説明

スパッタリング装置

【課題】装置のダウンタイムを低減し生産性を向上するスパッタリング装置を提供する。
【解決手段】スパッタリング装置10は、外部より低圧な雰囲気に維持可能なチャンバ12と、チャンバ12内で基材14を保持する保持部16と、保持部16で保持された基材14に周面が対向するように設けられた回転可能な回転陰極18であって、表面のターゲット材料をスパッタリングするための電力が供給される筒状の回転陰極18と、回転陰極18の表面に金属材料を供給可能な金属材料供給手段と、成膜室22と金属材料供給室24との間のガスの移動を規制するガス遮蔽部材130と、を備える。金属材料供給手段は、化学反応により回転陰極18の表面にターゲット材料として成膜される原料を外部から供給可能な原料供給路220を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタリング装置に関し、特に回転陰極を有するスパッタリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
スパッタリング装置は、真空中においてターゲット材料を高いエネルギーを持つ粒子により気相中に蒸発させ、これを基材あるいは基板上に堆積する薄膜形成装置である。またスパッタリング装置の一種に、磁場によりプラズマを閉じこめることでスパッタリングの効率を上げることが可能なマグネトロンスパッタリング装置が知られている。このようなマグネトロンスパッタリング装置においてターゲットが固定されている場合、ターゲットの消耗が一様でないため、いわゆるレーストラックが生じる。このようなレーストラックを解消するスパッタリング装置として、シリンダ状の陰極の表面にターゲットを担持し軸方向を回転中心としたマグネトロンスパッタリング装置が知られている(特許文献1乃至5参照)。
【0003】
このようなスパッタリング装置で基材上に薄膜を製造する場合、ターゲットとして例えば厚さ5〜10mmの金属板が用いられる。しかしながら、成膜を繰り返すことでターゲットは消耗するため、適当なタイミングで装置を停止し、消耗したターゲットを新規なターゲットと交換する必要がある。その際、真空に近い圧力に保持されていたチャンバを開放し大気圧に戻すと、チャンバ内壁に堆積された薄膜が薄片状となり、真空室内壁から剥離することがある。ターゲットの交換の際、通常はチャンバの内壁に設置された金属防着板をも装置から取り外し交換する。そのため、これらの交換作業に例えば6〜12時間が費やされることで、装置の停止時間が増大し、ひいては生産性の低下を招くことになる。
【特許文献1】特開平6−158312号公報
【特許文献2】米国特許第4417968号明細書
【特許文献3】欧州特許出願公開第0119631号明細書
【特許文献4】国際公開第91/07519号パンフレット
【特許文献5】国際公開第91/07521号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のスパッタリング法を用いずに気体あるいは液体の金属材料から直接的に薄膜を形成する技術として、いわゆる化学気相成長法やスプレー法が知られている。しかしながら、これらの方法では、例えば、高密度の薄膜を形成するためには、基材あるいは基板の温度を高くする必要がある。また、スプレー法においては、膜厚や膜物性の制御性に劣るという問題があった。
【0005】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、装置のダウンタイムを低減し生産性を向上するスパッタリング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様のスパッタリング装置は、外部より低圧な雰囲気に維持可能なチャンバと、チャンバ内で基材を保持する保持部と、保持部で保持された基材に周面が対向するように設けられた回転可能な回転陰極であって、表面のターゲット材料をスパッタリングするための電力が供給される筒状の回転陰極と、回転陰極の表面に薄膜材料を供給可能な材料供給手段と、保持部が設けられた成膜室と材料供給手段が設けられた材料供給室との間のガスの移動を規制するとともに、回転陰極が回転可能な隙間を有して該回転陰極が配置される開口部が形成されたガス遮蔽部材と、を備える。材料供給手段は、化学反応により回転陰極の表面にターゲット材料として成膜される原料を外部から供給可能な原料供給路を有する。
【0007】
この態様によると、回転陰極の表面のターゲット材料が基材への成膜により消耗しても、原料供給路から材料供給室へ気体や液体の状態で原料を供給し、その原料が新たに回転陰極の表面にターゲットとして供給されるため、装置を停止せずにスパッタリングによる基材上への成膜を続けることができる。ここで、薄膜材料とは、薄膜として形成されうる材料を含み、例えば、純金属、合金、金属酸化物、金属窒化物、半導体材料(シリコン、ゲルマニウム、化合物半導体)、炭素系材料、有機高分子材料(ポリイミド、ポリアミド、ポリテトラフルオロエチレン)等が例示される。
【0008】
回転陰極の表面が室温より高温となるように加熱する加熱手段を更に備えてもよい。これにより、原料の分解や反応が促進され、回転陰極の表面に十分な速度でターゲット材料が形成される。
【0009】
材料供給室の内部でプラズマを発生させるプラズマ発生手段を更に備えてもよい。これにより、原料の分解や反応が促進され、成膜温度をさげることができる。
【0010】
プラズマ発生手段は、容量結合型であってもよい。ここで、容量結合型プラズマ(CCP:Capacitively Coupled Plasma)は、例えば、平行平板の間に高周波電力を供給することで発生するものである。これにより、比較的低温であっても原料の分解や反応が促進される。
【0011】
プラズマ発生手段は、誘導結合型であってもよい。ここで、誘導結合型プラズマ(IPC:Inductively Coupled Plasma)は、例えば、誘導コイルに高周波電流を流すことで発生するものである。これにより、比較的低温であっても原料の分解や反応が促進される。
【0012】
原料供給路は、気相成長により回転陰極の表面にターゲット材料として成膜される、炭化水素、金属フッ化物、金属塩化物、金属水素化物および有機金属化合物の少なくとも一つを含む原料を供給してもよい。
【0013】
なお、上述した各要素を適宜組み合わせたものも、本件特許出願によって特許による保護を求める発明の範囲に含まれうる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、装置のダウンタイムを低減し生産性を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。
【0016】
(第1の実施の形態)
図1は、第1の実施の形態に係るスパッタリング装置の全体構成の概略断面図である。本実施の形態に係るスパッタリング装置10は、外部より低圧な雰囲気に維持可能なチャンバ12と、チャンバ12内でガラス基板やシリコンウェーハなどの基材14を保持するとともに陽極を兼ねる保持部16と、保持部16で保持された基材14に周面が対向するように設けられた回転可能な回転陰極18と、回転陰極18の表面に金属等の薄膜材料を供給可能な金属材料供給手段としての原料供給路220と、原料供給路220から供給された原料ガスを加熱するヒーター222と、保持部16が設けられた成膜室22と原料供給路220が設けられた金属材料供給室24との間のガスの移動を規制するとともに、回転陰極18が回転可能な隙間26を有して回転陰極が配置される方形の開口部28が形成されたガス遮蔽部材130と、を備える。成膜室22には、アルゴンなどの不活性ガスが供給される不活性ガス供給路46が設けられている。
【0017】
回転陰極18は、表面のターゲット材料をスパッタリングするための電力が供給される円筒形状のスリーブ34と、スリーブ34を回転駆動する不図示の駆動部と、スリーブ34の内周側に設けられ磁場を発生する磁石36と、を有している。このような磁石36によりプラズマが生じる領域を規制することで、プラズマがターゲット付近に封じ込められ、スパッタ速度の向上が図られる。また、高周波でも使用できるとともに、プラズマが基材付近で発生しないように制御することが可能となり、保持部16における基材14上の金属化合物膜にダメージを与えずに、スパッタリングが可能となる。
【0018】
なお、スリーブ34の表面に予めターゲット材料が形成された回転陰極18を用いてもよいが、アルミニウムやSUSからなるスリーブ34の露出した面に原料供給路220から供給される原料ガスによりターゲット材料を形成して回転陰極18として用いてもよい。ターゲット材料としては、チタニウム、インジウム、スズ、亜鉛、セリウム、ビスマス、ジルコニウム、ニオブ、タンタル等の高屈折率材料の成分となりうるものが例示される。また、必要に応じてシリコンなどをターゲット材料として用いてもよい。
【0019】
回転陰極18は、スパッタリングを実質的に行う際に印加される電圧が負であるパルス状の電力が供給されている。これにより、ターゲット38の表面に電荷が蓄積することが緩和され、異常放電が抑制される。なお、回転陰極に電力を供給する電源は、直流方式でも交流方式でもよい。
【0020】
原料供給路220は、原料ガスが回転陰極18に向かうようにノズルが配置されている。原料ガスとしては、金属フッ化物、金属塩化物、金属水素化物、有機金属化合物等が用いられる。具体的には塩化チタニウムや六フッ化モリブデンが例示される。原料供給路220から供給された液体または気体の原料は、ヒーター222により加熱され、回転陰極18の表面における化学反応によって還元、分解され、回転陰極18上に金属として堆積する。原料供給路220から回転陰極18への原料の供給は、回転陰極18上のターゲット38の厚み等に応じて連続的にあるいは断続的に行われるようにすればよい。また、スリーブ34の表面に予めターゲット材料が形成された回転陰極18を用いてもよいが、アルミニウムやSUSからなるスリーブ34の露出した面に原料供給路220から供給される原料によりターゲット材料を形成して回転陰極18として用いてもよい。
【0021】
上述のように、本実施の形態に係るスパッタリング装置210は、原料供給路220により外部から連続的な原料の供給が可能なため、ガス遮蔽部材130により隔てられている成膜室22で基材14を交換するだけで複数の基材に対する連続的な成膜が行える。また、原料供給路220が設けられている金属材料供給室24から気相成長の際の原料となる気体が成膜室22へ流出することが抑制される。
【0022】
換言すると、回転陰極18の表面のターゲット38が基材14への成膜により消耗しても、原料供給路220から金属材料供給室24へ気体や液体の状態で原料を供給し、その原料が新たに回転陰極18の表面にターゲットとして供給されるため、装置を停止せずにスパッタリングによる基材14上への成膜を続けることができる。
【0023】
なお、成膜室22および金属材料供給室24には、内部に導入された不活性ガスや反応性ガス、原料ガスを外部に排出する排出口50,52が設けられている。排出口50,52にはそれぞれ別個の真空排気装置が接続されている。これにより、成膜室22と金属材料供給室24との圧力をそれぞれ制御することが可能となり、例えば、成膜室22の圧力を金属材料供給室24の圧力より僅かに高くすることで金属材料供給室24内の原料ガスが成膜室22に流入することが抑制される。
【0024】
上述のようにスパッタリング装置10は、ターゲット38の表面に、連続的に金属あるいは金属化合物等の材料を供給することを可能とすべく、回転陰極18に加えて金属材料供給源として原料供給路220を備えている。また、ガス遮蔽部材130により、成膜室22に導入された不活性ガスと金属材料供給室24の原料ガスとが混合することが抑制される。そのため、原料供給路220から回転陰極18への金属の供給が可能となる。そして、回転陰極18を常にあるいは間欠的に回転することにより、回転陰極18のターゲット38上に常に金属薄膜を形成することができるため、ターゲットの交換による装置のダウンタイムを抑え、生産性を向上することができる。
【0025】
(チタニウム金属薄膜の成膜方法)
スパッタリング装置10を用いてチタニウム金属薄膜を基材上に形成する方法について詳述する。はじめに、アルゴンガスをキャリアとしてバブリング装置により気化された塩化チタニウムが原料供給路220から金属材料供給室24に導入される。そして、赤外線のヒーター222により、3〜30rpmにて回転している回転陰極18の表面を塩化チタニウムが十分に分解される350℃程度に加熱する。これにより、回転陰極18の表面に金属のチタニウムが堆積する。
【0026】
一方、放電ガスとして機能するアルゴンガスを、不活性ガス供給路46より回転陰極18が設けられている成膜室22へ導入する。その際のアルゴンガスの圧力を0.4Paとする。次に、長さ500mmの回転陰極18を回転させた状態で、回転陰極18に約3kWの直流電力を供給し、基材14側の磁気回路を含む領域に放電を起こし、基材14上にチタニウム薄膜を形成する。
【0027】
(シリコン金属薄膜の成膜方法)
スパッタリング装置10を用いたシリコン金属薄膜を基材上に形成する方法について詳述する。はじめに、アルゴンガスをキャリアとしてシラン(SiH)が原料供給路220から金属材料供給室24に導入される。その際、ドーパントガスとしてホスフィン(PH)ガスを混合する。シランの圧力はおおよそ1.0Pa、ホスフィンの分圧は0.03Pa程度とする。そして、赤外線のヒーター222により3〜30rpmにて回転している回転陰極18の表面をシランが十分に分解される300℃程度に加熱する。これにより、回転陰極18の表面に金属のシリコンが堆積する。
【0028】
一方、アルゴンガスを、不活性ガス供給路46より回転陰極18が設けられている成膜室22へ導入する。その際の混合ガスの圧力を1.0Paとする。次に、長さ500mmの回転陰極18を回転させた状態で、回転陰極18に100kHzの逆バイアスのパルスを有する約3kWの直流電力を供給し、基材14側の磁気回路を含む領域に放電を起こし、基材14上にリンドープされたシリコン薄膜を形成する。
【0029】
(第2の実施の形態)
図2は、第2の実施の形態に係るスパッタリング装置110の全体構成の概略断面図である。本実施の形態に係るスパッタリング装置110は、金属材料供給室24に原料の分解を促進するプラズマ発生手段を設けた点が第1の実施の形態と異なる大きな点である。以下では、第1の実施の形態と異なる点について詳述し、同じ点については同じ符号を付し適宜説明を省略する。
【0030】
本実施の形態に係るスパッタリング装置110は、金属材料供給室24に設けられた金属材料供給源としての原料供給路220と、原料供給路220から供給された原料ガスを加熱するヒーター222と、原料供給路220が設けられた金属材料供給室24と成膜室22との間のガスの移動を規制するとともに、回転陰極18が回転可能な隙間26を有して回転陰極18が配置される方形の開口部28が形成されたガス遮蔽部材130と、金属材料供給室24の内部においてプラズマを発生するプラズマ発生手段250と、を備える。本実施の形態に係るプラズマ発生手段250は、高周波電流を流す誘導コイル252を有する誘導結合型の装置であるが、例えば、平行平板の間に高周波電力を供給することでプラズマを発生させる容量結合型プラズマ装置であってもよい。
【0031】
(チタニウム金属薄膜の成膜方法)
金属材料供給室24にプラズマ発生手段250が設けられているスパッタリング装置110を用いてチタニウム金属薄膜を基材上に形成する方法について詳述する。はじめに、アルゴンガスをキャリアとしてバブリング装置により気化された塩化チタニウムが原料供給路220から金属材料供給室24に導入される。そして、赤外線のヒーター222により3〜30rpmにて回転している回転陰極18の表面を250℃程度に加熱するとともに、プラズマ発生手段250の誘導コイル252に500Wの高周波電力を供給する。これにより、より低温環境において塩化チタニウムが十分に分解され、回転陰極18の表面に金属のチタニウムが堆積する。
【0032】
一方、アルゴンガスを、不活性ガス供給路46より回転陰極18が設けられている成膜室22へ導入する。その際のアルゴンガスの圧力を0.4Paとする。次に、長さ500mmの回転陰極18を回転させた状態で、回転陰極18に約3kWの直流電力を供給し、基材14側の磁気回路を含む領域に放電を起こし、基材14上にチタニウム薄膜を形成する。
【0033】
(第3の実施の形態)
本実施の形態では、第1の実施の形態に係るスパッタリング装置10を用いて二酸化チタニウム薄膜を基材上に形成する方法について詳述する。はじめに、アルゴンガスをキャリアとしてバブリング装置により気化された塩化チタニウムが原料供給路220から金属材料供給室24に導入される。そして、赤外線のヒーター222により、3〜30rpmにて回転している回転陰極18の表面を塩化チタニウムが十分に分解される350℃程度に加熱する。これにより、回転陰極18の表面に金属のチタニウムが堆積する。
【0034】
一方、アルゴンガスと反応性ガスとしての酸素ガスを、不活性ガス供給路46より回転陰極18が設けられている成膜室22へ導入する。その際、アルゴンガスの圧力を0.4Pa、酸素ガスの分圧を0.08Paとする。次に、長さ500mmの回転陰極18を回転させた状態で約3kWの直流電力を供給し、基材14側の磁気回路を含む領域に放電を起こし、基材14上に二酸化チタニウム薄膜を形成する。
【0035】
(第4の実施の形態)
本実施の形態では、上述のような各実施の形態に係るスパッタリング装置を用いて太陽電池用シリコン薄膜を形成する方法について詳述する。
【0036】
従来、薄膜シリコン太陽電池のシリコン層は主にシラン(SiH)ガスを原料とするプラズマ化学気相成長法により作製されていた。プラズマ化学気相成長法においては、プラズマ中においてシランガスがSiHあるいはSiHなどの形に分解され、その活性を高めることにより基板上における反応を促進し、薄膜を形成していた。100℃程度の基板温度においても電池動作が可能な微結晶薄膜を得ることは可能であったが、より効率のよい電池セルを得る場合には基板温度を400℃〜500℃まで高くする必要があった。同時に薄膜品質を高めるためには、いわゆる高次副生成物の生成を抑制するとともにこれを成膜室より速やかに除去する必要があった。
【0037】
スパッタリング法を用いてシリコン層を形成すると、当然スパッタリング法の特長としての基板温度の低温化、大面積基板への膜厚および特性の均一化、プロセス再現性の向上等が期待される。さらに、高次副生成物による薄膜品質の低下という問題も抑制される。しかしながら、大面積ターゲットの形成の困難さ、およびスパッタリング時におけるシリコンターゲットからの微小のシリコン片が応力等により異物として飛散し、基板上に付着することによるシリコン層における欠点の発生などにより、スパッタリング法によるシリコン層形成は工業的には実用化されるに至っていなかった。
【0038】
そこで、スパッタリング法の利点を生かす共に、ターゲットの交換によるダウンタイムを抑制することが可能な上述のスパッタリング装置を用いることで、薄膜シリコンを生産する方法について説明する。図1に示すスパッタリング装置10において、シリコン原料を気体として原料供給路220から供給するとともに、これをいったん回転陰極18表面において固体ターゲットとし、これをスパッタリングすることにより基板上に最終的なシリコン薄膜を得る。ターゲットとして用いられる回転陰極18表面に堆積したシリコンは薄層であり、熱応力やスパッタリング時に誘起される応力により異物として飛散することはなく、基材上の層に欠点を形成することはない。
【0039】
このように、スパッタリング法によりシリコン層が形成されることにより、大きな運動量を持ったスパッタリング粒子が、温度が低い基板上において高密度の薄膜を形成するというスパッタリング法本来の特長を生かすことが可能となる。これは、プラズマ化学気相成長法において薄膜の高密度に対する物理的な運動量の寄与がないことに比較するとスパッタリング法による薄膜形成の大きな利点となる。また、シランから生成される高次副生成物は薄膜形成室に流入することなく排気され、薄膜品質に影響することはない。さらに、本発明の特徴である薄膜原料を連続的に供給できることも生産におけるメンテナンスのための装置停止時間の低減という利点をもたらす。
【0040】
具体的には、HをキャリアガスとしてシランSiHを金属材料供給室24に供給する。ドーパントとして同時に所定量のジボラン(B)を供給する。そして、ヒーター222により回転陰極18の温度を200℃程度にまで加熱し、表面上にシリコンを堆積する。回転陰極18に直流あるいはパルス電力を供給し、薄膜形成室側に放電を発生させ、スパッタリングにより基板上にシリコン薄膜を形成する。基板温度は、200℃とする。必要に応じて更に基板温度を上げてもよい。生成されたシリコン層は微結晶であり、シリコン片の飛散による欠点の発生等はみられなかった。
【0041】
このように、本発明は、スパッタリング法による高速、緻密な膜生成という特徴と、CVDやスプレー法等の原料を連続的に供給できるという特徴を組み合わせることで今までにない斬新なスパッタリング装置を実現するものである。そして、熱分解反応あるいはプラズマに支援された熱分解反応により、供給された原料がターゲット上に金属として連続的あるいは断続的に堆積される。
【0042】
そして、ターゲットがスパッタリングされることで基材あるいは基板上に形成された薄膜は、薄膜となる材料自身のエネルギーが高いという特徴を持つため、基材あるいは基板の温度を高くすることなく、膜密度が高い、あるいは膜の基材あるいは基板への付着力が大きい薄膜を形成することができる。その結果、従来の化学気相成長法あるいはスプレー法において必要とされた基板温度よりも低い温度での成膜が可能となる。
【0043】
また、ターゲットの交換のためのスパッタリング装置の停止時間(ダウンタイム)の低減が達成される。また、基板上に堆積される薄膜は、スパッタリング法により形成されるため、スパッタリング法の特徴である、機械的、光学的、あるいは電気的物性に優れた薄膜を堆積でき、また、大面積化も容易となる。
【0044】
以上、本発明を上述の実施の形態や各実施例を参照して説明したが、本発明は上述の実施の形態や各実施例に限定されるものではなく、実施の形態や各実施例の構成を適宜組み合わせたものや置換したものについても本発明に含まれるものである。また、当業者の知識に基づいて実施の形態や各実施の形態における組合せや工程の順番を適宜組み替えることや各種の設計変更等の変形を実施の形態に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態や各実施例も本発明の範囲に含まれうる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、電気・電子機器、電子デバイス、車両、建築、装飾品などの多岐にわたる分野における利用が可能である。例えば、電気機器用に用いられる、金属を被覆したプラスチックフィルムの作製においては、金属薄膜を連続的にかつ基材であるプラスチックフィルムを低温に保ったまま形成することが可能となる。車両用あるいは建築用板ガラスへの薄膜形成においては、例えば、ステンレススチール薄膜の連続的な形成が可能となる。なお、本発明は、これらのスパッタリング法の特徴を生かしながら連続的あるいは断続的に薄膜を形成するプロセスに適宜利用される。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】第1の実施の形態に係るスパッタリング装置の全体構成の概略断面図である。
【図2】第2の実施の形態に係るスパッタリング装置の全体構成の概略断面図である。
【符号の説明】
【0047】
10 スパッタリング装置、 12 チャンバ、 14 基材、 16 保持部、 18 回転陰極、 22 成膜室、 24 金属材料供給室、 26 隙間、 28 開口部、 34 スリーブ、 36 磁石、 38 ターゲット、 46 不活性ガス供給路、 50 排出口、 110 スパッタリング装置、 130 ガス遮蔽部材、 210 スパッタリング装置、 220 原料供給路、 222 ヒーター、 250 プラズマ発生手段、 252 誘導コイル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部より低圧な雰囲気に維持可能なチャンバと、
前記チャンバ内で基材を保持する保持部と、
前記保持部で保持された基材に周面が対向するように設けられた回転可能な回転陰極であって、表面のターゲット材料をスパッタリングするための電力が供給される筒状の回転陰極と、
前記回転陰極の表面に薄膜材料を供給可能な材料供給手段と、
前記保持部が設けられた成膜室と前記材料供給手段が設けられた材料供給室との間のガスの移動を規制するとともに、前記回転陰極が回転可能な隙間を有して該回転陰極が配置される開口部が形成されたガス遮蔽部材と、を備え、
前記材料供給手段は、化学反応により前記回転陰極の表面にターゲット材料として成膜される原料を外部から供給可能な原料供給路を有する、
ことを特徴とするスパッタリング装置。
【請求項2】
前記回転陰極の表面が室温より高温となるように加熱する加熱手段を更に備えることを特徴とする請求項1に記載のスパッタリング装置。
【請求項3】
前記材料供給室の内部でプラズマを発生させるプラズマ発生手段を更に備えることを特徴とする請求項1または2に記載のスパッタリング装置。
【請求項4】
前記プラズマ発生手段は、容量結合型であることを特徴とする請求項3に記載のスパッタリング装置。
【請求項5】
前記プラズマ発生手段は、誘導結合型であることを特徴とする請求項3に記載のスパッタリング装置。
【請求項6】
前記原料供給路は、気相成長により前記回転陰極の表面にターゲット材料として成膜される、炭化水素、金属フッ化物、金属塩化物、金属水素化物および有機金属化合物の少なくとも一つを含む原料を供給することを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のスパッタリング装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−52149(P2012−52149A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−334312(P2008−334312)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(593165487)学校法人金沢工業大学 (202)
【Fターム(参考)】