説明

スパッタリングターゲット及びその製造方法

【課題】 スパッタ法により良好にNa添加されたCu−Ga膜を成膜可能なスパッタリングターゲット及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】 スパッタリングターゲットのフッ素を除く金属成分としてGa:20〜40at%、Na:0.05〜1at%を含有し、残部がCu及び不可避不純物からなる成分組成を有し、NaはNaF化合物の状態で含有されている。また、このスパッタリングターゲットを作製する方法は、NaF粉末とCu−Ga粉末との混合粉末、又はNaF粉末とCu−Ga粉末とCu粉末との混合粉末からなる成形体を形成し、その後、真空、不活性ガスまたは還元雰囲気中で焼結する工程を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池の光吸収層を形成するためのCu−In−Ga−Se四元系合金膜を形成するときに使用するスパッタリングターゲット及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、化合物半導体による薄膜太陽電池が実用に供せられるようになり、この化合物半導体による薄膜太陽電池は、ソーダライムガラス基板の上にプラス電極となるMo電極層を形成し、このMo電極層の上にCu−In−Ga−Se四元系合金膜からなる光吸収層が形成され、このCu−In−Ga−Se四元系合金膜からなるこの光吸収層の上にZnS、CdSなどからなるバッファ層が形成され、このバッファ層の上にマイナス電極となる透明電極層が形成された基本構造を有している。
【0003】
上記Cu−In−Ga−Se四元系合金膜からなる光吸収層の形成方法として、蒸着法により成膜する方法が知られており、この方法により得られたCu−In−Ga−Se四元系合金膜からなる光吸収層は高いエネルギー変換効率が得られるものの、蒸着法による成膜は速度が遅いため、大面積成膜した場合、膜厚の面内分布の均一性が不足している。そのために、スパッタ法によってCu−In−Ga−Se四元系合金膜からなる光吸収層を形成する方法が提案されている。
【0004】
このCu−In−Ga−Se四元系合金膜をスパッタ法により成膜する方法として、まず、Inターゲットを使用してスパッタによりIn膜を成膜し、このIn膜の上にCu−Ga二元系合金ターゲットを使用してスパッタすることによりCu−Ga二元系合金膜を成膜し、得られたIn膜およびCu−Ga二元系合金膜からなる積層膜をSe雰囲気中で熱処理してCu−In−Ga−Se四元系合金膜を形成する方法(いわゆる、セレン化法)が提案されている(特許文献1参照)。
【0005】
一方、Cu−In−Ga−Se四元系合金膜からなる光吸収層の発電効率を向上させるため、この光吸収層へのNaの添加が要求されている。例えば、非特許文献1では、プリカーサー膜(Cu−In−Ga−Se四元系合金膜)中のNa含有量が0.1%程度が一般的と提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3249408号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】A.Romeo、「Development of Thin-film Cu(In,Ga)Se2 and CdTe Solar Cells」、Prog.Photovolt: Res. Appl. 2004; 12:93-111 (DOI: 10.1002/pip.527
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記従来の技術には、以下の課題が残されている。
すなわち、スパッタ法ではスパッタリングターゲットへのNa添加は非常に困難であるという問題があった。特に、特許文献1に記載のように上記セレン化法を用いる太陽電池の製造では、Cu−Ga膜を形成するためにCu−Gaターゲットが用いられるが、NaがCuに固溶しないこと、また金属Naの融点(98℃)及び沸点(883℃)が非常に低いこと、さらに金属Naが非常に酸化しやすいことから、金属NaをCu−Gaターゲットへ添加することは施行困難であるという不都合があった。
【0009】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたもので、スパッタ法により良好にNa添加されたCu−Ga膜を成膜可能なスパッタリングターゲット及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、Naが良好に添加されたCu−Gaターゲットを製造するべく研究を行った。その結果、金属Naの状態ではなく化合物状態のNaFとしてターゲットに添加すれば、良好にNaを添加可能であることを突き止めた。
したがって、本発明は、上記知見から得られたものであり、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。すなわち、本発明のスパッタリングターゲットは、スパッタリングターゲットのフッ素(F)を除く金属成分としてGa:20〜40at%、Na:0.05〜1at%を含有し、残部がCu及び不可避不純物からなる成分組成を有し、NaはNaF化合物の状態で含有されていることを特徴とする。
【0011】
このスパッタリングターゲットでは、スパッタリングターゲットのフッ素(F)を除く金属成分としてGa:20〜40at%、Na:0.05〜1at%を含有し、残部がCu及び不可避不純物からなる成分組成を有し、NaはNaF化合物の状態で含有されているので、スパッタ法により、融点(993℃)及び沸点(1700℃)が高く、かつ発電効率の向上に有効なNaを良好に含有したCu−Ga膜を成膜することができる。なお、このNaを含有したCu−Ga膜におけるフッ素(F)は、上記セレン化法によるプロセスでの高温加熱処理(ソーダライムガラスが軟化される温度以下、すなわち550℃程度以下)によって、膜から完全に除去することができる。
なお、Naの添加量を上記範囲内に設定した理由は、Cu−Gaターゲット中のNa含有量がNa:1at%を超えると、膜中にフッ素(F)が大量に取り込まれ、後の太陽電池製造工程で除去することが困難となり、同時に膜中のNa量も多く含有され過ぎることから、Cu−In−Ga−Se膜の緻密性を低下させ、発電特性を劣化させるためである。一方、Cu−Gaターゲット中のNa含有量が0.05at%より少ないと、膜中のNa量が不足し、発電効率の向上効果が得られないためである。なお、Cu−Gaターゲット中のNa含有量の好ましい量は、0.1〜0.5at%である。
【0012】
また、本発明のスパッタリングターゲットは、ターゲット素地中にNaFが分散している組織を有すると共に、前記NaFの平均粒径が5μm以下であることを特徴とする。
導電性のCu−Gaターゲットに導電性を有さない化合物状態のNaFを添加したことで、従来のCu−Gaターゲットと同様に直流スパッタをしようとすると、NaFに起因する異常放電が多発する。太陽電池の光吸収層は非常に厚く(例えば、1000〜2000nm)、従ってCu−Gaの膜厚が非常に厚いので、長時間のスパッタリングを要し、異常放電のためにスパッタリングが停止すると多大な成膜時間が必要となり、高速な直流スパッタができないと、太陽電池の量産が困難になる。こうした異常放電を抑制すべく、本発明のスパッタリングターゲットでは、ターゲット素地中のNaFの粒子サイズを最適化することで、従来のCu−Gaターゲットと同様の直流スパッタを可能にした。
すなわち、本発明のスパッタリングターゲットでは、ターゲット素地中にNaFが分散している組織を有すると共に、NaFの平均粒径を5μm以下にすることで、NaFによる異常放電を抑制して安定した直流スパッタが可能になる。含有するNaFは絶縁物であるため、平均粒径が5μmを越えると、異常放電が多発し、直流スパッタが不安定になる。したがって、本発明では、NaFの平均粒径を5μm以下に設定することで、異常放電が抑制され、安定した直流スパッタが可能になる。
なお、異常放電を抑制するためには、ターゲット断面をSEMを用いて観察する際の、0.1mm視野中でのNaF粒子は、粒子径が10〜40μmの大きなNaF粒子が存在する場合は3個以下であることが好ましい。
【0013】
また、本発明のスパッタリングターゲットは、ターゲット素地中のGaがCu−Ga二元合金の形態で含有されていることを特徴とする。
本発明者らは、NaFを添加した場合、ターゲット素地中のGa単体の存在は、ターゲットの耐スパッタ割れ性に影響を与えることを発見した。すなわち、Gaが単体でターゲットに含まれると、NaFを含有したCu−Gaターゲットは焼結後の機械加工の際に、非常に割れやすく、欠け等の加工欠陥も発生しやすいことがわかった。
これを解決すべく、本発明のスパッタリングターゲットでは、ターゲット素地中のGaをCu−Ga二元合金の形態で含有させることを特徴とする。すなわち、GaをCu−Gaの固溶体又は金属間化合物とすることにより、焼結後、機械加工後およびスパッタ中において、割れを生ずることなく、安定したスパッタを実現することができる。
【0014】
本発明のスパッタリングターゲットの製造方法は、NaF粉末とCu−Ga粉末との混合粉末、又はNaF粉末とCu−Ga粉末とCu粉末との混合粉末をあらかじめ作製し、この混合粉末を用いて行う次の3つの製法であることを特徴とする。すなわち、
(1)上記混合粉末から成形体を形成し、その後真空、不活性ガスまたは還元雰囲気中で焼結する工程を有していることを特徴とするスパッタリングターゲットの製造方法。
(2)上記混合粉末を、真空または不活性ガス雰囲気中でホットプレスする工程を有していることを特徴とするスパッタリングターゲットの製造方法。
(3)上記混合粉末を、熱間静水圧プレス法(HIP法)により焼結する工程を有していることを特徴とするスパッタリングターゲットの製造方法。
【0015】
すなわち、これらのスパッタリングターゲットの製造方法は、上記混合粉末を粉末焼結法により焼結することにより、NaFを均一に分散分布させることができる。
一方、溶解法で上記組成のスパッタリングターゲットを製造すると、993℃以上ではNaFが溶融し、CuやGaに比べ比重が低いため、溶湯の表面に偏析する問題があり、ターゲット中にNaFを均一に分散させることが難しい。また、NaFが常圧においては1000℃以上に加熱すると激しく蒸発するため、1000℃以上の温度で製造する溶解法を用いたスパッタリングターゲットにおいては添加したNaFの蒸発により組成が大きく変動する。一方、上記(1)〜(3)の粉末焼結法で作製した本発明のスパッタリングターゲットは、NaFがCu−Ga合金またはCu−Ga合金とCuとからなる素地中に分散して存在するため、焼結後、および焼結後の機械加工、さらにスパッタ中においても割れが発生することなく安定したスパッタが可能となる。
【0016】
また、本発明のスパッタリングターゲットの製造方法は、上記(1)の製法において、前記成形体形成後の焼結を、700〜950℃で行うことを特徴とする。
また、本発明のスパッタリングターゲットの製造方法は、上記(2)の製法において、ホットプレス温度を、500〜800℃で行うことを特徴とする。
また、本発明のスパッタリングターゲットの製造方法は、上記(3)の製法において、前記熱間静水圧プレスを、温度:500〜800℃、圧力:30〜150MPaの圧力で行うことを特徴とする。
【0017】
すなわち、これら本発明のスパッタリングターゲットの製造方法において、以上の条件で焼結を行うことで、スパッタリングターゲットの機械加工において割れを生じることなく、またスパッタ中において異常放電が少ないターゲットを得ることができるのである。
【0018】
なお、上記(1)の製造方法において焼結温度を上記範囲内に設定した理由は、700℃未満であると、ターゲット密度が十分に上がらず、スパッタリングターゲットをスパッタする際の異常放電が多くなるためである。一方、焼成温度が950℃を越えると、NaFの蒸発が開始し、ターゲットの組成が目標組成からのずれが発生する。なお、より好ましい温度は、700〜750℃の範囲内である。
【0019】
また、上記(2)の製造方法においてホットプレス温度を上記範囲内に設定した理由は、500℃未満であると、ターゲット密度が十分に上がらず、スパッタリングターゲットをスパッタする際の異常放電が多くなるためである。一方、ホットプレス温度が800℃を越えると、NaFがCu−Ga合金やCu粒子の粒界に移動し、焼結体の強度が低下し、機械加工時や、スパッタ中に割れや欠けが発生しやすくなるためである。なお、より好ましいホットプレス温度は、650〜750℃の範囲内である。
【0020】
また、上記(3)の熱間静水圧プレスの焼結温度と圧力とを上記範囲内に設定した理由は、500℃未満または30MPa未満であると、ターゲット密度が十分に上がらず、スパッタリングターゲットをスパッタする際の異常放電が多くなるためである。一方、上記焼結温度が800℃を越えると、スパッタリングターゲットの強度が低下し、機械加工時や、スパッタ中に割れや欠けが発生しやすくなる。なお、より好ましい焼成温度は、550℃〜650℃の範囲内である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、以下の効果を奏する。
すなわち、本発明に係るスパッタリングターゲット及びその製造方法によれば、スパッタリングターゲットのフッ素(F)を除く金属成分としてGa:20〜40at%、Na:0.05〜1at%を含有し、残部がCu及び不可避不純物からなる成分組成を有し、NaはNaF化合物の状態で含有されているので、スパッタ法により、発電効率の向上に有効なNaを含有したCu−Ga膜を成膜することができる。したがって、本発明のスパッタリングターゲットを用いてスパッタ法により光吸収層を成膜することで、Naを良好に添加でき、発電効率の高い太陽電池を作製可能である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係るスパッタリングターゲット及びその製造方法の一実施形態を説明する。
【0023】
本実施形態のスパッタリングターゲットは、スパッタリングターゲットのフッ素(F)を除く金属成分としてGa:20〜40at%、Na:0.05〜1at%を含有し、残部がCu及び不可避不純物からなる成分組成を有している。
また、本実施形態のスパッタリングターゲットは、ターゲット素地中にNaFが分散している組織を有すると共に、上記NaFの平均粒径が5μm以下である。
【0024】
なお、ターゲット断面をSEMを用いて観察する際の、0.1mm視野中でのNaF粒子は、粒子径が10〜40μmの大きなNaF粒子が存在する場合は3個以下であることが好ましい。
さらに、ターゲット素地中のGaが、Cu−Ga二元合金の形態で含有されている。
【0025】
上記本実施形態のスパッタリングターゲットを作製する方法は、NaF粉末とCu−Ga合金粉末との混合粉末、又はNaF粉末とCu−Ga合金粉末とCu粉末との混合粉末を予め用意し、この混合粉末を用いた次の3つの製造方法である。
(1)上記混合粉末を、加圧成形または加圧しないで成形モールドに充填、タッピングして一定のかさ密度を有する成形体にし、それを真空、不活性ガスまたは還元性雰囲気中で700℃〜950℃で焼結する製造方法。
(2)上記混合粉末を、真空または不活性ガス雰囲気中で500℃〜800℃の温度範囲内でホットプレスする製造方法。
(3)上記混合粉末を、熱間静水圧プレス法により温度:500℃〜800℃、圧力:30MPa〜150MPaの圧力にて焼結する製造方法。
【0026】
上記混合粉末を用意するには、例えば以下の(1)〜(3)のいずれかの方法で行う。
(1)NaFは、純度3N以上、一次粒子径0.3μm以下のものが好ましく、これを粉砕装置(例えば、ボールミル、ジェットミル、ヘンシェルミキサー、アトライター等)を用いて、平均二次粒子径5μm以下に解砕する。さらに、この解砕粉をターゲット組成のCu−Ga合金粉末と混合粉砕装置(例えば、ボールミル、ヘンシェルミル、ジェットミル、V型混合機等)を用いて混合粉砕し、原料粉として用意する。なお、NaFは水に溶解するので、水を使う湿式の混合粉砕装置よりも水を使わない乾式の混合粉砕装置の使用が好ましい。
【0027】
(2)NaFは、純度3N以上、一次粒子径0.3μm以下のものが好ましく、これを、あらかじめ用意したターゲット組成のCu−Ga合金粉末と同時に混合粉砕装置(例えば、ボールミル、ジェットミル、ヘンシェルミキサー、アトライター、V型混合機等)に投入し、混合及びNaFの解砕を同時に行い、NaFの平均二次粒子径が5μm以下になる時点で解砕を終了し、原料粉として用意する。
【0028】
(3)予め用意したCu−Ga合金粉末がターゲット組成のGaの含有量より多いCu−Ga合金粉末とし、これをNaFと混合してから、さらに、低Ga含有量のCu−Ga合金粉末(または純Cu粉)を追加し、目標とするスパッタリングターゲットの組成となるように混合し、原料粉として用意する。
【0029】
なお、上記(1)〜(3)のいずれかの方法で用意した原料粉は乾燥環境で保管することが好ましい。これは、NaFによる水分の吸湿や吸湿によるNaF粒子同士の凝集を防止するためである。
また、Cu−Ga合金やCuの酸化防止のため、常圧焼結やホットプレス、熱間静水圧プレスは、真空または不活性ガス雰囲気中または還元雰囲気中で行う。さらに、常圧焼結においては、雰囲気中での水素の存在は焼結性の向上に有利であり、雰囲気中の水素含有量は1%以上であることが好ましい。また、ホットプレスにおいては、ホットプレスの圧力がターゲット焼結体の密度に影響を及ぼすので、好ましい圧力は100〜500kgf/cmとする。また、加圧は、昇温開始前に行ってもよいし、一定の温度に到達してから加圧してもよい。
【0030】
次に、上記焼結したCu−Ga−NaF焼結体は、通常放電加工、切削または研削工法を用いて、ターゲットの指定形状に加工する。このとき、NaFは水に溶解するため、加工の際、冷却液を使わない乾式法または水を含まない冷却液を使用する湿式法が好ましい。また、湿式法で表面粗加工後、さらに乾式法で表面を加工してもよい。
【0031】
次に、加工後のターゲットをInを半田として、CuまたはSUS(ステンレス)またはその他金属(例えば、Mo)からなるバッキングプレートにボンディングし、スパッタに供する。なお、ボンディング部での接合面積率を測定するために、ターゲット全体を水に浸漬し、超音波を利用して半田層中の気泡や欠陥を特定する方法もあるが、NaFは水に溶けるため、このようなボンディング部の接合面積率を測定する際には、ターゲットと水とが直接に接触しないような工夫が必要である。例えば、ターゲット全面に油脂類を塗り、測定後この油脂を除去する方法や、ターゲットを防水シートで覆う方法などがある。
【0032】
なお、加工済みのターゲットの酸化、吸湿を防止するため、ターゲット全体を真空パックまたは不活性ガス置換したパックの中で保管することが好ましい。
【0033】
このように作製したCu−Ga−NaFターゲットのスパッタには、DCマグネトロンスパッタ装置を用い、スパッタガスとしてArガスを用いる。このときの直流(DC)スパッタは、パルス電圧を付加するパルスDC電源を用いてもよいし、パルスなしのDC電源でもよい。また、スパッタ時の投入電力は1〜10W/cmが好ましい。また、Cu−Ga−NaFターゲットで作成した膜の成膜の厚みは、1000〜2000nmとする。
【0034】
本実施形態のスパッタリングターゲットでは、スパッタリングターゲットのフッ素(F)を除く金属成分としてGa:20〜40at%、Na:0.05〜1at%を含有し、残部がCu及び不可避不純物からなる成分組成を有するので、スパッタ法により、融点(993℃)及び沸点(1700℃)が高く、かつ発電効率の向上に有効なNaを良好に含有したCu−Ga膜を成膜することができる。
また、ターゲット素地中にNaFが分散している組織を有すると共に、NaFの平均粒径を5μm以下にすることで、NaFによる異常放電を抑制して安定した直流スパッタが可能になる。
【0035】
さらに、ターゲット素地中のGaをCu−Ga二元合金の形態で含有させることで、GaをCu−Gaの固溶体又は金属間化合物とすることにより、焼結後、機械加工後およびスパッタ中において、割れを生ずることなく、安定したスパッタを実現することができる。
また、本実施形態のスパッタリングターゲットの製造方法では、上述した混合粉末による粉末焼結の方法を使用することで、NaFを溶解法よりも均一に分散させることができる。
【実施例】
【0036】
次に、本発明に係るスパッタリングターゲット及びその製造方法を、上記実施形態に基づき実際に作製した実施例により、評価した結果を説明する。
【0037】
「実施例」
まず、表1に示される成分組成および粒径を有するCu−Ga二元系合金粉末またはCu粉(純度4N)No.1〜15を用意し、さらに純度3N、一次平均粒子径0.2μmのNaF粉末を表1に示すように添加した。これらの原料を容積10Lのポリエチレン製ポットに入れ、さらにφ5mmのZrOボールを入れて、ボールミルにてNaFの二次粒子径が5μm以下になるまで混合粉砕した。得られた混合粉を表2に指定された焼結方法および焼結条件にて、焼結した。
【0038】
実施例12および13の常圧焼結の場合、混合粉末を金型に充填し、1500kg/cmの圧力にて常温にて加圧し、成形体を作った。
ホットプレスの場合、黒鉛モールドを用いて圧力:20MPaにて真空ホットプレスを行った。
熱間静水圧プレスの場合、まず混合粉末を金型に充填し、常温にて1500kgf/cmで加圧成形する。得られた成形体を0.5mm厚みのステンレス容器に装入した後、真空脱気を経て、熱間静水圧プレスに供した。
これらの焼結済みの焼結体を、乾式切削加工することにより、φ125(mm)×5(mm)Tのターゲット(実施例1〜15)を作製した。
【0039】
【表1】

【表2】

【0040】
「評価」
本実施例1〜15について、機械加工後のターゲットの欠け、割れ発生の有無を目視にて観察し、さらに得られた焼結体の組織を日本電子株式会社製JXA−8500Fにて電子プローブマイクロアナライザ(以下、EPMAという)で観察した。
また、EPMAでの観察において0.05mmの観察視野の写真(500倍)を10枚撮影し、その中で観察可能なNaF粒子(0.5μm以上)のサイズを測定し、平均粒径を計算した。同時に、0.1mm当たりの10〜40μmの粒径を有するNaF凝集体の個数を計算した。
【0041】
なお、NaF粒子の平均サイズは、例えば、以下(a)〜(c)の手順により測定することができる。
(a)フィールドエミッションEPMAにより500倍のCOMPO像(60μm×80μm)10枚を撮影する。
(b)市販の画像解析ソフトにより、撮影した画像をモノクロ画像に変換すると共に、単一しきい値を使用して二値化する。
これにより、NaF含有量が多い領域ほど、黒く表示されることとなる。
なお、画像解析ソフトとしては、例えば、WinRoof Ver5.6.2(三谷商事社製)などが利用できる。また、二値化とは、画像の各画素の輝度(明るさ)に対してある“しきい値”を設け、しきい値以下ならば“0”、しきい値より大きければ“1”として、領域を区別化することである。
【0042】
(c)この画像すべてを選択しない最大のしきい値を100%とし、30〜35%のしきい値を使用し黒い側の領域を選択する。
そして、この選択した領域を4回収縮し、3回膨張させたときの領域をNaF粒子とし、個々の粒子のサイズを測定する。
収縮および膨張の倍率としては、例えば、2.3%である。この操作により各粒子の面積から円に相当する直径を求め、粒径とする。
【0043】
また、ターゲット素地中におけるGa単体の存在は、焼結済みターゲットのXRDチャートを用い、Ga単体として同定した。すなわち、これらのホットプレス体の表面を研磨後(Ra:5μm以下)、X線回折(XRD)を行い、Ga単相に属するθ=15.24°(方位111)付近、22.77°(113)付近、23.27°(202)付近のピークにより、Ga単相の存在を同定した。
また、作製したCu−Ga−NaFターゲット中のGaおよびNaの含有量をフッ素を除く金属成分として、ICP法(高周波誘導結合プラズマ法)を用いて定量分析を行った。
【0044】
さらに、当該ターゲットをマグネトロンスパッタ装置を用いて、5W/cmの直流スパッタにより、Moスパッタ膜でコーティングした厚み3.2mm青板ガラスに1000nm成膜した。なお、Moスパッタ膜の厚みは500nmとした。
また、スパッタ時のAr圧力は1.3Paとし、ターゲット−基板間距離は70mmとした。なお、成膜時の基板加熱は行っていない。さらに、以上の条件において10分間の連続スパッタ中での、異常放電の発生回数をスパッタ電源に付属したアーキングカウンターにより自動的に記録した。
【0045】
このようなスパッタを5回繰り返した後、ターゲットの表面を観察し、スパッタ中におけるターゲット表面の欠けや割れの有無について目視にて観察した。その結果を、表3に示す。
【表3】

【0046】
また、前記EPMAにて各スパッタ膜の5箇所にてNa、F、Ga含有量を測定した。前記測定後、さらに、同サンプルを、純N中にて赤外線イメージ炉によって500℃×10min熱処理し、冷却後、再度EPMAにて膜中のNa、F、Ga含有量を測定した。その平均値の結果を表4に示す。
【表4】

【0047】
「比較例」
表5に示された成分組成及び粒径を有するCu−Ga粉末、またはCu粉末、Ga金属を用意し、さらに、表1と同様なNaFを用意した。これらの原料を本発明の実施例と同様の方法で混合した。このように混合したものは、表6の条件でホットプレス、常圧焼結、または熱間静水圧プレスにて焼結を行った。なお、比較例のターゲットは、いずれもNaの含有量が0.05〜1at%の範囲外となっている。
【0048】
また、表5中の比較例9,10は、真空溶解炉を用いて混合した粉末を、黒鉛製坩堝内にて溶解し、鉄製のモールドに鋳込み、冷却後、乾式切削による機械加工を行ったものである。
【表5】

【表6】

【0049】
上記比較例の評価は、上記実施例と同様に行った。その評価結果を表7及び表8に示す。
【表7】

【表8】

【0050】
まず、表6の組成分析結果に示されたように、溶解鋳造法による比較例9、10は、ICP組成分析による鋳造体から検出されたNaFの量が仕込み量に比べ顕著に少なくなっていることが判る。これは、溶解時にNaFが溶融しCuGa溶湯の表面に浮き、鋳塊内部にNaFがほとんど存在しないためである。また、鋳塊中に残存した小量のNaFは凝集傾向が強く、鋳塊中のNaF粒子サイズは実施例の粉末焼結法による焼結体のNaF粒子サイズより顕著に大きい。さらに、本実施例では、表3に示すように、機械加工時の割れ欠け及びスパッタ時の割れ欠けは、いずれも発生していないのに対し、比較例8,9,10では、表7に示すように、機械加工時の割れや欠けが発生していると共に、比較例1,2,3,4,11,12では、スパッタ時にも割れや欠けまたは顕著な異常放電が発生した。
【0051】
すなわち、Naの含有量が1.5at%と多く、粒径が10〜40μmのNaF凝集体個数が6と多いと共に金属Ga相が存在している比較例8と、溶解鋳造法による比較例9,10とは、機械加工時に割れや欠けが生じている。また、Naの含有量が1.5at%と多く、ホットプレス温度が950℃と高い比較例1と、Naの含有量が1.5at%と多く、NaFの平均粒径が10μmと大きい比較例2と、Naの含有量が1.5at%と多く、ホットプレス温度が300℃と低い比較例3と、大気にて常圧焼結し密度が十分に上がらなかった比較例11と、焼結温度が400℃、圧力が80MPaで熱間静水圧プレスにて焼結し密度が低い比較例12とは、スパッタ時に割れや欠けが生じている。
【0052】
また、本実施例では、スパッタ時の異常放電回数がいずれも50回以下であるのに対し、比較例1,2,3,4では、いずれも100回以上発生した。すなわち、Naの含有量が1.5at%と多く、ホットプレス温度が950℃と高い比較例1と、Naの含有量が1.5at%と多く、NaF平均粒径が10μmと大きい比較例2と、Naの含有量が1.5at%と多く、ホットプレス温度が300℃と低い比較例3と、Naの含有量が3at%と多い比較例4とは、多くの異常放電が発生している。
【0053】
さらに、本実施例では、熱処理前の膜中Naが、いずれも0.05at%以上含有されていると共に熱処理後の膜中Naが、いずれも0.3at%以上含有されている。なお、本実施例では、熱処理後の膜中F(フッ素)が、いずれも0at%であり、Fは熱処理によって膜から除去されることが判る。
また、本実施例では、いずれもXRDでは金属Ga単相が見られず、ターゲット素地中のGaのすべてがCu−Ga二元合金の形態で含有されていることがわかる。
【0054】
これに対して、比較例6では、熱処理前後の膜中Naが2at%以上であるが、熱処理後も膜中F(フッ素)が1at%以上残存してしまっている。また、Naの含有量が0.03at%及び0.02at%である比較例5,7では、熱処理前後の膜中Naが0.1at%以下でほとんど膜中に含有されていない。
なお、比較例1,2,3,4,8,9,10,11,12では、いずれも割れ欠けのため、熱処理前後の元素測定を行っていない。
【0055】
このように本発明のスパッタリングターゲットでは、Ga:20〜40at%を含有し、さらに、NaF化合物の状態でNa:0.05〜1at%を含有し、残部がCu及び不可避不純物からなる成分組成を有するので、スパッタ法により、融点及び沸点が高く、かつ発電効率の向上に有効なNaを良好に含有したCu−Ga膜を成膜することができる。
したがって、本発明のスパッタリングターゲットを用いてスパッタ法により光吸収層を成膜することで、Naを良好に膜中に添加でき、発電効率の高い太陽電池の作製が可能となる。
【0056】
なお、本発明の技術範囲は上記実施形態及び上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スパッタリングターゲットのフッ素(F)を除く金属成分としてGa:20〜40at%、Na:0.05〜1at%を含有し、残部がCu及び不可避不純物からなる成分組成を有し、NaはNaF化合物の状態で含有されていることを特徴とするスパッタリングターゲット。
【請求項2】
請求項1に記載のスパッタリングターゲットにおいて、
ターゲット素地中にNaFが分散している組織を有すると共に、前記NaFの平均粒径が5μm以下であることを特徴とするスパッタリングターゲット。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のスパッタリングターゲットにおいて、
ターゲット素地中のGaがCu−Ga二元合金の形態で含有されていることを特徴とするスパッタリングターゲット。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載のスパッタリングターゲットを作製する方法であって、
NaF粉末とCu−Ga粉末との混合粉末、又はNaF粉末とCu−Ga粉末とCu粉末との混合粉末からなる成形体を形成し、その後、真空、不活性ガスまたは還元雰囲気中で焼結する工程を有していることを特徴とするスパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか一項に記載のスパッタリングターゲットを作製する方法であって、
NaF粉末とCu−Ga粉末との混合粉末、又はNaF粉末とCu−Ga粉末とCu粉末との混合粉末を、真空または不活性ガス雰囲気中でホットプレスにて焼結する工程であることを特徴とするスパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項6】
請求項1から3のいずれか一項に記載のスパッタリングターゲットを作製する方法であって、
NaF粉末とCu−Ga粉末との混合粉末、又はNaF粉末とCu−Ga粉末とCu粉末との混合粉末を、熱間静水圧プレスにより焼結する工程であることを特徴とするスパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項7】
請求項4に記載のスパッタリングターゲットの製造方法において、
前記成形体形成後の焼結を、700〜950℃で行うことを特徴とするスパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項8】
請求項5に記載のスパッタリングターゲットの製造方法において、
ホットプレス温度を、500〜800℃で行うことを特徴とするスパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項9】
請求項6に記載のスパッタリングターゲットの製造方法において、
前記熱間静水圧プレスを、温度:500〜800℃で、かつ圧力:30〜150MPaの圧力で行うことを特徴とするスパッタリングターゲットの製造方法。

【公開番号】特開2011−117077(P2011−117077A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−241749(P2010−241749)
【出願日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】