説明

スクロール式流体機械

【課題】スクロール式流体機械において、スクロール内の膨張室の作動流体の漏れを確実に防止して駆動効率を向上させることを目的としている。
【解決手段】鏡板5aの両側に揺動スクロールラップ25を有する揺動スクロール5と、該揺動スクロール5の軸方向の両側に配置されると共に固定スクロールラップ26を有する一対の固定スクロール6と、揺動スクロール5の径方向の外周端部に取り付けられた一対の揺動軸受44と、該揺動軸受44が嵌合する偏芯軸部12を有するクランク軸11と、を備えている。揺動軸受44の内輪に、前記揺動軸受44のクランク軸芯回りの位相と略180°の位相差のバランサ仕組み37を取り付ける。該バランサ仕組み37は、偏芯軸部12の外周面に径方向の隙間23を有するように嵌合すると共に、キー28等の回転止め部材により前記偏芯軸部12に対して相対回転しないように回転止めされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容積型の膨張機または圧縮機として用いられるスクロール式流体機械に関し、特に、揺動スクロールの軸方向の両側に一対の固定スクロールを配置し、一対のクランク軸を径方向の外方に配置した外周駆動型のスクロール式流体機械に関する。
【背景技術】
【0002】
スクロール式流体機械としては、上記のように、揺動スクロールの軸方向の両側に一対の固定スクロールを配置し、一対のクランク軸を径方向の外方に配置した外周駆動型のスクロール式流体機械(特許文献1、2及び3)と、揺動スクロールの鏡板の軸方向の片面のみに固定スクロールを配置し、クランク軸をスクロール軸芯部分に配置した中央駆動型のスクロール式流体機械(特許文献4等)がある。
【0003】
前者の外周駆動型のスクロール式流体機械は、後者の中央駆動型のスクロール式流体機械と比べ、略2倍の容量を確保できると共に、内部の作動媒体から揺動スクロールの鏡面に掛かる軸方向の圧力が、軸方向の両方で均衡するので、結果的に、揺動スクロールに対しては軸方向のスラスト力が働かず、その分、機械損失を低減することができる。
【特許文献1】特開平5−35189号公報
【特許文献2】特開2000−27773号公報
【特許文献3】特開2001−227481号公報
【特許文献4】特公平6−3192号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが前者のような外周駆動型のスクロール式流体機械では、次のような課題が残っている。
【0005】
一対の固定スクロールを備えた従来の外周駆動型スクロール式流体機械は、いずれもクランク軸の回転軸芯回りの揺動半径が一定に設定されているので、加工精度や作動中の熱膨張等により、固定スクロールラップと揺動スクロールラップとの径方向の過大な圧接力が発生するのを避けるために、固定スクロールラップと揺動スクロールラップとの間に、所定の径方向の隙間を確保するように設計しなければならない。ところが、このような隙間を確保していると、スクロールラップ間で形成された高圧側の部屋から低圧の部屋への作動媒体の漏れ量が大きくなり、駆動効率低下の原因になっている。
【0006】
上記隙間からの作動流体の漏れを防ぐために、たとえば前記特許文献1では、固定スクロールと揺動スクロールとに間に特別の蛇腹状のシール部材を配置しているが、シール部材の寿命も長く維持することは困難である。
【0007】
(発明の目的)
本発明は、固定スクロールラップと揺動スクロールラップとに間に、特別のシール部材を配設せずとも、スクロール内の部屋間の作動流体の漏れを確実に防止して駆動効率を向上させ、かつ、揺動スクロールが、摩擦抵抗等で作動不良になることなく、円滑に駆動できる外周駆動型スクロール式流体機械を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本願発明は、鏡板の両側に渦巻き状の揺動スクロールラップを有する揺動スクロールと、該揺動スクロールの軸方向の両側に配置されると共に前記揺動スクロールラップと噛み合う固定スクロールラップを有する一対の固定スクロールと、前記揺動スクロールの径方向の外周端部に取り付けられた一対の揺動軸受と、該揺動軸受が嵌合する偏芯軸部を有する出力用又は入力用のクランク軸と、を備えたスクロール式流体機械において、各揺動軸受の内輪に、前記揺動軸受のクランク軸芯回りの位相と略180°の位相差のウエイト重心を有するバランサ仕組みをそれぞれ取り付け、該バランサ仕組みは、前記偏芯軸部の外周面に径方向の隙間を有するように嵌合すると共に、回転止め部材により前記偏芯軸部に対して相対回転しないように回転止めされている。
【0009】
上記構成によると、クランク軸の偏芯軸部の外周面とバランサ仕組みの内周面との間に径方向の隙間を形成していることにより、揺動スクロールの公転半径が可変となり、かつ、揺動軸受の内輪にバランサ仕組みを取り付け、揺動スクロールの過大な遠心力を抑制しているので、固定スクロールラップと揺動スクロールラップのとの間に、適当な厚さの作動媒体を介在させてシール性を維持し、高駆動効率を確保しつつ、揺動スクロールの円滑な作動を確保することができる。
【0010】
本発明は、上記スクロール式流体機械において、前記揺動軸受を含むと共に前記バランサ仕組みを除いた前記揺動スクロールの重心が、前記揺動スクロールの基礎円中心に位置するように、前記揺動スクロールの形状を設定することができる。
【0011】
上記構成によると、バランサ仕組みを除いた揺動スクロールの全部品(揺動軸受も含む)による遠心力は、その大きさが常に一定保たれ、かつ、その方向は、固定スクロールの基礎円中心から揺動スクロールの基礎円中心に向かう方向に保たれるため、上記バランサ仕組みにより、揺動スクロールの遠心力を、常時、確実に打ち消すことができる。
【0012】
本発明は、上記のように揺動スクロールの重心を設定しているスクロール式流体機械において、前記一対の各バランサ仕組みの質量を、前記揺動スクロールの重心と各揺動軸受の中心との距離の逆比で決定される大きさに設定することができる。
【0013】
上記構成によると、揺動スクロールの基礎円中心から各偏芯軸部の軸芯までの距離が異なっていても、バランサ仕組みを含む揺動スクロールの全部品の重心は、常に、固定スクロールの基礎円中心に位置し、したがって、常に、揺動スクロールの遠心力を打ち消すことができる。
【0014】
本発明は、上記スクロール式流体機械において、前記各偏芯軸部の外周面に、互いに平行な一対の平面部を形成し、前記各偏芯軸部の外周面に径方向の隙間を置いて嵌合する各バランサ仕組みの内周面に、前記平行な平面部にスライド可能に係合する平面部を形成し、揺動スクロールから揺動軸受を介して偏芯軸部に掛かる押圧力の方向に対する前記各平行な平面部の角度は、前記押圧力の一部を両スクロールラップ同士を径方向に圧接するシール力に変換しうる角度に、設定されている。
【0015】
上記構成によると、固定スクロールと揺動スクロールの両スクロールラップの径方向の隙間に存在する作用媒体の反力の大きさに応じて、平行平面部の摺接部分をスライドさせ、揺動スクロールの公転半径を変更できると共に、揺動スクロールに発生する押圧力の一部をスクロールラップ間のシール力に変換できるので、膨張室等において高いシール性能を維持できる。また、平行平面部の角度を変更することにより、押付け力が増減するので、仮に、スクロールラップの巻き数が変更されても、その巻き数に応じた適切な作動媒体の液膜厚さを確保でき、製作誤差や、熱膨張があっても、スクロールラップの接触状態を常に同じ状態に保ち、シール性能を向上させることができるのである。
【0016】
また、本発明は、上記スクロール式流体機械において、偏芯軸部に平行平面部を形成する代わりに、前記偏芯軸部の外周面に径方向の隙間を置いて嵌合する嵌合孔と、該嵌合孔から偏芯すると共に前記バランサ仕組みの内周面に嵌合する円筒状外周面と、を有する偏芯ピースを、前記偏芯軸部の外周面と前記バランサ仕組みの内周面との間に介在させ、前記偏芯軸部と偏芯ピースとに間には、偏芯軸部に対するバランサ仕組みの相対回転を所定角度内に規制する回転範囲規制手段を設け、前記偏芯ピースの嵌合孔に対する外周面の偏芯方向は、揺動スクロールから揺動軸受を介して偏芯軸部に掛かる押圧力の一部を、両スクロールラップを径方向に圧接するシール力に変換しうる方向に設定することができる。
【0017】
上記構成によると、上記平行平面部を形成する場合と同様に、固定スクロールと揺動スクロールの両スクロールラップの径方向の隙間に存在する作用媒体の反力の大きさに応じて、偏芯ピースを回転させ、揺動スクロールの公転半径を変更することができると共に、揺動スクロールに発生する押圧力の一部をスクロールラップ間のシール力に変換できるので、膨張室において高いシール性能を維持できる。また、偏芯ピースの偏芯方向や偏芯量を変更することにより、押付け力が増減し、仮に、スクロールラップの巻き数が変更されても、その巻き数に応じた適切な作動媒体の液膜厚さを確保でき、製作誤差や、熱膨張があっても、スクロールラップの接触状態を常に同じ状態に保ち、シール性能を向上させることができるのである。
【0018】
本発明は、上記スクロール式流体機械において、バランサ仕組みを保護する手段として、前記バランサ仕組みを収納する筒形のバランサ仕組みハウジングを、前記揺動スクロールの鏡板の揺動軸受近傍に設け、上記バランサ仕組みハウジングと前記偏芯軸部の外周との間にシール部材を配設することができる。
【0019】
上記構成によると、たとえば、作動媒体が蒸気の状態で漏れ出る場合でも、揺動軸受に給油された油や、隙間に充填したグリス等を、作動媒体から隔離し、揺動軸受の長寿命化を達成することができる。
【0020】
本発明は、上記のようにバランサ仕組みを保護する手段を有するスクロール式流体機械において、前記バランサ仕組みハウジングの内周面に油溜め用の凹部を形成し、該凹部と前記クランク軸の支持部材との間の潤滑油通路として、両端部が前記バランサ仕組みハウジングと前記支持部材とに、球面軸受を介して回動自在支持された潤滑油管を配置することができる。
【0021】
上記構成によると、たとえば、クランク軸内の給油通路を通った潤滑油は、偏芯ピースとバランサ仕組みとの間の隙間や、揺動軸受を潤滑、冷却した後、遠心力によりバランサ仕組みハウジングの内周面に沿って回ると共に油溜め用凹部に集まり、旋回状態の潤滑油自体の遠心力により、速やかに潤滑油管を通って排出される。これにより、揺動軸受等の寿命が延びると共に、油加圧用の特別の機構を備える必要もなく、動力損失も少なくなる。
【0022】
本発明は、上記各スクロール式流体機械において、前記固定スクロールと、前記クランク軸を支持する支持部材、たとえば機械ケース等とを別体とし、両固定スクロール間で前記揺動スクロールを挟むと共に両固定スクロール同士を結合し、結合された両固定スクロールを前記機械ケース等の支持部材に取り付けることができる。
【0023】
上記構成によると、たとえば、スクロールをアルミ合金で製作し、機械ケース等の支持部材を鋳鉄としても、前記隙間により熱膨張差を吸収でき、大形化及び低コスト化が達成できる。
【0024】
本発明は、上記各スクロール式流体機械において、前記各クランク軸の端部は前記支持部材から外方に突出し、前記各クランク軸の端部同士は、各クランク軸の端部に固着されたタイミングギヤ等の回転輪と両回転輪間に巻き掛けられたタイミングベルト等の索状体とからなる同期装置により同期回転するよう連結されることができる。
【0025】
上記構成によると、両クランク軸を簡単な構造により同期回転させることができると共に、同期装置のメンテナンスも容易である。
【0026】
本発明は、上記のような同期装置を備えたスクロール式流体機械において、前記両クランク軸の軸間距離と同じクランク軸間距離を有する追加のスクロール式流体機械を増設し、該追加のスクロール式流体機械の各クランク軸の端部を、前記元のスクロール式流体機械の各クランク軸に連結することができる。
【0027】
上記構成によると、追加のスクロール式流体機械が元のスクロール式流体機械と同じ仕様であれば、簡単に大容量化を達成でき、また、追加のスクロール式流体機械として、低圧仕様のものを増設すれば、高膨張比化を達成できる。すなわち、容量や膨張比(圧力比)の広範囲化ができる。
【0028】
本発明は、上記各スクロール式流体機械において、前記一対のクランク軸が揺動スクロールの上方と下方に位置するように配置し、下方のクランク軸の下方に、該下方のクランク軸と巻き掛け伝動機構により連結される駆動又は発電機等の被駆動装置を配置することができる。
【0029】
上記構成によると、駆動又は発電機等の被駆動装置に直接連結されていない上方のクランク軸からの力が、駆動装置又は被駆動装置からの力と対抗するように働くので、下方のクランク軸の揺動軸受にかかる荷重を減らすことができ、長寿命化及び小型化が達成できる。なお、両クランク軸を上下方向に間隔を置いて配置していることにより、たとえば、凝縮器や冷却器の配置場所として、設置面積を小さくすることができる。
【0030】
本発明は、上記駆動装置または被駆動装置を備えたスクロール式流体機械において、機械ケース等の前記各支持部材を取り付けるための取付部を有する取付台を備え、前記取付部は、前記各支持部材の垂直面に当接する垂直支持面と、各支持部材の下端面を支持する下端支持部とを備えることができる。
【0031】
上記構成によると、増設するスクロール流体機械を取り付ける際には、たとえば吊り上げフックで吊り上げ、下端支持面及び垂直支持面で位置決めしつつ、下端支持面に沿って滑らせて、所定位置で固定すれば、元のスクロール式流体機械に対して簡単に位置決めし、クランク軸同士を結合することができ、取付作業、特に増設作業が容易になる。
【発明の効果】
【0032】
要するに本発明によると、揺動スクロールの公転半径を可変とし、かつ、揺動軸受の内輪にバランサ仕組みを取り付け、揺動スクロールの過大な遠心力を抑制しているので、固定スクロールラップと揺動スクロールラップのとの間に、適当な厚さの作動媒体を介在させてシール性を維持し、高駆動効率を確保しつつ、揺動スクロールの円滑な作動を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
[第1の実施形態]
(スクロール式流体機械の基本構造)
図1乃至図10は本発明の第1の実施形態であり、スクロール式流体機械の一例として、外周駆動型のスクロール式膨張機1を示しており、これらの図面に基づいて、まず、スクロール式膨張機1の基本構造を説明する。
【0034】
図1は外周駆動型のスクロール式膨張機2の縦断面拡大図であり、スクロール式膨張機1は、カップ形の機械ケース2及びケースカバー3等のクランク軸支持部材で囲まれた収納室内に、単一の揺動スクロール5と、一対の固定スクロール6,6と、を収納している。機械ケース2及びケースカバー3の上下端部には、互いに平行で略水平なクランク軸11がそれぞれ配置されており、各クランク軸11は、軸方向両側の軸受15,16を介して機械ケース2及びケースカバー3に回転可能に支持されている。前記各固定スクロール6、6は、揺動スクロール5の軸方向の両側に配置されると共に、機械ケース2及びケースカバー3の上下方向の略中央部にそれぞれ固定されている。
【0035】
揺動スクロール5は、鏡板5aの両側に形成された各鏡面に渦巻き状の揺動スクロールラップ25をそれぞれ一体に備えており、各揺動スクロールラップ25は、各固定スクロール6,6の鏡板6a、6aに形成された固定スクロールラップ26,26にそれぞれ軸方向に噛み合い、揺動スクロールラップ25と固定スクロールラップ26,26との径方向の間で膨張室30を形成している。径方向の最も内方端部の膨張室30は、各固定スクロール6,6の中央部に形成された作動媒体入口31を介し、機械ケース2及びケースカバー3の作動媒体取入部32に連通し、各作動媒体取り入れ部32は、図示しないが高温高圧の作動媒体供給装置に接続している。また、径方向の最も外方端部に形成される膨張室30は、図示しないが作動媒体排出通路に連通している。
【0036】
揺動スクロール5の鏡板5aの径方向の外周端部には、上方と下方に延びる一対のアーム部41が鏡板5aと一体に形成され、各アーム部41の先端には筒状の揺動軸受ハウジング43が一体に形成され、各揺動軸受ハウジング43の内周面には出力用の揺動軸受44が嵌着されている。各揺動軸受44の内輪44aの内周面には、揺動スクロール5の遠心力を抑制するためのバランサ仕組み37が一体的に取り付けられ、各揺動軸受44は、前記バランサ仕組み37を介して、上下のクランク軸11の偏芯軸部(クランクピン部)12にそれぞれ嵌合している。上下一対の揺動軸受ハウジング43は、揺動スクロール5の基礎円中心O2回りに略180°の間隔を置いて配設されている。また、クランク軸11には、上記バランサ仕組み37とは別に、クランク軸芯(クランク軸11の回転軸芯)C1回りに発生する偏芯軸部12の遠心力を抑制するために、クランク軸用バランサウエイト18が直接固定されており、このクランク軸用バランサウエイト18は、クランク軸芯C1に対する偏芯軸部12の偏芯方向と逆方向に偏芯している。
【0037】
各揺動軸受ハウジング43の軸方向両端には、それぞれ軸方向に突出する円筒状のバランサ仕組みハウジング48が一体に形成され、各バランサ仕組みハウジング48の軸方向の端面にはハウジングカバー49が取り付けられている。すなわち、前記揺動軸受ハウジング43と、バランサ仕組みハウジング48と、ハウジングカバー49とで構成される収納空間内に、揺動軸受44、バランサ仕組み37及び偏芯軸部12を収納している。さらに、ハウジングカバー49の内周端部と偏芯軸部12との外周面との間には、
シール部材として環状シール19が配設されている。
【0038】
各クランク軸11の軸方向の両端部はそれぞれ機械ケース2及びケースカバー3から軸方向に突出し、機械ケース2側から突出した各クランク軸11の端部には、それぞれ同径のタイミングギヤ20が固着され、上下のタイミングギヤ20間にはタイミングベルト(歯付きベルト)21が巻き掛けられている。すなわち、両タイミングギヤ20及びタイミングベルト21より、同期装置を構成しており、両クランク軸11は、前記同期装置により、同期回転できるようになっている。さらに、下側のクランク軸11の一端部には、前記タイミングギヤ20と共に出力用のタイミングギヤ38が固着され、前記下側のクランク軸11は、出力用タイミングギヤ38に巻き掛けられたタイミングベルト39を介して、発電機等の適宜の被駆動装置に連結されている。
【0039】
一方、各クランク軸11のケースカバー3側の突出端部には、それぞれ膨張機増設用のカップリング22が固着されている。
【0040】
図2は、揺動スクロール5が上端位置まで揺動(公転)した状態を示す図1の揺動スクロールのII矢視図、図3は、図2の状態の上側の揺動軸受44、偏芯軸部12及びバランサ仕組み37等の拡大図、図4は、揺動スクロールラップ25と固定スクロールラップ26との噛み合い状態を示す図1のIV-IV断面相当図である。図4において、揺動スクロール5の基礎円中心O2は固定スクロールラップ26の基礎円中心O1から所定距離(公転半径)rを隔てており、基礎円中心O2近傍の膨張室30内に圧入される作動媒体が膨張してゆくことにより、揺動スクロール5は、その基礎円中心O2が固定スクロール6の基礎円中心O1回りを公転するように、矢印R11方向に揺動(公転)する。これにより、図1の上下の揺動軸受ハウジング43、揺動軸受44、バランサ仕組み37及び偏芯軸部12を介して、両クランク軸11を同期回転させる。
【0041】
(バランサ仕組み等の構造)
図2において、バランサ仕組み37は、各揺動軸受44の内輪44aの内周面に一定圧の締まり嵌めにより固着された筒状の内輪間座36と、該内輪間座36に固着されると共に揺動軸受44の軸方向両側に配置された一対のバランサウエイト35とから構成されている。
【0042】
図3において、内輪間座36の内周面と偏芯軸部12の外周面との間には、公転半径rを可変とするために、一定寸法の径方向の隙間23が形成されている。バランサウエイト35は、揺動スクロール5の遠心力を効率よく打ち消すことができるように、クランク軸芯C1に対する偏芯軸部芯O2の偏芯方向と反対側に偏芯した位置に配設されている。さらに、内輪間座36及びバランサウエイト35には、揺動スクロール5が発生する駆動力F1に対して90°の位相差の位置に、回転止め部材としてキー28が固定されており、該キー28は、偏芯軸部12の偏芯方向側の端部に形成されたキー溝28に、径方向及び周方向に遊びを有して係合している。これにより、偏芯軸部12に対して、揺動スクロール5の揺動軸受ハウジング43及び揺動軸受44を、バランサウエイト35からの遠心力F2の方向及びその逆方向に、上記隙間19に相当する量だけ移動可能となっている。すなわち、揺動スクロール5が発生する駆動力F1に対して90°の位相差の位置にキー28を配置していると、作動媒体の膨張力で揺動スクロール5に発生する駆動力F1によって、内輪間座36は偏芯軸部12に押し付けられ、クランク軸11を回転する力を偏芯軸部12に伝えるが、キー28とキー溝29との径方向のスライドにより、公転半径rが変動すると共に、揺動スクロール用バランサウエイト35の遠心力F2は、直接揺動スクロール5に作用し、揺動スクロール5の遠心力を略完全に打ち消すのである。
【0043】
(揺動スクロール5の重心の設定)
図5は、揺動スクロール5に発生する遠心力F3等を示す図、図6乃至図9は、揺動スクロール5の揺動中における揺動軸受ハウジング43とバランサ仕組み37の状態を90°毎に示す図であり、図6は、揺動スクロール5が上端に位置した状態、図7は図6の状態から90°反時計回り(矢印R1回り)に揺動した状態であって、左端に位置した状態、図8は図7の状態から90°反時計回り(矢印R1回り)に揺動した状態であって、下端に位置した状態、図9は図8の状態から90°反時計回り(矢印R1回り)に揺動した状態であって、右端に位置した状態を示している。
【0044】
図2において、クランク軸11及び偏芯軸部12とは別体で、揺動スクロール5と共に揺動する部品(揺動軸受44を含む)のうち、前記バランサ仕組み37を除いた揺動組立体の重心G2が、揺動スクロール5の構成部分、たとえば鏡板5aの形状及び肉厚を調節することにより、揺動スクロール5の基礎円中心O1に位置するように設定されている。
【0045】
これにより、バランサ仕組み37を除いた揺動スクロール5及び揺動軸受44等の揺動組立体による遠心力は、図5にF3で示すように、揺動スクロール5の揺動中、常に、大きさが一定で、固定スクロール6の基礎円中心O1から揺動スクロール5の基礎円中心O2に向かう方向に発生する。F12は、作動媒体の圧力により揺動スクロール5に働く力(前記F1)の円周方向成分であり、F13は、作動媒体の圧力により揺動スクロール5に働く力(F1)の円周方向成分である。上記のように重心G2を設定すると、揺動スクロール5の揺動中、図6乃至図9に示すように、所定の偏芯方向(揺動スクロール5の遠心力F3と反対方向)に設けられた一定質量の揺動スクロール用バランサウエイト35により、常に、効率良く揺動スクロール5による遠心力F3を打ち消し、スクロール式膨張機1の駆動効率を維持できる。すなわち、上記揺動スクロール用バランサウエイト35は、常に、クランク軸芯C1から一定距離を保っており、一定の遠心力により、前記揺動組立体の遠心力F3を打ち消すことができるのである。これにより、スクロールラップ25,26の接触部における接触圧力が過大になるのを防ぐと共に、接触部の隙間が大きくなる過ぎるのも防ぐ事ができ、駆動効率を高く維持できるのである。
【0046】
(上下のバランサ仕組み37の質量の設定)
図10は、揺動スクロール5の基礎円中心O2から上方の揺動軸受44の中心C3(偏芯軸部12の軸芯C2と略同じ)までの距離L1及び揺動スクロール5の基礎円中心O2から下方の揺動軸受44の中心C3(偏芯軸部12の軸芯C2と略同じ)までの距離L2と、上下の各バランサ仕組み37の質量との関係を示している。
【0047】
前記バランサ仕組み37を除く揺動スクロール5等の揺動組立体の重心G2は、クランク軸11と直交し、両揺動軸受44の幅方向の中心を結ぶ線上に存在しており、前記各揺動スクロール用バランサウエイト35の質量は、前記揺動組立体の基礎円中心O2(重心G2)と各揺動軸受44の中心(偏芯軸部芯C2)との距離L1,L2の逆比で決定される大きさに設定されている。
【0048】
すなわち、前記バランサ仕組み37を除く揺動組立体の質量をm、揺動スクロール5の基礎円中心O2から上側の揺動軸受44の中心C3(C2)までの距離をL1とし、揺動スクロール5の基礎円中心O2から下側の揺動用軸受44の中心C3(C2)までの距離をL2とすると、揺動組立体の質量mは、上側の揺動軸受44の中心C3の質量m1(=m×L2/(L1+L2))と、下側の揺動軸受44の中心C3の質量m2(=m×L1/(L1+L2))に、等価的に置き換えられる。ここで、上側のバランサ仕組み37のクランク軸芯C1回りのモーメントを、m1×rに、下側のバランサ仕組み37のクランク軸芯C1回りのモーメントを、m2×rになるように、各バランサウエイト35の質量を決定する。要するに、上側の距離L1>下側の距離L2であれば、上側のバランサ仕組み37の質量m1<下側のバランサ仕組み37の質量m2となり、反対に、上側の距離L1<下側の距離L2であれば、上側のバランサ仕組み37の質量m1>下側のバランサ仕組み37の質量m2となる。
【0049】
このように設定することにより、揺動スクロール5が固定スクロール6の基礎円中心O1回りに公転運動をしても、バランサ仕組み37を含む揺動組立体全体の重心G3は、常に固定スクロール6の基礎円中心O1に位置し、移動しないので、バランサ仕組み37を含む揺動組立体全体として遠心力が発生することはない。
【0050】
なお、前記距離L1と距離L2が等しい場合には、上下のバランサ仕組み37の質量m1,m2は同じ値となる。
【0051】
上記構成は、バランサ仕組み37のバランサウエイト35の大きさ及び質量を、揺動スクロール5に発生する遠心力を略完全に打ち消す値に設定しているが、揺動スクロール5に発生する遠心力の一部を残すように設定し、残した一部の遠心力を、図4に示す固定スクロールラップ26と揺動スクロールラップ25との接触部P1のシール圧として利用する構成とすることもできる。すなわち、図6に示すように、揺動スクロール5の遠心力の一部(矢印F31)を残すことにより、偏芯軸部12に対して揺動軸受44及び揺動軸受ハウジング43を、隙間23に相当する量だけキー28側に押圧し、それにより、図4に示す固定スクロールラップ26と揺動スクロールラップ25との接触部P1にシール圧を向上させることができる。これにより、作動媒体が膨張室30間で漏れるのを防ぎ、駆動効率をさらに向上させることができる。
【0052】
(バランサ仕組みハウジング48,ハウジングカバー49及びシール19の作用)
図1において、揺動スクロール5の鏡板5aと、固定スクロールラップ26の軸方向間には、軸方向の摺動隙間60が存在する。たとえば、作動媒体が蒸気である場合には、上記摺動隙間60から上記が漏れ、この漏出蒸気が揺動軸受44にかかる恐れがある。これを防ぐため、本第1の実施形態では、揺動軸受44、バランサ仕組み37を外部から隔離して収納するように、前述のように、バランサ仕組みハウジング48及びハウジングカバー49を設けると共に、偏芯軸部12と内輪間座36の間のシール19を配設しているので、揺動軸受44に給油された潤滑油や、隙間23に充填したグリスを、蒸気状態の作動媒体から隔離でき、揺動軸受44等の長寿命化を達成できる。
【0053】
[第2の実施形態]
図11乃至図13は本発明の第2の実施形態であり、前記図1乃至10の第1の実施形態と異なる構成は、偏芯軸部12とバランサ仕組み37との係合構造が、キーとキー溝からなる構造から、平行な平面部同士の係合構造に変更したものである。前記第1の実施形態の最後の説明では、揺動スクロール5の遠心力の一部を残すことにより、両スクロールラップ25,26間のシール圧の向上を図れることを説明しているが、上記構成では揺動スクロール5の回転速度(クランク軸11の回転速度)が限定されるため、本実施の形態では、揺動スクロール5の遠心力を略完全に打ち消しつつ、スクロールラップ25,26間のシール圧も向上させる構成としている。なお、上記係合構造以外の構成は第1の実施形態と同じであり、同じ部品には同じ符号(番号)を付してある。
【0054】
図11は、前記図2と同様の揺動スクロールのII-II矢視図、図12は図11の揺動スクロールの揺動軸受44の拡大図、図13は、揺動スクロールラップ25と固定スクロールラップ26との関係を示す作用説明図である。
【0055】
図11において、内輪間座36の内周面と偏芯軸部12の外周面との間には、前記第1の実施形態と同様に径方向の隙間23を形成し、偏芯軸部12の外周面には、互いに平行な一対の平面部(切欠き部)50を形成し、内輪間座36の内周面には、前記両平面部50に係合する一対の弦状の平面部51を形成し、これにより、偏芯軸部12に対し、上記隙間23に相当する量だけ、内輪間座36を平面部50,51と平行移動できるように構成されている。
【0056】
図12において、矢印F12は作動媒体の圧力により揺動スクロール5に働く力の円周方向成分、矢印13は作動媒体の圧力により揺動スクロール5に働く力の半径方向成分である。前記平面部50,51は、たとえば、前記円周方向成分F12の方向に対する角度θ1が、90°より少し大きくなるように設定されている。
【0057】
したがって、図13に示す両スクロールラップ25,26間の各接触部分P1における作動媒体の液膜の反力が大きい場合には、その反力により図12の偏芯軸部12に対して揺動スクロール5は平面部50,51と平行に矢印S1方向に移動し、反対に図13の両スクロールラップ25,26間の各接触部分P1における作動媒体の液膜の反力が小さい場合には、偏芯軸部12に対して揺動スクロール5は平面部50,51と平行に矢印S2方向に移動する。このように両スクロールラップ25,26間に存在する作動媒体の液膜の反力に応じて揺動スクロール5を偏芯軸部12に対して移動でき、シール圧を所定圧に維持しつつ、揺動スクロール5の公転半径rが自動可変となるのである。
【0058】
なお、上記平行平面部の角度θ1を変更することにより、揺動スクロール5の押し付け力を調節することができ、各スクロールラップ25,26の巻き数や肉厚が変更されても、適切な液膜厚さに保つことができ、製作誤差や、熱膨張があっても、常に、同じ接触状態を保て、シール性が向上する。
【0059】
[第3の実施形態]
図14乃至図21は本発明の第3の実施形態であり、前記第2の実施形態と異なる構成は、偏芯軸部12とバランサ仕組み37との係合構造として、偏芯ピース56を利用している。上記係合構造以外の構成は第1及び第2の実施形態と同じであり、同じ部品には同じ符号(番号)を付してある。
【0060】
図14は揺動スクロール5の揺動軸受44の拡大図、図15は図14のXV-XV断面図、図16は偏芯ピースの作用説明図、図17乃至図19は、公転半径の変化を示す作用説明図である。また、図20はクリティカル時の作用説明図、図21はクリティカル時によりもクランク角が進んだ状態の作用説明図である。
【0061】
図14において、内輪間座36の内周面と、偏芯軸部12の外周面との間に偏芯ピース56が介装されている。偏芯ピース56は、一対の半割部材56a、56bをボルト52で結合することにより構成されており、偏芯軸部12の外周面に径方向の隙間23を置いて嵌合する嵌合孔54と、該嵌合孔54の中心(偏芯軸部12の軸芯C2)から偏芯すると共に内輪間座36の内周面に嵌合する円筒状外周面と、を有している。したがって、円筒状外周面の中心は、揺動軸受44の中心C3と一致する。偏芯ピース56には嵌合孔54内に突出する回転規制用の規制ピン53が固着されており、該規制ピン53は偏芯軸部12の外周面に形成された凹部55にピン長さ方向及びピン径方向の遊びを有して係合し、これにより、偏芯軸部12に対するバランサ仕組み37の相対回転を微小の所定角度内に規制し、概略の位置決めが行えるようになっている。偏芯ピース56の嵌合孔54の中心(偏芯軸部12の軸芯C2)に対する偏芯ピース56の中心C3の偏芯方向は、図16において、揺動スクロール5から揺動軸受44を介して偏芯軸部12に掛かる押圧力の一部、すなわち円周方向成分F12により、偏芯軸部12の軸芯C2回りに偏芯ピース56が若干回転できるように設定されており、これにより、図15において、クランク軸芯C1回りの揺動軸受44の公転半径rを可変にする。半径rを増大させようとする力は、図16の偏芯方向の角度βの変更によって変更することができる。
【0062】
図17乃至図19に、偏芯ピース56が偏芯軸部12の軸芯C2回りに回転することにより、公転半径rが変化する様子を示しており、図17は基準の公転半径rに於ける作動状態であり、図18は偏芯ピース56が偏芯軸部12の軸芯C2回りに矢印X1方向に回転して基準半径rよりも大きい公転半径r1となった作動状態であり、逆に、図19は偏芯ピース56が偏芯軸部12の軸芯C2回りに矢印X2方向に回転しては初期の半径rよりも小さい公転半径r2となった作動状態である。製作、組立時の誤差や、熱膨張等によって両スクロールラップ25,26が接触しつつ公転する半径が、前述の基準半径rよりずれた場合でも、上記偏芯ピース56の回転により、そのずれに追従することができるのである。
【0063】
また、図14において、偏芯軸部12と偏芯ピース56の嵌合孔54との間に径方向の隙間23を設ける理由は、次の通りである。
【0064】
図20のように、上側の揺動軸受44の中心C3と上側の偏芯軸部12の軸芯C2とを結ぶ上側の線56-1と、下側の揺動軸受44の中心C3と下側上側の偏芯軸部12の軸芯C2とを結ぶ下側の線56-2)とが平行になっている時が、クリティカル状態である。両スクロールラップ25,26間に作動媒体の液膜が存在する場合には、公転半径r2は前記基準公転半径rよりも小さいので、何らかの外乱により、図21に示すような状態になることもある。すなわち、本来、下側の揺動軸受44の中心C3が符号Y1示す位置に位置している状態が、前記両線56-1,56-2が平行となる正常な状態であるが、符号Y2で示す異常点まで揺動軸受44の中心C3が移動することがある。このままクランク角が進めば、公転半径r2が増加し、スクロールラップ25,26同士が金属接触して、揺動スクロール5が揺動しなくなる。これに対し、偏芯軸部12の外周面と偏芯ピース56の内周面との間に、径方向の隙間23を確保していることにより、スクロールラップ25,26同士の接触点を、てこにして、揺動軸受44の中心号C3を正常点Y1に戻すことができるのである。
【0065】
[第4の実施形態]
図22乃至図24は本発明の第4の実施形態であり、揺動軸受44の給油機構を備えた実施形態である。図22は揺動スクロール5の揺動軸受44の拡大図、図23は図22のXXIII- XXIII断面図、図24は図23の矢印K部分の拡大図である。上記給油機構以外の構成は第3の実施形態と同じであり、同じ部品には同じ符号(番号)を付してある。
【0066】
揺動軸受44がグリス封入式である場合や、潤滑剤を含浸したような潤滑油を供給せずに済む材質でできている場合を除くと、通常は給油が必要となる。該実施形態は、揺動軸受44に給油が必要な場合における給油機構を備えている。
【0067】
図23において、クランク軸11内には潤滑油供給部(図示せず)に連通する潤滑油通路61が形成されており、該潤滑油通路61は径方向の通路61aを介して揺動軸受44に連通している。バランサ仕組みハウジング48の下部には、径方向の外方(下方)に窪む凹部62が形成されており、該凹部62に対応する位置のハウジングカバー49の部分に、球面軸受65を介して潤滑油管63の一端部が回動可能に支持されている。潤滑油管63の他端部は、機械ケース2及びケースカバー3に、球面軸受66を介して回動自在に支持され、機械ケース2外及びケースカバー3外に潤滑油を排出できるようになっている。
【0068】
図24において、各球面軸受65,66の管支持孔67は、潤滑油管63側と反対側の端部において、段部67aを介して小径となっており、また、段部67aと潤滑油管63の端面との間には遊びが形成されている。また、潤滑油管63の外周面は、Oリング68を介して各管支持孔67に嵌合している。
【0069】
上記のような給油機構によると、クランク軸11内の潤滑油通路61、61aを通った潤滑油は、二分割形の偏芯ピース56の外周面と内輪間座36との隙間や、揺動軸受44を潤滑し、冷却した後、遠心力により、バランサ仕組みハウジング48の内周面に沿って張り付くように旋回し、凹部62に集められる。凹部62からの排出に必要な圧力ヘッドは揺動半径以上必要となるが、上記圧力ヘッドが得られなくとも、旋回している潤滑油の遠心力により、速やかに潤滑油管63を通して外部に潤滑油を排出することができる。これより、揺動スクロール用バランサエイト35よる油の撹拌損失を減少させることができる。また、最も外周側から潤滑油を排出するので、潤滑油を旋回させるのに要する動力損失も少ない。勿論、給油することよる長寿命化も達成できる。
【0070】
さらに、球面軸受65,66により潤滑油管63の両端部を支持しているので、潤滑油管63を、揺動スクロール5の揺動に追従させて動かすことができ、揺動スクロール5の揺動に支障を来したり、潤滑油管を損傷したりするおそれがない。
【0071】
[第5の実施形態]
図25乃至図26は第5の実施形態であるが、前記第1の実施形態の図1で既に開示しているので、実質的には第1の実施形態に含まれる構造であり、大容量化を図るために、固定スクロール6の形状を工夫している。図25は図2に対応する揺動スクロール5及び固定スクロール6のII矢視相当図、図26は図25のXXVI- XXVI断面図である。
【0072】
図25において、両固定スクロール6の外周端部に外向きのフランジ部6bを一体に形成し、該フランジ部6aには、揺動スクロール5の上下のアーム部41を固定スクロール6内から上方及び下方に通過させることができる切欠き70が形成されている。
【0073】
組立時には、図1において、一対の固定スクロール6間で揺動スクロール5を挟み、フランジ部6bに挿通する位置決めピン71により、両固定スクロール6を周方向に相互に位置決めする。そして、フランジ部6bにより両固定スクロール6を結合した後、機械ケース2及びケースカバー3に固定する。
【0074】
上記構成によると、機械ケース2及びケースカバー3と、固定スクロール6とを、別部材で製作することが可能となる。たとえば、固定スクロール6をアルミ合金とし、機械ケース2及びケースカバー3を鋳鉄とすることができ、そのように構成しても、前述の隙間23等により熱膨張を吸収できる構造とすることができ、大形化や低コストかができるのである。
【0075】
[第6の実施形態]
図27は第6の実施形態であり、前記第1乃至第5の実施形態で説明した外周駆動型スクロール式膨張機1(本実施形態では第1のスクロール式膨張機1と称する。)に、第2の外周駆動型スクロール式膨張機101を増設した2連式の膨張機である。
【0076】
増設される第2のスクロール式膨張機101としては、低圧仕様のものを使用しており、基本構造は高圧仕様の第1のスクロール式膨張機1と同様であるが、スクロールラップ25,26の巻き数及び膨張室30の形状が異なっている。第2のスクロール式膨張機101において、第1のスクロール式膨張機1と同じ部品には、同じ符号(番号)を付してある。
【0077】
図27において、第2のスクロール式膨張機101の上下のクランク軸11の上下方向の間隔は、第1のスクロール式膨張機1の上下のクランク軸11の上下方向の間隔と同一となっており、両スクロール式膨張機1,101の上側のクランク軸11同士、下側のクランク軸同士11は、それぞれカップリング22により連結されている。
【0078】
上記のように、低圧仕様の第2のスクロール式膨張機101を増設することにより、簡単に高膨張比が達成できる。しかも、第2のスクロール式膨張機101の上下のクランク軸11は、第1のスクロール式膨張機1の同期装置(タイミングベルト21等)により、第1のスクロール式膨張機1のクランク軸11と共に同期回転するので、新たに同期装置を追加する必要もない。
【0079】
増設される第2のスクロール式膨張機101として、第1のスクロール式膨張機1と同様の高圧仕様のものを連結することも可能であり、これによると、大容量化が達成できる。
【0080】
[第7の実施形態]
図28は第7実施形態であり、特に、前記第6の実施形態のような2連のスクロール式流体機械を取り付けるのに適した取付台81を備えている。図28において、取付台81の下部に、スクロール式膨張機1等により駆動する被駆動装置、たとえば発電機75等が設置されており、取付台81の上部には、垂直上方に立ち上がるコラム部83が形成され、該コラム部83には、垂直取付面82が形成されると共に上下位置決め用の位置決め突起84が形成されている。一方、スクロール式膨張機1等の機械ケース2には、垂直な被取付面80aを有する取付ブラケット80が設けられ、また、上端部には吊り環86が設けられている。
【0081】
スクロール式膨張機1を取付台81に取り付ける際には、吊り上げフックを吊り環86に引っ掛けてスクロール式膨張機1を吊り上げ、ブラケット80の被取付面80aをコラム部83の垂直取付面82に押し当てると共に、ブラケット80の下端を位置決め突起(下端支持面)84に載せることにより、取付台81上で位置決し、ボルト等の適宜の締結手段により取付台81に固定する。
【0082】
そして、前記図27のような、第2のスクロール式膨張機101を増設する場合には、第1のスクロール式膨張機1と同様に、吊り上げフックを利用して吊り上げ、第2のスクロール式膨張機101の被取付面80aを垂直取付面82に押し当てた状態で、位置決め突起84上に載せ、位置決め突起84上を第1のスクロール式膨張機1側へスライドさせることにより、両スクロール式膨張機1,101を、所定の相対位置で、正確に連結することができる。
【0083】
スクロール式膨張機1から発電機75に動力を伝達する機構としては、前記下側のクランク軸11に設けられたタイミングギヤ38と、発電機75の入力軸77に固着されたタイミングギヤ78と、両タイミングギヤ38,78に巻き掛けられたタイミングベルト39と、からなる巻き掛け式動力伝達機構が備えられている。このような巻き掛け式動力伝達機構を備えていることにより、発電機75に連結されていない上側のクランク軸11からの力は、発電機75からの力と対抗するように働き、それにより下側のクランク軸11の軸受15等にかかる荷重を減少させることができ、長寿命化及び小型化が達成できる。
【0084】
なお、一対のクランク軸11を上下方向に間隔を置いて配置することにより、上方方向の寸法が大きくなるが、設置面積は小さくなり、たとえば、凝縮器76や冷却器等の設置場所を確保することができる。
【0085】
[その他の実施形態]
(1)本発明のスクロール式流体機械は、スクロール式膨張機に限定されるものではなく、スクロール式圧縮機としても利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本発明にかかる外周駆動型スクロール式膨張機の第1の実施形態の縦断面拡大図である。
【図2】図1の揺動スクロールが上端位置まで揺動した状態を示すII矢視図である。
【図3】図2の状態の上側の揺動軸受及びバランサ仕組み等の拡大図である。
【図4】揺動スクロールラップと固定スクロールラップとの噛み合い状態を示す図1のIV-IV断面相当図である。
【図5】揺動スクロールに発生する遠心力等を示す図である。
【図6】揺動スクロールが上端に位置した状態における揺動軸受ハウジングとバランサ仕組みの状態を示す図である。
【図7】揺動スクロールが図6の状態から90°反時計回りに揺動した状態における揺動軸受ハウジングとバランサ仕組みの状態を示す図である。
【図8】揺動スクロールが図7の状態から90°反時計回りに揺動した状態における揺動軸受ハウジングとバランサ仕組みの状態を示す図である。
【図9】揺動スクロールが図8の状態から90°反時計回りに揺動した状態における揺動軸受ハウジングとバランサ仕組みの状態を示す図である。
【図10】揺動スクロールの基礎円中心から一方の偏芯軸部の軸芯までの距離と、他方の偏芯軸部の軸芯までの距離と、上下の各バランサ仕組みの質量との関係を示す図である。
【図11】本発明によるスクロール式膨張機の第2の実施形態であり、前記図2と同様のII矢視相当図である。
【図12】図11の揺動スクロールの揺動軸受の拡大図である。
【図13】図11の揺動スクロールラップと固定スクロールラップとの関係を示す図4と同様の図である。
【図14】本発明によるスクロール式膨張機の第3の実施形態であり、揺動スクロールの揺動軸受の拡大図である。
【図15】図14のXV-XV断面図である。
【図16】偏芯ピースの作用説明図である。
【図17】揺動スクロールの公転半径を示す作用説明図である。
【図18】揺動スクロールの公転半径の変化を示す作用説明図である。
【図19】揺動スクロールの公転半径の変化を示す作用説明図である。
【図20】クリティカル時の揺動スクロールの公転半径を示す作用説明図である。
【図21】図20のクリティカル時によりもクランク角が進んだ状態の作用説明図である。
【図22】本発明によるスクロール式膨張機の第4の実施形態であり、揺動スクロールの揺動軸受の拡大図である。
【図23】図22のXXIII- XXIII断面図である。
【図24】図23の矢印K部分の拡大図である。
【図25】本発明によるスクロール式膨張機の第5の実施形態であり、図2に対応するII矢視相当図である。
【図26】図25のXXVI- XXVI断面図である。
【図27】本発明によるスクロール式膨張機の第6の実施形態であり、図1に相当する縦断面である。
【図28】本発明によるスクロール式膨張機の第7実施形態であり、取付台に取り付けた状態を示す側面図である。
【符号の説明】
【0087】
1 外周駆動型のスクロール式膨張機(スクロール式流体機械の一例)
2 機械ケース(支持部材)
3 ケースカバー(支持部材)
5 固定スクロール
5a 鏡板
6 揺動スクロール
6a 鏡板
11 クランク軸
12 偏芯軸部
15,16 クランク軸用の軸受
18 クランク軸用のバランサウエイト
19 シール(シール部材)
20、21 タイミングギヤ、タイミングベルト(同期装置)
22 カップリング
23 隙間
25 揺動スクロールラップ
26 固定スクロールラップ
28、29 キー、キー溝(回転止め部材)
30 膨張室
35 バランサウエイト
36 内輪間座
37 バランサ仕組み
38、39 タイミングギヤ、タイミングベルト(巻き掛け伝動機構)
41 アーム部
43 軸受ハウジング
44 揺動軸受
48 バランサ仕組むハウジング
49 ハウジングカバー
50、51 平面部
53 規制ピン(回転範囲規制手段)
54 隙間
56 偏芯ピース
62 潤滑油用の凹部
63 潤滑油管
65,66 球面軸受
O1 固定スクロールの基礎円中心
O2 揺動スクロールの基礎円中心
C1 クランク軸芯
C2 偏芯軸部の軸芯
C3 揺動軸受の中心

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鏡板の両側に渦巻き状の揺動スクロールラップを有する揺動スクロールと、該揺動スクロールの軸方向の両側に配置されると共に前記揺動スクロールラップと噛み合う固定スクロールラップを有する一対の固定スクロールと、前記揺動スクロールの径方向の外周端部に取り付けられた一対の揺動軸受と、該揺動軸受が嵌合する偏芯軸部を有する出力用又は入力用のクランク軸と、を備えたスクロール式流体機械において、
各揺動軸受の内輪に、前記揺動軸受のクランク軸芯回りの位相と略180°の位相差のウエイト重心を有するバランサ仕組みをそれぞれ取り付け、
該バランサ仕組みは、前記偏芯軸部の外周面に径方向の隙間を有するように嵌合すると共に、回転止め部材により前記偏芯軸部に対して相対回転しないように回転止めされている、ことを特徴とするスクロール式流体機械。
【請求項2】
請求項1記載のスクロール式流体機械において、
前記揺動軸受を含むと共に前記バランサ仕組みを除いた前記揺動スクロールの重心が、前記揺動スクロールの基礎円中心に位置するように、前記揺動スクロールの形状を設定していることを特徴とするスクロール式流体機械。
【請求項3】
請求項2記載のスクロール式流体機械において、
前記一対の各バランサ仕組みの質量を、前記揺動スクロールの重心と各揺動軸受の中心との距離の逆比で決定される大きさに設定していることを特徴とするスクロール流体機械。
【請求項4】
請求項1記載のスクロール式流体機械において、
前記各偏芯軸部の外周面に、互いに平行な一対の平面部を形成し、
前記各偏芯軸部の外周面に径方向の隙間を置いて嵌合する各バランサ仕組みの内周面に、前記平行な平面部にスライド可能に係合する平面部を形成し、
揺動スクロールから揺動軸受を介して偏芯軸部に掛かる押圧力の方向に対する前記各平行な平面部の角度は、前記押圧力の一部を両スクロールラップ同士を径方向に圧接するシール力に変換しうる角度に、設定されているスクロール式流体機械。
【請求項5】
請求項1記載のスクロール式流体機械において、
前記偏芯軸部の外周面に径方向の隙間を置いて嵌合する嵌合孔と、該嵌合孔から偏芯すると共に前記バランサ仕組みの内周面に嵌合する円筒状外周面と、を有する偏芯ピースを、前記偏芯軸部の外周面と前記バランサ仕組みの内周面との間に介在させ、
前記偏芯軸部と偏芯ピースとに間には、偏芯軸部に対するバランサ仕組みの相対回転を所定角度内に規制する回転範囲規制手段を設け、
前記偏芯ピースの嵌合孔に対する外周面の偏芯方向は、揺動スクロールから揺動軸受を介して偏芯軸部に掛かる押圧力の一部を、両スクロールラップを径方向に圧接するシール力に変換しうる方向に設定されているスクロール式流体機械。
【請求項6】
請求項1記載のスクロール式流体機械において、
前記バランサ仕組みを収納する筒形のバランサ仕組みハウジングを、前記揺動スクロールの鏡板の揺動軸受近傍に設け、該バランサ仕組みハウジングと前記偏芯軸部の外周との間にシール部材を配設しているスクロール式流体機械。
【請求項7】
請求項6記載のスクロール式流体機械において、
前記バランサ仕組みハウジングの内周面に油溜め用の凹部を形成し、
該凹部と前記クランク軸の支持部材との間の潤滑油通路として、両端部が前記バランサ仕組みハウジングと前記支持部材とに、球面軸受を介して回動自在支持された潤滑油管を配置しているスクロール式流体機械。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかに記載のスクロール式流体機械において、
前記固定スクロールと、前記クランク軸を支持する支持部材とを別体とし、
両固定スクロール間で前記揺動スクロールを挟むと共に両固定スクロール同士を結合し、
結合された両固定スクロールを前記支持部材に取り付けているスクロール式流体機械。
【請求項9】
請求項8に記載のスクロール式流体機械において、
前記各クランク軸の端部は前記支持部材から外方に突出し、
前記各クランク軸の端部同士は、各クランク軸の端部に固着された回転輪と両回転輪間に巻き掛けられた索状体とからなる同期装置により同期回転するよう連結されているスクロール式流体機械。
【請求項10】
請求項9に記載のスクロール式流体機械において、
前記両クランク軸の軸間距離と同じクランク軸間距離を有する追加のスクロール式流体機械を配設し、
該追加のスクロール式流体機械の各クランク軸の端部を、前記元のスクロール式流体機械の各クランク軸に連結しているスクロール式流体機械。
【請求項11】
請求項1乃至10に記載のスクロール式流体機械において、
前記一対のクランク軸が揺動スクロールの上方と下方に位置するように配置し、
下方のクランク軸の下方に、該下方のクランク軸と巻き掛け伝動機構により連結される駆動又は被駆動装置を配置しているスクロール式流体機械。
【請求項12】
請求項8乃至11のいずれかに記載のスクロール式流体機械において、
前記各支持部材を取り付けるための取付部を有する取付台を備え、
前記取付部は、前記各支持部材の垂直面に当接する垂直支持面と、各支持部材の下端面を支持する下端支持部とを備えているスクロール式流体機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【公開番号】特開2009−209877(P2009−209877A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−56213(P2008−56213)
【出願日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】