説明

ステント及びその製造方法

【課題】剛性及び可撓性に優れた生分解性のステント並びにその製造方法を提供すること。
【解決手段】生分解性ステント10は、複数の剛性部11と、それら各剛性部11を相互に接続する複数の可撓性部12と、を備えている。剛性部11により治療対象箇所を拡張した状態で維持するための剛性の機能が果たされ、可撓性部12により治療対象箇所への留置を行う上で要求される可撓性の機能が果たされる。この場合に、剛性部11及び可撓性部12は、いずれも生分解性材料を用いて形成されている。そして、可撓性部12を形成する生分解性材料は、剛性部11を形成する生分解性材料よりも剛性の低い材料に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体内に生じた狭窄部又は閉塞部の改善に使用されるステント及びその製造法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
生体内の血管、尿道、その他の臓器の管腔又は体腔(以下、管腔等という)の狭窄部に挿入し、管腔等の内部における空間を確保するための医療用具としてステントが知られている。このようなステントは、機能及び留置方法によって、一般的に、自己拡張型ステントとバルーン拡張型ステントとに区別される。
【0003】
自己拡張型ステントは、ステント自体が収縮及び拡張機能を有するものである。自己拡張型ステントは、例えば、シースを外側から被せることで畳まれた状態で体内に挿入され、体内でシースが引き抜かれる。これにより、自己拡張型ステントは畳まれた状態から自然状態に復帰し、体内の管腔等の内部に密着固定されるとともに、当該管腔等の内部を拡張する(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
バルーン拡張型ステントは、上記の自己拡張型ステントのような自己拡張機能は有していない。バルーン拡張型ステントは、例えば、バルーンの外側に密着固定させた状態で体内に挿入され、体内で当該バルーンが拡張される。このバルーンの拡張力によりバルーン拡張型ステントを目的部位におけるほぼ正常な管径まで変形させる。これにより、バルーン拡張型ステントは、体内の管腔等の内部に密着固定されるとともに、当該管腔等の内部を拡張する(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
また、ステントには、金属製のステント以外に、生分解性高分子材料により形成されたステントが知られている(例えば、特許文献3参照)。金属製のステントは自然と分解していくことはなく除去作業を行わない限り体内に留置され続けるものであり、この長期的な体内留置に対する安全性が要求される。これに対して、生分解性のステントは自然と分解除去されるものであり、上記のような長期的な体内留置に対する安全性が要求されない点で有益なものである。
【特許文献1】特開平9−215753号公報
【特許文献2】特開2000−342693号公報
【特許文献3】特開2007−20635号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、ステントに要求される性能としては、体内への挿入を良好に行うための可撓性と、留置後において管腔等を拡張した状態で維持するための剛性とが挙げられる。これに対して、生分解性高分子材料は金属材料に比べ剛性などの機械的特性が十分でない。したがって、剛性を金属材料のものに近づけようとすると厚肉化させる必要が生じ、可撓性が低下してしまう。よって、生分解性のステントの性能を向上させる上で未だ改良の余地がある。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、剛性及び可撓性に優れた生分解性のステント並びにその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、上記課題を解決するのに有効な手段等につき、必要に応じて作用、効果等を示しつつ説明する。なお以下では、理解を容易にするため、発明の実施の形態において対応する構成例を括弧書き等で適宜示すが、この括弧書き等で示した具体的構成に限定されるものではない。
【0009】
本発明のステント(生分解性ステント10,40)は、生分解性材料を用いて形成された複数の剛性部(剛性部11,41)と、当該剛性部よりも剛性の低い生分解性材料を用いて形成され前記各剛性部間を繋ぐ可撓性部(可撓性部12,42)と、を備えていることを特徴とする。
【0010】
本構成によれば、体内の留置後に治療対象箇所を拡張した状態で維持するための剛性の機能が剛性部により果たされ、体内への留置を行う上で要求される可撓性の機能が剛性部よりも剛性の低い生分解性材料を用いて形成された可撓性部により果たされる。例えば、単一の生分解性材料を用いて剛性及び可撓性の両機能を満たそうとすると、可撓性部の肉厚を剛性部よりも極端に小さくする必要が生じ、可撓性部の機械的強度を満たすことが困難なものとなる。これに対して、上記のとおり剛性部と可撓性部とで個別の生分解性材料を用いることで、各機能に適した材料の選択を行うことが可能となり、上記のような不都合が生じない。
【0011】
なお、「生分解性材料を用いて形成する」とは、生分解性材料をベース材料として形成することを意味し、生分解性材料のみにより形成する場合だけでなく、生分解性材料に添加剤を付与したものにより形成する場合も含む。
【0012】
前記剛性部及び前記可撓性部を形成する生分解性材料を同一の構成単位からなる共重合体とし、当該共重合体の少なくとも一部の構成単位の含有量を異ならせることにより、前記可撓性部を形成する共重合体を、前記剛性部を形成する共重合体よりも剛性を低くすることが好ましい。本構成によれば、剛性部と可撓性部とを熱溶着などにより接着させた場合であっても、剛性部と可撓性部とが同一の構成単位からなる共重合体を用いて形成されていることに起因して、接着強度が高められ、接着部分での境界剥離などを防止することが可能となる。
【0013】
ステント筒壁に内外に貫通した貫通孔部を有するように前記剛性部及び前記可撓性部を共に線状に形成し、それら剛性部及び可撓性部の肉厚を同一又は略同一とすることが好ましい。ステント筒壁に内外に貫通した貫通孔部を有するように剛性部及び可撓性部が共に線状に形成されていることにより、ステントの拡張等が良好に行われる。当該構成において、剛性部及び可撓性部の肉厚が同一又は略同一となっていることにより、可撓性部の機械的強度が極端に弱くなることはない。また当該構成であっても、可撓性部が剛性部よりも剛性の低い生分解性材料により形成されていることにより、ステントの可撓性は確保される。
【0014】
複数の剛性部(剛性部11,41)と、当該各剛性部間を繋ぐ可撓性部(可撓性部12,42)と、を備え、生分解性材料を用いて形成されるステント(生分解性ステント10,40)の製造方法について、前記可撓性部を形成する生分解性材料として前記剛性部の生分解性材料よりも剛性の低いものを用い、それら剛性部と可撓性部とを一体化させた状態で形成する形成工程を備えた構成とする。
【0015】
本製造方法で製造したステントによれば、上記のとおり体内の留置後に治療対象箇所を拡張した状態で維持するための剛性の機能が剛性部により果たされ、体内への留置を行う上で要求される可撓性の機能が剛性部よりも剛性の低い生分解性材料を用いて形成された可撓性部により果たされる。
【0016】
また、前記形成工程は、前記剛性部用の生分解性材料により形成された剛性部用領域(剛性部用領域21)と前記可撓性部用の生分解性材料により形成された可撓性部用領域(可撓性部用領域22)とが軸方向に並設され、筒状の面構造となった筒状体(筒状体25)を形成する工程と、ステントの筒壁に内外に貫通した貫通孔部を有するように、前記剛性部用領域の一部を除去し前記剛性部を形成するとともに前記可撓性部用領域の一部を除去し前記可撓性部を形成する工程と、を備えた構成としてもよい。筒壁に貫通孔部を有する小型のステントにおいて剛性部と可撓性部とで生分解性材料を異ならせようとすると、その製造が難化することが懸念されるが、本製造方法によれば剛性部用領域と可撓性部用領域とが軸方向に並設されるように筒状体を形成し、その後、剛性部用領域の一部及び可撓性部用領域の一部を除去すればよいため、本ステントを無理なく製造することが可能となる。
【0017】
また、これに代えて、前記形成工程では、金型(専用金型30)に対して前記剛性部用の生分解性材料と前記可撓性部用の生分解性材料とを個別に射出することにより、ステントの筒壁に内外に貫通した貫通孔部を有するように前記剛性部と前記可撓性部とを形成する構成としてもよい。この場合、複雑な金型を用いる必要があるものの、上記筒状体を形成する製造方法に比べ、工程数の削減を図ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を具体化した生分解性ステントの一実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は生分解性ステント10を説明するための説明図である。
【0019】
図1に示すように、生分解性ステント10は筒状をなしており、複数の剛性部(剛性部)11と、それら各剛性部11を相互に接続する複数の可撓性部(可撓性部)12とを備えている。
【0020】
各剛性部11は、一連の糸状材を環状とした形状をなしており、より詳細には、当該糸状材が軸線方向の各両端にて複数回折り返されたような形状となっている。また、換言すれば、各剛性部11は、生分解性ステント10の筒壁に内外に貫通した貫通孔部を有するように線状に形成されていると言える。
【0021】
各可撓性部12は軸線方向に延びる糸状材であり、各可撓性部12は一の剛性部11とその隣りの剛性部11間に複数(具体的には、3個)設けられ、これら剛性部11間に位置している可撓性部12はその両端が剛性部11に接続されている。換言すれば、各可撓性部12は、生分解性ステント10の筒壁に内外に貫通した貫通孔部を有するように線状に形成されていると言える。各可撓性部12はその肉厚が剛性部11の肉厚と同一又は略同一となっている。ここで、剛性部11及び可撓性部12の肉厚とは、生分解性ステント10の半径方向及び生分解性ステント10の周面に沿った方向の両寸法のことである。また、剛性部11と可撓性部12との接続部分は、生分解性ステント10の外周面から外側に張出さないように及び内周面から内側に張出さないように形成されている。なお、各可撓性部12は、軸線方向の途中位置に湾曲部が形成されている。
【0022】
可撓性部12が配置されていることにより、生分解性ステント10は全体として剛性部11と可撓性部12とが軸線方向に交互に並んでいると言える。また、上記のように剛性部11及び可撓性部12が設けられていることにより、生分解性ステント10の筒壁には内外に貫通した多数の貫通孔部が存在している。
【0023】
生分解性ステント10において上記剛性部11及び可撓性部12はいずれも生分解性材料を用いて形成されている。ここで、生分解性材料には、酵素の作用がなくても分解が行われる自然分解性高分子(生体吸収性高分子)と酵素の作用により分解する酵素分解性高分子がある。
【0024】
以下に本生分解性ステント10に用いる材料の具体例を示す。
【0025】
(第1の例)
第1の例として、本生分解性ステント10では、デプシペプチド(環状デプシペプチド)と他の生分解性材料との3元共重合体を用いている。ここで、デプシペプチドの構造を図2に示す。
【0026】
デプシペプチドは、側鎖R基がメチル基、イソプロピル基、イソブチル基等のアルキル基であり、側鎖R’基がメチル基、エチル基等のアルキル基である。デプシペプチドには、アミノ酸とヒドロキシ酸誘導体とから合成したものと、アミノ酸とオキシ酸誘導体とから合成したものとが含まれる。
【0027】
前者の例としては、L−MMO、L−DMO、L−MEMOが挙げられる。なお、これらの合成に用いられるヒドロキシ酸誘導体は、順にクロロアセチルクロリド、2−ブロモプロピオニルプロミド、2−ブロモ−n−ブチリルブロミドである。また、後者の例としては、DMO、PMO、BMOが挙げられる。なお、これらの合成に用いられるアミノ酸は、順にL−アラニン、L−(DL−またはD−)バリン、L−ロイシンである。
【0028】
本生分解性ステント10では、ポリ乳酸の原料であるL−ラクチドと、ポリε―カプロラクトンの原料であるε―カプロラクトンとの共重合体にデプシペプチドを加えた3元共重合体(デプシペプチドが開環共重合した共重合体)を用いている。この3元共重合体の構造図を図3に示す。
【0029】
なお、この3元共重合体の製法は公知であるため、ここでは説明を省略する(例えば、高分子論文集,Vol.56,No.9(1999))。また、この3元共重合体はランダム共重合体及びブロック共重合体のいずれであってもよい。また、L−ラクチドに代えてD−ラクチドを用いてもよく、ε―カプロラクトンに代えて、α―カプロラクトン、β―カプロラクトン、γ―カプロラクトンなどを用いてもよい。これらL−ラクチド及びε―カプロラクトンに関する別形態は後述する他の共重合体について適用してもよい。上記のような3元共重合体を用いることにより、機械的特性と生分解性とのバランスが優れた生分解性ステント10を得ることができる。
【0030】
上記のとおり本生分解性ステント10は、デプシペプチドに係る3元共重合体を用いて形成されているが、可撓性部12と剛性部11とでε―カプロラクトンの含有量及びL−ラクチドの含有量が異なっている。ここで、ポリカプロラクトンとポリ乳酸とを比べた場合、前者のポリカプロラクトンは軟質で柔軟性が高く、それに比べ後者のポリ乳酸は非常に堅いことが知られている。そして、これと同様に、上記3元共重合体において、ε―カプロラクトンの含有量を多くするほど剛性が低くなり(すなわち柔軟性が高くなり)、L−ラクチドの含有量を多くするほど剛性が高くなる(すなわち柔軟性が低くなる)ことが知られている。
【0031】
本生分解性ステント10では、可撓性部12の方が剛性部11よりも剛性が低く(すなわち柔軟性が高く)なるように、ε―カプロラクトン及びL−ラクチドの含有量が設定されている。具体的には、デプシペプチドと、ε―カプロラクトンと、L−ラクチドとのモル比が、可撓性部12では4:20:76であるのに対して、剛性部11では4:4:92である。なお、当該含有量に限定されることはなく、可撓性部12の方が剛性部11よりも、ε―カプロラクトンの含有量が大きくL−ラクチドの含有量が小さければよい。
【0032】
(第2の例)
第2の例として、本生分解性ステント10では、デプシペプチドとε―カプロラクトンとの2元共重合体を用いている。なお、この2元共重合体の製法は公知であるため、ここでは説明を省略する。本生分解性ステント10では、ε―カプロラクトンの含有量を、可撓性部12の方が剛性部11よりも多くなるように設定することで、可撓性部12の剛性を剛性部11よりも低くすることができる(すなわち可撓性部12の柔軟性を高くすることができる)。
【0033】
(第3の例)
第3の例として、本生分解性ステント10では、ε―カプロラクトンとL−ラクチドとの2元共重合体を用いている。なお、この2元共重合体の製法は公知であるため、ここでは説明を省略する。本生分解性ステント10では、ε―カプロラクトンの含有量が、可撓性部12の方が剛性部11よりも多くなるように設定することで、可撓性部12の剛性を剛性部11よりも低くすることができる(すなわち可撓性部12の柔軟性を高くすることができる)。
【0034】
(その他の例)
その他の例として、本生分解性ステント10では、剛性部11と可撓性部12とでそれぞれ異なる材料を用いている。具体的には、剛性部11はポリ乳酸を用いて形成されており、可撓性部12はポリカプロラクトンを用いて形成されている。この場合、上記のとおりポリカプロラクトンは軟質で柔軟性が高く、それに比べポリ乳酸は非常に堅いことが知られている。したがって、可撓性部12の剛性が剛性部11よりも低くなる(すなわち柔軟性が高くなる)。
【0035】
また、剛性部11をポリグリコール酸を用いて形成し、可撓性部12をポリジオキサノンを用いて形成してもよい。この場合、ポリジオキサノンは軟質で柔軟性が高く、それに比べポリグリコール酸は非常に堅いことが知られている。したがって、可撓性部12の剛性が剛性部11よりも低くなる(すなわち柔軟性が高くなる)。
【0036】
また、上記例示したもの以外にも、生分解性ステント10に必要な機能を発揮する範囲内において、公知の生分解性材料のうち、可撓性部12の剛性が剛性部11よりも低くなるように選択した組合せを用いてもよい。
【0037】
上記公知の生分解性材料としては、ポリエステル、ポリ(エステル−エーテル)、ポリ(エステル−カーボネート)、ポリ(酸無水物)、ポリカーボネート、ポリ(アミド−エステル)、ポリシアノアクリル酸エステル、無機高分子、タンパク質、ポリアミノ酸、多糖、ビニルポリマー、核酸などが考えられる。より具体的には、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリジオキサノン、ポリペプチド、ポリカプロラクトン、ポリエチレングリコール、ポリグラクチン、コラーゲン、ゼラチン、フィブリン、アルブミン、酸化セルロース、デンプン、キチン、キトサン、ヒアルロン酸、アルギン酸、水酸化アパタイト、リン酸3カルシウム、炭酸カルシウムなどが考えられる。また、グリコール酸/カプロラクトン共重合体、グリコール酸/トリメチレンカーボネート共重合体、乳酸/ペプチド共重合体、乳酸/カプロラクトン共重合体、カプロラクトン/ペプチド共重合体、L−乳酸/D−乳酸共重合体、シアノアクリレート共重合体などの2元共重合体が考えられる。また、グリコール酸/ジオキサノン/トリメチレンカーボネート共重合体、ペプチド/カプロラクトン/乳酸共重合体などの3元共重合体が考えられる。さらには、上記のものを組合わせてポリマーブレンドしたものも考えられる。
【0038】
なお、ポリマーブレンドしたものに関しては、剛性部11と可撓性部12とでブレンドする生分解性材料の種類を同一のものとし、可撓性部12のポリマーブレンドの材料については剛性部11よりも剛性が低くなるようにブレンドする各ポリマーの含有量を設定することが好ましい。
【0039】
次に、上記生分解性ステント10の製造方法について説明する。図4は製造方法を説明するための説明図である。
【0040】
先ず、図4(a)に示すように、シート形成工程を行う。このシート形成工程では、最終的に剛性部11を構成する剛性部用領域21と、最終的に可撓性部12を構成する可撓性部用領域22とが交互に並ぶようにシート20を形成する。
【0041】
この場合、当該シート20の形成方法は任意であり、例えば、剛性部用領域21を形成するためのシートと、可撓性部用領域22を形成するためのシートと、をそれぞれ別に形成しておき(剛性部用領域形成工程及び可撓性部用領域形成工程)、各シートを交互に並べるとともに、隣り合うシートを熱溶着する(熱溶着工程を行う)方法が考えられる。
【0042】
ここで、上記第1の例〜第3の例では、剛性部用領域21及び可撓性部用領域22は同一のモノマーを構成単位とした共重合体を用いて形成されているため、熱溶着に際して両領域21,22が密着し易くなっており、熱溶着を良好に行うことができ、さらには両領域21,22間の接続強度が高められる。また、熱溶着に際しては両領域21,22の溶着部分においてシート20に段差が生じないように、シート20を両板面側から挟み込む熱溶着機器を用いることが好ましい。この場合、シート20の板厚をその全体に亘って同一とするとともに、板面に凹凸が生じないようにすることができる。なお、熱溶着に限定されることはなく、剛性部用領域21を形成するためのシートと、可撓性部用領域22を形成するためのシートとを接着剤を用いて接着するようにしてもよい。
【0043】
また、シート20の形成方法の他の方法として、例えば、シート20を射出成形により形成してもよい。この場合であっても、上記第1の例〜第3の例では、剛性部用領域21及び可撓性部用領域22は同一のモノマーを構成単位とした共重合体を用いて形成されているため、両領域21,22間の接続強度が高められる。
【0044】
その後、図4(b)に示すように、シート20を筒状に丸め筒状体25を形成する筒状体形成工程を行う。この筒状体形成工程では、剛性部用領域21と可撓性部用領域22とが軸線方向に交互に並ぶようにシート20を丸め、当該シート20の両端を熱溶着する。この熱溶着に際しては熱溶着部分において段差が生じないように(筒状体25の内径及び外径が同一となるように)、筒状体25を内外から挟み込む熱溶着機器を用いることが好ましい。なお、熱溶着に限定されることはなく、接着剤を用いて接着するようにしてもよい。
【0045】
その後、後工程を行う。この後工程では、筒状体25に対してレーザカットを行うことにより、剛性部用領域21を剛性部11の形状とするとともに、可撓性部用領域22を可撓性部12の形状とする。これにより、図4(c)に示す、生分解性ステント10を得ることができる。なお、後工程を、レーザカットではなくエッチングや切削工具を用いた切削により行うようにしてもよい。
【0046】
次に、以上説明した生分解性ステント10の用途について簡略に説明する。
【0047】
生分解性ステント10の用途としては、バルーン拡張型ステントとしての用途が考えられる。この場合、生分解性ステント10は、バルーンの外側に密着固定させた状態で体内に挿入され、体内で当該バルーンが拡張される。このバルーンの拡張力により生分解性ステント10を目的部位におけるほぼ正常な管径まで変形させる。これにより、生分解性ステント10は、体内の管腔等の内部に密着固定されるとともに、当該管腔等の内部を拡張する。そして、管腔等の内部を正常な状態で維持しつつ、生分解性ステント10は自然と分解除去される。
【0048】
また、他の用途としては、自己拡張型ステントとしての用途が考えられる。この場合、生分解性ステント10は、シースを外側から被せることで畳まれた状態で体内に挿入され、体内でシースが引き抜かれる。これにより、生分解性ステント10は畳まれた状態から自然状態に復帰し、体内の管腔等の内部に密着固定されるとともに、当該管腔等の内部を拡張する。そして、管腔等の内部を正常な状態で維持しつつ、生分解性ステント10は自然と分解除去される。
【0049】
上記各用途のうち、特にバルーン拡張型ステントは冠動脈といった比較的細く屈曲した血管に対して用いられ、血管を拡張する機能だけでなく、屈曲した血管に追随する機能を要する。これに対して、本生分解性ステント10を用いることにより、剛性部11において血管を拡張する機能が果たされ、可撓性部12において屈曲した血管に追随する機能が果たされるため、バルーン拡張型ステントに必要な上記各機能が好適に発揮される。
【0050】
以上詳述したように本実施の形態では、生分解性ステント10は、複数の剛性部11と、当該剛性部11よりも剛性の低い生分解性材料を用いて形成され各剛性部11間を繋ぐ可撓性部12と、を備えている。これにより、体内の留置後に治療対象箇所を拡張した状態で維持するための剛性の機能が剛性部11により果たされ、体内への留置を行う上で要求される可撓性の機能が剛性部11よりも剛性の低い生分解性材料を用いて形成された可撓性部12により果たされる。例えば、単一の生分解性材料を用いて剛性及び可撓性の両機能を満たそうとすると、可撓性部12の肉厚を剛性部11よりも極端に小さくする必要が生じ、可撓性部12の機械的強度を満たすことが困難なものとなる。これに対して、上記のとおり剛性部11と可撓性部12とで個別の生分解性材料を用いることで、各機能に適した材料の選択を行うことが可能となり、上記のような不都合が生じない。
【0051】
また、上記第1の例乃至第3の例においては、剛性部11及び可撓性部12を同一の構成単位からなる共重合体を用いて形成したことにより、剛性部11と可撓性部12との接着強度が高められ、接着部分での境界剥離などを防止することが可能となる。
【0052】
ちなみに、線状材の剛性部11及び可撓性部12を相互に編み込むのではなく、可撓性部12の端部を剛性部11に一体化させた。そして、この剛性部11と可撓性部12との接続部分を生分解性ステント10の周面から外側及び内側に張出さないようにした。剛性部11と可撓性部12とを相互に編み込む構成を想定すると、両者の接続部分が生分解性ステント10の周面から外側又は内側に張出すこととなる。そうすると、その張出部分により治療対象箇所にて炎症が発生することが懸念される。これに対して、本構成によれば、このような炎症の発生を抑制することが可能となる。
【0053】
剛性部11及び可撓性部12を線状に形成したことにより、生分解性ステント10の拡張等が良好に行われる。当該構成において、剛性部11及び可撓性部12の肉厚を同一又は略同一としたことにより、可撓性部12の機械的強度が極端に弱くなることはない。また、当該構成であっても、可撓性部12が剛性部11よりも剛性の低い生分解性材料により形成されていることにより、生分解性ステント10の可撓性は確保される。
【0054】
本発明は上記実施の形態の記載内容に限定されず、例えば次のように実施しても良い。
【0055】
(1)生分解性ステント10の製造方法の別態様を図5に示す。
【0056】
図5に示す製造方法では、専用金型30を用いて射出成形により生分解性ステント10が形成されている。この専用金型30について詳細には、専用金型30は、第1外周部31と、第2外周部32と、軸部33と、を備えている。第1外周部31と第2外周部32とにより専用金型30の外側部分が構成され、これら第1外周部31と第2外周部32とを組み合わせることにより円柱状の空洞を有する箱が形成される。この空洞部分に円柱状の軸部33が収容されている。また、第1外周部31及び第2外周部32の内周面にはそれぞれ、生分解性ステント10の形状に対応した溝34,35が形成されている。また、第1外周部31には剛性部11及び可撓性部12に対応させて注入用孔36が内外に貫通させて形成されている。なお、図示は省略するが、第2外周部32にも可撓性部12に対応させて注入用孔が内外に貫通させて形成されている。第1外周部31及び第2外周部32の各注入用孔36に対しては外側からシリンダ37が接続されている。
【0057】
本製造方法では、図5(a)に示すように専用金型30を組み立てた状態において、剛性部11用のシリンダ37から溶融状態の剛性部11用材料を専用金型30内に射出するとともに、可撓性部12用のシリンダ37から溶融状態の可撓性部12用材料を専用金型30内に射出する。この場合、剛性部11用材料が可撓性部12側に又は可撓性部12用材料が剛性部11側に極力入り込まないように、各材料の粘度、射出量及び射出圧力が設定されている。
【0058】
その後、剛性部11用材料及び可撓性部12用材料が固まった後に、第1外周部31、第2外周部32及び軸部33を分解することで、図5(b)に示すように、生分解性ステント10が得られる。なお、生分解性ステント10の取り外しを良好に行うために、第1外周部31及び第2外周部32の内周面と、軸部33の外周面に離型処理を施しておくことが好ましい。
【0059】
本製造方法によれば、複雑な専用金型30を要するものの、上記実施の形態における製造方法よりも少ない工程数で生分解性ステント10を形成することができる。
【0060】
(2)上記実施の形態における生分解性ステント10の製造方法について、筒状体25を押出し成形により形成してもよい。
【0061】
(3)生分解性ステント10の変形例を図6に示す。
【0062】
図6に示す変形例では、生分解性ステント40は螺旋状に形成されている。当該生分解性ステント40においても、複数の剛性部41と、それら各剛性部41を連結する複数の可撓性部42と、を備えた構成とすることで、管腔等を拡張する上で必要な剛性と、目的部位に挿入する上で必要な可撓性との両方を得ることができる。ちなみに、当該生分解性ステント40であっても、上記実施の形態の製造方法や図5に示した製造方法を適用することができる。
【0063】
なお、生分解性ステントは、上記実施の形態や図6に示すものに限定されることはなく、複数の剛性部と、それら各剛性部を連結する複数の可撓性部と、を備えるのであれば、形状等は任意であり、面材を筒状としたものや、当該面材の壁部に当該壁部を貫通する貫通孔部を形成したものとしてもよい。また、メッシュ状としてもよく、糸状材を編み込んだような形状としてもよい。
【0064】
(4)生分解性ステント10を形成する材料として、生分解性材料に添加物を混合した材料を用いてもよい。例えば、添加物としてX線不透過材を混合した材料を用いて生分解性ステント10を形成してもよい。この場合、生分解性ステント10がX線不透過性を有することとなり、生分解性ステント10の目的部位への留置を良好に行うことができるようになる。また、添加物としてナノカーボン材料を混合した材料を用いてもよい。この場合、生分解性ステント10の機械的特性を向上させることができる。
【0065】
(5)上記実施の形態では、剛性部11の肉厚と可撓性部12の肉厚とを同一又は略同一としたが、剛性部11の肉厚を可撓性部12の肉厚よりも大きくしてもよく、可撓性部12の肉厚を剛性部11の肉厚よりも大きくしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】生分解性ステントを説明するための説明図。
【図2】デプシペプチドの構成を示す説明図。
【図3】本発明に係る3元共重合体を示す説明図。
【図4】生分解性ステントの製造方法を説明するための説明図。
【図5】他の製造方法を説明するための説明図。
【図6】他の生分解性ステントを説明するための説明図。
【符号の説明】
【0067】
10…生分解性ステント、11…剛性部、12…可撓性部、21…剛性部用領域、22…可撓性部用領域、25…筒状体、30…専用金型、40…生分解性ステント、41…剛性部、42…可撓性部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生分解性材料を用いて形成された複数の剛性部と、
当該剛性部よりも剛性の低い生分解性材料を用いて形成され前記各剛性部間を繋ぐ可撓性部と、
を備えていることを特徴とするステント。
【請求項2】
前記剛性部及び前記可撓性部を形成する生分解性材料は、同一の構成単位からなる共重合体であり、
当該共重合体の少なくとも一部の構成単位の含有量が異なっていることにより、前記可撓性部を形成する共重合体が前記剛性部を形成する共重合体よりも剛性が低くなっていることを特徴とする請求項1に記載のステント。
【請求項3】
ステント筒壁に内外に貫通した貫通孔部を有するように前記剛性部及び前記可撓性部は共に線状に形成されており、
前記剛性部及び前記可撓性部の肉厚が同一又は略同一となっていることを特徴とする請求項1又は2に記載のステント。
【請求項4】
複数の剛性部と、当該各剛性部間を繋ぐ可撓性部と、を備え、生分解性材料を用いて形成されるステントの製造方法であって、
前記可撓性部を形成する生分解性材料として前記剛性部の生分解性材料よりも剛性の低いものを用い、それら剛性部と可撓性部とを一体化させた状態で形成する形成工程を備えていることを特徴とするステントの製造方法。
【請求項5】
前記形成工程は、
前記剛性部用の生分解性材料により形成された剛性部用領域と前記可撓性部用の生分解性材料により形成された可撓性部用領域とが軸方向に交互に並設され、筒状の面構造となった筒状体を形成する工程と、
ステントの筒壁に内外に貫通した貫通孔部を有するように、前記剛性部用領域の一部を除去し前記剛性部を形成するとともに前記可撓性部用領域の一部を除去し前記可撓性部を形成する工程と、
を備えていることを特徴とする請求項4に記載のステントの製造方法。
【請求項6】
前記形成工程では、金型に対して前記剛性部用の生分解性材料と前記可撓性部用の生分解性材料とを個別に射出することにより、ステントの筒壁に内外に貫通した貫通孔部を有するように前記剛性部と前記可撓性部とを形成することを特徴とする請求項4に記載のステントの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−28289(P2009−28289A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−195363(P2007−195363)
【出願日】平成19年7月27日(2007.7.27)
【出願人】(393015324)株式会社グッドマン (56)
【Fターム(参考)】