説明

スパッタリングターゲット材の製造方法

【課題】 マグネトロンスパッタリング法に用いる透磁率の低減したスパッタリングターゲット材の製造方法の提供。
【解決手段】 スパッタリングターゲット材の粉末を熱間で固化成形し急冷することで、ターゲット材の結晶構造やターゲット組成または温度によらずターゲット材の透磁率の低減方法で、周期律表の8A族の4周期の元素のFe、Co、Niからなる粉末原料を、あるいは周期律表の8A族の4周期の元素のFe、Co、Niを主成分とし、これとAl、Ag、Au、B、C、Ce、Cr、Co、Cu、Ga、Ge、Dy、Fe、Gd、Hf、In、La、Mn、Mo、Nb、Nd、Ni、P、Pd、Pt、Ru、Si、Sm、Sn、Ta、Ti、V、W、Y、ZnおよびZrから成る元素群から選択した少なくとも主成分以外の1つの元素の粉末原料を熱間で成形し、冷却速度144〜36000℃/hrで300℃まで冷却してターゲット材とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタリング法にて薄膜を形成するために用いられるスパッタリングターゲット材の製造方法に関する。本発明は、磁性を有する合金材料から成り、例えば、磁気記録媒体や光磁気(MO)記録媒体の製造に利用され、高い磁場透過率(PTF)を有するスパッタリングターゲットの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、スパッタリングターゲット材は、金属、合金、半導体、セラミックス、誘電体、強誘電体あるいはサーメットの薄膜を形成するために広く利用されている。スパッタリングプロセスにおいて、物質源に、すなわち、スパッタリングターゲットに、プラズマから発生するイオンによる衝撃が加わると、そのイオンが、スパッタリングターゲット表面から原子又は分子を取除く又ははじき出し、はじき出された原子又は分子は、基板上に堆積されて薄膜被覆を形成する。スパッタリングは、薄膜のデータおよび情報記録検索媒体(例えば、磁気および光磁気(MO)媒体等)の製造において、下地層、中間層、磁気層、誘電体層あるいは保護膜層の形成に広く利用されている。
【0003】
なお、これら磁気記録媒体の軟磁性下地層(SULs)や磁気的に強い記録層の成膜には、一般にマグネトロンスパッタリング法が用いられている。このマグネトロンスパッタリング法とは、スパッタリングターゲット材の背後に磁石を配置し、スパッタリングターゲット材の表面に磁場を透過させて、その透過磁場にプラズマを収束させることにより、高速成膜を可能とするスパッタリング法である。
【0004】
例えば、磁気記録媒体の軟磁性下地層(SULs)や磁気的に強い記録層の形成に利用される合金は一般に透磁率が高い。すなわち、純Coスパッタリングターゲット材において、結晶構造を制御することで純Coスパッタリングターゲット材の透磁率を下げ、スパッタリングターゲット材の表面にマグネトロンスパッタリング法に必要十分な透過磁場を形成することが記載されている(例えば、特許文献1参照。)。また、低温での固化成形時に歪を与えることでスパッタリングターゲット材の透磁率を下げ、スパッタリングターゲット材の表面にマグネトロンスパッタリング法に必要十分な透過磁場を形成することが記載されている(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2001−514325号
【特許文献2】特開2008−127588号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したマグネトロンスパッタリング法は、スパッタリングターゲット材のスパッタ表面に磁場を透過させることに特徴があるため、磁気記録媒体の軟磁性下地層(SULs)や磁気的に強い記録層の形成に利用される磁性合金のようなスパッタリングターゲット材自身の透磁率が高い場合には、スパッタリングターゲット材のスパッタ表面にマグネトロンスパッタリング法に必要十分な透過磁場を形成するのが難しくなる。そこで、本発明が解決しようとする課題は、マグネトロンスパッタリング法におけるスパッタリングターゲット材自身の透磁率を極力低減する方法を提供することである。なお、スパッタリングターゲット材の作製方法は、粉末を、熱間で固化成形する方法が一般的である。
【0007】
透磁率を低減する手法の一例として、特許文献1のように、純Coスパッタリングターゲット材において、結晶構造を制御することで、透磁率を低減するという方法がある。しかし、特許文献1の方法は純Coスパッタリングターゲット材にのみ適応でき、結晶構造の変わるCoを主成分とする材料、またはCo以外の材料には適用できない。また、特許文献2のように、粉末の低温での固化成形時に歪を与えることで透磁率を低減するというような方法がある。しかし、この特許文献2の方法は、歪が回復する温度には適用できないという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述したような問題を解消するために、発明者らは鋭意検討した結果、粉末を熱間で固化成形後に急冷することで、結晶構造やスパッタリングターゲット組成、または温度によらず、スパッタリングターゲット材自身の透磁率を低減出来ることを見出し、本発明に到達した。
【0009】
すなわち、本発明の詳細は、粉末を熱間で固化成形することで得られるスパッタリングターゲット材であって、周期律表の8A族の4周期の元素のFe、Co、Niの粉末からなる、あるいは8A族の4周期のFe、Co、Niの少なくとも1つ以上の元素が合計で60at.%以上の主成分とし、これと材料Xからなる組成の粉末で、ここで、Xは、Al、Ag、Au、B、C、Ce、Cr、Cu、Ga、Ge、Dy、Gd、Hf、In、La、Mn、Mo、Nb、Nd、P、Pd、Pt、Ru、Si、Sm、Sn、Ta、Ti、V、W、Y、ZnおよびZrから成る元素群から選択した少なくとも1つの元素の粉末で、これらの組成の粉末からなる、スパッタリングターゲット材の製造方法として、粉末を熱間で固化成形したものを144℃/hr〜36000℃/hrの冷却速度で成形温度近傍から300℃まで冷却することを特徴とするスパッタリングターゲット材の製造方法である。この製造方法によると、熱間成形後に急冷することで、スパッタリングターゲット材に歪を与えて、透磁率を低減することができる。
【発明の効果】
【0010】
周期律表の8A族の4周期の元素のFe、Co、Niからなる粉末材料から、あるいは周期律表の8A族の4周期の元素のFe、Co、Niを主成分とし、これとAl、Ag、Au、B、C、Ce、Cr、Cu、Ga、Ge、Dy、Gd、Hf、In、La、Mn、Mo、Nb、Nd、P、Pd、Pt、Ru、Si、Sm、Sn、Ta、Ti、V、W、Y、ZnおよびZrから成る元素群から選択した少なくとも1つの元素との粉末材料から、本発明の方法により、安定なマグネトロンスパッタリングを行うために必要十分な透過磁場を形成できる磁性スパッタリングターゲット材が製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
周期律表の8A族の4周期の元素のFe、Co、Niからなる粉末から、あるいは周期律表の8A族の4周期の元素のFe、Co、Niの少なくとも1つ以上の元素を合計で60at.%以上の主成分とし、これとAl、Ag、Au、B、C、Ce、Cr、Co、Cu、Ga、Ge、Dy、Fe、Gd、Hf、In、La、Mn、Mo、Nb、Nd、Ni、P、Pd、Pt、Ru、Si、Sm、Sn、Ta、Ti、V、W、Y、ZnおよびZrから成る元素群から選択した少なくとも主成分以外の1つの元素との粉末から、原料を形成する。この様に形成した原料の粉末を封入缶に充填し、加熱時の粉末の酸化を防ぐために、到達真空度10-1Pa以上で脱気して真空封入する。次に、HIPによって、すなわち熱間等方圧プレスによって成形する。この場合、その前提条件として加熱温度はコバルトの融点未満の800〜1350℃、成形圧力100〜1000MPa、加熱保持時間1〜10時間の条件で成形する。次いで、本発明は、この成形したものを、加熱炉内で室温のArガスを循環させながら冷却速度144〜2880℃/hrで冷却するか、あるいは加熱炉から取り出し、大気中で冷却速度144〜2880℃/hrで空冷するか、又は水槽に投入して、冷却速度720〜36000℃/hrの水冷で冷却する。このように加熱炉内での冷却や空冷や水冷により急速に冷却することで、得られた物体からなるスパッタリングターゲット材に歪を与えて透磁率を下げるものとする。この場合、その冷却速度は冷却する物体の直径に依存したものである。
【0012】
また、HIP法に代わって、アップセット法で成形する。この場合は、前提条件として加熱温度はCoの融点未満の800〜1350℃、成形圧力100〜1000MPa、加熱保持時間1〜10時間の条件で成形体としたものを、本発明は、その後、大気中で冷却速度144〜2880℃/hrで空冷するか、あるいは水槽へ投入して、冷却速度720〜36000℃/hrの水冷で急冷する。空冷や水冷で急速に冷却することで、生成した物体に歪を与え透磁率を下げるものとする。この場合、その冷却速度は冷却する物体の直径に依存したものである。組成によっては冷却速度が大きすぎると、急冷によりもたらされる歪により割れてしまう場合がある。その場合は冷却方法により冷却速度を調整する。
【0013】
さらに、HIP法やアップセット法に代わり、熱間押し出し法で成形する。この場合は、前提条件として、加熱温度はCoの融点未満の800〜1350℃、成形圧力100〜1000MPa、加熱保持時間1〜10時間の条件で成形体としたものを、本発明は、その後、大気中で冷却速度144〜2880℃/hrで空冷するか、あるいは水槽へ投入して冷却速度720〜36000℃/hrの水冷で冷却する。空冷や水冷で急速に冷却することで、生成した物体に歪を与え透磁率を下げるものとする。この場合、冷却速度は冷却する物体の直径に依存したものである。組成によっては冷却速度が大きすぎると、急冷によりもたらされる歪により割れてしまう場合がある。その場合は冷却方法により冷却速度を調整する。
【0014】
上記の方法については、原料となる粉末の作製方法を限定するものでない。なお、所定の組成の成形体を得るにあたり、2種類以上の粉末を所定の割合で混合したものを用いてもよい。
【0015】
上記の方法については、原料となる粉末を封入するために用いる封入缶の材質は加熱温度で融点を超えない材質であれば限定するものではない。しかし、缶サイズは設備の制約上から直径20mm〜400mm、長さ40〜1200mmとする。
【実施例】
【0016】
以下、本発明について、実施例によって具体的に説明する。なお、スパッタリングターゲット材の透過磁場の多少は、スパッタリングターゲット材の透磁率に起因するものであることから、本発明においては、透磁率の測定によりスパッタリングターゲット材の透過磁場の評価を行うことにした。一方、透磁率は歪により敏感に変化する。すなわち、歪が多いと透磁率は大きく下がり、歪が少ないと透磁率は小さく下がる。そこで、透磁率の測定方法は、スパッタリングターゲット材を機械加工により外径15mm、内径10mm、高さ5mmのリング試験片に作製し、B−Hトレーサーにて印加磁場8kA/mにて透磁率を測定した。透磁率が低いと透過磁場が多くなり、透磁率が高いと透過磁場は少なくなる。周期律表の8A族の4周期の元素のFe、Co、Niからなる粉末を、あるいは周期律表の8A族の4周期の元素のFe、Co、Niの少なくとも1つ以上の元素を合計で60at.%以上の主成分とし、これとAl、Ag、Au、B、C、Ce、Cr、Co、Cu、Ga、Ge、Dy、Fe、Gd、Hf、In、La、Mn、Mo、Nb、Nd、Ni、P、Pd、Pt、Ru、Si、Sm、Sn、Ta、Ti、V、W、Y、ZnおよびZrから成る元素群から選択した少なくとも主成分以外の1つの元素との粉末を、原料とし、表1、表2、表3、表4、表5、表6および表7に示す製造工程で、スパッタリングターゲット材を作製した。なお、実施例1〜75、実施例84〜158、実施例167〜241、実施例250〜255は本発明例であり、比較例76〜83、比較例159〜166、比較例242〜249、比較例256〜265は本発明と対比するための比較例である。
【0017】
表中の原料粉末である合金粉末はそれぞれガスアトマイズ法によって作製した。ガスアトマイズ法の条件は、ガス種類がアルゴンガス、ノズル径が6mm、ガス圧が5MPaの条件で行った。作製した合金粉末は500μm以下に分級した粉末を使用している。その他の原料粉末である純物質の粉末は市販のものを使用している。合金粉末で二種類以上の粉末を使用したものはV型混合機により1時間攪拌したものを使用している。封入缶はJIS規定のS45C材を使用した。成形時の冷却速度はサーモトレーサーにて成形温度から300℃までの温度履歴を評価することで算出した。比較例に比べて本発明の実施例である早い冷却速度で冷却したスパッタリングターゲット材は透磁率が低下していることがわかる。
【0018】
【表1】

【0019】
【表2】

【0020】
【表3】

【0021】
【表4】

【0022】
【表5】

【0023】
【表6】

【0024】
【表7】

【0025】
実施例2、実施例68は同一のスパッタリングターゲット組成のものを、冷却方法を変えることで冷却速度を変えた対比した事例で、実施例2よりも実施例68のように冷却速度が速いほど歪が増え透磁率が下がっている。さらに、実施例40と実施例75と比較例83は同一のスパッタリングターゲット組成であるが、これらにおいて、実施例40は冷却速度が144℃/hrで、実施例75は冷却速度が36000℃/hrで、比較例83は冷却速度が130℃/hrで対比した事例で、実施例40、実施例75は共に比較例83に比べ、冷却速度が速いので透磁率が下がっている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末を熱間で固化成形することで得られる磁性を有する合金からなるスパッタリングターゲット材であって、周期律表の8A族の4周期の元素のFe、Co、Niからなる元素群より選択した少なくとも1つの元素で構成される粉末原料を用いて、あるいは周期律表の8A族の4周期の元素のFe、Co、Niからなる元素群より選択した少なくとも1つ以上の元素でその合計が60at.%以上である元素を主成分とし、残部がAl、Ag、Au、B、C、Ce、Cr、Cu、Ga、Ge、Dy、Gd、Hf、In、La、Mn、Mo、Nb、Nd、P、Pd、Pt、Ru、Si、Sm、Sn、Ta、Ti、V、W、Y、ZnおよびZrから成る元素群より選択した少なくとも1つの元素および不可避的不純物で構成される粉末原料を用いて、固化成形したスパッタリングターゲット材の製造方法として、粉末を熱間で固形成形した後、冷却速度144〜36000℃/hrで300℃まで冷却することにより製造することを特徴とする高い磁場透過率を有するスパッタリングターゲット材の製造方法。

【公開番号】特開2011−208265(P2011−208265A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−79812(P2010−79812)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000180070)山陽特殊製鋼株式会社 (601)
【Fターム(参考)】