説明

スタウロスポリンを含む組み合わせ

本発明は骨髄異形成症候群、リンパ腫および白血病ならびにまた固形腫瘍をFLT−3キナーゼ阻害剤およびアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはmcl−1特異的RNAi構築物の医薬用組み合わせで処置する方法に関する。また前記した疾患または悪性腫瘍の処置のためのヒストンデアセチラーゼ阻害剤およびFLT−3キナーゼ阻害剤の医薬用組み合わせの使用、ならびにこれらの疾患または悪性腫瘍の処置のための医薬品の製造のためのかかる医薬組成物の使用にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はFLT−3キナーゼ阻害剤およびmcl−1特異的核酸構築物のようなMCL−1阻害剤の医薬用組み合わせで骨髄異形成症候群、リンパ腫および白血病、とりわけ全身性肥満細胞症(SM)、ならびにまた急性骨髄性白血病(AML)および例えば結腸直腸癌(CRC)および非小細胞肺癌(NSCLC)のような固形腫瘍を処置する方法に関する。mcl−1特異的核酸構築物には、限定するものではないがアンチセンスmcl−1オリゴヌクレオチドまたはmcl−1特異的RNAi構築物が含まれる。mcl−1特異的RNAi構築物には、限定するものではないが低分子干渉RNA(siRNA)、マイクロRNA(miRNA)またはヘアピンRNA(shRNA)構築物が含まれる。本発明はまた前記した疾患または悪性腫瘍の処置のためのアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはmcl−1特異的RNAiおよびFLT−3キナーゼ阻害剤の医薬用組み合わせの使用、ならびにこれらの疾患または悪性腫瘍の処置のための医薬品の製造のためのかかる医薬組成物の使用にも関する。
【背景技術】
【0002】
肥満細胞症は一つまたはそれより多い器官系における肥満細胞(MC)の異常蓄積を特徴とする障害の群に関して総称して使用される用語である。その疾患の皮膚および全身性異型が記載されている。皮膚肥満細胞症(CM)は典型的には幼児期に発症し、そして頻繁に自然退行を伴う良性の経過を示す。全身性肥満細胞症(SM)は任意の年齢で発症し得て、そして皮膚の合併症を伴うかまたは伴わない、一つまたはそれより多い内臓の合併症を特徴とする。CMとは対照的に、SMはMCの持続性のクローン性障害である。高比率の症例で形質転換KIT変異D816Vが検出される。進行したSMでは、その他の骨髄細胞系列でも、Bリンパ球でさえも変異を検出できる。故にSMは多系列造血前駆細胞の疾患である。SMが多系列前駆細胞から生じるという概念は、これらの患者が随伴性血液学的非肥満細胞系列疾患(AHNMD)を発症し得るという考えによっても支持される。
【0003】
WHOコンセンサス分類により、SMの四つのカテゴリーが定義される:無痛性全身性肥満細胞症(ISM)、AHNMDを伴う肥満細胞症(SM−AHNMD)、侵襲性SM(ASM)および肥満細胞白血病(MCL)。SM異型はその臨床挙動および予後において互いに異なり、そして通常異なる治療を必要とする。ISMとは対照的に、とりわけASMまたはMCLの患者は腫瘍縮小性または標的薬物での処置のための候補である。
【0004】
これまでのところ、ASMまたはMCLにおける腫瘍性MCの成長を抑制するために、インターフェロン−アルファ(IFNα)またはクラドリビン(2CdA)のようなわずかな薬物しか記載されておらず、そしてわずかな患者しか際だった、および永続的な応答を示さない。N−[(9S,10R,11R,13R)−2,3,10,11,12,13−ヘキサヒドロ−10−メトキシ−9−メチル−1−オキソ−9,13−エポキシ−1H,9H−ジインドロ[1,2,3−gh:3',2',1'−lm]ピロロ[3,4−j][1,7]ベンゾジアゾニン−11−イル]−N−メチルベンズアミドまたはニロチニブ(4−メチル−3−[[4−(3−ピリジニル)−2−ピリミジニル]アミノ]−N−[5−(4−メチル−1H−イミダゾール−1−イル)−3−(トリフルオロメチル)フェニル]ベンズアミド)のようないくつかの新規チロシンキナーゼ(TK)阻害剤もまた腫瘍性MCの成長に対抗し得る。しかしながらこの場合も、長く持続する応答は未だ記載されていない。その他の研究により、イマチニブはSMを有する患者の腫瘍性MCの成長を阻止することが示唆される。しかしながらイマチニブの効果は、腫瘍性MCが野生型KIT、KIT変異F522Cを宿す患者において、またはFIP1L1/PDGFRα融合遺伝子を随伴する共存性好酸球増加症を有する患者においてのみ認められている。それに反してイマチニブは、KIT D816Vを呈する腫瘍性MCにはほとんど効果を示さなかった。実際に、SMを有する大部分の患者において検出できるこのKIT変異はイマチニブに対する抵抗性を付与する。
【0005】
最近はさらに有効な治療的研究法およびさらに有効な薬物組み合わせを開発するために、腫瘍性MCの新しい標的を同定するための多くの試みが為されている。一つの有望な研究法は高悪性度のMC腫瘍(ASM、MCL)でMCにおいて発現される生存性関連分子を調査することであるかもしれない。
【0006】
Mcl−1は種々の腫瘍細胞において抗アポトーシス的に作用すると考えられる、十分に特徴付けされたBcl−2ファミリーのメンバーである。例えばMendelian Inheritance in Man、MIMアクセス番号159552を参照のこと。元来Mcl−1は、白血病性ML−1細胞のTPA誘起の分化の間に発現される生存性強化分子として記載された。継続的な研究により、Mcl−1は慢性骨髄性白血病の原発性腫瘍細胞において構成的に発現されることが示される。しかしながらこれまでのところ、その他の骨髄性腫瘍におけるMcl−1の発現および役割についてほとんど知られていない。
【0007】
今では、アンチセンスオリゴヌクレオチドまたはmcl−1特異的RNAi構築物と組み合わされたFLT−3キナーゼ阻害剤が治療的特性を保有することが見出されている。これらの知見によりFLT−3キナーゼ阻害剤およびmcl−1阻害剤の組み合わせは骨髄異形成症候群、リンパ腫および白血病、とりわけ全身性肥満細胞症、ならびにまた急性骨髄性白血病(AML)、ならびにまた例えば結腸直腸癌(CRC)および非小細胞肺癌(NSCLC)のような固形腫瘍の処置に特に有用であるとされる。
【0008】
今ではとりわけASMおよびMCLを含むSMの全ての異型における原発性腫瘍性MCならびにMCL細胞系HMC−1は構成的な様式でMcl−1を発現することが見出されている。加えてこれらの細胞におけるMcl−1のターゲティングは成長低下およびアポトーシスの誘導に、ならびにN−[(9S,10R,11R,13R)−2,3,10,11,12,13−ヘキサヒドロ−10−メトキシ−9−メチル−1−オキソ−9,13−エポキシ−1H,9H−ジインドロ[1,2,3−gh:3',2',1'−lm]ピロロ[3,4−j][1,7]ベンゾジアゾニン−11−イル]−N−メチルベンズアミド、4−メチル−3−[[4−(3−ピリジニル)−2−ピリミジニル]アミノ]−N−[5−(4−メチル−1H−イミダゾール−1−イル)−3−(トリフルオロメチル)フェニル]ベンズアミドおよびイマチニブを含むTK阻害剤に対する感受性の増大に関連する。
【発明の概要】
【0009】
本発明の組み合わせで使用するための特定の目的のFLT−3キナーゼ阻害剤は4−メチル−3−[[4−(3−ピリジニル)−2−ピリミジニル]アミノ]−N−[5−(4−メチル−1H−イミダゾール−1−イル)−3−(トリフルオロメチル)フェニル]ベンズアミドおよびイマチニブおよび式:
【化1】

または
【化2】

(ここで(II)は部分的に水素化された化合物(I)の誘導体である)または
【化3】

または
【化4】

または
【化5】

または
【化6】

(式中、
およびRは互いに独立して非置換もしくは置換アルキル、水素、ハロゲン、ヒドロキシ、エーテル化もしくはエステル化ヒドロキシ、アミノ、一もしくは二置換アミノ、シアノ、ニトロ、メルカプト、置換メルカプト、カルボキシ、エステル化カルボキシ、カルバモイル、N−一もしくはN,N−二置換カルバモイル、スルホ、置換スルホニル、アミノスルホニルまたはN−一もしくはN,N−二置換アミノスルホニルであり;
nおよびmは互いに独立して0以上4以下の数字であり;
n'およびm'は互いに独立して0以上4以下の数字であり;
、R、RおよびR10は互いに独立して水素、−O、30個までの炭素原子を有するアシル、脂肪族、各々の場合に29個までの炭素原子を有する炭素環式もしくは炭素環式脂肪族ラジカル、各々の場合に20個までの炭素原子および各々の場合に9個までのヘテロ原子を有する複素環式もしくは複素環式脂肪族ラジカル、30個までの炭素原子を有するアシルであり、ここでRは不在でもよいか;
またはRが30個までの炭素原子を有するアシルである場合、Rはアシルではなく;
が不在である場合、pは0であるか、またはRおよびRが双方共に存在し、そして各々の場合に前記のラジカルのうちの一つである場合1であり;
は水素、脂肪族、各々の場合に29個までの炭素原子を有する炭素環式もしくは炭素環式脂肪族ラジカル、または各々の場合に20個までの炭素原子および各々の場合に9個までのヘテロ原子を有する複素環式もしくは複素環式脂肪族ラジカル、または30個までの炭素原子を有するアシルであり;
、RおよびRはアシルもしくは−(低級アルキル)−アシル、非置換もしくは置換アルキル、水素、ハロゲン、ヒドロキシ、エーテル化もしくはエステル化ヒドロキシ、アミノ、一もしくは二置換アミノ、シアノ、ニトロ、メルカプト、置換メルカプト、カルボキシ、カルボニル、カルボニルジオキシ、エステル化カルボキシ、カルバモイル、N−一もしくはN,N−二置換カルバモイル、スルホ、置換スルホニル、アミノスルホニルまたはN−一もしくはN,N−二置換アミノスルホニルであり;
Xは2個の水素原子;1個の水素原子およびヒドロキシ;O;または水素および低級アルコキシを意味し;
Zは水素または低級アルキルを表し;
そして波線で特徴付けられた2個の結合は環Aで不在であり、4個の水素原子により置き換えられ、ならびに環Bの2本の波線の各々は各平行の結合と一緒に二重結合を示すか;
または波線で特徴付けられた2個の結合は環Bで不在であり、全部で4個の水素原子により置き換えられ、ならびに環Aの2本の波線の各々は各平行の結合と一緒に二重結合を示すか;
または環Aおよび環Bの双方で4個の波線の結合の全てが不在であり、全部で8個の水素原子により置き換えられるかのいずれかである)
のスタウロスポリン誘導体、または少なくとも一つの塩形成基が存在する場合はその塩である。
【0010】
本明細書前記および後記で用いられる一般的な用語および定義は好ましくはスタウロスポリン誘導体に関する以下の意味を有する:
接頭辞「低級」とは関連するラジカルが好ましくは最大7個以下の炭素原子、特に最大4個以下の炭素原子を有することを示す。
低級アルキルは特にメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、およびまたペンチル、ヘキシルまたはヘプチルである。
【0011】
非置換または置換アルキルは好ましくはC−C20アルキル、特に低級アルキル、典型的にはメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチルまたはtert−ブチルであり、それは特に非置換であるか、またはフッ素、塩素、臭素もしくはヨウ素のようなハロゲン、フェニルもしくはナフチルのようなC−C14アリール、ヒドロキシ、低級アルコキシ、フェニル−低級アルコキシもしくはフェニルオキシのようなエーテル化ヒドロキシ、低級アルカノイルオキシもしくはベンゾイルオキシのようなエステル化ヒドロキシ、アミノ、低級アルキルアミノ、低級アルカノイルアミノ、フェニル−低級アルキルアミノ、N,N−ジ−低級アルキルアミノ、N,N−ジ−(フェニル−低級アルキル)アミノのような一もしくは二置換アミノ、シアノ、メルカプト、低級アルキルチオのような置換メルカプト、カルボキシ、低級アルコキシカルボニルのようなエステル化カルボキシ、カルバモイル、N−低級アルキルカルバモイルもしくはN,N−ジ−低級アルキルカルバモイルのようなN−一もしくはN,N−二置換カルバモイル、スルホ、低級アルカンスルホニルもしくは低級アルコキシスルホニルのような置換スルホ、アミノスルホニルまたはN−低級アルキルアミノスルホニルまたはN,N−ジ−低級アルキルアミノスルホニルのようなN−一もしくはN,N−二置換アミノスルホニルにより置換される。
【0012】
ハロゲンは好ましくはフッ素、塩素、臭素またはヨウ素、特にフッ素または塩素である。
エーテル化ヒドロキシは特に低級アルコキシ、フェニルオキシのようなC−C14アリールオキシまたはベンジルオキシのようなC−C14アリール−低級アルコキシである。
エステル化ヒドロキシは好ましくは低級アルカノイルオキシまたはベンゾイルオキシのようなC−C14アリールカルボニルオキシである。
一または二置換アミノは特に低級アルキル、C−C14アリール、C−C14アリール−低級アルキル、低級アルカノイルまたはC−C12アリールカルボニルにより一置換または二置換されたアミノである。
置換メルカプトは特に低級アルキルチオ、C−C14アリールチオ、C−C14アリール−低級アルキルチオ、低級アルカノイルチオまたはC−C14アリール−低級アルカノイルチオである。
【0013】
エステル化カルボキシは特に低級アルコキシカルボニル、C−C14アリール−低級アルコキシカルボニルまたはC−C14アリールオキシカルボニルである。
N−一またはN,N−二置換カルバモイルは特に低級アルキル、C−C14アリールまたはC−C14アリール−低級アルキルによりN−一置換またはN,N−二置換されたカルバモイルである。
置換スルホニルは特にトルエンスルホニル、C−C14アリール−低級アルカンスルホニルまたは低級アルカンスルホニルのようなC−C14アリールスルホニルである。
N−一またはN,N−二置換アミノスルホニルは特に低級アルキル、C−C14アリールまたはC−C14アリール−低級アルキルによりN−一置換またはN,N−二置換されたアミノスルホニルである。
【0014】
−C14アリールは環系に6から14個の炭素原子を有するフェニル、ナフチル、フルオレニルまたはインデニルのようなアリールラジカルであり、それは特に非置換であるか、またはフッ素、塩素、臭素もしくはヨウ素のようなハロゲン、フェニルもしくはナフチル、ヒドロキシ、低級アルコキシ、フェニル−低級アルコキシ、フェニルオキシ、低級アルカノイルオキシ、ベンゾイルオキシ、アミノ、低級アルキルアミノ、低級アルカノイルアミノ、フェニル−低級アルキルアミノ、N,N−ジ−低級アルキルアミノ、N,N−ジ−(フェニル−低級アルキル)アミノ、シアノ、メルカプト、低級アルキルチオ、カルボキシ、低級アルコキシカルボニル、カルバモイル、N−低級アルキルカルバモイル、N,N−ジ−低級アルキルカルバモイル、スルホ、低級アルカンスルホニル、低級アルコキシスルホニル、アミノスルホニル、N−低級アルキルアミノスルホニルまたはN,N−ジ−低級アルキルアミノスルホニルにより置換されている。
【0015】
指数nおよびmは各々の場合で好ましくは1、2または特に0である。一般的にnおよびmが各々の場合で0(ゼロ)である式Iの化合物が特に好ましい。
29個までの炭素原子を有する脂肪族炭水化物ラジカルR、R、RまたはR10は非環式置換基により置換されており、そして好ましくは最大18個、特に最大12個および通例せいぜい7個の炭素原子を有し、飽和または不飽和でよく、そして特に非置換または直鎖もしくは分岐した低級アルキル、低級アルケニル、低級アルカジエニル、または非環式置換基により置換された低級アルキニルラジカルである。低級アルキルは例えばメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチルまたはtert−ブチル、およびまたn−ペンチル、イソペンチル、n−ヘキシル、イソヘキシルおよびn−ヘプチルであり;低級アルケニルは例えばアリル、プロペニル、イソプロペニル、2−または3−メタリルおよび2−または3−ブテニルであり;低級アルカジエニルは例えば1−ペンタ−2,4−ジエニルであり;低級アルキニルは例えばプロパルギルまたは2−ブチニルである。対応する不飽和ラジカルでは、二重結合は特に遊離原子価に関してα位よりも高位の位置にある。置換基は特に本明細書後記にてRの置換基として定義されるアシルラジカル、好ましくはカルボキシもしくは低級アルコキシカルボニルのような遊離もしくはエステル化カルボキシ、シアノまたはジ−低級アルキルアミノである。
【0016】
各々の場合で29個までの炭素原子を有する炭素環式または炭素環式−脂肪族ラジカルR、R、RまたはR10は特に芳香族、脂環式、脂環式−脂肪族、または芳香族−脂肪族ラジカルであり、それは非置換形態で存在するか、または本明細書後記でRの置換基として言及されるラジカルにより置換されているかのいずれかである。芳香族ラジカル(アリールラジカル)RまたはRは何よりも特にフェニル、また1−または2−ナフチルのようなナフチル、特に4−ビフェニリルのようなビフェニリル、およびまたアントリル、フルオレニルおよびアズレニル、ならびに1個またはそれより多い飽和環を有するその芳香族類似体であり、それは非置換形態で存在するか、または本明細書後記でRの置換基として言及されるラジカルにより置換されているかのいずれかである。好ましい芳香族−脂肪族ラジカルはアリール−低級アルキル−およびアリール−低級アルケニルラジカル、例えばベンジル、フェネチル、1−、2−または3−フェニルプロピル、ジフェニルメチル(ベンズヒドリル)、トリチルおよびシンナミルのような末端フェニルラジカルを有するフェニル−低級アルキルまたはフェニル−低級アルケニル、ならびにまた1−または2−ナフチルメチルである。低級アルキルのような非環式ラジカルを担持するアリールラジカルのうち、種々の状態にあるメチルラジカルを有するo−、m−およびp−トリルならびにキシリルラジカルが特記される。
【0017】
29個までの炭素原子を有する脂環式ラジカルR、R、RまたはR10は特に置換または好ましくは非置換単環、二環または多環式シクロアルキル−、シクロアルケニル−、またはシクロアルカジエニルラジカルである。最大14個、特に12個の環炭素原子および3から8、好ましくは5から7、そして何より特に6員環を有するラジカルが好ましく、それはまた1個またはそれより多い、例えば2個の脂肪族炭化水素ラジカル、例えば前記にて挙げられたもの、特に低級アルキルラジカル、またはその他の脂環式ラジカルを置換基として担持することもできる。好ましい置換基は本明細書後記でRに関して挙げられる非環式置換基である。
【0018】
29個までの炭素原子を有する脂環式−脂肪族ラジカルR、R、RまたはR10は、非環式ラジカル、特にメチル、エチルおよびビニルのような特に最大7個、好ましくは最大4個の炭素原子を有するものが本明細書前記で定義されるような1個またはそれより多い脂環式ラジカルを担持するラジカルである。シクロアルキル−低級アルキルラジカルならびに環および/または鎖において不飽和であるが、非芳香族であり、そして鎖の末端炭素原子で環を担持するその類似体が特記される。好ましい置換基は本明細書後記でRに関して挙げられる非環式置換基である。
【0019】
各々20個までの炭素原子および各々9個までのヘテロ原子を有する複素環式ラジカルR、R、RまたはR10は特に単環式、しかしまた芳香族特性の二環または多環式、アザ−、チア−、オキサ−、チアザ−、オキサザ−、ジアザ−、トリアザ−またはテトラザ環式ラジカル、ならびに部分的または何より特に完全に飽和しているこの型の対応する複素環式ラジカルであり、これらのラジカルは、必要により、もしかするとさらに非環式、炭素環式もしくは複素環式ラジカルを担持し、および/またはもしかすると官能基により一、二もしくは三置換され、好ましくは脂肪族炭化水素ラジカルの置換基として本明細書前記にて挙げられたものである。何より特にそれらは2−アジリジニルのような窒素、酸素または硫黄原子を有する非置換または置換単環式ラジカル、および特にピリル(pyrryl)、例えば2−ピリルもしくは3−ピリル、ピリジル、例えば2−、3−もしくは4−ピリジルのようなこの型の芳香族ラジカル、およびまたチエニル、例えば2−もしくは3−チエニル、またはフリル、例えば2−フリルであり;酸素、硫黄または窒素原子を有する類似の二環式ラジカル、例えばインドリル、典型的には2−もしくは3−インドリル、キノリル、典型的には2−もしくは4−キノリル、イソキノリル、典型的には3−もしくは5−イソキノリル、ベンゾフラニル、典型的には2−ベンゾフラニル、クロメニル、典型的には3−クロメニル、またはベンゾチエニル、典型的には2−もしくは3−ベンゾチエニルであり;いくつかのヘテロ原子を有する好ましい単環式および二環式ラジカルは、例えばイミダゾリル、典型的には2−もしくは4−イミダゾリル、ピリミジニル、典型的には2−もしくは4−ピリミジニル、オキサゾリル、典型的には2−オキサゾリル、イソオキサゾリル、典型的には3−イソオキサゾリル、またはチアゾリル、典型的には2−チアゾリル、およびベンゾイミダゾリル、典型的には2−ベンゾイミダゾリル、ベンゾオキサゾリル、典型的には2−ベンゾオキサゾリル、またはキナゾリル、典型的には2−キナゾリニルである。2−テトラヒドロフリル、2−または3−ピロリジニル、2−、3−または4−ピペリジル、およびまた2−または3−モルホリニル、2−または3−チオモルホリニル、2−ピペラジニルおよびN−モノ−またはN,N'−ビス−低級アルキル−2−ピペラジニルラジカルのような適切な部分的または特に完全に飽和した類似ラジカルもまた考慮され得る。これらのラジカルはまた1個またはそれより多い非環式、炭素環式または複素環式ラジカル、特に本明細書にて前記されたものを担持することもできる。複素環式ラジカルRまたはRの遊離原子価はその炭素原子の一つから生じたものでなければならない。ヘテロシクリルは非置換であるか、または本明細書前記にてRに関して挙げられた1個またはそれより多い、好ましくは1または2個の置換基により置換されていてよい。
【0020】
複素環式−脂肪族ラジカルR、R、RまたはR10、特に最大7個、好ましくは最大4個の炭素原子を有する、特に低級アルキルラジカル、例えば本明細書前記にて挙げられたものは、1個、2個またはそれより多い複素環式ラジカル、例えば前記のパラグラフで挙げられたものを担持し、複素環式環はもしかするとその窒素原子のうちの1個により脂肪族鎖に連結されている。好ましい複素環式−脂肪族ラジカルRは、例えばイミダゾール−1−イルメチル、4−メチルピペラジン−1−イルメチル、ピペラジン−1−イルメチル、2−(モルホリン−4−イル)エチルおよびまたピリド−3−イルメチルである。ヘテロシクリルは非置換であるか、または本明細書後記にてRに関して挙げられた1個またはそれより多い、好ましくは1個または2個の置換基により置換されていてよい。
【0021】
各々20個までの炭素原子および各々10個までのヘテロ原子を有するヘテロ脂肪族ラジカルR、R、RまたはR10は脂肪族ラジカルであり、それは1個、2個またはそれより多い炭素原子の代わりに同一のまたは異なる、特に酸素、硫黄および窒素のようなヘテロ原子を含有する。特に好ましいヘテロ脂肪族ラジカルRの配列はオキサ−アルキルラジカルの形態を取り、ここで1個またはそれより多い炭素原子は好ましくは直鎖状アルキルで酸素原子により置き換えられ、好ましくはいくつかの(特に2個の)炭素原子により互いに分けられて、それらは反復基、必要により多反復基(O−CH−CH−)q(ここでq=1から7)を形成する。
【0022】
特に好ましいR、R、RまたはR10は、アシルは別として低級アルキル、特にメチルもしくはエチル;低級アルコキシカルボニル−低級アルキル、特にメトキシカルボニルメチルもしくは2−(tert−ブトキシカルボニル)エチル;カルボキシ−低級アルキル、特にカルボキシメチルもしくは2−カルボキシエチル;またはシアノ−低級アルキル、特に2−シアノエチルである。
【0023】
30個までの炭素原子を有するアシルラジカルR、R、R、R、R、RまたはR10は、必要によりエステル化された、必要により機能的に修飾されたカルボン酸、有機スルホン酸またはピロ−もしくはオルトリン酸のようなリン酸から誘導される。
【0024】
Acと称され、そしてカルボン酸から誘導され、必要により機能的に修飾されたアシルは特に部分式Y−C(=W)−(式中、Wは酸素、硫黄またはイミノであり、そしてYは水素、29個までの炭素原子を有するヒドロカルビルR、ヒドロカルビルオキシR−O−、アミノ基または置換アミノ基、特に式RHN−またはRN−(式中、Rラジカルは同一または互いに異なってよい)の一つである)の一つである。
【0025】
ヒドロカルビル(炭化水素ラジカル)Rは各々29個までの炭素原子、特に18個まで、および好ましくは12個までの炭素原子を有する非環式(脂肪族)、炭素環式または炭素環式非環式炭化水素ラジカルであり、そして飽和または不飽和、非置換または置換されている。それは非環式および/または環式部分に1個、2個またはそれより多い炭素原子の代わりに同一のまたは異なる、特に酸素、硫黄および窒素のようなヘテロ原子を含有でき;後者の場合、それは複素環式ラジカル(ヘテロシクリルラジカル)または複素環式−非環式ラジカルとして記載される。
【0026】
不飽和ラジカルは1個またはそれより多い、特に共役および/または単離された多重結合(二重または三重結合)を含有するものである。環式ラジカルなる用語にはまた共役二重結合を有する芳香族および非芳香族ラジカル、例えば少なくとも一つの6員炭素環式または5から8員複素環式環が最大数の非累積二重結合を含有するものが含まれる。少なくとも一つの環が6員芳香族環(すなわちベンゼン環)として存在する炭素環式ラジカルはアリールラジカルとして定義される。
【0027】
非環式非置換炭化水素ラジカルRは特に直鎖状または分岐した低級アルキル−、低級アルケニル−、低級アルカジエニル−、または低級アルキニルラジカルである。低級アルキルRは例えばメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチルまたはtert−ブチル、ならびにまたn−ペンチル、イソペンチル、n−ヘキシル、イソヘキシルおよびn−ヘプチルであり;低級アルケニルは例えばアリル、プロペニル、イソプロペニル、2−または3−メタリルおよび2−または3−ブテニルであり;低級アルカジエニルは、例えば1−ペンタ−2,4−ジエニルであり;低級アルキニルは、例えばプロパルギルまたは2−ブチニルである。対応する不飽和ラジカルでは、二重結合は特に遊離原子価に関してα位よりも高位の位置にある。
【0028】
炭素環式炭化水素ラジカルRは特に単環、二環または多環式シクロアルキル−、シクロアルケニル−もしくはシクロアルカジエニルラジカル、または対応するアリールラジカルである。好ましいのは最大14個、特に12個の環炭素原子、および3から8、好ましくは5から7、および何より特に6員環を有するラジカルであり、それはまた1個またはそれより多い、例えば2個の非環式ラジカル、例えば前記にて挙げられたもの、特に低級アルキルラジカルまたはその他の炭素環式ラジカルを担持できる。炭素環式−非環式ラジカルは、非環式ラジカル、特にメチル、エチルおよびビニルのような特に最大7個、好ましくは最大4個の炭素原子を有するものが1個またはそれより多い炭素環式、必要により前記の定義の芳香族ラジカルを担持するものである。シクロアルキル−低級およびアリール−低級アルキルラジカル、ならびに環および/または鎖で不飽和であるその類似体が特記され、そしてそれは鎖の末端炭素で環を担持する。
【0029】
シクロアルキルRは何より特に3個から10個以下の炭素原子を有し、そして例えばシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチルおよびシクロオクチル、ならびにビシクロ[2,2,2]オクチル、2−ビシクロ[2,2,1]ヘプチルおよびアダマンチルであり、それはまた1個、2個またはそれより多い、例えば低級、アルキルラジカル、特にメチルラジカルにより置換されていてもよく;シクロアルケニルは例えば1、2または3位で二重結合を担持する、既に挙げられた単環式シクロアルキルラジカルの一つである。シクロアルキル−低級アルキルまたは−低級アルケニルは例えば前記で挙げられたシクロアルキルラジカルの一つにより置換された−メチル、−1−もしくは−2−エチル、−1−もしくは−2−ビニル、−1−、−2−もしくは−3−プロピルまたは−アリルであり、直鎖の末端で置換されたものが好ましい。
【0030】
アリールラジカルRは何より特にフェニル、また1−または2−ナフチルのようなナフチル、特に4−ビフェニリルのようなビフェニリル、およびまたアントリル、フルオレニルおよびアズレニル、ならびに1個またはそれより多い飽和環を有するその芳香族類似体である。好ましいアリール−低級アルキルおよび−低級アルケニルラジカルは、例えばベンジル、フェネチル、1−、2−または3−フェニルプロピル、ジフェニルメチル(ベンズヒドリル)、トリチルおよびシンナミルのような例えば末端フェニルラジカルを有するフェニル−低級アルキルまたはフェニル−低級アルケニル、ならびにまた1−または2−ナフチルメチルである。アリールは非置換または置換されていてよい。
【0031】
複素環式−非環式ラジカルを含む複素環式ラジカルは特に単環式、しかしまた芳香族特性の二環または多環式、アザ−、チア−、オキサ−、チアザ−、オキサザ−、ジアザ−、トリアザ−またはテトラザ環式ラジカル、ならびに部分的または何より特に完全に飽和しているこの型の対応する複素環式ラジカルであり;必要により、例えば前記した炭素環式またはアリールラジカルの場合のように、これらのラジカルはさらに非環式、炭素環式もしくは複素環式ラジカルを担持でき、そして/または官能基により一、二もしくは三置換され得る。複素環式−非環式ラジカルの非環式部分は例えば対応する炭素環式−非環式ラジカルに関して示された意味を有する。何より特にそれらは2−アジリジニルのような窒素、酸素または硫黄原子を有する非置換または置換単環式ラジカル、および特にピロリル、例えば2−ピロリルもしくは3−ピロリル、ピリジル、例えば2−、3−もしくは4−ピリジルのようなこの型の芳香族ラジカル、およびまたチエニル、例えば2−もしくは3−チエニル、またはフリル、例えば2−フリルであり;酸素、硫黄または窒素原子を有する類似の二環式ラジカルは、例えばインドリル、典型的には2−もしくは3−インドリル、キノリル、典型的には2−もしくは4−キノリル、イソキノリル、典型的には3−もしくは5−イソキノリル、ベンゾフラニル、典型的には2−ベンゾフラニル、クロメニル、典型的には3−クロメニル、またはベンゾチエニル、典型的には2−もしくは3−ベンゾチエニルであり;いくつかのヘテロ原子を有する好ましい単環式および二環式ラジカルは、例えばイミダゾリル、典型的には2−もしくは4−イミダゾリル、ピリミジニル、典型的には2−もしくは4−ピリミジニル、オキサゾリル、典型的には2−オキサゾリル、イソオキサゾリル、典型的には3−イソオキサゾリル、またはチアゾリル、典型的には2−チアゾリル、およびベンゾイミダゾリル、典型的には2−ベンゾイミダゾリル、ベンゾオキサゾリル、典型的には2−ベンゾオキサゾリル、またはキナゾリル、典型的には2−キナゾリニルである。2−テトラヒドロフリル、4−テトラヒドロフリル、2−または3−ピロリジル、2−、3−または4−ピペリジル、およびまた2−または3−モルホリニル、2−または3−チオモルホリニル、2−ピペラジニルおよびN,N'−ビス−低級アルキル−2−ピペラジニルラジカルのような適切な部分的または特に完全に飽和した類似ラジカルもまた考慮され得る。これらのラジカルはまた1個またはそれより多い非環式、炭素環式または複素環式ラジカル、特に本明細書にて前記されたものを担持することもできる。複素環式−非環式ラジカルは特に最大7個、好ましくは最大4個の炭素原子、例えば本明細書前記にて挙げられたものを有する非環式ラジカルから誘導され、そして1個、2個またはそれより多い複素環式ラジカル、例えば本明細書前記にて挙げられたものを担持でき、その環はもしかするとその窒素原子のうちの1個により脂肪族鎖に連結されている。
【0032】
既に記載したように、ヒドロカルビル(ヘテロシクリルを含む)は1個、2個またはそれより多い同一のまたは異なる置換基(官能基)により置換されていてよく;1個またはそれより多い以下の置換基を考慮できる:低級アルキル;遊離、エーテル化およびエステル化ヒドロキシル基;カルボキシ基およびエステル化カルボキシ基;メルカプト−および低級アルキルチオ−ならびに、必要により置換フェニルチオ基;ハロゲン原子、典型的には塩素およびフッ素、しかしまた臭素およびヨウ素;ハロゲン−低級アルキル基;ホルミルの形態で存在するオキソ基(すなわちアルデヒド)、およびケト基(また対応するアセタールまたはケタールとして);アジド基;ニトロ基;シアノ基;第一級、第二級および好ましくは第三級アミノ基、アミノ−低級アルキル、一または二置換アミノ−低級アルキル、従来の保護基により保護された第一級または第二級アミノ基(特に低級アルコキシカルボニル、典型的にはtert−ブトキシカルボニル)低級アルキレンジオキシ、およびまた遊離または機能的に修飾されたスルホ基、典型的には遊離形態または塩として存在するスルファモイルまたはスルホ基。ヒドロカルビルラジカルはまたカルバモイル、ウレイドまたはグアニジノ基を担持でき、それは遊離であるか、または1個もしくは2個の置換基およびシアノ基を担持する。前記の「(複数の)基」なる語の使用は個々の基をも意味すると見なされる。
【0033】
ハロゲン−低級アルキルは好ましくは1から3個のハロゲン原子を含有し;好ましいのはトリフルオロメチルまたはクロロメチルである。
【0034】
ヒドロカルビルに置換基として存在するエーテル化ヒドロキシル基は、例えば低級アルコキシ基、典型的にはメトキシ−、エトキシ−、プロポキシ−、イソプロポキシ−、ブトキシ−およびtert−ブトキシ基であり、それはまた特に(i)ヘテロシクリルにより置換されていてよく、それによりヘテロシクリルは好ましくは4から12個の環原子を有することができ、不飽和または部分的もしくは完全に飽和されていてよく、単環または二環式であり、そして窒素、酸素および硫黄から選択される3個までのヘテロ原子を含有でき、そして何より特にピロリル、例えば2−ピロリルもしくは3−ピロリル、ピリジル、例えば2−、3−もしくは4−ピリジル、およびまたチエニル、例えば2−もしくは3−チエニル、またはフリル、例えば2−フリル、インドリル、典型的には2−もしくは3−インドリル、キノリル、典型的には2−もしくは4−キノリル、イソキノリル、典型的には3−もしくは5−イソキノリル、ベンゾフラニル、典型的には2−ベンゾフラニル、クロメニル、典型的には3−クロメニル、ベンゾチエニル、典型的には2−もしくは3−ベンゾチエニル;イミダゾリル、典型的には1−もしくは2−イミダゾリル、ピリミジニル、典型的には2−もしくは4−ピリミジニル、オキサゾリル、典型的には2−オキサゾリル、イソオキサゾリル、典型的には3−イソオキサゾリル、チアゾリル、典型的には2−チアゾリル、ベンゾイミダゾリル、典型的には2−ベンゾイミダゾリル、ベンゾオキサゾリル、典型的には2−ベンゾオキサゾリル、キナゾリル、典型的には2−キナゾリニル、2−テトラヒドロフリル、4−テトラヒドロフリル、2−もしくは4−テトラヒドロピラニル、1−、2−もしくは3−ピロリジル、1−、2−、3−もしくは4−ピペリジル、1−、2−もしくは3−モルホリニル、2−もしくは3−チオモルホリニル、2−ピペラジニルまたはN,N'−ビス−低級アルキル−2−ピペラジニルであり;そしてまた(ii)ハロゲン原子により、2,2,2−トリクロロエトキシ、2−クロロエトキシもしくは2−ヨードエトキシラジカルのように特に2位で置換、例えば一、二もしくは多置換されていてよく、または(iii)ヒドロキシもしくは(iv)低級アルコキシラジカルにより、各々2−メトキシエトキシラジカルのように特に2位で置換、好ましくは一置換されていてよい。かかるエーテル化ヒドロキシル基はまた非置換または置換フェノキシラジカルおよび特にベンジルオキシ、ベンズヒドリルオキシおよびトリフェニルメトキシ(トリチルオキシ)のようなフェニル−低級アルコキシラジカル、ならびにヘテロシクリルオキシラジカルであり、ここでヘテロシクリルは好ましくは4から12個の環原子を有することができ、不飽和または部分的もしくは完全に飽和されていてよく、単環または二環式であり、そして窒素、酸素および硫黄から選択される3個までのヘテロ原子を含有でき、そして何より特にピロリル、例えば2−ピロリルもしくは3−ピロリル、ピリジル、例えば2−、3−もしくは4−ピリジル、およびまたチエニル、例えば2−もしくは3−チエニル、またはフリル、例えば2−フリル、インドリル、典型的には2−もしくは3−インドリル、キノリル、典型的には2−もしくは4−キノリル、イソキノリル、典型的には3−もしくは5−イソキノリル、ベンゾフラニル、典型的には2−ベンゾフラニル、クロメニル、典型的には3−クロメニル、ベンゾチエニル、典型的には2−もしくは3−ベンゾチエニル;イミダゾリル、典型的には1−もしくは2−イミダゾリル、ピリミジニル、典型的には2−もしくは4−ピリミジニル、オキサゾリル、典型的には2−オキサゾリル、イソオキサゾリル、典型的には3−イソオキサゾリル、チアゾリル、典型的には2−チアゾリル、ベンゾイミダゾリル、典型的には2−ベンゾイミダゾリル、ベンゾオキサゾリル、典型的には2−ベンゾオキサゾリル、キナゾリル、典型的には2−キナゾリニル、2−テトラヒドロフリル、4−テトラヒドロフリル、2−もしくは4−テトラヒドロピラニル、1−、2−もしくは3−ピロリジル、1−、2−、3−もしくは4−ピペリジル、1−、2−もしくは3−モルホリニル、2−もしくは3−チオモルホリニル、2−ピペラジニルまたはN,N'−ビス−低級アルキル−2−ピペラジニル;例えば特に2−または4−テトラヒドロピラニルオキシである。
【0035】
この局面でエーテル化ヒドロキシル基はシリル化ヒドロキシル基、典型的には例えばトリ−低級アルキルシリルオキシ、典型的にはトリメチルシリルオキシおよびジメチル−tert−ブチルシリルオキシまたはフェニルジ−低級アルキルシリルオキシおよび低級アルキル−ジフェニルシリルオキシを含むと見なされる。
ヒドロカルビルに置換基として存在するエステル化ヒドロキシル基は、例えば低級アルカノイルオキシである。
【0036】
ヒドロカルビルに置換基として存在するカルボキシル基は、水素原子が前記で特徴付けされたヒドロカルビルラジカルの一つ、好ましくは低級アルキル−またはフェニル−低級アルキルラジカルにより置き換えられたものであり;エステル化カルボキシル基の実例は低級アルコキシカルボニルまたは必要によりフェニル部分で置換されたフェニル−低級アルコキシカルボニル、特にメトキシ、エトキシ、tert−ブトキシおよびベンジルオキシカルボニル基、ならびにラクトン化カルボキシル基である。
【0037】
ヒドロカルビルの置換基として第一級アミノ基−NHはまた従来の保護基により保護された形態で存在し得る。第二級アミノ基は2個の水素原子のうちの1個の代わりにヒドロカルビルラジカル、好ましくは非置換のもの、典型的には前記で挙げられたものの一つ、特に低級アルキルを担持し、そして保護された形態でも存在し得る。
ヒドロカルビルに置換基として存在する第三級アミノ基は2個の異なる、または好ましくは同一の、前記で特徴付けされた非置換ヒドロカルビルラジカル、特に低級アルキルのようなヒドロカルビルラジカル(複素環式ラジカルを含む)を担持する。
【0038】
好ましいアミノ基は式R11(R12)N−を有するものであり、式中、R11およびR12は各々の場合で独立して水素、非置換非環式C−C−ヒドロカルビル(例えば特にC−CアルキルまたはC−Cアルケニル)または単環式アリール、アラルキルもしくはアラルケニルであり、必要によりC−C−アルキル、C−C−アルコキシ、ハロゲンおよび/またはニトロにより置換され、そして最大10個までの炭素原子を有し、ここで炭素含有ラジカルは必要によりヒドロカルビルにより置換された炭素−炭素結合または酸素原子、硫黄原子もしくは窒素原子を介して連結されていてよい。かかる場合に、それらはアミノ基の窒素原子を有する窒素含有複素環式環を形成する。以下は特に好ましい二置換アミノ基の実例である:ジ−低級アルキルアミノ、典型的にはジメチルアミノまたはジエチルアミノ、ピロリジノ、イミダゾール−1−イル、ピペリジノ、ピペラジノ、4−低級アルキルピペラジノ、モルホリノ、チオモルホリノおよびピペラジノまたは4−メチルピペラジノ、ならびに必要により、特にフェニル部分で例えば低級−アルキル、低級−アルコキシ、ハロゲンおよび/またはニトロにより置換されたジフェニルアミノおよびジベンジルアミノ;保護された基の実例、特に低級アルコキシカルボニルアミノ、典型的にはtert−ブトキシカルボニルアミノ、フェニル−低級アルコキシカルボニルアミノ、典型的には4−メトキシベンジルオキシカルボニルアミノおよび9−フルオレニルメトキシカルボニルアミノ。
【0039】
アミノ−低級アルキルは何より特に低級アルキル鎖の1位でアミノにより置換され、そして特にアミノメチルである。
一もしくは二置換アミノ−低級アルキルは1個または2個のラジカルにより置換されたアミノ−低級アルキルであり、ここでアミノ−低級アルキルは何より特に低級アルキル鎖の1位でアミノにより置換され、そして特にアミノメチルであり;アミノ置換基はここでは好ましくは(2個の置換基が各々のアミノ基で互いに独立して存在する場合)特にメチル、エチルまたはn−プロピルのような低級アルキル、ヒドロキシ−低級アルキル、典型的には2−ヒドロキシエチル、C−Cシクロアルキル、特にシクロヘキシル、アミノ−低級アルキル、典型的には3−アミノプロピルまたは4−アミノブチル、N−モノ−またはN,N−ジ(低級アルキル)−アミノ−低級アルキル、典型的には3−(N,N−ジメチルアミノ)プロピル、アミノ、N−モノ−またはN,N−ジ−低級アルキルアミノおよびN−モノ−またはN,N−ジ−(ヒドロキシ−低級アルキル)アミノを含む群からである。
【0040】
二置換アミノ−低級アルキルはまた窒素原子を介して低級アルキルに結合した(好ましくは1位で)5または6員、飽和または不飽和ヘテロシクリルであり、そして0から2個、特に0または1個の、酸素、窒素および硫黄から選択されるその他のヘテロ原子を有し、それは非置換であるか、または特に低級アルキル、典型的にはメチルおよびまたオキソを含む群からの1個または2個のラジカルにより置換されている。ここで好ましいのはピロリジノ(1−ピロリジニル)、ピペリジノ(1−ピペリジニル)、ピペラジノ(1−ピペラジニル)、4−低級アルキルピペラジノ、典型的には4−メチルピペラジノ、イミダゾリノ(1−イミダゾリル)、モルホリノ(4−モルホリニル)、またはチオモルホリノ、S−オキソ−チオモルホリノ、もしくはS,S−ジオキソチオモルホリノでもある。
【0041】
低級アルキレンジオキシは特にメチレンジオキシである。
1個または2個の置換基を担持するカルバモイル基は特にアミノカルボニル(カルバモイル)であり、それは窒素で1個または2個のラジカルにより置換されており;アミノ置換基はここで好ましくは(2個の置換基が各々のアミノ基で互いに独立して存在する場合)特にメチル、エチルまたはn−プロピルのような低級アルキル、ヒドロキシ−低級アルキル、典型的には2−ヒドロキシエチル、C−Cシクロアルキル、特にシクロヘキシル、アミノ−低級アルキル、典型的には3−アミノプロピルまたは4−アミノブチル、N−モノ−またはN,N−ジ(低級アルキル)−アミノ−低級アルキル、典型的には3−(N,N−ジメチルアミノ)プロピル、アミノ、N−モノ−またはN,N−ジ−低級アルキルアミノおよびN−モノ−またはN,N−ジ−(ヒドロキシ−低級アルキル)アミノを含む群からであり;アミノカルバモイルの二置換アミノはまた結合窒素原子、ならびに0から2個、特に0または1個の、酸素、窒素および硫黄から選択されるその他のヘテロ原子を有する5または6員、飽和または不飽和ヘテロシクリルであり、それは非置換であるか、または特に低級アルキル、典型的にはメチルおよびまたオキソを含む群からの1個または2個のラジカルにより置換されている。ここで好ましいのはピロリジノ(1−ピロリジニル)、ピペリジノ(1−ピペリジニル)、ピペラジノ(1−ピペラジニル)、4−低級アルキルピペラジノ、典型的には4−メチルピペラジノ、イミダゾリノ(1−イミダゾリル)、モルホリノ(4−モルホリニル)、またはまたチオモルホリノ、S−オキソ−チオモルホリノ、もしくはS,S−ジオキソチオモルホリノである。
【0042】
有機スルホン酸から誘導されるアシルはAcと称され、特に部分式R−SO−を有するものであり、式中、Rは一般的および具体的な意味で前記で定義されたようなヒドロカルビルであり、ここでは後者がまた一般に好ましい。特に好ましいのは低級アルキルフェニルスルホニル、特に4−トルエンスルホニルである。
必要によりエステル化された、リン酸から誘導されるアシルはAcと称され、特に部分式RO(RO)P(=O)−を有するものであり、式中、ラジカルRは互いに独立して前記で示された一般的および具体的な意味で定義されるようなものである。
本明細書前記および後記で与えられる置換基に関するまびきデータ(reduced data)が好ましいと考えられる。
【0043】
本発明による好ましい化合物は例えば、Rが以下の好ましい意味を有するものである:低級アルキル、特にメチルまたはエチル、アミノ−低級アルキル、ここでアミノ基は保護されていないか、または従来のアミノ保護基、特に低級アルコキシカルボニル、典型的にはtert−低級アルコキシカルボニル、例えばtert−ブトキシカルボニルにより保護され、例えばアミノメチル、R,S−、R−もしくは好ましくはS−1−アミノエチル、tert−ブトキシカルボニルアミノメチルまたはR,S−、R−、もしくは好ましくはS−1−(tert−ブトキシカルボニルアミノ)エチルであり、カルボキシ−低級アルキル、典型的には2−カルボキシエチル、低級アルコキシカルボニル−低級アルキル、典型的には2−(tert−ブトキシカルボニル)エチル、シアノ−低級アルキル、典型的には2−シアノエチル、テトラヒドロピラニルオキシ−低級アルキル、典型的には4−(テトラヒドロピラニル)−オキシメチル、モルホリノ−低級アルキル、典型的には2−(モルホリノ)エチル、フェニル、低級アルキルフェニル、典型的には4−メチルフェニル、低級アルコキシフェニル、典型的には4−メトキシフェニル、イミダゾリル−低級アルコキシフェニル、典型的には4−[2−(イミダゾール−1−イル)エチル)オキシフェニル、カルボキシフェニル、典型的には4−カルボキシフェニル、低級アルコキシカルボニルフェニル、典型的には4−エトキシカルボニルフェニルもしくは4−メトキシフェニル、ハロゲン−低級アルキルフェニル、典型的には4−クロロメチルフェニル、ピロリジノフェニル、典型的には4−ピロリジノフェニル、イミダゾール−1−イルフェニル、典型的には4−(イミダゾリル−1−イル)フェニル、ピペラジノフェニル、典型的には4−ピペラジノフェニル、(4−低級アルキルピペラジノ)フェニル、典型的には4−(4−メチルピペラジノ)フェニル、モルホリノフェニル、典型的には4−モルホリノフェニル、ピロリジノ−低級アルキルフェニル、典型的には4−ピロリジノメチルフェニル、イミダゾール−1−イル−低級アルキルフェニル、典型的には4−(イミダゾリル−1−イルメチル)フェニル、ピペラジノ−低級アルキルフェニル、典型的には4−ピペラジノメチルフェニル、(4−低級アルキルピペラジノメチル)−フェニル、典型的には4−(4−メチルピペラジノメチル)フェニル、モルホリノ−低級アルキルフェニル、典型的には4−モルホリノメチルフェニル、ピペラジノカルボニルフェニル、典型的には4−ピペラジノカルボニルフェニル、または(4−低級アルキル−ピペラジノ)フェニル、典型的には4−(4−メチルピペラジノ)フェニルである。
【0044】
好ましいアシルラジカルAcは部分式R−CO−を特徴とするカルボン酸のアシルラジカルであり、式中、RはヒドロカルビルラジカルRの前記の一般的および好ましい意味の一つを有する。ここで特に好ましいラジカルRは低級アルキル、特にメチルまたはエチル、アミノ−低級アルキルであり、ここでアミノ基は保護されていないか、または従来のアミノ保護基、特に低級アルコキシカルボニル、典型的にはtert−低級アルコキシカルボニル、例えばtert−ブトキシカルボニルにより保護され、例えばアミノメチル、R,S−、R−もしくは好ましくはS−1−アミノエチル、tert−ブトキシカルボニルアミノメチルまたはR,S−、R−もしくは好ましくはS−1−(tert−ブトキシカルボニルアミノ)エチルであり、カルボキシ−低級アルキル、典型的には2−カルボキシエチル、低級アルコキシカルボニル−低級アルキル、典型的には2−(tert−ブトキシカルボニル)エチル、テトラヒドロピラニルオキシ−低級アルキル、典型的には4−(テトラヒドロピラニル)オキシメチル、フェニル、イミダゾリル−低級アルコキシフェニル、典型的には4−[2−(イミダゾール−1−イル)エチル]オキシフェニル、カルボキシフェニル、典型的には4−カルボキシフェニル、低級アルコキシカルボニルフェニル、典型的には4−エトキシカルボニルフェニル、ハロゲン−低級アルキルフェニル、典型的には4−クロロメチルフェニル、イミダゾール−1−イルフェニル、典型的には4−(イミダゾリル−1−イル)フェニル、ピロリジノ−低級アルキルフェニル、典型的には4−ピロリジノメチルフェニル、ピペラジノ−低級アルキルフェニル、典型的には4−ピペラジノメチルフェニル、(4−低級アルキルピペラジノメチル)フェニル、典型的には4−(4−メチルピペラジノメチル)フェニル、モルホリノ−低級アルキルフェニル、典型的には4−モルホリノメチルフェニル、ピペラジノカルボニルフェニル、典型的には4−ピペラジノカルボニルフェニル、または(4−低級アルキルピペラジノ)フェニル、典型的には4−(4−メチルピペラジノ)フェニルである。
【0045】
さらに好ましいアシルAcは炭酸のモノエステルから誘導され、そして部分式R−O−CO−を特徴とする。低級アルキルラジカル、特にtert−ブチルはこれらの誘導体で特に好ましいヒドロカルビルラジカルRである。
別の好ましいアシルAcは炭酸(またはチオ炭酸もまた)のアミドから誘導され、そして式RHN−C(=W)−またはRN−C(=W)−を特徴とし、式中、ラジカルRは互いに独立して前記で定義されるとおりであり、そしてWは硫黄および特に酸素である。とりわけ、Acが式RHN−C(=W)−のラジカルである化合物が好ましく、式中Wは酸素であり、そしてRは以下の好ましい意味の一つを有する:モルホリノ−低級アルキル、典型的には2−モルホリノエチル、フェニル、低級アルコキシフェニル、典型的には4−メトキシフェニルもしくは4−エトキシフェニル、カルボキシフェニル、典型的には4−カルボキシフェニル、または低級アルコキシカルボニルフェニル、典型的には4−エトキシカルボニルフェニル。
【0046】
部分式R−SO−(式中、Rは前記の一般的および具体的な意味で定義されるようなヒドロカルビルである)の好ましいアシルAcは低級アルキルフェニルスルホニル、典型的には4−トルエンスルホニルである。
pが0である場合、窒素原子結合Rは非荷電である。pが1である場合、次いでRもまた存在しなければならず、そして窒素原子結合RおよびR(第四級窒素)は次いで正に荷電する。
【0047】
各々29個までの炭素原子を有する脂肪族、炭素環式もしくは炭素環式脂肪族ラジカルに関する、または各々20個までの炭素原子および各々9個までのヘテロ原子を有する複素環式もしくは複素環式−脂肪族ラジカル、または各々30個までの炭素原子を有するアシルに関する定義は、好ましくは対応するラジカルRおよびRに関して与えられた定義に合致する。特に好ましいのはR低級アルキル、特にメチル、または何より特に水素である。
Zは特に低級アルキル、何より特にメチルまたは水素である。
【0048】
波線により示される2個の結合が環Aにおいて欠落している場合、次いで式Iで1、2、3および4の数字により特徴付けられる炭素原子間で二重結合は存在しない(四水素化誘導体)が、単結合のみ存在し、一方環Bは芳香族である(式Iの8および9により特徴付けられる炭素原子ならびに10および11により特徴付けられる炭素原子の間の二重結合)。波線により示される2個の結合が環Bにおいて欠落している場合、次いで式Iで8、9、10および11の数字により特徴付けられる炭素原子間で二重結合は存在しない(四水素化誘導体)が、単結合のみ存在し、一方環Aは芳香族である(式Iの1および2により特徴付けられる炭素原子ならびに3および4により特徴付けられる炭素原子の間の二重結合)。波線により示される全部で4個の結合が環Aおよび環Bにおいて欠落しており、そして全部で8個の水素原子により置き換えられている場合、次いで式Iの1、2、3、4、8、9、10および11の数字の炭素原子間で二重結合は存在しない(八水素化誘導体)が単結合のみ存在する。
【0049】
その性質により、本発明の化合物は、塩形成基を含有する場合、薬学的、すなわち生理学的に許容される塩の形態でも存在し得る。単離および精製のためには薬学的に許容されない塩もまた使用できる。治療用途には薬学的に許容される塩のみが使用され、そしてこれらの塩が好ましい。
故に遊離酸基、例えば遊離スルホ、ホスホリルまたはカルボキシル基を有する式Iの化合物は塩形成塩基性構成成分との塩として、好ましく生理学的に許容される塩として存在し得る。これらは主としてアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属塩のような金属またはアンモニウム塩、例えばナトリウム、カリウム、マグネシウムもしくはカルシウム塩、またはアンモニアもしくは適当な有機アミン、特に第三級モノアミンおよび複素環式塩基、例えばトリエチルアミン、トリ−(2−ヒドロキシエチル)−アミン、N−エチルピペリジンもしくはN,N'−ジメチルピペラジンとのアンモニウム塩でよい。
【0050】
塩基性特徴を有する本発明の化合物はまた付加塩、特に無機および有機酸との酸付加塩として、しかしまた第四級塩として存在し得る。故に例えば置換基としてアミノ基のような塩基性基を有する化合物は一般の酸と酸付加塩を形成し得る。適当な酸は、例えばハロゲン化水素酸、例えば塩酸および臭化水素酸、硫酸、リン酸、硝酸もしくは過塩素酸、または脂肪族、非環式、芳香族もしくは複素環式カルボン酸もしくはスルホン酸、例えばギ酸、酢酸、プロピオン酸、コハク酸、グリコール酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、フマル酸、マレイン酸、ヒドロキシマレイン酸、シュウ酸、ピルビン酸、フェニル酢酸、安息香酸、p−アミノ安息香酸、アントラニル酸、p−ヒドロキシ安息香酸、サリチル酸、p−アミノサリチル酸、パモン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ヒドロキシエタンスルホン酸、エチレンジスルホン酸、ハロベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸またはスルファニル酸、およびまたメチオニン、トリプトファン、リジンまたはアルギニン、ならびにアスコルビン酸である。
【0051】
遊離形態および、例えば新規化合物の精製または同定における中間物質として使用できるこれらの塩を含むその塩、およびその溶媒和物形態の化合物(特に式Iの)の間の密接な関係に鑑みて、本明細書前記および後記の遊離化合物に対する任意の言及は対応する塩、およびその溶媒和物、例えば水和物、必要に応じて賦形剤への言及として理解されるべきである。
式A、B、C、D、I、II、III、IV、VまたはVIの化合物、特に式中、Rが水素であるものは貴重な薬理学的特性を保持する。
本明細書前記および後記で記載されたラジカルまたは化合物の基の場合、一般的な定義を適切でそして便宜的である限り、本明細書前記および後記で記載されたさらに具体的な定義により置き換えることができる。
【0052】
好ましいのは;
およびRは互いに独立して低級アルキル、ハロゲンにより置換された低級アルキル、C−C14アリール、ヒドロキシ、低級アルコキシ、フェニル−低級アルコキシ、フェニルオキシ、低級アルカノイルオキシ、ベンゾイルオキシ、アミノ、低級アルキルアミノ、低級アルカノイルアミノ、フェニル−低級アルキルアミノ、N,N−ジ−低級アルキルアミノ、N,N−ジ−(フェニル−低級アルキル)アミノ、シアノ、メルカプト、低級アルキルチオ、カルボキシ、低級アルコキシカルボニル、カルバモイル、N−低級アルキルカルバモイル、N,N−ジ−低級アルキルカルバモイル、スルホ、低級アルカンスルホニル、低級アルコキシスルホニル、アミノスルホニル、N−低級アルキルアミノスルホニルもしくはN,N−ジ−低級アルキルアミノスルホニル;ハロゲン;低級アルコキシ;C−C14アリールオキシ;C−C14アリール−低級アルコキシ;低級アルカノイルオキシ;C−C14アリールカルボニルオキシ;低級アルキル、C−C14アリール、C−C14アリール−低級アルキル、低級アルカノイルもしくはC−C12アリールカルボニルにより一置換もしくは二置換されたアミノ;シアノ;ニトロ;メルカプト;低級アルキルチオ;C−C14アリールチオ;C−C14アリール−低級アルキルチオ;低級アルカノイルチオ;C−C14アリール−低級アルカノイルチオ;カルボキシ;低級アルコキシカルボニル、C−C14アリール−低級アルコキシカルボニル;C−C14アリールオキシカルボニル;カルバモイル;低級アルキル、C−C14アリールもしくはC−C14アリール−低級アルキルによりN−一もしくはN,N−二置換されたカルバモイル;スルホ;C−C14アリールスルホニル;C−C14アリール−低級アルカンスルホニル;低級アルカンスルホニル;または低級アルキル、C−C14アリールもしくはC−C14アリール−低級アルキルによりN−一もしくはN,N−二置換されたアミノスルホニルであり、ここでC−C14アリールは環系に6個から12個の炭素原子を有するアリールラジカルであり、それは非置換であるか、またはハロゲン、フェニルもしくはナフチル、ヒドロキシ、低級アルコキシ、フェニル−低級アルコキシ、フェニルオキシ、低級アルカノイルオキシ、ベンゾイルオキシ、アミノ、低級アルキルアミノ、低級アルカノイルアミノ、フェニル−低級アルキルアミノ、N,N−ジ−低級アルキルアミノ、N,N−ジ−(フェニル−低級アルキル)アミノ、シアノ、メルカプト、低級アルキルチオ、カルボキシ、低級アルコキシカルボニル、カルバモイル、N−低級アルキルカルバモイル、N,N−ジ−低級アルキルカルバモイル、スルホ、低級アルカンスルホニル、低級アルコキシスルホニル、アミノスルホニル、N−低級アルキルアミノスルホニルまたはN,N−ジ−低級アルキルアミノスルホニルにより置換されていてよく;
【0053】
nおよびmは互いに独立して0または1または2、好ましくは0であり;
、R、R、R10は互いに独立して水素、低級アルキル、低級アルケニルまたは低級アルカジエニルであり、それは各々非置換であるか、または低級アルキル;ヒドロキシ;低級アルコキシ、それは(i)4から12個の環原子を有するヘテロシクリル(それは不飽和、完全飽和または部分的に飽和されていてよく、単環式または二環式であり、そして窒素、酸素および硫黄から選択される3個までのヘテロ原子を含有でき、そして何より特にピロリル、例えば2−ピロリルもしくは3−ピロリル、ピリジル、例えば2−、3−もしくは4−ピリジル、または広義ではまたチエニル、例えば2−もしくは3−チエニル、またはフリル、例えば2−フリル、インドリル、典型的には2−もしくは3−インドリル、キノリル、典型的には2−もしくは4−キノリル、イソキノリル、典型的には3−もしくは5−イソキノリル、ベンゾフラニル、典型的には2−ベンゾフラニル、クロメニル、典型的には3−クロメニル、ベンゾチエニル、典型的には2−もしくは3−ベンゾチエニル;イミダゾリル、典型的には1−もしくは2−イミダゾリル、ピリミジニル、典型的には2−もしくは4−ピリミジニル、オキサゾリル、典型的には2−オキサゾリル、イソオキサゾリル、典型的には3−イソオキサゾリル、チアゾリル、典型的には2−チアゾリル、ベンゾイミダゾリル、典型的には2−ベンゾイミダゾリル、ベンゾオキサゾリル、典型的には2−ベンゾオキサゾリル、キナゾリル、典型的には2−キナゾリニル、2−テトラヒドロフリル、4−テトラヒドロフリル、4−テトラヒドロピラニル、1−、2−もしくは3−ピロリジル、1−、2−、3−もしくは4−ピペリジル、1−、2−もしくは3−モルホリニル、2−もしくは3−チオモルホリニル、2−ピペラジニルまたはN,N'−ビス−低級アルキル−2−ピペラジニルである)により、(ii)ハロゲンにより、(iii)ヒドロキシにより、または(iv)低級アルコキシにより一、二もしくは三置換されていてよい;フェノキシ;フェニル−低級ルコキシ;ヘテロシクリルオキシ、ここでヘテロシクリルはピロリル、例えば2−ピロリルもしくは3−ピロリル、ピリジル、例えば2−、3−もしくは4−ピリジル、または広義ではまたチエニル、例えば2−もしくは3−チエニル、またはフリル、例えば2−フリル、インドリル、典型的には2−もしくは3−インドリル、キノリル、典型的には2−もしくは4−キノリル、イソキノリル、典型的には3−もしくは5−イソキノリル、ベンゾフラニル、典型的には2−ベンゾフラニル、クロメニル、典型的には3−クロメニル、ベンゾチエニル、典型的には2−もしくは3−ベンゾチエニル;イミダゾリル、典型的には1−もしくは2−イミダゾリル、ピリミジニル、典型的には2−もしくは4−ピリミジニル、オキサゾリル、典型的には2−オキサゾリル、イソオキサゾリル、典型的には3−イソオキサゾリル、チアゾリル、典型的には2−チアゾリル、ベンゾイミダゾリル、典型的には2−ベンゾイミダゾリル、ベンゾオキサゾリル、典型的には2−ベンゾオキサゾリル、キナゾリル、典型的には2−キナゾリニル、2−テトラヒドロフリル、4−テトラヒドロフリル、2−もしくは4−テトラヒドロピラニル、1−、2−もしくは3−ピロリジル、1−、2−、3−もしくは4−ピペリジル、1−、2−もしくは3−モルホリニル、2−もしくは3−チオモルホリニル、2−ピペラジニルまたはN,N'−ビス−低級アルキル−2−ピペラジニル、例えば特に2−または4−テトラヒドロピラニルオキシである;低級アルカノイルオキシ;カルボキシ;低級アルコキシカルボニル;フェニル−低級アルコキシカルボニル;メルカプト;低級アルキルチオ;フェニルチオ;ハロゲン;ハロゲン−低級アルキル;オキソ(1位を除く、そうでないとアシルになるので);アジド;ニトロ;シアノ;アミノ;モノ−低級アルキルアミノ;ジ−低級アルキルアミノ;ピロリジノ;イミダゾール−1−イル;ピペリジノ;ピペラジノ;4−低級アルキルピペラジノ;モルホリノ;チオモルホリノ;非置換であるか、またはフェニル部分で低級アルキル、低級アルコキシ、ハロゲンおよび/もしくはニトロにより置換されているジフェニルアミノまたはジベンジルアミノ;低級アルコキシカルボニルアミノ;非置換であるか、またはフェニル部分で低級アルキルもしくは低級アルコキシにより置換されているフェニル−低級アルコキシカルボニルアミノ;フルオレニルメトキシカルボニルアミノ;アミノ−低級アルキル;一置換または二置換アミノ−低級アルキル、ここでアミノ置換基は低級アルキル、ヒドロキシ−低級アルキル、C−Cシクロアルキル、アミノ−低級アルキル、N−モノ−またはN,N−ジ(−低級アルキル)アミノ−低級アルキル、アミノ、N−モノ−またはN,N−ジ−低級アルキルアミノおよびN−モノ−またはN,N−ジ−(ヒドロキシ−低級アルキル)アミノから選択される;ピロリジノ−低級アルキル;ピペリジノ−低級アルキル;ピペラジノ−低級アルキル;4−低級アルキルピペラジノ−低級アルキル;イミダゾール−1−イル−低級アルキル;モルホリノ−低級アルキル;チオモルホリノ−低級アルキル;S−オキソ−チオモルホリノ−低級アルキル;S,S−ジオキソチオモルホリノ−低級アルキル;低級アルキレンジオキシ;スルファモイル;スルホ;カルバモイル;ウレイド;グアニジノ;シアノ;アミノカルボニル(カルバモイル)およびアミノカルボニルオキシ、それは窒素で1個または2個のラジカルにより置換されており、ここでアミノ置換基は互いに独立して低級アルキル、ヒドロキシ−低級アルキル、C−Cシクロアルキル、アミノ−低級アルキル、N−モノ−またはN,N−ジ(−低級アルキル)アミノ−低級アルキル、アミノ、N−モノ−またはN,N−ジ−低級アルキルアミノおよびN−モノ−またはN,N−ジ−(ヒドロキシ−低級アルキル)アミノを含む群から選択される;ピロリジノカルボニル;ピペリジノカルボニル;ピペラジノカルボニル;4−低級アルキルピペラジノカルボニル;イミダゾリノカルボニル;モルホリノカルボニル;チオモルホリノカルボニル;S−オキソ−チオモルホリノカルボニル;ならびにS,S−ジオキソチオモルホリノ;
末端フェニルラジカルを有するフェニル、ナフチル、フェニル−低級アルキルまたはフェニル−低級アルケニル、それは非置換であるか、または低級アルキル、低級アルケニルもしくは低級アルカジエニルの置換基として前記で挙げられたラジカルにより一置換もしくは二置換されている;
【0054】
またはヘテロシクリル−低級アルキル、ここでヘテロシクリルはピロリル、例えば2−ピロリルもしくは3−ピロリル、ピリジル、例えば2−、3−もしくは4−ピリジル、または広義ではまたチエニル、例えば2−もしくは3−チエニル、またはフリル、例えば2−フリル、インドリル、典型的には2−もしくは3−インドリル、キノリル、典型的には2−もしくは4−キノリル、イソキノリル、典型的には3−もしくは5−イソキノリル、ベンゾフラニル、典型的には2−ベンゾフラニル、クロメニル、典型的には3−クロメニル、ベンゾチエニル、典型的には2−もしくは3−ベンゾチエニル;イミダゾリル、典型的には1−もしくは2−イミダゾリル、ピリミジニル、典型的には2−もしくは4−ピリミジニル、オキサゾリル、典型的には2−オキサゾリル、イソオキサゾリル、典型的には3−イソオキサゾリル、チアゾリル、典型的には2−チアゾリル、ベンゾイミダゾリル、典型的には2−ベンゾイミダゾリル、ベンゾオキサゾリル、典型的には2−ベンゾオキサゾリル、キナゾリル、典型的には2−キナゾリニル、2−テトラヒドロフリル、4−テトラヒドロフリル、2−もしくは4−テトラヒドロピラニル、1−、2−もしくは3−ピロリジル、1−、2−、3−もしくは4−ピペリジル、1−、2−もしくは3−モルホリニル、2−もしくは3−チオモルホリニル、2−ピペラジニルまたはN,N'−ビス−低級アルキル−2−ピペラジニルであり、それは各々の場合で非置換であるか、または低級アルキル、低級アルケニルもしくは低級アルカジエニルの置換基として前記で挙げられたラジカルにより一置換もしくは二置換されている;
または部分式Y−C(=W)−のアシル、ここでWは酸素であり、そしてYは水素、R、R−O−、RHN−またはRN−である(ここでラジカルRは同一かまたは異なっていてよい)
または部分式R−SO−のアシルから独立して選択される置換基により一置換または多置換、好ましくは一置換または二置換されており、
それによりRはまた式IIの化合物に関して不在でもよいか;または
は式IIの化合物に関して不在、式Iの化合物に関して水素またはCHであり、そして
【0055】
は部分式Y−C(=W)−のアシルであり、ここでWは酸素であり、そしてYは水素、R、R−O−、RHN−またはRN−である(ここでラジカルRは同一かまたは異なっていてよい)、または部分式R−SO−のアシルであり、
ここで該ラジカルのRは以下の意味を有する:置換または非置換低級アルキル、特にメチルまたはエチル、アミノ−低級アルキルヒドロキシ−低級アルキル、ここでアミノ基は保護されていないかまたは従来のアミノ保護基、特に低級アルコキシカルボニル、典型的にはtert−低級アルコキシカルボニル、例えばtert−ブトキシカルボニルにより保護され、例えばアミノメチル、R,S−、R−もしくは好ましくはS−1−アミノエチル、tert−ブトキシカルボニルアミノメチルまたはR,S−、R−もしくは好ましくはS−1−(tert−ブトキシカルボニルアミノ)エチルであり、カルボキシ−低級アルキル、典型的には2−カルボキシエチル、低級アルコキシカルボニル−低級アルキル、典型的には2−(tert−ブトキシカルボニル)エチル、シアノ−低級アルキル、典型的には2−シアノエチル、テトラヒドロピラニルオキシ−低級アルキル、典型的には4−(テトラヒドロピラニル)オキシメチル、モルホリノ−低級アルキル、典型的には2−(モルホリノ)エチル、フェニル、低級アルキルフェニル、典型的には4−メチルフェニル、低級アルコキシフェニル、典型的には4−メトキシフェニル、イミダゾリル−低級アルコキシフェニル、典型的には4−[2−(イミダゾール−1−イル)エチル)オキシフェニル、カルボキシフェニル、典型的には4−カルボキシフェニル、低級アルコキシカルボニルフェニル、典型的には4−エトキシカルボニルフェニルもしくは4−メトキシフェニル、ハロゲン−低級アルキルフェニル、典型的には4−クロロメチルフェニル、ピロリジノフェニル、典型的には4−ピロリジノフェニル、イミダゾール−1−イルフェニル、典型的には4−(イミダゾリル−1−イル)フェニル、ピペラジノフェニル、典型的には4−ピペラジノフェニル、(4−低級アルキルピペラジノ)フェニル、典型的には4−(4−メチルピペラジノ)フェニル、モルホリノフェニル、典型的には4−モルホリノフェニル、ピロリジノ−低級アルキルフェニル、典型的には4−ピロリジノメチルフェニル、イミダゾール−1−イル−低級アルキルフェニル、典型的には4−(イミダゾリル−1−イルメチル)フェニル、ピペラジノ−低級アルキルフェニル、典型的には4−ピペラジノメチルフェニル、(4−低級アルキルピペラジノメチル)−フェニル、典型的には4−(4−メチルピペラジノメチル)フェニル、モルホリノ−低級アルキルフェニル、典型的には4−モルホリノメチルフェニル、ピペラジノカルボニルフェニル、典型的には4−ピペラジノカルボニルフェニル、または(4−低級アルキルピペラジノ)フェニル、典型的には4−(4−メチルピペラジノ)フェニル)。
【0056】
が不在である場合、pは0であるか、またはRおよびRが双方共に存在し、そして各々の場合に前記されたラジカルのうちの一つである場合1であり(式IIの化合物に関して);
は水素または低級アルキル、特に水素であり;
Xは2個の水素原子、O、または1個の水素原子およびヒドロキシ水素;または1個の水素原子および低級アルコキシを意味し;
Zは水素または特に低級アルキル、何より特にメチルであり;
そして式IIの化合物に関して、波線で特徴付けられた2個の結合は好ましくは環Aで不在であり、4個の水素原子により置き換えられ、ならびに環Bの2本の波線の各々は各平行の結合と一緒に二重結合を示すか;または
また波線で特徴付けられた2個の結合は環Bで不在であり、全部で4個の水素原子により置き換えられ、ならびに環Aの2本の波線の各々は各平行の結合と一緒に二重結合を示すか;
または環Aおよび環Bの双方で4個の波線の結合の全てが不在であり、全部で8個の水素原子により置き換えられているかのいずれかである;
式I、II、III、IV、V、VIの化合物、または少なくとも1個の塩形成基が存在する場合はその塩である。
【0057】
特に好ましいのは:
mおよびnは各々0であり;
およびRは互いに独立して水素、非置換であるか、またはカルボキシ;低級アルコキシカルボニル;およびシアノから互いに独立して選択されるラジカルにより一もしくは二置換された、特に一置換された低級アルキルであるか;または
は水素もしくは−CHであり、そして
は前記で定義されたとおりであるか、または好ましくはRは部分式R−COのアシルであり、式中Rは低級アルキル;アミノ−低級アルキル、ここでアミノ基は非保護形態で存在するか、または低級アルコキシカルボニルにより保護されている;テトラヒドロピラニルオキシ−低級アルキル;フェニル;イミダゾリル−低級アルコキシフェニル;カルボキシフェニル;低級アルコキシカルボニルフェニル;ハロゲン−低級アルキルフェニル;イミダゾール−1−イルフェニル;ピロリジノ−低級アルキルフェニル;ピペラジノ−低級アルキルフェニル;(4−低級アルキルピペラジノメチル)フェニル;モルホリノ−低級アルキルフェニル;ピペラジノカルボニルフェニル;または(4−低級アルキルピペラジノ)フェニルであるか;
または部分式R−O−CO−のアシルであり、式中、Rは低級アルキルであるか;
または部分式RHN−C(=W)−のアシルであり、式中、Wは酸素であり、そしてRは以下の意味を有する:モルホリノ−低級アルキル、フェニル、低級アルコキシフェニル、カルボキシフェニルもしくは低級アルコキシカルボニルフェニル;または
は低級アルキルフェニルスルホニル、典型的には4−トルエンスルホニルであり;
好ましいR基のさらに具体的な実例は好ましい式IIの化合物に関して以下に記載されるとおりであり、
は水素または低級アルキル、特に水素であり、
Xは2個の水素原子またはOを意味し;
Zはメチルまたは水素である;
式Iであっての化合物または少なくとも1個の塩形成基が存在する場合、その塩である。
【0058】
特に好ましいのは;
mおよびnは各々0であり;
およびRは互いに独立して水素、非置換であるか、またはカルボキシ;低級アルコキシカルボニル;およびシアノから互いに独立して選択されるラジカルにより非置換または一もしくは二置換された、特に一置換された低級アルキルであり;それによりRは不在でもよいか;または
は不在であり、そして
は部分式R−COからのアシルであり、式中Rは低級アルキル、特にメチルまたはエチル;アミノ−低級アルキル、ここでアミノ基はここでアミノ基は保護されていないかまたは低級アルコキシカルボニル、典型的にはtert−低級アルコキシカルボニル、例えばtert−ブトキシカルボニル、例えばアミノメチル、R,S−、R−もしくは好ましくはS−1−アミノエチル、tert−ブトキシカルボニルアミノメチルまたはR,S−、R−もしくは好ましくはS−1−(tert−ブトキシカルボニルアミノ)エチルにより保護される;テトラヒドロピラニルオキシ−低級アルキル、典型的には4−(テトラヒドロピラニル)オキシメチル;フェニル;イミダゾリル−低級アルコキシフェニル、典型的には4−[2−(イミダゾール−1−イル)エチル)オキシフェニル;カルボキシフェニル、典型的には4−カルボキシフェニル;低級アルコキシカルボニルフェニル、典型的には4−メトキシ−もしくは4−エトキシカルボニルフェニル;ハロゲン−低級アルキルフェニル、典型的には4−クロロメチルフェニル;イミダゾール−1−イルフェニル、典型的には4−(イミダゾリル−1−イル)フェニル;ピロリジノ−低級アルキルフェニル、典型的には4−ピロリジノメチルフェニル;ピペラジノ−低級アルキルフェニル、典型的には4−ピペラジノメチルフェニル;(4−低級アルキルピペラジノメチル)フェニル、典型的には4−(4−メチルピペラジノメチル)フェニル;モルホリノ−低級アルキルフェニル、典型的には4−モルホリノメチルフェニル;ピペラジノカルボニルフェニル、典型的には4−ピペラジノカルボニルフェニル;または(4−低級アルキルピペラジノ)フェニル、典型的には4−(4−メチルピペラジノ)フェニルであるか;または
部分式R−O−CO−のアシルであり、ここでRは低級アルキルであるか;または
部分式RHN−C(=W)−アシルであり、ここでWは酸素であり、そしてRは以下の好ましい意味を有する:モルホリノ−低級アルキル、典型的には2−モルホリノエチル、フェニル、低級アルコキシフェニル、典型的には4−メトキシフェニルもしくは4−エトキシフェニル、カルボキシフェニル、典型的には4−カルボキシフェニルまたは低級アルコキシカルボニルフェニル、典型的には4−エトキシカルボニルフェニル;または
低級アルキルフェニルスルホニル、典型的には4−トルエンスルホニルであり;
が不在である場合、pは0であるか、またはRおよびRが双方共に存在し、そして各々の場合で前記されたラジカルの一つである場合、1であり;
は水素または低級アルキル、特に水素であり
Xは2個の水素原子またはOを意味し;
Zはメチルまたは水素であり;
そして波線で特徴付けられた2個の結合は好ましくは環Aで不在であり、4個の水素原子により置き換えられ、ならびに環Bの2本の波線の各々は各平行の結合と一緒に二重結合を示すか;または
また波線で特徴付けられた2個の結合は環Bで不在であり、全部で4個の水素原子により置き換えられ、ならびに環Aの2本の波線の各々は各平行の結合と一緒に二重結合を示すか;または
環Aおよび環Bの双方で4個の波線の結合の全てが不在であり、全部で8個の水素原子により置き換えられているかのいずれかである)
式IIの化合物、または少なくとも1個の塩形成基が存在する場合はその塩である。
【0059】
何より特に好ましい式IIの化合物は:
8,9,10,11−テトラヒドロスタウロスポリン;
N−[4−(4−メチルピペラジン−1−イルメチル)ベンゾイル]−1,2,3,4−テトラヒドロスタウロスポリン;
N−(4−クロロメチルベンゾイル)−1,2,3,4−テトラヒドロスタウロスポリン;
N−(4−(ピロリジン−1−イルメチル)ベンゾイル)−1,2,3,4−テトラヒドロスタウロスポリン;
N−(4−(モルホリン−4−イルメチル)ベンゾイル)−1,2,3,4−テトラヒドロスタウロスポリン;
N−(4−(ピペラジン−1−イルメチル)ベンゾイル)−1,2,3,4−テトラヒドロスタウロスポリン;
N−エチル−1,2,3,4−テトラヒドロスタウロスポリン;
N−トシル−1,2,3,4−テトラヒドロスタウロスポリン;
N−トリフルオロアセチル−1,2,3,4−テトラヒドロスタウロスポリン;
N−[4−(2−イミダゾール−1−イル−エトキシ)ベンゾイル]−1,2,3,4−テトラヒドロスタウロスポリン;
N−メトキシカルボニルメチル−1,2,3,4−テトラヒドロスタウロスポリン;
N−カルボキシメチル−1,2,3,4−テトラヒドロスタウロスポリン;
N−テレフタロイルメチルエステル−1,2,3,4−テトラヒドロスタウロスポリン;
N−テレフタロイル−1,2,3,4−テトラヒドロスタウロスポリン;
N−(4−エチルピペラジニルカルボニルベンゾイル)−1,2,3,4−テトラヒドロスタウロスポリン;
N−(2−シアノエチル)−1,2,3,4−テトラヒドロスタウロスポリン;
N−ベンゾイル−1,2,3,4−テトラヒドロスタウロスポリン;
ヨウ化N,N−ジメチル−1,2,3,4−テトラヒドロスタウロスポリン;
N−BOC−グリシル−1,2,3,4−テトラヒドロスタウロスポリン;
N−グリシル−1,2,3,4−テトラヒドロスタウロスポリン;
N−(3−(tert−ブトキシカルボニル)プロピル)−1,2,3,4−テトラヒドロスタウロスポリン;
N−(3−カルボキシプロピル)−1,2,3,4−テトラヒドロスタウロスポリン;
N−(4−イミダゾール−1−イル)ベンゾイル]−1,2,3,4−テトラヒドロスタウロスポリン;
N−[(テトラヒドロ−2h−ピラン−4−イルオキシ)アセチル]−1,2,3,4−テトラヒドロスタウロスポリン;
N−BOC−l−アラニル−1,2,3,4−テトラヒドロスタウロスポリン;
塩酸N−l−アラニル−1,2,3,4−テトラヒドロスタウロスポリン;
N−メチル−1,2,3,4−テトラヒドロ−6−メチルスタウロスポリン;
N−(4−カルボキシフェニルアミノカルボニル)−1,2,3,4−テトラヒドロスタウロスポリン;
N−(4−エチルフェニルアミノカルボニル)−1,2,3,4−テトラヒドロスタウロスポリン;
N−(N−フェニルアミノカルボニル)−1,2,3,4−テトラヒドロスタウロスポリン;
N−(N−[2−(1−モルホリノ)エチル]アミノカルボニル)−1,2,3,4−テトラヒドロスタウロスポリン;
N−(N−[4−メトキシフェニル]アミノカルボニル)−1,2,3,4−テトラヒドロスタウロスポリン;
1,2,3,4−テトラヒドロ−6−メチルスタウロスポリン;
N−BOC−1,2,3,4−テトラヒドロスタウロスポリン;
N−BOC−1,2,3,4−テトラヒドロ−6−メチルスタウロスポリン;
N−BOC−1,2,3,4−テトラヒドロ−6−メチル−7−オキソ−スタウロスポリン;
1,2,3,4,8,9,10,11−オクタヒドロスタウロスポリン;
または少なくとも1個の塩形成基が存在する場合、その薬学的に許容される塩から選択される。
【0060】
何より特に好ましいのは1,2,3,4−テトラヒドロスタウロスポリンと称される式Iの化合物または(特に薬学的に許容される)その塩である(ここで式Iのmおよびnは0であり、Rは水素であり、Rは塩が存在しない場合(p=0)は不在であるか、または塩が存在する場合(p=1)は水素であり、Rは水素であり、波線で表される2個の結合は環Aで不在であり、全部で4個の水素原子により置き換えられ、ならびに環Bで波線で表される2個の結合は各々の場合で平行の結合と一緒に二重結合であり、Xは2個の水素原子を意味し、そしてZはメチルである)。
【0061】
何より特に好ましいのは式Aの化合物であり、ここで;
A)X=O;R、R、R=H;Q=−(CH)−O−CH(CH)OH−(CH)
B)X=O;R、R、R=H;Q=−(CH)−O−CH(CHN(CH))−(CH)
C)X=2個の水素原子;R、R、R=H;Q=
【化7】

【0062】
何より特に好ましいのは式Iの化合物であり、ここで;
A) X=2個の水素原子;R、R、R、R=H;R=CH;Z=CH(スタウロスポリン)
B) X=(R)または(S)異性体の1個の水素および1個のヒドロキシ原子;R、R、R、R=H;R=CH;Z=CH(UCN−01およびUCN−02)
C) X=2個の水素原子;R、R、R=H;R=CH;R=ベンゾイル;Z=CH(CGP41251またはPKC412またはミドスタウリン)
D) X=O;R、R、R=H;R=CH;R=エチルオキシカルボニル;Z=CH(NA382;CAS=143086−33−3)
E) X=1個の水素および1個のヒドロキシ原子;R、R、R=H;R=CH;Z=CH;そしてRは:−(CH)OH;−CHCH(OH)CHOH;−CO(CH)CONa;−(CH)COH;−COCHN(CH)
【化8】

から選択される;
F) X=2個の水素原子;R、R、R=H;R=CH;Z=CH;そしてRは:N−[0−(テトラヒドロピラン−4−イル)−D−ラクトイル];N−[2−メチル−2−(テトラヒドロピラン−4−イルオキシ)−プロピオニル;N−[0−(テトラヒドロピラン−4−イル)−L−ラクトイル];N−[0−(テトラヒドロピラン−4−イル)−D−ラクトイル];N−[2−(テトラヒドロ−ピラン−4−イルオキシ)−アセチル)]から選択される;
G) X=O;R、R、R=H;R=CH;Z=CH;そしてRは:N−[0−(テトラヒドロピラン−4−イル)−D−ラクトイル];N−[2−(テトラヒドロ−ピラン−4−イルオキシ)−アセチル)]から選択される;
H) X=1個の水素および1個のヒドロキシ原子;R、R、R=H;R=CH;Z=CH;そしてRは:N−[0−(テトラヒドロピラン−4−イル)−D−ラクトイル];N−[2−(テトラヒドロ−ピラン−4−イルオキシ)−アセチル)]から選択される。
【0063】
略語「CAS」はケミカルアブストラクト登録番号を意味する。
最も好ましい式Iの化合物、例えばミドスタウリン[国際一般的名称]は1988年12月21日公開の特許文献1、ならびに1992年3月3日公開の特許文献2および特許文献3により適用され、そして具体的に記載されている。その他の好ましい化合物は共に1995年12月7日公開の特許文献4および特許文献5に適用され、そして記載される。
【0064】
何より特に好ましいのは式IIIの化合物であり、ここで;
A) X=2個の水素原子;R、R、R=H;R=CH;R=メチルオキシカルボニル;Z=H(2−メチルK252a)
B) X=2個の水素原子;R、R、R、R=H;R=メチルオキシカルボニル;Z=H(K−252a)
C) X=2個の水素原子;R、R、R、R=H;R=メチルオキシカルボニル;Z=CH(KT−5720)。
【0065】
何より特に好ましいのは式IVの化合物であり、ここで;
A) X=O;R、R、R=H;R=CH−NMe;R=CH;m'=n'=2
B) X=O;R、R、R=H;R=CH−NH;R=CH;m'=2;n'=1(R−31−8425;CAS=151342−35−7)。
【0066】
何より特に好ましいのは式Vの化合物であり、ここで;
A) X=O;R、R、R=H;R=CH;R10=−(CH)−NH;(R−31−7549;CAS=138516−31)
B) X=O;R、R、R=H;R=CH;R10=−(CH)−S−(C=NH)−NH;(R−31−8220;CAS=125314−64−9))
C) X=O;R、R、R=H;R=CH;R10=−CH
【0067】
何より特に好ましいのは式VIの化合物であり、ここで;
A) X=2個の水素原子;R、R、R=H;R=CH;Z=CH;メチルまたは(C−C10)アルキル、アリールメチル、CCH−から選択されるR
【0068】
スタウロスポリン誘導体およびその製造方法は多くの先行の文献に具体的に記載されており、当業者に周知である。
式A、B、C、Dの化合物およびその製造方法は、例えば1995年6月14日公開の特許文献6、1994年11月17日公開の特許文献7、1992年2月12日公開の特許文献8、1989年8月16日公開の特許文献9、1990年8月29日公開の特許文献10、および非特許文献1のような多くの出版物に記載されている。
【0069】
式Iの化合物およびその製造方法は1988年12月21日公開の特許文献1ならびに1992年3月3日公開の特許文献2および特許文献3に具体的に記載されている。Rでテトラヒドロピラン−4−イル)−ラクトイル置換を有する式Iの化合物は1994年11月17日公開の特許文献11に記載されている。その他の化合物は1993年12月29日公開の特許文献12、1987年9月23日に特許文献13(UCN−O1)、1998年7月3日公開の特許文献14として公開された特許文献15に記載されている。
【0070】
式IIの化合物およびその製造方法は1988年12月21日公開の特許文献1ならびに1992年3月3日公開の特許文献2および特許文献3に具体的に記載されている。
式IIIの化合物およびその製造方法は1992年7月24日出願の特許文献16の優先権を主張する特許出願(すなわち1997年4月16日公開の特許文献17、2000年5月24日公開の特許文献18、1995年5月10日公開の特許文献19)に具体的に記載されている。
【0071】
式IVの化合物およびその製造方法は、各々1993年5月10日および1994年2月21日出願の特許文献20および特許文献21の優先権を主張する特許出願(すなわち1994年11月17日公開の特許文献7、2000年5月24日公開の特許文献18、1995年5月10日公開の特許文献19)に具体的に記載されている。
【0072】
式Vの化合物およびその製造方法は各々1988年2月10日、1988年11月25日、1989年2月23日、および1989年12月13日出願の特許文献22、特許文献23、特許文献24および特許文献25の優先権を主張する特許出願(すなわち1989年8月16日公開の特許文献9および1990年8月29日公開の特許文献10)に具体的に記載されている。
【0073】
式VIの化合物およびその製造方法は1991年10月10日公開の特許文献26(Con)の優先権を主張する特許出願(すなわち1993年4月15日公開の特許文献27)に具体的に記載されている。
とりわけスタウロスポリン誘導体化合物に関する特許出願または科学的文献の引用が示される各々の場合の最終生成物の対象、医薬製剤および請求の範囲は出典明示により本明細書の一部とする。
コード番号により同定される活性薬剤の構造、一般名および商品名を最新版の標準概論「The Merck Index」またはデータベース、例えばPatents International(例えばIMS World Publications)から取ることができる。対応するその内容は出典明示により本明細書の一部とする。
【0074】
本発明による好ましいスタウロスポリン誘導体は式(VII):
【化9】

のN−[(9S,10R,11R,13R)−2,3,10,11,12,13−ヘキサヒドロ−10−メトキシ−9−メチル−1−オキソ−9,13−エポキシ−1H,9H−ジインドロ[1,2,3−gh:3',2',1'−lm]ピロロ[3,4−j][1,7]ベンゾジアゾニン−11−イル]−N−メチルベンズアミドまたはその塩(本明細書後記では:「式VIIの化合物またはミドスタウリン」)である。
【0075】
式VIIの化合物はミドスタウリン[国際一般的名称]またはPKC412としても公知である。
ミドスタウリンは天然発生アルカロイドスタウロスポリンの誘導体であり、そして1988年12月21日公開の特許文献1ならびに1992年3月3日公開の特許文献2および特許文献3に具体的に記載されている。
【0076】
核酸
アポトーシスまたはプログラム細胞死を阻止する核酸分子には、限定するものではないが抗アポトーシスMCL1タンパク質をコードする遺伝子に特異的なアンチセンスオリゴヌクレオチドおよびRNAi構築物またはこの遺伝子の転写物が含まれる。本発明の組み合わせにおける使用のために最も好ましいのは、特にmcl−1特異的siRNAを含むMcl−1特異的RNAi構築物である。本発明のmcl−1RNAi構築物の実例は実施例において記載される。
【0077】
骨髄細胞白血病配列1(BCL2関連)(「mcl−1」)によりコードされるタンパク質はBcl−2ファミリーに属する。この遺伝子座で選択的スプライシングが生じ、結果的に異なるアイソフォームをコードする二つの転写バリアントに至る。より長い遺伝子生成物(アイソフォーム1)はアポトーシスを阻止することにより細胞生存性を強化する。選択的スプライシングされたより短い遺伝子生成物(アイソフォーム2)はアポトーシスを促進し、そして細胞死誘導する。mcl−1遺伝子の別名には、限定するものではないがEAT、MCL1L、MCL1S、MGC104264、MGC1839およびTMが含まれる。MCL1ポリペプチドの代替えの名称には、限定するものではないが誘導骨髄白血病細胞分化タンパク質Mcl−1;骨髄細胞白血病配列1;および骨髄細胞白血病配列1、アイソフォーム1が含まれる。
【0078】
本明細書で使用される際には、「核酸分子」なる用語にはDNA分子(例えばcDNAもしくはゲノムDNAまたはオリゴヌクレオチド)およびRNA分子(例えばmRNAまたはsiRNA、shRNAのようなRNAi構築物)ならびにヌクレオシド類似体を用いて作成されるDNAまたはRNA分子の類似体が含まれると意図される。核酸分子は一本鎖または二本鎖でよい。一本鎖の場合、核酸はセンス鎖およびアンチセンス鎖でよい。その用語には合成(例えば化学的に合成された)DNAが含まれる。ヌクレオシド類似体または誘導体(例えばイノシンまたはホスホロチオエートヌクレオチド)を用いて核酸を合成することができる。かかるヌクレオシドを用いて例えば塩基対形成能が改変されているかまたは、ヌクレアーゼに対する抵抗性が増大されている核酸を調製することができる。
【0079】
本発明は例えばmcl−1 cDNAを含むmcl1ヌクレオチド配列に特異的なRNAiまたはアンチセンス核酸分子を包含する。より長いmcl−1アイソフォーム1のcDNA配列(GenBank受け入れ番号 NM021960)を配列番号1で提供する。
【0080】
GenBank受け入れ番号NM021960、4020bp 直鎖状mRNA、PRI12−JUN−2006[ホモサピエンス](配列番号1)
1 caccccgtag gactggccgc cctaaaaccg tgataaagga gctgctcgcc acttctcact
61 tccgcttcct tccagtaagg agtcggggtc ttccccagtt ttctcagcca ggcggcggcg
121 gcgactggca atgtttggcc tcaaaagaaa cgcggtaatc ggactcaacc tctactgtgg
181 gggggccggc ttgggggccg gcagcggcgg cgccacccgc ccgggagggc gacttttggc
241 tacggagaag gaggcctcgg cccggcgaga gataggggga ggggaggccg gcgcggtgat
301 tggcggaagc gccggcgcaa gccccccgtc caccctcacg ccagactccc ggagggtcgc
361 gcggccgccg cccattggcg ccgaggtccc cgacgtcacc gcgacccccg cgaggctgct
421 tttcttcgcg cccacccgcc gcgcggcgcc gcttgaggag atggaagccc cggccgctga
481 cgccatcatg tcgcccgaag aggagctgga cgggtacgag ccggagcctc tcgggaagcg
541 gccggctgtc ctgccgctgc tggagttggt cggggaatct ggtaataaca ccagtacgga
601 cgggtcacta ccctcgacgc cgccgccagc agaggaggag gaggacgagt tgtaccggca
661 gtcgctggag attatctctc ggtaccttcg ggagcaggcc accggcgcca aggacacaaa
721 gccaatgggc aggtctgggg ccaccagcag gaaggcgctg gagaccttac gacgggttgg
781 ggatggcgtg cagcgcaacc acgagacggc cttccaaggc atgcttcgga aactggacat
841 caaaaacgaa gacgatgtga aatcgttgtc tcgagtgatg atccatgttt tcagcgacgg
901 cgtaacaaac tggggcagga ttgtgactct catttctttt ggtgcctttg tggctaaaca
961 cttgaagacc ataaaccaag aaagctgcat cgaaccatta gcagaaagta tcacagacgt
1021 tctcgtaagg acaaaacggg actggctagt taaacaaaga ggctgggatg ggtttgtgga
1081 gttcttccat gtagaggacc tagaaggtgg catcaggaat gtgctgctgg cttttgcagg
1141 tgttgctgga gtaggagctg gtttggcata tctaataaga tagccttact gtaagtgcaa
1201 tagttgactt ttaaccaacc accaccacca ccaaaaccag tttatgcagt tggactccaa
1261 gctgtaactt cctagagttg caccctagca acctagccag aaaagcaagt ggcaagagga
1321 ttatggctaa caagaataaa tacatgggaa gagtgctccc cattgattga agagtcactg
1381 tctgaaagaa gcaaagttca gtttcagcaa caaacaaact ttgtttggga agctatggag
1441 gaggactttt agatttagtg aagatggtag ggtggaaaga cttaatttcc ttgttgagaa
1501 caggaaagtg gccagtagcc aggcaagtca tagaattgat tacccgccga attcattaat
1561 ttactgtagt gttaagagaa gcactaagaa tgccagtgac ctgtgtaaaa gttacaagta
1621 atagaactat gactgtaagc ctcagtactg tacaagggaa gcttttcctc tctctaatta
1681 gctttcccag tatacttctt agaaagtcca agtgttcagg acttttatac ctgttatact
1741 ttggcttggt ttccatgatt cttactttat tagcctagtt tatcaccaat aatacttgac
1801 ggaaggctca gtaattagtt atgaatatgg atatcctcaa ttcttaagac agcttgtaaa
1861 tgtatttgta aaaattgtat atatttttac agaaagtcta tttctttgaa acgaaggaag
1921 tatcgaattt acattagttt ttttcatacc cttttgaact ttgcaacttc cgtaattagg
1981 aacctgtttc ttacagcttt tctatgctaa actttgttct gttcagttct agagtgtata
2041 cagaacgaat tgatgtgtaa ctgtatgcag actggttgta gtggaacaaa tctgataact
2101 atgcaggttt aaattttctt atctgatttt ggtaagtatt ccttagatag gtttttcttt
2161 gaaaacctgg gattgagagg ttgatgaatg gaaattcttt cacttcatta tatgcaagtt
2221 ttcaataatt aggtctaagt ggagttttaa ggttactgat gacttacaaa taatgggctc
2281 tgattgggca atactcattt gagttccttc catttgacct aatttaactg gtgaaattta
2341 aagtgaattc atgggctcat ctttaaagct tttactaaaa gattttcagc tgaatggaac
2401 tcattagctg tgtgcatata aaaagatcac atcaggtgga tggagagaca tttgatccct
2461 tgtttgctta ataaattata aaatgatggc ttggaaaagc aggctagtct aaccatggtg
2521 ctattattag gcttgcttgt tacacacaca ggtctaagcc tagtatgtca ataaagcaaa
2581 tacttactgt tttgtttcta ttaatgattc ccaaaccttg ttgcaagttt ttgcattggc
2641 atctttggat ttcagtcttg atgtttgttc tatcagactt aaccttttat ttcctgtcct
2701 tccttgaaat tgctgattgt tctgctccct ctacagatat ttatatcaat tcctacagct
2761 ttcccctgcc atccctgaac tctttctagc ccttttagat tttggcactg tgaaacccct
2821 gctggaaacc tgagtgaccc tccctcccca ccaagagtcc acagaccttt catctttcac
2881 gaacttgatc ctgttagcag gtggtaatac catgggtgct gtgacactaa cagtcattga
2941 gaggtgggag gaagtccctt ttccttggac tggtatcttt tcaactattg ttttatcctg
3001 tctttggggg caatgtgtca aaagtcccct caggaatttt cagaggaaag aacattttat
3061 gaggctttct ctaaagtttc ctttgtatag gagtatgctc acttaaattt acagaaagag
3121 gtgagctgtg ttaaacctca gagtttaaaa gctactgata aactgaagaa agtgtctata
3181 ttggaactag ggtcatttga aagcttcagt ctcggaacat gacctttagt ctgtggactc
3241 catttaaaaa taggtatgaa taagatgact aagaatgtaa tggggaagaa ctgccctgcc
3301 tgcccatctc agagccataa ggtcatcttt gctagagcta tttttaccta tgtatttatc
3361 gttcttgatc ataagccgct tatttatatc atgtatctct aaggacctaa aagcacttta
3421 tgtagttttt aattaatctt aagatctggt tacggtaact aaaaaagcct gtctgccaaa
3481 tccagtggaa acaagtgcat agatgtgaat tggtttttag gggccccact tcccaattca
3541 ttaggtatga ctgtggaaat acagacaagg atcttagttg atattttggg cttggggcag
3601 tgagggctta ggacacccca agtggtttgg gaaaggagga ggggagtggt gggtttatag
3661 ggggaggagg aggcaggtgg tctaagtgct gactggctac gtagttcggg caaatcctcc
3721 aaaagggaaa gggaggattt gcttagaagg atggcgctcc cagtgactac tttttgactt
3781 ctgtttgtct tacgcttctc tcagggaaaa acatgcagtc ctctagtgtt tcatgtacat
3841 tctgtggggg gtgaacacct tggttctggt taaacagctg tacttttgat agctgtgcca
3901 ggaagggtta ggaccaacta caaattaatg ttggttgtca aatgtagtgt gtttccctaa
3961 ctttctgttt ttcctgagaa aaaaaaataa atcttttatt caaaaaaaaa aaaaaaaaaa
【0081】
本発明はさらに遺伝子コードの縮重ために配列番号1のヌクレオチド配列と異なるが、配列番号1によりコードされるものと同一のmcl−1タンパク質をコードする核酸分子を包含する。配列番号1のヌクレオチドによりコードされる350アミノ酸MCL1ポリペプチド(GenPep受け入れ番号NP068779)を配列番号2として提供する。
【0082】
GenPept受け入れ番号NP068779 350アミノ酸骨髄細胞白血病配列1アイソフォーム1 PRI12−JUN−2006[ホモサピエンス](配列番号2)
1 mfglkrnavi glnlycggag lgagsggatr pggrllatek easarreigg geagaviggs
61 agasppstlt pdsrrvarpp pigaevpdvt atparllffa ptrraaplee meapaadaim
121 speeeldgye peplgkrpav lpllelvges gnntstdgsl pstpppaeee edelyrqsle
181 iisrylreqa tgakdtkpmg rsgatsrkal etlrrvgdgv qrnhetafqg mlrkldikne
241 ddvkslsrvm ihvfsdgvtn wgrivtlisf gafvakhlkt inqesciepl aesitdvlvr
301 tkrdwlvkqr gwdgfveffh vedleggirn vllafagvag vgaglaylir
【0083】
mcl−1のアミノ酸配列に変化を導くDNA配列多型が所定の集団(例えばヒト集団)内に存在し得るということは当業者には理解されよう。かかる遺伝子多型は天然の対立遺伝子変種のために集団内で存在し得る。かかる天然の対立遺伝子変種は典型的にはmcl−1遺伝子のヌクレオチド配列で15%変動に至り得る。任意のおよび全てのかかるヌクレオチド変種は、「サイレント」、すなわち天然の対立遺伝子変種の結果であり、そしてmcl−1の機能的活性を改変しないアミノ酸多型に至ろうとも、本発明の範囲内であると意図される。故に例えばmcl−1のアミノ酸の1%、2%、3%、4%または5%を別のアミノ酸により、例えば保存置換により置き換えることができる。
【0084】
集団において存在し得るmcl−1配列の天然発生対立遺伝子バリアントに加えて、配列番号1のヌクレオチド配列を変異させることにより変化を導入し、それによりタンパク質の機能的能力を改変することなくコードされたアミノ酸配列に変化を導くことができることは当業者には理解されよう。例えば「非必須」アミノ酸残基でアミノ酸置換を導くヌクレオチド置換を行うことができる。「非必須」アミノ酸残基はmcl−1タンパク質の生物学的活性を改変することなく、ヒトmcl−1タンパク質の野生型配列から改変され得る残基であり、一方「必須」アミノ酸残基は生物学的活性に必要である。例えば種々の種のmcl−1タンパク質間で保存されるアミノ酸残基は特に改変し難いと予測される。
【0085】
したがって、活性に必須でないアミノ酸残基に変化を含有するmcl−1タンパク質をコードする核酸分子は本発明に含まれる。かかるmcl−1タンパク質はアミノ酸配列で配列番号2とは異なり、そしてなお野生型の生物学的活性の少なくとも一部を保持する。一つの実施態様では、例えば単離された核酸分子には、配列番号2の全長にわたって配列番号2のアミノ酸配列に少なくとも約75%同一、例えば80%、85%、90%、95%または98%同一であるアミノ酸配列を含むタンパク質をコードする配列が含まれる。
【0086】
一つまたはそれより多いアミノ酸置換、付加または欠失がコードされるタンパク質に導入されるように、配列番号1に一つまたはそれより多いヌクレオチド置換、付加または欠失を導入することにより、配列番号2とは異なる配列を有するmcl−1タンパク質をコードする単離された核酸分子を創成することができる。標準的な技術、例えば部位特異的変異誘発およびPCR媒介変異誘発により変異を導入することができる。一つまたはそれより多い、予測される非必須アミノ酸残基で保存アミノ酸置換を行うことができる。故に例えば1%、2%、3%、5%または10%までのアミノ酸を保存置換により置き換えることができる。「保存アミノ酸置換」は、アミノ酸残基が類似の側鎖を有する別のもので置き換えられたものである。類似の側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーは当分野において公知である。それには塩基性側鎖(例えばリジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(例えばアスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖(例えばグリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン)、無極性側鎖(例えばアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、ベータ分岐側鎖(例えばスレオニン、バリン、イソロイシン)および芳香族側鎖(例えばチロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)を有するアミノ酸が含まれる。故にmcl−1において予測される非必須アミノ酸残基を同一の側鎖ファミリーからの別のアミノ酸残基で置き換えることができる。これに代えて、飽和変異誘発によるように変異をmcl−1コード化配列の全てまたは一部に沿って無作為に導入することができ、そして得られた変異体をmcl−1生物学的活性に関してスクリーニングして活性を保持する変異体を同定することができる。変異誘発に続いて、タンパク質を発現させ、そしてその活性を決定することができる。
【0087】
本発明はまたアンチセンス核酸分子、すなわちセンス鎖に相補的、例えば二本鎖cDNA分子のコード鎖に相補的、またはmRNA配列に相補的である分子をも包含する。アンチセンス核酸は対応するセンス鎖に水素結合できる。アンチセンス核酸は全mcl−1コード化配列に、またはその一部にのみ相補的でよい。アンチセンス核酸分子はセンス鎖の非コード化領域に対してアンチセンスでよい。非コード化領域(「5'および3'非翻訳領域」)は遺伝子またはmRNAのコード化領域をフランキングする5'および3'配列であり、そして翻訳されない。アンチセンス核酸分子はmcl−1 mRNAの全コード化領域に相補的でよく、またはmcl−1 mRNAのコード化、または3'もしくは5'非コード化領域の一部にのみ相補的でよい場合もある。アンチセンスオリゴヌクレオチドは例えば約5、例えば約10、15、18、20、25、30、35、40、45または約50ヌクレオチドの長さでよい。アンチセンス核酸に関係する一般的な手引き書に関しては、例えば非特許文献2を参照されたい。有用なアンチセンスオリゴヌクレオチドの実例には、限定するものではないが、配列番号1のヌクレオチド131と1183の間の領域に相補的な少なくとも12ヌクレオチドの配列を含むアンチセンスオリゴヌクレオチドが含まれる。実施例の配列番号7−9もまた参照されたい。
【0088】
化学的合成、酵素ライゲーション反応およびその他の当分野において公知の手順を用いて本発明のアンチセンス核酸を構築することができる。例えば天然発生ヌクレオチド、または分子の生物学的安定性および/もしくはアンチセンス核酸とセンス核酸の間で形成される二重鎖の物理的安定性を増大させるように設計された、種々に修飾されたヌクレオチドを用いてアンチセンス核酸(例えばアンチセンスオリゴヌクレオチド)を合成することができる。例えばホスホロチオエート誘導体およびアクリジン置換ヌクレオチドを使用することができる。アンチセンス核酸の作成に有用な、修飾されたヌクレオチドの実例には、5フルオロウラシル、5ブロモウラシル、5クロロウラシル、5ヨードウラシル、ヒポキサンチン、キサンチン、4アセチルシトシン、5(カルボキシヒドロキシルメチル)ウラシル、1メチルグアニン、5カルボキシメチルアミノメチル2チオウリジン、2,2ジメチルグアニン、ジヒドロウラシル、ベータDガラクトシルクエオシン、5カルボキシメチルアミノメチルウラシル、イノシン、N6イソペンテニルアデニン、1メチルイノシン、2メチルアデニン、2メチルグアニン、4チオウラシル、3メチルシトシン、5メチルシトシン、N6アデニン、7メチルグアニン、5メトキシウラシル、5メチルアミノメチルウラシル、5メトキシアミノメチル2チオウラシル、シュードウラシル、クエオシン(queosine)、ベータDマンノシルクエオシン、5'メトキシカルボキシメチルウラシル、5メチル2チオウラシル、2メチルチオN6イソペンテニルアデニン、ウラシル5オキシ酢酸(v)、ウィブトキソシン(wybutoxosine)、2チオシトシン、2チオウラシル、5メチルウラシル、ウラシル5オキシ酢酸メチルエステル、5メチル2チオウラシル、3(3アミノ3N2カルボキシプロピル)ウラシル、(acp3)wおよび2,6ジアミノプリンが含まれる。これに代えてアンチセンス配向で核酸がサブクローニングされている発現ベクターを用いてアンチセンス核酸を生成することができる(すなわち挿入された核酸から転写されるRNAが、以下のサブセクションでさらに記載される目的の標的核酸に相補的である)。
【0089】
本発明のアンチセンス核酸分子を対象に投与するか、またはそれがmcl−1タンパク質をコードする細胞mRNAおよび/もしくはゲノムDNAにハイブリダイズするかもしくは結合するように原位置で作成することができる。このように、アンチセンス核酸は例えば転写および/または翻訳を阻止することによりタンパク質の発現を阻止することができる。安定した二重鎖を形成する従来のヌクレオチド相補性により、またはDNA二重鎖に結合するアンチセンス核酸分子の場合、二重らせんの主溝での特異的相互作用を介してハイブリダイズすることができる。
【0090】
アンチセンス核酸を当分野において公知の任意の方法により、例えば組織部位での直接注入により投与することができる。これに代えてまたは加えて、アンチセンス核酸分子を、全身投与できるように、標的選択細胞に適合させることができる。全身投与のために、例えばアンチセンス核酸分子をペプチドまたは細胞表面受容体もしくは抗原に結合する抗体に連結させることにより、アンチセンス分子を、選択された細胞表面上で発現される受容体または抗原に特異的に結合するように修飾することができる。本明細書に記載される特定のベクターを用いてアンチセンス核酸分子を細胞に分配することもできる。転写されるべき配列が強力なpol IIまたはpol IIIプロモーターの制御下に置かれたベクター構築物を用いてアンチセンス転写物の十分な細胞内濃度を達成することができる。
【0091】
本発明のアンチセンス核酸分子はαアノマー核酸分子でよい。αアノマー核酸分子形態特異的二本鎖は相補的RNAとハイブリダイズし、ここでは、通常のβ単位と対照的に鎖は互いに平行に走る(非特許文献3)。アンチセンス核酸分子はまた2'oメチルリボヌクレオチド(非特許文献4)またはキメラRNA DNA類似体(非特許文献5)を含むこともできる。
【0092】
本発明はまたRNA干渉(RNAi)によりmcl−1の発現を抑制できる核酸をも含む。RNAiは、それにより二本鎖RNA(dsRNA)が動物および植物細胞における相同mRNAの配列特異的分解を誘起する方法である。(非特許文献6;非特許文献7)哺乳動物細胞では低分子干渉RNA(siRNA)とも称される、例えば21−ヌクレオチド(nt)二重鎖RNA(非特許文献8;非特許文献9);またはマイクロRNA(miRNA)、機能的短鎖ヘアピンRNA(shRNA)、またはDNA鋳型を用いてRNAポリメラーゼIIIプロモーターを伴ってインビボで発現されるdsRNA(非特許文献10;非特許文献11;非特許文献12;非特許文献13;非特許文献14;非特許文献15;非特許文献16;非特許文献17;また非特許文献18参照)がRNAiの引き金となり得る。
【0093】
「サイレンシング」としても公知の抑制は進化的に保存される主に細胞質性転写後事象である(非特許文献6参照)。現在のモデルにより、dsRNAがRNAse III酵素、ダイサーによりsiRNAにプロセシングされることが示唆される。次いでsiRNAがRNA誘起サイレンシング複合体(RISC)と称される複合体を形成する。この複合体は標的mRNAと相互作用し、それは次いで切断され、そして分解される(非特許文献20;非特許文献21)。shRNAは哺乳動物細胞において研究されており(非特許文献22)、そしてヒト細胞において効率的に発現され得る(非特許文献13)。哺乳動物細胞において遺伝子発現を抑制するためのDNAベクター基盤のRNAi技術は非特許文献17により記載される。哺乳動物細胞におけるsiRNAおよびshRNAの発現によるRNAiは(非特許文献15)に記載されている。
【0094】
本発明はsiRNA、その二重鎖(すなわちdsRNA)、shRNAおよびmiRNAを含み、それはmcl−1標的配列(例えばmcl−1 mRNA(例えば本明細書にて示されるもののようなヒトmcl−1配列に対応するmRNA))と相互作用する(例えば結合する)。かかる核酸は、例えば化学的に合成されたRNAオリゴヌクレオチド(非特許文献9参照)でよい。本発明に包含され、そして有用であるRNAi配列の実例には少なくとも一つの以下の配列またはその相補鎖配列が含まれる:
5' TTG GCT TTG TGT CCT TGG CG 3'(mcl1、配列番号7)
5' AAG AAA CGC GGU AAU CGG ACU 3'(mcl1、配列番号8);
5' AGU CCG AUU ACC GCG UUU CUU 3'(mcl1、配列番号9);
5' CUU ACG CUG AGU ACU UCG A 3'(ルシフェラーゼ、配列番号10);
【0095】
プラスミドを用いてsiRNAとして機能できるshRNAを転写することができる(非特許文献17;非特許文献24参照)。かかるプラスミドは例えばRNAポリメラーゼIIIプロモーター、続いてセンス配列、ループ構造およびアンチセンス配列を含有するRNAに転写される配列を含有できる。種々のループはいくつかのポリメラーゼIIIプロモーターを有するので、成功裏に用いられている(非特許文献24;非特許文献25)。mcl−1「センス」配列、ループ構造および対応するmcl−1「アンチセンス」配列を含有するRNAに転写される配列に作動可能なように連結されたプロモーター(例えばRNAポリメラーゼIIIプロモーター)を含有するベクター(例えばプラスミド)を当分野において日常的である手順を用いて作成することができる。四つのウリジン3'オーバーハングを有するU6−プロモーター駆動siRNAは哺乳動物細胞において標的遺伝子の発現を抑制することが示されているので(非特許文献26)、本発明のベクターはU6プロモーターおよびウリジンオーバーハング(例えば3'末端の1−6個のウリジン)を有するsiRNAに転写される配列を含み得る。本発明に包含され、そして有用であるshRNAの実例は実施例のセクションにおいて記載され、それは各々配列番号9および10として本明細書に示される配列から転写される(以下の表1を参照)。
【0096】
典型的には、miRNAはもしかするとダイサーとしても公知のRNase III型酵素またはその相同体により、およそ70ヌクレオチドの前駆体RNAステムループ(shRNA)から切り取られる。miRNA前駆体のステム配列を標的mRNA(ここではmcl−1 mRNA)に相補的なmiRNA配列で置換することにより、miRNAを発現するベクター構築物を用いて、哺乳動物細胞において標的に対するRNAiを開始するsiRNAを生成することができる(非特許文献10)。
【0097】
本発明の核酸はウイルスベクターに含まれる、そして発現され得る。したがって本発明はsiRNAの発現によりmcl−1の特異的サイレンシングを誘起するウイルスベクターを特色とする。例えばRNA Pol IIプロモーター転写制御下でsiRNAを発現する組換えアデノウイルスを作成することにより、mcl−1特異的アデノウイルスベクターを構築することができる。
【0098】
任意の当分野において公知の方法を用いてsiRNAsまたはその他の核酸基盤の阻害剤を動物およびヒトに投与することができる。例えば動脈または静脈を介する動物への大容量のsiRNA含有溶液の急速注射(例えば数秒以内で完了する注射)のような「高圧」分配技術を用いることができる(例えば非特許文献27参照)。マイクロ粒子、ナノ粒子およびリポソームを用いてsiRNAを分配することもできる。mcl−1 mRNAを標的とし、そしてマイクロ粒子、ナノ粒子およびリポソームに随伴されるか、またはそうでなければ生物学的細胞への分配のために処方されるsiRNAは本発明の範囲内である。
【0099】
本発明のdsRNA分子は約15またはそれより多い(例えば12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30またはそれより多い)ヌクレオチドを各々の鎖に含むことができる。dsRNAの鎖はmcl−1 mRNAの標的領域に実質的に相補的でよい。例えば1本の鎖はmcl−1 mRNAの標的領域に約90%(例えば約90%、95%または100%)相補的でよい。標的領域はmcl−1核酸配列の任意の領域、例えば配列番号2のアミノ酸1から76のポリペプチドをコードする領域内の、例えば配列番号1のヌクレオチド1から228に対応する領域でよい。
【0100】
例えば分子を化学的に合成すること、DNA鋳型から分子をインビトロで転写すること、例えばshRNAから分子をインビボで作成すること(dsRNAおよびその他の阻止核酸の作成は前記でさらに論じられている)、または当分野において公知の任意のその他の方法を用いることにより本発明のdsRNA分子を生成することができる。例えば天然発生ヌクレオチド、または分子の生物学的安定性増大させる、もしくはdsRNAのアンチセンス鎖とセンス鎖の間で形成された二重鎖の物理的安定性を増大させるように設計された、種々に修飾されたヌクレオチドを用いてdsRNAの各鎖を化学的に合成することができる(例えばホスホロチオエート誘導体およびアクリジン置換ヌクレオシドを使用することができる)。同一鎖にセンスおよびアンチセンス配列の双方を含む核酸がクローン化されている発現ベクターを用いてdsRNAを生成することもできる(例えば挿入された核酸から転写されるRNAは、そのステムがmcl−1RNAに相補的であるアンチセンス鎖を含むdsRNAを形成するヘアピンを形成し得る)。したがって所定のmcl−1 mRNA配列の逆向でそして相補体である配列を含むdsRNAを作成(または設計)することにより、mcl−1発現を阻止するdsRNAを作成することができる。
【0101】
dsRNAをmcl−1発現細胞において試験することができる。抗mcl−1 dsRNAは細胞におけるmcl−1の発現を低下させる(すなわちmcl−1タンパク質およびmcl−1 mRNAのレベルを低下させる)。当分野において公知の方法によりmcl−1発現を検定することができる。例えばmcl−1タンパク質のレベルをウェスタンブロット分析により、免疫沈降により、ELISAにより、または機能的アッセイにより検定することができる。mcl−1 mRNAのレベルをノーザンブロット、インサイチュ分析またはポリメラーゼ連鎖反応と組み合わされた逆転写(RT−PCR)により検定することができる。
【0102】
本発明はまたリボザイムをも包含する。リボザイムは一本鎖核酸(例えばmRNA)に対する相補性領域を有し、それを切断することができるリボヌクレアーゼ活性を有する触媒性RNA分子である。故にリボザイム(例えばハンマーヘッドリボザイム(非特許文献28に記載される))を用いてmcl−1 mRNA転写物を触媒的に切断して、それによりmcl−1 mRNAの翻訳を阻止することができる。mcl−1コード化核酸に特異性を有するリボザイムを、本明細書に開示されるmcl−1 cDNAのヌクレオチド配列に基づいて設計することができる。例えば活性部位のヌクレオチド配列が、mcl−1コード化mRNAで切断されるべきヌクレオチド配列に相補的であるテトラヒメナL19IVS RNAの誘導体を構築することができる。例えばCech et al., 特許文献28;およびCech et al., 特許文献29を参照されたい。これに代えて、mcl−1 mRNAを用いてRNA分子のプールから特異的リボヌクレアーゼ活性を有する触媒性RNAを選択することができる。例えば非特許文献29を参照されたい。
【0103】
本発明または三重らせん構造を形成する核酸分子をも包含する。例えばmcl−1遺伝子の調節領域(例えばmcl−1プロモーターおよび/またはエンハンサー)に相補的なヌクレオチド配列をターゲティングして、標的細胞におけるmcl−1遺伝子の転写を防御する三重らせん構造を形成することによりmcl−1遺伝子発現を阻止することができる。一般的には非特許文献30;非特許文献31;および非特許文献32を参照されたい。
【0104】
特定の実施態様では、本発明の核酸分子を塩基部分、糖部分またはリン酸塩骨格で修飾して、例えば分子の安定性、ハイブリダイゼーションまたは溶解性を改善する。例えば核酸のデオキシリボースリン酸塩骨格を修飾してペプチド核酸を作成することができる(非特許文献33参照)。本明細書で使用される際には「ペプチド核酸」または「PNA」なる用語は、デオキシリボースリン酸塩骨格が擬ペプチド骨格により置き換えられ、そして四つの天然ヌクレオ塩基のみが保持される核酸擬似物質、例えばDNA擬似物質を指す。PNAの中性の骨格は低イオン強度の条件下でDNAおよびRNAへの特異的ハイブリダイゼーションを可能にすることが示されている。非特許文献33;非特許文献34に記載されるような標準的な固相ペプチド合成プロトコールを用いてPNAオリゴマーの合成を実施することができる。
【0105】
本発明では、mcl−1 PNAを治療および診断適用のために使用することができる。例えば遺伝子の転写もしくは翻訳停止を誘起するか、または複製を阻止することにより、例えば遺伝子発現の配列特異的調整のために、PNAをアンチセンスまたは抗遺伝子剤(antigene agent)として使用することができる。例えばmcl−1 PNAを例えばPNA指向PCRクランピングによる遺伝子における一塩基対変異の分析において;その他の酵素、例えばS1ヌクレアーゼと組み合わされて使用される場合の人工制限酵素として(非特許文献33);またはDNA配列およびハイブリダイゼーションのためのプローブもしくはプライマーとして(非特許文献33;非特許文献34)使用することもできる。
【0106】
別の実施態様では、例えば親油性またはその他のヘルパー基をPNAに結合させることにより、PNA DNAキメラの形成によりmcl−1 PNAを修飾して、またはリポソームもしくは当分野において公知のその他の薬物分配の技術の使用によりその安定性または細胞取り込みを強化することができる。例えばPNAおよびDNAの有利な特性を組み合わせることができるmcl−1 PNA DNAキメラを作成することができる。かかるキメラにより、DNA認識酵素、例えばRNAse HおよびDNAポリメラーゼがDNA部分と相互作用することが可能になるが、PNA部分は高い結合親和性および特異性を提供する。塩基スタッキング、ヌクレオ塩基間の結合の数および配向に関して選択された適切な長さのリンカーを用いてPNA DNAキメラを連結することができる(非特許文献33)。PNA DNAキメラの合成を非特許文献33および非特許文献35に記載されるように実施することができる。例えば標準的なホスホラミダイト結合化学を用いてDNA鎖を固体支持体上で合成することができ、そして修飾されたヌクレオシド類似体、例えば5'(4メトキシトリチル)アミノ5'デオキシチミジンホスホラミダイトを例えばPNAとDNAの5'末端の間でリンカーとして用いることができる(非特許文献36)。次いでPNA単量体を段階的な様式で結合させて5'PNAセグメントおよび3'DNAセグメントを有するキメラ分子を生成する(非特許文献35)。これに代えて、5'DNAセグメントおよび3'PNAセグメントでキメラ分子を合成することができる(非特許文献37)。
【0107】
その他の実施態様ではオリゴヌクレオチドは、ペプチド(例えばインビボで宿主細胞受容体をターゲティングするために)または細胞膜(例えば非特許文献38;非特許文献39;特許文献30参照)もしくは脳血管関門(例えば特許文献31参照)をわたる輸送を促進する薬剤のようなその他の追加の基を含み得る。加えてハイブリダイゼーションが引き金となる切断剤(例えば非特許文献40参照)または挿入剤(例えば非特許文献41参照)でオリゴヌクレオチドを修飾することができる。この目的のために、オリゴヌクレオチドを別の分子、例えばペプチド、ハイブリダイゼーションが引き金となる架橋剤、輸送剤またはハイブリダイゼーションが引き金となる切断剤に抱合させることができる。
【0108】
ベクター、宿主細胞およびトランスジェニック動物
mcl−1核酸(またはその一部)を含有するベクター、例えば発現ベクターもまた本発明に含まれる。本明細書で使用される際には、「ベクター」なる用語は、連結されている別の核酸を輸送することができる核酸分子を指す。一つの型のベクターはプラスミド、すなわちさらなるDNAセグメントをライゲートできる環状二本鎖DNAループである。別の型はウイルスベクターであり、ここでさらなるDNAセグメントをウイルスゲノムにライゲートできる。特定のベクターは導入された宿主細胞内で自己複製することが可能である。それ故に、mcl−1核酸含有ベクターを含有する宿主細胞もまた本発明に含まれる。ベクターおよび宿主細胞の選択は当業者には日常的である。
【0109】
本発明は、治療上有効量のFLT−3キナーゼ阻害剤および、アンチセンスオリゴヌクレオチドまたはmcl−1特異的RNAi構築物のようなmcl−1阻害剤の組み合わせを各々遊離形態または薬学的に許容される塩もしくは各々のプロドラッグの形態で、かかる処置を必要とする哺乳動物に投与することを含む、骨髄異形成症候群、リンパ腫および白血病、とりわけ全身性肥満細胞症、およびまた急性骨髄性白血病(AML)、ならびにまた例えば結腸直腸癌(CRC)および非小細胞肺癌(NSCLC)のような固形腫瘍を処置する方法を提供する。
【0110】
好ましくは本発明は、治療上有効量の式(VII)のN−[(9S,10R,11R,13R)−2,3,10,11,12,13−ヘキサヒドロ−10−メトキシ−9−メチル−1−オキソ−9,13−エポキシ−1H,9H−ジインドロ[1,2,3−gh:3',2',1'−lm]ピロロ[3,4−j][1,7]ベンゾジアゾニン−11−イル]−N−メチルベンズアミドまたはその薬学的に許容される塩およびアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはmcl−1特異的RNAi構築物の組み合わせをかかる処置を必要とする哺乳動物に投与することを含む、骨髄異形成症候群、リンパ腫および白血病、とりわけ全身性肥満細胞症、およびまた急性骨髄性白血病(AML)、ならびにまた例えば結腸直腸癌(CRC)および非小細胞肺癌(NSCLC)のような固形腫瘍を患う哺乳動物、特にヒトを処置する方法を提供する。
【0111】
別の実施態様では本発明は、骨髄異形成症候群、リンパ腫および白血病、とりわけ全身性肥満細胞症、およびまた急性骨髄性白血病(AML)、ならびにまた例えば結腸直腸癌(CRC)および非小細胞肺癌(NSCLC)のような固形腫瘍を処置するための、FLT−3キナーゼ阻害剤およびアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはmcl−1特異的RNAi構築物の組み合わせの使用に関する。
【0112】
さらなる実施態様では本発明は骨髄異形成症候群、リンパ腫および白血病、とりわけ全身性肥満細胞症、およびまた急性骨髄性白血病(AML)、ならびにまた例えば結腸直腸癌(CRC)および非小細胞肺癌(NSCLC)のような固形腫瘍を処置するための医薬組成物の調製のためのFLT−3キナーゼ阻害剤およびアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはmcl−1特異的RNAi構築物の組み合わせの使用に関する。
【0113】
本発明によれば、式(VII)のN−[(9S,10R,11R,13R)−2,3,10,11,12,13−ヘキサヒドロ−10−メトキシ−9−メチル−1−オキソ−9,13−エポキシ−1H,9H−ジインドロ[1,2,3−gh:3',2',1'−lm]ピロロ[3,4−j][1,7]ベンゾジアゾニン−11−イル]−N−メチルベンズアミドまたはその薬学的に許容される塩およびアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはmcl−1特異的RNAi構築物の組み合わせは、FLT−3キナーゼ阻害剤およびアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはmcl−1特異的RNAi構築物の好ましい組み合わせである。
【0114】
略語:
ASO (複数の)アンチセンスオリゴヌクレオチド
ASM 侵襲性全身性肥満細胞症
BM 骨髄
BSA ウシ血清アルブミン
クラドリビン 2−クロロデオキシアデノシン(=2CdA)
FCS ウシ胎仔血清
ISM 無痛性全身性肥満細胞症
MC (複数の)肥満細胞
MCL 肥満細胞白血病
Mcl−1 骨髄細胞白血病−1
MCS 肥満細胞肉腫
miRNA マイクロRNA
PB 末梢血
PBS リン酸塩緩衝生理食塩水
RNAi RNA干渉
RT−PCR 逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応
shRNA 短鎖ヘアピンRNA
siRNA 低分子干渉RNA
SM 全身性肥満細胞症
SSM 全身性くすぶり型肥満細胞症
TK チロシンキナーゼ
【0115】
骨髄異形成症候群、リンパ腫および白血病、とりわけ全身性肥満細胞症、およびまた急性骨髄性白血病(AML)、ならびにまた例えば結腸直腸癌(CRC)および非小細胞肺癌(NSCLC)のような固形腫瘍を処置するための、各々の遊離形態または薬学的に許容される塩もしくは各々のプロドラッグの形態のFLT−3キナーゼ阻害剤およびアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはmcl−1特異的RNAi構築物の組み合わせは組み合わせパートナーの自由なまたは固定された組み合わせでよい。
【0116】
一つの態様では、本発明はまた(a)FLT−3阻害剤、特に具体的に前記されたFLT−3阻害剤、とりわけ好ましいとして記載されたもの;および(b)アンチセンスオリゴヌクレオチドまたはmcl−1特異的RNAi構築物;を含む組み合わせ調製物または医薬組成物のような組み合わせにも関し、ここで活性成分(a)および(b)は同時、併用的、個別または逐次的使用のために、各々の場合で遊離形態または薬学的に許容される塩もしくは適当な生物医薬処方の形態で存在する。適当な生物医薬処方は当業者に公知であり、ここでその処方は、治療的投与がRNAi構築物のものであるか、またはアンチセンスオリゴヌクレオチド構築物のためのものであるかに依存して最適化される。
【0117】
「組み合わせ調製物」なる用語は、前記で定義されたような組み合わせパートナー(a)および(b)を独立して、または区別された量の組み合わせパートナー(a)および(b)での様々な固定された組み合わせの使用により、すなわち同時に、併用的に、個別にまたは逐次的に投与できるという意味で、特に「部品からなるキット」を定義する。次いで部品からなるキットの一部を例えば同時にまたは時間順に交互に、すなわち部品からなるキットの任意の部分に関して異なる時点で、および均等なまたは異なる時間間隔で投与できる。組み合わされた調製物で投与されるべき組み合わせパートナー(a)の組み合わせパートナー(b)に対する全量の比率を、例えば処置されるべき患者の亜集団の必要性または単一の患者の必要性に対処するために変化させることができ、その異なる必要性は患者の特定の疾患、疾患の重篤度、年齢、性別、体重等のためでよい。
【0118】
前記されたような本明細書にて前記された疾患および症状を処置するために用いられるFLT−3阻害剤およびアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはmcl−1特異的RNAi構築物の正確な投薬量は宿主、処置される症状の性質および重篤度、投与様式を含むいくつかの因子に依存する。しかしながら一般的に、FLT−3阻害剤を非経口的、例えば腹腔内、静脈内、筋肉内、皮下、腫瘍内、もしくは直腸内、または経腸的、例えば経口的、好ましくは静脈内、または好ましくは経口的、静脈内に、0.1から10mg/kg体重、好ましくは1から5mg/kg体重の1日投薬量で投与した場合に満足できる結果が達成される。ヒト試験では、225mg/日の全用量が何より恐らく最大耐量(MTD)である。好ましい静脈内1日投薬量は0.1から10mg/kg体重、またはたいていの大型霊長類に関しては、200−300mgの1日投薬量である。典型的な静脈内投薬量は3から5mg/kg、週3から5回である。
【0119】
最も好ましくは、FLT−3阻害剤、特にミドスタウリンは経口的に、マイクロエマルジョン、ソフトゲルまたは固体分散物のような投薬形態により、約250mg/日、とりわけ225mg/日までの投薬量で投与され、1日1、2または3回投与される。
通常、処置される宿主のための最適投薬量が決定されるまで、小用量を最初に投与し、そして投薬量を徐々に増加させる。投薬量の上限は副作用により強いられるものであり、そして処置されている宿主に関する試験により決定され得る。
【0120】
FLT−3阻害剤、アンチセンスオリゴヌクレオチドまたはmcl−1特異的RNAi構築物を一つまたはそれより多い薬学的に許容される担体、および場合によっては一つまたはそれより多いその他の医薬用アジュバントと組み合わせることができ、そして錠剤、カプセル、キャプレット等の形態で経腸的、例えば経口的に、または例えば滅菌注射溶液もしくは懸濁液の形態で非経口的に、例えば腹腔内もしくは静脈内に投与できる。経腸用および非経口用組成物を従来の手段により調製することができる。
【0121】
本発明による注入溶液は好ましくは滅菌性である。例えば滅菌ろ過膜を通してろ過することにより、これを容易に達成することができる。液体形態の任意の組成物の無菌的形成、バイアルの無菌的充填および/または無菌条件下で本発明の医薬組成物を適当な希釈剤と組み合わせることは当業者に周知である。
FLT−3阻害剤およびアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはmcl−1特異的RNAi構築物を本明細書にて前記にて挙げられた疾患および症状を処置するために有効である量の活性物質を含有する経腸用および非経口用医薬組成物に処方することができ、かかる組成物は単位投薬量形態であり、そしてかかる組成物は薬学的に許容される担体を含む。
【0122】
FLT−3阻害剤の有用な組成物の実例は特許文献1、特許文献32、特許文献1、特許文献33、特許文献34、特許文献35に記載される。
FLT−3阻害剤の好ましい組成物は、1995年6月14日公開の特許文献36に記載される。記載された医薬組成物は飽和ポリアルキレングリコールグリセリド中のミドスタウリンのような式Iの化合物の溶液または分散物を含み、ここでグリコールグリセリドは一つまたはそれより多いC8−C18飽和脂肪酸のグリセリルおよびポリエチレングリコールエステルの混合物である。
【発明を実施するための形態】
【0123】
FLT−3阻害剤のかかる組成物の二つの製造方法を本明細書後記に記載する。
組成物A
Gelucire44/14(82部)を60℃まで加熱することにより融解させる。粉末化されたミドスタウリン(18部)を融解された材料に加える。得られた混合物をホモジナイズし、そして得られた分散物を様々な大きさの硬質ゼラチンカプセルに導入して、あるものはミドスタウリン25mgの投薬量を含有し、そしてあるものは75mgの投薬量を含有するようにする。得られたカプセルは経口投与に適当である。
【0124】
組成物B
Gelucire44/14(86部)を60℃まで加熱することにより融解させる。粉末化されたミドスタウリン(14部)を融解された材料に加える。混合物をホモジナイズし、そして得られた分散物を様々な大きさの硬質ゼラチンカプセルに導入して、あるものはミドスタウリン25mgの投薬量を含有し、そしてあるものは75mgの投薬量を含有するようにする。得られたカプセルは経口投与に適当である。
【0125】
Gelucire44/14はGattefosseより市販により入手可能であり;C8−C18飽和脂肪酸のグリセロールとのエステルおよび分子量約1500を有するポリエチレングリコールの混合物であり、脂肪酸構成成分の組成に関する明細は重量で4−10%カプリル酸、3−9%カプリン酸、40−50%ラウリン酸、14−24%ミリスチン酸、4−14%パルミチン酸および5−15%ステアリン酸である。
【0126】
Gelucire処方の好ましい実例は:
Gelucire(44/14):47g
ミドスタウリン:3.0g、60mlねじ切り付きフラスコに充填
からなる。
ソフトゲルの好ましい実例は以下のマイクロエマルジョンを含有する:
コーン油グリセリド 85.0mg
ポリエチレングリコール400 128.25mg
Cremophor RH40 213.75mg
ミドスタウリン 25.0mg
DLアルファトコフェロール 0.5mg
無水エタノール 33.9mg
全量 486.4mg
しかしながら、それは説明目的のためだけであることを明確に理解すべきである。
【0127】
FLT−3阻害剤およびmcl−1アンチセンスオリゴヌクレオチドまたはmcl−1特異的RNAi構築物の組み合わせがそのいずれかの薬剤単独での処置よりもさらに有効であることを以下に記載される試験方法により示すことができる。確定されたこれらの研究では、全身性肥満細胞症(SM)に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはmcl−1特異的RNAi構築物およびFLT−3キナーゼ阻害剤、好ましくは4−ベンジルスタウロスポリンにより誘起される細胞周期効果およびアポトーシスが実証される。
【0128】
腫瘍性ヒトMCにおけるMcl−1の発現および機能的役割が試験される。ASMおよびMCLを含むSMの全ての変種における原発性腫瘍性MCならびにMCL細胞系HMC−1がMcl−1を構成的な様式で発現することを示すことができる。加えてこれらの細胞におけるMcl−1のターゲティングが成長低下およびアポトーシスの誘導に、ならびにPKC412、4−メチル−3−[[4−(3−ピリジニル)−2−ピリミジニル]アミノ]−N−[5−(4−メチル−1H−イミダゾール−1−イル)−3−(トリフルオロメチル)フェニル]ベンズアミドおよびイマチニブを含むTK阻害剤に対する感受性の増大に関連することが示される。
【0129】
抗FLT−3またはホスホ(p)−FLT−3抗体を利用する新しく開発されたフローサイトメトリー(FCM)アッセイを用いて、MV4−11(MV)細胞はFLT−3およびp−FLT−3の双方を発現するが、RS4−11(RS)細胞はその細胞表面でFLT−3しか発現しないことが実証される。20から200nMの好ましいFLT−3阻害剤への暴露は細胞周期G1相蓄積を用量依存的な様式で、およびRS細胞よりも有意に多いMVのアポトーシスを誘起する。これはウェスタン分析により決定されるように、p−FLT−3、p−AKTおよびp−ERK1/2の著明な減衰に関連するが、FLT−3、AKTまたはERK1/2レベルには関連しない。好ましいFLT−3阻害剤はまたMV細胞上のp−FLT−3の細胞表面発現を阻止するが、FLT−3の発現を阻止しない(FCMにより決定できるように)。好ましいFLT−3阻害剤とは対照的に、ウェスタンおよびFCM分析の双方により決定できるように、好ましいHDAI化合物での処置はMVおよびRS細胞におけるFLT−3およびp−FLT−3双方のレベルを用量依存的な様式で減衰させる。好ましいHDAI化合物(20から100nM)への暴露もまたp−FLT−3、p−AKTおよびp−ERK1/2のレベルを下方調節する。驚くべきことに、好ましいFLT−3阻害剤および好ましいHDAI化合物での同時処置はMVおよびRS細胞のアポトーシスを有意に誘起する。これはMV細胞におけるp−FLT−3、p−AKTおよびp−ERK1/2のさらなる減衰に関連する。
【0130】
好ましくは、少なくとも一つの有益な効果、例えば第一および第二の活性成分の効果の相互増強、とりわけ相乗効果、例えば相加以上の効果、さらなる有利な効果、低副作用、第一および第二の活性成分の一つまたは双方の、組み合わせでなければ無効な投薬量で組み合わされた治療効果、ならびに特に活性成分の強力な相乗効果がある。
組み合わせ中のFLT−3阻害剤/アンチセンスオリゴヌクレオチドまたはmcl−1特異的RNAi構築物のモル比は一般的に1/10から10/1、好ましくは1/5から5/1、例えば1/2、1/1、2/1または3/1である。
【実施例1】
【0131】
材料および方法
試薬
イマチニブ(STI571)、PKC41228およびニロチニブ(4−メチル−3−[[4−(3−ピリジニル)−2−ピリミジニル]アミノ]−N−[5−(4−メチル−1H−イミダゾール−1−イル)−3−(トリフルオロメチル)フェニル]ベンズアミド)29はNovartis Pharma AG(Basel, Switzerland)により提供される。PKC412および4−メチル−3−[[4−(3−ピリジニル)−2−ピリミジニル]アミノ]−N−[5−(4−メチル−1H−イミダゾール−1−イル)−3−(トリフルオロメチル)フェニル]ベンズアミドのストック溶液はジメチル−スルホキシド(DMSO;Merck, Darmstadt, Germany)中に溶解することにより調製する。インターロイキン−4(IL−4)をPeprotech(Rocky Hill, NJ)から、RPMI1640培地およびウシ胎仔血清(FCS)をPAA laboratories(Pasching, Austria)から、L−グルタミンおよびイスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM)をGibco Life Technologies(Gaithersburg, MD)から、H−チミジンをAmersham(Aylesbury, UK)から、そしてクラドリビン(2−クロロデオキシアデノシン、2CdA)をJanssen−Cilag(Beerse, Belgium)から購入する。アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO;最近公開された配列にしたがって設計された)をVBC Genomics(Vienna, Austria)またはISIS Pharmaceuticals(Carlsbad, CA)から、そしてsiRNAをDharmacon(Lafayette, CO)から入手する。
【0132】
患者の特徴および腫瘍性肥満細胞の精製
全身性肥満細胞症(無痛性全身性肥満細胞症、ISM、n=17;侵襲性全身性肥満細胞症、ASM、n=3;肥満細胞白血病、MCL、n=2;くすぶり型全身性肥満細胞症、SSM、n=2;肥満細胞肉腫、MCS、n=1)を有する全数25人の患者を試験する。骨髄(BM)細胞を後腸骨稜細胞から入手し、そして保存剤不含ヘパリンが入ったシリンジに収集する。各々の場合で生検の前にインフォームドコンセントを得る。WHO基準にしたがって診断を確立する。肥満細胞白血病(MCL)を有する2人および肥満細胞肉腫(MCS)を有する1人の患者の原発性腫瘍性MCを、記載されるようにPE標識mAb YB5.B8(Pharmingen, San Diego, CA)およびFACS−Vantage セルソーター(Becton Dickinson, San Jose, CA)を用いて均質になるまで精製する(純度>98%)。施設内診査委員会の承認を得て、そしてヘルシンキ宣言にしたがって、全ての実験を行う。
【0133】
KIT D816Vを呈するかまたは欠如するHMC−1細胞の培養
MCL48を有する患者の白血病細胞から作成されたヒト肥満細胞系HMC−1を入手する(Mayo Clinic, Rochester, MN)。HMC−1の二つのサブクローン、すなわちKIT変異G560Vを宿すがD816Vを宿さないHMC−1.1、ならびにKITのG560V変異およびD816V変異の双方を呈するHMC−1.2細胞を使用する。10%FCS、L−グルタミンおよび抗生物質を補充したIMDM培地中、37℃および5%COで32個のHMC−1細胞を成長させる。HMC−1細胞を元来のストックから4から8週毎に再解凍し、そして毎週継代する。「表現型」の対照として、HMC−1細胞をKITの発現およびIL−4(100U/ml、48時間)の下方調整効果に関して定期的に確認する。
【0134】
阻害剤での処置
HMC−1細胞を種々の濃度のKIT D816V−ターゲティングTK阻害剤PKC412(100pMから10μM)、種々の濃度の4−メチル−3−[[4−(3−ピリジニル)−2−ピリミジニル]アミノ]−N−[5−(4−メチル−1H−イミダゾール−1−イル)−3−(トリフルオロメチル)フェニル]ベンズアミド(1nMから100μM)、イマチニブ(3nMから300μM)、2CdA(0.1−10000ng/ml)または対照培地と共に37℃および5%COで48時間までインキュベートする。別の一連の実験では、HMC−1細胞を阻害剤(以下を参照)に暴露される前にmcl−1特異的ASOでトランスフェクトする。その他の実験では、細胞を種々の濃度のMcl−1特異的ASO(50nM−250nM)で12時間まで、またはsiRNA(200nM)で12時間トランスフェクトし、さらに標的薬物に暴露することはない。薬物または/およびASOに暴露した後、細胞をH−チミジン取り込み実験、細胞生存能力およびアポトーシスの分析またはウェスタンブロッティングに供する。
【0135】
ノーザンブロット分析およびRT−PCR
Trizol(Invitrogen, Carlsbad, CA)を製造者の説明書にしたがって使用して全RNAをHMC−1細胞から単離する。RNA調製物およびノーザンブロッティングを本質的に記載されるように実施する。簡単には記載されるように全RNA15μgを1.0%ホルムアルデヒド−アガロースゲルでサイズ分画し、そしてナイロン膜(Hybond N, Amersham, Aylesbury, U.K.)に移す。mcl−1またはβ−アクチンに特異的な32P標識cDNAを用いてrapid−hyb buffer(Amersham)中でハイブリダイゼーションを実施する。記載されるようにEcoRIおよびXbaI(New England Biolabs, Beverly, MA)を用いてpBSK−Mcl−1(Stanley J. Korsmeyer, Dana Farber Cancer Institute, Boston, MAから寄贈)から全長mcl−1 cDNAを切り出すことによりmcl−1プローブを作成する。Megaprimeキット(Amersham)を用いて標識を実施する。0.1%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を伴う0.2×SSC(1×SSC=150mM NaClおよび15mMクエン酸ナトリウム、pH7.0)で、1時間42℃で、2×30分間、および62℃でさらに30分間ブロットを洗浄する。−80℃で増感スクリーン(Kodak)を用いてBiomax MSフィルム(Kodak, Rochester, NY)に暴露することにより結合放射活性を可視化する。E.A.S.Y. Win32ソフトウェア(Herolab, Wiesloch, Germany)を用いてオートラジオグラムのデンシトメトリーによりmRNA発現レベルを定量する。Protoscript First Strand cDNA合成キット(New England Biolabs, Beverly, MA)を用いて、50μl反応容量で1μg RNAを用いてRT−PCR反応を実施する。PCR条件は以下のとおりである:94℃で60秒間の初期変性、55℃で60秒間のアニーリング、72℃で60秒間の重合(35サイクル)および72℃で10分間の最終伸長。以下のプライマー対を使用する:mcl−1:5'-TGC TGG AGT TGG TCG GGG AA−3'(順行)(配列番号3)および5'−TCG TAA GGT CTC CAG CGC CT−3'(逆行)(配列番号4)。βアクチン:5'−ATG GAT GAT GAT ATC GCC GCG−3'(順行)(配列番号5)および5'−CTA GAA GCA TTT GCG GTG GAC GAT GGA GGG GCC−3'(逆行)(配列番号6)。PCR生成物を0.5μg/ml臭化エチジウム含有1%アガロースゲルに溶解させる。
【0136】
ウェスタンブロット分析
HMC−1細胞のライゼートおよびポリクローナルウサギ抗ヒトMcl−1抗体(Santa Cruz Biotechnology, Santa Cruz, CA)を用いて前記されたようにウェスタンブロット分析を実施する。簡単には、1%Triton−X−100(Sigma, St. Louis, MO)を含有するリン酸塩緩衝生理食塩水(PBS)中で細胞を溶解する。還元条件下でSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動によりタンパク質を分離し、そしてトランスファーバッファー中でニトロセルロース膜(Protran, Schleicher & Schuell, Dassel, Germany)に移す。次いで膜を抗マウス/抗ウサギIgG(BM 化学発光ウェスタンブロッティングキット、Roche)に暴露する。均等の負荷を確認するために、膜を抗βアクチン抗体(Sigma)で再プロービングする。Biomax MSフィルム(Kodak)への暴露により化学発光を検出する。
【0137】
免疫組織化学および免疫細胞化学
SMを有する全ての患者で、腫瘍性BM MCにおけるMcl−1の発現をパラフィン包埋、ホルマリン固定BM標本から調製された連続切片(2μm)で間接的免疫ペルオキシダーゼ染色技術を用いて試験する。内因性ペルオキシダーゼをCHOH/Hにより遮断する。ポリクローナル抗Mcl−1抗体(Santa Cruz)(作業希釈:1:50)で染色する前に、BM切片をマイクロ波オーブンにより前処理する。連続BM切片を抗Mcl−1抗体(一晩)および抗トリプターゼ抗体G3(作業希釈:1:5000、室温で1時間)(Chemicon, Temecula, CA)と共にインキュベートする。抗体を0.05M Tris緩衝生理食塩水(TBS、pH7.5)および1%ウシ血清アルブミンBSA(Sigma)で希釈する。洗浄後、スライドをビオチン化ヤギ抗ウサギまたはウマ抗マウスIgGと共に30分間インキュベートし、洗浄し、そしてストレプトアビジン−ビオチン−ペルオキシダーゼ複合体に30分間暴露する。3−アミノ−9−エチル−カルバゾール(AEC)を色素原として使用する。スライドをMayer's Hemalaunで対比染色する。抗Mcl−1抗体(作業希釈1:200)およびビオチン化ヤギ抗ウサギIgG(Biocarta, San Diego, CA)を用いて記載されるようにHMC−1細胞のサイトスピン調製物で免疫細胞化学を実施する。選択実験では、Mcl−1遮断ペプチド(Santa Cruz)を適用する(作業希釈1:40)。色素原としてアルカリ性ホスファターゼ複合体(Biocarta)を使用する。Neofuchsin(Nichirei, Tokyo, Japan)を用いて抗体反応性を可視化する。
【0138】
mcl−1アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)およびsiRNAでのトランスフェクション
HMC−1.1およびHMC−1.2細胞をmcl−1特異的2'−O−メトキシエチル/2'−デオキシヌクレオチドキメラホスホロチオエートASO(5'−TTG GCT TTG TGT CCT TGG CG−3')(配列番号7)またはスクランブル対照オリゴヌクレオチドプールでトランスフェクトする。スクランブル対照はA(アデニン)、G(グアニン)、T(チミン)およびC(シトシン)塩基の混合物を表し、得られた調製物は等モル濃度のオリゴヌクレオチドの混合物を含有する。別の一連の実験では、アニーリングされた、精製された、そして脱塩された二本鎖mcl−1 siRNA(AAG AAA CGC GGU AAU CGG ACU)(配列番号8)およびAGU CCG AUU ACC GCG UUU CUU 3'(mcl1、配列番号9))ならびにルシフェラーゼに対する対照siRNA(CUU ACG CUG AGU ACU UCG A)(配列番号10)(双方共にDharmacon(Lafayette, CO)より入手)を適用する。トランスフェクション用に800000セルを75cm培養プレートに37℃で24時間を播種する。本質的には記載されるようにRPMI1640培地中Mcl−1−ASOおよびMcl−1 siRNAをリポフェクチン試薬(Invitrogen)と複合化する。簡単には、HMC−1.1またはHMC−1.2細胞を種々の濃度のmcl−1 ASO(50−250nM)または200nM mcl−1特異的siRNAと共に37℃で4時間インキュベートする。ASOへの暴露の後、細胞を洗浄し、そして10%FCSを伴うRPMI1640培地中種々の濃度のTK阻害剤の存在下または不在下でさらに12時間培養した後に分析する。siRNA処置細胞を対照培地中12時間(TK阻害剤不含)維持した後、アポトーシス細胞のパーセンテージおよびウェスタンブロッティングに関して試験する。
【0139】
H−チミジン組み込みアッセイおよび細胞生存能力の決定
Mcl−1 ASO、PKC412、4−メチル−3−[[4−(3−ピリジニル)−2−ピリミジニル]アミノ]−N−[5−(4−メチル−1H−イミダゾール−1−イル)−3−(トリフルオロメチル)フェニル]ベンズアミド、イマチニブおよび2CdAの抗増殖効果を調べるために、HMC−1.1細胞およびHMC−1.2細胞を用いて3H−チミジン組み込み実験を行う。TK阻害剤および2CdAを未処理細胞またはASOもしくは万能(universal)(スクランブル)対照でトランスフェクトされた細胞に適用する。とりわけMcl−1 ASOまたは対照オリゴヌクレオチドでのトランスフェクションの4時間後に、細胞を96ウェルマイクロタイタープレート(5×10セル/ウェル)中種々の濃度のPKC412(100pMから10μM)、4−メチル−3−[[4−(3−ピリジニル)−2−ピリミジニル]アミノ]−N−[5−(4−メチル−1H−イミダゾール−1−イル)−3−(トリフルオロメチル)フェニル]ベンズアミド(1nMから100μM)、イマチニブ(3nMから300μM)またはクラドリビン(2CdA;HMC−1.1:0.1−10000ng/ml;HMC−1.2:0.5−500ng/ml)の不在下または存在下で24時間培養する。その後、1μCi H−チミジンを各ウェルに加える。16時間後にFiltermate 196ハーベスター(Packard Bioscience)のろ過膜(Packard Bioscience, Meriden, CT)上で細胞を収集する。次いでろ液を空気乾燥させ、そして結合放射活性をβカウンター(Top−Count NXT, Packard Bioscience)で測定する。全ての実験を3検体ずつで実施する。トリパンブルー排除試験により細胞生存能力を決定する。従来の細胞形態学基準を用いてWright−Giemsa染色サイトスピンスライド上でアポトーシス細胞のパーセンテージを決定する。
【0140】
統計分析
データの評価において見出される差異の有意性のレベルを決定するために、対応のあるスチューデントt検定を適用する。結果はp<0.05で有意に異なると考えられる。mcl−1 ASOおよび標的薬物の相乗効果を決定するために、市販により入手可能であるソフトウェア(CalcuSyn;Biosoft, Ferguson, MO)を用いて公開されたガイドラインにしたがって組み合わせ指標の値を計算する。
【0141】
結果
腫瘍性肥満細胞におけるMcl−1タンパク質の検出
方法
免疫組織化学および連続切片染色により評価されるように、試験された全てSM患者において腫瘍性MCはMcl−1に対する抗体と反応することが見出される(n=25)。腫瘍性ヒト肥満細胞におけるMcl−1の発現を、無痛性SM(ISM)を有する患者の腫瘍性MCにおけるトリプターゼおよびMcl−1の免疫組織化学的検出により分析する。隣接する骨髄切片をトリプターゼまたはMcl−1に対する抗体と共にインキュベートする。免疫組織化学を記載されるように実施する。
【0142】
Mcl−1発現の免疫細胞化学的検出を、KIT変異D816Vを呈するHMC−1.2細胞においてさらに分析する。ポリクローナル抗Mcl−1抗体を用いて免疫細胞化学を実施する。抗体を特異的遮断ペプチドと共にプレインキュベートすると陰性染色に至った。同一の染色結果はKIT D816Vを欠くHMC−1.1細胞で得られる。HMC−1.1細胞およびHMC−1.2細胞のノーザンブロット分析はmcl−1特異的cDNAプローブおよびβアクチン負荷対照を使用する。K562細胞、HMC−1.1細胞、HMC−1.2細胞、および精製された(純度>98%)腫瘍性ヒト肥満細胞におけるmcl−1 mRNA発現のRT−PCR分析は肥満細胞肉腫(MCS)を有する1人の患者(#1)および肥満細胞白血病(MCL)を有する2人の患者(#2および#3)から得られる。PCR反応はRT工程を省く(−RT)ことにより制御される。
【0143】
結果
ISMを有する患者の紡錘形腫瘍性BM MCにおいてトリプターゼおよびMcl−1の同時発現が観察される。これらの浸潤物において事実上全ての腫瘍性MCがMcl−1に関して陽性に染色されることが見出される。また、種々のカテゴリーのSMの患者を比較した場合、免疫組織化学によりMCにおけるMcl−1発現(浸潤物における染色されたMCのパーセンテージまたは染色の強度に関して)に差異はない。とりわけMcl−1はISMおよびSSMを有する患者の腫瘍性MCにおいて、ならびにASMおよびMCLのような高悪性度の悪性腫瘍において発現されることが見出される。免疫細胞化学により決定されるようにヒトMCL由来の白血病細胞系HMC−1(HMC−1.1およびHMC−1.2)もまたMcl−1タンパク質を発現することが見出される。対照培地またはMcl−1特異的遮断ペプチドとのプレインキュベーションの後の抗Mcl−1抗体のHMC−1.1細胞との反応性を実施し、そしてHMC−1.2細胞と同一の結果が得られる。
【0144】
腫瘍性肥満細胞におけるmcl−1 mRNAの検出
次の工程では、原発性腫瘍性MCおよびHMC−1細胞におけるmcl−1 mRNAの発現を試験する。ノーザンブロッティングにより評価されるように、HMC−1.1細胞およびHMC−1.2細胞の双方がmcl−1 mRNAを発現することが見出される。HMC−1細胞におけるmcl−1 mRNAの発現をRT−PCR分析により確認する。さらにMCLまたはMCSを有する患者の高度に精製された原発性腫瘍性MCにおけるmcl−1 mRNAの発現をRT−PCR分析により実証することができる。
【0145】
Mcl−1発現の下方調節が腫瘍性MCの生存能力に対抗する
方法
HMC−1.1およびHMC−1.2細胞におけるMcl−1タンパク質発現ならびに細胞生存能力に及ぼすmcl−1アンチセンスオリゴヌクレオチドの効果を分析する。KIT D816Vを宿すHMC−1.1細胞およびHMC−1.2細胞を250nM mcl−1アンチセンスオリゴヌクレオチド、スクランブル対照でトランスフェクトするか、または12時間トランスフェクトせずに放置した後に分析する。抗Mcl−1抗体を用いてMcl−1発現のウェスタンブロット分析を実施する。βアクチンを負荷対照として提供する。非生存(トリパンブルー陽性)細胞の評価を全有核細胞のパーセンテージとして表現する。アポトーシス細胞の数(%)。結果は三つの別個の実験からの平均±S.D.を表す。
【0146】
腫瘍性肥満細胞に及ぼすmcl−1アンチセンスオリゴヌクレオチドの用量依存的および時間依存的効果を、種々の濃度のmcl−1アンチセンスオリゴヌクレオチド(50−250nM)または対照培地に12時間暴露した後のHMC−1.1細胞およびHMC−1.2細胞におけるMcl−1発現のウェスタンブロット分析により分析する。βアクチンを負荷対照として提供する。MC−1.1細胞およびHMC−1.2細胞におけるMcl−1タンパク質の発現に及ぼすmcl−1アンチセンスオリゴヌクレオチド(250nM)およびスクランブル対照(250nM)の時間依存的効果を観察する。負荷対照として提供されるβアクチンを用いてウェスタンブロッティングによりMcl−1発現を決定する。細胞生存能力に及ぼすmcl−1アンチセンスオリゴヌクレオチド(250nM)およびスクランブル対照(250nM)の時間依存的効果、すなわちアポトーシス性HMC−1.1細胞およびHMC−1.2細胞のパーセンテージが得られる。結果は三つの別個の実験からの平均±S.D.を表す。
【0147】
結果
Mcl−1の生存性分子としての役割およびSMにおける潜在的標的を調べるために、アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)研究法によりHMC−1.1細胞およびHMC−1.2細胞においてMcl−1をノックダウンする。ウェスタンブロッティングにより決定されるように、双方の細胞系のmcl−1 ASO(250nM)でのトランスフェクションはスクランブル対照または非トランスフェクト細胞と比較した場合、Mcl−1タンパク質の発現を事実上消失させた。予測されるように、mcl−1 ASOでのトランスフェクションはトリパンブルー陽性細胞の実質的な増加(対照は約1−5%;スクランブル対照は約5−8%;ASOは約35−50%)および試験されたHMC−1サブクローンの双方、すなわちHMC−1.1細胞およびHMC−1.2細胞におけるアポトーシス細胞のパーセンテージの同様の実質的な増加を導く。腫瘍性MC(HMC−1)の成長および生存性に及ぼすmcl−1 ASOの効果は用量依存的および時間依存的であることが見出される。これらのデータにより、ASO研究法による腫瘍性MCにおけるmcl−1のターゲティングは細胞生存能力の喪失およびアポトーシスの誘導に関連することが示される。
【0148】
腫瘍性肥満細胞に及ぼすmcl−1 siRNAの効果
方法
腫瘍性肥満細胞におけるmcl−1−siRNAの効果を、HMC−1.1細胞およびHMC−1.2細胞におけるMcl−1タンパク質の発現および細胞生存能力に関して分析する。細胞をトランスフェクトせずに放置する(対照)か、または本明細書に記載されるようにmcl−1特異的siRNA(mcl−1−siRNA;200nM)もしくはルシフェラーゼ特異的(対照)−siRNA(luc−siRNA;200nM)のいずれかでトランスフェクトする。ポリクローナル抗Mcl−1抗体を用いるウェスタンブロッティングによりMcl−1タンパク質発現をを決定する。βアクチンに関してプロービングすることにより均等な負荷を確認する。アポトーシス細胞のパーセンテージ(%)を記録することにより細胞生存能力を分析する。結果は各一連の実験の三つの別個の実験からの平均±S.D.を表す。
【0149】
結果
次の工程では腫瘍性MCにおける生存性関連分子および潜在的標的としてのmcl−1の役割をさらに実証するためにmcl−1特異的siRNAを適用する。これらの実験では、mcl−1 siRNAはHMC−1.1細胞およびHMC−1.2細胞においてMcl−1タンパク質の発現を下方調節することが見出される。Mcl−1の下方調節を誘起するsiRNAは、HMC−1.1細胞およびHMC−1.2細胞におけるアポトーシス細胞の増加に関連することが見出される。これらのデータにより、mcl−1が腫瘍性MCにおける必須の生存性因子であるというさらなる証拠が提供された。
【0150】
腫瘍性肥満細胞におけるMcl−1の発現に及ぼす抗腫瘍薬および標的薬物の効果
方法
KIT D816Vを欠くHMC−1.1細胞およびKIT D816Vを呈するHMC−1.2細胞におけるMcl−1タンパク質の発現および細胞生存能力に及ぼすPKC412、ニロチニブ(すなわち4−メチル−3−[[4−(3−ピリジニル)−2−ピリミジニル]アミノ]−N−[5−(4−メチル−1H−イミダゾール−1−イル)−3−(トリフルオロメチル)フェニル]ベンズアミド)、イマチニブ(すなわちGLIVECまたはGLEEVEC)または2CdAの効果を観察する。ポリクローナル抗Mcl−1抗体を用いるウェスタンブロッティングによりMcl−1タンパク質発現を決定する。βアクチンに関してプロービングすることにより均等な負荷を確認する。アポトーシス細胞のパーセンテージ(%)を記録することにより細胞生存能力を分析する。細胞生存能力に及ぼす薬物効果を立証する結果は三つの別個の実験からの平均±S.D.を表す。
【0151】
結果
次の工程ではHMC−1細胞におけるMcl−1の発現に及ぼす種々の標的薬物の効果を探索する。これらの実験では、PKC412(0.3−10μM)、4−メチル−3−[[4−(3−ピリジニル)−2−ピリミジニル]アミノ]−N−[5−(4−メチル−1H−イミダゾール−1−イル)−3−(トリフルオロメチル)フェニル]ベンズアミド(10−300nM)およびイマチニブ(30−300nM)が、KIT D816Vを欠くHMC−1.1細胞においてMcl−1タンパク質の発現を下方調節するが、2CdA(1000ng/mlまで)は下方調節しないことが見出される。KIT D816Vを呈するHMC−1.2細胞に同一の薬物(同一濃度で)を適用した場合、PKC412(1−10μM)および2CdA(10−100ng/ml)が対照と比較した場合、Mcl−1の発現を低下させることが見出されるが、4−メチル−3−[[4−(3−ピリジニル)−2−ピリミジニル]アミノ]−N−[5−(4−メチル−1H−イミダゾール−1−イル)−3−(トリフルオロメチル)フェニル]ベンズアミドまたはイマチニブのいずれでも、試験された用量範囲にわたって有意な効果が認められない。双方の細胞系で、薬物誘起のMcl−1タンパク質の発現の低下がアポトーシス細胞の増加を伴うことが見出される。
【0152】
Mcl−1 ASOは腫瘍性MCにおいて成長阻止を生じるのに、PKC412、4−メチル−3−[[4−(3−ピリジニル)−2−ピリミジニル]アミノ]−N−[5−(4−メチル−1H−イミダゾール−1−イル)−3−(トリフルオロメチル)フェニル]ベンズアミド(ニロチニブ)およびイマチニブと協同する。
標的薬物およびmcl−1特異的ASOの著しい効果に基づいて、薬物およびASOの組み合わせがHMC−1.1細胞およびHMC−1.2細胞に相乗的な抗増殖(またはアポトーシス誘起)効果を招くかどうかを突き止めることは興味深い。第一工程では、各単一の薬物に関して薬物への暴露後のH−チミジン取り込み実験およびアポトーシス細胞の数を決定する実験においてIC50値を決定する。各々の結果(IC50値)を表1にまとめる。標的薬物に関して、データは概して以前の我々の観察に合致する。増殖を遮断するために必要とされる標的薬物の濃度は通常アポトーシスの誘起のために必要とされるものと比較して低い。以前の我々のデータと一致して、PKC412および2CdA、ならびにより低い程度で4−メチル−3−[[4−(3−ピリジニル)−2−ピリミジニル]アミノ]−N−[5−(4−メチル−1H−イミダゾール−1−イル)−3−(トリフルオロメチル)フェニル]ベンズアミドは薬理学的に適当な濃度でHMC−1.2細胞における細胞成長に対抗することが見出される。対照的にHMC−1.1細胞では、PKC412、4−メチル−3−[[4−(3−ピリジニル)−2−ピリミジニル]アミノ]−N−[5−(4−メチル−1H−イミダゾール−1−イル)−3−(トリフルオロメチル)フェニル]ベンズアミドおよびイマチニブは細胞成長を低下させ、そしてアポトーシスを誘起することが見出されるが、2CdAでは有意な効果が認められない。mcl−1 ASOはHMC−1.1およびHMC−1.2サブクローンの双方で増殖を阻止し、そしてアポトーシスを誘起することが見出され、HMC−1.2細胞ではIC50値がわずかに高い。
【0153】
【表1】

*薬物とのインキュベーションまたはASOでのトランスフェクションの24時間後にH−チミジン取り込みを分析し、そして細胞を薬物と24時間インキュベートした後にアポトーシス細胞のパーセンテージをサイトスピン調製物で決定する。アポトーシスの評価のために、ASOでのトランスフェクションの24時間後にはアポトーシス細胞の数が全例で>50%になるので、12時間後に細胞を試験する
**ニロチニブは4−メチル−3−[[4−(3−ピリジニル)−2−ピリミジニル]アミノ]−N−[5−(4−メチル−1H−イミダゾール−1−イル)−3−(トリフルオロメチル)フェニル]ベンズアミドである。
【0154】
KIT D816Vを欠く(HMC−1.1)または呈する(HMC−1.2)腫瘍性肥満細胞の成長および生存能力に及ぼすmcl−1アンチセンスオリゴヌクレオチドおよび標的薬物の効果を分析する。
【0155】
方法
スクランブル対照またはmcl−1アンチセンスオリゴヌクレオチド(50nM)でトランスフェクトされたHMC−1.1細胞によるH−チミジン取り込みに及ぼす種々の濃度のPKC412、4−メチル−3−[[4−(3−ピリジニル)−2−ピリミジニル]アミノ]−N−[5−(4−メチル−1H−イミダゾール−1−イル)−3−(トリフルオロメチル)フェニル]ベンズアミド(ニロチニブ)、STI571(イマチニブ)または2CdAの効果を実施する。結果は、標的薬物を含まない対照(=スクランブル対照)のパーセントとして表現され、そして分析された別個の三つの実験の平均±SDを表す。PKC412、ニロチニブ、STI571(イマチニブ)もしくは2CdAを適用された、または各々の薬物を適用されないmcl−1アンチセンスオリゴヌクレオチドまたはスクランブル対照(各々100nM)の細胞生存能力、すなわちアポトーシス細胞のパーセンテージ(%)に及ぼす効果を分析する。結果は三つの別個の実験からの平均±S.D.を表す。CalcuSynソフトウェアを用いてHMC−1.1におけるPKC412、ニロチニブ、STI571(イマチニブ)または2CdAおよびmcl−1アンチセンス誘起のアポトーシスの用量−効果関係性の分析をChouおよびTalalayの半有効法(median effect method)にしたがって計算する。1未満の組み合わせ指標(CI)は相乗効果を示す。
【0156】
スクランブル対照またはmcl−1アンチセンスオリゴヌクレオチド(80nM)でトランスフェクトされたHMC−1.2細胞によるH−チミジン取り込みに及ぼす種々の濃度のPKC412、ニロチニブ、STI571(イマチニブ)または2CdAの効果を分析する。結果は、標的薬物を含まない対照、すなわちスクランブル対照のパーセントとして表現され、そして別個の三つの実験の平均±SDを表す。PKC412、ニロチニブ、STI571(イマチニブ)もしくは2CdAを適用された、または各々の薬物を適用されないmcl−1アンチセンスオリゴヌクレオチドまたはスクランブル対照(各々100nM)の細胞生存能力、すなわちアポトーシス細胞のパーセンテージ(%)に及ぼす効果を分析する。結果は三つの別個の実験からの平均±S.D.を表す。CalcuSynソフトウェアを用いてHMC−1.2におけるPKC412、ニロチニブ、STI571(イマチニブ)または2CdAおよびmcl−1アンチセンス誘起のアポトーシスの用量−効果関係性の分析をChouおよびTalalayの半有効法(median effect method)にしたがって計算する。1未満の組み合わせ指標(CI)は相乗効果を示す。
【0157】
結果
mcl−1−ASO−トランスフェクトされたHMC−1細胞の薬物誘起の応答をスクランブル対照でトランスフェクトされたHMC−1細胞の応答と比較した場合、実質的な差異が見出される。実際に、たいていの場合でmcl−1 ASOでのトランスフェクションがHMC−1細胞をTK阻害剤に対して、および2CdAに対して鋭敏にすることが見出される。興味深いことに、HMC−1.1細胞では、たいていの組み合わせが実際に相乗的であることが見出される。それに反してHMC−1.2細胞では、相乗効果はASOおよびPKC412、ならびにASOおよび2CdAの組み合わせにおいてのみ認められるが、ASOおよび4−メチル−3−[[4−(3−ピリジニル)−2−ピリミジニル]アミノ]−N−[5−(4−メチル−1H−イミダゾール−1−イル)−3−(トリフルオロメチル)フェニル]ベンズアミドまたはASOおよびイマチニブでは認められない。全般的に見て、これらのデータにより、Mcl−1を腫瘍性MCにおける新しい薬物標的として用いることができ、そしてmcl−1特異的ASOはHMC−1細胞を2CdAおよび新規TK阻害剤に対して鋭敏にできることが示される。
【0158】
考察
Mcl−1は最近になって種々の骨髄性腫瘍の病因に関わると見なされている十分に特徴付けされたBcl−2ファミリーのメンバーである。全身性肥満細胞症(SM)は内臓におけるMCの異常な成長および蓄積を特徴とする骨髄腫瘍である。SMを有する患者の腫瘍性MCおよびヒト肥満細胞白血病細胞系HMC−1は構成的な様式でMcl−1を発現するという証拠を提供する。さらに我々のデータにより、Mcl−1が腫瘍性MCにおける非常に重要な生存性分子であり、そしてASOまたはsiRNAによるMcl−1のターゲティングは腫瘍性MCの生存性の低下およびPKC412または4−メチル−3−[[4−(3−ピリジニル)−2−ピリミジニル]アミノ]−N−[5−(4−メチル−1H−イミダゾール−1−イル)−3−(トリフルオロメチル)フェニル]ベンズアミドを含むKITチロシンキナーゼ阻害剤に対する応答性の増大に関連することが示される。
【0159】
正常および腫瘍性MCは好塩基球を含むたいていのその他の骨髄細胞系列と比較して極度に長寿命の細胞であるが、その長期間生存に寄与するメカニズムおよび生存性因子はほとんど未知のままである。Bcl−2ファミリーのメンバーは顆粒単球細胞において必須の生存性因子として関わると見なされるが、MCにおけるこれらの分子の発現および役割についてはほとんど分かっていない。これまでのところ、腫瘍性MCおよびHMC−1細胞がBcl−2を発現することが報告されている。加えて、SMにおける腫瘍性MCはBcl−xLを表示すると記載されている。この研究で、および特異的ASOおよびsiRNAを用いる機能分析により、腫瘍性MCにおけるmRNAおよびタンパク質レベルでのMcl−1の発現を実証することができる。故に我々のデータに基づいて、Mcl−1は腫瘍性MCにおいて発現される重大な生存性因子として見なされなければならない。
【0160】
SMの臨床経過は不定であり、そして低増殖能力のMCおよび正常な平均寿命を伴う無症候性から、腫瘍性MCの急速な増殖および短い生存性を伴う高度に侵襲性の症例までにわたる。それ故にMcl−1のレベルがSMを有する患者の群の間で変動するかどうかを突き止めることは興味深い。しかしながら低悪性度および高悪性度のMC悪性腫瘍を比較した場合、MCにおけるMcl−1発現に見かけの差異はないことが検出される。Mcl−1発現はMCの増殖能力よりもむしろその生存性に関係するという事実により、この観察を説明することができる。実際に、無痛性SMにおいてさえ、MCは極度に長い生存性を呈する。一方、Cerveroらは高度に鋭敏なフローサイトメトリー技術を用いて、ISMと比較してMCLを有する患者のBM MCにおけるBcl−2の発現の増加を報告した。それ故に、我々の研究で適用された技術がフローサイトメトリーと比較して感受性が低いので、MCLのMCが、正常なMCまたはISMのMCと比較して、わずかに高レベルのMcl−1を発現するということを排除できない。
【0161】
腫瘍性骨髄細胞におけるMcl−1の発現の調節についてはほとんど分かっていない。慢性白血病(CML)では、疾患関連オンコプロテインBCR/ABLはMcl−1の発現を促すことが見出される。46SMでは、KITのD816V変異バリアントはCMLのBCR/ABLと比較されるように、類似の様式で疾患関連オンコプロテインとして提供される。オンコプロテインが腫瘍性MCにおけるMcl−1の発現の調節に関与し得るかどうかを探索するために、KITのTK活性の阻害剤を利用した。これらの実験では、PKC412、4−メチル−3−[[4−(3−ピリジニル)−2−ピリミジニル]アミノ]−N−[5−(4−メチル−1H−イミダゾール−1−イル)−3−(トリフルオロメチル)フェニル]ベンズアミドおよびイマチニブはHMC−1.1(KIT D816Vを欠くが、KIT G560Vを発現する)におけるMcl−1の発現を下方調節することを見出されるが、KIT D816Vを発現するHMC−1.2細胞では、PKC412のみ、ならびにより低い程度で4−メチル−3−[[4−(3−ピリジニル)−2−ピリミジニル]アミノ]−N−[5−(4−メチル−1H−イミダゾール−1−イル)−3−(トリフルオロメチル)フェニル]ベンズアミドがMcl−1タンパク質の発現を低下させる。PKC412はKIT D816VのTK活性を強力に阻止するので、そしてこの変異はイマチニブに対する抵抗性を付与するので、これらの観察は、KIT D816Vが腫瘍性MCにおけるMcl−1の発現異常に寄与するという仮説を支持すると解釈することができる。一方、我々のデータにより、Mcl−1発現が検出可能であり、そしてKIT TK阻害剤がHMC−1.1細胞においてMcl−1発現を下方調節したので、KIT D816Vを欠くHMC−1細胞においてKIT依存性であることも示唆される。高悪性度の悪性腫瘍(ASMまたはMCL)のMCがしばしばKIT D816Vを欠くか、またはTK標的治療の間に再発を引き起こすために選択され得る、KIT D816V陰性サブクローンを有するので、この観察はとりわけ興味深い。
【0162】
Mcl−1は骨髄細胞においてアポトーシスに対抗する、十分に確立された生存性分子である。腫瘍性MCにおけるMcl−1発現の機能的有意性のための証拠を提供するために、HMC−1細胞をmcl−1特異的ASOまたはmcl−1特異的siRNAでトランスフェクトする。双方のHMC−1サブクローンで、Mcl−1タンパク質の特異的ASOおよびsiRNA誘起のノックダウンがウェスタンブロッティングにより実証され、そしてアポトーシス細胞における有意な増加を伴う。加えて、HMC−1細胞の増殖はスクランブル対照でトランスフェクトされた細胞と比較して、Mcl−1 ASOでのトランスフェクションの後に減少する。これらのデータにより、Mcl−1がHMC−1細胞において重要な生存性因子であるという確固とした証拠が提供される。
【0163】
次にmcl−1 ASOならびに2CdAおよび新規KIT TK阻害剤を含む種々の標的薬物の増殖阻止およびアポトーシス誘起効果を比較した。これらの実験における興味深い態様は、H−チミジン取り込みにより測定される増殖が、アポトーシスの誘導と比較した場合、低濃度のTK阻害剤で抑制されるという点である。この矛盾は種々の阻害剤の効果と比較する場合、重要な意味合いを有し、そしてH−チミジンの取り込みはより感受性の高い成長のパラメーターであり、そしてアポトーシス発生の徴候の前に影響され得るという事実によりもっともよく説明され得る。
【0164】
ASMおよびMCLは深刻な予後および短い生存性を伴う高悪性度のMC悪性腫瘍である。これらの患者では、多くの異なる因子がMCの異常な成長および生存性に寄与し得て、そしてこれらの患者における腫瘍性細胞の成長に対抗する薬物を同定することは困難である。しかしながら過去数年の間に、高悪性度のMC腫瘍における薬物抵抗性を打破する多くの新規処置概念および標的薬物が同定されている。これらの薬物のうちの一つが、Flt3の変異体、野生型KITおよびKIT D816VのTK活性に対抗する新規TK阻害剤、PKC412である。対応して、本研究ではKIT D816Vを発現するHMC−1.2細胞において、PKC412は成長およびMcl−1発現に対抗することが見出される。成長阻止に関して、これらのデータは我々のおよびその他の以前の観察を確認する。しかしながらPKC412では単一の薬物としてASMまたはMCLを有する患者において永続的な完全な寛解を誘起することができないかもしれない。
【0165】
TK駆動性、薬物抵抗性骨髄腫瘍における最も魅力的な研究法は、標的薬物を互いに、または従来の薬物と組み合わせることである。ASMまたはMCLの場合、故にPKC412、その他のTK阻害剤およびその他の標的薬物を用いる薬物の組み合わせを考慮することは合理的であり得る。我々の研究の結果により、mcl−1 ASOおよびPKC412ならびにmcl−1 ASOおよび4−メチル−3−[[4−(3−ピリジニル)−2−ピリミジニル]アミノ]−N−[5−(4−メチル−1H−イミダゾール−1−イル)−3−(トリフルオロメチル)フェニル]ベンズアミドは、HMC−1.1細胞およびHMC−1.2細胞において成長阻止を生じるのに互いに協同する。加えて協同効果はまたHMC−1.1細胞においてイマチニブおよびmcl−1 ASOを適用する場合にも認められる。mcl−1 ASOとPKC412との間の協同的な薬物効果は双方のHMC−1サブクローンにおいて相乗的であるが、mcl−1 ASOと4−メチル−3−[[4−(3−ピリジニル)−2−ピリミジニル]アミノ]−N−[5−(4−メチル−1H−イミダゾール−1−イル)−3−(トリフルオロメチル)フェニル]ベンズアミドとの間の相互作用はHMC−1.1細胞においてのみ相乗的であるが、HCM−1.2細胞では相乗的でないというのは興味深い観察である。これらの差異はKIT D816Vを表示するHMC−1.2細胞に及ぼすPKC412の効果と比較して、イマチニブおよび4−メチル−3−[[4−(3−ピリジニル)−2−ピリミジニル]アミノ]−N−[5−(4−メチル−1H−イミダゾール−1−イル)−3−(トリフルオロメチル)フェニル]ベンズアミドのあまり顕著でない抗増殖効果により最もよく説明される。
【0166】
2CdAは最近進行型SMの処置のための新規の有効な腫瘍縮小薬として紹介されている薬物である。現在の研究では、2CdAがHMC−1.1細胞と比較してHMC−1.2細胞においてなおさらに強力に成長およびMcl−1発現を阻止することが見出され、ASMおよびMCLを有する患者を含むたいていのSMの患者がこのKIT変異を表示するので、これは臨床上非常に重要であり得る。故に2CdAはこのKIT変異体を欠くMCにおけるように、KIT D816Vを発現するMCにおいてより良好に作用すると記載された最初の薬物である。しかしながらこれらの効果に関わらず、2CdAは分析された二つのHMC−1サブクローンにおいてmcl−1 ASOと相乗的な抗増殖効果を生じなかった。
【0167】
多くの第I/II相臨床試験で、ASO型薬物を用いる試みが為されている。しかしながら最初の有望な結果に関わらず、過去に癌患者においてかかる薬物の適用の可能性に関していくつがが保留されている。mcl−1およびSMに関して、mcl−1ターゲティング処置の概念をASMおよびMCLの臨床試験に入るのに十分なまでに発展させることができるかどうかを明確にするためにさらなる前臨床および臨床研究が必要とされるであろう。
【0168】
要約すると、我々のデータにより、腫瘍性MCはMcl−1を発現し、そしてMcl−1のターゲティングは生存性の低下およびPKC412のようなTK阻害剤に対する応答性の増大に関連することが示される。これらのデータにより、Mcl−1は腫瘍性MCにおける新規の興味深い標的であり、TK阻害剤に対する抵抗性を打破する助けとなり得ることが示唆される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
医薬的に有効な量の(a)FLT−3阻害剤またはその薬学的に許容される塩もしくはプロドラッグ、および(b)mcl−1アンチセンスオリゴヌクレオチドまたはmcl−1特異的RNAi構築物で同時に、併用的に、個別にまたは逐次的にかかる処置を必要とする哺乳動物を処置することを含む哺乳動物における骨髄異形成症候群、リンパ腫および白血病ならびに固形腫瘍を処置する方法。
【請求項2】
急性骨髄性白血病(AML)を処置するための請求項1に記載の方法。
【請求項3】
FLT−3阻害剤がスタウロスポリン誘導体または4−メチル−3−[[4−(3−ピリジニル)−2−ピリミジニル]アミノ]−N−[5−(4−メチル−1H−イミダゾール−1−イル)−3−(トリフルオロメチル)フェニル]ベンズアミドまたはイマチニブである請求項1に記載の方法。
【請求項4】
スタウロスポリン誘導体が式:
【化1】

または
【化2】

【化3】

または
【化4】

または
【化5】

または
【化6】

(式中、
およびRは互いに独立して非置換もしくは置換アルキル、水素、ハロゲン、ヒドロキシ、エーテル化もしくはエステル化ヒドロキシ、アミノ、一もしくは二置換アミノ、シアノ、ニトロ、メルカプト、置換メルカプト、カルボキシ、エステル化カルボキシ、カルバモイル、N−一もしくはN,N−二置換カルバモイル、スルホ、置換スルホニル、アミノスルホニルまたはN−一もしくはN,N−二置換アミノスルホニルであり;
nおよびmは互いに独立して1以上4以下の数字であり;
n'およびm'は互いに独立して0以上4以下の数字であり;
、R、RおよびR10は互いに独立して水素、脂肪族、各々の場合に29個までの炭素原子を有する炭素環式もしくは炭素環式脂肪族ラジカル、各々の場合に20個までの炭素原子および各々の場合に9個までのヘテロ原子を有する複素環式もしくは複素環式脂肪族ラジカル、30個までの炭素原子を有するアシルであり、ここでRは不在でもよいか;
またはRは30個までの炭素原子を有するアシルであり、そしてRはアシルではなく;
が不在である場合、pは0であるか、またはRおよびRが双方共に存在し、そして各々の場合に前記のラジカルのうちの一つである場合は1であり;
は水素、脂肪族、各々の場合に29個までの炭素原子を有する炭素環式もしくは炭素環式脂肪族ラジカル、または各々の場合に20個までの炭素原子および各々の場合に9個までのヘテロ原子を有する複素環式もしくは複素環式脂肪族ラジカル、または30個までの炭素原子を有するアシルであり;
、RおよびRはアシルもしくは−(低級アルキル)−アシル、非置換もしくは置換アルキル、水素、ハロゲン、ヒドロキシ、エーテル化もしくはエステル化ヒドロキシ、アミノ、一もしくは二置換アミノ、シアノ、ニトロ、メルカプト、置換メルカプト、カルボキシ、カルボニル、カルボニルジオキシ、エステル化カルボキシ、カルバモイル、N−一もしくはN,N−二置換カルバモイル、スルホ、置換スルホニル、アミノスルホニルまたはN−一もしくはN,N−二置換アミノスルホニルであり;
Xは2個の水素原子;1個の水素原子およびヒドロキシ;O;または水素および低級アルコキシを意味し;
Zは水素または低級アルキルを表し;
そして波線で特徴付けられた2個の結合は環Aで不在であり、4個の水素原子により置き換えられ、ならびに環Bの2本の波線の各々は各平行の結合と一緒に二重結合を示すか;
または波線で特徴付けられた2個の結合は環Bで不在であり、全部で4個の水素原子により置き換えられ、ならびに環Aの2本の波線の各々は各平行の結合と一緒に二重結合を示すか;
または環Aおよび環Bの双方で4個の波線の結合の全てが不在であり、全部で8個の水素原子により置き換えられているかのいずれかである)
の化合物または少なくとも一つの塩形成基が存在する場合はその塩から選択される請求項3に記載の方法。
【請求項5】
スタウロスポリン誘導体が式I:
【化7】

(式中、
mおよびnは各々0であり;
およびRは互いに独立して水素、
カルボキシ;低級アルコキシカルボニル;およびシアノから互いに独立して選択されるラジカルにより非置換または一もしくは二置換された、特に一置換された低級アルキルであるか;または
は水素もしくは−CHであり、そして
は部分式R−COのアシルであり、式中Rは低級アルキルである;アミノ−低級アルキル、ここでアミノ基は非保護形態で存在するか、または低級アルコキシカルボニルにより保護されている;テトラヒドロピラニルオキシ−低級アルキル;フェニル;イミダゾリル−低級アルコキシフェニル;カルボキシフェニル;低級アルコキシカルボニルフェニル;ハロゲン−低級アルキルフェニル;イミダゾール−1−イルフェニル;ピロリジノ−低級アルキルフェニル;ピペラジノ−低級アルキルフェニル;(4−低級アルキルピペラジノメチル)フェニル;モルホリノ−低級アルキルフェニル;ピペラジノカルボニルフェニル;もしくは(4−低級アルキルピペラジノ)フェニルであるか;
または部分式R−O−CO−のアシルであり、式中、Rは低級アルキルであるか;
または部分式RHN−C(=W)−のアシルであり、式中、Wは酸素であり、そしてRは以下の意味を有する:モルホリノ−低級アルキル、フェニル、低級アルコキシフェニル、カルボキシフェニルもしくは低級アルコキシカルボニルフェニル;
またはRは低級アルキルフェニルスルホニル、典型的には4−トルエンスルホニルであり;
は水素または低級アルキルであり、
Xは2個の水素原子またはOを意味し;
Zはメチルまたは水素である)
のスタウロスポリン誘導体または少なくとも一つの塩形成基が存在する場合、その塩である請求項3に記載の方法。
【請求項6】
スタウロスポリン誘導体が式(VII):
【化8】

のN−[(9S,10R,11R,13R)−2,3,10,11,12,13−ヘキサヒドロ−10−メトキシ−9−メチル−1−オキソ−9,13−エポキシ−1H,9H−ジインドロ[1,2,3−gh:3',2',1'−lm]ピロロ[3,4−j][1,7]ベンゾジアゾニン−11−イル]−N−メチルベンズアミドまたはその塩である請求項3に記載の方法。
【請求項7】
骨髄異形成症候群、リンパ腫および白血病ならびに固形腫瘍を処置するための(a)FLT−3阻害剤および(b)mcl−1アンチセンスオリゴヌクレオチドまたはmcl−1特異的RNAi構築物の組み合わせの使用。
【請求項8】
急性骨髄性白血病(AML)、結腸直腸癌(CRC)または非小細胞肺癌(NSCLC)を処置するための請求項7に記載の使用。
【請求項9】
FLT−3阻害剤が式(VII):
【化9】

のN−[(9S,10R,11R,13R)−2,3,10,11,12,13−ヘキサヒドロ−10−メトキシ−9−メチル−1−オキソ−9,13−エポキシ−1H,9H−ジインドロ[1,2,3−gh:3',2',1'−lm]ピロロ[3,4−j][1,7]ベンゾジアゾニン−11−イル]−N−メチルベンズアミドまたはその塩およびmcl−1アンチセンスオリゴヌクレオチドまたはmcl−1特異的RNAi構築物である請求項7に記載の使用。
【請求項10】
骨髄異形成症候群、リンパ腫および白血病ならびに固形腫瘍の処置のための医薬品の調製のための(a)FLT−3阻害剤および(b)mcl−1アンチセンスオリゴヌクレオチドまたはmcl−1特異的RNAi構築物の組み合わせの使用。
【請求項11】
急性骨髄性白血病(AML)、結腸直腸癌(CRC)または非小細胞肺癌(NSCLC)を処置するための請求項10に記載の使用。
【請求項12】
FLT−3阻害剤が式(VII):
【化10】

のN−[(9S,10R,11R,13R)−2,3,10,11,12,13−ヘキサヒドロ−10−メトキシ−9−メチル−1−オキソ−9,13−エポキシ−1H,9H−ジインドロ[1,2,3−gh:3',2',1'−lm]ピロロ[3,4−j][1,7]ベンゾジアゾニン−11−イル]−N−メチルベンズアミドまたはその塩およびmcl−1アンチセンスオリゴヌクレオチドまたはmcl−1特異的RNAi構築物である請求項10に記載の使用。
【請求項13】
骨髄異形成症候群、リンパ腫および白血病ならびに固形腫瘍の処置のための(a)FLT−3阻害剤および(b)mcl−1アンチセンスオリゴヌクレオチドまたはmcl−1特異的RNAi構築物を含む医薬組成物。
【請求項14】
急性骨髄性白血病(AML)、結腸直腸癌(CRC)または非小細胞肺癌(NSCLC)を処置するための請求項13に記載の医薬組成物。
【請求項15】
FLT−3阻害剤が式(VII):
【化11】

のN−[(9S,10R,11R,13R)−2,3,10,11,12,13−ヘキサヒドロ−10−メトキシ−9−メチル−1−オキソ−9,13−エポキシ−1H,9H−ジインドロ[1,2,3−gh:3',2',1'−lm]ピロロ[3,4−j][1,7]ベンゾジアゾニン−11−イル]−N−メチルベンズアミドまたはその塩およびmcl−1アンチセンスオリゴヌクレオチドまたはmcl−1特異的RNAi構築物である請求項13に記載の医薬組成物。
【請求項16】
配列番号3、配列番号4、配列番号7、配列番号8および配列番号9またはその相補鎖配列から選択されるヌクレオチド配列を含む単離された核酸。
【請求項17】
請求項16に記載の単離された核酸を含むベクター。
【請求項18】
ベクターが発現ベクターである請求項17に記載のベクター。
【請求項19】
請求項16に記載の単離された核酸を含む宿主細胞。
【請求項20】
配列番号7、配列番号8および配列番号9またはその相補鎖配列から選択される配列を含む短鎖ヘアピンRNA(shRNA)。
【請求項21】
配列番号3および配列番号4またはその相補鎖配列から選択される配列を含むアンチセンスオリゴヌクレオチド。

【公表番号】特表2009−541240(P2009−541240A)
【公表日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−515774(P2009−515774)
【出願日】平成19年6月22日(2007.6.22)
【国際出願番号】PCT/EP2007/005517
【国際公開番号】WO2007/147613
【国際公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(597011463)ノバルティス アクチエンゲゼルシャフト (942)
【Fターム(参考)】