説明

スズ含有無機材料を使用した低焼結温度での密封シーリング

【課題】 OLED装置(または他の種類の装置)の密封に利用可能な新しい、改良されたシーリング材およびシーリング技術を提供する。
【解決手段】 装置200への酸素および水分の透過を抑制する方法であって、少なくとも装置200の一部分を覆うようにSn2+含有無機材料202で蒸着し、装置200の少なくとも一部分を覆うように蒸着したSn2+含有無機材料202を加熱処理する各工程を有してなる。Sn2+含有無機材料202は、例えば、SnO、SnOとPの混合粉末、およびSnOとBPOの混合粉末などでありうる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄いバリア層としてSn2+含有無機材料を利用して装置への酸素および水分の透過を抑制する方法、および結果として得られる装置に関する。装置の例としては、発光装置(例えば有機発光ダイオード(OLED)装置)、光起電装置、薄膜センサ、エバネッセント導波路センサ(evanescent waveguide sensor)、食品コンテナ、および医薬品コンテナが挙げられる。
【背景技術】
【0002】
ラミネート材または被包性の材料を通じた酸素および/または水の輸送、および、その結果起こる装置内部の材料への攻撃は、例えば発光装置(OLED装置)、薄膜センサ、エバネッセント導波管センサ、食品コンテナ、および医薬品コンテナを含む多くの装置に関連する、よくある劣化メカニズムの2つの例を表している。OLEDおよび他の装置の内層(陰極および電場発光物質)への酸素と水の透過に関する問題点についての詳細な論考については、下記の文献を参照のこと:非特許文献1〜5。
【0003】
OLED装置への酸素および/または水の透過を最小限にするための何かをしない限り、それら装置の動作寿命が非常に限られるであろうことは、よく知られている。結果的に、下記の文献に述べられるように、OLED装置への酸素および/または水の透過を最小限にするために多くの努力が費やされ、OLEDの動作寿命を、一般的に必要とみなされるレベルである40キロ−時間へと推進する助けとなっている。非特許文献6。
【0004】
OLED装置の寿命拡大に役立てるために今日まで行なわれている、さらに突出した努力として、ゲッタリング、被覆、および様々なシーリング技術の利用が挙げられる。実際に、目下のOLED装置のシーリングの一般的な方式の1つは、様々な種類のエポキシ樹脂、無機材料および/または有機材料を施用し、かつ、加熱処理(もしくは紫外線処理)して、OLED装置上にシーリングを形成することである。例えば、バイテックス・システムズ社(Vitex Systems)は、無機材料と有機材料の交互に重なる層を用いてOLED装置をシーリングする、複合材料に基づく手法である、バリックス(Barix)というブランド名のコーティングを製造・販売している。これらの種類のシーリングは、ある程度の密封作用を提供するが、非常に高価であり、OLED装置への酸素および水の拡散を防止するのに時間がかかってしまう事例が未だ多く存在している。
【0005】
このシーリングの問題を解決するために、本発明の譲受人は、OLED装置(または他の種類の装置)の密封に用いることができる、数種類の液相線温度の低い無機材料を開発している。液相線温度の低い無機材料としては、フルオロリン酸スズ材料、カルコゲニド系材料、酸化テルル鉱系材料、ホウ酸系材料およびリン酸系材料が挙げられる。これらの液相線温度の低い無機材料の詳細な論考および、それらを装置に蒸着させ、加熱処理して装置を密封する方法については、2005年8月18日出願の"Method for Inhibiting Oxygen and Moisture Degradation of a Device and the Resulting Device"という発明の名称の特許文献1(本願に引用してその内容全体を援用する、米国特許出願公開第2007/0040501号明細書として公開された)に提供されている。
【特許文献1】米国特許出願第11/207,691号明細書
【非特許文献1】Aziz, H., Popovic, Z. D., Hu, N. X., Hor, A. H., and Xu, G. “Degradation Mechanism of Small Molecule-Based Organic Light-Emitting Devices”, Science, 283, pp. 1900 - 1902, (1999)
【非特許文献2】Burrows, P. E., Bulovic., V., Forrest, S. R., Sapochak, L. S., McCarty, D. M., Thompson, M. E. “Reliability and Degradation of Organic Light Emitting Devices”, Applied Physics Letters, 65(23), pp. 2922 - 2924
【非特許文献3】ADDIN EN.REFLIST Kolosov, D., et al., Direct observation of structural changes in organic light emitting devices during degradation. Journal of Applied Physics, 2001. 90(7)
【非特許文献4】Liew, F.Y., et al., Investigation of the sites of dark spots in organic light-emitting devices. Applied Physics Letters, 2000. 77(17)
【非特許文献5】Chatham, H., “Review: Oxygen Diffusion Barrier Properties of Transparent Oxide Coatings on Polymeric Substrates”, 78, pp. 1 - 9, (1996)
【非特許文献6】Forsythe, Eric, W., “Operation of Organic-Based Light-Emitting Devices, in Society for Information Device (SID) 40th anniversary Seminar Lecture Notes, Vol. 1, Seminar M5, Hynes Convention Center, Boston, MA, May 20 and 24, (2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これらの液相線温度の低い無機材料は、OLED装置(または他の種類の装置)の密封に効果があるが、それでもやはり、OLED装置(または他の種類の装置)の密封に利用可能な新しい、改良されたシーリング材およびシーリング技術の開発が望まれている。本発明は、これらの特定の必要性および他の必要性を満たすものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、スズ含有無機材料を用いてOLED装置(または他の種類の装置)に気密シーリングを形成する方法を紹介する。1つの実施形態では、Sn2+含有無機材料をOLED装置(または他の種類の装置)に蒸着し、次に、比較的低い温度(例えば100℃未満)で焼結/加熱処理を別個に行い、OLED装置(または他の種類の装置)を覆う密封された薄膜バリア層を形成する。好ましいSn2+含有無機材料としては、例えば、SnO、SnOとPの混合粉末、およびSnOとBPOの混合粉末が挙げられる(注記:蒸着されたSnO材料は、焼結/加熱処理して装置をシーリングするのに必ずしも必要とされない)。蒸気および酸素の攻撃に対するSn2+含有無機材料の密封不透過性は、85℃、85%相対湿度の周囲環境における1000時間のカルシウムのパッチテストによって実証されており、よって、こういったバリア層が、シーリングされた装置を、通常の周囲条件で少なくとも5年間作動させることを可能にすることが示唆されている(これは、加熱処理されたSn2+含有無機材料が0.01cm/m/atm/日よりもずっと少ない酸素透過度および0.01g/m/日未満の水透過度であることを意味する)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
添付の図面と併せて以下の詳細な説明を参照することにより、本発明がさらに完全に理解されよう。
【0009】
本明細書では、無機材料は酸化物、塩、複合材料、およびこれらの組合せおよび/または混合物であって差し支えない。例えばSnO+Pで表される無機材料は、一般式SnO・(P251−xで表される塩および/または酸化物であって差し支えなく、ここでxは材料中のSnOのモル分率である。
図1〜2を参照すると、装置200の酸素および水分による劣化を抑制する、方法100のフローチャート、および、本発明に従った保護された装置200の側断面図がそれぞれ示されている。方法100には、工程102が含まれ、ここでSn2+含有無機材料202が、基板206の上に位置する1つ以上の内層204を覆うように蒸着される(図2参照)。Sn2+含有無機材料202は、例えば、スパッタリング、フラッシュ蒸発、噴霧、流し込み、フリット蒸着、蒸気蒸着、浸漬コーティング、塗付、圧延(rolling)(例えばSn2+含有無機材料202の膜など)、スピンコーティング、同時蒸着法、スートガン噴霧(soot gun spraying)法、反応性スパッタリング法、レーザーアブレーション法、またはこれらのいずれかの組合せを含む、様々な方法のいずれか1つを利用して蒸着することができる。
【0010】
方法100は、工程104を含み、ここで、蒸着されたSn2+含有無機材料202で覆われた装置200は、アニーリングされ、固結され、または加熱処理 (たとえば100℃未満で3時間未満) される。加熱処理工程104は、蒸着工程102の間に形成されるSn2+含有無機材料の欠陥(例えば孔隙)を除去/最小限にするために行われる(注記:Sn2+含有無機材料202がSnOの場合、スパッタ蒸着工程102自体が、蒸着された無機材料202を焼結するのに必要な熱のすべてを提供してもよい)。必要に応じて、水および酸素が存在しない条件がシーリングの全工程で維持されることが保証される、不活性雰囲気下または真空下で、蒸着工程102および加熱処理工程104の両方の工程を行なうことができる。この種類の処理環境は、装置200の内部に位置する有機エレクトロニクスを堅牢で動作寿命の長い装置にするためには、重要である。
【0011】
Sn2+含有無機材料202によって保護されうる、異なる種類の装置200の例としては、発光装置(例えばOLED装置)、光起電装置、薄膜センサ、エバネッセント導波管センサ、食品コンテナ、および医療品コンテナが挙げられる。装置200がOLED装置の場合、内層204として、基板206上に位置するであろう陰極および電場発光物質が挙げられる。例えば100〜125℃で上記の加熱が行なわれると、陰極および電場発光物質204は損傷する可能性がある。このように、従来の材料(例えばソーダ石灰ガラス)がOLED装置に蒸着された場合、加熱処理工程104は、この特定の用途には利用できないであろう。なぜなら、従来材料(例えばソーダ石灰ガラス)の欠陥を除去するのに必要とされる温度(例えば600℃)が高すぎるため、OLED装置の内層204がひどく損傷してしまうかもしれないからである。しかしながら、本発明では、蒸着されたSn2+含有無機材料202の欠陥を除去/最小限にするのに必要とされる温度(例えば100℃以下)が比較的低く、OLED装置の内層204が損傷しないため、加熱処理工程104をこの特定用途に用いることができる。さらに、加熱処理工程104は、そもそも、例えばSnOがSn2+含有無機材料202であることをも必要としないであろう(図5A参照)。
【0012】
この種類の材料は比較的低い温度で固結させる際に装置200を保護する密封コーティングを形成する能力があるため、Sn2+含有無機材料202の利用は、このすべてを可能にする。Sn2+含有無機材料202は、いくつかの観点で、前述の特許文献1に開示されるLLT材料の1つであるフルオロリン酸スズ系(tin fluorophosphate)の材料とは異なっている。まず、Sn2+含有無機材料202はフルオロリン酸スズ系材料よりも低い温度で加熱処理することができる(注記:フルオロリン酸スズ系材料は〜120℃で加熱処理されていた)。第2に、Sn2+含有無機材料202はフッ素を含んでいない。第3に、SnOなど、Sn2+含有無機材料202の一部の融点は1000℃を超え、これはLLT材料に関する最大融点である1000℃よりも高い。第4に、Sn2+含有無機材料202はフルオロリン酸スズ系材料とは異なる組成を有する(例えば、2種類の典型的なSn2+含有無機材料202、すなわちSnOおよび80SnO:20P(黒点を参照)、および6種類の典型的なフルオロリン酸スズ系材料(黒四角を参照)の組成の違いを図式化して示す図3を参照(注記:共同譲渡された特許文献1はこれら6種類のフルオロリン酸スズ系材料、および図3に示された、可能性のあるフルオロリン酸スズ系材料のすべてを開示し、かつ、権利主張している))。
【0013】
さらには、本発明の譲受人は、60〜約85モル%の酸化スズを含むリン酸スズなどの液相線温度(LLT)の低い無機材料を、抵抗加熱素子を用いて装置に蒸着し、次に加熱処理して装置を密封する方法について開示する、別の米国特許出願第11/509,445号明細書(発明の名称“TIN PHOSPHATE BARRIER FILM, METHOD, AND APPARATUS”)を出願中である。共同譲渡された米国特許出願第11/509,445号明細書は、2006年8月24日に出願されており、その発明の名称は、"Tin Phosphate Barrier Film, Method and Apparatus"である。この文書の内容は、ここに参照することにより本明細書に援用される。
【0014】
本明細書に記載するSn2+含有無機材料202として、例えばSnO粉末、SnOとPの混合粉末、およびSnOとBPOの混合粉末などの組成物が挙げられる。しかしながら、Sn2+含有無機材料202には、溶融して適切なスパッタリング・ターゲットを形成する、混合組成物(例えば、80%SnO+20%P)も含めることができる。1つの実施形態では、Sn2+含有無機材料202は>50%の酸化第一スズを含む(>70%の酸化第一スズを含むことがさらに好ましく、>80%の酸化第一スズを含むことがさらになお好ましい)。さらには、Sn2+含有無機材料202を<400℃の温度で加熱することができる(<200℃が好ましく、<100℃がさらに好ましく、<50℃がさらになお好ましい)。
【0015】
4種類のSn2+含有無機材料202の試験結果およびこれらの実験から得られた結論については、表1および図4〜6に関連して論じる。表1に、本発明の重要な態様である低温での焼結特性の試験に用いた4種類の代表的なSn2+含有無機材料202を記載する。
【表1】

【0016】
Sn2+含有無機材料202の候補となる材料すべてについて、装置200への酸素および水分の透過をどのくらい抑制しうるかを測定する「カルシウムパッチ」テストを行った。特に、カルシウムパッチテストについては、85℃、85%相対湿度の環境で1000時間行い、Sn2+含有無機材料202が装置200のシーリング用の密封バリア層として適しているかを検査した(例えば、OLEDディスプレイ200は、通常の周囲条件で少なくとも5年間は作動可能であるべきである)。カルシウムパッチテストの準備および数種類のSn2+含有無機材料の分析方法の詳細について、図4に関連して次に論じる。
【0017】
図4を参照すると、本発明に従って数種類のSn2+含有無機材料202から作製された薄膜バリアの性能を分析するために行なわれたいくつかのカルシウムパッチテストの準備および作業の説明を助けるために提供された図が示されている。カルシウムパッチテストは、蒸着されたSn2+含有無機材料202、2種類の内層204(AlおよびCa)および基板206(コーニング社製の1737ガラス基板)を備えた試験される装置200を装備するオーブン402(例えば、85℃/85%促進老化チャンバー/オーブン402)の使用を含む。この実験では、各々異なる1つのSn2+含有無機材料202で被包された4種の装置200をオーブン402の内部に置き、85℃の温度および85%の湿度に固定した環境老化(「85/85試験」)に晒した。試験される各装置200では、Ca層204は、最初は、金属反射鏡を呈した。水および酸素がSn2+含有無機材料202でできた最上層の被包層を透過すると、金属Ca204が反応し、被包された装置200が理論的に周囲条件で動作する時間量を評価するために光学的測定により定量化可能な、乳白色のパサパサと剥がれやすい表面に変化するであろう(図5A〜5F参照)。
【0018】
カルシウムパッチテストは、次に述べるように、4種類のSn2+含有無機材料202で被包された4種類の装置200について行われた(注記:カルシウムパッチテストは、Sn4+含有無機材料であるSnOでコーティングされた装置についても行なわれた)。最初に、100nmCa膜204をガラス(コーニング・インコーポレイテッド社のコード番号1737)基板206に蒸着した。次に、150nmAl層204をCa膜204の上に蒸着した。Al層204は、組織内のポリマー発光ダイオード(PLEDs)の生成に典型的に使用される陰極の状態をシミュレートするのに用いられた。「デュアルボート」型に特注されたCressingtonエバポレーターを使用し、CaおよびAlの蒸着工程の間、1737ガラス基板206を130℃、約10−6mmHg(10-6 Torr)で維持した。室温に冷却後、真空状態を解除し、カルシウムパッチを抽出し、真空デシケーターに入れて高周波スパッタリング真空系へと移し、一晩ポンプ注入して10−6mmHg(10-6 Torr)に戻した。次に、比較的穏やかなRFパワーの蒸着条件(30Wフォワード/1W反射 RFパワー)および低圧のアルゴン(〜3.211×10−2Pa・m/s(〜19 sccm))の下、試験されるSn2+含有無機材料202をONYX−3スパッタ・ガンでAlおよびCa層204にスパッタリングした(図1の工程102参照)。スパッタリングを3〜6時間行い、2〜3μmの膜厚を得た(チャンバー圧力〜10−3mmHg(10-3 Torr))。蒸着速度は1〜5Å/秒の範囲であると推定される。Sn2+含有無機材料202を、選択される蒸着条件によって、必要に応じた厚さで作製することができるということは、注目に値する。
【0019】
その後、作製した装置200のうちの3種について、蒸着後に様々な温度(例えば90℃〜140℃)で加熱処理し、次に、真空内で取り付けられたヒートブロックに移し、スパッタリングされたSn2+含有無機材料202を固結するのに用いた(図104参照)。しかしながら、100%SnOで被包された作製装置200の1つは、ヒートブロックの抵抗加熱による加熱は自主的には行なわなかったにもかかわらず、スパッタリング工程の間に室温に達した(注記:この事例には加熱処理工程104を行わなかったが、スパッタリング工程102の間に生じた熱がまだ少しあった)。次に、真空を解き、加熱処理された装置200および加熱処理されていないSnO装置200をオーブン402にすべて設置し、85℃および85%相対湿度を保持した。この間、その後に試験された装置200の薄膜バリア層202を介した水蒸気および酸素の輸送がもしあれば、その相対速度の定量に用いるため、一定時間ごとに写真撮影した(図5A〜5F参照)(注記:カルシウムパッチテストについてのさらに詳細な論考および、測定した透過速度を、通常の周囲条件での装置の理論的な動作寿命を示す時間に換算する方法に関しては、前述の米国特許出願第11/207,691号明細書を参照)。
【0020】
図5A〜5Cを参照すると、アニーリングされていないSnOコーティング装置200a、アニーリングされたSnOコーティング装置200bおよびアニーリングされたSnOコーティング装置200c(注記:この装置は、SnOがSn4+含有無機材料であるため、本発明の範囲とは見なされない)の写真がそれぞれ示されている。試験される装置200a、200bおよび200cを、SnOまたはSnOの固形粉末ターゲットから提供される、スパッタ蒸着されたSnOまたはSnOの薄膜を用いて調製した。これらの写真は、85℃/85%促進老化チャンバー402内でのSnOコーティング装置200aおよび200bの密封動作およびSnOコーティング装置200cの密封動作の欠陥を例証している。アニーリングされていないSnOコーティング装置200aは加熱されていないが、スパッタ蒸着の工程102の間に付着する基板の温度は、最初の基板温度6℃および最高温度15℃から打ち出された。よって、アニーリングされていないSnOコーティング装置200aの局部温度は控えめに見積もってもわずか40℃にすぎず、85℃/85%促進老化チャンバー402内で1000時間を越えてもなお、作動していた。アニーリングされたSnOコーティング装置200bを140℃で2時間、真空内で加熱したが、85℃/85%促進老化チャンバー402内で1000時間を越えてもなお作動していた。また、アニーリングされたSnOコーティング装置200cを140℃で2時間加熱したが、写真は、アニーリングされたSnOコーティング装置200b(1000時間を越えて作動した)と同一のアニーリング条件を用いたにも関わらず、50時間未満の時点で、このバリア層に欠陥が生じたことを示している。これらの結果は、Sn含有無機材料202のうち、二価のスズ(Sn2+)の使用の重要性を示唆している。さらには、アニーリングされたSnOコーティング装置200cには、かなりの量の層間剥離が見られたが、SnOコーティング装置200aおよび200bの双方には起こらず、このことは、SnOコーティングのカルシウムパッチ200cに関する耐久性のもう1つの欠陥を示している。
【0021】
図5D〜5Fを参照すると、第1のアニーリングを施されたSnO/Pコーティング装置200d、第2のアニーリングを施されたSnO/Pコーティング装置200e、およびアニーリングを施されたSnO/BPOコーティング装置200fの写真がそれぞれ示されている。第1のアニーリングを施されたSnO/Pコーティング装置200dは、80%SnO+20%Pをスパッタ蒸着し、固形粉末ターゲットで調製され、その後140℃で2時間焼結され、図に示すように、85℃/85%促進老化チャンバー402内で1000時間後も密封動作を示した(表1および図5D参照)。第2のアニーリングを施されたSnO/Pコーティング装置200eは、80%SnO+20%Pをスパッタ蒸着された、溶融ターゲットで調製され、その後90℃で2時間焼結され、図に示すように、85℃/85%促進老化チャンバー402内で1000時間後も密封動作を示した(表1および図5E参照)。しかし一方、アニーリングを施されたSnO/BPOコーティング装置200fは、90%SnO+10%BPOをスパッタ蒸着し、固形粉末ターゲットで調製され、その後140℃で2時間焼結され、図に示すように、85℃/85%促進老化チャンバー402内で1000時間後も密封動作を示した(表1および図5F参照)。これらの結果は、本発明に従ったSn2+含有無機材料202を用いて被包された装置200の密封動作が成功を収めたことを示している。
【0022】
カルシウムパッチテストは、装置の有望なバリアを通過する水蒸気および酸素の輸送の相対速度を特徴付けるための、当該業界における標準的なスクリーニング手段となっている。非常に微量の水分および酸素がOLED装置200を破損するであろうことから、この種の高感度検出が必要である。さらには、最近、バリア・コーティングの美徳を称える米国特許第6,720,097号明細書などの特許が発行されていることから、水分および酸素に対するバリア層の不透過性を測定する試験にカルシウムパッチを利用することは、重要である。しかしながら、これらの密封動作についての特許請求の範囲は、例えばMOCON(商標)装置(PERMATRANおよびOXYTRAN系)などの市販の系から入手する測定に基づいており、これらは、特にOLED装置に適用する場合、特定のバリアの特許請求された密封動作に十分に対応するほどには感度が良くない。とりわけ、OLEDバリアは、25〜35℃で5×10−3 g/m/日という「MOCON」装置の最小検出限界をはるかに下回る、水<10−6g/m /日の防湿性能を必要とすることがよく知られている。この特定の事実は図6に図式的に示され、次の文献において論じられている。
【0023】
・Crawford, G.P., ed. Flexible Flat Panel Devices. 2005, Wiley Publishing Ltd.
・Graff, G.L., et al., Barrier Layer Technology for Flexible Devices, in Flexible Flat Panel Devices, G.P. Crawford, Editor. 2005, John Wiley & Sons Ltd: Chichester.
・Burrows, P.E., et al., Gas Permeation and Lifetime Tests on Polymer-Based Barrier Coatings, in SPIE Annual Meeting. 2000, SPIE.
前述のことから、本発明を蒸着されたSn2+含有無機材料202(例えば酸化第一スズ)に利用して装置200に密封されたバリア層を形成することは、当業者によって容易に認識されうる。利用可能なSn2+含有無機材料としては、限定はしないが、(a)SnO、(b)SnO+ホウ酸系材料、(c)SnO+リン酸系材料、および/または(d)SnO+ホウリン酸系材料が挙げられる。 必要に応じて、同一または異なる種類のSn2+含有無機材料202の多層膜を装置200に蒸着することができる。上記のように、Sn2+含有無機材料202は、電子装置、食品または医療品コンテナを含む、多種多様な装置200にとって一般的な問題である、酸素および/または水分による劣化を抑制するのに特に適している。さらには、Sn2+含有無機材料202を、化学的に活性な透過物に起因する、光化学作用、加水分解、および酸化などによる破損の低減に利用してもよい。Sn2+含有無機材料202を利用する、いくつかのさらなる利点および特性は次のとおりである。
【0024】
A.Sn2+含有無機材料202は、OLEDの長寿命動作のための最も厳しい不透過性要求(水、<10−6gm/m/日)を満たす、密封薄膜(〜2μm)バリア層の調製に利用して差し支えなく、また、装置(または基板材料)上に迅速にスパッタ蒸着およびアニーリングして差し支えなく、一部の事例では、非常に低い温度(<40℃)でも構わない。装置200としては、限定はしないが、以下のものが挙げられる。
【0025】
a.有機電子装置
・有機発光ダイオード(OLED)
・有機光起電装置(OPV)
・触媒使用または不使用の有機センサ
・可撓性の(フレキシブル)フラット・パネル装置用のフレキシブル基板
・無線ICタグ(RFID)
b.半導体電子装置
・発光ダイオード(LED)
・光起電装置(PV)
・触媒使用または不使用のセンサ
・可撓性の(フレキシブル)フラット・パネル装置用のフレキシブル基板
・無線ICタグ(RFID)
基板材料としては、限定はしないが、以下のものが挙げられる。
【0026】
a.ポリマー材料
・可撓性の(フレキシブル)フラット・パネル装置用のフレキシブル基板
・食品包装
・医療包装
B.Sn2+含有無機材料202を用いた有機電子装置200のシーリングは、固結/加熱処理を行う際に、新しく蒸着されたコーティングを含むチャンバー内に、酸素または空気が取り込まれないことが必要とされる。酸化される物質が外部に存在しないことが、シーリングを、特に低温において(〜40℃)可能にするために必要であるという事実により、このシーリング技術が有機電子装置の作製にとって魅力的な特性となっている。酸素および水分が、OLEDなどの有機電子装置上に蒸着された有機層および/または陰極材料に悪影響を与える酸化還元反応および光退色分解反応に関連する、主たる劣化反応物質であることが周知であるので、特にそう言える。
【0027】
C.スパッタ蒸着、蒸発蒸着、および他の薄膜蒸着方法を、装置200上へのSn2+含有無機薄膜の蒸着に用いて差し支えない。例えば、酸素を含む環境で、プラスチックなどのロール基材に超高速で金属スズを蒸着することによって、Sn2+含有無機酸化被膜202の高速蒸着を生じさせてもよい。あるいは、酸素環境において金属スズの反応性DCスパッタリングを利用して、装置200上にSn2+含有無機酸化被膜の所望の超高速蒸着を生じさせてもよい。実際、様々な種類の薄膜蒸着技術を利用して、装置200上にSn2+含有無機酸化被膜を蒸着して構わない。
【0028】
D.Sn2+含有無機材料202(例えばSnO粉末)を、別の種類の粉末/微量添加物と一緒にバッチ配合して、装置200上に蒸着されたバリア層に特定の物理化学的性質を実現するように設計された組成物を作り出すことができる。以下は、Sn2+含有無機材料202と混合し、蒸着されたバリア層に所望の物理化学的性質を実現することのできる様々な微量添加物の典型的なリストである。
【0029】
a.不透明性−透明性:SnOは、可視波長では不透明だが、リン酸系などの成分を微量添加して透明な膜を生成して差し支えない。
【0030】
b.屈折率:P、BPOおよびPbFなどの微量添加物を用いて、膜の屈折率を変化させ、例えば装置200の光透過率および/または光抽出を最適化させるのに役立ててもよい。例えば、高輝度発光(top emission)のOLED装置200は、屈折率を一致させた(index-matched)酸化物材料で空隙を置き換える際に、最適化させることができる。
【0031】
c.熱膨張係数(CTE):SnF、PおよびPbFなどの微量添加物を用いて、膜のCTEを変化させ、一般に「CTEの不一致」問題に関連する、様々な形態の層間剥離を最小限にするのに役立てることができる。
【0032】
d.増感:蛍光物質、量子ドット、無機/有機染料および分子を加えて、装置の最適化に有用な所望の電気光学特性を付与してもよい。例えば、カーボンブラックなどの微量添加物を用いて、薄いバリア・コーティングの電気光学特性(フェルミ準位/抵抗率)を変化させ、装置の効率を改善させることができる(注記:フェルミ準位が実質的にシフトさせられるならば、典型的なインジウムスズ酸化物(ITO)系に似たような方法で、バリア膜の伝導率を変化させる可能性があるかもしれない)。
【0033】
e.付着性改善のための溶解性および接触面の湿潤性の改変:Sn2+含有無機材料202にSnFなどの材料を微量添加し、有機添加剤を含む蒸着されたバリア膜の混和性を変化させることが可能であろう。実際、この構想をさらに活用して、付着の目的に応じて、蒸着された酸化物表面の湿潤能力をさらに変化させてもよい。
【0034】
f.引っかき耐性:SnO、SnF、およびPbFなどの微量添加物を用いて、様々な装置200にとって望ましい硬さを付与しても構わない。
【0035】
E.パターニング能力:スパッタ蒸着、もしくは他の薄膜蒸着法は、シャドーマスキングなど、様々なパターニング技術を利用して、誘電特性を有する微細構造を生成し、装置の動作の最適化を可能にする(例えば、有機薄膜トランジスタ(TFT)装置200はその上に形成される絶縁体ゲイトを備え、良好な電圧の閾値を実現することができるであろう)。
【0036】
本発明のいくつかの実施形態を、添付の図面に示し、また上記発明を実施するための最良の形態で説明してきたが、本発明は開示される実施形態によって限定されるべきではなく、当然ながら、添付の特許請求の範囲に記載され、かつ定義される本発明の精神から離れることなく、様々な再配置、修正および置換が可能であることが理解されよう。

【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】Sn2+含有無機材料を利用して、本発明に従った装置を密封する方法の工程を説明するフローチャート。図1中の参照番号は以下を意味する。すなわち、102:装置の基板上にある内層を覆うSn2+含有無機材料の蒸着、104:装置の基板上にある内層を損傷しない温度および環境で行う、蒸着されたSn2+含有無機材料の加熱処理。
【図2】本発明に従ったSn2+含有無機材料によって保護された装置の側断面図。
【図3】2種類の典型的なSn2+含有無機材料、すなわちSnOおよび80SnO:20P(黒点を参照)、および6種類の典型的な液相線温度の低い(LLT)材料(黒四角を参照)の組成の違いを図式化して説明した図。
【図4】本発明に従った数種類のSn2+含有無機材料で作製された薄膜バリアの性能を分析する、様々なカルシウムパッチテストの準備と実施についての説明の補助用に提供される85℃/85%湿度での促進老化チャンバーの図。
【図5】5Aから5Fは、85℃/85%湿度の促進老化チャンバー/オーブン中での酸素および水分の透過を阻害することができるか否かを測定するために準備および試験した、2つのSnOでコーティングされた装置の写真、SnOでコーティングされた装置(これは本発明の一部ではない)の写真、2つのSnO/Pでコーティングされた装置の写真、およびSnO/BPOでコーティングされた装置の写真。
【図6】カルシウムパッチテストおよび市販されている「MOCON」装置が、OLED装置のシーリングの遮水性能をいかに良く測定できるか(またはできないか)を図式的に表した図。この図の横軸はHO透過度(g/m/日/25℃)を表し、6.1は「MOCON」の測定の限界であり、6.3はOLEDの必要条件である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
装置への酸素および水分の透過を抑制する方法であって、
少なくとも前記装置の一部分を覆うようにSn2+含有無機材料で蒸着し、
前記装置の前記少なくとも一部分を覆うように蒸着した前記Sn2+含有無機材料を加熱処理する、
各工程を有してなる方法。
【請求項2】
前記蒸着工程が、次の1つおよびその組合せから選択される方法を利用することを含むことを特徴とする請求項1記載の方法:
スパッタリング法、
反応性スパッタリング法、
スートガン噴霧法、
レーザーアブレーション法。
【請求項3】
前記加熱処理工程が、200℃未満の温度で行われることを特徴とする請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記加熱処理工程が、100℃未満の温度で行われることを特徴とする請求項1または2記載の方法。
【請求項5】
前記加熱工程が、40℃未満の温度で行われることを特徴とする請求項1または2記載の方法。
【請求項6】
前記Sn2+含有無機材料が酸化第一スズを含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記Sn2+含有無機材料が、次の1つ、またはそれらの組合せのいずれかであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載の方法:
SnO、
SnOおよびホウ酸系材料、
SnOおよびリン酸系材料、
SnOおよびホウリン酸系材料。
【請求項8】
前記加熱処理されたSn2+含有無機材料が、0.01cm/m/atm/日未満の酸素透過度および0.01g/m/日未満の水透過度を有することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
Sn2+含有無機材料でシーリングされた少なくとも一部分を有する装置。
【請求項10】
前記Sn2+含有無機材料が酸化第一スズを含むことを特徴とする請求項9記載の装置。
【請求項11】
前記Sn2+含有無機材料が次のうちの1つであることを特徴とする請求項9または10記載の装置:
SnO、
SnO+P
SnO+BPO
【請求項12】
前記Sn2+含有無機材料が、100℃未満の温度で加熱処理されることを特徴とする請求項9〜11のいずれか1項記載の装置。
【請求項13】
基板と、
少なくとも1つの有機電子層または光電子層と、
Sn2+含有無機材料であって、前記少なくとも1つの有機電子層または光電子層が該Sn2+含有無機材料と前記基板の間に密封される、該Sn2+含有無機材料と、
を備える有機電子装置であることを特徴とする請求項9〜12のいずれか1項記載の装置。
【請求項14】
基板と、
少なくとも1つの有機発光ダイオードと、
スパッタリングされた加熱処理されていないSnO膜であって、前記少なくとも1つの有機発光ダイオードが、該スパッタリングされた加熱処理されていないSnO膜と前記基板の間に密封される、該スパッタリングされた、加熱処理されていないSnO膜と、
を備える有機電子装置であることを特徴とする請求項13記載の装置。
【請求項15】
前記スパッタリングされた、加熱処理されていないSnO膜が、0.01cm/m/atm/日未満の酸素透過度および0.01g/m/日未満の水透過度を有することを特徴とする請求項14記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−240150(P2008−240150A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2008−47584(P2008−47584)
【出願日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【出願人】(397068274)コーニング インコーポレイテッド (1,222)
【復代理人】
【識別番号】100116540
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 香
【復代理人】
【識別番号】100139723
【弁理士】
【氏名又は名称】樋口 洋
【Fターム(参考)】