説明

スタッドボルト及びスタッドボルトを備えた構造体

【課題】設置が容易で、被取付部材への設置位置がずれた場合においても、容易にスタッドボルトの位置を調整することができるスタッドボルト及びそれを備えた構造体を提供する。
【解決手段】スタッドボルト10は、被取付部材3に設けられた孔3cを介して被取付部材3に配置される。スタッドボルト10は、頭部1aが孔3cより大きく軸部1bが孔3cに挿入されるボルト1と、このボルト1の軸部に嵌合するクリップ2と、を有する。ボルト1の軸部1bには、その先端側から基端側へのクリップ2の挿通を一旦阻止するが、圧入により基端側へクリップ2が乗り越えることを可能とする突出部1dが形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スタッドボルト及びスタッドボルトを備えた構造体に関し、特に、自動車等の輸送機械及び建築物等の構造物において使用され、優れた取り付け作業性を有し、位置調整が容易なスタッドボルト及びスタッドボルトを備えた構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の輸送機械及び建築物等の構造物においては、金属部材等の締結及び部品の取り付けにボルト及びナット等の締結部材が使用されている(例えば、特許文献1及び2)。例えば、図7に示すように、自動車のバンパーステー30において、締結部材としてスタッドボルト10が使用されてスタッドボルトを備えた構造体が構成され、このスタッドボルト10にバンパーを取り付け、例えばナットにより締結する。
【0003】
例えば、自動車等の輸送機械の組み立てライン等においては、多数の部品を組み上げる必要があることから、ボルト及びナット等の締結部材、及びこれらの締結部材を使用した構造体には、良好な取り付け作業性が要求される。しかしながら、例えば、部品同士を所定の位置に合わせた状態で、一方の部品を他方の部品にボルト及びナット等により固定する作業においては、固定される一方の部品を所定の位置に合わせた状態でボルト又はナット等を締結するために、作業者の技能に熟練性を必要とする場合がある。即ち、固定される側の部品に対して位置を合わせた状態で一方の部品を例えば片手で支持し、もう片方の手で締結作業を行う必要があるため、例えば固定する側の部品の重量が大きい場合等において、部品同士の締結作業は困難となる。
【0004】
部品同士の取り付け作業性を向上する技術としては、例えば特許文献1がある。この特許文献1には、一方の部品を他方の部品に取り付けて固定する場合において、取り付けられる側の部品にスタッドボルト及び仮支持用のブラケットを設け、取り付ける側の部品にはスタッドボルト挿通用の孔を備えたブラケットを設け、スタッドボルト及び仮支持用ブラケットによって、取付側の部品を支持した状態で締結作業する取付構造が開示されている。
【0005】
従来、スタッドボルトを部品に設置する場合には、部品の所定の位置に、予めピアスナット等の部材を打ち込んでおき、このピアスナット部分にスタッドボルト端部のネジを締結して、スタッドボルトを部品に取り付け、必要に応じて、スタッドボルトと部品との境界部分を溶接等により接合することが行われている。このピアスナットを設置する対象部品が、例えば断面中空の押出形材である場合には、中空部の内側にピアスナットの打ち込み工具を挿入し、押出形材の内壁に対してピアスナットを打ち込んで設置するため、ピアスナットが所定の厚さ分だけ中空部側に突出することになる。特許文献2には、このような場合において、中空部側に突出したピアスナットが、例えば打ち込み工具自身に引っかかり、押出形材内部における打ち込み工具の進出及び待避が困難となることを防止する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−1271号公報
【特許文献2】特開2008−223877号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前述の従来技術には以下のような問題点がある。特許文献1は、部品同士の組み付け作業性の改善にスタッドボルトを使用するものであるが、上述の如く、スタッドボルトを設置するためには、予め、部品にピアスナット等を打ち込み工具等により固定する必要がある。従って、ピアスナットの位置が工具の取付誤差等により所定の設置位置からずれた場合においては、再度ピアスナットを固定し直す必要がある。特に、断面中空の押出形材においては、打ち込み工具等によりピアスナットを設置すべき位置が隠れてしまい、ピアスナットの設置位置のずれが多数発生してしまう。しかしながら、ピアスナットが一度打ち込まれた部品には、一旦、ピアスナットを打ち込んだ孔が設けられてしまうことから、再度微小な位置調整を行って、ピアスナットの設置をやり直すことは困難である。
【0008】
また、特許文献2の技術は、ピアスナットの打ち込み作業性を改善するものであるが、打ち込み工具を被取付部材の中空部に挿入する必要があることから、例えば被取付部材の中空部の大きさが小さい場合、及びピアスナット等の締結部材の大きさが大きい場合等においては、依然、取り付け作業性が困難となる場合がある。
【0009】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、設置が容易で、被取付部材への設置位置がずれた場合においても、容易にスタッドボルトの位置を調整することができるスタッドボルト及びその構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るスタッドボルトは、被取付部材に設けられた孔を介して前記被取付部材に配置されるスタッドボルトにおいて、頭部が前記孔より大きく軸部が前記孔に挿入されるボルトと、前記軸部に嵌合されるクリップと、を有し、前記軸部には、その先端側から基端側への前記クリップの挿通を一旦阻止するが、圧入により基端側へ前記クリップが乗り越えることを可能とする突出部が形成されていることを特徴とする。
【0011】
上述のスタッドボルトは、例えば、前記軸部を前記孔に挿入した状態で前記クリップを前記軸部の先端側部分に嵌合し、更に前記クリップを前記突出部に圧入することにより、前記クリップと前記頭部との間で前記被取付部材を挟み込むように使用される。
【0012】
また、上述のスタッドボルトにおいて、前記突出部は、前記軸部の先端側から前記頭部方向に徐々に外径が増加する緩斜面を有することが好ましい。
【0013】
上述のスタッドボルトにおいて、前記クリップは、前記孔内に進入する軸筒部と、前記孔より大きなフランジ部と、を有するように構成することができる。この場合、例えば前記クリップは、前記軸筒部の内周面が前記フランジ側に向けて縮径して縦断面がテーパ状に設けられている。
【0014】
本発明に係るスタッドボルトを備えた構造体は、上述のスタッドボルトを被取付部材に設置したスタッドボルトを備えた構造体であって、前記被取付部材の孔に前記軸部を挿入した後、前記クリップを前記突出部に圧入し、前記頭部と前記クリップとの間で被取付部材を挟み込むことにより、前記スタッドボルトが前記孔に遊嵌状態で配置されていることを特徴とする。
【0015】
このスタッドボルトを備えた構造体において、前記被取付部材には、突起又は溝に前記頭部又は前記クリップが嵌合することにより前記ボルト及び/又は前記クリップの回転を阻止する係止部が形成されていることが好ましい。
【0016】
上述のスタッドボルトを備えた構造体において、前記被取付部材を、例えばアルミニウム又はアルミニウム合金の押出形材、鋳物又は異型圧延材で構成することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明のスタッドボルトは、ボルトの軸部にクリップを嵌合し、クリップをボルトの突出部を乗り越えるように頭部側に圧入するだけで被取付部材に取り付けることができ、スタッドボルトの設置が容易である。
【0018】
本発明のスタッドボルトを備えた構造体は、被取付部材の孔にスタッドボルトを遊嵌状態で取り付けているので、その位置調整が容易である。よって、被取付部材とスタッドボルトとの位置合わせが容易である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態に係るスタッドボルトと被取付部材の一例を示す断面図である。
【図2】(a)は本発明のスタッドボルトにおけるボルトを示す側面図、(b)は同じく上面図、(c)は図2(a)のB部拡大図である。
【図3】(a)は本発明のスタッドボルトにおけるクリップを示す側面図、(b)は同じく上面図、(c)は、軸筒部の内周面が軸方向に縮径しているクリップを示す側面図である。
【図4】(a)は本発明のスタッドボルトを備えた構造体の一例を示す斜視図、(b)は図4(a)のA−A断面図である。
【図5】(a)は、本発明の第1実施形態に係るスタッドボルトをもつ構造体において、ボルトの取り付け軌跡を示す図1(a)のC−C断面図、(b)は図5(a)の上面図である。
【図6】本発明の第2実施形態に係るスタッドボルトをもつ構造体を示す断面図である。
【図7】(a),(b)は、従来のスタッドボルトを備えた構造体の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。図1は本発明の実施形態に係るスタッドボルトと被取付部材の一例を示す断面図である。また、図2(a)は本発明のスタッドボルトにおけるボルトを示す側面図、図2(b)は同じくボルトの上面図、図2(c)は図2(a)のB部拡大図、図3(a)は本発明のスタッドボルトにおけるクリップを示す側面図、図3(b)は同じく上面図、図3(c)は軸筒部の内周面が軸方向に縮径しているクリップを示す側面図である。図4(a)は本発明のスタッドボルトを備えた構造体の一例を示す斜視図、図4(b)は図4(a)のA−A断面図である。図5(a)は、本発明の第1実施形態に係るスタッドボルトをもつ構造体において、ボルトの取り付け軌跡を示す図1(a)のC−C断面図、図5(b)は図5(a)の上面図である。
【0021】
本発明のスタッドボルト10は、例えば図4に示すような自動車のバンパーステー30等の被取付部材に配置され、スタッドボルト10をもつ構造体を構成する。図1に示すように、本発明のスタッドボルト10は、ボルト1と、クリップ2とにより構成されている。スタッドボルト10は、被取付部材3に設けられた孔3cを介して被取付部材3に配置されるものである。
【0022】
ボルト1は、例えばS45C等の鋼材及び高張力鋼からなり、用途に適した材質が適宜選択されて構成されている。図2(a)に示すように、ボルト1は、頭部1aと軸部1bとから構成され、軸部1bは頭部1aから所定長の部分が平滑周面の平滑部1cとなっており、頭部1aから平滑部1cだけ離隔した位置に半径方向に突出する突出部1dが設けられている。そして、突出部1dから軸部1bの先端までの部分がスタッドボルトとして必要な長さだけのネジが形成されたネジ部1eとなっている。
【0023】
図2(b)に示すように、ボルト1の頭部1aは、例えば平面視で方形の形状を有しており、後述する被取付部材3に設けられた構造により、回転しないように係止される。
【0024】
図1(a)に示すように、ボルト1の頭部1aを基端とする軸部1bのうち、平滑部1cの長さは、例えば被取付部材3の板厚と同程度に設けられている。また、ネジ部1eの長さは、スタッドボルト10に固定される部品の用途に合わせて、適宜最適の長さで設けられている。
【0025】
突出部1dは、図2(c)に示すように、平滑部1c及びネジ部1eの外径よりも若干大きな径で設けられている。突出部1dには、例えばネジ部1eから突出部1dの最外縁部にかけて、ボルト1の軸方向に徐々に外径が増加するように緩斜面が設けられている。
【0026】
クリップ2は、ボルト1と同様に、例えばS45C等の鋼材及び高張力鋼からなり、用途に適した材質が適宜選択されて構成されている。図3に示すように、クリップ2は、例えば円筒状の軸筒部2aと、その側端部に設けられたフランジ部2bとからなり、軸筒部2aにてボルト1の突出部1dに嵌合される。
【0027】
軸筒部2aの内径は、平滑部1c及びネジ部1eの外径よりも大きく、且つ突出部1dの外径よりも若干小さく設けられ、円筒軸方向に一定である(図3(a))か、又はフランジ部2bに対して逆側の側端部からフランジ部2b側の側端部にかけて縮径して縦断面がテーパ状に設けられている。これにより、クリップ2に対してフランジ部2bの逆側の側端部からボルト1の軸部1cを挿通させると、クリップ2は、突出部1dの位置で一旦挿通を阻止されるが、圧入により、ボルト1の軸部の基端部側へ突出部1dを乗り越える。これにより、クリップ2をボルト1に嵌合させることができる。そして、クリップ2をボルトに嵌合させたときに、例えばフランジ部2bの逆側の軸筒部2aの側端部は、図1に示すように、ボルト1の頭部1aに当接する。
【0028】
フランジ部2bは、図3(b)に示すように、例えば平面視で方形であり、後述する被取付部材3に設けられた構造により、クリップ2が回転しないように係止される。
【0029】
このように、本実施形態のスタッドボルト10は、ボルト1の軸部1bにクリップ2を嵌合し、クリップ2をボルト1の突出部1dを乗り越えるように頭部1a側に圧入するだけで取り付けることができ、スタッドボルト10の設置が容易である。従って、従来のスタッドボルトの設置において必要としていた打ち込み工具及び溶接装置を使用する必要がなく、部品の組み立て作業性を向上させることができる。
【0030】
次に、本実施形態のスタッドボルト10が取り付けられる被取付部材3について説明する。本実施形態においては、被取付部材3は、例えば図1に示すように、角筒状の押出形材から構成されている。図1及び5に示すように、被取付部材3は、ボルト1の軸部1bを挿通する孔3cを備えている。即ち、孔3cにボルト1の軸部1bを挿入し、クリップ2をボルト1の突出部1dに圧入することにより、スタッドボルト10は、クリップ2とボルト1の頭部1aとの間で被取付部材3を挟み込むように使用することができる。孔3cは、例えば断面円形であり、その直径はボルト1の軸部1bの外径よりも大きく、且つボルト1の頭部1aの1辺の長さよりも小さい。また、例えば、クリップ2がボルト1に嵌合した状態で、クリップ2の軸筒部2aがボルト1の頭部1aに当接するように構成されている場合において、孔3cの直径は、図1に示すように、クリップ2の円筒状の軸筒部2aの外径よりも大きい。従って、図1及び図5に示すように、ボルト1の軸部1bを孔3cに挿通し、図1に示すようにクリップ2をボルト1に嵌合させたときに、ボルト1及びクリップ2は、被取付部材3の孔3cに遊嵌された状態となり、一体的にボルト1の軸に垂直な方向に動かすことができる。
【0031】
また、被取付部材3は、その中空部において、孔3cが設けられた内周面に孔3cを挟むように、例えば2本の突起3aが形成されており、被取付部材3の押出方向に沿って相互に平行に延びている。この2本の突起3a間の距離は、例えばボルト1の頭部1aの平面視方形の1辺の長さよりも若干長く、且つ頭部1aの平面視方形の対角線の長さよりも短い。従って、図5(b)に示すように、孔3cにボルト1の軸部を挿通したときに、ボルト1の頭部1aは被取付部材3の2本の突起3a間に嵌まりこんだ状態となり、従って、頭部1aは、若干の回動を除いて自由に回転することができなくなり、自由な回転が阻止される。
【0032】
更に、被取付部材3は、その外面において、例えば図1及び5に示すように、孔3cが中央に位置するように凹状の溝3bが形成されている。この溝3bは、被取付部材3の押出方向に沿って平行に延びており、溝3bの幅は、例えばクリップ2のフランジ部2bの平面視方形の1辺の長さよりも若干大きく、且つフランジ部2bの平面視方形の対角線の長さよりも短い。これにより、フランジ部2bは、溝3bに嵌まりこむと、若干の回動を除いて自由に回転することができなくなり、自由な回転が阻止される。本実施形態において、溝3bの深さは、例えばフランジ部2bの厚さ以上になるように設けられている。
【0033】
次に、本実施形態のスタッドボルト10を被取付部材3に取り付けてスタッドボルトを備えた構造体を構成する工程について説明する。先ず、図5(a)に示すように、被取付部材3の開口部から、ボルト1をその軸部1b側から挿入する。そして、被取付部材3の孔3cに向けてボルト1を傾けた状態で、軸部1b先端を孔3cに近接させる。そして、ボルト1の軸部1bを孔3cに挿入する。被取付部材3の孔3cは、その直径がボルト1の軸部1bよりも大きいため、被取付部材3の孔3cに容易にボルトを挿入することができる。
【0034】
そして、ボルト1の頭部1aが被取付部材3の中空部内面に当接するまでボルト1を孔3cに挿入する。このとき、頭部1aは、被取付部材3内周面の突起3a間に嵌まりこむか、又は突起3aの頂部に当接する。頭部1aが被取付部材3内周面の突起3a間に嵌まりこんだ場合においては、ボルト1が回転しようとすると、頭部1aの側面が突起3aの側面に当接し、ボルト1が回転することを防止することができる。一方、頭部1aが突起3aの頂部に当接している場合においては、ボルト1の回転を防止することができないため、ボルト1を軸方向に押圧しながら軸まわりに回転させる。そして、頭部1aが2つの突起3a間に嵌まりこむ角度となるまで回転させると、頭部1aが押圧され、突起3aの底部に相当する位置まで移動し、頭部1aが2つの突起3a間に嵌まりこんだ状態となり、ボルト1が回転しようとすると、頭部1aの側面が突起3aの側面に当接し、ボルト1が回転することを防止することができる。
【0035】
次に、ボルト1の頭部1aを被取付部材3の中空部の内側から例えば手で支えた状態で、クリップ2を移動させて、クリップ2の軸筒部2aにフランジ部2bの逆側の側端部からボルト1の軸部1bを挿入する。軸筒部2aの内径は、ボルト1の突出部1dから軸部1b先端までの範囲1cの外径よりも大きく設けられているため、ボルト1の軸部1bをクリップ2に円滑に挿入していくことができる。そして、軸筒部2aは軸部1bに沿ってボルト1の突出部1dに近接していき、やがて軸筒部2aの内径よりも大きい外径の突出部1dに接触する。
【0036】
この状態で、クリップ2の矩形状のフランジ部2bが、ボルト1の軸方向から見て(平面視で)被取付部材3の溝3b上に位置するように、フランジ部2bを回転させて調整する。そして、フランジ部2bを回転しないように維持した状態で、ボルト1の軸部1b先端方向からクリップ2を押圧する。
【0037】
上述の如く、突出部1dは、図3(c)に示すように、ボルト1の平滑部1c及びネジ部1eの外径よりも若干大きな径で設けられており、また、突出部1dには、例えばネジ部1eから突出部1dの最外縁部にかけて、ボルト1の軸方向に徐々に外径が増加するように緩斜面が設けられている。また、軸筒部2aの内径は、ボルト1の突出部1dの外径よりも若干小さく設けられ、円筒軸方向に一定であるか、又はフランジ部2bに対して逆側の側端部からフランジ部2b側の側端部にかけてテーパ状に内径が徐々に減少するように設けられている。従って、クリップ2を押圧することにより、軸筒部2aの内周面は、ボルト1の突出部1dを押圧する状態となる。従って、クリップ2は、突出部1dの位置で一旦挿通を阻止されるが、圧入により、突出部1dを乗り越えていく。そして、締まり嵌めの状態で、クリップ2がボルト1の軸に沿って突出部1dを圧入しながら移動していき、やがて、クリップ2は、例えば軸筒部2aの側端部にてボルト1の頭部1aに当接し、ボルト1の頭部1aとクリップ2との間に被取付部材3を挟持した状態で、クリップ2がボルト1に嵌合される。これにより、スタッドボルトをもつ構造体が構成される。
【0038】
次に、本実施形態のスタッドボルトを備えた構造体の使用方法について説明する。先ず、スタッドボルトをもつ構造体に固定する部品(図4のバンパーステー30の例においては、自動車のバンパー)を、所定の固定孔(スタッドボルト10を挿通する孔)の位置にてボルト1の軸部1b先端に近接させ、部品の固定孔にボルト1を挿入する。この際、ボルト1の位置が部品の固定孔の位置と合っている場合には、部品の固定孔にボルト1を円滑に挿入することができる。一方、ボルト1の位置が取付誤差等により部品の固定孔に対してずれているか、又は固定孔の加工公差等により部品の固定孔の位置がボルト1の位置に対してずれている場合には、固定孔へのボルト1の挿入を円滑に行うことができない。本発明のスタッドボルトを備えた構造体は、被取付部材3がボルト1及びクリップ2を遊嵌することができる大きさの孔3cが形成されているため、ボルト1及びクリップ2を一体的にボルト1の軸に垂直な方向に動かすことができる。従って、ボルト1及びクリップ2を一体的に動かせば、部品の固定孔とボルト1の先端の位置とを合わせて、部品をスタッドボルト10に取り付けることができる。
【0039】
本実施形態のスタッドボルトを備えた構造体は、被取付部材3の孔にスタッドボルト10を遊嵌できる大きさの孔3cが形成されている。よって、被取付部材3の孔3cに容易にボルト1を挿入することができる。また、被取付部材3として、例えば断面形状が閉断面である押出形材を使用する場合においても、取り付け工具を中空部に挿入してピアスナットを設置しなくとも、スタッドボルト10を容易に設置することができ、部品の組み立て作業性を向上することができる。また、ボルトとしては、径が大きなものを使用することもでき、設計の自由度が向上する。
【0040】
また、本実施形態においては、被取付部材3に突起3a及び溝3cが形成されており、クリップ2がボルト1に嵌合された状態において、クリップ2のフランジ部2bは、被取付部材3の溝3b間に嵌まりこんだ状態となり、被取付部材3の内部においても、ボルト1の頭部1aは2つの突起3a間に嵌まりこんだ状態となる。即ち、ボルト1がクリップ2と一体的に回転しようとすると、フランジ部2bの側面は溝3bの側面に当接し、ボルト1の頭部1aの側面は突起3aの側面に当接し、これにより、ボルト1及びクリップ2が回転することを防止することができる。従って、スタッドボルト10を使用する際に、スタッドボルト10に部品を固定するにあたり、ナット等の締結を円滑に行うことができる。
【0041】
更に、本実施形態においては、被取付部材3には、例えばクリップ2の円筒状の軸筒部2aの外径よりも大きい孔3cが形成されており、クリップ2をボルト1に嵌合させた状態で、ボルト1とクリップ2とは、一体的に孔3cに遊嵌した状態である。従って、スタッドボルト10を孔3cの大きさの範囲でボルト1の軸に垂直な方向に移動させることができ、これにより、スタッドボルト10の設置位置が被取付部材3の所定の位置からずれた場合においても、スタッドボルト10を容易に動かして、位置の調整を容易に行うことができる。
【0042】
更にまた、溝3bの深さが、例えばフランジ部2bの厚さ以上である場合においては、ボルト1にクリップ2を嵌合させたときに、クリップ2が被取付部材3の最表面から突出することを防止することができる。従って、スタッドボルト10を使用する場合において、スタッドボルトに固定される部品の取り付けをクリップ2が邪魔することを防止することができる。
【0043】
なお、本実施形態においては、ボルト1の頭部1a及びフランジ部2bは、平面視で方形、例えば六角形であるが、ボルト1及びクリップ2の回転を防止することができる範囲において、ボルト1の頭部1a及びクリップ2のフランジ部2bの形状は限定されない。例えば、ボルト1の軸部1bのうち、平滑部1cの長さは、被取付部材3の板厚と同程度でなくてもよく、ボルト1をスタッドボルトとして使用する場合の用途に合わせ、適宜長さを選択することができる。また、ボルト1の平滑部1cには、例えばネジを設けてもよく、平滑部1cの外径を突出部1dの頂部と同一となるように設定し、突出部1dと平滑部1cとを一体的に構成してもよい。即ち、突出部1dにクリップ2を圧入して嵌合させることができる範囲において、軸部1bの形状及び寸法は限定されない。更に、突出部1dを平滑部1cとネジ部1eとの境界部分に設ける必要はなく、ネジ部1eの途中に突出部1dを設けたり、平滑部1cの途中に突出部1dを設けてもよい。更にまた、本実施形態において、クリップ2は軸筒部1aとフランジ部2bとによって構成されているが、クリップ2が少なくともボルト1の突出部1dに嵌合するように構成すれば、クリップ2の形状は限定されない。例えば、クリップ2を板状に構成して溝2b間に嵌まりこむ形状としてもよく、フランジ部2bを有しない形状としてもよい。また、クリップ2をボルト1の突出部1dに嵌合させたときに、クリップ2の側端部をボルト1の頭部1aに当接しない長さに設けてもよい。更にまた、本実施形態において、突出部1dはボルト1の軸方向に徐々に外径が増加するように緩斜面が設けられているが、この緩斜面が設けられている方がクリップ2の嵌合が容易となるが、突出部1dに緩斜面が設けられていなくてもよい。ボルト1の頭部1aについても、平面視で方形でなくてもよく、例えば板状の頭部にスリットを設けた形状とすれば、ボルト1の軸部が若干しなるように構成することができ、スタッドボルト10の位置の調整範囲を若干広げることができる。
【0044】
更にまた、被取付部材3については、角筒状の押出形材から構成されているが、本発明においては、被取付部材3の材質及び形状は特に限定されない。但し、被取付部材3に突起3a及び溝3bが形成されている構成とする場合には、被取付部材3は押出形材、鋳物又は異型圧延材で構成されていることが好ましく、生産性及び強度確保の観点から、特に、押出形材で構成されていることが好ましい。また、被取付部材3の断面形状についても、中空状の閉断面に限らず、本発明の構成を有する範囲において種々の変形が可能である。例えば、図4に示すようなバンパーステー30において、板状の部材を被取付部材3とすることができる。更に、被取付部材3に形成されている突起3a及び溝3bについては、ボルト1及びクリップ2の回転を阻止することができる範囲において、寸法及び設置範囲は特に限定されず、例えばスタッドボルト10の回転を十分に防止できれば、突起3a及び溝3bが形成されていなくてもよい。また、孔3cについては、適宜部品の寸法公差や取り付け公差を加味した大きさの孔3cが形成されていればよく、ボルト1の取り付け作業性を低下させない範囲において、適宜任意に選択することができる。この場合、孔3cの形状は円形に限らず、長円又は矩形等であってもよい。
【0045】
次に、本発明の第2実施形態に係るスタッドボルトをもつ構造体について説明する。図6は、本第2実施形態に係るスタッドボルトをもつ構造体を示す断面図である。図6に示すように、本実施形態においては、被取付部材3の中空部は、その内周面において、突起3aの代わりに溝3dが形成されており、溝3dの中央部分に孔3cが位置している。溝3dの幅は、ボルト1の頭部1aの平面視方形の1辺の長さよりも若干長く、且つ頭部1aの平面視方形の対角線の長さよりも短い。即ち、本実施形態においては、溝3dにボルト1の頭部1aが嵌まり込むことによって、ボルト1の回転を防止する。その他の構成については第1実施形態と同一である。
【0046】
また、本実施形態のスタッドボルトをもつ構造体を組み立てる工程においては、被取付部材3の孔3cにボルト1を挿通させ、ボルト1の頭部1aが被取付部材3の中空部内面に当接するまでボルト1の軸部1bを孔3cに挿入すると、頭部1aは、溝3dに嵌まり込んで溝3d底部に当接するか、又は溝3dの最頂部に相当する被取付部材3の内面に当接する。頭部1aが溝3dに嵌まり込んで溝3d底部に当接している場合においては、ボルト1が回転しようとすると、頭部1aの側面が溝3dの側面に当接し、ボルト1の回転を防止することができる。一方、頭部1aが溝3dの最頂部に相当する被取付部材3の内面に当接している場合においては、ボルト1の回転を防止することができないため、ボルト1を軸方向に押圧しながら軸まわりに回転させる。そして、頭部1aが溝3dに嵌まりこむ角度となるまで回転させると、頭部1aが押圧され、溝3dの底部に当接する位置まで移動し、頭部1aが溝3dに嵌まり込んだ状態となり、ボルト1が回転しようとすると、頭部1aの側面が溝3dの側面に当接し、ボルト1の回転を防止することができる。その他の組み立て工程においては、第1実施形態と同様である。
【0047】
本実施形態においても、第1実施形態と同様に、スタッドボルト10は、ボルト1の軸部1bにクリップ2を嵌合し、クリップ2をボルト1の突出部1dを乗り越えるように頭部1a側に圧入するだけで取り付けることができ、スタッドボルト10の設置が容易である。従って、従来のスタッドボルトの設置において必要としていた打ち込み工具及び溶接装置を使用する必要がなく、部品の組み立て作業性を向上させることができる。
【0048】
また、スタッドボルト10を被取付部材3に取り付けてスタッドボルトを備えた構造体を構成する際には、被取付部材3の孔3cに容易にボルト1を挿入することができ、被取付部材3として、断面形状が閉断面である押出形材を使用する場合においても、取り付け工具を中空部に挿入する必要がない。従って、部品の組み立て作業性を向上することができ、ボルトとしては径が大きなものを使用することができるため、設計の自由度も向上する。
【0049】
更に、本実施形態においても、スタッドボルト10の回転が防止されるため、スタッドボルト10に部品を固定するにあたり、ナット等の締結を円滑に行うことができる。
【0050】
更にまた、スタッドボルト10の設置位置が被取付部材3の所定の位置からずれた場合においても、スタッドボルト10を容易に動かして、位置の調整を容易に行うことができる。
【0051】
なお、本実施形態においても、ボルト1、クリップ2及び被取付部材3については、第1実施形態と同様に、種々の変形が可能である。
【0052】
また、第2実施形態においては、被取付部材3は、その中空部の内周面において、突起3aの代わりに溝3dが形成されているが、本発明においては、被取付部材3にはクリップ2側の溝3bの代わりにフランジ部2bの回転を阻止する突起が形成されていてもよく、ボルト1及びクリップ2の回転を阻止することができる構造であれば、種々の態様において本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0053】
1:ボルト、1a:頭部、1b:軸部、1c:平滑部、1d:突出部、1e:ネジ部、10:スタッドボルト、2:クリップ、2a:軸筒部、2b:フランジ部、3:被取付部材、3b:溝、3c:孔、3d:溝、30:バンパーステー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被取付部材に設けられた孔を介して前記被取付部材に配置されるスタッドボルトにおいて、
頭部が前記孔より大きく軸部が前記孔に挿入されるボルトと、前記軸部に嵌合されるクリップと、を有し、
前記軸部には、その先端側から基端側への前記クリップの挿通を一旦阻止するが、圧入により基端側へ前記クリップが乗り越えることを可能とする突出部が形成されていることを特徴とするスタッドボルト。
【請求項2】
前記軸部を前記孔に挿入した状態で前記クリップを前記軸部の先端側部分に嵌合し、更に前記クリップを前記突出部に圧入することにより、前記クリップと前記頭部との間で前記被取付部材を挟み込むように使用されるものであることを特徴とする請求項1に記載のスタッドボルト。
【請求項3】
前記突出部は、前記軸部の先端側から前記頭部方向に徐々に外径が増加する緩斜面を有することを特徴とする請求項1又は2に記載のスタッドボルト。
【請求項4】
前記クリップは、前記孔内に進入する軸筒部と、前記孔より大きなフランジ部と、を有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のスタッドボルト。
【請求項5】
前記クリップは、前記軸筒部の内周面が前記フランジ側に向けて縮径して縦断面がテーパ状に設けられていることを特徴とする請求項4に記載のスタッドボルト。
【請求項6】
前記請求項1乃至5のいずれか1項に記載のスタッドボルトを被取付部材に設置したスタッドボルトを備えた構造体であって、
前記被取付部材の孔に前記軸部を挿入した後、前記クリップを前記突出部に圧入し、前記頭部と前記クリップとの間で被取付部材を挟み込むことにより、前記スタッドボルトが前記孔に遊嵌状態で配置されていることを特徴とするスタッドボルトを備えた構造体。
【請求項7】
前記被取付部材には、突起又は溝に前記頭部又は前記クリップが嵌合することにより前記ボルト及び/又は前記クリップの回転を阻止する係止部が形成されていることを特徴とする請求項6に記載のスタッドボルトを備えた構造体。
【請求項8】
前記被取付部材は、アルミニウム又はアルミニウム合金の押出形材、鋳物又は異型圧延材であることを特徴とする請求項6又は7に記載のスタッドボルトを備えた構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−43233(P2011−43233A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−193725(P2009−193725)
【出願日】平成21年8月24日(2009.8.24)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】