説明

スチレン−ブタジエン系ラテックスの製造方法

優秀な接着力を有するとともにインク乾燥速度およびラテックスの安定性を同時に向上させるスチレン−ブタジエン系ラテックスの製造方法を提供する。a)スチレン−ブタジエン系重合体のコアラテックスを製造する段階;b)前記コアラテックスの外部にシェル重合物を多重に被覆させる段階;およびc)前記b)段階のシェル製造段階の後に連鎖移動剤を単独に添加してラテックスの最外殻層のゲル含量および分子量を調節する段階;とを含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスチレン−ブタジエン系ラテックスの製造方法に関するものである。より詳しくは、本発明はスチレン−ブタジエン系ラテックスの最外殻層のゲル含量および分子量を調節することによって、コーティング時に初期フィルム形成を向上させてラテックスの接着能力を向上させ、適切なフィルム形成を保持してインク乾燥速度が速くて透気度が高いという特性を有し、ラテックスの機械的、化学的安定性に優れて紙コーティングに最も安定的に適用することができるスチレン−ブタジエン系ラテックスの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般にコーティング紙はクレイ、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム(Al(OH)3)、酸化チタニウム(TiO2)などの無機顔料を紙の上にコーティングして製造するが、前記無機顔料は接着力がないので、カゼイン、澱粉などの天然バインダー(binder)や スチレン−ブタジエン系ラテックス、ポリビニルアルコール、アクリル系ラテックスなどの人造バインダーを接着剤として使うようになる。天然バインダーに比べて物性の調節が容易であり、使用が便利であるという長所によって、現在人造合成バインダーが主に使われており、この中でも価格が低廉で性能の優秀なスチレン−ブタジエン系ラテックスが代表的に使われている。コーティング液の製造時、無機顔料とバインダー以外にも分散剤や増粘剤、不溶化剤などの各種添加剤がともに使われる。しかし、最も大きな比重を占めているものは無機顔料とバインダーであり、均衡のコーティング紙の物性を得るために選択されなければならない。
【0003】
無機顔料のうち、最も頻繁に使われるものはクレイと炭酸カルシウムである。クレイは、板状型の構造であって高い白紙光沢及び印刷光沢が得られるという長所を持っている反面、流動性が劣ってバインダーの要求量が多くなるという短所を持っており、炭酸カルシウムの場合、流動性、接着力、インク受理性、紙の明るさ、不透明性などに有利である反面、カルシウム陽イオンに対するコーティング液の化学的安定性がさらに大きく要求されるという問題点がある。
【0004】
最近、紙の製造速度が漸次速くなることに伴ってコーティング速度を上げることによって、生産性の向上と急増する印刷物の供給に対応しようとする動きもやはり進められている。最近のコーティング速度は1000〜1500m/min程度の速い水準まで至っているが、このようにコーティング速度を上げると、コーティングの時に剪断力がさらに大きくなるため、ラテックスの機械的安定性が最も重要となる。
【0005】
なお、原価節減とともに炭酸カルシウムの性能向上によって段々炭酸カルシウムの使用量が増加されつつあるため、これと同時にラテックスの化学的安定性もまた高い水準で要求されている。
【0006】
ラテックスの安定性は化学的、機械的、熱的安定性とで区別することができ、高い水準の安定性を確保するためには、前記した3つの安定性のすべてが確保されなければならない。
【0007】
紙品質の向上とコーティング紙の製造時に原価節減のために最近バインダーの含量を減少させる傾向が強まって、バインダーの接着力の向上に対する要求が深刻化されている。これと同時に、速い印刷速度によってインク乾燥速度の向上に対する要求も高まっているところ、この2つの物性をともに向上させることのみで最近のコーティング紙製造及び印刷工程に適するコーティング紙が得られる。
【0008】
コーティング紙の接着力はコーティング液に投入されるバインダーが乾燥工程を経てフィルムを形成しながら発現されるものであって、フィルムがよく形成されるほど接着力は増加する。しかしながら、接着力は増加するものの、コーティング層内の気泡が減少するにつれ、インク乾燥速度が低下する結果を生む。従って、接着力とインク乾燥速度はある程度反比例する物性であって、ラテックスのガラス転移温度などの単純な調節ではこの2つの物性をともに向上させることが非常に難しい。
【0009】
従って、本発明者達はスチレン−ブタジエン系ラテックスの接着力とインク乾燥速度、透気度及びラテックス安定性を同時に向上させるために研究した結果、多重コア−シェル構造のうち、シェルの最外殻層のゲル含量及び分子量を調節することによって、前記の目的を達成できるということがわかった。つまり、コアをシェルで被覆するために、重合する過程において連鎖移動剤をシェル製造のための単量体とともに投入して一般的なゲル含量及び分子量調節方法を用いると同時に、これら単量体の投入が終わった後、ある程度の転換率で一定時間に一定量の連鎖移動剤を単独に投入することによって多重シェルの最外殻層のゲル含量及び分子量を調節する場合、紙コーティング用ラテックスの接着力とインク乾燥速度、透気度及びラテックスの安定性を同時に向上させることができるということを発見し、この発見に基づいて本発明を完成するようになった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明はスチレン−ブタジエン系ラテックスを製造することにおいて、優秀な接着力を有するとともにインク乾燥速度およびラテックスの安定性を同時に向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、スチレン−ブタジエン系ラテックスの製造方法において、
a)スチレン−ブタジエン系重合体のコアラテックスを製造する段階;
b)前記コアラテックスの外部にシェル重合物を多重に被覆させる段階;および
c)前記b)段階のシェル製造段階の後に連鎖移動剤を単独に添加してラテックスの最外殻層のゲル含量および分子量を調節する段階;とを含めてなるスチレン−ブタジエン系ラテックスの製造方法を提供する。
【0012】
前記コアラテックスは、スチレン、1,3−ブタジエン、エチレン性不飽和酸単量体、シアン化ビニル系単量体、これらと共重合可能な単量体、および連鎖移動剤とを含めてなるコア組成物を乳化重合して製造される。
【0013】
前記コア組成物は、スチレン35乃至90重量部、1,3−ブタジエン10乃至55重量部、エチレン性不飽和酸単量体1乃至18重量部、シアン化ビニル系単量体0.5乃至15重量部、共重合可能な単量体1乃至25重量部、および連鎖移動剤0.1乃至1.0重量部とを含めてなる。
【0014】
前記シェル重合物は、スチレン、1,3−ブタジエン、エチレン性不飽和酸単量体、シアン化ビニル系単量体、これらと共重合可能な単量体、および連鎖移動剤を含めてなるシェル組成物を乳化重合して製造される。
【0015】
前記シェル重合物は、スチレン30乃至80重量部、1,3−ブタジエン10乃至70重量部、エチレン性不飽和酸単量体0.5乃至18重量部、シアン化ビニル系単量体1.0乃至20重量部、共重合可能な単量体1.0乃至20重量部、および連鎖移動剤0.1乃至5.0重量部とを含めてなる。
【0016】
前記連鎖移動剤は、炭素原子数が7〜16個であるメルカプタンである。前記連鎖移動剤の使用量は0.05〜5.0重量部である。
【0017】
前記エチレン性不飽和酸単量体は、メタクリル酸、アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、フマル酸、およびマレイン酸とからなる群から1種以上選ばれる不飽和カルボン酸;またはイタコン酸モノエチルエステル、フマル酸モノブチルエステル、およびマレイン酸モノブチルエステルとからなる群から1種以上選ばれる1つ以上のカルボキシル基を有する不飽和ポリカルボン酸アルキルエステルである。
【0018】
前記シアン化ビニル系単量体は、アクリロニトリルまたはメタクリロニトリルである。
【0019】
前記共重合可能な単量体は、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、ブチルアクリレート、またはブチルメタクリレートである不飽和カルボン酸アルキルエステル;β−ヒドロキシエチルアクリレート、β−ヒドロキシプロピルアクリレート、またはβ−ヒドロキシエチルメタクリレートである不飽和カルボン酸ヒドロキシアルキルエステル;アクリルアミド、メタクリルアミド、イタコンアミド、またはマレイン酸モノアミドである不飽和カルボン酸アミドまたはその誘導体;およびα−メチルスチレン、ビニルトルエン、またはP−メチルスチレンである芳香族ビニル単量体;とからなる群から1種以上選ばれる。
【0020】
前記最終スチレン−ブタジエン系ラテックスのゲル含量が30〜90%であることを特徴とするスチレン−ブタジエン系ラテックスの製造方法である。
【0021】
前記コアラテックスのガラス転移温度が−10乃至50℃であり、前記シェル重合物のガラス転移温度は−20乃至40℃である。
【0022】
前記a)段階のコアラテックスの平均粒径は40乃至90nmであり、c)段階から製造された最終ラテックスの平均粒径は130乃至260nmである。
【0023】
また、本発明は前記スチレン−ブタジエン系ラテックスの製造方法で製造されるスチレン−ブタジエン系ラテックスを提供する。
【0024】
また、本発明は前記スチレン−ブタジエン系ラテックスの製造方法で製造されるスチレン−ブタジエン系ラテックスを含む紙コーティング液組成物を提供する。
【0025】
また、本発明は前記スチレン−ブタジエン系ラテックスの製造方法で製造されるスチレン−ブタジエン系ラテックスを含む紙コーティング液組成物でコーティング処理されるコーティング紙を提供する。
【0026】
また、本発明はスチレン−ブタジエン系ラテックスにおいて、スチレン−ブタジエン系重合体のコアラテックスにシェル重合物としてスチレン−ブタジエン系重合体が前記コアラテックスの外部に多重で被覆される構造を有するスチレン−ブタジエン系ラテックスを提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明のスチレン−ブタジエン系ラテックスは多重コア−シェル重合段階を含み、さらに詳しくは、本発明は第1段階重合でコア製造段階、及び第2段階重合でコアに他の組成のシェルを多重に被覆して多重コア−シェルを形成させる段階からなり、各工程は乳化重合によってなる。この際、シェルは1つ以上で製造でき、各シェルはガラス転移温度、ゲル含量、分子量などを考えてコア−シェル構造をなすように設計しなければならなく、望ましくは2〜4つが適当である。第3段階は多重シェル重合が終わった後に転換率が60〜95%になる時点で、一定時間連鎖移動剤を単独に一定量を投入する段階であって、ラテックス粒子の最外殻層のゲル含量と分子量を調節するために必ず必要な段階である。この際、投入量は全体投入単量体100重量部に対して0.05〜5.0重量部が好ましい。
【0028】
前記第1段階を介して製造されるコアは最終ラテックスに比べて適切なゲル含量とともに適切な親水度を有することが特徴であり、第2段階重合では適切なガラス転移温度とシートオフセット用である場合は高いゲル含量を、ウェブオフセット用である場合は低いゲル含量を有することが特徴である。
【0029】
本発明によるスチレン−ブタジエン系ラテックスの製造方法を下記にさらに詳細に説明する。
【0030】
第1段階はコアを初期重合する工程であって、前記コアの組成はスチレン35乃至90重量部、1,3−ブタジエン10乃至55重量部、エチレン性不飽和酸単量体1乃至18重量部、及びシアン化ビニル系単量体0.5乃至15重量部、これらと共重合が可能である単量体1乃至25重量部、及び連鎖移動剤(chain transfer agent)0.1乃至1.0重量部を含む。
【0031】
前記スチレンは共重合体に適切な硬度及び耐水性を付与する物質であって、単量体に35重量部未満で含まれる場合、十分な硬度と耐水性を収得できず、90重量部を超過する場合には接着力及びフィルム形成力が低下される。
【0032】
前記1,3−ブタジエンは共重合体に柔軟性を付与する。前記1,3−ブタジエンが10重量部未満である場合には共重合体が非常に硬くなり、55重量部を超過する場合は強直性が低下される。
【0033】
前記エチレン性不飽和酸単量体は共重合体の接着力を向上させ、ラテックス粒子の安定性を改善させるために適切に使われる。前記エチレン性不飽和酸単量体の組成比は1ないし18重量部が望ましく、この量が1重量部未満であれば前記の効果が収得できず、18重量部を超過すれば重合安定性などに問題が生じられる。前記エチレン性不飽和酸単量体は不飽和カルボン酸または1つ以上のカルボキシル基を有する不飽和ポリカルボン酸アルキルエステルが望ましい。
【0034】
前記不飽和カルボン酸はメタクリル酸、アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、フマル酸、及びマレイン酸からなる群から1種以上選ばれるものが望ましく、前記不飽和ポリカルボン酸アルキルエステルはイタコン酸モノエチルエステル、フマル酸モノブチルエステル及びマレイン酸モノブチルエステルからなる群から1種以上選ばれるものが望ましい。
【0035】
前記シアン化ビニル系単量体は印刷光沢を向上させ、その含量は3乃至10重量部が望ましい。またはシアン化ビニル系単量体はエチレン性不飽和酸単量体とともに高い親水度を有するため、望ましい含量内で調節して重合段階別親水度を調節するのが望ましい。前記シアン化ビニル系単量体はアクリロニトリルまたはメタクリロニトリルが望ましい。
【0036】
前記共重合が可能である単量体は、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレートなどのような不飽和カルボン酸アルキルエステル;β−ヒドロキシエチルアクリレート、β−ヒドロキシプロピルアクリレート、及びβ−ヒドロキシエチルメタクリレートのような不飽和カルボン酸ヒドロキシアルカルエステル;アクリルアミド、メタクリルアミド、イタコンアミド、マレイン酸モノアミドのような不飽和カルボン酸アミド及びその誘導体;及びα−メチルスチレン、ビニルトルエン、P−メチルスチレンのような芳香族ビニル単量体からなる群から選ばれる1種以上選ばれるものが望ましい。前記不飽和カルボン酸アルキルエステルは共重合体に適当な硬度を付与しフィルム形成力を向上させ、含量が25重量部を超過すれば耐水性に良くない影響をもたらすため、3乃至15重量部であるものがさらに望ましい。なお、前記不飽和カルボン酸アミド及びその誘導体は共重合体ラテックスの化学的安定性、機械的安定性及び耐水性を改善する効果を有して含量は1乃至10重量部がさらに望ましい。
【0037】
本発明において使われる連鎖移動剤は炭素原子数7〜16個のメルカプタンからなる群から選ばれるものが望ましく、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタンが選ばれるものがさらに望ましい。
【0038】
本発明のコア製造は前記コア組成物に一般の重合開始剤、乳化剤、電解質などの添加剤の添加下において通常の乳化重合反応で行う。
【0039】
本発明のラテックスコアはゲル含量が80重量%以下になるものが望ましく、特に40乃至70重量%である。コアのゲル含量が80重量%を超過する場合にはコア製造段階以後の第2段階以上の重合において構造調節が難しくなって多重コア−シェル構造を形成し難い。
【0040】
本発明のラテックス製造段階中、第2段階は前記第1段階から製造されたコアラテックスの上にシェルを被覆する段階である。シェル組成物はスチレン30乃至80重量部、1,3−ブタジエン10乃至70重量部、エチレン性不飽和酸単量体0.5乃至18重量部、連鎖移動剤0.1乃至5.0重量部を含む。また、シアン化ビニル系単量体1.0乃至20重量部、及び他の単量体と重合可能なその他の単量体1.0ないし20重量部とを含むことができる。
【0041】
本発明の第2段階から製造された多重シェルはゲル含量が30乃至90重量%になるものが望ましく、シートオフセット用である場合は60乃至85重量%、ウェブオフセット用である場合は40乃至60重量%であるものがさらに望ましい。シートオフセット用である場合、第2段階から製造されたシェルの前記ゲル含量が60重量%未満である場合は接着力、インク乾燥速度とラテックスの安定性が低下され、85重量%以上である場合も接着力を確保することは難しい。なお、ウェブオフセット用の場合、第2段階から製造されたシェルの前記ゲル含量が20重量%未満である場合は接着力とラテックスの安定性が低下され、ゲル含量が70重量%を超過すれば耐ブリスターの特性が低下される。
【0042】
本発明のラテックス製造段階の中の第2段階である多重コア−シェルは前段階において単量体の高分子への転換率が55乃至95%の水準であるとき、新しい単量体混合物を投入して重合することによって製造する。前段階の高分子への転換率が55%未満であれば前段階の単量体と次の段階のシェルの単量体が混在されて構造がはっきり分離されないため、効果的な多重コア−シェル構造が得られ難い。
【0043】
前記2段階において使われるそれぞれの単量体は1段階のコア製造段階で使われる原料と同一なものを使用する。
【0044】
本発明のラテックスの製造段階は、最終シェル重合のための単量体が投入され、多重シェル重合段階が終わった後に一定時間に一定量の連鎖移動剤を単独に投入する段階を含み、この段階は最終ラテックスのゲル含量及び分子量の調節のために最も重要な段階である。最終シェル重合のための単量体の投入が終わった後、転換率は60乃至95%が適当であり、転換率60%未満または95%以上では投入した連鎖移動剤を介した最外殻層のゲル含量及び分子量の調節効果を発揮することは難しい。投入時間は最終シェル重合のための単量体の投入が終わった直後から2時間が望ましく、さらに望ましくは投入が終わった直後から1時間が良い。前記連鎖移動剤の投入量は0.05乃至5.0重量部が望ましく、さらに望ましくは0.1乃至1.0重量部である。
【0045】
また、本発明のラテックスは製造過程中、多重シェルを重合する第2段階で各シェルの厚さとガラス転移温度を適合に製造することが重要である。各シェルの厚さはコアの含量及び単量体の含量を調節することによって制御でき、これを適切に制御しなければ望ましい構造のラテックスが得られない。なお、各工程におけるガラス転移温度、ゲル含量、分子量を適切に制御することによって、接着力、インク乾燥速度、ラテックスの安定性などの物性を効果的に調節することができる。
【0046】
本発明のラテックスの製造工程中の適合である厚さは、第1段階のコア重合後平均粒径が40乃至90nmが望ましく、最終シェル重合後の適合である平均粒径は110乃至260nmが望ましい。
【0047】
また、本発明のラテックスの製造過程中の適合であるガラス転移温度は、第1段階のシートのガラス転移温度は−10乃至50℃が望ましく、多重シェルのガラス転移温度は−20乃至40℃が望ましい。前記提示されたガラス転移温度の範囲を超える場合−20℃以下では光沢などの物性に合わせることができず、40℃超過時には接着力などの物性に合わせないため、提示された温度内のみでこのような物性を満たすことができる。
【0048】
本発明のスチレン−ブタジエン系ラテックスは、有無機顔料、増粘剤、その他添加剤と混合して水性コーティング液を製造することができ、前記コーティング液をコーティング紙にコーティングすることによってコーティング紙を製造することができる。前記無機顔料は一般の酸化チタン、炭酸カルシウム、クレイなどの顔料及びエキステンダー(pigment extender)などであり、ラテックスの含有量は水性コーティング液の固形粉100重量部に対して5乃至20重量部が望ましい。
【0049】
以下、下記の実施例を通じて本発明をより詳しく説明するが、本発明の範囲が実施例に限られるものではない。
【0050】
<実施例1乃至9>
本発明のスチレン−ブタジエン系ラテックスを下記のように3段階で製造した。
【0051】
第1段階:コア製造段階
撹拌機、温度計、冷却機、窒素ガスの引込口が設けられており、単量体、乳化剤及び重合反応の開始剤を連続的に投入することができるように装置された10L加圧反応器を窒素で置換した後、ブタジエン33重量部、スチレン49重量部、メチルメタクリレート8重量部、アクリロニトリル5重量部、イタコン酸5重量部、ドデシルジベンゼンスルホン酸ナトリウム6重量部、t−ドデシルメルカプタン0.3重量部、重炭酸ナトリウム0.4重量部、イオン交換水420重量部を入れた後、60℃まで昇温した。ここに、重合開始剤である過硫酸カリウムを0.8重量部を入れ、約300分間撹拌してシードの重合を完了させた。
【0052】
前記コアはレーザー分散分析器(Laser Scattering Analyzer, Nicomp)で測定した結果、平均粒径は68nmであり、ゲル含量は53%、転換率は97%であった。
【0053】
第2段階:多重シェル製造段階
前記第1段階から得られたコアにシェルを被覆させるために、反応器にコアラテックス8重量部とイオン交換水30重量部を改めて満たし、80℃まで昇温した後、適切な組成のシェル組成物、即ちスチレン50重量部、1,3−ブタジエン30重量部、エチレン性不飽和酸単量体10重量部、連鎖移動剤3重量部、シアン化ビニル系単量体11重量部、及び他の単量体と重合可能であるその他の単量体100重量部を含めてなるシェル組成物を投入して乳化重合を介して製造し、実施例1〜2はシェルの個数2つで、実施例3〜9はシェルの個数3つで製造した。この際、投入されたシェル組成物の単量体の合は100であり、成分が全部投入された後の転換率は70乃至90%であった。
【0054】
【表1】

【0055】
第3段階:最外殻層のゲル含量及び分子量の調節段階
第2段階から得られたラテックスに連鎖移動剤を単独に投入して最外殻層のゲル含量及び分子量を調節するために第2段階の成分が満たされている反応器の温度を80℃に保持させた後、前記表1の第3段階の成分を30分間連続投入して重合する。
【0056】
また、実施例6〜9は第2段階で2番目のシェル製造の後、30分間前記表1の成分を単独に投入した後、3番目のシェルを製造し、この後第3段階を進めた。
【0057】
前記成分が全部投入された後、90℃まで昇温して反応を促進させながら、100分間追加撹拌して重合を完了した。重合が完了されたラテックスの転換率は98乃至100%であって、平均粒径は180nmで測定された。
【0058】
<比較例1>
実施例1〜2の第1、2段階と同一の方法でシェルの個数が2つであるコア−シェルラテックスを製造し、最終ゲル含量を実施例のような程度に合わせるために第3段階がない代わりに第2段階のシェル製造のときに連鎖移動剤の量を調節した。
【0059】
<比較例2>
実施例3〜5の第1、2段階と同一の方法でシェルの個数が3つであるコア−シェルラテックスを製造し、比較例1と同様に最終ゲル含量を実施例のような程度に合わせるために第2段階のシェル製造のときに連鎖移動剤の量を調節した。
【0060】
<比較例3乃至6>
実施例6〜9の第1、2段階と同一の方法でシェルの個数が3つであるコア−シェルラテックスを製造し、この際実施例6〜9と同様に2番目シェルの製造後、単独に連鎖移動剤を下記表2のように30分間投入した後、3番目シェルを製造した。やはり、最終ゲル含量を実施例のような程度に合わせるために第2段階のシェル製造のときに連鎖移動剤の量を調節した。
【0061】
【表2】

【0062】
<試験例1>
ラテックスの機械的安定性を測定するためにラテックスを単独にマローンテスター(Maron tester)を使って測定し、化学的、機械的安定性を同時に測定するためにラテックスと人造顔料を混合したコーティング組成物(下記試験例2参照)を製造した後、マローンテスター(Maron tester)を使って測定した。安定性の測定実験の結果はマローンテスター(Maron tester)の完了後、ラテックス及びコーティング組成物を325meshでろ過して凝固物をppm単位で測定した。
【0063】
【表3】

【0064】
ラテックスのマローンテストを実施した場合、ラテックス自体の機械的安定性を測定することができる。外部の強い力によってラテックスの安定性が破壊されればこれらが凝集して凝固物として示されるため、凝固物の含量が少ないほど機械的安定性に優れ、前記表3からわかるように、実施例が比較例に比べて優秀な機械的安定性を有することがわかる。また、コーティング組成物をマローンテスターで測定した場合、コーティング組成物内のカルシウムイオンの作用によって機械的安定性のみならず化学的安定性まで作用するようになり、このような場合もやはり実施例が比較例に比べて優秀な安定性を有するようになる。
【0065】
<試験例2>
実施例及び比較例のラテックスを比較、評価するために、固形粉を基準として基準クレイ(1級)30重量部、炭酸カルシウム70重量部、ラテックス12重量部、増粘剤0.8重量部、その他の添加剤1.2重量部で固形粉64重量%の紙コーティング液を製造した。製造された紙コーティング液はロッド受動両面コーティング(Rod Coating, No7)でコーティング紙の両面を各15g/mコーティングした後、105℃で30秒間乾燥させた後、スーパーカレンダーに80℃で40kg/cm下で2回通過(通過速度:4m/min)させてコーティング紙を製造した。
【0066】
前記から製造したコーティング紙の物性で接着力、インク乾燥速度及び透気度を測定した。測定方法は下記に示し、結果は表4に記載した。
【0067】
接着力はコーティング紙をRI印刷機で数回にかけて印刷した後、切り取りの程度を肉眼で判定して5点法で評価した。点数が高いほど接着力が良好であることを示し、テックバリュー12、14、16のインクをそれぞれ使用して測定した後、平均値を求めた。
【0068】
インク乾燥速度はコーティング紙をRI印刷機において印刷した後、時間に応じてインクが染み出る程度を5点法で測定した。点数が高いほどインク簡素速度が速いということを意味する。
【0069】
透気度はOKENポロシメーター(porosimeter)測定装置でコーティング紙の多様な部分を測定して平均値を求め、寸法は単位体積の空気がコーティング紙を通過するにかかる時間を意味する。寸法が小さいほど空気通過が早いことを意味し、それほどコーティング層の透気度が良好であることを示す。単位は秒(second)である。
【0070】
【表4】

【0071】
前記表4のように、コーティング液及びコーティング紙の物性と印刷物性を測定した結果、実施例1〜2の2重コア−シェル構造のラテックスが2重シェル製造の後、連鎖移動剤の投入のない比較例1に比べて接着力が優秀でインク乾燥速度及び透気度特性に優れ、同様にシェルの製造後の連鎖移動剤を単独に投入して最外殻層のゲル含量と分子量を調節した実施例3〜5の3重コア−シェル構造のラテックスが比較例2の3重コア−シェル構造ラテックスに比べて優れる接着力と非常に優秀なインク乾燥速度及び透気度の特性を現す結果を得ることができた。
【0072】
3重シェルを被覆する過程で、2番目シェルを被覆した後、連鎖移動剤を単独に投入してシェル製造の途中にゲル含量と分子量を調節した比較例3〜6の場合、比較例2に比べてインク乾燥速度と透気度は多少向上されるが、全般にあまり優秀な物性は得られなく、実施例6〜9の場合のように、最後の3番目シェルの製造後、連鎖移動剤を単独に投入して最外殻層のゲル含量及び分子量を調節した場合に優秀な接着力とインク乾燥速度及び透気度が得られた。
【0073】
産業上利用可能性
本発明によるスチレン−ブタジエン系ラテックスは最外殻層のゲル含量及び分子量を調節することによって、コーティング時に初期フィルム形成を速くしてラテックスの接着能力に優れ、適切なフィルム形成を保持してインク乾燥速度が速く、透気度が高いという特性を有し、ラテックスの機械的、化学的安定性に優れて紙コーティングに最も安定的に適用することができる。
【0074】
前記の本発明は記載された具体例を中心に詳細に説明したが、本発明の範疇及び技術思想範囲内で多様な変形及び修正が可能であることは当業者にとって明らかなものであり、このような変形及び修正が添付された特許請求範囲に属することも当然である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン−ブタジエン系ラテックスの製造方法において、
a)スチレン−ブタジエン系重合体のコアラテックスを製造する段階;
b)前記コアラテックスの外部にシェル重合物を多重に被覆させる段階;および
c)前記b)段階のシェル製造段階の後に連鎖移動剤を単独に添加してラテックスの最外殻層のゲル含量および分子量を調節する段階;
とを含めてなることを特徴とするスチレン−ブタジエン系ラテックスの製造方法。
【請求項2】
前記コアラテックスは、スチレン、1,3−ブタジエン、エチレン性不飽和酸単量体、シアン化ビニル系単量体、これらと共重合可能な単量体、および連鎖移動剤とを含めてなるコア組成物を乳化重合して製造されることを特徴とする請求項1に記載のスチレン−ブタジエン系ラテックスの製造方法。
【請求項3】
前記コア組成物は、スチレン35乃至90重量部、1,3−ブタジエン10乃至55重量部、エチレン性不飽和酸単量体1乃至18重量部、シアン化ビニル系単量体0.5乃至15重量部、共重合可能な単量体1乃至25重量部、および連鎖移動剤0.1乃至1.0重量部とを含めてなることを特徴とする請求項2に記載のスチレン−ブタジエン系ラテックスの製造方法。
【請求項4】
前記シェル重合物は、スチレン、1,3−ブタジエン、エチレン性不飽和酸単量体、シアン化ビニル系単量体、これらと共重合可能な単量体、および連鎖移動剤を含めてなるシェル組成物を乳化重合して製造されることを特徴とする請求項1に記載のスチレン−ブタジエン系ラテックスの製造方法。
【請求項5】
前記シェル重合物は、スチレン30乃至80重量部、1,3−ブタジエン10乃至70重量部、エチレン性不飽和酸単量体0.5乃至18重量部、シアン化ビニル系単量体1.0乃至20重量部、共重合可能な単量体1.0乃至20重量部、および連鎖移動剤0.1乃至5.0重量部とを含めてなることを特徴とする請求項4に記載のスチレン−ブタジエン系ラテックスの製造方法。
【請求項6】
前記連鎖移動剤は、炭素原子数が7〜16個であるメルカプタンであることを特徴とする請求項1に記載のスチレン−ブタジエン系ラテックスの製造方法。
【請求項7】
前記連鎖移動剤の使用量は、0.05〜5.0重量部であることを特徴とする請求項1に記載のスチレン−ブタジエン系ラテックスの製造方法。
【請求項8】
前記エチレン性不飽和酸単量体は、
メタクリル酸、アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、フマル酸、およびマレイン酸からなる群から選ばれる1種以上の不飽和カルボン酸;または
イタコン酸モノエチルエステル、フマル酸モノブチルエステル、およびマレイン酸モノブチルエステルからなる群から選ばれる1つ以上のカルボキシル基を有する1種以上の不飽和ポリカルボン酸アルキルエステル;
であることを特徴とする請求項2または4に記載のスチレン−ブタジエン系ラテックスの製造方法。
【請求項9】
前記シアン化ビニル系単量体は、アクリロニトリルまたはメタクリロニトリルであることを特徴とする請求項2または4に記載のスチレン−ブタジエン系ラテックスの製造方法。
【請求項10】
前記共重合可能な単量体は、
メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、ブチルアクリレート、またはブチルメタクリレートである不飽和カルボン酸アルキルエステル;
β−ヒドロキシエチルアクリレート、β−ヒドロキシプロピルアクリレート、またはβ−ヒドロキシエチルメタクリレートである不飽和カルボン酸ヒドロキシアルキルエステル;
アクリルアミド、メタクリルアミド、イタコンアミド、またはマレイン酸モノアミドである不飽和カルボン酸アミドまたはその誘導体;および
α−メチルスチレン、ビニルトルエン、またはP−メチルスチレンである芳香族ビニル単量体;
からなる群から選ばれる1種以上の化合物であることを特徴とする請求項2または4に記載のスチレン−ブタジエン系ラテックスの製造方法。
【請求項11】
前記最終スチレン−ブタジエン系ラテックスのゲル含量が30〜90%であることを特徴とする請求項1に記載のスチレン−ブタジエン系ラテックスの製造方法。
【請求項12】
前記コアラテックスのガラス転移温度が−10乃至50℃であり、前記シェル重合物のガラス転移温度は−20乃至40℃であることを特徴とする請求項1に記載のスチレン−ブタジエン系ラテックスの製造方法。
【請求項13】
前記a)段階のコアラテックスの平均粒径は40乃至90nmであり、c)段階から製造された最終ラテックスの平均粒径は130乃至260nmであることを特徴とする請求項1に記載のスチレン−ブタジエン系ラテックスの製造方法。
【請求項14】
請求項1乃至請求項13のいずれか1項に記載の方法で製造されるスチレン−ブタジエン系ラテックス。
【請求項15】
請求項1乃至請求項13のいずれか1項に記載の方法で製造されるスチレン−ブタジエン系ラテックスを含む紙コーティング液組成物。
【請求項16】
請求項1乃至請求項13のいずれか1項に記載の方法で製造されるスチレン−ブタジエン系ラテックスを含む紙コーティング液組成物でコーティング処理されたコーティング紙。
【請求項17】
スチレン−ブタジエン系重合体のコアラテックスの外部に、シェル重合物として、多重層のスチレン−ブタジエン系重合体が被覆される構造を有することを特徴とするスチレン−ブタジエン系ラテックス。

【公表番号】特表2006−526681(P2006−526681A)
【公表日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−508517(P2006−508517)
【出願日】平成16年2月12日(2004.2.12)
【国際出願番号】PCT/KR2004/000279
【国際公開番号】WO2005/105898
【国際公開日】平成17年11月10日(2005.11.10)
【出願人】(500239823)エルジー・ケム・リミテッド  (1,221)
【Fターム(参考)】