説明

スピーカー振動板およびそれを用いた動電型スピーカー

【課題】 積層体を含む基材と基材に含浸された熱硬化性樹脂とを含むスピーカー振動板であって、ボイスコイルへ印可される電流信号を伝える導電部材を備え、工数を削減するとともに、動電型スピーカーの美観を改善することができ、さらに、音響特性に優れたスピーカー振動板およびそれを用いた動電型スピーカーを提供する。
【解決手段】 本発明のスピーカー振動板は、複数の織布もしくは不織布の積層体を含む基材と、基材に含浸された熱硬化性樹脂とを含むスピーカー振動板であって、基材の積層体が、導電部材を有する導電体層を含み、好ましくは、基材の導電体層が、導電部材が編み込まれた織布である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スピーカー振動板およびそれを用いた動電型スピーカーに関し、特に、積層体を含む基材と該基材に含浸された熱硬化性樹脂とを含むスピーカー振動板であって、ボイスコイルへ印可される電流信号を伝える導電部材を備えるスピーカー振動板およびそれを用いた動電型スピーカーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のスピーカー振動板を備える動電型スピーカーにおいては、電流信号は、磁気回路の磁気空隙に配置されるボイスコイルに入力される。ボイスコイルは、ボイスコイルボビンを介してスピーカー振動板に係合し、接着剤により固定されている。スピーカー振動板がコーン形振動板である場合には、コーン形振動板の内径部でコーン振動板の表側に導出されたボイスコイルの引出線は、コーン形振動板に設けられる金属製のハトメまでコーン振動板の表側に引き出され、ハトメを介してコーン振動板の裏側に配置されるリード線(もしくは錦糸線)および入力端子に接続する。
【0003】
このとき、接続する工程においては、少なくともボイスコイルと、ハトメと、リード線と、入力端子とをハンダ付けする工程と、加えて、コーン振動板の表側に導出されたボイスコイルの引出線をコーン振動板に接着剤により接着固定する工程とを要し、工数が多くコストが高くなるという問題がある。また、接着剤の塗布部分がコーン振動板の表側の可視範囲にある場合には、これらが動電型スピーカーの美観に大きな影響を与えるという問題もある。接着剤の塗布部分を覆い隠すためには、ボイスコイルボビン内径よりも、遙かに大きな外径のダストキャップを使用しなければならない場合がある。
【0004】
従来の動電型スピーカーでは、導電板をスピーカー振動板に埋蔵し、導電板の両端をスピーカー振動板の表面に突出させ、ハトメを不要にするものがある(特許文献1)。
【0005】
【特許文献1】特開昭64−29198号公報 (第1図)
【0006】
また、他の従来の動電型スピーカーでは、スピーカー振動板の片面に少なくとも2カ所以上の導電体部が形成されていて、これらの導電部体をボイスコイルへの入力導通路にするものがある(特許文献2)。
【0007】
【特許文献2】実開昭62−64096号公報 (第1図、第2図)
【0008】
しかしながら、前記の従来技術のスピーカー振動板に導電板もしくは導電体部が形成されている動電型スピーカーでは、スピーカー振動板を介して電流信号をボイスコイルに入力することができる一方で、同時に、動電型スピーカーとして望ましいスピーカー振動板とすることが必要である。すなわち、入力端子とボイスコイルを接続する工程における工数を削減できるスピーカー振動板であるとともに、同時に、動電型スピーカーの美観を改善することができ、さらに、音響特性に優れたスピーカー振動板を得なければならない、という問題がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の従来技術が有する問題を解決するためになされたものであり、その目的は、積層体を含む基材と基材に含浸された熱硬化性樹脂とを含むスピーカー振動板であって、ボイスコイルへ印可される電流信号を伝える導電部材を備えるスピーカー振動板およびそれを用いた動電型スピーカーに関し、工数を削減するとともに、動電型スピーカーの美観を改善することができ、さらに、音響特性に優れたスピーカー振動板およびそれを用いた動電型スピーカーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のスピーカー振動板は、複数の織布もしくは不織布の積層体を含む基材と、基材に含浸された熱硬化性樹脂とを含むスピーカー振動板であって、基材の積層体が、導電部材を有する導電体層を含む。
【0011】
好ましくは、本発明のスピーカー振動板は、基材の導電体層が、導電部材が編み込まれた織布である。
【0012】
好ましくは、本発明のスピーカー振動板は、導電体層の導電部材が、銅箔、真鍮箔、もしくは錦糸線である。
【0013】
好ましくは、本発明のスピーカー振動板は、導電体層の導電部材が、相互に絶縁された複数の導電部材を含む。
【0014】
好ましくは、本発明のスピーカー振動板は、ボイスコイルボビンと係合する内径部を備え、導電体層の導電部材が、内径部から突出して露出する内径接続部を有する。
【0015】
好ましくは、本発明のスピーカー振動板は、導電体層の導電部材が、振動板背面側の一部で露出した背面接続部を有する。
【0016】
好ましくは、本発明のスピーカー振動板は、スピーカー振動板と同一の基材で構成されてスピーカー振動板の外径部から延設されたエッジを備え、導電体層の導電部材が、エッジの外径部から突出して露出する外径接続部を有する。
【0017】
また、本発明の動電型スピーカーは、上記のいずれかに記載のスピーカー振動板と、ボイスコイルと、リード線とを備え、導電体層の導電部材が、ボイスコイルおよびリード線と接続し、ボイスコイルに印可される電流信号を導通する。
【0018】
以下、本発明の作用について説明する。
【0019】
本発明のスピーカー振動板は、複数の織布もしくは不織布の積層体を含む基材と、基材に含浸された熱硬化性樹脂とを含んでいる。複数の織布もしくは不織布の積層体とは、例えば、スピーカー振動板として好ましい材料特性である内部損失が大きくかつ強度に優れる繊維から形成される織布もしくは不織布を、複数積層したものである。この積層体の基材に熱硬化性樹脂を含浸し、熱硬化性樹脂を硬化させると、その結果、音響特性に優れたスピーカー振動板が形成される。
【0020】
このとき、本発明のスピーカー振動板は、基材の積層体が、導電部材を有する導電体層を含む。つまり、本発明のスピーカー振動板は、基材の積層体の内部にボイスコイルに入力する電流信号を導通させることができる導電部材を有する導電体層が形成されている。好ましくは、基材の導電体層が、導電部材が編み込まれた織布であり、導電体層の導電部材が、銅箔、真鍮箔、もしくは錦糸線である。したがって、導電体層を備えていても、積層体の基材として好ましい材料特性を備える織布もしくは不織布を選択することができ、積層体は複数の織布もしくは不織布と導電体層を積層することで構成できるので、容易に音響特性に優れたスピーカー振動板が得られる。
【0021】
また、導電体層を形成する織布においても、織布の一部に銅箔、真鍮箔、もしくは錦糸線といった導電部材が編み込んであるので、織布の基礎となる部分には好ましい材料特性を備える繊維を選択できる。したがって、従来の導電板もしくは導電体部が形成されているスピーカー振動板に比較して、良好な音響特性を有するスピーカー振動板とすることができる。
【0022】
具体的には、本発明のスピーカー振動板を用いた動電型スピーカーは、ボイスコイルと、リード線とを備えており、導電体層の導電部材が、ボイスコイルおよびリード線と接続し、ボイスコイルに印可される電流信号を導通する。導電体層の導電部材は、複数の導電部材が相互に絶縁された関係になっており、それぞれがボイスコイルおよびリード線と接続することで、ボイスコイルに電流信号を印可することができる。導電体層の導電部材は、スピーカー振動板背面側の一部で露出した背面接続部を有するので、スピーカー振動板の裏側に配置されるリード線および入力端子に接続する。したがって、本発明のスピーカー振動板では、表面と裏面との導通を図るハトメや導通板を設ける必要がないので、工程並びに工数の削減が可能であり、コストメリットがある。また、動電型スピーカーの美観に大きな影響を与えるハトメが不要となるので、美観に優れた動電型スピーカーとすることができ、ダストキャップの選択にも自由度を増すことができる。
【0023】
また、好ましくは、本発明のスピーカー振動板は、ボイスコイルボビンと係合する内径部を備え、導電体層の導電部材が、内径部から突出して露出する内径接続部を有し、内径接続部においてボイスコイルと接続している。つまり、内径接続部は、銅箔、真鍮箔、もしくは錦糸線といった導電部材がボイスコイルとハンダ付け可能なように露出している。したがって、スピーカー振動板とボイスコイルを動電型スピーカーとして組み立てる場合に、スピーカー振動板の内径部でスピーカー振動板の表側に導出されたボイスコイルは、最短の距離で内径接続部に接続可能となるので、ハトメが不要となり美観に優れた動電型スピーカーとすることができる。
【0024】
また、好ましくは、本発明のスピーカー振動板は、スピーカー振動板と同一の基材で構成されてスピーカー振動板の外径部から延設されたエッジを備え、導電体層の導電部材が、エッジの外径部から突出して露出する外径接続部を有する。つまり、スピーカー振動板にはエッジが一体成型されており、導電体層の導電部材が、エッジの外径部まで至っており、さらに、エッジの外径部から突出して露出している。したがって、外径接続部は、銅箔、真鍮箔、もしくは錦糸線といった導電部材がリード線とハンダ付け可能なように露出している。外径接続部は、スピーカーのフレームに固定されるエッジの外径部に設けられているので、スピーカー振動板が振動した場合にも振動しない。したがって、スピーカー振動板とボイスコイルを動電型スピーカーとして組み立てる場合に、外径接続部と接続するリード線も振動の影響を受けないので、信頼性の高い動電型スピーカーとすることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明のスピーカー振動板は、それを用いた動電型スピーカーに関し、工数を削減するとともに、美観を改善することができ、さらに、音響特性に優れたものとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明のスピーカー振動板は、音響特性が優れた動電型スピーカーを得るという目的を、複数の織布もしくは不織布の積層体を含む基材と、基材に含浸された熱硬化性樹脂とを含むスピーカー振動板であって、基材の積層体が、導電部材を有する導電体層を含むようにしたことにより、実現した。
【0027】
以下、本発明の好ましい実施形態によるスピーカー振動板およびそれを用いた動電型スピーカーについて説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。
【実施例1】
【0028】
図1は、本発明の好ましい実施形態によるスピーカー振動板1について説明する図であり、(a)は正面図、(b)は側面図、(c)は背面図である。スピーカー振動板1は、内径部11および外径部12を備える円形コーン型振動板であって、振動板1の背面側に導電部材10を備える。導電部材10は、円形の振動板1に対して十字型に設けられており、4本がそれぞれ内径部11から外径部12まで横断している。なお、本実施形態では、円形のコーン形振動板であるが、振動板の形状は、コーン形振動板に限られず、ドーム形振動板、平面形振動板でもよく、円形以外でも楕円形、トラック形でもよい。
【0029】
スピーカー振動板1は、複数の織布もしくは不織布の積層体を含む基材と、基材に含浸された熱硬化性樹脂とを含んでおり、基材の積層体が、導電部材10を有する導電体層を含む。具体的には、スピーカー振動板1の基材は、複数の織布を積層した積層体で、例えば、音響特性に優れた材料である不飽和ポリエステル繊維からなる弾性織布を含み、好ましくは、2層以上の積層体である。基材の積層体において、導電体層が最も背面側に設けられており、基材の導電体層は、導電部材としての銅箔10が編み込まれたポリエステル繊維からなる弾性織布である。つまり、導電部材の銅箔10は、基材の最も背面側に積層される弾性織布の一部に織り込まれていて、基材に含浸された熱硬化性樹脂が硬化して形成されるスピーカー振動板1は、後述するボイスコイルに印可される電流信号を導通させることができる。
【0030】
本発明の好ましい実施形態によるスピーカー振動板1の製造方法を、図2を参照して説明する。基材20は、飽和ポリエステル繊維からなる弾性織布である第1層織布21と、第2層織布22と、第3層織布23との3層の積層体であり、製造工程において重ね合わされる。スピーカー振動板1の最も背面側になるように積層される第3層織布23には、銅箔10が十字状に織り込まれている。銅箔10の織り込みは、スピーカー振動板1の外径12や製造工程の仕様に基づいて、銅箔10の十字状の交点が、形成されるスピーカー振動板1の中心部に該当するように、間隔を置いて配置される。基材20は、送り方向に対する両側部を(図示しない)クランプ装置により支持されて、次工程に移動される。次工程では、熱硬化性樹脂が、樹脂供給ノズル24aから基材20に供給され、さらに次工程では、樹脂供給ノズル24bから下側金型25bに供給される。熱硬化性樹脂を供給する工程は、場合によっては片側一方のみでもよく、予め熱硬化性樹脂を含浸された弾性織布を基材とする場合には省略してもよい。続いて、基材20が上側金型25aおよび下側金型25bにより熱プレスされる工程を経ると、熱硬化性樹脂が基材に含浸して熱硬化し、コーン形の振動板形状が形成される。最終的には内径部及び外径部を切断型26aおよび26bで切断除去することにより、スピーカー振動板1が得られる。
【0031】
導電部材の銅箔10は、最も背面側に積層される第3層織布23の一部に織り込まれているので、織目ごとに第3層織布23の表面及び裏面に交互に露出する。積層体である基材20においても、第3層織布23の織目にしたがって導電部材の銅箔10は断続的に露出する。スピーカー振動板1を形成した場合、その背面側では、第3層織布23の弾性織布のポリエステル繊維が背面側に露出している部分では含浸された熱硬化性樹脂が硬化する一方で、導電部材の銅箔10が背面側に露出している部分では銅箔10が露出したままになる。熱プレスの工程において下側金型25bと銅箔10とが密着する結果、熱硬化性樹脂の層が形成されないからである。仮に下側金型25bと銅箔10との間に僅かな隙間が生じるとしても、熱硬化性樹脂が銅箔10になじまないので、熱硬化性樹脂の層は容易に剥離されて銅箔10は露出する。
【0032】
したがって、スピーカー振動板1の銅箔10が振動板背面側の一部で露出したところを、後述するボイスコイル及びリード線と接続する背面接続部とすれば、銅箔10にボイスコイルに印可される電流信号を導通させることができる。スピーカー振動板1は、銅箔10の十字状の交点が形成されるところを内径部11として切断し、さらに、外径部12で切断しているので、銅箔10は相互に絶縁された4本に分離されている。したがって、これらのうちの少なくとも2本を使用すれば、それぞれがボイスコイルおよびリード線と接続することで、ボイスコイルに電流信号を導通させることができる。
【0033】
図3は、本発明の実施例1のスピーカー振動板1を備えた動電型スピーカー30を説明する断面図である。動電型スピーカー30は、スピーカー振動板1と、ボイスコイル31と、リード線32と、入力端子33とを備え、スピーカー振動板1の銅箔10が、背面接続部10aにおいてボイスコイル31と、背面接続部10bにおいてリード線32と接続する。したがって、ボイスコイル31に印可される電流信号は、入力端子33およびリード線32を介して銅箔10を導通する。なお、リード線32は、錦糸線でもよい。
【0034】
動電型スピーカー30において、スピーカー振動板1の正面側では、第1層織布21の弾性織布のポリエステル繊維に含浸された熱硬化性樹脂が硬化するので、第2層織布22および第3層織布23は正面側からは見えないし、第3層織布23の銅箔10も正面側からは見えない。つまり、銅箔10が露出した背面接続部も正面側からは見えない。さらに、本発明のスピーカー振動板1では、表面と裏面との導通を図るハトメを設ける必要がないので、スピーカー振動板1の裏側のリード線32および入力端子33の配置について設計自由度を向上できる。従来に比べて工程並びに工数の削減が可能であり、同時に動電型スピーカー30の美観を改善することができる。また、スピーカー振動板1の正面側にハトメが現れることがないので、ダストキャップ34の選択にも自由度を増すことができ、音響特性及び美観に優れる直径のダストキャップを選択できる。
【0035】
本実施例においては、基材20は、飽和ポリエステル繊維からなる弾性織布である第1層織布21と、第2層織布22と、第3層織布23との3層の積層体であるが、弾性織布の積層体に限られない。第1層織布21および第2層織布22は、任意の繊維から構成される不織布でもよく、織布および不織布の組み合わせでもよい。熱硬化性樹脂が含浸する基材20の積層体が導電部材を有する導電体層を含むものであればよく、音響特性に優れたスピーカー振動板1を得るために、積層体の基材として好ましい材料特性を備える織布もしくは不織布を選択することができる。
【0036】
好ましくは、上記織布は、飽和ポリエステル繊維であり、更に好ましくはポリトリメチレンテレフタレート、もしくは、PEN(ポリメチレンテレフタレート)からなる織布であればよい。また、上記不織布は、熱可塑性エラストマー繊維、パラ形アラミド繊維、メタ形アラミド繊維、レーヨン繊維、綿(コットン)繊維、等からなる不織布であればよい。
【0037】
導電体層である第3層織布23についても、織布の一部に銅箔10が編み込んであるだけなので、織布の基礎となる部分には好ましい材料特性を備える繊維を選択できる。したがって、良好な音響特性を有するスピーカー振動板1が実現される。なお、銅箔10についても、導電体層の導電部材が露出した背面接続部を備えていれば、真鍮箔、もしくは錦糸線であってもよい。
【実施例2】
【0038】
図4は、本発明の他の好ましい実施形態によるスピーカー振動板1について説明する図であり、(a)は正面図、(b)は側面図、(c)は背面図である。実施例1の場合と同様に、スピーカー振動板1は、内径部11および外径部12を備える円形コーン型振動板であって、振動板1の背面側に導電部材を備える。ここで、左右にほぼ並行に配置された2本1組の導電部材10が、外径部12の両端に渡り横断していて、内径部11で切断された結果、合計4本の互いに絶縁された導電部材が配置されている。なお、導電部材10の配置を除いては、基材の選択や、製造方法についても実施例1の場合と同様である。
【0039】
本実施形態によるスピーカー振動板1の基材において、最も背面側になるように積層される導電体層には、銅箔10が左右にほぼ並行に2本1組で織り込まれている。より好ましくは、導電体層の2本1組で織り込まれている銅箔10は、スピーカー振動板1の内径部11の直径よりも短い間隔で並行に配置されていればよい。したがって、導電体層を形成する織布もしくは不織布において、連続したロール状にして生産効率を向上する場合に、実施例1のような十字状の交点、つまり、次工程への移動方向に対して直角な織目方向に銅箔10の織り込みを設ける必要が無くなる。さらに、十字状の交点を設ける必要が無くなれば、クランプ装置により支持されて次工程に移動される場合に、基材の材料ロスが最も少ない移動量にできるメリットがある。
【0040】
本実施例では、銅箔10が左右にほぼ並行に2本1組で織り込まれているが、このような場合に限定されない。1本の銅箔10が、外径部12の両端に渡り横断していて、内径部11で切断されて互いに絶縁された2本の導電部材となっていてもよい。また、熱プレスの工程において、スピーカー振動板1の形状によっては、基材が金型間に挟み込まれる時点で横方向にずれる場合があるが、織り込まれた導電部材が内径部11からずれていなければよい。
【実施例3】
【0041】
図5(a)は、本発明の他の好ましい実施形態によるスピーカー振動板1について説明する図であり、背面から見た内径部11の部分拡大図である。実施例1の場合と同様に、スピーカー振動板1は、内径部11および外径部を備える円形コーン型振動板であって、振動板1の背面側に導電部材10を備え、導電部材10は、円形の振動板1に対して十字型に設けられている。導電部材10は、内径部11で切断された結果、合計4本が互いに絶縁されている。
【0042】
スピーカー振動板1の内径部11は、円筒形状のボイスコイルボビンと係合する円弧部11aと、導電体層の導電部材10が、内径部11から突出して露出する内径接続部とを有している。図5(a)では、2カ所の内径接続部10cおよび10dが設けられ、ボイスコイルと接続可能になっている。つまり、内径接続部10cおよび10dは、銅箔、真鍮箔、もしくは錦糸線といった導電部材がボイスコイルとハンダ付け可能なように露出している部分であり、例えば、導電部材が銅箔10である場合には、その柔らかさに伴って円弧部11aに沿って折曲げ可能である。
【0043】
図5(b)は、本発明のスピーカー振動板1において、内径接続部10cおよび10dを設ける製造方法を説明する図である。熱プレスの工程を経て熱硬化性樹脂が基材に含浸し、熱硬化してスピーカー振動板1のコーン形の振動板形状が形成された後に、切断型により内径部11及び外径部12が切断除去される。この際に、内径部11の切断除去は、円弧部11aおよび内径接続部10cおよび10dに対応した形状を備える切断型によって行なわれる。例えば、図5(b)の破線13は、この切断型の形状を模式的に表している。切断形状を工夫することにより、切断したのみでは内径接続部10cおよび10dの部分の銅箔以外の基材および含浸した樹脂は残るものの、残った基材および樹脂は容易に銅箔から剥離できる。なお、切断型の形状は本実施例に限られるものではなく、内径接続部の配置によって選択可能である。また、残った基材および樹脂を取り除くために、極めて高温に加熱した金型もしくは専用治具を内径接続部に押し当ててもよい。
【0044】
図6は、本実施例のスピーカー振動板1を備えた動電型スピーカー30を説明する断面図である。動電型スピーカー30は、スピーカー振動板1と、ボイスコイル31と、リード線32と、入力端子33とを備え、スピーカー振動板1の銅箔10が、内径接続部10cおよび10dにおいてボイスコイル31と、背面接続部においてリード線32と接続する。したがって、ボイスコイル31に印可される電流信号は、入力端子33およびリード線32を介して銅箔10を導通する。したがって、スピーカー振動板1の内径部11でスピーカー振動板1の表側に導出されたボイスコイル31の引出線は、最短の距離で内径接続部10cおよび10dに接続可能となり、ハンダ付の作業も容易というメリットがある。また、その結果、ハトメが不要となり美観に優れた動電型スピーカーとすることができる。ダストキャップ34の選択にも自由度を増すことができ、音響特性及び美観に優れる直径のダストキャップを選択できる。
【実施例4】
【0045】
図7(a)は、本発明の他の好ましい実施形態によるスピーカー振動板1について説明する図であり、(a)は側面図、(b)は背面図である。実施例1の場合と同様に、スピーカー振動板1は、内径部11および外径部12を備える円形コーン型振動板であって、スピーカー振動板1の背面側に導電部材10を備え、導電部材10は、円形の振動板1に対して十字型に設けられている。導電部材10は、内径部11で切断された結果、合計4本が互いに絶縁されている。スピーカー振動板1は、さらに、スピーカー振動板1と同一の基材で構成されてスピーカー振動板1の外径部12から延設されたエッジ4を備える。つまり、本実施例では、スピーカー振動板はエッジ一体成型の振動板であり、例えば、含浸される熱硬化性樹脂の種類が振動板部分とエッジ部分とで異なり、それぞれの部分で必要な強度および柔らかさを得ている。エッジ4は、スピーカー振動板1とともに振動するエッジ可動部41と、振動せずにフレームに固定されるエッジ外径部42とから構成される。エッジ可動部41は、ロールエッジでも、ギャザードエッジでも、フィックスエッジでもよい。エッジの外径部42には補強紙が貼付けられてもよい。
【0046】
本実施例のスピーカー振動板1には、同一の基材でエッジ4が一体成型されているので、導電体層の導電部材10は、内径部11からエッジ4の外径部42まで至っている。外径接続部10eおよび10fは、エッジ4の外径部42から突出して露出するように構成される。エッジ4の外径部42の切断において、実施例3における内径接続部の切断と同様に、外径接続部10eおよび10fに対応した形状を備える切断型を使えばよい。その結果、外径接続部10eおよび10fでは、銅箔、真鍮箔、もしくは錦糸線といった導電部材10がリード線とハンダ付け可能なように露出する。
【0047】
図8は、本実施例のスピーカー振動板1を備えた動電型スピーカー30を説明する断面図である。動電型スピーカー30は、同一の基材でエッジ4が一体成型されたスピーカー振動板1と、ボイスコイル31と、リード線32と、入力端子33とを備え、スピーカー振動板1の銅箔10が、内径接続部10cおよび10dにおいてボイスコイル31と、外径接続部10eおよび10fにおいてリード線32と接続する。外径接続部10eおよび10fは、動電型スピーカー30のフレーム35に固定されるエッジ4の外径部に設けられているので、スピーカー振動板1が振動した場合にも振動しない。したがって、スピーカー振動板1とボイスコイル31を動電型スピーカーとして組み立てる場合に、外径接続部10eおよび10fと接続するリード線32も振動の影響を受けないので、信頼性の高い動電型スピーカーとすることができる。
【実施例5】
【0048】
図9の(a)線は、本発明の好ましい実施形態の動電型スピーカーへ電力1Wを入力した場合の軸上1mにおける音圧周波数特性図である。比較例として、図9の(b)線は、従来技術の動電型スピーカーへ電力1Wを入力した場合の軸上1mにおける音圧周波数特性図である。本実施例の動電型スピーカーの振動板の基材70は、PEN繊維からなる織布である第1層織布71と、綿(コットン)繊維からなる第2層織布72と、同じく綿(コットン)繊維からなる第3層織布73との積層体であり、導電部材は、幅h=10.0mm、厚みt=0.03mmの真鍮箔であって、第1層織布71と第2層織布72との間に挟み込まれている。つまり、導電部材が配置されている部分では、振動板の基材70は、第1層織布71と第2層織布72と導電部材から構成される導電体層を備えている。
【0049】
本実施例の導電部材の銅箔は、第1層織布71と第2層織布72との間に挟み込まれているので、導電部材の銅箔が露出するように、第2層織布72には対応する部分に穴が開いている。したがって、これらの銅箔が振動板背面側の一部で露出したところを、ボイスコイル及びリード線と接続する背面接続部とすれば、銅箔にボイスコイルに印可される電流信号を導通させることができる。なお、比較例の従来技術のスピーカー振動板は、導電部材が配置されないかわりにハトメによりリード線を取り付けている。
【0050】
本実施例においては、6kHz以上の音圧周波数特性に若干の変化が見られ、特に8kHzおよび10kHz過ぎにおけるピークを低減することができ、滑らかなロールオフ特性を実現できる。スピーカー振動板の基材70の一部に銅箔が設けられているだけなので、比較例の動電型スピーカーとほぼ同様の音響特性が得られる。また、銅箔は、第1層織布71と第2層織布72との間に挟み込まれているので、外観上は見えない。したがって、美観と音響特性の両方に優れたスピーカー振動板および動電型スピーカーを得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明のスピーカー振動板は、動電型のコーン型スピーカーである場合に限らず、動電型スピーカーであれば平面型振動板でもよく、同軸型スピーカー等の複合型スピーカーである場合にも適する。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の好ましい実施形態によるスピーカー振動板について説明する図である。(実施例1)
【図2】本発明のスピーカー振動板の製造方法について説明する図である。(実施例1)
【図3】本発明の好ましい実施形態によるスピーカー振動板を用いた動電型スピーカーについて説明する図である。(実施例1)
【図4】本発明の他の好ましい実施形態によるスピーカー振動板について説明する図である。(実施例2)
【図5】本発明の他の好ましい実施形態によるスピーカー振動板について説明する図である。(実施例3)
【図6】本発明の他の好ましい実施形態によるスピーカー振動板を用いた動電型スピーカーについて説明する図である。(実施例3)
【図7】本発明の他の好ましい実施形態によるスピーカー振動板について説明する図である。(実施例4)
【図8】本発明の他の好ましい実施形態によるスピーカー振動板を用いた動電型スピーカーについて説明する図である。(実施例4)
【図9】動電型スピーカーの軸上音圧周波数特性について説明する図である。(実施例5、比較例)
【符号の説明】
【0053】
1 スピーカー振動板
4 エッジ
10 導電部材
11 内径部
12 外径部
20 基材
21 第1層織布
22 第2層織布
23 第3層織布
24 樹脂供給ノズル
25 金型
26 切断型
30 動電型スピーカー
31 ボイスコイル
32 リード線
33 入力端子
34 ダストキャップ
35 フレーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の織布もしくは不織布の積層体を含む基材と、該基材に含浸された熱硬化性樹脂とを含むスピーカー振動板であって、
該基材の該積層体が、導電部材を有する導電体層を含む、スピーカー振動板。
【請求項2】
前記基材の導電体層が、導電部材が編み込まれた織布である、請求項1に記載のスピーカー振動板。
【請求項3】
前記導電体層の導電部材が、銅箔、真鍮箔、もしくは錦糸線である、請求項1または2に記載のスピーカー振動板。
【請求項4】
前記導電体層の導電部材が、相互に絶縁された複数の導電部材を含む、請求項1から3のいずれかに記載のスピーカー振動板。
【請求項5】
ボイスコイルボビンと係合する内径部を備え、前記導電体層の導電部材が、該内径部から突出して露出する内径接続部を有する、請求項1から4のいずれかに記載のスピーカー振動板。
【請求項6】
前記導電体層の導電部材が、振動板背面側の一部で露出した背面接続部を有する、請求項1から5のいずれかに記載のスピーカー振動板。
【請求項7】
前記スピーカー振動板と同一の基材で構成されて該スピーカー振動板の外径部から延設されたエッジを備え、前記導電体層の導電部材が、該エッジの外径部から突出して露出する外径接続部を有する、請求項1から5のいずれかに記載のスピーカー振動板。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載のスピーカー振動板と、ボイスコイルと、リード線とを備え、前記導電体層の導電部材が、ボイスコイルおよびリード線と接続し、ボイスコイルに印可される電流信号を導通する、動電型スピーカー。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−33648(P2006−33648A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−212362(P2004−212362)
【出願日】平成16年7月21日(2004.7.21)
【出願人】(000000273)オンキヨー株式会社 (502)
【Fターム(参考)】