説明

スクロール圧縮機

【課題】オルダム継手の摺動部分に対して潤滑油を積極的に給油し、焼き付き等のトラブルを未然に防いでスクロール圧縮機の信頼性を向上させる。
【解決手段】固定スクロール(30)における可動スクロール(40)との摺接面には、高圧油導入溝(35)が形成される。可動スクロール(40)における固定スクロール(30)との摺接面には、間欠給油凹部(45)が形成される。間欠給油凹部(45)は、駆動軸(60)が1回転する間に、油補給位置と給油位置との間を移動する。ここで、油補給位置は、間欠給油凹部(45)が高圧油導入溝(35)に連通して高圧油導入溝(35)内の潤滑油を受け取る位置であり、給油位置は、間欠給油凹部(45)が固定側キー溝(36)に連通して固定側キー溝(36)内に潤滑油を給油する位置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクロール圧縮機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、固定スクロールと可動スクロールを備えたスクロール圧縮機が知られている。一般的なスクロール圧縮機には、可動スクロールの自転を規制するためにオルダム継手が設けられている。オルダム継手は、通常、可動スクロールとハウジングの間に配置される(例えば、特許文献1,2参照)。
【0003】
特許文献1に記載のスクロール圧縮機では、オルダム継手には可動側キー部と固定側キー部とが形成されており、可動側キー部が可動スクロールのキー溝に嵌り込み、固定側キー部がハウジングのキー溝に嵌り込んでいる。また、特許文献2に記載のスクロール圧縮機では、可動側キー部が可動スクロールのキー溝に嵌り込み、固定側キー部が固定スクロールのキー溝に嵌り込んでいる。そして、オルダム継手のキー部がキー溝の側壁と摺接することによって、可動スクロールの自転が規制される。
【0004】
ここで、特許文献1に記載のスクロール圧縮機では、オルダム継手に嵌り込むキー溝がハウジング側に形成された構造であるから、キー溝内に潤滑油が導入され、オルダム継手に対して成り行きで給油が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平07−279866号公報
【特許文献2】特許第4604008号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2に記載のスクロール圧縮機では、オルダム継手に嵌り込むキー溝が固定スクロール側に形成された構造であるから、ハウジング側にキー溝を形成した場合に比べてキー溝内に潤滑油が溜まりにくくなる。そのため、オルダム継手に対する給油量や給油位置がばらついてしまい、摺動部分に対して十分な量の潤滑油を給油できないという問題があった。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、オルダム継手の摺動部分に対して潤滑油を積極的に給油し、焼き付き等のトラブルを未然に防いでスクロール圧縮機の信頼性を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、固定スクロール(30)と、該固定スクロール(30)とともに圧縮室(21)を形成する可動スクロール(40)と、該可動スクロール(40)に係合して該可動スクロール(40)を回転駆動させる駆動軸(60)と、該駆動軸(60)を回転自在に支持するハウジング(50)と、該可動スクロール(40)と該ハウジング(50)の間に配置されて該可動スクロール(40)の自転を規制するオルダム継手(90)とを備えたスクロール圧縮機を対象とし、次のような解決手段を講じた。
【0009】
すなわち、第1の発明は、前記オルダム継手(90)は、リング状に形成されたリング部(95)と、該リング部(95)の該可動スクロール(40)側の面から突出する可動側キー部(91)及び固定側キー部(93)とを備え、
前記可動スクロール(40)には、前記可動側キー部(91)が摺動自在に嵌り込む可動側キー溝(46)が形成され、
前記固定スクロール(30)には、前記固定側キー部(93)が摺動自在に嵌り込む固定側キー溝(36)が形成され、
前記固定スクロール(30)における前記可動スクロール(40)との摺接面には、該摺接面を潤滑するための高圧の潤滑油が導入される高圧油導入溝(35)が形成され、
前記可動スクロール(40)における前記固定スクロール(30)との摺接面には、前記駆動軸(60)が1回転する間に、前記高圧油導入溝(35)に連通して該高圧油導入溝(35)内の潤滑油を受け取る油補給位置と、前記固定側キー溝(36)に連通して該固定側キー溝(36)内に潤滑油を給油する給油位置との間を移動する間欠給油凹部(45)が形成されていることを特徴とするものである。
【0010】
第1の発明では、可動スクロール(40)の可動側キー溝(46)には、オルダム継手(90)の可動側キー部(91)が摺動自在に嵌り込んでいる。固定スクロール(30)の固定側キー溝(36)には、オルダム継手(90)の固定側キー部(93)が摺動自在に嵌り込んでいる。固定スクロール(30)における可動スクロール(40)との摺接面には、高圧油導入溝(35)が形成される。可動スクロール(40)における固定スクロール(30)との摺接面には、間欠給油凹部(45)が形成される。間欠給油凹部(45)は、駆動軸(60)が1回転する間に、油補給位置と給油位置との間を移動する。ここで、油補給位置は、間欠給油凹部(45)が高圧油導入溝(35)に連通して高圧油導入溝(35)内の潤滑油を受け取る位置であり、給油位置は、間欠給油凹部(45)が固定側キー溝(36)に連通して固定側キー溝(36)内に潤滑油を給油する位置である。
【0011】
このような構成とすれば、オルダム継手(90)の摺動部分に対して潤滑油を積極的に給油し、焼き付き等のトラブルを未然に防いでスクロール圧縮機の信頼性を向上させることができる。
【0012】
具体的に、従来のスクロール圧縮機では、固定側キー溝(36)に溜められた潤滑油がオルダム継手(90)に対して成り行きで給油されるのみであった。そして、固定スクロール(30)側に固定側キー溝(36)が形成された構造では、固定側キー溝(36)内に潤滑油が溜められにくいため、オルダム継手(90)に対する給油量や給油位置がばらついてしまい、摺動部分に対して十分な量の潤滑油を給油できないという問題があった。
【0013】
これに対し、本発明では、駆動軸(60)が1回転する間に、油補給位置において間欠給油凹部(45)を高圧油導入溝(35)に連通させて高圧油導入溝(35)内の潤滑油を受け取り、給油位置において間欠給油凹部(45)を固定側キー溝(36)に連通させて固定側キー溝(36)内に潤滑油を給油するようにしたから、オルダム継手(90)の摺動部分に対して潤滑油を積極的に給油することができる。
【0014】
また、間欠給油凹部(45)によってオルダム継手(90)に対して間欠給油をすることで、高圧油導入溝(35)を固定側キー溝(36)に直接連通させた場合に比べて、高圧の圧縮室(21)側から中間圧もしくは低圧の固定側キー溝(36)側へと潤滑油が漏れ出すのを抑え、性能の低下を軽減することができる。
【0015】
また、オルダム継手(90)に対して成り行きで給油する場合には、オルダム継手(90)に対する給油量を制御することが困難であるが、間欠給油凹部(45)の容積を適宜設定することで、所望の給油量を確保することができる。
【0016】
第2の発明は、第1の発明において、
前記固定スクロール(30)には、前記高圧油導入溝(35)よりも径方向外側に、前記固定側キー溝(36)に連通する給油通路(38)が形成され、
前記間欠給油凹部(45)は、前記給油位置において前記給油通路(38)に連通することで、該給油通路(38)を介して前記固定側キー溝(36)内に潤滑油を給油するように構成されていることを特徴とするものである。
【0017】
第2の発明では、固定スクロール(30)には、給油通路(38)が形成される。給油通路(38)は、高圧油導入溝(35)よりも径方向外側に形成され、固定側キー溝(36)に連通している。間欠給油凹部(45)は、給油位置において給油通路(38)に連通される。これにより、給油通路(38)を介して固定側キー溝(36)内に潤滑油が給油される。
【0018】
このような構成とすれば、固定スクロール(30)に給油通路(38)を形成することで、オルダム継手(90)に対する給油位置を適宜設定することができる。これにより、オルダム継手(90)の摺動部分に対して確実に潤滑油を給油することができる。
【0019】
第3の発明は、第2の発明において、
前記給油通路(38)は、前記可動スクロール(40)との摺接面から上方に延びた後で径方向外方に延びることで前記固定側キー溝(36)側に開口していることを特徴とするものである。
【0020】
第3の発明では、給油通路(38)は、可動スクロール(40)との摺接面から上方に延びた後で径方向外方に延びることで固定側キー溝(36)側に開口される。
【0021】
このような構成とすれば、給油通路(38)を介して固定側キー溝(36)内の上方位置から潤滑油を噴出することができ、オルダム継手(90)の摺動部分を広範囲にわたって潤滑することができる。
【0022】
第4の発明は、第2の発明において、
前記給油通路(38)の前記固定側キー溝(36)側の開口部は、前記固定側キー部(93)の摺動面に向かって給油可能な位置に開口していることを特徴とするものである。
【0023】
第4の発明では、固定側キー部(93)の摺動面に向かって給油可能な位置には、給油通路(38)の固定側キー溝(36)側の開口部が開口される。
【0024】
このような構成とすれば、固定側キー部(93)の摺動面に向かって潤滑油を直接給油することができ、オルダム継手(90)の摺動部分に対して確実に潤滑油を給油することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、駆動軸(60)が1回転する間に、油補給位置において間欠給油凹部(45)を高圧油導入溝(35)に連通させて高圧油導入溝(35)内の潤滑油を受け取り、給油位置において間欠給油凹部(45)を固定側キー溝(36)に連通させて固定側キー溝(36)内に潤滑油を給油するようにしたから、オルダム継手(90)の摺動部分に対して潤滑油を積極的に給油することができる。これにより、焼き付き等のトラブルを未然に防いでスクロール圧縮機の信頼性を向上させることができる。
【0026】
また、間欠給油凹部(45)によってオルダム継手(90)に対して間欠給油をすることで、高圧油導入溝(35)を固定側キー溝(36)に直接連通させた場合に比べて、高圧の圧縮室(21)側から中間圧もしくは低圧の固定側キー溝(36)側へと潤滑油が漏れ出すのを抑え、性能の低下を軽減することができる。
【0027】
また、オルダム継手(90)に対して成り行きで給油する場合には、オルダム継手(90)に対する給油量を制御することが困難であるが、間欠給油凹部(45)の容積を適宜設定することで、所望の給油量を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施形態1に係るスクロール圧縮機の全体を示す縦断面図である。
【図2】オルダム継手の構成を示す平面図である。
【図3】オルダム継手の構成を示す側面図である。
【図4】間欠給油凹部が油補給位置に位置付けられた状態を示す側面断面図である。
【図5】間欠給油凹部が給油位置に位置付けられた状態を示す側面断面図である。
【図6】間欠給油凹部が給油位置に位置付けられた状態を示す平面断面図である。
【図7】本変形例に係るスクロール圧縮機の図6相当図である。
【図8】本実施形態2に係るスクロール圧縮機の図5相当図である。
【図9】本実施形態3に係るスクロール圧縮機の図6相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0030】
《実施形態1》
図1は、本発明の実施形態1に係るスクロール圧縮機の全体を示す縦断面図である。図1に示すように、本実施形態のスクロール圧縮機(10)は、いわゆる全密閉型の圧縮機である。スクロール圧縮機(10)は、冷凍サイクルを行う冷媒回路に接続され、冷媒回路の冷媒を吸入して圧縮する。
【0031】
〈全体構成〉
図1に示すように、スクロール圧縮機(10)では、ケーシング(15)の内部空間に、圧縮機構(20)と、電動機(80)と、下部軸受部材(85)と、駆動軸(60)とが収容されている。ケーシング(15)は、縦長の円筒状に形成された密閉容器である。また、駆動軸(60)は、その軸方向がケーシング(15)の高さ方向に沿う姿勢で配置されている。なお、圧縮機構(20)の詳細な構造については、後述する。
【0032】
ケーシング(15)には、吸入管(16)と、吐出管(17)とが取り付けられている。吸入管(16)及び吐出管(17)は、何れもケーシング(15)を貫通している。吸入管(16)は、圧縮機構(20)に接続されている。吐出管(17)は、ケーシング(15)の内部空間における電動機(80)と圧縮機構(20)の間の部分に開口している。
【0033】
下部軸受部材(85)は、中央円筒部(86)と、アーム部(87)とを備えている。中央円筒部(86)は、概ね円筒状に形成されている。アーム部(87)は、中央円筒部(86)の外周面から外側へ延びてケーシング(15)に固定されている。中央円筒部(86)の上端部には、軸受メタル(88)が挿入されている。軸受メタル(88)には、駆動軸(60)の主軸部(61)の下端部が挿通され、駆動軸(60)を回転自在に支持している。
【0034】
電動機(80)は、ケーシング(15)の内周面に固定された固定子(81)と、固定子(81)の内側に配置された回転子(82)とを備えている。回転子(82)は、駆動軸(60)の主軸部(61)が貫通し、駆動軸(60)に固定されている。
【0035】
駆動軸(60)には、主軸部(61)と、バランスウェイト部(62)と、偏心部(63)とが設けられている。バランスウェイト部(62)は、主軸部(61)の軸方向の途中に配置されている。主軸部(61)は、バランスウェイト部(62)よりも下側の部分が電動機(80)の回転子(82)を貫通している。
【0036】
偏心部(63)は、主軸部(61)よりも小径の円柱状に形成され、主軸部(61)の上端面に突設されている。偏心部(63)の軸心は、主軸部(61)の軸心と平行で且つ主軸部(61)の軸心に対して偏心している。偏心部(63)は、後述するハウジング(50)の中央膨出部(52)の軸受メタル(53)に係合されている。
【0037】
駆動軸(60)には、軸内給油路(70)が形成されている。軸内給油路(70)は、駆動軸(60)の軸心に沿って延びており、その一端が主軸部(61)の下端に、その他端が偏心部(63)の上端面に、それぞれ開口している。軸内給油路(70)の途中には、駆動軸(60)の径方向外側に延びて下部軸受部材(85)や圧縮機構(20)の摺動箇所へ潤滑油を供給するための分岐路(71)が形成されている。
【0038】
ケーシング(15)の底部には、潤滑油が溜められている。駆動軸(60)が回転すると、ケーシング(15)の底部に溜められた潤滑油が軸内給油路(70)へ吸い上げられる。軸内給油路(70)を流れる潤滑油は、分岐路(71)を通って下部軸受部材(85)や圧縮機構(20)の摺動箇所へ供給される。
【0039】
〈圧縮機構の構成〉
圧縮機構(20)は、ハウジング(50)と、固定スクロール(30)と、可動スクロール(40)と、オルダム継手(90)とを備えている。圧縮機構(20)では、固定スクロール(30)と可動スクロール(40)によって、圧縮室(21)が形成される。オルダム継手(90)は、可動スクロール(40)の自転運動を規制するための部材である。
【0040】
ハウジング(50)は、厚肉の円板状に形成されており、その外周縁部がケーシング(15)の内周面に固定されている。ハウジング(50)の中央部には、中央凹部(51)と、環状凸部(54)とが形成されている。中央凹部(51)は、ハウジング(50)の上面に開口する円柱状の窪みである。環状凸部(54)は、中央凹部(51)の外周に沿って形成され、ハウジング(50)の上面から突出している。
【0041】
ハウジング(50)には、中央膨出部(52)が形成されている。中央膨出部(52)は、中央凹部(51)の下側に位置して下方へ膨出している。中央膨出部(52)には、中央膨出部(52)を上下に貫通する貫通孔が形成されており、この貫通孔に軸受メタル(53)が挿入されている。中央膨出部(52)の軸受メタル(53)には、駆動軸(60)の主軸部(61)が挿通されている。ハウジング(50)の上面における環状凸部(54)の外側の部分は、平坦面となっている。この平坦面がオルダム継手(90)と摺接する。
【0042】
ハウジング(50)の上面には、固定スクロール(30)と、可動スクロール(40)とが載置されている。固定スクロール(30)は、ボルト等によってハウジング(50)に固定されている。一方、可動スクロール(40)は、駆動軸(60)により駆動されて公転運動を行う。
【0043】
可動スクロール(40)は、可動側鏡板部(41)と、可動側ラップ(42)と、円筒部(43)とを一体に形成した部材である。可動側鏡板部(41)は、円板状に形成されている。可動側ラップ(42)は、渦巻き壁状に形成されており、可動側鏡板部(41)の上面に突設されている。円筒部(43)は、円筒状に形成され、可動側鏡板部(41)の下面に突設されている。この円筒部(43)は、ハウジング(50)の中央凹部(51)へ上方から挿入されている。円筒部(43)には、軸受メタル(44)が挿入されている。円筒部(43)の軸受メタル(44)には、駆動軸(60)の偏心部(63)が下方から挿入されている。可動スクロール(40)の可動側鏡板部(41)の背面は、ハウジング(50)の環状凸部(54)の突端面に設けられたシールリング(58)と摺接する。
【0044】
可動スクロール(40)には、可動側鏡板部(41)の下面に開口する可動側キー溝(46)が形成されている。可動側キー溝(46)は、駆動軸(60)の偏心部(63)の中心軸と直交する方向に沿って延びる細長い溝である。可動スクロール(40)では、可動側鏡板部(41)の下面がオルダム継手(90)と摺接する。
【0045】
ここで、オルダム継手(90)のリング部(95)と、可動スクロール(40)の可動側鏡板部(41)と、ハウジング(50)の環状凸部(54)及び平坦面とによって囲まれた空間は、油溜め空間(24)とされている。
【0046】
油溜め空間(24)には、偏心部(63)の潤滑に利用されて中央凹部(51)に流れ込んだ潤滑油が流入する。具体的に、中央凹部(51)内の潤滑油は、可動スクロール(40)の可動側鏡板部(41)とシールリング(58)の隙間から油溜め空間(24)へ漏れ出し、油溜め空間(24)に溜められる。油溜め空間(24)に溜められた潤滑油は、可動側キー溝(46)内に入り込んで可動側キー部(91)と可動側キー溝(46)との摺動面を潤滑する。
【0047】
固定スクロール(30)は、固定側鏡板部(31)と、固定側ラップ(32)と、外周部(33)とを一体に形成した部材である。固定側鏡板部(31)は、円板状に形成されている。固定側ラップ(32)は、渦巻き壁状に形成されており、固定側鏡板部(31)の下面に突設されている。外周部(33)は、固定側鏡板部(31)の外周部(33)から下方へ延びる厚肉のリング状に形成され、固定側ラップ(32)の周囲を囲っている。
【0048】
固定側鏡板部(31)には、吐出ポート(22)が形成されている。吐出ポート(22)は、固定側鏡板部(31)の中央付近に形成された貫通孔であって、固定側鏡板部(31)を厚さ方向に貫通している。また、固定側鏡板部(31)の外周付近には、吸入管(16)が挿入されている。
【0049】
圧縮機構(20)には、吐出ガス通路(23)が形成されている。この吐出ガス通路(23)は、その始端が吐出ポート(22)に連通している。図示しないが、吐出ガス通路(23)は、固定スクロール(30)からハウジング(50)に亘って形成されており、その他端がハウジング(50)の下面に開口している。
【0050】
圧縮機構(20)において、固定スクロール(30)と可動スクロール(40)は、固定側鏡板部(31)の下面と可動側鏡板部(41)の上面が互いに向かい合い、固定側ラップ(32)と可動側ラップ(42)が互いに噛み合うように配置されている。そして、圧縮機構(20)では、固定側ラップ(32)と可動側ラップ(42)とが互いに噛み合うことによって、複数の圧縮室(21)が形成される。
【0051】
図2は、オルダム継手の構成を示す平面図、図3は側面図である。図2及び図3に示すように、オルダム継手(90)は、1つのリング部(95)と、2つの可動側キー部(91)と、2つの固定側キー部(93)とを備えている。リング部(95)の厚さは、リング部(95)の全周に亘って一定となっている。リング部(95)の上面は、可動スクロール(40)の可動側鏡板部(41)の下面と摺接する。一方、リング部(95)の下面は、ハウジング(50)の上面における環状凸部(54)の外側の平坦面と摺接する。
【0052】
リング部(95)には、その径方向の外側へ突出した部分が4つ形成されており、その部分に可動側キー部(91)と固定側キー部(93)が1つずつ突設されている。可動側キー部(91)と固定側キー部(93)は、リング部(95)の周方向において90°間隔で交互に配置されている。可動側キー部(91)及び固定側キー部(93)は、概ね直方体状の突起であって、リング部(95)の上面から突出している。
【0053】
図4に示すように、固定スクロール(30)の外周部(33)の下面には、固定側キー溝(36)が形成されている。固定側キー部(93)は、固定側キー溝(36)に嵌り込む。固定側キー部(93)の幅は、固定側キー溝(36)の幅よりも僅かに狭くなっている。
【0054】
固定スクロール(30)の外周部(33)の下面(つまり、可動スクロール(40)との摺接面)には、高圧の潤滑油が導入される高圧油導入溝(35)が形成されている。具体的に、高圧油導入溝(35)は、固定スクロール(30)の外周部(33)の内周縁に沿うように延びている。
【0055】
可動スクロール(40)の可動側鏡板部(41)の上面(つまり、固定スクロール(30)との摺接面)には、間欠給油凹部(45)が形成されている。間欠給油凹部(45)は、駆動軸(60)が1回転する間に、高圧油導入溝(35)に連通して高圧油導入溝(35)内の潤滑油を受け取る油補給位置(図4の位置)と、固定側キー溝(36)に連通して固定側キー溝(36)内に潤滑油を給油する給油位置(図5の位置)との間で移動する。
【0056】
つまり、間欠給油凹部(45)は、油補給位置において高圧油導入溝(35)内の潤滑油を受け取った後、給油位置において固定側キー溝(36)に連通すると、間欠給油凹部(45)内の潤滑油が固定側キー溝(36)内に噴出されるようになっている。これにより、オルダム継手(90)の摺動部分に対して潤滑油を積極的に給油することができる。
【0057】
−運転動作−
次に、スクロール圧縮機(10)の運転動作について、図1を参照しながら説明する。スクロール圧縮機(10)において、電動機(80)へ通電すると、駆動軸(60)によって可動スクロール(40)が駆動される。可動スクロール(40)は、その自転運動がオルダム継手(90)によって規制されており、自転運動は行わずに公転運動だけを行う。
【0058】
可動スクロール(40)が公転運動を行うと、吸入管(16)を通って圧縮機構(20)へ流入した低圧のガス冷媒が、固定側ラップ(32)及び可動側ラップ(42)の外周側端部付近から圧縮室(21)へ吸入される。可動スクロール(40)がさらに移動すると、圧縮室(21)が吸入管(16)から遮断された閉じきり状態となり、その後、圧縮室(21)は、固定側ラップ(32)及び可動側ラップ(42)に沿ってそれらの内周側端部へ向かって移動してゆく。その過程で圧縮室(21)の容積が次第に減少し、圧縮室(21)内のガス冷媒が圧縮されてゆく。
【0059】
可動スクロール(40)の移動に伴って圧縮室(21)の容積が次第に縮小してゆくと、やがて圧縮室(21)は吐出ポート(22)に連通する。そして、圧縮室(21)内で圧縮された冷媒(すなわち、高圧のガス冷媒)は、吐出ポート(22)を通って吐出ガス通路(23)へ流入し、その後にケーシング(15)の内部空間における圧縮機構(20)と電動機(80)の間の部分へ吐出される。ケーシング(15)の内部空間へ吐出された高圧のガス冷媒は、吐出管(17)を通ってケーシング(15)の外部へ流出してゆく。
【0060】
ケーシング(15)の内部空間には、潤滑油が溜められている。ケーシング(15)内に溜められた潤滑油の圧力は、圧縮機構(20)から吐出されたガス冷媒の圧力と実質的に等しくなっている。スクロール圧縮機(10)の運転中には、駆動軸(60)が回転し、ケーシング(15)の底部に溜められた潤滑油が軸内給油路(70)へ吸い上げられる。軸内給油路(70)を流れる潤滑油は、その一部が分岐路(71)へ流入し、残りが軸内給油路(70)の上端から流出する。
【0061】
−オルダム継手の潤滑−
可動側キー部(91)の摺動面は、油溜め空間(24)に溜められた潤滑油によって潤滑される。具体的に、ハウジング(50)の中央凹部(51)には、偏心部(63)の潤滑に利用された潤滑油が流れ込む。中央凹部(51)内の潤滑油は、可動スクロール(40)の可動側鏡板部(41)とシールリング(58)の隙間から油溜め空間(24)へ漏れ出す。油溜め空間(24)に溜められた潤滑油は、可動側キー部(91)と可動側キー溝(46)との摺動面に給油され、オルダム継手(90)の可動側キー部(91)の摺動面が潤滑される。
【0062】
次に、固定側キー部(93)の摺動面を潤滑する動作について、図4〜図6を参照しながら説明する。図4に示すように、オルダム継手(90)の固定側キー部(93)は、固定スクロール(30)の固定側キー溝(36)に嵌り込んでいる。図4に示すオルダム継手(90)の位置は、可動スクロール(40)の間欠給油凹部(45)に潤滑油を補給する油補給位置であり、可動スクロール(40)の間欠給油凹部(45)が固定スクロール(30)の高圧油導入溝(35)に連通している。
【0063】
そして、駆動軸(60)が回転すると、可動スクロール(40)が公転運動を行う。このとき、間欠給油凹部(45)は、図6に仮想線で示す軌跡に沿って移動する。可動スクロール(40)が図5及び図6に示す給油位置に移動すると、間欠給油凹部(45)が固定側キー溝(36)に連通する。これにより、間欠給油凹部(45)内の潤滑油は、固定側キー溝(36)内に噴出され、オルダム継手(90)の摺動部分、つまり、固定側キー部(93)と固定側キー溝(36)との摺動面に給油される。
【0064】
このように、駆動軸(60)が1回転する間に、高圧油導入溝(35)内の潤滑油を間欠給油凹部(45)で受け取る油補給動作と、間欠給油凹部(45)が固定側キー溝(36)に連通して間欠給油凹部(45)内の潤滑油が固定側キー溝(36)内に噴出される給油動作とが行われる。
【0065】
−実施形態1の効果−
以上のように、本実施形態1に係るスクロール圧縮機(10)によれば、駆動軸(60)が1回転する間に、油補給位置において間欠給油凹部(45)を高圧油導入溝(35)に連通させて高圧油導入溝(35)内の潤滑油を受け取り、給油位置において間欠給油凹部(45)を固定側キー溝(36)に連通させて固定側キー溝(36)内に潤滑油を給油するようにしたから、オルダム継手(90)の摺動部分に対して潤滑油を積極的に給油することができる。これにより、焼き付き等のトラブルを未然に防いでスクロール圧縮機の信頼性を向上させることができる。
【0066】
また、間欠給油凹部(45)によってオルダム継手(90)に対して間欠給油をすることで、高圧油導入溝(35)を固定側キー溝(36)に直接連通させた場合に比べて、高圧の圧縮室(21)側から中間圧もしくは低圧の固定側キー溝(36)側へと潤滑油が漏れ出すのを抑え、性能の低下を軽減することができる。
【0067】
《変形例》
図7は、本変形例に係るスクロール圧縮機の図6相当図である。図7に示すように、可動スクロール(40)の間欠給油凹部(45)は、楕円形状に形成されている。つまり、前記実施形態1のように間欠給油凹部(45)を円形状に形成した場合に比べて、間欠給油凹部(45)の容積が大きくなっている。
【0068】
このような構成とすれば、間欠給油凹部(45)の容積を適宜設定することで、オルダム継手(90)に対する給油量を制御して、所望の給油量を確保することができる。
【0069】
なお、本変形例では、間欠給油凹部(45)の形状を楕円形状とした形態について説明したが、この形態に限定するものではない。例えば、長円状や矩形状にする等、間欠給油凹部(45)の形状については様々な形態を適用可能である。
【0070】
《実施形態2》
図8は、本実施形態2に係るスクロール圧縮機の図5相当図である。前記実施形態1との違いは、固定スクロール(30)に給油通路(38)を設けた点であるため、以下、実施形態1と同じ部分については同じ符号を付し、相違点についてのみ説明する。
【0071】
図8に示すように、固定スクロール(30)の外周部(33)には、高圧油導入溝(35)よりも径方向外側に、固定側キー溝(36)に連通する給油通路(38)が形成されている。給油通路(38)は、可動スクロール(40)との摺接面から上方に延びた後で径方向外方に延びることで固定側キー溝(36)側に開口している。
【0072】
そして、間欠給油凹部(45)は、油補給位置において高圧油導入溝(35)に連通する一方、給油位置において給油通路(38)に連通する。つまり、駆動軸(60)が1回転する間に、高圧油導入溝(35)内の潤滑油を間欠給油凹部(45)で受け取る油補給動作と、間欠給油凹部(45)が給油通路(38)に連通し、間欠給油凹部(45)内の潤滑油が給油通路(38)を介して固定側キー溝(36)内に噴出される給油動作とが行われる。
【0073】
このような構成とすれば、給油通路(38)を介して固定側キー溝(36)内の上方位置から潤滑油を噴出することができ、オルダム継手(90)の摺動部分を広範囲にわたって潤滑することができる。
【0074】
《実施形態3》
図9は、本実施形態3に係るスクロール圧縮機の図6相当図である。図9に示すように、固定スクロール(30)には、高圧油導入溝(35)よりも径方向外側に、固定側キー溝(36)に連通する給油通路(38)が形成されている。給油通路(38)は、可動スクロール(40)との摺接面から上方に延びた後で径方向外方に延びている。ここで、給油通路(38)の固定側キー溝(36)側の開口部は、固定側キー溝(36)の側壁面に開口している。つまり、給油通路(38)を通った潤滑油は、固定側キー部(93)の側壁面に向かって給油される。 そして、間欠給油凹部(45)は、油補給位置において高圧油導入溝(35)に連通する一方、給油位置において給油通路(38)に連通する。つまり、駆動軸(60)が1回転する間に、高圧油導入溝(35)内の潤滑油を間欠給油凹部(45)で受け取る油補給動作と、間欠給油凹部(45)が給油通路(38)に連通し、間欠給油凹部(45)内の潤滑油が給油通路(38)を介して固定側キー部(93)の側壁面に噴出される給油動作とが行われる。
【0075】
このような構成とすれば、固定側キー部(93)の摺動面に向かって潤滑油を直接給油することができ、オルダム継手(90)の摺動部分に対して確実に潤滑油を給油することができる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
以上説明したように、本発明は、オルダム継手の摺動部分に対して潤滑油を積極的に給油し、焼き付き等のトラブルを未然に防いでスクロール圧縮機の信頼性を向上させることができるという実用性の高い効果が得られることから、きわめて有用で産業上の利用可能性は高い。
【符号の説明】
【0077】
10 スクロール圧縮機
21 圧縮室
30 固定スクロール
35 高圧油導入溝
36 給油通路
40 可動スクロール
45 間欠給油凹部
46 可動側キー溝
50 ハウジング
56 固定側キー溝
60 駆動軸
90 オルダム継手
91 可動側キー部
93 固定側キー部
95 リング部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定スクロール(30)と、該固定スクロール(30)とともに圧縮室(21)を形成する可動スクロール(40)と、該可動スクロール(40)に係合して該可動スクロール(40)を回転駆動させる駆動軸(60)と、該駆動軸(60)を回転自在に支持するハウジング(50)と、該可動スクロール(40)と該ハウジング(50)の間に配置されて該可動スクロール(40)の自転を規制するオルダム継手(90)とを備えたスクロール圧縮機であって、
前記オルダム継手(90)は、リング状に形成されたリング部(95)と、該リング部(95)の該可動スクロール(40)側の面から突出する可動側キー部(91)及び固定側キー部(93)とを備え、
前記可動スクロール(40)には、前記可動側キー部(91)が摺動自在に嵌り込む可動側キー溝(46)が形成され、
前記固定スクロール(30)には、前記固定側キー部(93)が摺動自在に嵌り込む固定側キー溝(36)が形成され、
前記固定スクロール(30)における前記可動スクロール(40)との摺接面には、該摺接面を潤滑するための高圧の潤滑油が導入される高圧油導入溝(35)が形成され、
前記可動スクロール(40)における前記固定スクロール(30)との摺接面には、前記駆動軸(60)が1回転する間に、前記高圧油導入溝(35)に連通して該高圧油導入溝(35)内の潤滑油を受け取る油補給位置と、前記固定側キー溝(36)に連通して該固定側キー溝(36)内に潤滑油を給油する給油位置との間を移動する間欠給油凹部(45)が形成されていることを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項2】
請求項1において、
前記固定スクロール(30)には、前記高圧油導入溝(35)よりも径方向外側に、前記固定側キー溝(36)に連通する給油通路(38)が形成され、
前記間欠給油凹部(45)は、前記給油位置において前記給油通路(38)に連通することで、該給油通路(38)を介して前記固定側キー溝(36)内に潤滑油を給油するように構成されていることを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項3】
請求項2において、
前記給油通路(38)は、前記可動スクロール(40)との摺接面から上方に延びた後で径方向外方に延びることで前記固定側キー溝(36)側に開口していることを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項4】
請求項2において、
前記給油通路(38)の前記固定側キー溝(36)側の開口部は、前記固定側キー部(93)の摺動面に向かって給油可能な位置に開口していることを特徴とするスクロール圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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