説明

ステンレス鋼と銅のクラッド材から成る雨樋

【目的】本発明は、雨樋における雨水の流路面である内面にステンレス鋼と外面に銅層を備え経年変化を確認できる雨樋の提供を目的としたものである。
【構成】この目的を達成するため、従前のクラッド材の材質及び厚さに工夫を加えたもので、ステンレス鋼で200ミクロン以上乃至1700ミクロンの基板とその一方にリン脱酸銅による銅層を接合し形成した。銅層はリン:0.015%から0.04%を含み残部実質的に銅:99.9%から成るリン脱酸銅層を主成分とする銅合金でその厚さは50ミクロン以上乃至600ミクロンから成るクラッド材で、ステンレス鋼側を雨水流路として形成された雨樋。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステンレス鋼と銅とのクラッド材を利用して成る雨樋に関するもので、クラッド材の利点を雨樋に限定して製品化したものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、神社仏閣や文化財的建物等で銅製雨樋を使用した建造物は多々あり、外観の重厚さ及び耐久性から古来銅製が選ばれ施工されているものである。又銅の経年変化の美観が好まれて、全体の美的バランスから採用されてもいた。
しかし、近年の化学工業の発展は、有害な化学物質の地球規模での蔓延を生じさせて有害な酸性雨等公害の影響を直接受け、銅製品から成る雨樋の腐食が激しく雨漏りの原因となり建造物を傷め、特に、銅製雨樋を利用した文化財等の建造物では、早急の対応が必要となっていた。斯かる耐用年数の減少をもたらしている昨今の現状と又、世界的に銅材原料の不足は価格の高騰に影響し、その経済性において検討せざるを得ないのも実状である。
【0003】
しかるに、従前銅製雨樋を使用していた寺院等の建物において、雨樋部分を他の材質例えば合成樹脂或いは他の金属に変えての仕様は、全体の外観イメージの変化において奇異に認められ、特に、文化財等の建物においては止むを得ず従前と同様の高価な銅製雨樋を採用するしかないものであった。
又近年の銅原料の高騰により製品価格の高騰が認められる点より、外観上見えない部分への代替材料である合成樹脂等の併用が検討されている現状がよく見られるものである。
しかして、銅の外観で耐久性に優れた材質を検討した結果、複合材であるステンレス鋼と銅のクラッド材が最適である効用を知見し、その材質を利用して雨樋製品を製作できれば、極めて利用価値大なるものと判断したものである。
【0004】
ステンレス鋼と銅のクラッド材は、従来では主に熱交換器等に利用されたもので、本体に一般的に使用されているものであり、耐食性に優れたステンレス鋼によって形成された面と熱伝導性及び交換率に優れ、加工に便な銅層部分により成るものである。
したがって、熱交換器等に利用されるクラッド材であっても、一面において耐久性の認められたステンレス鋼が使用され、他面にあって「銅」としての外観が認められれば、その経済性からして極めて利用価値の良い雨樋が製作できるものである。
そこで出願人は、各種試作実験の結果雨水の流路部分である内面がステンレス鋼であり外面が銅であれば、従来に見られる銅製雨樋と同様の建物の全体イメージである外装を損なうことなく、外面の経年変化も良好に確認でき、耐久性に優れた従前に存在しない新規な雨樋等の提供が可能となる点に注目した。
【0005】
【特許文献1】特開2005−238298
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記従来技術におけるステンレス鋼と銅のクラッド材は、一般に熱交換器等に用いられた材料であり、出願人が製品化を望んだ雨樋においては、その製作工程においてステンレス鋼はフェライト系ステンレス鋼或いはオーステナイト系ステンレス鋼を利用し、銅板はリン脱酸銅を選択し、しかもクラッド材としてステンレス鋼を基板として、それに銅層を接合したもので雨樋を製品化するにはクラッド材として幅広の材料が必要であった。
即ち、銅製雨樋の製作工程にあっては、曲げや絞りや型嵌めプレス工程等を要するので、利用可能であるクラッド材としては、一定の幅広材料と適度の厚さを要するものである。
従来ステンレス鋼と銅とのクラッド材の製法である圧延接合法での冷間圧接では、圧接時に圧下率60%以上を確保するためには非常に大きな圧延荷重が必要で、その為に圧延材の幅寸法に自ずと制限が生じ、通常では300ミリメートル止まりで、せいぜい600ミリメートルが限界であった。
そこで本願発明は、基板についてステンレス鋼でフェライト系ステンレス鋼或いはオーステナイト系ステンレス鋼を使用し、銅層部はリン:0.015%から0.04%を含み残部実質的に銅:99.9%から成るリン脱酸銅層を選択し、圧延接合で基板及び銅層部の接合予定面に予め研磨処理(ブラッシング処理)として一次研磨、二次研磨を施し、更に、熱拡散接合処理を施して得られるクラッド材にて、雨樋を製作したものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、斯かる従来存在したステンレス鋼と銅のクラッド材を雨樋用に製作するに適した数値及び材質を限定して、その製造工程で工夫を加えての発明で、従前に存在しないクラッド材を利用した雨樋である。それは、圧延接合法で上下圧延ロールにより冷間圧接させ、その後に500℃から1050℃の熱拡散接合処理を施して得られるクラッド材である。
基板のステンレス鋼は、フェライト系で200ミクロンから1700ミクロン程度の厚さを要し、好ましくは300ミクロンから1500ミクロンの厚さである。
圧延接合で基板及び銅層の接合予定面に予め研磨処理(ブラッシング処理)として一次研磨、二次研磨を施し、更にその後、熱拡散接合処理を施し幅広で雨樋に適したクラッド材を得た。
【0008】
又製品化に当りプレス加工工程に耐えられるステンレス鋼の厚さは200ミクロンから1700ミクロンの範囲であり、銅層部は前記の通りリン:0.015%から0.04%を含み残部実質的に銅:99.9%から成るリン脱酸銅層を選択し、しかも銅層の厚さは、50ミクロンから600ミクロンの厚さである。更に、施工性や加工性を考慮するなら、クラッド材の厚さは300ミクロンから2000ミクロン程度が好ましい。例えば、2000ミクロンを超える厚さだと一般に使用されている板金バサミ等での切断に手間が係り施工性に疑問が生じ又、長尺の雨樋では重くなり施工しづらいものとなる。又、雨樋として2000ミクロンを超えるものは無く、産業上の利用価値は少ない。
更に、加工性からするなら厚くなれば、加工時に大きな力を必要とし、曲げや絞りによる加工工程では特段の工程設備を要する事となる。
しかし、逆に厚みを100ミクロン以下にした場合は、当然に薄いものであり施工や加工時に不注意でぶつけたときや強風等により簡単に変形してしまうものとなる。更に、加工性からするなら、プレス加工で切れや穴が開くおそれが認められる。
【発明の効果】
【0009】
このようにして得られたクラッド材にて製作された雨樋は、雨水の流路面である内面はステンレス鋼であるから、酸性雨や公害である化学物質を含んだ有害な雨水による腐食にも十分に耐えられる耐久性の優れたものであり、しかも外面である外観は、銅の光沢であり銅製としての重量感及び経年変化の美観等その建物のイメージに適応した意匠外装となるものである。
したがって、従前の銅製雨樋と比較して何ら違和感は認められず、寧ろ優れた耐久性が特徴の銅製雨樋との評価が認められるものである。特に、銅原材料の不足から生ずる価格の高騰を他の材質に代替した経済性が認められ、その効用極めて大なるものである。
又銅製雨樋の従前の製作工程設備で加工成型でき、安価に製作可能で極めて効用大なる雨樋が提供できるものである。
更に、神社仏閣を含め寺院や文化財等で従前から銅製雨樋が使用されている建造物で、その更新時における需要が期待でき、その経済的効果が大いに期待されるものである。
【実施例】
【0010】
以下、本発明を添付した図面に従って実施例を詳説する。
図1は、本発明に係るクラッド材の部分断面図であり、図2は、実施形態に係る雨樋の半丸軒樋の構造を示した部分断面図である。図3は、実施形態に係る雨樋の角軒樋の構造を示した部分断面図である。図4は、実施形態に係る雨樋の丸縦樋の構造を示した部分断面図である。図5は、本発明に係る上下圧延ロールの連続複合化工程の模式的説明図である。図6は、雨樋成型工程フロー図である。
基板としては、フェライト系ステンレス鋼として、SUS439、SUS430、SUS436、SUS410が用いられる。又SUS304やSUS316等のオーステナイト系ステンレス鋼でも差し支えない。しかし、オーステナイト系ステンレス鋼を用いた場合は、フェライト系ステンレス鋼よりその硬度が高く、その形状が特定のものに限定される事となるから、製品の種類により採用の選択が認められる。
材質硬度等施工性及び加工性からするならフェライト系ステンレス鋼が望ましいのは勿論である。
基板としての厚さは、雨樋のサイズや型により適宜選択可能であるが、施工性や加工性からして通常では200ミクロンから1700ミクロン程度であり、好ましくは300ミクロンから1500ミクロン程度が最適である。
【0011】
厚さ3000ミクロンのステンレス鋼基板2(材質SUS430)の片面に、厚さ1000ミクロン銅層3(リン脱酸銅)の薄板は材料矯正工程11を通り、一次研磨12、二次研磨13を通り、一次圧延20にて重ね合わせて圧延接合法で上下圧延ロールにより冷間圧接させ、その後に熱処理装置21にて500℃から1050℃の熱拡散接合処理を施し、仕上圧延22を通り得られる。ステンレス鋼基板2と銅層3が接合されたステンレス鋼基板300ミクロン、銅層100ミクロンのクラッド材1を得た。又ステンレス鋼基板2及び銅層3の接合予定面に予め研磨処理(ブラッシング処理)として一次研磨12、二次研磨13を施すことにより効果的な接合が促進できた。又熱拡散接合処理を繰り返す工程を経て厚さの調整も可能である。
研磨処理は特に銅は常温において容易に表面に酸化膜を形成しやすく、これは接合を妨げる大きな因子となる。又、ステンレス鋼の場合も銅ほどではないものの、それでもやはり接合に有害な酸化膜が形成されるので、両材料を活かした良好な接合面を確保するためには同様に研磨を施しておく必要がある。
更に、研磨により両材料の凹凸により接合面の強度が増加しているものと考えられる。それは研磨により材料の接合強度が強化され広幅成型化が可能となり、それによりクラッド材を利用した雨樋に適した広幅の形状としての成型が可能となった。得られたクラッド材1はロール23に巻き取られ、従来の雨樋の成型機に通して雨樋が製作される。
【0012】
得られたクラッド材は図6のフローの工程により軒樋に成型される。まず、材料をレベラーにて平滑にした後、ロール成型機に入る。ロール成型機では、耳巻工程を通り、ロールにて成型され図2のような半丸軒樋が製作される。この際の半丸軒樋を製作する銅材の材料硬度はビッカース硬度で60Hvから90Hvである。ステンレス鋼と銅から成るクラッド材の材料硬度は160Hvから190Hvと約2倍から3倍大きい。そのためロール成型時にロール圧を全て銅材の場合と比較して10kgfからクラッド材では20kgfと変更しての製作となる。
又雨樋の部品はプレス金型で形成されるが、クラッド材は材料の硬度が全て銅材のものと比較すると2倍から3倍大きく加工し難いため、銅材の金型SK材(詳しくは、SK3 金型の材質:炭素工具鋼鋼材 JIS G 4401 鉄鋼I)で同じように加工すると材料の切れや割れ、ねじれが発生する。それを改善すべく、金型にSKD材(詳しくは、SKD11 合金工具鋼鋼材 JIS G 4404 鉄鋼I)を利用し、更に、金型に焼き入れをし、硬い材料のクラッド材でも加工できるように滑りと寸法の調整を金型により補正し、材料硬度が約2倍から3倍違うクラッド材でも加工することができた。
このようにしてクラッド材を利用した雨樋は内面部である流水面にステンレス鋼が使用され、外面部である外装が銅層面のため耐久性に優れ、しかも銅の光沢であり銅製としての重量感及び経年変化の美感等その建物のイメージに適応した意匠外装となるものである。それは従前の銅製雨樋と変わらないものである。
又銅製雨樋の従前の製作工程設備でロール圧を変更する事により加工成型でき、安価に製作可能な極めて効用大なる雨樋が提供できるものである。更に、雨樋の部品は、金型の鋼種を変える事により銅製と変わらないものの製作ができた。
【産業上の利用可能性】
【0013】
叙述のように本発明のステンレス鋼と銅のクラッド材を利用した雨樋は、雨水の流路である内面部に耐久性に優れたステンレス鋼が使用され、外面部である外装に銅層が現れるから、全体の外観上が銅製雨樋と認められ、従来の銅製雨樋と比較し何等違和感は認められない。
よって、全部銅製と比較し耐久性に優れた、しかも極めて安価に製作でき経済性が認められるものである。
又製作工程にあっても、従前の圧延接合法で上下圧延ロールにより冷間圧接させ、その後に500℃から1050℃の熱拡散接合処理を施して得られたクラッド材を、従前の雨樋の製作工程ラインがそのまま使用可能であるから、特段に製作のための設備投資は不要であり、価格に影響大なるものと認められる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係るクラッド材の部分断面図
【図2】実施形態に係る雨樋(半丸軒樋)の構造を示した部分断面図
【図3】実施形態に係る雨樋(角軒樋)の構造を示した部分断面図
【図4】実施形態に係る雨樋(丸縦樋)の構造を示した部分断面図
【図5】本発明に係る上下圧延ロールの連続複合化工程の模式的説明図
【図6】雨樋成型フロー図
【符号の説明】
【0015】
A・・・・半丸軒樋
B・・・・角軒樋
C・・・・丸縦樋
1・・・・クラッド材
2・・・・ステンレス層基板
3・・・・銅層
11・・・材料矯正
12・・・一次研磨
13・・・二次研磨
20・・・一次圧延
21・・・熱処理装置
22・・・仕上圧延
23・・・ロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステンレス鋼で200ミクロンから1700ミクロンの厚さを形成した基板とその一方の面に銅層を用いて、予めその基板及び銅層部の接合予定面に研磨処理をおこない、圧延接合法により上下圧延ロールを通り冷間圧接し、次いで熱拡散接合処理を施して形成されたクラッド材から成り、ステンレス鋼側を雨水流路として形成したことを特徴とした雨樋。
【請求項2】
前記銅層の厚さは、50ミクロンから600ミクロンである請求項1に記載したクラッド材から成る雨樋。
【請求項3】
前記基板のステンレス鋼がオーステナイト系ステンレス鋼である請求項1乃至2に記載のクラッド材から成る雨樋。
【請求項4】
前記基板のステンレス鋼がフェライト系ステンレス鋼である請求項1乃至2に記載のクラッド材から成る雨樋。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−77743(P2010−77743A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−249459(P2008−249459)
【出願日】平成20年9月29日(2008.9.29)
【出願人】(000133180)株式会社タニタハウジングウェア (16)
【Fターム(参考)】