説明

スパッタリング方法及びスパッタリング装置

【課題】 基板の全領域で高精度な膜厚分布の均一性を得ることのできるスパッタリング方法及び装置を実現する。
【解決手段】 成膜処理対象の基板9と成膜材料からなるターゲット2とを容器1内に対向配置し、ターゲット2の基板9側とは反対側に配置されたマグネット5をターゲット2の面に対して平行に往復移動させ、かつ、基板9を回転手段(回転機構部11)により回転させて基板9に成膜を行う。また、基板9に成膜される薄膜のマグネット5の長手方向Bに沿う膜厚分布が、基板9の両端部よりも中央部が厚くなるように設定した後に、マグネット5を往復移動させ、かつ、基板9を回転手段(回転機構部11)により回転させて成膜を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネトロン式スパッタリング方法及びスパッタリング装置に関し、特に均一な膜厚分布を得る技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、マグネトロン式スパッタリング装置と呼ばれるものの中には、容器内に基板とターゲットを対向配置すると共に、ターゲットの基板側とは反対側にマグネットを配置し、このマグネットをターゲットの面に対して平行に往復移動するように構成されているものがある。成膜を行う場合は、容器内を略真空に減圧しスパッタリングガスを封入した後、基板とターゲット間に電圧をかけてプラズマ放電させ、この状態でスパッタリングによる成膜を行うようにし、さらに、マグネットを往復移動させることにより、大型の基板に対応できるようにしている。一般に、このようなスパッタリング装置では、マグネットの往復移動の速度が一定であると、折り返し点において慣性力が働き、装置全体がその都度振動してしまうため、前記マグネットは、折り返し点近傍では一時的に減速・停止するようになっている。
【0003】
このような従来のスパッタリング装置においては、往復移動するマグネットは折り返し点の近傍で一時的に減速・停止するため、基板の両端部に対する滞在時間が長くなり、マグネットの往復移動方向では、基板の両端部近傍に堆積される膜の厚さが基板の中央部より厚くなるという問題があった。そこで、このような問題点に対して、往復移動するマグネットの位置に応じてT/S間距離(ターゲットと基板間の距離)を調整することにより、基板上に堆積される膜の膜厚を均一にする技術が、例えば特許文献1において開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2001−172764号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、マグネットが折り返し点近傍にあるときにT/S間距離を長くすることで上記の問題を解決しようとするものであるが、この方法では、基板の全領域で高精度な均一性を得ることは困難であり、また、成膜中にT/S間距離を長くしたり短くしたりする工程・装置が必要であるため、スパッタリング方法及びスパッタリング装置が複雑となってしまう。
本発明は、最も厚い膜厚値と最も薄い膜厚値との変異幅が小さく、基板の全領域で均一な膜厚分布を得ることのできるスパッタリング方法及びスパッタリング装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によるスパッタリング方法は、成膜処理対象の基板と成膜材料からなるターゲットとを容器内に対向配置し、前記ターゲットの前記基板側とは反対側に配置されたマグネットを前記ターゲットの面に対して平行に往復移動させながら前記基板に成膜を行うスパッタリング方法において、前記成膜中に前記基板を回転手段により回転させることを特徴とする。また、本発明によるスパッタリング方法は、前記基板に成膜される薄膜の前記マグネットの長手方向に沿う膜厚分布が、前記基板の両端部よりも中央部が厚くなるように設定した後に、前記マグネットを往復移動させ、かつ、前記基板を前記回転手段により回転させて成膜を行うことを特徴とする。また、本発明によるスパッタリング方法は、前記ターゲットと基板間との距離を距離調整手段により調整することを特徴とする。また、本発明によるスパッタリング方法は、前記マグネットの往復移動速度を速度制御手段により制御することを特徴とする。
【0007】
また、本発明によるスパッタリング装置は、成膜処理対象の基板と成膜材料からなるターゲットとが容器内に対向配置されると共に、前記ターゲットの前記基板側とは反対側に配置されたマグネットを前記ターゲットの面に対して平行に往復移動自在に設けてなるスパッタリング装置において、前記成膜中に前記基板を回転させる回転手段を設けたことを特徴とする。また、本発明によるスパッタリング装置は、前記基板とターゲットとの距離を調整する距離調整手段を有することを特徴とする。また、本発明によるスパッタリング装置は、前記マグネットの往復移動速度を制御する速度制御手段を有することを特徴とする。また、本発明によるスパッタリング装置は、前記回転手段、距離調整手段、速度制御手段を制御する制御手段を有することを特徴とする。また、本発明によるスパッタリング装置は、前記距離調整手段が調整する距離及び前記速度制御手段が制御する速度制御パターンを示すデータを記憶する記憶手段と、前記記憶されたデータを前記制御手段に設定する入力手段とを設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、成膜中に基板を回転させるようにしたことにより、基板の全領域にわたって均一な膜厚分布を得ることができる。
また、T/S間距離及びマグネットの速度制御パターンを制御することにより、さらに高精度に均一化された膜厚分布を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1は、本発明の実施の形態によるスパッタリング装置の本発明に関する部分の概念的な構成図、図2(a)は、マグネットの往復移動方向(矢印A方向)の膜厚分布を示す特性図、(b)は、マグネットの長手方向(矢印B方向)の膜厚分布を示す特性図である。
図1に示すように、内部が気密に保持された容器1内の上部にはターゲット2が設けられている。ターゲット2は後述する基板9に成膜される薄膜材料からなり、例えばAlが用いられる。ターゲット2には外部の放電用電源部3からプラズマ放電用のDC電力に高周波電力が重畳された電源電力が電極4を介して供給される。ターゲット2の基板9とは反対側には、マグネット5が往復移動機構部6(モータを含む)によりガイド軸7に沿って矢印A方向(ターゲット2の面に対して略平行)に往復移動自在に設けられている。マグネット5は、図1に示すように例えば中央にS極を配置しそれを囲むようにN極が配置されたマグネットが長手方向(図2の矢印B方向)に沿って設けられてなるものである。
【0010】
容器1内の下部には内部に基板保持部8が設けられ、容器1と連通する別の容器(不図示)から搬入される基板9を保持するとともに、基板9がターゲット2と対向して載置されるようになっている。基板9は成膜処理を施されるものであり、例えば半導体シリコンウェハ、液晶基板等である。基板保持部8は軸8aに支持され、距離調整手段としての上下動機構部10(モータを含む)により矢印C方向に上下動自在に設けられると共に、回転手段としての回転機構部11(モータを含む)により矢印D方向に回転自在に設けられている。このように上下動機構部10によって基板保持部8が矢印C方向に上下動にすることにより、ターゲット2と基板9間の距離(T/S間距離)lを調整できるようになっている。なお、ターゲット2と基板9による空間を囲むようにシールド部材(不図示)が設けられ、放電空間が形成されている。
【0011】
容器1内を真空状態にする排気部12と、真空状態の容器1内に例えばN2+Ar等のスパッタリングガスを供給するガス供給部13が設けられている。往復移動機構部6、上下動機構部10、回転機構部11、排気部12、ガス供給部13等は、制御部14によりそれぞれ動作タイミング等を制御される。また、制御部14は放電用電源部3を制御する。メモリ15には、T/S間距離lやマグネット5の速度制御パターン等の制御データが予め記憶されている。入力操作部16はメモリ15の制御データの設定操作、その他所定の入力操作がオペレータにより行われる。
【0012】
次に、本発明を原理的に説明する。前述したように、従来のスパッタリング装置においては、往復移動するマグネット5の折り返し点の近傍にあたる基板9の両端部での滞在時間が長くなるため、基板9の両端部の膜厚が中央部の膜厚より大きくなるという問題があった。図2(a)は円板状の基板9のマグネット5の移動方向に対する従来の膜厚分布を示すもので、図示のように基板9の両端部で膜厚が厚くなり、中央部で薄くなる谷形(凹形)のカーブを示している。
【0013】
本発明は上記の問題を解決するため、まず、マグネット5を静止した状態において、マグネット5の往復移動方向(図2の矢印A方向)の谷形のカーブ(図2(a))をキャンセルするような、山形(凸形)のカーブの膜厚分布(図2(b))を、マグネット5の長手方向(図2の矢印B方向)の膜厚分布において実現できるように、例えば、T/S間距離lを事前に調整しておく。次に、基板9を回転させながらマグネット5を往復移動させて、さらにマグネット5の往復移動速度を膜厚分布が均一になるように制御してスパッタリングによる成膜を行うものである。
【0014】
T/S間距離と膜厚分布の形状は、一般に次のように調整することが可能である。図3は、T/S間距離lを変えることによる膜厚分布の変化を示す図で、縦軸は規格化された膜厚を示し、横軸は基板9の中心からの距離を示す。一般に、図3の黒塗り四角(■)で示すように、T/S間距離lを小さくするほど基板9の中央部の膜厚分布が薄くなると共に、基板9の縁部の膜厚が厚くなる。一方、T/S間距離lを徐々に長くしていくと、膜厚分布は図3の黒塗り丸(●)で示すようになる。この場合、膜厚の薄いところ(中央部)と膜厚の厚いところ(縁部)との差は1%以内になり、良好な状態となる。T/S間距離lをさらに大きくすると、膜厚分布は図3の黒塗り三角(▲)で示すように中央部のみ平坦になる。
【0015】
図4(a)(b)(c)は、マグネット5の一往復の速度制御パターンと、各パターンに基づく基板の膜厚分布との関係を示す図である。図4に示すように、マグネット5の加速・等速・減速の各時間を変えることにより、基板9の中央部(膜厚分布カーブの谷の深さ)と縁部の膜厚を変化させることが可能である。したがって、膜厚の薄い領域は速度を遅くしてマグネットの滞在時間を長くし、膜厚の厚い領域は速度を速くしてマグネットの滞在時間を短くするように調節することが可能となる。このような複数の速度制御パターンがメモリ15に記憶され、入力操作部16によりオペレータが選択できるようになっており、速度制御手段は、少なくとも、前記のような速度制御パターンが記憶されたメモリ15と、この速度制御パターンに基づいて往復移動機構部6を制御する制御部14とを有するものとして構成される。
【0016】
上述の本実施の形態による実際の成膜動作は以下のようになる。
まず、容器1内の基板保持部8に、容器1と連通する別の容器(不図示)から搬入される基板9を保持するとともに、排気部12を動作させて容器1内を減圧した後、ガス供給部13を動作させて容器1内にガスを供給し、容器1内を所定の圧力とする。次に、マグネット5をターゲット2の中央部に移動させて停止させ、この状態で放電用電源部3を動作させ、所定の電圧をターゲット2・基板9間に供給する。これにより放電空間においてプラズマ放電が行われ、スパッタリングによる成膜処理が行われ、マグネット5の長手方向に沿う基板9の膜厚分布を測定し、図2(b)のような山形(凸形)のカーブになっていることを確認する。
【0017】
次に、往復移動機構部6によりマグネット5を所定速度で往復移動させると共に、回転機構部11により基板9を所定速度で回転させながら成膜処理を行う。そして適当なタイミングで基板9の中心から半径方向の膜厚分布を測定する。測定の結果、基板中心部と基板周縁部の膜厚が等しいか否かを判定し、等しくなければマグネット5の速度制御パターンを例えば図4から選択する。その場合、膜厚の厚い部分に対しては速くし、薄い部分に対しては遅くするような速度制御パターンを選択する。そして選択された速度制御パターンを用いてマグネット5を速度制御しながら基板9を回転して成膜を行う。膜厚分布の測定は、例えば、公知のエリプソメータを用いて行われる。
【0018】
なお、一例として素アルミニウムAlNにより膜厚1μmの膜を得る場合の成膜条件としては、以下の通りである。
基板:Φ150mmSi基板
スパッタリングガス:80%N2+Ar
容器内圧力:0.08Pa
放電用電力:RF4.8kW+DC4.5kW
T/S間距離:94mm
基板温度:約300℃
基板回転数:32rpm
マグネット往復周期:約0.5Hz
【0019】
前記設定が終了すれば、前記T/S間距離・速度制御パターン等の設定内容を維持しながら、他の基板に対する成膜処理を繰り返し行うことによって、膜厚分布が高精度な均一性を有する成膜基板を容易に大量生産することができる。
【0020】
以上説明した本実施の形態によれば、成膜中に基板9を回転させることにより、マグネット5の長手方向と往復移動方向の膜厚分布をキャンセルして均一な膜厚分布を得ることができる。
また、この場合、基板9の径方向に微妙な不均一性が残るので、T/S間距離l及びマグネット5の速度制御パターンを微調整することにより、上記不均一性を解消することができ、さらに高精度な膜厚分布の均一性を得ることができる。
また、T/S間距離lの調整及びマグネット5の往復移動の速度制御パターンは予めメモリ15に数値として記憶しておき、成膜時にこの数値から選択すればよいので、操作が簡単である。
【0021】
本発明によるスパッタリング方法により得られた膜厚の膜厚分布の均一性に関する実験データとしては、直径150mmの基板を用い、その中心から半径方向に5mmピッチで90mmまで、かつ、回転方向に回転角度30度ピッチで計12筋、基板上の全測定ポイント数を228ポイント(中心を1回としてカウントすると217ポイント)として膜厚を測定した。その結果、前記228ポイントについて膜厚分布の標準偏差σを式(1)に基づいて求めた。
【0022】
上記の条件下での実験によれば、標準偏差σの3倍値3σ=0.39%を得ることができ、基板の全領域で高精度で均一な膜厚分布を得られることが実証された。
【0023】
なお、本実施の形態によるスパッタリング装置の説明に用いたプラズマ放電用の電力や往復移動マグネットの構成等は例示的なものであり、これに限定されるものではない。例えば、スパッタリングされる材料が金属であれば、プラズマ放電用電力としてはDC電力又は高周波電力が採用され、また、マグネットについてもN・S・N(又はS・N・S)の磁極が着磁されたものに限定されるものではない。従って、本発明は特許請求の範囲に記載される技術思想の範囲を逸脱しない限り、様々な実施の形態に変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施の形態によるスパッタリング装置を示す構成図である。
【図2】マグネットの移動方向(矢印A方向)及び長手方向(矢印B方向)に対する膜厚分布を示す特性図である。
【図3】T/S間距離と膜厚分布の関係を示す特性図である。
【図4】マグネットの速度制御パターンと、各パターンに基づく膜厚分布との関係を示す特性図である。
【符号の説明】
【0025】
1 容器
2 ターゲット
5 マグネット
9 基板
10 上下動機構部
11 回転機構部
14 制御部
15 メモリ
16 入力操作部
l T/S間距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成膜処理対象の基板と成膜材料からなるターゲットとを容器内に対向配置し、前記ターゲットの前記基板側とは反対側に配置されたマグネットを前記ターゲットの面に対して平行に往復移動させながら前記基板に成膜を行うスパッタリング方法において、
前記成膜中に前記基板を回転手段により回転させることを特徴とするスパッタリング方法。
【請求項2】
前記基板に成膜される薄膜の前記マグネットの長手方向に沿う膜厚分布が、前記基板の両端部よりも中央部が厚くなるように設定した後に、前記マグネットを往復移動させ、かつ、前記基板を前記回転手段により回転させて成膜を行うことを特徴とする請求項1に記載のスパッタリング方法。
【請求項3】
前記ターゲットと基板間との距離を距離調整手段により調整することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のスパッタリング方法。
【請求項4】
前記マグネットの往復移動速度を速度制御手段により制御することを特徴とする請求項1乃至請求項3のうち、いずれか1に記載のスパッタリング方法。
【請求項5】
成膜処理対象の基板と成膜材料からなるターゲットとが容器内に対向配置されると共に、前記ターゲットの前記基板側とは反対側に配置されたマグネットを前記ターゲットの面に対して平行に往復移動自在に設けてなるスパッタリング装置において、
前記成膜中に前記基板を回転させる回転手段を設けたことを特徴とするスパッタリング装置。
【請求項6】
前記基板とターゲットとの距離を調整する距離調整手段を有することを特徴とする請求項5に記載のスパッタリング装置。
【請求項7】
前記マグネットの往復移動速度を制御する速度制御手段を有することを特徴とする請求項5又は請求項6に記載のスパッタリング装置。
【請求項8】
前記回転手段、距離調整手段、速度制御手段を制御する制御手段を有することを特徴とする請求項5乃至請求項7のうち、いずれか1に記載のスパッタリング装置。
【請求項9】
前記距離調整手段が調整する距離及び前記速度制御手段が制御する速度制御パターンを示すデータを記憶する記憶手段と、前記記憶されたデータを前記制御手段に設定する入力手段とを設けたことを特徴とする請求項8に記載のスパッタリング装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2007−138275(P2007−138275A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−337635(P2005−337635)
【出願日】平成17年11月22日(2005.11.22)
【出願人】(000227294)キヤノンアネルバ株式会社 (564)
【Fターム(参考)】