説明

スピーカ装置

【課題】再生領域を自由に設定でき、適正な音量の音声を出力できるスピーカ装置を提供する。
【解決手段】スピーカ装置1は、1つの振動板26に対して複数の振動子25を設けており、操作部27で受け付けた設定に基づいて音波を発生する領域を設定する。また、スピーカ装置1は、音声再生領域Pの周囲に、振動しない領域(非振動領域)Uを設定して、音声再生領域Pのみが振動するように設定する。これにより、スピーカ装置1では、1つの振動板26に複数の音声再生領域(振動領域)Pを設定できるので、設定の自由度が高くなる。また、音声再生領域P内の振動子25を1つだけ振動させることも、複数の振動子25に音波が広がるように遅延を与えて振動させることも可能である。そのため、所望の音声を確実に再生することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1枚の振動板に対向配置された複数の振動手段を制御して、1つまたは複数の音波を発生できるスピーカ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、単一筐体でありながらサラウンド音場を生成できるアレイスピーカ装置が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1に記載のアレイスピーカ装置は、視聴者前方に置いたスピーカのみで横や前後の音場の広がりを表現できるシステムなので、フロントサラウンドシステムとも呼ばれ、上記のように単一筐体なので、複数のスピーカの設置や配線が不要であり、容易に設置できる。
【0003】
図1は、アレイスピーカの原理及びアレイスピーカ装置が生成するサラウンド音場を示す図である。特許文献1に記載のアレイスピーカ装置は、遅延アレイの原理に基づいて動作する。図1(A)に示すように、線状や面状に配した複数のスピーカユニットSPa〜SPeに、スピーカユニットSPa’〜SPe’から同時に音声を放音したように、同じ音響信号を少しずつ異なる遅延時間を与えて入力することで、音声が空間上のある一点Fを焦点として同時に到達し、また、焦点周辺の音響エネルギーが同相加算により強められて、焦点方向への強い指向性を有する音声ビームを作り出すことができる。この技術を遅延アレイと称する。アレイスピーカ装置では、アレイスピーカを構成するスピーカユニットや各スピーカユニットから音声を放音する空間が略線形系なので、各スピーカユニットに対して、マルチチャンネルの音声ビームを生成するための音声信号を重畳して出力することが可能である。アレイスピーカ装置1は、図1(B)に示すように、複数の(マルチチャンネルの)音声ビームを同時に出力し、壁に反射させて仮想音源を生成することで、モニタ3に表示させた動画に応じたサラウンド音場を聴取者Hの周囲に生成する。
【0004】
アレイスピーカ装置は、上記のように音声ビームを出力する機能だけでなく、複数のスピーカを高音域再生領域、中音域再生領域、及び低音域再生領域に分割して、音声ソースの種類に応じて各スピーカの再生担当音域を変更して音声ソースを再生することも可能である(例えば、特許文献2参照。)。
【特許文献1】特開2006−238155号公報
【特許文献2】特開2005−130397号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の一般的なスピーカユニットは、再生を受け持つ帯域に応じて、再生する音域が低いほど、口径(振動板のサイズ)が大きい。
【0006】
これに対して、特許文献2に記載の発明では、受け持つ再生帯域に応じて、再生する音域が低いほど、その音域を再生するスピーカ数が多くなるように、つまり再生する面積が大きくなるように構成されている。
【0007】
しかしながら、各スピーカは、仕切り板によって周囲を囲まれて、振動板が一定サイズに設定されている。そのため、再生領域の設定によっては、再生音がうまく合成されずに、所望の再生音が得られなかったり音量が小さかったりすることがあった。
【0008】
そこで、本発明は、独立した振動領域を自由に設定でき、適切な振動面積を実現する構成により、適正な音量の音声を出力できるスピーカ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は、上記の課題を解決するための手段として、以下の構成を備えている。
【0010】
(1)入力された音声信号に応じて振動する複数の振動手段と、
前記複数の振動手段が対向して配列され、これら振動手段の振動に応じた音波を発生する1つの振動板と、
前記複数の振動手段のいずれに音声信号を入力するかの設定を受け付ける操作手段と、
前記操作手段が受け付けた設定に基づいて選択した振動手段のみが音声信号を入力されると振動するように制御する振動制御手段と、
前記選択した振動手段の周囲の複数の振動手段を制動するように設定する領域設定手段と、
を備えたことを特徴とする。
【0011】
この構成においては、スピーカ装置は、操作手段で受け付けた設定に基づいて複数の振動手段を選択し、これら選択した振動手段に音声信号を入力する。また、選択した振動手段の周囲の振動手段を制動させて、それらが対向する部分の振動板が振動しないように設定する。したがって、1つの振動板に、入力された音声信号により振動する部分と、その周囲の振動せずに静止する部分と、を設けることができ、操作手段における設定に応じて、1つの振動板に1つまたは複数のスピーカを自由に形成できる。
【0012】
(2)前記振動制御手段は、空間上に設定した中心点から音の波紋が広がる状態をシミュレートして、同じ音声信号を少しずつ異なる遅延時間を与えて、前記選択した振動手段に入力するとともに、前記中心点に近い振動手段ほど、前記入力する音声信号のゲインを高く設定することを特徴とする。
【0013】
この構成においては、空間上に設定した中心点から音の波紋が広がる状態をシミュレートして、音声信号を入力して振動させる振動手段に、同じ音声信号を少しずつ異なる遅延時間を与えて入力するとともに、前記中心点に近い振動手段ほど、入力する音声信号のゲインを高く設定する。したがって、中心点の振幅が最大となるように振動板を振動させることができ、太鼓と同様の振動形態となり、球面波に近い自然な音波を発生できる。
【0014】
(3)前記領域設定手段は、前記選択した振動手段の周囲の複数の振動手段を、前記振動板から離間した状態に設定し、さらにこれら離間した状態の振動手段の周囲の複数の振動手段を、前記振動板に当接した状態に設定することを特徴とする。
【0015】
この構成においては、選択された特定の振動手段のみが音声信号が入力されると振動し、選択した振動手段の周囲の複数の振動手段が振動板から離間した状態で、さらにこれら離間した状態の振動手段の周囲の複数の振動手段が振動板に当接した状態である。この場合、独立した振動領域の中心部にのみ振動手段で振動を与えることができる。したがって、振動手段の中心部を振動させることで、波紋が広がるように振動手段を振動させることができるので、自然な音波を発生することが可能となる。
【0016】
(4)前記振動制御手段は、前記操作手段が受け付けた設定に基づいて、前記選択した振動手段の全部または一部に音声信号を分配し、これらの振動手段が振動するタイミングを制御して、前記振動板から音声ビームを出力させることを特徴とする。
【0017】
この構成においては、分配された音声信号に応じて、選択した振動手段が振動するタイミングを制御して、振動板から音声ビームを出力させる。したがって、スピーカ装置に複数の音声ビームを出力するように設定することで、サラウンド音場を生成可能となり、用途をさらに広げることができる。
【発明の効果】
【0018】
1つの振動板に、入力された音声信号により振動する部分と、その周囲の振動せずに静止する部分と、を設けることができ、操作手段における設定に応じて、1つの振動板に1つまたは複数のスピーカを自由に形成でき、適切な振動面積を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
図2は、スピーカユニットの概略の構成図であり、(A)はマトリクス状に振動子を配置した場合で、(B)は(A)に示したスピーカユニットのA−A断面図であり、(C)はハニカム状に振動子を配置した場合で、(D)は(C)に示したスピーカユニットのB−B断面図である。
【0020】
まず、スピーカ装置1の動作の概略を説明する。スピーカ装置1のスピーカユニット24は、図2に示すように、1枚の振動板26に対向して、N個(図2(A)には81個、図2(C)には85個の場合を示している。)の振動子25−1〜25−N(以下、これらを総称して振動子25と称する。)が一定間隔でマトリクス状やハニカム状に配置されている。各振動子の周囲には、格子状に仕切るものは取り付けられていない。ユーザは、操作部27を操作することで、スピーカユニット24に対して1つまたは複数の音声再生領域(振動領域)Pを設定でき、通常のスピーカユニットとしても、音声ビームを出力するサラウンドスピーカユニットとしても使用できる。スピーカ装置1は、操作部27で受け付けたユーザの設定に基づいて、1つまたは複数の振動子25から成る音声再生領域Pを1つまたは複数設定し、この領域内の1つまたは複数の振動子に音声信号を入力する。また、スピーカ装置1は、図2(A),(C)に示すように音声再生領域Pの周囲を非振動領域Uに設定し、この非振動領域U内の振動子25を静止させるか、または振動を打ち消す動作を行うように設定する。
【0021】
例えば、各振動子25は振動板26に接続(接着)しておき、図2(A)において音声再生領域P1内の白色の振動子(図2(B)では3番目〜7番目の振動子)を、音声信号を入力することで振動するように設定する。また、図2(A)において非振動領域U1内の黒色の振動子(図2(B)では2,8番目の振動子)を静止させる(制動する)。また、図2(A)において非振動領域U1の周囲のハッチングした振動子(図2(B)では1,9番目の振動子)は、音声信号を入力しないようにするか、または静止するように設定する。
【0022】
または、例えば、各振動子25を振動板26と接続せずに接離可能にしておき、図2(C)において音声再生領域P2〜P5内の格子模様の振動子(図2(D)では3,7番目の振動子)を、音声信号を入力することで振動するように設定する。また、図2(C)において音声再生領域P内の白色の振動子(図2(D)では2,4,6,8番目の振動子)を振動板26から離れた状態で静止させる。また、図2(C)において非振動領域U2内の黒色の振動子(図2(D)では1,5,9番目の振動子)を静止させる(制動する)。また、図2(C)において非振動領域U2の周囲のハッチングした振動子は、音声信号を入力しないようにするか、または静止するように設定する。
【0023】
スピーカ装置1は、音声信号が入力されると、スピーカユニット24に設定された音声再生領域P内の振動子25がこの音声信号に応じて振動し、この振動は振動板26に伝搬して音波が発生することで、音声が放音される。
【0024】
このとき、音声再生領域Pの周囲は、非振動領域Uに設定されているので、音声再生領域P内の振動子の振動が、音声再生領域Pの外へ伝搬しないように枠の役目を果たす。
【0025】
例えば、図2(A)に示すスピーカユニット24Aのように、1つの音声再生領域P1及び非振動領域U1が設定されている場合には、大口径の1つのスピーカとして音声信号を出力する。また、図2(C)に示すスピーカユニット24Bのように、4つの音声再生領域P2〜P5及び非振動領域U2が設定されている場合には、4つのスピーカとして音声信号を出力する。
【0026】
図3は、振動子の概略構成を示す断面図である。図3(A)は動電(ダイナミック)形、図3(B)は圧電形、図3(C)は磁歪形、及び図3(D)は静電(コンデンサ)形の振動子である。図3(A)〜(C)に示した振動子はそれぞれ振動子固定部28(28A〜28C)に固定されている。
【0027】
スピーカユニット24の振動子25には、動電(ダイナミック)形、圧電形、磁歪形、及び静電(コンデンサ)形が適用できる。また、図示していないが、電磁形等の振動子も適用可能である。
【0028】
動電形の振動子25Aは、ポールピース40、磁石41、プレート42、ボビン43、及びボイスコイル44を備えており、通常のスピーカユニットと同様に構成されており、ボビン43の端部が振動板26Aに接続(接着)されている。ボイスコイル44に音声信号を入力すると振動子25Aが振動して、この振動が振動板26Aに伝搬する。一方、ボイスコイル44に一定の直流電流を流すか、またはボイスコイル44を短絡すると、振動子25Aを静止することができる。また、音声再生領域Pの振動子25Aに入力した音声信号と逆相の音声信号をボイスコイル44に入力することで、振動を打ち消すことが可能である。
【0029】
圧電形の振動子25Bは、金属板51、圧電素子52、電極53、及びロッド54を備えており、金属板51にはリード線55が、電極53にはリード線56が、それぞれ半田付けされている。ロッド54の端部は振動板26Bに接続(接着)されている。リード線55,56間に音声信号を入力すると圧電素子52が伸縮して振動子25Bが振動して、この振動がロッド54を介して振動板26Bに伝搬する。一方、リード線55,56間に一定の直流電流を流すか、または、最初からロッド54が振動板26Bに当接した状態の場合には、リード線55,56間に電流を流さないようにすることで、振動板26Bを静止させることができる。
【0030】
磁歪形の振動子25Cは、ヨーク60、磁歪素子61、コイル62、磁石63、及びロッド64を備えており、磁歪素子61の周囲にはコイル62が巻き付けられている。ロッド64の端部は振動板26Cに接続(接着)されている。コイル62に音声信号を入力すると磁歪素子61が伸縮して振動子25Cが振動して、この振動が振動板26Cに伝搬する。一方、コイル62に一定の直流電流を流すか、または、最初から振動伝達部材54が振動板26Bに当接した状態の場合には、コイル62に電流を流さないようにすることで、振動板26Bを静止させることができる。
【0031】
ここで、振動子25B、振動子25Cは、上記のようにロッド54・64が振動板26B・26Cに必ずしも接続(接着)されている必要はなく、図3(A)の振動子25B1、図3(B)の振動子25C1のように、通常は離間しており、音声信号や制御信号か入力されると、振動板26B・26Cに当接するように構成しても良い。
【0032】
静電形の振動子25Dは、固定電極71,72、バイアス電源73、電圧増幅器74、及び入力端子75を備えており、固定電極71と72の間に、不図示の絶縁板を介して振動板26Dを配置している。入力端子75から入力された音声信号は、電圧増幅器74で増幅されて、この信号に応じた電圧が固定電極71に印加されるとともに、電圧増幅器74で位相の正負を反転して増幅されて、この信号に応じた電圧が固定電極72に印加される。振動板26Dには、バイアス電源73からバイアス電圧が印加されており、固定電極71,72間の電位差に応じて発生した吸引力・反発力によって振動して、音波となる空気振動を発生する。一方、入力端子75に一定の直流電流を流すと、振動板26Dに対して固定電極71,72から一定の吸引力または反発力が発生して、振動板26Dを静止させることができる。
【0033】
続いて、スピーカ装置1の信号処理と制御処理について説明する。図4は、スピーカ装置の概略構成を示すブロック図である。
【0034】
図4に示すように、スピーカ装置1は、入力端子11、デコーダ13、領域設定部15、振動制御部17、加算器19−1〜19−N、D/Aコンバータ21−1〜21−N、パワーアンプ23−1〜23−N、振動子25−1〜25−N及び振動板26から成るスピーカユニット24、操作部27、表示部29、記憶部31、受信部33、リモコン(操作部)27R、並びに制御部35を備えている。
【0035】
入力端子11は、不図示の外部オーディオ機器と接続され、この外部オーディオ機器が出力した(デジタル)オーディオ信号が入力される。
【0036】
デコーダ13は、入力端子11から入力された(デジタル)オーディオ信号をデコードして、各チャンネルのオーディオ信号を振動制御部17に出力する。例えば、デコーダ13は、入力端子11から入力されたのが、5chオーディオ信号の場合には、SLch・Lch・Rch・SRch・Cchのオーディオ信号を振動制御部17に出力する。
【0037】
領域設定部15は、操作部27を操作してユーザが行った音声再生領域の設定に応じた制御信号を制御部35が出力すると、この制御信号に基づいて、スピーカユニット24の振動子25−1〜25−N及び振動制御部17に制御信号を出力する。具体的には、音声再生領域の周囲に非振動領域が形成されるように、音声再生領域の周囲の振動子25に対して停止信号を出力するか、または振動制御部17に対して、音声再生領域の周囲の振動子25が振動しないように設定する制御信号を出力する。
【0038】
振動制御部17は、領域設定部15が出力した制御信号に基づいて、スピーカユニット24が音声再生領域と、非振動領域を形成するように制御する。具体的な動作は後述する。
【0039】
加算器19−1〜19−Nは、それぞれ振動制御部17から出力されたオーディオ信号が複数ある場合には、これらを加算して出力する。
【0040】
D/Aコンバータ21−1〜21−Nは、加算器19−1〜19−Nが出力したデジタルオーディオ信号をアナログオーディオ信号に変換して出力する。
【0041】
パワーアンプ23−1〜23−Nは、D/Aコンバータ21−1〜21−Nが出力したアナログオーディオ信号を増幅して出力する。
【0042】
振動子25−1〜25−Nは、パワーアンプ23−1〜23−Nが増幅したオーディオ信号に応じて振動する。また、振動子25−1〜25−Nは、領域設定部15から制御信号(振動停止信号)が出力されると、パワーアンプからオーディオ信号が出力されていても振動しないように設定される。
【0043】
振動板26は、振動子25−1〜25−Nの振動が伝搬すると、その振動に応じた音波を発生する。
【0044】
操作部27及びリモコン(操作部)27Rは、スピーカ装置1に対するスピーカの設定操作等を受け付けて、その操作に応じた信号を制御部35に出力する。
【0045】
表示部29は、制御部35から出力された制御信号に基づいてユーザに伝達する情報を表示する。
【0046】
記憶部31は、スピーカの設定パターン等を記憶しており、操作部27で受け付けた操作に応じて、制御部35からデータが読み出される。
【0047】
受信部33は、リモコン(操作部)27Rが出力した信号を受信する。
【0048】
制御部35は、スピーカ装置1の各部を制御する。
【0049】
スピーカ装置1は、上記の構成により、スピーカユニット24に音声再生領域P及び非振動領域Uを設定して、任意のチャンネルの音声信号の音波を発生させることができる。
【0050】
図5は、音声再生領域内の全振動子を振動させる方式を説明するための図であり、(A)がスピーカユニットの正面図、(B)が(A)に示したスピーカユニットのA−A断面図、(C)がA−A断面図における時間経過を説明するための図である。図6は、音声再生領域内の1つの振動子を振動させる方式を説明するための図であり、(A)がスピーカユニットの正面図、(B),(C)が(A)に示したスピーカユニットのB−B断面図である。
【0051】
スピーカ装置1の振動制御部17は、ユーザが操作部27を操作して、音声再生領域Pの全振動子を振動させて音波を発生させる方式を選択した場合には、空間上に設定した中心点から音の波紋が広がる状態をシミュレートして、同じ音声信号を少しずつ異なる遅延時間を与えて、選択した振動子に入力するとともに、中心点に近い振動子ほど、入力する音声信号のゲインを高く設定する。すなわち、振動制御部17は、音声再生領域Pの中央の振動子(4段4列目)を中心として、音の波紋が円R1→円R2→円R3→円R4の順に広がる時間を計算する。そして、図5(A)に示すように、1→2→3→4→5の順に各振動子に遅延時間を与えて同じ音声信号を入力する。具体的には、
1.まず、振動子25(4段,4列)(以下、単に(4,4)と標記する。)に音声信号を入力する。
2.続いて、振動子25(3,4)、振動子25(4,3)、振動子25(4,5)、振動子25(5,4)に音声信号を入力する。
3.さらに、振動子25(3,3)、振動子25(3,5)、振動子25(5,3)、振動子25(5,5)に音声信号を入力する。
4.また、振動子25(2,4)、振動子25(4,2)、振動子25(4,6)、振動子25(6,4)に音声信号を入力する。
5.さらに、振動子25(2,3)、振動子25(2,5)、振動子25(3,2)、振動子25(3,6)、振動子25(5,2)、振動子25(5,6)、振動子25(6,3)、振動子25(6,5)に音声信号を入力する。
【0052】
このとき、振動制御部17は、各振動子に入力する音声信号のゲインを調整して、中央の振動子ほどゲインが高くなるように調整した音声信号を、各振動子に入力する。また、振動制御部17は、音声再生領域P1の周囲に設定した非振動領域U1内の振動子を、振動板26に当接した状態で静止するように制動する。
【0053】
上記のように各振動子25を動作させることで、図5(C)に示すように、時間がt1,t2,t3(t1<t2<t3)と経過するにつれて、振動板26は同心球状に(呼吸球のように)変形させることができ、球面波に近い音波を発生する。
【0054】
また、中心部と周辺部のタイミングは同期して、中心部に近いほど大振幅とすれば、図5(B)に示すように、振動板の独立した振動領域を例えば太鼓と同様の振動形態で振動させることができ、球面波に近い自然な音波を発生できる。
【0055】
一方、スピーカ装置1の振動制御部17は、ユーザが操作部27を操作して、音声再生領域P1の1つの振動子を振動させて音波を発生させる方式を選択した場合には、音声再生領域P1の中央(4段4列目)の振動子のみに音声信号を入力する。
【0056】
また、振動制御部17及び領域設定部15は、音声再生領域P1の中央(4段4列目)の振動子以外の全振動子に対向する振動板26が自由に振動するように設定する。具体的には、振動子25Bや振動子25Cのように、振動板26にロッドで振動を伝える構成で、振動板26とロッドが接続(接着)されていない構成のときには、図6(B)に示すように、これらの振動子25のロッドを振動板26から離れた状態にする。また、音声再生領域P1の中央(4段4列目)の振動子は、振動板26に振動を加えた後には、図6(C)に示すように、振動板26から離れた状態となるように制御する。したがって、図6(C)に示すように、振動板26を、振動子25の伸縮方向に振動させることができる。
【0057】
なお、振動板26とロッドが接続(接着)された構成のときには、振動子25B、25Cを自由振動させることができないので、実現できない。一方、振動子25Aや振動子25Dの場合には、振動子25に信号を入力しないように設定して、これらの振動子から振動板26に力が加わらず、自由振動するようにする。
【0058】
これにより、音声再生領域P1の中央(4段4列目)の振動子のみに音声信号を入力すると、図6(A),(B)に示したように、この振動子の振動のみが振動板26に伝搬するので、振動板26の中心部から波紋が広がるように振動させることができ、自然な音波を発生させることができる。
【0059】
図7は、スピーカユニットをアレイスピーカとして動作させる場合を説明するための図である。次に、スピーカ装置1では、スピーカユニット24から音声ビーム(音声ビーム)を出力することができる。例えば、図7(A)に示すように、スピーカユニット24Cの場合には、2段目、4段目、6段目、8段目の振動子のうち、2列目、4列目、6列目、8列目の振動子25を選択する。これにより、一定間隔で配置された振動子を合計16個選択したことになる。
【0060】
続いて、振動制御部17は、選択した振動子25の周囲の振動子を含む領域を非振動領域Uに設定する。これにより、スピーカユニット24Cは、16個のスピーカを備えたアレイスピーカとみなすことができる。
【0061】
振動制御部17は、操作部27で受け付けた操作に基づいて、音声ビームの出力方向を設定して、この出力方向に音声ビームを出力するように、前記の16個のスピーカに分配する音声信号にそれぞれ所定の遅延時間を設定する。これにより、スピーカユニット24Cは、図1に示したような音声ビームを出力することができる。
【0062】
また、スピーカユニットDのようにハニカム状に振動子を配置した構成の場合には、同様に、図7(B)に示すように一定間隔で配置された振動子を選択して、27個のスピーカを備えたアレイスピーカとして、音声ビームを出力するように制御すると良い。このように制御することで、単一の振動板でありながら、各振動部分が他の振動部分の干渉を受けることが無いため、アレイスピーカの動作を良好に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】アレイスピーカの原理及びアレイスピーカ装置が生成するサラウンド音場を示す図である。
【図2】スピーカユニットの概略の構成図である。
【図3】振動子の概略構成を示す断面図である。
【図4】スピーカ装置の概略構成を示すブロック図である。
【図5】音声再生領域内の全振動子を振動させる方式を説明するための図である。
【図6】音声再生領域内の1つの振動子を振動させる方式を説明するための図である。
【図7】スピーカユニットをアレイスピーカとして動作させる場合を説明するための図である。
【符号の説明】
【0064】
1…スピーカ装置 11…入力端子 13…デコーダ 15…領域設定部
17…振動制御部 19…加算器 21…D/Aコンバータ 23…パワーアンプ
24…スピーカユニット 25…振動子 26…振動板 27,27R…操作部
28…振動子固定部 29…表示部 31…記憶部 33…受信部 35…制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力された音声信号に応じて振動する複数の振動手段と、
前記複数の振動手段が対向して配列され、これら振動手段の振動に応じた音波を発生する1つの振動板と、
前記複数の振動手段のいずれに音声信号を入力するかの設定を受け付ける操作手段と、
前記操作手段が受け付けた設定に基づいて選択した振動手段のみが音声信号を入力されると振動するように制御する振動制御手段と、
前記選択した振動手段の周囲の複数の振動手段を制動するように設定する領域設定手段と、
を備えたスピーカ装置。
【請求項2】
前記振動制御手段は、空間上に設定した中心点から音の波紋が広がる状態をシミュレートして、同じ音声信号を少しずつ異なる遅延時間を与えて、前記選択した振動手段に入力するとともに、前記中心点に近い振動手段ほど、前記入力する音声信号のゲインを高く設定する請求項1に記載のスピーカ装置。
【請求項3】
前記領域設定手段は、前記選択した振動手段の周囲の複数の振動手段を、前記振動板から離間した状態に設定し、さらにこれら離間した状態の振動手段の周囲の複数の振動手段を、前記振動板に当接した状態に設定する請求項1に記載のスピーカ装置。
【請求項4】
前記振動制御手段は、前記操作手段が受け付けた設定に基づいて、前記選択した振動手段の全部または一部に音声信号を分配し、これらの振動手段が振動するタイミングを制御して、前記振動板から音声ビームを出力させる請求項1乃至3のいずれかに記載のスピーカ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−245218(P2008−245218A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−86914(P2007−86914)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】