフ弁34Aを設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定スクロールの端板中心部に吐出ポートを備え、該吐出ポートよりも外周側に複数のリリーフポートが設けられているスクロール圧縮機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スクロール圧縮機は、吸入締切り時の圧縮室容積と圧縮終了時の圧縮室容積との比によって決まる設計圧縮比が一定であることが知られている。従って、特定の吸入圧力および吐出圧力となる一つの運転条件に対しては、最適な設計圧縮比を設定し、高効率で運転することができる。しかし、高低圧差が小さくなる運転条件やインバータによる高Hz運転条件下では、いわゆる過圧縮現象が生じてしまい、圧縮動力の増加によって圧縮効率が低下するという問題が発生する。また、いわゆる液圧縮現象が生じた場合、圧力の異常上昇による入力の増大や過大な振動、騒音が惹起される等の問題が発生する。
【0003】
そこで、過圧縮や液圧縮を回避すべく、固定スクロールの端板中心部に設けられている吐出ポートに加えて、渦巻き状ラップの渦巻き方向に沿う外周側位置に圧縮室と吐出チャンバーとを連通するリリーフポートを設け、該リリーフポートを介して圧縮途中のガスや液を吐出チャンバーにリリーフすることにより、過圧縮や液圧縮を防止するようにしたスクロール圧縮機が提供されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、リリーフポートを有するスクロール圧縮機において、必要なリリーフポート面積を確保すべく、リリーフポートを渦巻き状ラップの渦巻き方向に沿って穿設した複数孔群のポートにより構成するとともに、その複数孔群のリリーフポートを1つに集約し、それに対して共通のリリーフ弁を設けることにより、リリーフ弁の数の増加による弁設置の困難性や構成の複雑化を解消したものが特許文献2,3等により提示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−170574号公報
【特許文献2】特開2008−286095号公報
【特許文献3】特開2011−102579号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献2,3の如く、複数孔群からなるリリーフポートを1つに集約し、それに対して共通のリリーフ弁を設けた構成とすることにより、必要なリリーフポート面積を確保することができるとともに、リリーフ弁数の増加を抑制し、構成の複雑化を避けることができる。しかしながら、特許文献2,3のものでは、リリーフポートの位置に対応してその位置にリリーフ弁を設置しなければならず、リリーフ弁の設置位置がリリーフポート位置によって制約されるため、リリーフ弁の配置に自由度がないという課題があった。
【0007】
特に、複数孔群からなるリリーフポートを、固定スクロールの渦巻き状ラップの渦巻き方向に沿って異なる旋回角位置の少なくとも2箇所以上の位置に設置する場合、渦巻き状ラップの腹側に設けられるリリーフポートと、背側に設けられるリリーフポートとが互いに接近し、リリーフ弁の設置が難しくなるケースが想定されるため、リリーフ弁の配置構成に関して、設計の自由度を確保することが重要となる。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、リリーフポートからの吐出時の圧損を低減して効率の向上を図るとともに、リリーフ弁の数を最小限に抑えて構成の複雑化を回避しつつ、その配置の自由度を高めることができるスクロール圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した課題を解決するために、本発明のスクロール圧縮機は以下の手段を採用する。
すなわち、本発明にかかるスクロール圧縮機は、固定スクロールと旋回スクロールとにより圧縮室を形成し、該圧縮室で圧縮されたガスを前記固定スクロールの端板中心部に設けられている吐出ポートを経て吐出チャンバーに吐出するとともに、前記吐出ポートの外周側に前記圧縮室と前記吐出チャンバーとを連通する複数孔群からなるリリーフポートが設けられているスクロール圧縮機において、前記固定スクロールの端板端面の少なくとも前記複数孔群のリリーフポートが開口されている部分に対応してプレート部材を設け、該プレート部材と前記固定スクロールの端板端面との間に、前記リリーフポートの複数孔群を1つに集約し、該リリーフポート位置から離れた位置で前記吐出チャンバーに連通する単一のリリーフ流路を形成するとともに、該リリーフ流路の前記吐出チャンバーへの開口部にリリーフ弁を設けたことを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、吐出ポートの外周側に圧縮室を吐出チャンバーに連通する複数孔群からなるリリーフポートが設けられているスクロール圧縮機において、固定スクロールの端板端面の少なくとも複数孔群のリリーフポートが開口されている部分に対応してプレート部材を設け、該プレート部材と固定スクロールの端板端面との間に、リリーフポートの複数孔群を1つに集約し、該リリーフポート位置から離れた位置で吐出チャンバーに連通する単一のリリーフ流路を形成するとともに、該リリーフ流路の吐出チャンバーへの開口部にリリーフ弁を設けた構成としているため、必ずしも複数孔群からなるリリーフポートが設けられている位置に対応してリリーフ弁を設置する必要がなく、リリーフポート位置から離れた位置に複数孔群からなるリリーフポートに対して共通する1個のリリーフ弁を設置すればよく、限られたスペースを有効に利用してリリーフ弁を設置することができるとともに、複数孔群のリリーフポートによって必要な大きさのポート面積を確保することができる。従って、リリーフポートからの吐出時の吐出圧損を低減して効率の向上を図ることができるとともに、リリーフ弁の数を最小限に抑えて構成の複雑化を回避しつつ、リリーフ弁の配置の自由度を高め、限られたスペースに設けられるリリーフ弁の設置を容易化することができる。
【0011】
さらに、本発明のスクロール圧縮機は、上記のスクロール圧縮機において、前記リリーフ流路は、前記リリーフポートの複数孔群を1つに集約する集約部が前記固定スクロールの端板端面側に設けられ、前記吐出チャンバーへの開口部が前記プレート部材側に設けられていることを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、リリーフ流路におけるリリーフポートの複数孔群を1つに集約する集約部が固定スクロールの端板端面側に設けられ、吐出チャンバーへの開口部がプレート部材側に設けられているため、リリーフポートの複数孔群を1つに集約する集約部を固定スクロールの端板側に設けることにより、プレート部材側には、吐出チャンバーへの開口部を設けるだけでよく、従って、プレート部材の板厚を比較的薄くすることができる等、その構成を簡略化することができる。
【0013】
さらに、本発明のスクロール圧縮機は、上記のスクロール圧縮機において、前記リリーフ流路は、前記リリーフポートの複数孔群を1つに集約する集約部および前記吐出チャンバーへの開口部の全てが前記プレート部材側に設けられていることを特徴とする。
【0014】
本発明によれば、リリーフ流路におけるリリーフポートの複数孔群を1つに集約する集約部および吐出チャンバーへの開口部の全てがプレート部材側に設けられているため、リリーフ流路の全てをプレート部材側に纏めて設けることにより、リリーフ流路の設置および加工を全てプレート部材側に集約化することができる。従って、固定スクロール側に対しては、リリーフポートを設けるだけでよく、特に構造を変更せずにそのまま使用することができる。
【0015】
さらに、本発明のスクロール圧縮機は、上述のいずれかのスクロール圧縮機において、前記固定スクロールの端板端面と前記プレート部材とのシール面は、相互に金属接触構造とされ、シール材レス化されていることを特徴とする。
【0016】
本発明によれば、固定スクロールの端板端面とプレート部材とのシール面が、相互に金属接触構造とされ、シール材レス化されているため、リリーフポートとリリーフ流路との接続部を含む固定スクロールの端板端面とプレート部材間のシール面を、シール材の設置を省略したシール材レス化構造とすることができる。従って、構造をシンプル化し、部品点数を減らして低コスト化することができる。
【0017】
さらに、本発明のスクロール圧縮機は、上述のいずれかのスクロール圧縮機において、前記複数孔群からなるリリーフポートは、前記固定スクロールおよび前記旋回スクロールにより180度位相をずらして形成される一対の前記圧縮室に対応してそれぞれ設けられるとともに、前記固定スクロールの渦巻き状ラップの渦巻き方向に沿って異なる旋回角位置の少なくとも2箇所以上の位置に設けられていることを特徴とする。
【0018】
本発明によれば、複数孔群からなるリリーフポートが、固定スクロールおよび旋回スクロールにより180度位相をずらして形成される一対の圧縮室に対応してそれぞれ設けられるとともに、固定スクロールの渦巻き状ラップの渦巻き方向に沿って異なる旋回角位置の少なくとも2箇所以上の位置に設けられているため、渦巻き状ラップの腹側に設けられるリリーフポートと、背側に設けられるリリーフポートとが互いに接近した位置に設けられたとしても、リリーフポート位置から離れた位置にリリーフ弁を設置することが可能なことから、それら複数組のリリーフ弁を容易に配置することができる。従って、リリーフポートの設け方をより多様化し、スクロール圧縮機の高性能化を図ることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によると、必ずしも複数孔群からなるリリーフポートが設けられている位置に対応してリリーフ弁を設置する必要がなく、リリーフポート位置から離れた位置に複数孔群からなるリリーフポートに対して共通する1個のリリーフ弁を設置すればよく、限られたスペースを有効に利用してリリーフ弁を設置することができ、また、複数孔群のリリーフポートにより必要な大きさのポート面積を確保することができるため、リリーフポートからの吐出時の吐出圧損を低減して効率の向上を図ることができるとともに、リリーフ弁の数を最小限に抑えて構成の複雑化を回避しつつ、リリーフ弁の配置の自由度を高め、限られたスペースに設けられるリリーフ弁の設置を容易化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1実施形態に係るスクロール圧縮機全体の縦断面図である。
【図2】図1のスクロール圧縮機の固定スクロールを渦巻き状ラップ側から見た状態の平面図である。
【図3】図2の固定スクロールに設けられる複数孔群のリリーフポート周りの構成を示す拡大図である。
【図4】図3のA−A断面相当図である。
【図5】本発明の第2実施形態に係るスクロール圧縮機の図4に対応した図3のA−A断面相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明にかかる実施形態について、図面を参照して説明する。
[第1実施形態]
以下、本発明の第1実施形態について、図1ないし図4を用いて説明する。
図1には、本発明の第1実施形態に係るスクロール圧縮機全体の縦断面図が示され、図2には、その固定スクロールを渦巻き状ラップ側から見た状態の平面図が示されている。
スクロール圧縮機として、本実施形態では、密閉型電動スクロール圧縮機1の例について説明するが、本発明は、これに限定されるものではない。
密閉型電動スクロール圧縮機1は、上下方向に長い筒状の有底の鋼板製密閉ハウジング2を備えている。この密閉ハウジング2内の上方部位には、スクロール圧縮機構3が設置され、その下方部位には、電動モータ4が配置されている。
【0022】
密閉ハウジング2内は、スクロール圧縮機構3よりも上部側が、スクロール圧縮機構3により圧縮された高圧ガスが吐出される吐出チャンバー5とされ、吐出パイプ6が接続されている。また、スクロール圧縮機構3よりも下部側が、低圧の吸入ガスが吸込まれる吸入チャンバー7とされ、吸入パイプ8が接続されている。吸入チャンバー7側には、固定子9および回転子10から構成される電動モータ4が、密閉ハウジング2内に圧入されることによって設置されており、該電動モータ4の回転子10に結合されているクランク軸11が上下方向に延長されている。
【0023】
クランク軸11の下端部は、密閉ハウジング2内に設けられている下部軸受12によって支持されており、その下端部と下部軸受12との間に設けられている公知の給油ポンプ13を介して、密閉ハウジング2の底部に充填されている潤滑油14を、クランク軸11内に設けられている給油孔(図示省略)を通してスクロール圧縮機構3および上部軸受部材15の所要潤滑部位に給油し、それらの部位を潤滑可能な構成とされている。
【0024】
スクロール圧縮機構3は、上部軸受部材15を介して密閉ハウジング2内に設置されている。該スクロール圧縮機構3は、上部軸受部材15上に固定設置されている固定スクロール16と、上部軸受部材15上に固定スクロール16の周りに公転旋回可能に支持されている旋回スクロール20とから構成されており、固定スクロール16は、固定端板17とその一面に立設されている固定渦巻き状ラップ18とを備え、固定端板17の中心部に吐出ポート19が設けられた構成とされている。
【0025】
また、旋回スクロール20は、旋回端板21とその一面に立設されている旋回渦巻き状ラップ22とを備え、旋回端板21の背面側に旋回ボス部23が一体に設けられた構成とされている。この固定スクロール16と旋回スクロール20は、固定渦巻き状ラップ18と旋回渦巻き状ラップ22とが180度位相をずらして咬合され、これによって、両スクロール16,20間に一対の圧縮室24が形成されるようになっている。この一対の圧縮室24は、旋回スクロール20が公転旋回されることにより、外周位置から中心部へと容積が減少されながら移動され、圧縮作用をなすよう構成されている。
【0026】
旋回スクロール20は、旋回端板21の背面が上部軸受部材15のスラスト軸受部15A上に支持され、その旋回ボス部23にクランク軸11の上端に設けられているクランクピン部11Aがドライブブッシュ25および旋回ベアリング26を介して連結されることにより、固定スクロール16の周りに旋回駆動可能とされている。また、旋回スクロール20の旋回端板21の背面と上部軸受部材15のスラスト軸受部15Aとの間には、旋回スクロール20の自転を阻止するためのオルダムリング等からなる自転防止手段27が設けられている。なお、クランク軸11の上方部は、上部軸受部材15のジャーナル軸受部15Bに回転自在に支持されている。
【0027】
固定スクロール16の固定端板17には、その背面側にディスチャージカバー28が設けられるとともに、吐出ポート19を開閉するリード弁タイプの吐出弁29が設けられている。また、固定スクロール16の固定端板17には、中心部に設けられている吐出ポート19に対して、その外周側の固定渦巻き状ラップ18の渦巻き方向に沿う異なる旋回角位置の複数箇所(本実施形態では、3箇所)位置に、圧縮室24と吐出チャンバー5とを連通する複数の孔群からなる複数対のリリーフポート30A,30B,31A,31Bおよび32A,32Bが設けられている。
【0028】
この複数対の複数の孔群からなるリリーフポート30A,30B,31A,31Bおよび32A,32Bは、図2に示されるように、固定渦巻き状ラップ18の腹側と背側にリリーフポート30Aと30B、31Aと31B、32Aと32Bが各々対をなし、固定渦巻き状ラップ18の腹側と背側に形成される一対の圧縮室24に連通されるように設けられている。つまり、2個の孔からなる一対のリリーフポート30Aと30Bは、吐出ポート19より所定の旋回角だけ外周側位置に180度位相をずらして設けられ、該リリーフポート30A,30Bより所定の旋回角だけ外周側位置に180度位相をずらして、3個の孔からなる一対のリリーフポート31Aと31Bが設けられ、更にリリーフポート31Aと31Bより所定の旋回角だけ外周側位置に180度位相をずらして、2個の孔からなる一対のリリーフポート32Aと32Bが設けられた構成とされている。
【0029】
これら複数の孔群からなる複数対のリリーフポート30A,30B,31A,31Bおよび32A,32Bに対応して、それぞれリード弁タイプのリリーフ弁33A,33Bないし35A,35Bが設けられる。このリリーフ弁33A,33Bないし35A,35Bの設置構造について、リリーフポート31Aに対応して設けられるリリーフ弁34Aの構造を代表例に、図3および図4に基づいて、以下に詳しく説明する。
【0030】
3個の孔群からなるリリーフポート31Aは、固定スクロール16の固定端板17側に固定渦巻き状ラップ18の渦巻き方向に沿って穿設されている。この固定端板17の背面側には、プレート部材36が金属接触された状態で設置されており、該プレート部材36と固定端板17の背面との金属接触面間に、リリーフポート31Aを構成している3個の孔群を単一の流路に集約し、それを吐出チャンバー5側に連通するリリーフ流路37が形成されている。
【0031】
本実施形態では、リリーフ流路37のリリーフポート31Aを構成している3個の孔群を単一の流路に集約する集約部38を、固定スクロール16の固定端板17側にザグリを形成するようにして設け、この集約部38を吐出チャンバー5側に連通する開口部39をプレート部材36側に設けた構成としている。そして、このリリーフ流路37の吐出チャンバー5側と連通される開口部39側に、固定端板17およびプレート部材36にボルト40によりネジ結合されたリテーナ41を介してリード弁タイプのリリーフ弁34Aを設けた構成としている。
【0032】
なお、本実施形態においては、複数孔群からなる複数対のリリーフポート30A,30B,31A,31Bおよび32A,32Bを、固定渦巻き状ラップ18の渦巻き方向に沿う異なる旋回角位置の3箇所に設けた例について説明したが、必ずしも3箇所である必要はなく、1箇所または2箇所あるいは4箇所以上であってもよい。この際、各リリーフポート30A,30B,31A,31Bおよび32A,32Bに対応して設けられるリリーフ弁33A,33Bないし35A,35Bは、その全てを上記の如く、リリーフ流路37を介してリリーフポート位置から離れた位置に設置する必要はなく、特定のリリーフ弁については、配置の都合上、複数の孔群を1つに集約し、その位置で開口部にリリーフ弁を設置してそのまま吐出チャンバー5側に連通させるように構成してもよい。
【0033】
以上に説明の構成により、本実施形態によれば、以下の作用効果を奏する。
上記の密閉型電動スクロール圧縮機1において、電動モータ4が駆動されると、吸入パイプ8を介して密閉ハウジング2内に低圧の冷媒ガスが吸込まれ、この冷媒ガスが上部軸受部材15等に設けられている冷媒流路を経てスクロール圧縮機構3の圧縮室24内に吸入される。圧縮室24内に吸入された冷媒ガスは、旋回スクロール20が固定スクロール16の周りに公転旋回駆動され、圧縮室24が外周位置から中心部へと容積を減少しながら移動される間に高温高圧のガスに圧縮される。
【0034】
この圧縮ガスは、固定スクロール16の中心部に設けられている吐出ポート19および吐出弁29を介して吐出チャンバー5内に吐出され、該吐出チャンバー5に接続されている吐出パイプ6を経て圧縮機外部へと送出される。この圧縮過程において、運転条件により過圧縮状態となったり、液圧縮により圧縮室24内の圧力が異常上昇したりする場合がある。この場合、圧縮室24が吐出ポート19に連通するまでの途中段階で、対をなすリリーフポート30Aと30B、31Aと31Bおよび32Aと32Bのいずれかが、対応するリリーフ弁33Aと33B、34Aと34Bおよび35Aと35Bが開かれることにより吐出チャンバー5に連通され、高圧のガスまたは液がそのリリーフポートおよびリリーフ流路37を経て吐出チャンバー5内にリリーフされる。
【0035】
この際、複数の孔群から構成されているリリーフポート30A,30B,31A,31Bおよび32A,32Bのいずれかからリリーフされる高圧のガスまたは液は、集約部38で単一のリリーフ流路37に集約され、該リリーフ流路37を介してその開口部39からリリーフ弁33A,33Bないし35A,35Bを開放して吐出チャンバー5へとリリーフされる。これによって、過圧縮や液圧縮を防止することができる。
【0036】
斯くして、本実施形態においては、固定スクロール16の固定端板17の端面における複数孔群のリリーフポート30A,30B,31A,31Bおよび32A,32Bが開口されている部分に対応してプレート部材36を設け、該プレート部材36と固定端板17の端面との間に、各リリーフポート30A,30B,31A,31Bおよび32A,32Bを構成する複数の孔群を1つに集約し、そのリリーフポート位置から離れた位置で吐出チャンバー5に連通する単一のリリーフ流路37を形成するとともに、このリリーフ流路37の吐出チャンバー5への開口部39にリリーフ弁33A,33Bないし35A,35Bを設けた構成としている。
【0037】
このため、必ずしも複数孔群からなるリリーフポート30A,30B,31A,31Bおよび32A,32Bが設けられている位置に対応してリリーフ弁33A,33Bないし35A,35Bを設置する必要がなく、リリーフポート位置から離れた位置に複数孔群からなるリリーフポート30A,30B,31A,31Bおよび32A,32Bに対して共通する1個のリリーフ弁33A,33Bないし35A,35Bを設置すればよく、限られたスペースを有効に利用してリリーフ弁33A,33Bないし35A,35Bを設置することができるとともに、複数孔群のリリーフポート30A,30B,31A,31Bおよび32A,32Bによって必要な大きさのポート面積を確保することができる。
【0038】
従って、各リリーフポート30A,30B,31A,31Bおよび32A,32Bからの吐出時の吐出圧損を低減して効率の向上を図ることができるとともに、リリーフ弁33A,33Bないし35A,35Bの数を最小限に抑えて構成の複雑化を回避しつつ、リリーフ弁33A,33Bないし35A,35Bの配置の自由度を高め、限られたスペースに対して設けられるリリーフ弁33A,33Bないし35A,35Bの設置を容易化することができる。
【0039】
また、リリーフ流路37は、各リリーフポート30A,30B,31A,31Bおよび32A,32Bの複数孔群を1つに集約する集約部38が固定スクロール16の固定端板17の端面側に設けられ、吐出チャンバー5への開口部39がプレート部材36側に設けられているため、各リリーフポート30A,30B,31A,31Bおよび32A,32Bの複数の孔群を1つに集約する集約部38を固定スクロール16の固定端板17側に設けることにより、プレート部材36側には、吐出チャンバー5への開口部39を設けるだけでよく、従って、プレート部材36の板厚を比較的薄くすることができる等、その構成を簡略化することができる。
【0040】
また、本実施形態では、固定スクロール16の固定端板17の端面とプレート部材36とのシール面が、相互に金属接触構造とされ、シール材レス化されている。このため、各リリーフポート30A,30B,31A,31Bおよび32A,32Bとリリーフ流路37との接続部を含む固定端板17の端面とプレート部材36間のシール面を、シール材の設置を省略したシール材レス化構造とすることができる。これによって、構造をシンプル化し、部品点数を減らして低コスト化することができる。
【0041】
さらに、複数の孔群からなるリリーフポート30A,30B,31A,31Bおよび32A,32Bが、固定スクロール16および旋回スクロール20により180度位相をずらして形成される一対の圧縮室24に対応してそれぞれ設けられるとともに、固定スクロール16の渦巻き状ラップ18の渦巻き方向に沿う異なる旋回角位置の少なくとも2箇所以上(本実施形態では、3箇所)の位置に設けられており、これによって、渦巻き状ラップ18の腹側に設けられるリリーフポート30B,31B,32Bと背側に設けられるリリーフポート30A,31A,32Aとが互いに接近した位置に設けられることがある。
【0042】
しかるに、上記の如く、リリーフポート30B,31B,32Bとリリーフポート30A,31A,32Aとが互いに接近して配置されたとしても、各々のリリーフポート位置から離れた位置にリリーフ弁33A,33Bないし35A,35Bを設置することが可能なことから、それら複数組のリリーフ弁33A,33Bないし35A,35Bを容易に配置することができる。このため、各リリーフポート30A,30B,31A,31Bおよび32A,32Bの設け方をより多様化し、スクロール圧縮機1の高性能化を図ることができる。
【0043】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態について、図5を用いて説明する。
本実施形態は、上記した第1実施形態に対して、リリーフ流路37Aの設け方が異なっている。その他の点については、第1実施形態と同様であるので説明は省略する。
本実施形態では、図5に示されるように、固定スクロール16の固定端板17とプレート部材36との接触面に設けられるリリーフ流路37Aの全てをプレート部材36側に一体形成した構成としている。つまり、リリーフ流路37Aを構成するリリーフポート30A,30B,31A,31Bおよび32A,32Bの複数孔群を1つに集約する集約部38Aと、吐出チャンバー5への開口部39Aとを全てプレート部材36側に設けた構成としている。なお、図5では、開口部39Aに設けられるリリーフ弁等が省略されている。
【0044】
上記のように、固定端板17とプレート部材36間に設けられるリリーフ流路37Aを構成するリリーフポート30A,30B,31A,31Bおよび32A,32Bの複数孔群を1つに集約する集約部38Aおよび吐出チャンバー5への開口部39Aの全てをプレート部材36側に設けた構成とすることにより、リリーフ流路37Aの全てをプレート部材36側に纏めて設け、リリーフ流路37Aの設置および加工を全てプレート部材36側に集約化することができる。このため、固定スクロール16側に対しては、リリーフポート30A,30B,31A,31Bおよび32A,32Bを設けるだけでよく、特に構造を変更せずにそのまま使用することが可能となる。
【0045】
なお、本発明は、上記実施形態にかかる発明に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において、適宜変形が可能である。例えば、上記実施形態では、密閉型電動スクロール圧縮機1に適用した例について説明したが、動力源が外部に設けられている開放型のスクロール圧縮機にも同様に適用できることはもちろんである。また、上記実施形態では、固定渦巻き状ラップ18の渦巻き方向に沿って設けられる対をなす腹側の複数孔群からなるリリーフポートと背側の複数孔群からなるリリーフポートの孔数を異なる孔数とし、腹側に設けられるリリーフポートの孔数を多くしてもよい。
【符号の説明】
【0046】
1 スクロール圧縮機
5 吐出チャンバー
16 固定スクロール
17 固定端板
18 固定渦巻き状ラップ
19 吐出ポート
20 旋回スクロール
24 圧縮室
30A,30B,31A,31B,32A,32B リリーフポート
33A,33B,34A,34B,35A,35B リリーフ弁
36 プレート部材
37,37A リリーフ流路
38,38A 集約部
39,39A 開口部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定スクロールと旋回スクロールとにより圧縮室を形成し、該圧縮室で圧縮されたガスを前記固定スクロールの端板中心部に設けられている吐出ポートを経て吐出チャンバーに吐出するとともに、前記吐出ポートの外周側に前記圧縮室と前記吐出チャンバーとを連通する複数孔群からなるリリーフポートが設けられているスクロール圧縮機において、
前記固定スクロールの端板端面の少なくとも前記複数孔群のリリーフポートが開口されている部分に対応してプレート部材を設け、
該プレート部材と前記固定スクロールの端板端面との間に、前記リリーフポートの複数孔群を1つに集約し、該リリーフポート位置から離れた位置で前記吐出チャンバーに連通する単一のリリーフ流路を形成するとともに、該リリーフ流路の前記吐出チャンバーへの開口部にリリーフ弁を設けたことを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項2】
前記リリーフ流路は、前記リリーフポートの複数孔群を1つに集約する集約部が前記固定スクロールの端板端面側に設けられ、前記吐出チャンバーへの開口部が前記プレート部材側に設けられていることを特徴とする請求項1に記載のスクロール圧縮機。
【請求項3】
前記リリーフ流路は、前記リリーフポートの複数孔群を1つに集約する集約部および前記吐出チャンバーへの開口部の全てが前記プレート部材側に設けられていることを特徴とする請求項1に記載のスクロール圧縮機。
【請求項4】
前記固定スクロールの端板端面と前記プレート部材とのシール面は、相互に金属接触構造とされ、シール材レス化されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のスクロール圧縮機。
【請求項5】
前記複数孔群からなるリリーフポートは、前記固定スクロールおよび前記旋回スクロールにより180度位相をずらして形成される一対の前記圧縮室に対応してそれぞれ設けられるとともに、前記固定スクロールの渦巻き状ラップの渦巻き方向に沿って異なる旋回角位置の少なくとも2箇所以上の位置に設けられていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のスクロール圧縮機。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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