説明

スクロール圧縮機

【課題】中間インジェクションを行うスクロール圧縮機において、インジェクション流量を増やせるようにするとともに、圧縮機の効率低下や圧縮機構の大型化及びコスト増大を抑える。
【解決手段】インジェクションポート(55)を吸入閉じ切り直後の圧縮室(35a,35b)に連通する位置に形成する。また、可動側ラップ(42)に、巻き始め側から巻き終わり側に向かって歯厚が拡大する歯厚拡大部(45a)と、その歯厚拡大部(45a)から巻き終わり側に向かって歯厚が縮小する歯厚縮小部(45b)とを有する厚肉部(45)を形成し、インジェクションポート(55)の直径を厚肉部(45)に合わせて大きくする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中間インジェクション機構を備えたスクロール圧縮機に関し、特に、インジェクション流量を増やすための構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、スクロール圧縮機は、一般に、ケーシング内に圧縮機構と駆動機構とを備えている。圧縮機構は、固定スクロールと可動スクロールとを有し、両スクロールは、互いに対向して配置される鏡板と、各鏡板に一体的に形成されて互いに噛み合う渦巻き状のラップとを有している。
【0003】
スクロール圧縮機の圧縮機構では、固定スクロールのラップ(固定側ラップという)と可動スクロールのラップ(可動側ラップという)が噛み合うことにより、固定スクロールと可動スクロールの間に圧縮室が形成されている。可動スクロールには、駆動機構に設けられているクランク軸(駆動軸)のクランクピンが連結されている。そして、クランク軸が回転することにより、可動スクロールが固定スクロールに対して旋回すると、圧縮室の容積が拡大と縮小を繰り返す。圧縮機構は、圧縮室の容積が拡大するときに冷媒を吸入し、縮小するときに冷媒を圧縮して吐出する。
【0004】
一方、スクロール圧縮機には、圧縮機構に中間圧の冷媒をインジェクションするためのインジェクション機構を備えたものがある(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載された圧縮機構には、固定スクロールの鏡板を軸方向に貫通して圧縮室の中間圧位置に開口するインジェクションポートが形成されている。このインジェクションポートは、固定側ラップの渦巻きの間に形成される溝の中央部に、可動側ラップの厚さ寸法よりも小さな直径寸法で形成されている。
【0005】
この構成によれば、上記インジェクションポートは、固定側ラップの内周面と可動側ラップの外周面との間に形成される第1圧縮室と、固定側ラップの外周面と可動側ラップの内周面との間に形成される第2圧縮室とに交互に連通する。つまり、可動スクロールが旋回動作を行うと、可動側ラップが固定側ラップの内周面と外周面の間を往復動作するときに上記インジェクションポートを横切って移動して、可動側ラップがインジェクションポートと固定側ラップの外周面との間に位置するときにインジェクションポートが第1圧縮室に連通し、可動側ラップがインジェクションポートと固定側ラップの内周面との間に位置するときにインジェクションポートが第2圧縮室に連通する。
【0006】
一方、性能向上のために、インジェクション流量をより多くするように圧縮機構を構成したものもある(例えば、特許文献2,3参照)。特許文献2,3の圧縮機構では、可動側ラップの歯厚寸法よりも直径寸法が大きなインジェクションポートを固定スクロールに形成し、インジェクション流量を増やすようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−107945号公報
【特許文献2】米国特許第6,619,936号明細書
【特許文献3】特開昭63−243481号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献2,3のようにインジェクションポートの直径寸法を可動側ラップの厚さ寸法よりも大きくすると、圧縮機構の動作中にインジェクションポートが該可動側ラップを挟んで第1圧縮室と第2圧縮室とに同時に連通してしまう。そして、第1圧縮室と第2圧縮室が連通すると、圧力が異なる第1圧縮室と第2圧縮室の間で冷媒が漏れて、圧縮機の効率が低下してしまう。
【0009】
また、インジェクションポートの直径を大きくする構成において、可動側ラップの厚さ寸法も厚くして第1圧縮室と第2圧縮室が連通しないようにすると、可動側ラップが厚くなった分だけ可動スクロールの質量が大きくなり、圧縮機構の大型化やコスト増大を招いてしまう。
【0010】
本発明は、このような問題点に鑑みて創案されたものであり、その目的は、中間インジェクションを行うスクロール圧縮機において、インジェクション流量を増やせるようにするとともに、圧縮機の効率低下や圧縮機構の大型化及びコスト増大を抑えることである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1の発明は、固定側鏡板(51)と該固定側鏡板(51)に立設された渦巻き壁状の固定側ラップ(52)とを有する固定スクロール(50)と、可動側鏡板(41)と該可動側鏡板(41)に立設された渦巻き壁状の可動側ラップ(42)とを有する可動スクロール(40)とを有し、固定側ラップ(52)と可動側ラップ(42)が噛み合わされて両スクロール(40,50)の間に圧縮室(35a,35b)が形成される圧縮機構(30)を備え、上記固定スクロール(50)に、上記固定側鏡板(51)に形成された連通路を通じて上記圧縮室(35a,35b)に連通するインジェクションポート(55)が形成されたスクロール圧縮機を前提としている。
【0012】
そして、このスクロール圧縮機では、上記可動側ラップ(42)におけるインジェクションポート(55)に対応する部位に、該可動側ラップ(42)の巻き始め側から巻き終わり側に向かって歯厚が拡大する歯厚拡大部(45a)を含む厚肉部(45)が形成され、該厚肉部(45)の厚さ寸法が、上記可動側ラップ(42)の歯厚方向へのインジェクションポート(55)の開口寸法以上であることを特徴としている。この開口寸法は、例えばインジェクションポート(55)が円形孔である場合は直径寸法であり、長孔である場合は幅寸法である。
【0013】
この第1の発明では、可動スクロール(40)が旋回すると、インジェクションポート(55)は、固定側ラップ(52)の内周面と可動側ラップ(42)の外周面との間に形成される第1圧縮室(35a,35b)と、固定側ラップ(52)の外周面と可動側ラップ(42)の内周面との間に形成される第2圧縮室(35a,35b)とに交互に連通する。つまり、可動スクロール(40)が旋回動作を行うと、可動側ラップ(42)が固定側ラップ(52)の内周面と外周面の間を往復動作するときに上記インジェクションポート(55)を横切って移動し、可動側ラップ(42)がインジェクションポート(55)と固定側ラップ(52)の内周面との間に位置するときにインジェクションポート(55)が第1圧縮室(35a,35b)に連通し、可動側ラップ(42)がインジェクションポート(55)と固定側ラップ(52)の外周面との間に位置するときにインジェクションポート(55)が第2圧縮室(35a,35b)に連通する。インジェクションポート(55)が第1圧縮室(35a,35b)に連通すると該第1圧縮室(35a,35b)へ中間圧冷媒が注入され、インジェクションポート(55)が第2圧縮室(35a,35b)に連通すると該第2圧縮室(35a,35b)へ中間圧冷媒が注入される。
【0014】
可動側ラップ(42)には、厚さ寸法がインジェクションポート(55)の上記開口寸法以上の厚肉部(45)が形成されているので、可動側ラップ(42)がインジェクションポート(55)を横切るときには、インジェクションポート(55)は厚肉部(45)で閉塞される。このように、インジェクションポート(55)の全体が可動側ラップ(42)で塞がれるため、この発明において第1圧縮室(35a,35b)と第2圧縮室(35a,35b)が同時に連通する状態は生じない。
【0015】
第2の発明は、第1の発明において、上記可動側ラップ(42)の厚肉部(45)が、上記歯厚拡大部(45a)側からラップの巻き終わり側に向かって歯厚が縮小する歯厚縮小部(45b)を含んでいることを特徴としている。
【0016】
この第2の発明では、可動側ラップ(42)の厚肉部(45)を構成する歯厚拡大部(45a)から歯厚縮小部(45b)の範囲内の部分により、上記インジェクションポート(55)の開閉動作が行われる。
【0017】
第3の発明は、第2の発明において、上記可動側ラップ(42)の厚肉部(45)が、上記歯厚拡大部(45a)と歯厚縮小部(45b)との間で該歯厚拡大部(45a)と歯厚縮小部(45b)に連接する連接部(45c)を含んでいることを特徴としている。この連接部(45c)は、歯厚が一定の部分であってもよいし、歯厚拡大部(45a)と歯厚縮小部(45b)の間に歯厚変化の緩やかな部分を設けたものであってもよい。
【0018】
この第3の発明では、可動側ラップ(42)の厚肉部(45)を構成する歯厚拡大部(45a)から連接部(45c)を経て歯厚縮小部(45b)に跨る範囲内の部分により、上記インジェクションポート(55)の開閉動作が行われる。
【0019】
第4の発明は、第1,第2または第3の発明において、上記可動側ラップ(42)の厚肉部(45)が、該可動側ラップ(42)の内周面の渦巻き形状を基準として外周面が径方向外方へ膨出することにより形成され、上記固定側ラップ(52)には、上記可動側ラップ(42)の厚肉部(45)に対応して、該固定側ラップ(52)の内周面が径方向外方へ凹んだ凹陥部(57)が形成されていることを特徴としている。
【0020】
上記第1,第2,第3の発明では、上記厚肉部(45)を可動側ラップ(42)の内周面側を膨らませることにより形成したり、内周面側と外周面側の両方を膨らませることにより形成することが可能であるが、この第4の発明では、上記厚肉部(45)を可動側ラップ(42)の外周面側を膨らませて形成し、固定側ラップ(52)には内周面側にそれに対応した凹陥部(57)を形成するようにしている。
【0021】
この第4の発明では、上記可動スクロール(40)は、その旋回時に、可動側ラップ(42)の厚肉部(45)の表面が固定側ラップ(52)の凹陥部(57)の表面に沿いながら位置が変化する。上記厚肉部(45)と凹陥部(57)が対応するように形成されているので、可動スクロール(40)の旋回時に厚肉部(45)と凹陥部(57)の間で動作の不具合や冷媒の漏れは生じない。
【0022】
第5の発明は、第1から第4の発明のいずれか1つにおいて、上記インジェクションポート(55)が、圧縮機構(30)の作動中における吸入閉じ切り直後の圧縮室(35a,35b)と連通する位置に形成されていることを特徴としている。
【0023】
この第5の発明では、インジェクションポート(55)を可動側ラップ(42)の巻き始め側よりも巻き終わり側に近い位置に形成することができる。したがって、可動側ラップ(42)の厚肉部(45)も巻き終わり側に近い位置に形成され、固定側ラップ(52)の凹陥部(57)も巻き終わり側に近い位置に形成される。
【0024】
第6の発明は、第1から第5の発明のいずれか1つにおいて、上記圧縮機構(30)が、固定側ラップ(52)の渦巻き長さと可動側ラップ(42)の渦巻き長さが異なる非対称渦巻き構造に構成され、上記インジェクションポート(55)が固定側ラップ(52)の渦巻きの溝の中央部に形成されていることを特徴としている。
【0025】
対称渦巻き構造では可動側ラップ(42)と固定側ラップ(52)の巻き終わり端の吸入開口が2つあり、圧縮室(35a,35b)も対称構造であるためにインジェクションポート(55)も2つ固定側ラップ(52)の近傍に設けられるが、この第6の発明では、非対称渦巻き構造を採用しているから、可動側ラップ(42)と固定側ラップ(52)の巻き終わり端の吸入開口が1つであり、インジェクションポート(55)も1つにすることができる。
【0026】
また、非対称渦巻き構造であれば、インジェクションポート(55)を1つにして固定側ラップ(52)の渦巻きの溝の中央部に形成することにより、該インジェクションポート(55)を第1圧縮室(35a,35b)と第2圧縮室(35a,35b)で共用できるので、インジェクションポート(55)が2つ固定側ラップ(52)の近傍にある場合に比べて、インジェクションポート(55)が各圧縮室(35a,35b)に開口する角度範囲が狭くなる。その結果、インジェクションポート(55)が第1圧縮室(35a,35b)と第2圧縮室(35a,35b)に交互に連通する間にインジェクションポート(55)が閉じられるとき、圧縮室(35a,35b)の容積変化による圧力上昇が少ない状態となる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、可動側ラップ(42)におけるインジェクションポート(55)に対応する部位に、ラップの巻き始め側から巻き終わり側に向かって歯厚が拡大する歯厚拡大部(45a)を含む厚肉部(45)を形成し、この厚肉部(45)の厚さ寸法をインジェクションポート(55)の上記開口寸法以上としているので、インジェクションポート(55)を大きくしても、インジェクションポート(55)が閉じられるときには、インジェクションポート(55)全体が可動側ラップ(42)で塞がれる。
【0028】
したがって、第1圧縮室(35a,35b)と第2圧縮室(35a,35b)が連通しないので、インジェクションポート(55)の上記開口寸法を大きくしても第1圧縮室(35a,35b)と第2圧縮室(35a,35b)の間で冷媒が漏れるのを防止でき、圧縮機の効率低下を抑えられる。また、インジェクションポート(55)の上記開口寸法を大きくできるので、インジェクション流量を多くすることも可能になる。さらに、可動側ラップ(42)には、その一部に厚肉部(45)を設けるだけでよく、可動スクロール(40)の質量が増加してしまうのも抑えられるので、機構の大型化やコストアップも抑えられる。
【0029】
上記第2,第3の発明によれば、可動側ラップ(42)の厚肉部(45)を上記歯厚拡大部(45a)から歯厚縮小部(45b)の範囲内に形成しているので、歯厚拡大部(45a)よりも可動側ラップ(42)の巻き始め側の部分と、歯厚縮小部(45b)よりも可動側ラップ(42)の巻き終わり側の部分の両方を、厚肉部(45)よりも薄くすることができる。したがって、可動スクロール(40)の質量が増加するのをより確実に抑えることが可能になる。
【0030】
上記第4の発明によれば、可動側ラップ(42)の厚肉部(45)を該可動側ラップ(42)の外周側に形成し、固定側ラップ(52)の凹陥部(57)を上記厚肉部(45)に対応して該固定側ラップ(52)の内周側に形成しているので、可動スクロール(40)が旋回するときに該厚肉部(45)と凹陥部(57)の間での動作の不具合や冷媒の漏れは生じない。また、可動側ラップ(42)の外周側を膨らませることも固定側ラップ(52)の内周側を凹ませることも加工が容易であるから、製造が複雑になるのを防止できる。
【0031】
上記第5の発明によれば、インジェクションポート(55)を可動側ラップ(42)の巻き始め側よりも巻き終わり側に近い位置に形成することができるので、可動側ラップ(42)の厚肉部(45)も固定側ラップ(52)の凹陥部(57)も巻き終わり側に近い位置に形成することができる。厚肉部(45)も凹陥部(57)も巻き終わり側であれば巻き始め側よりも加工しやすく、製造を容易に行うことができる。
【0032】
上記第6の発明によれば、上記圧縮機構(30)を非対称渦巻き構造にし、上記インジェクションポート(55)を固定側ラップ(52)の渦巻きの溝の中央部に形成するようにしているので、インジェクションポート(55)を1つにして第1圧縮室(35a,35b)と第2圧縮室(35a,35b)で共用できる。第1圧縮室(35a,35b)用のインジェクションポート(55)と第2圧縮室(35a,35b)用のインジェクションポート(55)を別々に設けると、ポートがラップの近傍に位置するために、インジェクションポート(55)が各圧縮室(35a,35b)に開口する角度範囲が広くなるのに対して、インジェクションポート(55)を1つにするとインジェクションポート(55)が各圧縮室(35a,35b)に開口する角度範囲を狭くすることができる。その結果、圧縮室(35a,35b)の容積変化による圧力上昇が少ない状態でインジェクションポート(55)を閉じることが可能になり、中間圧の上昇を抑えることができる。したがって、圧縮機の効率が悪くなるのを防止できる。
【0033】
また、特に、上記インジェクションポート(55)を、圧縮機構(30)の作動中における吸入閉じ切り直後の圧縮室(35a,35b)と連通する位置に形成することにより、可動側ラップ(42)の厚肉部(45)も固定側ラップ(52)の凹陥部(57)も各ラップの最外周の部分に形成することが可能になり、従来形状の非対称渦巻き構造に容易に適用することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】図1は、本発明の実施形態に係るスクロール圧縮機の縦断面図である。
【図2】図2は、固定側ラップと可動側ラップを噛み合わせた状態での固定スクロールの底面図である。
【図3】図3(A)は、可動側ラップの渦巻き形状を示す断面図であり、図3(B)は、固定側ラップの渦巻き形状を示す底面図である。
【図4】図4は、圧縮機構の動作状態を示す断面図であり、図4(A)はクランク角度が0°(360°)の状態、図4(B)はクランク角度が90°の状態、図4(C)はクランク角度が180°の状態、そして図4(D)はクランク角度が270°の状態を示している。
【図5】図5は、可動側ラップの厚肉部の変形例を示す部分拡大図である。
【図6】図6は、インジェクションポートの変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0036】
この実施形態に係るスクロール圧縮機(1)は、蒸気圧縮式冷凍サイクルを行う図示しない冷媒回路の圧縮行程を行うものであり、蒸発器から吸入した低圧の冷媒を高圧に圧縮して凝縮器(放熱器)へ吐出する。図1はスクロール圧縮機(1)の縦断面図、図2は圧縮機構の構造を示す図である。
【0037】
スクロール圧縮機(1)は、縦長で密閉容器状のケーシング(10)を備えている。ケーシング(10)の内部には、下から上へ向かって、電動機(20)と圧縮機構(30)とが配置されている。電動機(20)は、ケーシング(10)の胴部に固定されたステータ(21)と、ステータ(21)の内側に配置されたロータ(22)とを備えている。ロータ(22)には、クランク軸(25)が連結されている。
【0038】
圧縮機構(30)は、可動スクロール(40)と固定スクロール(50)とを備えている。可動スクロール(40)は、略円板状の可動側鏡板(41)と、該可動側鏡板(41)に立設された渦巻き壁状の可動側ラップ(42)とを備えている。可動側鏡板(41)の背面(下面)には、クランク軸(25)の偏心部(26)が挿入される円筒状の突出部(43)が立設されている。可動スクロール(40)は、オルダム継手(31)を介して、可動スクロール(40)の下側のハウジング(32)に支持されている。一方、固定スクロール(50)は、略円板状の固定側鏡板(51)と、該固定側鏡板(51)に立設された渦巻き壁状の固定側ラップ(52)とを備えている。圧縮機構(30)では、固定側ラップ(52)と可動側ラップ(42)とが互いに噛み合うことによって、両ラップ(42,52)の接触部の間に複数の圧縮室(35)が形成されている。
【0039】
本実施形態のスクロール圧縮機(1)では、いわゆる非対称渦巻き構造が採用されており、固定側ラップ(52)と可動側ラップ(42)とで巻き数(渦巻きの長さ)が相違している。上記複数の圧縮室(35)は、固定側ラップ(52)の内周面と可動側ラップ(42)の外周面との間に構成される第1圧縮室(35a)と、固定側ラップ(52)の外周面と可動側ラップ(42)の内周面との間に構成される第2圧縮室(35b)とから構成されている。
【0040】
圧縮機構(30)では、固定スクロール(50)の外縁部に吸入ポート(36)が形成されている。この実施形態では、非対称渦巻き構造を採用したことにより、1つの吸入ポート(36)が第1圧縮室(35a)と第2圧縮室(35b)の両方に連通するようになっている。吸入ポート(36)には吸入管(11)が接続されている。吸入ポート(36)は、可動スクロール(40)の公転運動に伴って、第1圧縮室(35a)と第2圧縮室(35b)のそれぞれに間欠的に連通する。吸入ポート(36)には、圧縮室(35)から吸入管(11)へ戻る冷媒の流れを禁止する吸入逆止弁が設けられている(図示省略)。
【0041】
また、圧縮機構(30)では、固定側鏡板(51)の中央部に吐出ポート(53)が形成されている。吐出ポート(53)は、可動スクロール(40)の公転運動に伴って、第1圧縮室(35a)と第2圧縮室(35b)のそれぞれに間欠的に連通する。吐出ポート(53)は、固定スクロール(50)の上側のマフラー空間(54)に開口している。
【0042】
ケーシング(10)内は、円盤状の上記ハウジング(32)によって、上側の吸入側空間(15)と下側の吐出側空間(16)とに区画されている。吐出側空間(16)は、連絡通路(56)を通じてマフラー空間(54)に連通している。運転中の吐出側空間(16)は、吐出ポート(53)からの吐出冷媒がマフラー空間(54)を通じて流入するので、圧縮機構(30)で圧縮された冷媒で満たされる高圧空間になる。吐出側空間(16)には、ケーシング(10)に固定された吐出管(13)が開口している。
【0043】
ケーシング(10)の底部には、冷凍機油が貯留される油溜まりが形成されている。クランク軸(25)の内部には、油溜まりに開口する第1給油通路(27)が形成されている。また、可動側鏡板(41)には、第1給油通路(27)に接続する第2給油通路(44)が形成されている。このスクロール圧縮機(1)では、油溜まりの冷凍機油が第1給油通路(27)及び第2給油通路(44)を通じて低圧側の圧縮室(35)に供給される。
【0044】
次に、上記圧縮機構(30)において、圧縮室(35a,35b)に中間圧冷媒をインジェクションするための構造について説明する。
【0045】
上記固定スクロール(50)には、上記固定側鏡板(51)に形成された連通路を通じて上記圧縮室(35)に連通するインジェクションポート(55)が形成されている。このインジェクションポート(55)にはインジェクション管(12)が接続されている。インジェクション管(12)は固定側鏡板(51)に固定されている。
【0046】
上記インジェクションポート(55)は、圧縮機構(30)の作動中に吸入閉じ切り直後の圧縮室(35a,35b)と連通する位置に形成され、各圧縮室(35a,35b)への冷媒の吸入が終わって閉じ切られるとすぐにインジェクションポート(55)が第1圧縮室(35a)または第2圧縮室(35b)と連通するようになっている。インジェクションポート(55)は、具体的には、図3(A)のラップ形状を示す図において、渦巻き形状の可動側ラップ(42)を巻き始め側(中心側)から巻き終わり側(外周側)に向かって、第1区間(Z1)、第2区間(Z2)、第3区間(Z3)及び第4区間(Z4)に分けたときに、第2区間(Z2)と第3区間(Z3)の境界となる位置に対応するように、固定スクロール(50)に形成されている(図3(B))。また、この実施形態では、インジェクションポート(55)は1つであり、その1つのインジェクションポート(55)が固定側ラップ(52)の渦巻きの溝の中央部に形成されている。
【0047】
ここで、一般的なスクロール圧縮機において、可動側ラップは巻き始め側から巻き終わり側まで歯厚が一定である。また、その他の例としては、可動側ラップの歯厚を巻き始め側から巻き終わり側に向かって一様な割合で薄くなるようにしたものもある。一般に、スクロール圧縮機の固定側ラップと可動側ラップはインボリュート曲線で形成されており、巻き始め側から巻き終わり側まで歯厚が一定の構成では、ラップの全体にわたってインボリュートの基礎円半径が一定であって変化しない。また、巻き始め側から巻き終わり側まで歯厚が一様に薄くなる構成では、ラップの巻き始め側から巻き終わり側に向かってインボリュートの基礎円半径が小さくなるようになっている。
【0048】
本実施形態では、可動側ラップ(42)の歯厚は、第1区間(Z1)と第4区間(Z4)では一定で同じ厚さであり、第2区間(Z2)では巻き終わり側に向かって厚くなり、第3区間(Z3)では巻き終わり側に向かって薄くなっている。この構成において、第1区間(Z1)と第4区間(Z4)のインボリュートの基礎円半径は同じであり、第2区間(Z2)ではインボリュートの基礎円半径が第1区間(Z1)と第4区間(Z4)よりも大きくなり、第3区間(Z3)ではインボリュートの基礎円半径が第1区間(Z1)と第4区間(Z4)よりも小さくなっている。第2区間(Z2)と第3区間(Z3)のインボリュートの基礎円中心は、第1区間(Z1)と第4区間(Z4)のインボリュートの基礎円中心と同じ位置でもよいし、異なる位置に設定してもよい。なお、巻き始めから巻き終わりまで歯厚が一定で形成される従来の可動側ラップの形状を、図3(A)に仮想線で示している。
【0049】
上記インジェクションポート(55)は、可動側ラップ(42)の第1区間(Z1)と第4区間(Z4)の歯厚寸法よりも若干大きな直径寸法で形成された円形の孔である。比較のため、図3(B)には、一定の歯厚で形成される従来の一般的な可動側ラップで閉塞可能なインジェクションポート(55')を仮想線で示している。本実施形態の可動側ラップ(42)は、第2区間(Z2)と第3区間(Z3)の厚さ寸法がインジェクションポート(55)の直径寸法以上の寸法になるように形成されていて、第1区間(Z1)と第4区間(Z4)のラップの歯厚寸法よりも大きな直径寸法で形成されたインジェクションポート(55)を、第2区間(Z2)から第3区間(Z3)の範囲で閉塞できるようになっている。
【0050】
具体的に、可動側ラップ(42)には、インジェクションポート(55)に対応する部位に、可動側ラップ(42)の巻き始め側から巻き終わり側に向かって歯厚が拡大する歯厚拡大部(45a)を含む厚肉部(45)が形成されている。また、この厚肉部(45)には、上記歯厚拡大部(45a)から可動側ラップ(42)の巻き終わり側に向かって歯厚が縮小する歯厚縮小部(45b)が含まれている。この歯厚拡大部(45a)は上記可動側ラップの第2区間(Z2)に形成され、上記歯厚縮小部(45b)は可動側ラップの第3区間(Z3)に形成されている。そして、上記厚肉部(45)の歯厚寸法がインジェクションポート(55)の直径寸法以上となっている。
【0051】
上記可動側ラップ(42)の厚肉部(45)は、該可動側ラップ(42)の内周面の渦巻き形状を基準として外周面(外側フランク面)が径方向外方へ膨出することにより形成されている。一方、上記固定側ラップ(52)には、上記可動側ラップ(42)の厚肉部(45)に対応して、該固定側ラップ(52)の内周面(内側フランク面)が径方向外方へ凹んだ凹陥部(57)が形成されている。
【0052】
−運転動作−
この実施形態では、可動スクロール(40)が旋回すると、インジェクションポート(55)は、可動スクロール(40)が旋回する様子を90°間隔で表している図4に示すように、固定側ラップ(52)の内周面と可動側ラップ(42)の外周面との間に形成される第1圧縮室(35a)と、固定側ラップ(52)の外周面と可動側ラップ(42)の内周面との間に形成される第2圧縮室(35b)とに交互に連通する。
【0053】
具体的には、可動スクロール(40)は、図4(A),(B),(C),(D)の順に旋回動作を行い、可動側ラップ(42)は、固定側ラップ(52)の内周面と外周面の間を旋回しながら往復動作をする。このとき、可動側ラップ(42)は、上記インジェクションポート(55)を径方向外方から内方へ、あるいは径方向内方から外方へ横切って移動する。
【0054】
可動側ラップ(42)がインジェクションポート(55)と固定側ラップ(52)の外周面との間に位置するとき(図4(B)参照)には、インジェクションポート(55)が第1圧縮室(35a)に連通し、可動側ラップ(42)がインジェクションポート(55)と固定側ラップ(52)の内周面との間に位置するとき(図4(D)参照)には、インジェクションポート(55)が第2圧縮室(35b)に連通する。インジェクションポート(55)が第1圧縮室(35a)に連通すると、該第1圧縮室(35a)へ中間圧冷媒が注入され、インジェクションポート(55)が第2圧縮室(35b)に連通すると、該第2圧縮室(35b)へ中間圧冷媒が注入される。
【0055】
可動側ラップ(42)には、厚さ寸法がインジェクションポート(55)の直径寸法以上の厚肉部(45)が形成されているので、可動側ラップ(42)がインジェクションポート(55)を横切るとき(図4(A),(C))には、インジェクションポート(55)は厚肉部(45)で閉塞される。このように、インジェクションポート(55)の全体が可動側ラップ(42)で塞がれるため、この実施形態において第1圧縮室(35a)と第2圧縮室(35b)が同時に連通する状態は生じない。
【0056】
なお、上記厚肉部(45)は、可動側ラップ(42)の内周面側を膨らませることにより形成したり、内周面側と外周面側の両方を膨らませることにより形成することが可能であるが、この実施形態では、上記厚肉部(45)を可動側ラップ(42)の外周面側を膨らませて形成し、固定側ラップ(52)には、それに対応した凹陥部(57)を形成するようにしている。このことにより、上記可動スクロール(40)は、その旋回時に、可動側ラップ(42)の外周側の厚肉部(45)の表面が固定側ラップ(52)の内周側の凹陥部(57)の表面に沿いながら位置が変化する。上記厚肉部(45)と凹陥部(57)が対応するように形成されているので、可動スクロール(40)の旋回時に厚肉部(45)と凹陥部(57)の間で動作の不具合や冷媒の漏れは生じない。
【0057】
また、この実施形態では、インジェクションポート(55)を吸入閉じ切り直後の圧縮室(35a、35b)と連通するように、可動側ラップ(42)の巻き始め側よりも巻き終わり側に近い位置に形成している。したがって、可動側ラップ(42)の厚肉部(45)も巻き終わり側に近い位置に形成され、固定側ラップ(52)の凹陥部(57)も巻き終わり側に近い位置に形成される。したがって、可動スクロール(40)の旋回時に、ラップ(42,52)の巻き終わり側の位置でインジェクションポート(55)が開閉される。
【0058】
さらに、対称渦巻き構造では可動側ラップ(42)と固定側ラップ(52)の巻き終わり端の吸入開口が2つあり、圧縮室も対称構造であるためにインジェクションポート(55)も一般に2つ設けられるが、この実施形態では、非対称渦巻き構造を採用しているから、可動側ラップ(42)と固定側ラップ(52)の巻き終わり端の吸入開口が1つであり、インジェクションポート(55)も1つにすることができる。
【0059】
また、非対称渦巻き構造であれば、インジェクションポート(55)を1つにして固定側ラップ(52)の渦巻きの溝の中央部に形成することにより、該インジェクションポート(55)を第1圧縮室(35a)と第2圧縮室(35b)で共用できるので、インジェクションポート(55)が2つある場合に比べて、インジェクションポート(55)が各圧縮室に開口する角度範囲が狭くなる。その結果、インジェクションポート(55)が第1圧縮室(35a)と第2圧縮室(35b)に交互に連通する間にインジェクションポート(55)が閉じられるとき、圧縮室の容積変化による圧力上昇が少ない状態となる。また、上述のようにインジェクションポート(55)を可動側ラップ(42)の巻き終わり側の低圧部分に形成しているから、その分だけインジェクションポート(55)の閉じ切りも早くなり、中間圧の上昇を抑えられる。
【0060】
−実施形態の効果−
本実施形態によれば、可動側ラップ(42)におけるインジェクションポート(55)に対応する部位に、該可動側ラップ(42)の巻き始め側から巻き終わり側に向かって歯厚が拡大する歯厚拡大部(45a)を含む厚肉部(45)を形成し、この厚肉部(45)の厚さ寸法をインジェクションポート(55)の直径寸法以上としている。したがって、本実施形態のようにインジェクションポート(55)を大きくしても、インジェクションポート(55)が閉じられるときには、インジェクションポート(55)の全体が可動側ラップ(42)で塞がれる。
【0061】
したがって、可動スクロール(40)の旋回中に第1圧縮室(35a)と第2圧縮室(35b)が連通する状態が生じないので、インジェクションポート(55)の直径を大きくしても第1圧縮室(35a)と第2圧縮室(35b)の間で冷媒が漏れるのを防止でき、圧縮機(1)の効率低下を抑えられる。また、インジェクションポート(55)の直径を大きくできるので、インジェクション流量を多くすることも可能になる。さらに、可動側ラップ(42)には、その一部に厚肉部(45)を設けるだけでよく、可動側ラップ(42)の全体の歯厚を大きくする場合に比べて可動スクロール(40)の質量が増加してしまうのも抑えられるので、機構の大型化やコストアップも抑えられる。
【0062】
また、可動側ラップ(42)の厚肉部(45)を上記歯厚拡大部(45a)と歯厚縮小部(45b)の範囲に形成しているので、歯厚拡大部(45a)よりも可動側ラップ(42)の巻き始め側の部分と、歯厚縮小部(45b)よりも可動側ラップ(42)の巻き終わり側の部分の両方を、厚肉部(45)よりも薄くすることができる。したがって、可動スクロール(40)の質量が増加するのをより確実に抑えることが可能になる。
【0063】
また、上記圧縮機構を非対称渦巻き構造にし、上記インジェクションポート(55)を固定側ラップ(52)の渦巻きの溝の中央部に形成するようにしているので、インジェクションポート(55)を1つにして第1圧縮室(35a)と第2圧縮室(35b)で共用できる。第1圧縮室(35a)用のインジェクションポート(55)と第2圧縮室(35b)用のインジェクションポート(55)を別々に設けると、インジェクションポート(55)が各圧縮室(35a,35b)に開口する角度範囲が広くなるのに対して、インジェクションポート(55)を1つにするとインジェクションポート(55)が各圧縮室(35a,35b)に開口する角度範囲を狭くすることができる。その結果、圧縮室(35a,35b)の容積変化による圧力上昇が少ない状態でインジェクションポート(55)を閉じることが可能になり、中間圧の上昇を抑えることができる。したがって、圧縮機の効率が悪くなるのを防止できる。
【0064】
また、特に、上記インジェクションポート(55)を、圧縮機構(30)の作動中における吸入閉じ切り直後の圧縮室と連通する位置に形成することにより、可動側ラップ(42)の厚肉部(45)も固定側ラップ(52)の凹陥部(57)も各ラップの最外周寄りの部分に形成することが可能になり、従来形状の非対称渦巻き構造に容易に適用することが可能になる。
【0065】
そして、可動側ラップ(42)の厚肉部(45)を該可動側ラップ(42)の外周側に形成し、固定側ラップ(52)の凹陥部(57)を上記厚肉部(45)に対応して該固定側ラップ(52)の内周側に形成しているので、可動スクロール(40)が旋回するときに該厚肉部(45)と凹陥部(57)の間での動作の不具合や冷媒の漏れは生じない。
【0066】
また、インジェクションポート(55)を可動側ラップ(42)の巻き始め側よりも巻き終わり側に近い位置に形成することができるので、可動側ラップ(42)の厚肉部(45)も固定側ラップ(52)の凹陥部(57)も巻き終わり側に近い位置に形成することができるから、厚肉部(45)も凹陥部(57)も巻き始め側に形成するよりも加工しやすく、製造を容易に行うことができる。
【0067】
さらに、可動側ラップ(42)の外周側を膨らませることも固定側ラップ(52)の内周側を凹ませることも、加工は容易であるから、このことも製造が複雑になるのを防止するのに寄与する。このように、歯厚を厚くするためにインボリュートの基礎円半径を操作する範囲が、固定スクロール(50)の内側フランク面及び可動スクロール(40)の外側フランク面のいずれも最外周部のみで可能であるから、従来の渦巻き(非対称渦巻き)への反映が比較的容易であるし、渦巻きの鏡板径を拡大することなく、渦巻き形状の変更だけで対応することも可能である。さらに、従来の非対称渦巻き形状に本発明の構造を適用する場合、渦巻きの重心位置が渦巻き中心に近くなるため、可動スクロール(40)のバランス取りに必要な重量を低減することもできる。
【0068】
《その他の実施形態》
上記実施形態については、以下のような構成としてもよい。
【0069】
例えば、上記実施形態では、可動側ラップ(42)の第2区間(Z2)と第3区間(Z3)の歯厚を第1区間(Z1)と第4区間(Z4)の歯厚よりも大きくして厚肉部(45)を形成するようにしているが、第3区間(Z3)と第4区間(Z4)を第2区間(Z2)の巻き終わりの厚さで形成し、第1区間(Z1)よりも第4区間(Z4)の歯厚が厚くなるようにしてもよい。また、可動側ラップ(42)の第1区間(Z1)から第2区間(Z2)を一つの区間にして徐々に歯厚が太くなるようにし、第3区間(Z3)と第4区間(Z4)は図3(A)と同じように形成してもよい。これらのいずれの構成でも、インジェクションポート(55)を大きくすることによりインジェクション流量を増やすことが可能であるし、インジェクションポート(55)の全体を可動側ラップ(42)の厚肉部(45)で塞ぐことができるので、第1圧縮室(35a)から第2圧縮室(35b)への冷媒の漏れは生じない。また、可動側ラップ(42)の全体の歯厚を太くしなくてもよいので、大型化やコスト増大も抑えられる。要するに、本発明の厚肉部(45)は、可動側ラップ(42)の歯厚の全体を太くせずにインジェクションポート(55)を大きくできるものであれば、形状は適宜変更してもよい。
【0070】
また、インジェクションポート(55)は、必ずしも吸入閉じ切り直後の圧縮室に連通する位置に形成しなくてもよく、場合によっては図3(B)の位置よりも渦巻きの内周寄りの位置に形成してもよい。
【0071】
また、図5の変形例に示すように、上記可動側ラップ(42)の厚肉部(45)は、上記歯厚拡大部(45a)と歯厚縮小部(45b)との間で該歯厚拡大部(45a)と歯厚縮小部(45b)に連接する連接部(45c)を含むように構成してもよい。歯厚拡大部(45a)の巻き終わり側端部と歯厚縮小部(45b)の巻き始め側端部の厚さが同じ場合は、連接部(45c)の歯厚は一定にすればよいし、歯厚拡大部(45a)の巻き終わり側端部と歯厚縮小部(45b)の巻き始め側端部の厚さが若干異なる場合は、連接部(45c)は歯厚変化が緩やかな部分にすればよい。
【0072】
また、上記実施形態ではインジェクションポート(55)を円形孔にしているが、図6の変形例に示すようにインジェクションポート(55)は長孔にしてもよい。このように、インジェクションポート(55)の形状は、上記実施形態に限定されるものではなく、上記厚肉部(45)の歯厚寸法が、その歯厚方向へのインジェクションポート(55)の開口寸法(上記実施形態では円形孔の直径寸法)以上の寸法になっている限りは、適宜変更することが可能である。
【0073】
さらに、上記実施形態では、本発明を非対称渦巻き構造のスクロール圧縮機に適用した例を説明したが、本発明は、対称渦巻き構造のスクロール圧縮機に適用してもよい。
【0074】
なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0075】
以上説明したように、本発明は、中間インジェクション機構を備えたスクロール圧縮機について有用である。
【符号の説明】
【0076】
1 スクロール圧縮機
30 圧縮機構
35a 第1圧縮室
35b 第2圧縮室
40 可動スクロール
41 可動側鏡板
42 可動側ラップ
45 厚肉部
45a 歯厚拡大部
45b 歯厚縮小部
50 固定スクロール
51 固定側鏡板
52 固定側ラップ
55 インジェクションポート
57 凹陥部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定側鏡板(51)と該固定側鏡板(51)に立設された渦巻き壁状の固定側ラップ(52)とを有する固定スクロール(50)と、可動側鏡板(41)と該可動側鏡板(41)に立設された渦巻き壁状の可動側ラップ(42)とを有する可動スクロール(40)とを有し、固定側ラップ(52)と可動側ラップ(42)が噛み合わされて両スクロール(40,50)の間に圧縮室(35a,35b)が形成される圧縮機構(30)を備え、
上記固定スクロール(50)に、上記固定側鏡板(51)に形成された連通路を通じて上記圧縮室(35a,35b)に連通するインジェクションポート(55)が形成されているスクロール圧縮機であって、
上記可動側ラップ(42)には、インジェクションポート(55)に対応する部位に、該可動側ラップ(42)の巻き始め側から巻き終わり側に向かって歯厚が拡大する歯厚拡大部(45a)を含む厚肉部(45)が形成され、該厚肉部(45)の厚さ寸法が、上記可動側ラップ(42)の歯厚方向へのインジェクションポート(55)の開口寸法以上であることを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項2】
請求項1において、
上記可動側ラップ(42)の厚肉部(45)は、上記歯厚拡大部(45a)側から該可動側ラップ(42)の巻き終わり側に向かって歯厚が縮小する歯厚縮小部(45b)を含んでいることを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項3】
請求項2において、
上記可動側ラップ(42)の厚肉部(45)は、上記歯厚拡大部(45a)と歯厚縮小部(45b)との間で該歯厚拡大部(45a)と歯厚縮小部(45b)に連接する連接部(45c)を含んでいることを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項4】
請求項1,2または3において、
上記可動側ラップ(42)の厚肉部(45)は、該可動側ラップ(42)の内周面の渦巻き形状を基準として外周面が径方向外方へ膨出することにより形成され、
上記固定側ラップ(52)には、上記可動側ラップ(42)の厚肉部(45)に対応して、該固定側ラップ(52)の内周面が径方向外方へ凹んだ凹陥部(57)が形成されていることを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項5】
請求項1から4の何れか1つにおいて、
上記インジェクションポート(55)は、圧縮機構(30)の作動中における吸入閉じ切り直後の圧縮室(35a,35b)と連通する位置に形成されていることを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項6】
請求項1から5の何れか1つにおいて、
上記圧縮機構(30)は、固定側ラップ(52)の渦巻き長さと可動側ラップ(42)の渦巻き長さが異なる非対称渦巻き構造に構成され、
上記インジェクションポート(55)が固定側ラップ(52)の渦巻きの溝の中央部に形成されていることを特徴とするスクロール圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−79643(P2013−79643A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−207171(P2012−207171)
【出願日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【特許番号】特許第5182446号(P5182446)
【特許公報発行日】平成25年4月17日(2013.4.17)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】