説明

スパッタ装置

【課題】大サイズの基板に透明導電膜を成膜するスパッタ装置において、棒状電極がその自重による撓み及び基板の枚数増加に伴いう電極に堆積する透明導電膜の応力による撓みを抑制して膜厚分布の均一性を確保するスパッタ装置の提供にある。
【解決手段】
基板13を垂直方向に対し傾けて立てた状態で透明導電膜14を成膜し、ターゲット11と棒状電極12を備えたチムニーが前記基板13と平行に配置されたスパッタ装置において、前記棒状電極12の上端が固定され、その下部が電極保持部21に穿設された棒状電極の径より大きめの貫通孔22を通り、前記電極保持部21と下端に固定されたバネ押さえ板23とで挟まれたコイル状の圧縮バネ30を設けたスパッタ装置1である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板上に透明導電膜を成膜するスパッタ装置に関するものであり、特に、面付けされる、或いは大型の液晶表示装置の製造用として、大面積のガラス等基板上に、マグネトロン方式で透明導電膜を成膜し、成膜された膜厚の分布をより均一にするスパッタ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、液晶表示装置用のカラー表示用の液晶パネルの製造で、基板上に透明導電性のITO膜(インジウムスズの複合酸化物)をマグネトロン方式で施すスパッタ装置が知られ、その生産に際し、生産性の向上と低コスト化のための面付け生産の面から、あるいは近年の大型の液晶表示装置の出現の面から、大面積の基板上に成膜するマグネトロンスパッタ方式のスパッタ装置が用いられるようになってきた。
【0003】
上記の大面積の基板上へのスパッタ装置の事例として、例えば、図1の概略構成図に示すように、スパッタチャンバー(10)内に設置されたITO焼結体でなるターゲット(11)と複数本の棒状電極(12)を備えたチムニー(5)の前を平行に走行する基板(13)上の表面にITOの透明導電膜(14)を形成するスパッタ装置(1)であり、その走行方向(P)から見た図として、例えば、図6の断面概略図に示すように、大面積のガラスでなる基板(13)を垂直方向に対し上端が下側に5°程度傾斜させ立てた状態で搬送しながらスパッタ処理を行うもので、このように立てた状態とするのは大面積のガラスでなる基板(13)では、水平にするとこの大面積のガラス基板(13)の自重により反りが発生し、このため基板上の膜厚が不均一になるのを防止するためである。この大面積の基板(13)に対応して、棒状電極(12)のサイズも大きくなり、特に、図示しないが、その棒状電極の両端を固定していた従来の場合においては、棒状電極の熱伸びおよび自重により、撓みが大きく発生し、放電の安定性に欠け、その結果成膜されるITOの膜厚分布が不均一になるという問題があった。
【0004】
上記問題点を解決するものとして、例えば、図6に示すように、棒状電極(12)の上端を5°程度傾けたチムニー(図示せず)に付随する電極取付部(20)の電極固定部(25)に固定し、その下端を電極保持部(21)に穿設されていて棒状電極(12)より大きい径の貫通孔(22)を通してフリーにして位置制御しているスパッタ装置がある(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
以下に、上記先行技術文献を示す。
【特許文献1】特開2007−126694号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の従来技術においては、大サイズの棒状電極(12)の自重による撓みを完全に防止することができず、かつ成膜の枚数が増加するにしたがい棒状電極(12)の表面に透明導電膜が堆積してくると、その堆積した透明導電膜の応力によって棒状電極(12)に撓みが生じ、その結果として基板(13)上の膜厚分布が不均一となるという問題があった。
【0007】
上記棒状電極(12)の撓みについて検証すると、例えば、図7(a)の側面概略図に示すように、上端がチムニー(5)の電極取付部(20)に固定され、下部が電極取付部
(21)に穿設されている貫通孔(図示せず)に挿入されてフリーになっている棒状電極(12)を、高さ(H)2360mmのチムニー(5)ごと、壁(K)からの距離(G)が1335mmの地点にチムニー(5)の下端が接するように傾斜させて立て掛け、チムニー(5)中に下端がフリーになっている状態の棒状電極(12)の撓み量を測定したところ、例えば、図7(b)のグラフに示すように、この棒状電極(12)の両端に比べその中央部では約40mmの撓み量であった。
【0008】
また、成膜の処理枚数の増加とともに発生する棒状電極表面への透明導電膜の堆積量は、例えば、図8(a)及び(b)の模式図に示すように、棒状電極(12)のターゲット(図示せず)側にはITOの透明導電膜(14)が厚く堆積され、その背面側には薄く堆積されるようになる。このようにそれぞれ両面側の堆積量が異なると、図8(c)の模式図に示すように、堆積したITOの透明導電膜(14)の応力によって、透明導電膜(14)の厚い方を内側にして湾曲撓みが生じるようになり、この湾曲撓みを解消するため、従来は、頻繁に棒状電極(12)の洗浄を行わなければならないという煩わしさと共に生産性にも影響するという問題があった。
【0009】
本発明は、かかる従来技術の問題点を解決するものであり、その課題とするところは、基板の成膜面とターゲットとの間で、かつそれぞれとを平行に配置された複数の棒状電極を備えたチムニーとでなり、前記チムニーを垂直方向もしくは垂直方向に対し上端が下側になるように傾けて立てた状態で成膜処理するスパッタ装置において、前記棒状電極がその自重による撓み及び基板の枚数増加に伴い電極に堆積する透明導電膜の応力による撓みを抑制して膜厚分布の均一性を確保するスパッタ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に於いて上記課題を達成するために、まず請求項1の発明では、基板を垂直方向もしくは垂直方向に対し傾けて立てた状態で該基板に透明導電膜を成膜し、ターゲットおよび接地された複数の棒状電極が前記基板の成膜面に対し平行に配置されたスパッタ装置において、前記接地された複数の棒状電極の上端が固定され、その下部が電極保持部に穿設された棒状電極の径より大きめの貫通孔を通り、前記電極保持部と下端に固定されたバネ押さえ板とで挟まれるようにバネを設けたことを特徴とするスパッタ装置としたものである。
【0011】
また、請求項2の発明では、前記バネは、コイル状の圧縮バネであることを特徴とする請求項1記載のスパッタ装置としたものである。
【0012】
さらにまた、請求項3の発明では、前記基板に透明導電膜を形成する成膜法はマグネトロンスパッタ方式によることを特徴とする請求項1または2記載のスパッタ装置としたものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明は以上の構成であるから、下記に示す如き効果がある。
【0014】
即ち、上記請求項に係る発明によれば、基板を垂直方向もしくは垂直方向に対し傾けて立てた状態で透明導電膜を成膜し、ターゲットおよび接地された複数の棒状電極が前記基板の成膜面に対し平行に配置されたマグネトロンスパッタ方式のスパッタ装置において、前記接地された複数の棒状電極の上端が固定され、その下部が電極保持部に穿設された棒状電極の径より大きめの貫通孔を通り、前記電極保持部とその下端に設けられたバネ押さえ板とで挟むようにコイル状の圧縮バネを設けたことによって、棒状電極がその自重による撓み及び電極に堆積する透明導電膜の応力による撓みを抑制して膜厚分布の均一性を確保するスパッタ装置とすることができる。
【0015】
すなわち電極保持部とバネ押さえ板に挟まれたコイル状の圧縮バネの広がろうとする力を利用して、棒状電極に常に引っ張る力を加えることによって、棒状電極の自重による撓みを矯正し、かつ透明導電膜の付着による膜応力による撓みをも矯正し、棒状電極が常に真っ直ぐな状態を維持することができる。その結果、ターゲット、棒状電極および基板が常に平行状態を維持し、基板上の透明導電膜の膜厚分布を均一に保つスパッタ装置とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下本発明を実施するための最良の形態を図面を用いて詳細に説明する。
【0017】
図1は、本発明のスパッタ装置の概略構成図であり、スパッタチャンバー(10)内に配設されているITO焼結体でなるターゲット(11)および複数本の棒状電極(12)を備えたチムニー(5)の前を、それと平行に基板(13)が走行方向(P)に走行して通過すると、その基板(13)の表面に透明導電膜(14)が形成されるようになっている。
【0018】
また、図2は、本発明のスパッタ装置の一実施の形態を示すもので、そのうちの図2(a)は、図1の走行方向から見た側面図であり、ITO焼結体でなるターゲット(11)と複数本の棒状電極(12)とそれらと平行に走行する基板(13)が垂直方向に対し上端が下側に傾いて立てた状態で透明導電膜(14)の成膜が行われる。また、図2(b)は、本発明の特徴とするところのもので、棒状電極(12)の下端の形態を説明する拡大図である。
【0019】
また、図3は、棒状電極(12)の下端に設けられたコイル状の圧縮バネ(30)の作用を説明する模式図であり、コイル状の圧縮バネ(30)が広がろうとする力を利用し、その力が棒状電極(12)を下に引っ張る状態を示したものである。
【0020】
また、図4(a)は、本発明のスパッタ装置を構成するチムニー(5)の形状と基板(13)との位置関係を説明する正面図であり、図4(b)は、チムニー(5)の役割を説明する模式図である。
【0021】
さらにまた、図5は、本発明のスパッタ装置を用いて棒状電極の自重による撓み量を測定した結果を表すグラフの事例である。
【0022】
上記本発明は、基板上に透明導電膜を成膜するスパッタ装置で、具体的には、液晶表示装置の製造に使用するもので、特に、面付けされる、あるいは大型の液晶表示装置の製造用として、例えば、図2(a)に示すように、大面積の基板(13)上に、マグネトロン方式で透明導電膜(14)を成膜し、その膜厚の分布をより均一にすることを目的としたスパッタ装置である。
【0023】
上記本発明のスパッタ装置は、例えば、図1の概略構成図に示すように、スパッタチャンバー(10)内に設置された複数組のITO焼結体でなるターゲット(11)と複数本の棒状電極(12)を備えたチムニー(5)の前を基板(13)が平行に走行して通過すると、その基板(13)の表面にITOの透明導電膜(14)を徐々に形成するようになっているスパッタ装置(1)である。
【0024】
上記本発明のスパッタ装置(1)の特徴とするところは、例えば、図1の基板走行方向からみた図2(a)の側面図に示すように、大面積の基板(13)を垂直方向に対し5°程度その上端を下側に傾けて立てた状態で、その基板(13)の表面に透明導電膜(14
)を成膜するもので、ターゲット(11)および接地された複数の棒状電極(12)が前記の基板(13)の成膜面に対し平行に配置されているスパッタ装置であって、前記の接地された複数の棒状電極(12)の上端が棒状電極取付部(20)に固定され、図2(b)の拡大図に示すように、棒状電極(12)の下部が電極保持部(21)に穿設された棒状電極の径より大きめの貫通孔(22)を通り、この電極保持部(21)と下端に設けられたバネ押さえ板(23)とで挟むようにコイル状の圧縮バネ(30)を設けたスパッタ装置(1)である。
【0025】
このように、接地された棒状電極(12)の上端が電極取付部(20)に固定され、その下部が電極保持部(21)に穿設された棒状電極の径より大きめの貫通孔(22)を通り、その電極保持部(21)と下端に設けられたバネ押さえ板(23)とで挟むようにコイル状の圧縮バネ(30)を設けたことによって、棒状電極(12)がその自重による撓み及び電極に堆積する透明導電膜の応力による撓みを抑制して膜厚分布の均一性を確保するすることができるものである。
【0026】
すなわち、上記コイル状の圧縮バネ(30)による撓みの抑制作用は、例えば、図3(a)の模式図に示すように、電極保持部(21)とバネ押さえ板(23)とに挟まれた圧縮バネ(30)が広がろうとする力を利用するもので、図3(b)の模式図に示すように、この圧縮バネ(30)が広がろうとする力がこの棒状電極(12)を下に引っ張ることによって、棒状電極(12)の自重による撓みを矯正し、かつ透明導電膜の付着による膜応力による撓みをも矯正し、棒状電極が常に真っ直ぐな状態を維持することができる。その結果、例えば、図2(a)に示すように、大サイズのターゲット(11)と棒状電極(12)および大面積の基板(13)が常に平行状態を維持し、その結果、基板(13)上に形成される透明導電膜(14)の膜厚分布を均一に保つスパッタ装置(1)とすることができる。
【0027】
上記バネ(30)としては、特に限定するものではなく、引っ張り型、ねじり型、あるいは円錐圧縮型、つつみ型等形状のものでもよいが、図2(b)に示すように、電極保持部(21)とその下端に設けられたバネ押さえ板(23)とで挟むように設け、その中に棒状電極(12)を挿入するようにするという面と、図3(a)に示すように、バネ(30)が広がろうとする力を利用するという面から、コイル状の圧縮型のバネ(30)とすることが好適である。
【0028】
また、例えば、図4(a)の正面図および図4(b)の模式図に示すように、上記複数の棒状電極(12)を備えたチムニー(5)は、ITO焼結体でなるターゲット(11)に対向して配置された棒状電極(12)のことで、スパッタの放電現象は、棒状電極(12)を備えたチムニー(5)とターゲット(11)との間で発生する。
【0029】
このチムニー(5)は外枠(24)と5本の棒状電極(12)で構成され、この棒状電極(12)の上端は電極取付部(20)の電極固定部(25)に固定され、その下部は電極保持部(21)に穿設された貫通孔を通して、その下端がバネ押さえ板(23)で固定され、この電極保持部(21)とバネ押さえ板(23)とで挟むようにコイル状の圧縮バネ(30)が設けられ、この圧縮バネ(30)の中に棒状電極(12)の下部が挿入されるようにしてあるものである。
【0030】
以上のような構成のスパッタ装置、すなわち図2(a)および図2(b)に示すように、上端がチムニーの電極取付部(20)に固定され、下部が電極保持部(21)に穿設された貫通孔を通してフリーになっている棒状電極(12)を、その電極保持部(21)と棒状電極(12)の下端を固定してあるバネ押さえ板(22)との間にコイル状の圧縮型のバネ(30)を備えたスパッタ装置を用い、2000mm近傍の大サイズの棒状電極(
12)の自重による撓み量を検証するため、図6(a)に示すような方法で棒状電極(12)の撓み量を測定した。
【0031】
その結果、例えば、図5のグラフに示すように、上下両端に比べ中央部では約10mmという僅かな撓み量であった。因みに同グラフに示した圧縮バネを備えていない従来の装置での約40mmの撓み量に比べると格段の撓み量の抑制を可能にするスパッタ装置であることが立証された。
【0032】
また、処理枚数の増加に伴う棒状電極(12)への透明導電膜の付着による撓み量の抑制についての検証では、特に図示しないが、上記の棒状電極(12)の自重による撓み量と同様に、下部に圧縮バネを搭載したものでは格段の撓み量の抑制を可能にするものであり、その結果として、従来頻繁に行っていた棒状電極(12)の清掃が極少ない間隔で済むようになり、生産性の向上に寄与するスパッタ装置であった。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明のスパッタ装置の一実施の形態を示す概略構成図である。
【図2】本発明のスパッタ装置の一実施の形態を示すもので、(a)は、図1の走行方向から見た側面図であり、(b)は、棒状電極の下端の形態を説明する拡大図である。
【図3】本発明のスパッタ装置を構成する棒状電極の下端に設けられた圧縮バネの作用を説明するもので、(a)は、通常時の取付け状態を示す模式図であり、(b)は、熱伸び等の撓みを抑えたときの取付け状態を示す模式図である。
【図4】本発明のスパッタ装置を構成するチムニーの一事例を説明するもので、(a)は、その形状と基板との位置関係を説明する正面図であり、(b)は、チムニーの役割を説明する模式図である。
【図5】本発明のスパッタ装置の一事例を用いて棒状電極の自重による撓み量を測定した結果を表すグラフである。
【図6】従来のスパッタ装置の一事例を説明する側断面概略図である。
【図7】スパッタ装置を構成する棒状電極の撓み量の測定を説明するもので、(a)は、その測定の方法の概略側面図であり、(b)は、測定した結果を表すグラフである。
【図8】処理枚数の増加に伴う棒状電極の撓みを説明するもので、(a)は、棒状電極に透明導電膜が付着する状態を表す側面概略図であり、(b)は、その一部拡大図であり、(c)は、棒状電極の撓み状態を示す側面概略図である。
【符号の説明】
【0034】
1‥‥スパッタ装置
5‥‥チムニー
10‥‥スパッタチャンバー
11‥‥ターゲット
11a‥‥バッキングプレート
12‥‥棒状電極
13‥‥基板
14‥‥透明導電膜
16‥‥仕切りバルブ
20‥‥電極取付部
21‥‥電極保持部
22‥‥貫通孔
23‥‥バネ押さえ板
24‥‥外枠
25‥‥電極固定部
30‥‥バネ
G‥‥壁からチムニーの地面との接点までの距離
H‥‥チムニーの高さ
K‥‥壁
P‥‥基板の走行方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を垂直方向もしくは垂直方向に対し傾けて立てた状態で該基板に透明導電膜を成膜し、ターゲットおよび接地された複数の棒状電極が前記基板の成膜面に対し平行に配置されたスパッタ装置において、前記接地された複数の棒状電極の上端が固定され、その下部が電極保持部に穿設された棒状電極の径より大きめの貫通孔を通り、前記電極保持部と下端に固定されたバネ押さえ板とで挟まれるようにバネを設けたことを特徴とするスパッタ装置。
【請求項2】
前記バネは、コイル状の圧縮バネであることを特徴とする請求項1に記載のスパッタ装置。
【請求項3】
前記基板に透明導電膜を形成する成膜法はマグネトロンスパッタ方式によることを特徴とする請求項1または2に記載のスパッタ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−102719(P2009−102719A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−277397(P2007−277397)
【出願日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】