説明

ステントの製造方法

【課題】薬剤などの放出量、放出速度及び放出部位を、精密に制御し得るステントが形成できると共に、比較的簡単に、縮径状態時における外径の小径化を図ることができるステントの製造方法を提供すること。
【解決手段】先ず、柱状をなす芯材3の外表面に、網目構造に対応する溝31を形成する。そして、溝31の一部を埋めるように、金属を主材料とする第1の層41を形成する。第1の層41の外表面に第2の層42を形成する。次に、芯材3の外表面の溝31以外の部分に形成された第1の層41及び第2の層42の部分を除去することにより、第1の層41及び第2の層42を前記網目構造をなすものとする。次いで、第1の層41及び第2の層42上に、金属を主材料する第3の層43を形成する。その後、芯材3及び第2の層42を除去して、第1の層41及び第3の層43により中空線状部を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用のステント、特に、血管などの管状器官に挿入・留置して使用されるステントの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、生体の管状器官(例えば、血管、気管、食道、胆管など)の内腔部に挿入・留置し、管状器官を内側から支持するためのステントが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
このようなステントは、通常、全体として円筒形状をなしていると共に、網目構造を有している。そして、このようなステントは、前記網目構造を構成する複数の線状部によって画成された開口部を縮めて縮径状態として管状器官の内腔部に導入され、内腔部を移動させた後、留置部位において、前記開口部を広げて拡径状態とすることにより固定(装着)される。
【0004】
このようなステントの製造に際して、例えば、特許文献1では、棒状の電極の外周に、メッキを施してメッキ層を形成し、切削加工やレーザ加工などの加工装置により、このメッキ層に開口部を形成することにより前記メッキ層を網目構造をなすものとした後に、前記電極を除去することにより、ステントを得る。
【0005】
一方、ステントを利用した治療方法の一つとして、ステントに薬剤を担持させ、このステントを管状器官の治療部位に装着し、薬剤を放出させることによって、局所的な薬理学的治療を行うことが考えられている(例えば、特許文献2参照。)。
【0006】
例えば、特許文献2では、ステント本体に、薬剤を含浸させるためのポリマーを被覆させている。この種のステントでは、ステントが管状器官の内腔部に装着されると、ポリマーに含浸させた薬剤が徐々に体液中に放出され、その治療効果が一定期間持続する。
【0007】
【特許文献1】特開2003−102847号公報
【特許文献2】特開2002−345972号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ステントの縮径状態時においては、ステントの縮径状態時における外径を十分に小さくするために、前記開口部の大きさをできるだけ小さくすることが望ましい。
【0009】
しかしながら、特許文献1にかかる方法では、メッキ層の加工に用いる工具(刃具)の大きさに前記開口部の形状が依存してしまうため、メッキ層に極めて小さい開口部を形成することが難しい。その結果、ステントの縮径状態時に前記線状部間に生じる隙間も大きくなってしまうため、前記開口部を十分に縮めることができずに、ステントの縮径状態における外径を十分に小さくすることが難しい。
【0010】
一方、特許文献2にかかるステントでは、ポリマーからの薬剤の放出は、ポリマーに含浸させた薬剤が体液に拡散することによって生じるものであり、その放出箇所を微少部分に限定したり、薬剤の放出量や放出速度を精密に制御するのが難しい。このため、このポリマーを使用したステントでは、十分な治療効果が得られないといった問題がある。
【0011】
そこで、本発明は、上記問題点を解決するものであり、その目的は、薬剤などの放出量、放出速度及び放出部位を、精密に制御し得るステントが形成できると共に、比較的簡単に、縮径状態時における外径の小径化を図ることができるステントの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記問題点を解決するために、本発明のステントの製造方法は、生体の管状器官の内腔部に挿入・留置して使用されるステントの製造方法であって、
全体として筒状をなし、網目構造を構成する中空線状部を有する金属成形体を製造するときに、
筒状又は柱状をなす芯材の外表面に、前記網目構造に対応する溝を形成する第1の工程と、
前記芯材の外表面に、前記溝の一部を埋めるように、金属を主材料として構成された第1の層を、前記溝の深さよりも小さい厚さで形成する第2の工程と、
前記第1の層の外表面に、第2の層を形成する第3の工程と、
前記芯材の外表面の前記溝以外の部分に形成された前記第1の層及び前記第2の層を除去することにより、前記第1の層及び前記第2の層を前記網目構造をなすものとする第4の工程と、
前記第1の層及び前記第2の層上に、金属を主材料として構成された第3の層を形成する第5の工程と、
前記第2の層を除去して、前記第1の層及び前記第3の層により前記中空線状部を形成すると共に、前記芯材を除去する第6の工程とを有することを特徴とする。この発明によれば、芯材に形成された溝に対応した形状でステントを得ることができるため、加工に用いる工具(刃具)の大きさに依存せずに、網目構造の開口部を極めて小さくできる。その結果、比較的簡単に、縮径状態時における外径を十分に小さくできる。
【0013】
又、この発明によれば、ステントに中空部が形成されているので、ストラットの使用に必要な機械的強度を保持しながら、ストラットの軽量化が図られる。
【0014】
又、ストラットを構成する材料を変更しなくても、中空部の大きさ、形状、位置などを変更することで、ストラットの弾性や曲げ易さなどを変更できる。
【0015】
又、ストラットは、ステントの使用状態時に、前記中空部内に充填物が充填されていると、その充填物を前記小孔からステントの外部へ徐々に放出するようになっていることができる。そして、小孔の大きさ、数、位置などに応じて、充填物の放出量、放出速度、及び放出部位を調整できる。従って、薬剤などの充填物の放出量、放出速度及び放出部位を、精密に制御可能なステントを形成できる。
【0016】
本発明において、前記第6の工程では、前記第2の層を除去して、前記第1の層及び前記第3の層により前記中空線状部を形成するのとほぼ同時期に、前記芯材を除去することが望ましい。この発明によれば、ステントの製造工程を簡略化できる。
【0017】
本発明において、前記第6の工程では、前記芯材を除去した後に、前記第2の層を除去して、前記第1の層及び前記第3の層により前記中空線状部を形成することが望ましい。この発明によれば、芯材の構成材料と第2の層の構成材料とに応じて、芯材の除去方法と第2の層の除去方法とを適宜選択することができる。
【0018】
本発明において、前記第6の工程では、前記第2の層を除去して、前記第1の層及び前記第3の層により前記中空線状部を形成した後に、前記芯材を除去することが望ましい。この発明によれば、芯材の構成材料と第2の層の構成材料とに応じて、芯材の除去方法と第2の層の除去方法とを適宜選択することができる。
【0019】
本発明において、前記第1の工程では、前記溝の横断面形状が角部を有することが望ましい。この発明によれば、比較的簡単に、芯材に溝を形成できる。
【0020】
本発明において、前記角部が丸みを帯びていることが望ましい。この発明によれば、別工程で加工を施すことなく、得られるステントの縁部が丸みを帯びるようにできる。
【0021】
本発明において、前記第1の層を構成する金属と前記第3の層を構成する金属とは、同種であることが望ましい。この発明によれば、比較的簡単な方法で、第1の層と第2の層とを強固に接合できる。
【0022】
本発明において、前記第5の工程後に、前記第1の層及び前記第3の層に熱処理を施すことにより、少なくとも前記第1の層と前記第3の層とを拡散接合させる接合工程を有することが望ましい。この発明によれば、より確実に、第1の層と第2の層とを強固に接合できる。
【0023】
本発明において、前記第5の工程では、前記第1の層及び前記第2の層を電極として用いて、前記第3の層を電解メッキにより形成することが望ましい。この発明によれば、ステントの製造工程を簡略化できる。
【0024】
本発明において、前記第5の工程の後に、前記第1の層及び前記第3の層のうちの少なくとも一方に、前記第1の層と前記第3の層とで画成された空間に通ずる貫通孔を形成する孔形成工程を有することが望ましい。この発明によれば、小孔の大きさ、数、位置などを比較的容易に調整できる。その結果、充填物の放出量、放出速度、及び放出部位の調整が簡単となる。
【0025】
本発明において、前記第6の工程の後に、前記中空部内に充填物を充填することが望ましい。この発明によれば、ステントの使用状態時には、中空部に収容された薬剤などの充填物が小孔からステントの外部へ放出されるので、小孔の大きさ、数、位置などに応じて、充填物の放出量、放出速度、及び放出部位を調整できる。従って、薬剤などの充填物の放出量、放出速度及び放出部位を、精密に制御可能なステントを形成できる。
【0026】
本発明において、前記充填物は、薬剤、細胞、及び生物由来物質のうちの少なくとも1つを含むものであることが望ましい。この発明によれば、より安全性の高い治療を行える。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、薬剤などの放出量、放出速度及び放出部位を、精密に制御し得るステントが形成できると共に、比較的簡単に、縮径状態時における外径の小径化を図ることができるステントを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、添付図面を参照して本発明に係るステントの製造方法の実施形態について詳細に説明する。
【0029】
先ず、本発明のステントの製造方法の説明に先立ち、かかる製造方法によって得られるステントを説明する。
【0030】
図1において、ステント1は、生体の管状器官の内腔部に挿入・留置して使用されるものであり、全体形状がほぼ筒状をなしている。
【0031】
このようなステント1は、ステント1の外径を収縮(縮径)させた状態(以下、「縮径状態」と称す。)で、管状器官の内腔部の目的部位まで移送(搬送)される。そして、この目的部位において、ステント1自体の復元力により、又は外力を付与することにより、ステント1の外径が、縮径状態の外径より大きくなるように拡大(拡径)し、この状態(以下、「拡径状態」と称す。)で目的部位に固定(装着)される。
【0032】
ステント1は、平板状の線状部11を複数連結して構成したような網状構造を有している。そして、複数の線状部(ストラット)11で囲まれる部分に開口10が形成されている。この開口10が線状部11の撓みに伴って縮んで、ステント1を縮径状態とする。
【0033】
線状部11同士は、交点111にて180°未満の角度で互いに連結され、これにより、各開口10は、多角形形状(この実施形態では、4つの線状部11で囲まれることにより菱形形状)をなしている。この構成により、ステント1は、十分な剛性や強度を確保しながら、径方向の柔軟性に優れたものとなる。又、十分な剛性や強度を確保できることから、ステント1は、放射支持力に優れたものとなる。
【0034】
ここで、本明細書中、「径方向の柔軟性」とは、図2(a)中の矢印方向、すなわち、中心軸から外側に向かう方向における柔軟性のことを言う。又、「放射支持力」とは、拡径状態において管状器官の形状を保持する力のことを言う。
【0035】
ここで、本明細書中、「軸方向の柔軟性」とは、図1中の矢印方向への柔軟性(撓み易さ、すなわち可撓性)のことを言う。
【0036】
線状部11の平均横断面積は、ステント1の構成材料などによっても若干異なるが、1×10-5mm2以上0.1mm2以下の範囲であることが望ましく、1×10-4mm2以上0.01mm2以下の範囲であることがより望ましい。線状部11の横断面積が小さ過ぎる(線状部11が細すぎる)と、ステント1の剛性が低下する場合があり、線状部11の横断面積が大き過ぎる(線状部11が太過ぎる)と、ステント1の軸方向の柔軟性(可撓性)が低下する場合がある。
【0037】
ここで、線状部21の平均横断面積とは、線状部21の横断面の外周の輪郭によって囲まれた領域の面積を言う。
【0038】
又、線状部11の横断面形状は、ステント1の各部において異なっていてもよいが、図1に示すように、ステント1のほぼ全体に亘って、ほぼ一定であることが望ましい。これにより、ステント1の軸方向の柔軟性が各部において不均一となるのを防止できる。
【0039】
なお、線状部11の横断面形状は、図2に示すような四角形(直方形)の他、例えば、円形、楕円形、正方形、菱形、三角形、五角形、六角形などの多角形でもよい。
【0040】
図示されていないが、ステント1(線状部11)の縁部は、丸みを帯びていることが望ましい。これにより、ステント1の留置操作時や留置後などにおいて、管状器官の内壁を不本意に傷付けてしまうのを防止できる。又、ステント1を血管内留置ステントに適用した場合には、血栓形成を防止するのにも役立つ。
【0041】
このようなステント1は、後述するような方法により、各線状部11が一体的に形成されている。これにより、ステント1全体としての強度がより向上する。
【0042】
又、このステント1は、特に、図2(a)の部分拡大図である図2(b)に示すように、各線状部11に、それぞれ当該線状部11の長手方向に沿うように中空部113が形成されている。すなわち、線状部11は、中空線状をなしている。この中空部113は、薬剤などの充填物を収容する収容部となるものである。
【0043】
そして、ステント1の一方の壁部に、各線状部11の延在方向に点在する複数の小孔112を有しており、各小孔112は中空部113に連通している。
【0044】
各小孔112は、ステント1の外周側へ向け、半径方向に開放している。
このステント1は、例えば小孔112が形成された壁部が管状器官の内壁に対向するように、管状器官の内腔部に挿入・留置される。
【0045】
ステント1が内腔部に挿入・留置されると、中空部113に収容された薬剤などの充填物が、この小孔112から放出され、この薬剤などの放出が停止するまで、その治療効果などが持続する。
【0046】
このようなステント1では、薬剤などの放出量及び放出期間(放出速度)が、中空部113の容積及び形状と、小孔112の大きさ、数及びピッチを調整することによって精密にコントロールできる。
【0047】
又、ステント1の装着部位と、小孔112の大きさ、数及びピッチを調整することによって、薬剤の放出部位を管状器官の特定の部位に限定できる(限局させられる)。従って、治療目的とする部位においてより高い治療効果などが得られる。
【0048】
又、小孔112は、その横断面積が中空部113に向かって漸減する部分を有している。このような小孔112は、比較的簡単に形成できると共に、小孔112から比較的広範囲に充填物を放出させることができる。
【0049】
又、小孔112の軸線に対する、漸減する部分の傾斜を調整することで、比較的簡単に、充填物の放出量及び放出速度を調整できる。
【0050】
又、このステント1では、中空部113の両端を外部に開放して小孔(図示せず)を形成することも可能である。
【0051】
ステント1が管状器官の内腔部に挿入・留置されると、この中空部113に収容された薬剤などの充填物が、両端の前記小孔からも内腔部に放出される。
【0052】
このような中空部113を有するステント1では、薬剤などの充填物の放出量及び放出速度が、中空部113の容積及び形状と、小孔112等の大きさを調整することによって精密にコントロールできる。
【0053】
このように、このステント1の充填物の放出量及び放出速度、放出部位は、中空部113の大きさ及び形状、小孔112等の大きさによって制御される。
【0054】
従って、中空部113及び小孔112のこれらパラメータは、薬剤などの所望の放出量、放出速度及び放出部位に応じて適宜設定されるが、以下に示すような範囲とするのが望ましい。
【0055】
先ず、中空部113の平均横断面積は、50μm2以上0.03mm2以下の範囲であることが望ましく、80μm2以上0.01mm2以下の範囲であることがより望ましい。
【0056】
中空部113の横断面積が小さ過ぎると、薬剤の粘度などによっては薬剤が流動し難くなり、薬剤などの所望の放出量が得られない場合があり、中空部113の横断面積が大き過ぎると、線状部11の横断面積によっては、ステント1の剛性が低下する場合がある。
【0057】
又、線状部11の平均横断面積をS1[μm2]、中空部113の平均横断面積をS2[μm2]としたとき、S2/S1が0.01以上0.5以下の範囲であるのが好ましい。
【0058】
これにより、線状部11の使用に必要な剛性を確保しながら、薬剤などの充填物の放出量、放出速度及び放出部位を、精密に制御できる。
【0059】
又、中空部113の横断面形状は、ステント1のほぼ全体に亘って、ほぼ一定となっている。
【0060】
これにより、ステント1の軸方向の柔軟性(可撓性)が、各部において不均一となるのを防止できる。
【0061】
なお、中空部113の横断面形状は、ステント1の各部において異なっていてもよい。
又、中空部113の横断面形状は、図2に示すような四角形(直方形)の他、例えば、円形、楕円形、正方形、菱形、三角形、五角形、六角形などの多角形でもよい。
【0062】
中空部113の横断面形状が四角形である場合、その幅及び高さはそれぞれ8μm以上150μm以下の範囲であるのが望ましい。
【0063】
又、中空部113は、ステント1の少なくとも一部に形成されていればよく、ステント1の全体に亘って形成されていても、ステント1の一部にのみ形成されていても構わない。
【0064】
小孔112の平均横断面積は、0.10μm2以上0.002mm2以下の範囲であることが望ましく、0.20μm2以上0.001mm2以下の範囲であることがより望ましい。
【0065】
小孔112の平均横断面積が小さ過ぎると、薬剤の粘度などによっては、薬剤が放出され難くなり、薬剤などの所望の放出量が得られない場合がある。
【0066】
又、小孔112の平均横断面積を前記範囲より大きくすると、小孔112の大きさによる放出量や放出部位の微少な制御が困難になる。
【0067】
なお、小孔112の横断面形状は、四角形(直方形)の他、例えば、円形、楕円形、正方形、菱形、三角形、五角形、六角形などの多角形でもよい。
【0068】
又、本実施形態においては、ステント1の両端の小孔は、閉塞されていても良いし、中空部113の両端のうち、いずれか一方に形成されていてもよい。すなわち、中空部113の一端は閉塞され、他端にのみ小孔が形成されていてもよい。
【0069】
ステント1の構成材料には、ステント1の種類に応じて、次のようなものを使用することが望ましい。
【0070】
ステント1をバルーン拡張型ステントに適用する場合、ステント1は、拡径状態において、管状器官から受ける圧縮応力に対して変形しない必要がある。このため、ステント1の構成材料には、拡張による塑性変形により加工硬化し、拡張後、比較的剛性が高くなる材料を使用することが望ましい。又、生体組織適合性や化学的安定性の高い材料を使用することが望ましい。
【0071】
このような材料としては、Au、Pt、Ta、Rh、Ru、Pd、Nb、Os、Ir、Agなどのうちの1種もしくは2種を主材料とする合金が使用できる。
【0072】
これらの中でも、特に、Au、Pt、Rh、Ru、Pd、Os、Irのうちの1種もしくは2種を主材料とする合金を主とするものが望ましく、Au、Pt、Rh、Ru、Irのうちの1種もしくは2種を主材料とする合金を主とするものがより望ましい。これらは、拡張による塑性変形により加工硬化する特性(加工硬化性)を付与できると共に、生体組織適合性やX線造影性にも優れる。又、このような合金は、その組成比により、加工硬化性を容易に制御できるという利点がある。
【0073】
このため、これらの材料でステント1を構成することにより、例えば、ステント1を血管内留置ステントに適用した場合には、血栓形成を効果的に防止できる。又、ステント1を管状器官の内腔部内に留置する操作をX線透視下にて行えるので、その留置操作をより円滑且つ正確に行える。
【0074】
一方、ステント1を自己拡張型ステントに適用する場合、ステント1は、その形状を自発的に復元し得る必要がある。このため、ステント1の構成材料には、超弾性合金、形状記憶合金や比較的弾性の高い材料を使用することが望ましい。
【0075】
このような材料としては、例えば、Ni・Ti合金、Au・Cd合金、Cu・Zn合金、Cu・Al合金、Fe・Pt合金、Mn・Cu合金、Ni・Al合金、Cu・Cd合金、Cu・Al・Ni合金、Au・Cd・Ag合金、Ti・Al・V合金などが使用できる。
【0076】
これらの中でも、特に、Ni・Ti合金(以下、NT合金ともいう)を主とするものが望ましい。これは、特に高い弾性を示し、さらに形状記憶特性にも優れる材料だからである。
【0077】
又、これらの材料は、生体組織適合性に優れると共に、X線造影性にも優れる。このため、これらの材料でステント1を構成することにより、例えば、ステント1を血管内留置ステントに適用した場合には、血栓形成を効果的に防止できる。又、ステント1を管状器官の内腔部内に留置する操作をX線透視下にて行えるので、その留置操作をより円滑且つ正確に行える。
【0078】
又、中空部113内には、後述する充填物を(一時的に)担持するための担体が収容されていてもよい。これにより、充填物の放出速度をより精密に制御できる。
【0079】
前記担体としては、多孔質体、体液との接触により徐々に溶解する物質を用いるのが望ましい。これにより、比較的簡単に、充填物の放出速度をより精密に制御できる。
【0080】
前記担体を構成するものとしては、例えば、ポリカプロラクトン、ポリDL乳酸、ポリL乳酸、ポリグリコール酸、ポリグラクチン(ポリグリコール酸とポリ乳酸との共重合体)、ポリジオキサノン、ポリグリコネイト(トリメチレンカーボネイトとグリコリドとの共重合体)、ポリグリコール酸又はポリ乳酸とε-カプロラクトンとの共重合体、ラクチド、ポリオルトエステル、ポリイミノカーボネイト、脂肪族ポリカーボネイト、ポリホスファゼンなどのうちの1種又は2種以上が使用できる。
【0081】
なお、前記担体は、必要に応じて設ければよく、担体自体の生体適合性が危惧される場合などには、設けなくてもよい。
【0082】
中空部113に収容する充填物としては、薬剤、細胞、及び生物由来物質のうちの少なくとも1つが使用できる。
【0083】
中空部113に収容する薬剤としては、ステント1を留置する管状器官の種類などに応じて選択されるが、例えば、抗血栓剤、鎮痛・鎮静剤、抗増殖剤、抗癌剤、免疫抑制剤などが使用できる。
【0084】
このような薬剤は、中空部113内に収容され、使用時に、徐々にステント1の外部へ放出され、各種治療効果を発揮する。
【0085】
抗血栓剤としては、例えば、ヘパリンナトリウム、ヘパリンカルシウム、低分子量ヘパリン、ヘパリン様物質(低分子デキストラン)、ヒルジン、組み換えヒルジン、アルガトロバン、フォルスコリン、バピプロスト、プロスタグランジンE1、プロスタサイクリン、プロスタサイクリン同族体、アスピリン、スルピリン、ジピリダモール、アンチトロンビンIII、ストレプトキナーゼ、ウロキナーゼ、組織プラスミノーゲンアクチベータ、プロウロキナーゼなどが使用できる。
【0086】
鎮痛・鎮静剤としては、例えば、ペンタゾシン、塩酸ブプレノルフィン、酒石酸ブトルファノール、塩酸トラマドール、塩酸アヘンアルカロイド、塩酸モルヒネ、塩酸ペチジン、ペチジン・レバロルファン、クエン酸フェンタニール、フェンタニール・ドロペリドールなどが使用できる。
【0087】
又、抗増殖剤としては、例えば、ソマトスタチン又はその同族体、ニトロプルシド、コルヒチン、魚油(ω3系脂肪酸)、ステロイド剤、セロトニン拮抗剤、カルシウム溝阻止抗体、ヘスタミン拮抗剤、酵素阻害剤(例えば、アンギオテンシン変換酵素阻害剤、プロスタグランジン合成酵素阻害剤、HMG-CoA還元酵素阻害剤、ホスホジエステラーゼ阻害剤、チオールプロテアーゼ阻害剤、メトトレキサート)、増殖因子拮抗剤(例えば、繊維芽細胞増殖因子拮抗剤、血小板由来増殖因子拮抗剤)、酸化窒素などが使用できる。
【0088】
又、抗癌剤としては、例えば、メクロルエタミン、ナイトロジェンマスタード N-オキシド(ナイトロミン)、シクロフォスファミド、メルファラン、クロラムブシルなどのナイトロジェンマスタード類、トリエチレンチオホスホラミド、カルボコン、トリエチレンメラミン、トリエチレンホスホラミドなどのエチレンイミン類、ブスルファンなどのアルキルスルフォン酸類、カルムスチン、ロムスチン、セムスチン、ニムスチンなどのニトロソ尿素類、ダカルバジンなどのトリアゼン類、8-アザグアニン、6-チオグアニン、6-メルカプトプリン、6-メルカプトプリン リボシッド、6-クロロプリン、アザチオプリンなどのプリン代謝拮抗物質、5-フルオロウラシル、5-フルオロデオキシウラシル、テガフール、シタラビン、アンシタビン、アザウリジンなどのピリミジン代謝拮抗物質、メトトレキサート、アミノプテリンなどの葉酸代謝拮抗物質、アザセリン、DON(6-アジド-5-オキソ-L-ノルレウシン)などのグルタミン代謝拮抗物質、ビンブラスチン、ビンクリスチンなどのビンカアルカロイド、VM26、VP16-213などのエピポドフィロトキシン誘導体、コルヒチン、デメコルチンなどのコルヒチン誘導体、アクチノマイシンD、マイトマイシンC、クロモマイシンA3、ブレオマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシンなどの抗生物質などが使用できる。
【0089】
又、免疫抑制剤としては、例えば、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、ヒドロコルチゾンなどの副腎皮質ステロイド類、シクロホスファミド、ブスルファン、クロランブシルなどのアルキル化剤、6-メルカプトプリル、アザチオプリンなどのプリン代謝拮抗物質、ペントスタチンなどのアデノシン脱アミノ酵素抑制薬、6-アザウラシルなどのピリミジン代謝拮抗物質、メトトレキサートなどの葉酸代謝拮抗物質、アゾトマイシンなどのグルタミン酸代謝拮抗薬、ダウノマイシン、アドリアマイシン、ミタラマイシンなどの抗生物質、サイトカラシンBなどの細胞分裂阻止物質などが使用できる。
【0090】
中空部113に収容する細胞としては、例えば、適用する管状器官の内壁を構成する細胞、又は、この細胞に分化する前の幹細胞、組み換えプラスミド(組み換えベクター)が導入された宿主細胞などが使用できる。
【0091】
中空部113に収容する生物由来物質としては、例えば、ヌクレオチド、cDNA、RNAなどの核酸、アミノ酸、ペプチド、タンパク質などが使用できる。
【0092】
なお、ステントの形状は、上述のものに限られない。例えば、この実施形態では、開口10の形状は、菱形形状をなしていたが、これに限定されず、例えば、三角形、長方形、正方形、五角形、六角形、その他の多角形などでもよい。
【0093】
又、この実施形態では、線状部11同士の連結部(交点111付近)が屈曲する形状をなしていたが、例えば円弧状(U字状)など湾曲する形状をなしていてもよい。
【0094】
次に、このステント1の使用方法について、バルーン拡張型ステントを、血管の狭窄部に適用する場合を一例に説明する。
【0095】
(I) 先ず、血管(管状器官の内腔部)内に、周知のセルディンガー法により、案内カテーテルを経皮的に挿入し、その先端部を狭窄部(目的部位)の近傍に到達させる。
【0096】
(II) そして、バルーン付カテーテル先端部のバルーンの外周に、ステント1を縮径状態で装着しておき、このバルーン付カテーテルを上記案内カテーテルを通して血管内に導く。
【0097】
(III) 次に、バルーン付カテーテル内に挿入したガイドワイヤをガイドにして、バルーン付カテーテルをさらに押し進め、その先端部に装着したステント1を狭窄部にまで移送し、配置する。
【0098】
(IV) この状態で、バルーン付カテーテルを通して生理食塩水などの液体をバルーン内に注入し、バルーンを膨らませる。これにより、ステント1の外径が徐々に拡径していく。
【0099】
(V) さらに、バルーンを膨らませ拡張させると、ステント1は、その外径がさらに拡径し(拡径状態に至り)、血管の内壁に当接し、内壁を押圧する。
【0100】
(VI) ステント1を十分に拡径させた後、バルーン内の液体を抜き出してバルーンを萎ませ、バルーン付カテーテルをステント1の内周から引き抜く。これにより、ステント1を血管内に留置できる。
【0101】
以上のようにして、ステント1により血管の狭窄部を拡張させて、心筋梗塞や脳梗塞などの予防や、治療を行える。又、このようにして血管内にステント1が挿入・留置されると、ステント1の中空部113に収容された薬剤が小孔112等から放出され、薬剤の放出が停止するまで、その治療効果などが持続する。
【0102】
次に、ステント1の製造方法について説明する。
(第1の工程)
(A) 先ず、図3(a)に示すように、ほぼ円柱状の芯材3を用意する。なお、芯材3はほぼパイプ状をなすものでもよい。
【0103】
芯材3は、比較的硬質であり、且つ、後述の工程(E)にて比較的容易に除去できるものが望ましい。
【0104】
この芯材3の構成材料としては、ステント1の構成材料などに応じて選択されるが、例えば、ポリオレフィン(例えば、PE、PPなど)、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリカーボネイト、ポリメチルメタクリレート、ポリエーテル、ポリアセタールのような樹脂材料や、その他、Ni及びNi合金、Cu及びCu合金、Fe及びFe合金などのステント1を構成する金属材料と比較して、自然電極電位的に卑な金属材料などが使用できる。
【0105】
(B) 次に、図3(b)に示すように、芯材3の周面に、ステント1の線状部11に対応する形状、すなわち網目状の溝31を形成する。
【0106】
溝31の形成方法としては、例えば、冷間・熱間鍛造、ダイキャスト、射出成形、レーザー加工、切削加工、彫刻加工、転造加工などが使用できる。
【0107】
本工程においては、溝31の横断面形状が角部を有しているので、比較的簡単に、芯材3に溝31を形成できる。
【0108】
又、前記角部が丸みを帯びているのが望ましい。こうすることにより、別工程で加工を施すことなく、得られるステント1の縁部が丸みを帯びるようにできる。
この芯材3の横断面(一部横断面)は、図4(c)に示すような状態となる。
【0109】
(第2の工程)
(C) 次に、図4(c)に示すように、芯材3の外周面に、金属を主材料として構成された第1の層41を形成する。なお、第1の層41は、芯材3の外表面に、溝31の深さ方向の一部を埋めるように形成されていればよい。すなわち、第1の層41の層厚は、溝31の深さよりも小さいものとなっていればよい。
【0110】
第1の層41の構成材料としては、前述したステント1の合金を構成する金属単体又は合金を使用できる。例えば、第1の層41の構成材料としては、Au、Pt、Ta、Rh、Ru、Pd、Nb、Os、Ir、Ag又はこれらのうちの少なくとも2つを主材料とする合金、Ni・Ti合金、Au・Cd合金、Cu・Zn合金、Cu・Al合金、Fe・Pt合金、Mn・Cu合金、Ni・Al合金、Cu・Cd合金、Cu・Al・Ni合金、Au・Cd・Ag合金、Ti・Al・V合金などが使用できる。これらは、得られるステント1に求められる特性等に応じて適宜選択される。
【0111】
又、この第1の層41の形成方法としては、ステント1の構成材料(本体材料)に応じて適宜選択されるが、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法などの物理気相成膜法、化学気相成膜法、電解メッキ、無電解メッキなどのメッキ法、本体材料を含む液状材料(溶液又は分散液)の付与(塗布)による方法のような液体成膜法などのうちの1種又は2種以上が使用できる。
【0112】
(第3の工程)
(D) 次に、図4(d)に示すように、第1の層41の外周面に、第2の層42を形成する。
【0113】
第2の層42の構成材料としては、前述した芯材3を構成する材料と同様のものを使用できる。すなわち、第2の層42の構成材料としては、例えば、ポリオレフィン(例えば、PE、PPなど)、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリカーボネイト、ポリメチルメタクリレート、ポリエーテル、ポリアセタールのような樹脂材料や、その他、Ni及びNi合金、Cu及びCu合金、Fe及びFe合金などのステント1を構成する金属材料と比較して、自然電極電位的に卑な金属材料などが使用できる。これらは、ステント1の構成材料などに応じて選択される。
【0114】
又、この第2の層42の形成方法としては、前述した第1の層41の形成方法と同様のものを使用できる。
【0115】
(第4の工程)
(E) 次に、芯材3の外表面に沿って、第1の層41及び第2の層42のうち溝31内に収容された部分を残すように、図4(e)に示すように、これらの一部を除去することにより、第1の層41及び第2の層42を前記網目構造なすものとする。
【0116】
このように第1の層41及び第2の層42の一部を除去する方法としては、例えば、レーザー加工、切削加工、彫刻加工、研削加工などが使用できる。
【0117】
(第5の工程)
(F) 次に、図5(f)に示すように、第1の層41及び第2の層42上に、金属を主材料として構成された第3の層43を形成する。
【0118】
第3の層43の構成材料としては、前述した第1の層41を構成するものと同様のものを使用できる。すなわち、第3の層43の構成材料としては、例えば、Au、Pt、Ta、Rh、Ru、Pd、Nb、Os、Ir、Ag又はこれらのうちの少なくとも2つを主材料とする合金、Ni・Ti合金、Au・Cd合金、Cu・Zn合金、Cu・Al合金、Fe・Pt合金、Mn・Cu合金、Ni・Al合金、Cu・Cd合金、Cu・Al・Ni合金、Au・Cd・Ag合金、Ti・Al・V合金などが使用できる。これらは、得られるステント1に求められる特性等に応じて適宜選択される。
【0119】
又、この第3の層43の形成方法としては、前述した第1の層41の形成方法と同様のものを使用できる。すなわち、この第3の層43の形成方法としては、ステント1の構成材料(本体材料)に応じて適宜選択されるが、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法などの物理気相成膜法、化学気相成膜法、電解メッキ、無電解メッキなどのメッキ法、本体材料を含む液状材料(溶液又は分散液)の付与(塗布)による方法のような液体成膜法などのうちの1種又は2種以上が使用できる。
【0120】
第1の層41を構成する金属と第3の層43を構成する金属とは、同種であることが望ましいい。こうすることにより、比較的簡単な方法で、第1の層41と第3の層43とを強固に接合できる。
【0121】
又、本工程において、第1の層41及び第2の層42を電極として用いて、第3の層43を電解メッキにより形成することが望ましい。こうすることにより、ステント1の製造工程を簡略化できる。
【0122】
なお、第3の層43は、第1の層41、第2の層42、及び芯材3上に、一様に金属層を形成した後に、その一部をエッチング等により除去することにより形成してもよい。
【0123】
(G) 次に、図5(g)に示すように、小孔112に対応する位置において、第3の層43に、第2の層42に通ずる孔43aを形成する。なお、この工程は、後述する工程(H)の後に行ってもよい。
【0124】
このように、工程(F)(第5の工程)の後に、第3の層43に、第1の層41と第3の層43とで画成された空間に通ずる貫通孔として孔112を形成する孔形成工程を有する。こうすることにより、小孔112の大きさ、数、位置などを比較的容易に調整できる。その結果、充填物の放出量、放出速度、及び放出部位の調整が簡単となる。
【0125】
本実施形態では、工程(H)よりも前に、孔43aを形成することにより、工程(H)において、第2の層42の溶出時間を短縮できる。
【0126】
孔43aの形成方法としては、例えば、ドライエッチング法、ウェットエッチング法、電解エッチング法、放電加工、微粉ブラスト法、レーザー加工、マシニングセンターなどによる機械加工、彫刻機などによる彫刻加工などのうちの1種又は2種以上が使用できる。
【0127】
(第6の工程)
(H) 次に、芯材3及び第2の層42を除去して、図5(h)に示すように、ステント1を得る。
【0128】
本工程で、第2の層42と芯材3とをほぼ同時期に除去するので、ステントの製造工程を簡略化できる。
【0129】
この芯材3及び第2の層42の除去方法としては、芯材3及び第2の層42の構成材料などによって適宜選択されるが、例えば、加熱により焼失させる方法(焼き飛ばす方法)、ステント1を溶解又は膨潤させず、芯材3を選択的に溶解可能な溶剤に溶解させる方法、ケミカルエッチング又は、電気化学的手法により芯材3を選択的に溶出させる方法、芯材3を熱収縮させて離型する方法などが使用できる。
【0130】
なお、芯材3の除去の時期と第2の層42の除去の時期とは異なっていてもよい。すなわち、芯材3を除去した後に、第2の層42を除去して、第1の層41及び第3の層43により中空線状部を形成してもよいし、又、第2の層42を除去して、第1の層41及び第3の層43により中空線状部を形成した後に、芯材3を除去してもよい。
【0131】
このようにすることにより、芯材3の構成材料と第2の層42の構成材料とに応じて、芯材3の除去方法と第2の層42の除去方法とを適宜選択することができる。
【0132】
(I) 必要に応じて、第1の層41及び第3の層43に熱処理を施すことにより、少なくとも第1の層41と第3の層43とを拡散接合させる(接合工程)。これにより、より確実に、第1の層41と第3の層43とを強固に接合できる。このとき、第1の層41及び第3の層43の各層の内部応力の除去を目的とする低温ひずみ取り焼鈍を兼ねながら、第1の層41と第3の層43との界面において、各層間の構成材料が互いに拡散するように処理を行う。これにより、第1の層41と第3の層43との界面が消失し、ステント1の強度が増大すると共に、第1の層41と第3の層43との層間剥離が防止される。
【0133】
この熱処理を行う場合には、加熱雰囲気は非酸化性雰囲気、すなわち、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気などの不活性雰囲気、又は水素、アンモニア分解ガス等の還元性雰囲気であるのが望ましい。又、加熱温度は300℃以上1500℃以下の範囲であるのが望ましく、500℃以上1200℃以下の範囲であるのがより望ましい。又、加熱時間は0.5時間以上3時間以下の範囲であるのが望ましく、1.0時間以上2時間以下の範囲であるのがより望ましい。このような条件で熱処理を行うことにより、第1の層41及び第3の層43の酸化を防止しながら、より確実に、第1の層41及び第3の層43を合金化(線状部11を形成)することができる。
【0134】
(J) 次に、必要に応じて、ステント1の縁部に丸みを付ける加工を施す。
この加工方法としては、例えば、研磨加工、バレル研磨、電解研磨、化学研磨、ホーニング加工、電磁バレル研磨などが使用できる。
【0135】
以上のようにして、図1、2に示すステント1が得られる。
このようなステント1の製造方法によれば、芯材3に形成された溝31に対応した形状でステント1を得ることができるため、加工に用いる工具(刃具)の大きさに依存せずに、網目構造の開口部10を極めて小さくできる。その結果、比較的簡単に、縮径状態時における外径を十分に小さくできる。又、ステント1の周方向における網目構造の開口部10の幅が芯材3の外表面における溝31以外の部分の大きさに応じたものとなるので、開口部10の幅を十分に小さくできる。その結果、ステント1の外径を小さくできる。
【0136】
なお、本発明のステントの製造方法は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは無論である。
【実施例】
【0137】
(実施例1)
先ず、芯材として長さ20mm、外径2050μmのABS樹脂製の円柱材を用意し、この円柱材の外周面に、彫刻機により、図3(b)に示すような網目構造の溝を形成した。この溝は、その横断面形状が略長方形をなしており、幅100μm、深さ80μmであった。
【0138】
次に、前述の溝形成済みの円柱材の外周面に、湿式メッキにより、Ni下付けメッキ後、厚さ20μmの18金Au-Cu合金メッキ層を形成した。
【0139】
次に、前記18金Au-Cu合金メッキ層の外表面に、湿式メッキにより、厚さ20μmのFeメッキ層を形成した。
【0140】
次に、前記円柱材の外表面に沿って、Au-Cu合金層及びFeメッキ層のうち前記溝内にある部分を残すように、研削加工により、前記円柱材の外表面の溝以外の部分に形成されたAu-Cu合金層及びFeメッキ層の部分を除去した。これにより、ABS樹脂製の円柱材の溝にてAu-Cu合金層及びFeメッキ層が前記網目構造をなす構造体を得た。
【0141】
次に、前述のAu-Cu合金層及びFeメッキ層を電極とし、前記構造体に対し電解メッキを行うことにより、Au-Cu合金層及びFeメッキ層上に選択的に、厚さ20μmの18金Au-Cu合金メッキ層を形成した。
【0142】
得られたAu-Cu合金メッキ層に対し、UVレーザー加工により、直径約10μm、深さ25〜30μmの孔明け加工を行い、図5(g)に示すような小孔を形成した。
【0143】
次に、円柱材上にAu-Cu合金層及びFeメッキ層が形成されてなる構造体から、Feメッキ層を選択的に電気化学的手法により溶出させた。さらに、H2雰囲気中で、700℃、2時間の熱処理により、ABS樹脂を熱分解させた。これにより、中空部を有するステントを得た。
【図面の簡単な説明】
【0144】
【図1】本発明に係るステントの第1の実施形態を示す側面図。
【図2】図1中に示すA-A線での断面図。
【図3】図1に示すステントの製造方法を説明する図。
【図4】図1に示すステントの製造方法を説明する図。
【図5】図1に示すステントの製造方法を説明する図。
【符号の説明】
【0145】
1……ステント
10……開口
11……線状部(線材)
111……交点
112……小孔
113……中空部
3……芯材
31……溝
41……第1の層
42……第2の層
43……第3の層
43a……孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体の管状器官の内腔部に挿入・留置して使用されるステントの製造方法であって、
全体として筒状をなし、網目構造を構成する中空線状部を有する金属成形体を製造するときに、
筒状又は柱状をなす芯材の外表面に、前記網目構造に対応する溝を形成する第1の工程と、
前記芯材の外表面に、前記溝の一部を埋めるように、金属を主材料として構成された第1の層を、前記溝の深さよりも小さい厚さで形成する第2の工程と、
前記第1の層の外表面に、第2の層を形成する第3の工程と、
前記芯材の外表面の前記溝以外の部分に形成された前記第1の層及び前記第2の層を除去することにより、前記第1の層及び前記第2の層を前記網目構造をなすものとする第4の工程と、
前記第1の層及び前記第2の層上に、金属を主材料として構成された第3の層を形成する第5の工程と、
前記第2の層を除去して、前記第1の層及び前記第3の層により前記中空線状部を形成すると共に、前記芯材を除去する第6の工程とを有することを特徴とするステントの製造方法。
【請求項2】
前記第6の工程において、前記第2の層を除去して、前記第1の層及び前記第3の層により前記中空線状部を形成するのとほぼ同時期に、前記芯材を除去することを特徴とする請求項1に記載のステントの製造方法。
【請求項3】
前記第6の工程において、前記芯材を除去した後に、前記第2の層を除去して、前記第1の層及び前記第3の層により前記中空線状部を形成することを特徴とする請求項1に記載のステントの製造方法。
【請求項4】
前記第6の工程において、前記第2の層を除去して、前記第1の層及び前記第3の層により前記中空線状部を形成した後に、前記芯材を除去することを特徴とする請求項1に記載のステントの製造方法。
【請求項5】
前記第1の工程において、前記溝の横断面形状が角部を有することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のステントの製造方法。
【請求項6】
前記角部が丸みを帯びていることを特徴とする請求項5に記載のステントの製造方法。
【請求項7】
前記第1の層を構成する金属と前記第3の層を構成する金属とは、同種であることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載のステントの製造方法。
【請求項8】
前記第5の工程後に、前記第1の層及び前記第3の層に熱処理を施すことにより、少なくとも前記第1の層と前記第3の層とを拡散接合させる接合工程を有することを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載のステントの製造方法。
【請求項9】
前記第5の工程において、前記第1の層及び前記第2の層を電極として用いて、前記第3の層を電解メッキにより形成することを特徴とする請求項1乃至請求項8に記載のステントの製造方法。
【請求項10】
前記第5の工程の後に、前記第1の層及び前記第3の層のうちの少なくとも一方に、前記第1の層と前記第3の層とで画成された空間に通ずる貫通孔を形成する孔形成工程を有することを特徴とする請求項1乃至請求項9に記載のステントの製造方法。
【請求項11】
前記第6の工程の後に、前記中空部内に充填物を充填することを特徴とする請求項1乃至請求項10のいずれかに記載のステントの製造方法。
【請求項12】
前記充填物は、薬剤、細胞、及び生物由来物質のうちの少なくとも1つを含むものであることを特徴とする請求項11に記載のステントの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−130030(P2006−130030A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−321592(P2004−321592)
【出願日】平成16年11月5日(2004.11.5)
【出願人】(393024186)株式会社ホムズ技研 (35)
【Fターム(参考)】