説明

スピードガバナ用のケーブルおよびベルトとそれに関連したプーリ

本発明は、リフトスピードガバナに使用するケーブルおよびベルト、およびそれに関連したシーブ(プーリ)に関する。本発明のケーブルは、ストランドとして集合される高張力鋼を有し、ストランドは集合されてコアを形成する。コアは、ストランド間のキャビティ内に導入されるポリマー材料により完全にコーティングされ、コアの直径より僅かに大きい直径を有するポリマー外表面を形成している。本発明によれば、ベルトは、ポリマー材料により完全にコーティングされた高張力鋼ワイヤからなる少なくとも2つの金属ケーブルを有している。前記ケーブルのために設計されたプーリは、半円形であるか、或いは、ノッチを有する半円形であり、小さい直径を有し、アグレッシブネスが低く、付着特性がよく、コーティングしたケーブルとプーリとの間の摩擦係数が高く、それによって、曲げおよび摩耗によって生じる疲労に対する高い抵抗性をケーブルに付与する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、艤装設備を持上げるスピードガバナ(調速機)システムに適用できるロープ、ベルトおよびこれらに関連したシーブ(滑車)であって、何らかの制御不能な運動が生じた場合に、応力を、スピードガバナシステムから、エレベータをその乗客とともに停止させることを担う機械的手段に伝達する機能を有するロープ、ベルトおよびこれらの関連シーブに関する。
【背景技術】
【0002】
スピードガバナの要素は、通常、固定シャフトに結合されたシーブ(該シーブには、安全性を確保すべき要素に端部が連結されたロープが通される)と、シャフトの他端に固定された固定位置に結合されかつ連結ロープに張力を付与するのに使用される第二シーブとを有している。従って、第一シーブは、以下に示す数式1で与えられる速度wで回転する。
w=v/R ・・・(数式1)
ここで、vは、制御すべきエレベータ等の「かご」またはカウンタウェイトの線速度、Rは、オーバースピードガバナのシーブの半径である。安全装置は、速度wが所定値を超えるとトリガされる。
【0003】
シーブの半径Rを小さくすると、安全要素の回転速度が大きくなる。このため、通常の速度および直径をもつこれらの要素のキャリブレーションが特に低速度で複雑であることを考えると、そのキャリブレーションはより容易になる。マーケットでは、v=0.5m/sより小さい定格速度での比速度ガバナ要素が一般的である。
【0004】
スピードガバナは、現在、次の2つの設計形式で組立てられている。
すなわち、伝統的に最も多く使用されている第一設計形式では、スピードガバナは、艤装設備の固定位置に配置される。ガバナシステムは主シーブを有し、この主シーブ上を、作動応力の伝達を担うロープが循環する。ガバナシステムには、偏向シーブを設けることができる。ガバナシステムには、該システムのロープに張力を確保するテンションシーブを設けることもできる。ロープが全シーブ組立体を通過した後、ロープは、オーバースピードを保護すべき移動要素に最終的に固定される。この張力は必要最小限にすべきで、これにより、システムが作動される瞬間に、ロープは、移動ユニットを停止させることを担うコンポーネント(通常は安全ギヤであり、このギヤを作動させると、移動ユニットが停止されかつ移動ユニットがエレベータガイドレール内に維持される)に必要な応力を伝達(通常はガバナシステムの溝内の摩擦により伝達)できる。従って、ロープは、移動ユニットの直線運動によってガバナシステムのシーブおよび偏向シーブの回転が引起こされるように、移動ユニット内に始点および終点を有する閉ループを形成する。
【0005】
下記特許文献1および特許文献2に開示されているような他の設計では、ガバナは制御すべき要素(移動ユニット)に一体結合され、かつ、ロープは、下端部にウェイト(ロープに張力を付与するウェイト)を備えた単一長さに構成されている。この場合、移動要素の直線運動によって、スピードガバナシステムも回転される。この同じガバナシステムが、自動的に、すなわちオーバースピードの場合にガバナ要素に生じる回転運動および直線運動により、安全ギヤ要素を作動させることができる。直線運動および/または回転運動は、ガバナシステムに生じて、安全ギヤ要素を直接的に作動させる。
【0006】
この設計は、シーブ上でのロープの、180°から300°の間の値の接触角を得ることができ、システムの牽引キャパシティ(T1/T2)を増大させる。
【0007】
例えば、下記特許文献3に開示された艤装設備のガイドのように、固定要素を用いた他の装置も存在する。
今日まで、スピードガバナシステムに使用される伝統的なロープは、規定的考察により定められた最小直径d=6mmをもたなくてはならない。また、比D/d(Dはシーブの直径)は30以上でなくてはならない。このことは、最小値D=180mm、従って装置の一般的サイズを決定する。
【0008】
本発明に開示するようなロープのリフティングには種々の用途があり、例えば、下記特許文献4には牽引ロープが開示され、下記特許文献5から特許文献8には非円形断面をもつ牽引要素も開示されている。
【0009】
緊急制動要素(安全ギヤ)を作動させるには、ガバナが前記緊急制動要素に最小力(300Nすなわち制動要素を作動させるのに必要な力の2倍の力)を加える必要がある。このためには、従来のシステムに、粘着を確保するアグレッシブな溝(aggressive grooves)を使用する必要があり、これは、ガバナシステムのシーブに、通常は100°と105°との間のBETA溝角をもつ形状(通常はセミカット)の溝、およびV型ノッチ状溝、または35°と40°との間のGAMMA溝角をもつ、ノッチがないV型溝(この溝は、約50HRC以上の硬さに達する表面硬化処理を必要とする)を切削することにより達成される。この表面硬化処理は、適用後に要求されるその極限の性質および品質管理のため特殊材料を必要とするので高価である。この形式の溝を使用すると、ガバナシステムのシーブの溝およびロープの摩耗が不可避であり、従って、これらのコンポーネンツを周期的に交換しなければならない。これは、費用が嵩むことであり、この交換が警戒感をもって行われない場合には、艤装設備に重大な状況を引起こす虞れがある。スピードガバナシステムはCE検証(CE Certification)およびマーキング(Marking)を受け、このことは、スピードガバナシステムを交換する場合に、主務公示官庁の行政上の手続きを複雑にする。
【0010】
他方で、大型シーブの使用は、ガバナを比較的低速で回転させる。これは、作動されるべき要素を緩やかな運動および低運動エネルギに変換し、このため、特に遠心型ガバナの場合に、ガバナのキャリブレーションを困難にする。
【0011】
【特許文献1】欧州特許第EP 1175367 B1号明細書(Thyssenkrupp Elevator Manufacturing社、フランス国)
【特許文献2】国際公開WO 03/091142 A1パンフレット(三菱電機株式会社、日本国)
【特許文献3】米国特許第645,756号明細書(James M. Draper等)
【特許文献4】欧州特許第EP 1273695号明細書
【特許文献5】国際公開WO 99/42589A1パンフレット
【特許文献6】国際公開WO 99/43885A1パンフレット
【特許文献7】国際公開WO 00/37738A1パンフレット
【特許文献8】国際公開WO 01/14630A1パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の一目的は、ロープまたはベルトが高い引っ張り強度を有し、これにより、ガバナ、従って艤装設備の作動信頼性を損なうことなくロープの直径を小さくして、より軽量で、安価でかつ統御し易い張力伝達要素(ロープまたはベルト)、および、全体としてより小型でかつ安価なガバナシステムを使用できるようにすることにある。
【0013】
本発明の他の目的は、ロープまたはベルトが、ガバナシステムに設けられたシーブ(単一または複数)を通過するときに生じる曲げサイクルを受けても高い疲労強度を有し、これにより、シーブの直径を小さくし、従って、ガバナが占拠するスペースを縮小して、シャフト(エレベータが通る縦空間)従って、ビルディングにおける艤装設備が占拠する空間を確保し、全てのコンポーネンツの重量を低減させ、かつシーブが高速で回転するときにシステムの高い信頼性を達成できるようにすることにある。
【0014】
本発明の更に別の目的は、ロープまたはベルトが、従来のシステムにおけるよりも明らかに大きい、ガバナのシーブとの摩擦係数を有し、従ってシーブに必要とされる牽引キャパシティを維持するための溝のアグレッシブ度合いが小さいシーブを使用でき、これによりロープまたはベルトがシーブにより受ける影響が小さく、従ってその有効寿命を増大してメインテナンスフリーシステムとなるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、ポリマー材料、例えば、ポリウレタンによりコーティングされた高張力鋼ワイヤロープまたはベルトであって、リフティング設備のオーバースピードを検出して、リフティング設備に関連する緊急制動手段を作動させるのに必要な応力を伝達するスピードガバナに適用できるロープまたはベルトに関する。
【0016】
スピードガバナに高張力鋼を使用することにより、高い安全性レベルを維持するロープの直径を小さくできる。従来のシステムは直径(d)が6mm以上のロープを使用しているのに対し、本発明による金属ロープは、5mmより小さい外径を有し、かつ2000N/mm2より大きい強度を有するワイヤにより形成されている。
【0017】
ワイヤは、密集されてストランドとなり、該ストランドは、高張力テクスタイルまたは例えばケブラー(Kevlar:登録商標)等の合成材料のワイヤからなる中央ストランドの周囲に密集される。
【0018】
ロープには多くの設計があり、これらのうちの幾つかは他の設計よりもフレキシビリティが大きく、また、或るものは、より良く使用できる横断面を有するが、いずれにせよ、本発明は、これらのいずれのロープよりも優れたものである。
【0019】
ベルトの場合には、本発明は、ストランドとして密集される、2000N/mm2より大きい強度をもつ高張力鋼ワイヤを備えた少なくとも2つの金属ロープを備え、ストランドが、0.01mmと2mmとの間の直径を有する対応金属コアを形成し、コアが、ポリマー材料により完全にコーティングされた構成のベルトを考えている。ベルトのポリマー材料の外表面は平らにすることができるし、または、波型にすることができる。
【0020】
上記のようなロープまたはベルトの使用により、安全システムのシーブの直径を小さくできる。安全システムのシーブの直径を小さくできれば、システム全体を小さくでき、かつ、シャフトおよびビルディング内の占拠空間も小さくできる。このサイズの縮小により、全ての要素を軽量かつ安価にできる。定格直径(d=6mm)を有する金属ロープを使用する伝統的システムは、180mm以上のシーブのピッチ円直径(D)を有している。本発明は、円形断面をもつロープの場合にはシーブの150mm以下のピッチ円直径で、および、任意の形式のベルトの場合には100mmより小さいピッチ円直径で、許容可能な安全性レベルで、または伝統的システムを超える安全性レベルで正しく作動する。
【0021】
これに対し、高張力鋼ロープは、通常よりも小さいD/d比にでき、かつ許容可能な安全性レベルを維持して、シーブのピッチ円直径Dの縮小に更に寄与できる。現在の技術では、シーブ直径は最小D/d比(=30)を受ける。本発明は、ロープ(またはベルト)と、ポリマー材料のコーティングが設けられたロープ(またはベルト)を使用するシーブとにより形成される組立体を提供する。ポリマーコーティングの結果として、ロープ(またはベルト)の材料とシーブの材料との間の摩擦係数は、伝統的システムの摩擦係数より非常に大きく、ベルトには平らな表面を使用しかつ円形ロープには半円形の溝をもつシーブを使用でき、伝統的なシステムの内部圧力より明らかに小さいロープの内部圧力を得ることができる。これにより、D/dパラメータを30より小さい値に低減でき、かつ20と30との間の比をもつ従来のシステム以上の安全性レベルを得ることができる。
【0022】
また、この形式のロープまたはベルトを使用すると、潤滑が内部に維持され、時間の経過につれて艤装設備により分散されなくなり、シーブ上でロープが周回する間のインナーワイヤおよびストランドのより良い潤滑に寄与し、ロープ+ガバナシステムの疲労強度を増大させる。ポリマーコーティングは、外側の金属ストランドがシーブの溝を擦ることを防止し、弾性材料の中間層の結果として外側のワイヤのあらゆる摩滅および摩耗を防止し、かつ、ロープおよびシーブの寿命を、実際にメインテナンスフリーシステムを意味するレベルに高めることができる。
【0023】
本発明において、円形ロープの使用は、平らな表面、凸状面または凹状面をもつシーブの使用を意味する。上記円形ロープは種々の幾何学的形状の溝に使用できるが、ポリマー材料でコーティングされたロープは、スピードガバナ要素のシーブの溝との高い摩擦係数を与える。このことは、半円形溝または孔穿き半円形溝のような、ロープに対してアグレッシブでない溝を使用できることを意味する。この形式の溝を使用すると、ロープとシーブとの間の圧力が、他の幾何学的形状の溝よりも均一に分散され、かつケーブルの少数の回転後にケーブルに損傷を与えることができる圧力集中領域が形成されないためロープの寿命を延長できる。これは、ロープの期待寿命を大幅に延長させ、かつ、メインテナンスコストを低減させることを可能にし、または、メインテナンスコストをゼロにすることを可能にする。
【0024】
これは、牽引シーブの溝に使用される溝と同様な半円形のノッチ付きの溝またはV型溝がシーブに設けられ、従って、ガバナシステムの牽引キャパシティを確保するのに、検査およびメインテナンス、従って、過度の摩耗レベルによる交換を必要とする従来のガバナシステムとは異なるものである。本発明の設計および使用される材料の結果として、本発明のガバナシステムは、該ガバナシステムのシーブの溝のあらゆる起こり得る摩耗を防止し、従来のシステムより非常に長い有効寿命を確保し、メインテナンスの仕事を最小にし、または、メインテナンスフリーにすることもできる。
【0025】
ロープに使用されるガバナ要素のシーブは、0°のBETA溝角および25°から50°の、シーブ上でのロープの接触弧をもつ半円形の設計またはノッチ付きの半円形の設計による金属材料または非金属材料で作ることができる。ベルトの場合には、シーブには平らな表面、凹状面または凸状面を設けることができる。
【0026】
従って、ロープの金属コアの直径(d)は、5mm以下、好ましくは2mmと4mmとの間の値を許容でき、ガバナ要素のシーブのピッチ円直径(D)は、150mm以下であり、好ましくは75mmと100mmとの間の値を許容できる。
【0027】
平ベルトの場合には、0.01mmと2mmとの間の直径(d)と、100mm以下のシーブのピッチ円直径とをもつ少なくとも2つの金属インナーロープを有する。
可能な他の実施形態では、シーブは金属材料で作り、その溝には合成材料のコーティングを施こし、かつ、金属ロープにはコーティングを施さないでおくことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
上記説明を補足しかつ本発明の好ましい実施形態による本発明の特徴をより良く理解できるようにするために、本発明の説明の一体部分として1組の図面を添付し、本発明の例示的かつ非制限的な特徴を以下に説明する。
【0029】
図1には、ポリマー材料を被覆した金属ワイヤロープが示されている。ロープは、或る断面をもつ幾何学的デザインに従って密集された、金属ワイヤ(1)(通常、鋼で作られる)の組立体で形成され、金属ワイヤ(1)は、後で回転され(rotated)、ストランド(3)を形成する螺旋を形成する。ストランド(3)を形成するワイヤ(1)は、図1に示すように同一でもよいし、異ならせることもできる。一般に、ワイヤは、層を形成するように同心状に密集される。
【0030】
次に、前のパラグラフで説明したものと同様な密集スキームに従って、別のストランド(3)が密集される。すなわち、ストランド3は或る断面形態に配置され、かつストランドがワイヤの螺旋により形成されるのと同じ態様で、ストランドの螺旋を形成すべく後で撚られる。
【0031】
図1は中央ストランドの周囲に分散されたワイヤストランドを示し、一方、図2は、中央金属ストランドが、テクスタイル材料またはケブラー等の高張力合成材料からなる中央ストランド(4)で置換されているものを示す。
【0032】
ストランド(3)の密集体(cluster)により形成されたロープの金属コアは、例えばポリウレタン等のポリマー材料コーティング(2)で包囲されている。このコーティング(2)は、金属コアの直径にほぼ等しいが、これよりも幾分大きい直径を有する円形の外形を有し、従ってコアの直径を大きく増大させることなくコアを完全にコーティングしている。
【0033】
図3は、図1に示したロープが、リフティング装置に使用される形式のスピードガバナに使用される、異なる金属シーブ(2、2′)の溝(5、5′)を通過しているところを示すものである。これらのシーブは異なる幾何学的形状の溝(5、5′)にすることができ、本発明のロープの特徴を有する場合には、例えば、半円形の溝(5)またはノッチ付きの半円形の溝(5′)のようにアグレッシブでない溝を使用するのが好ましい。
【0034】
図4cには、ロープの金属部分の中央ストランドの直径の方が、外側ストランドの直径よりも大きくなるように構成した設計が示されている。これにより、この設計は、ポリマー材料が、外側ストランド間に形成された空間内に確実に入ることを可能にし、金属部分とコーティングのポリマー材料とのシステム一体性および物理的均一性を増大させることができる。
【0035】
従来のスピードガバナに使用されるロープ−シーブ組立体に関する一般的なパラメータと、本発明のロープ−シーブ組立体に関するこれらの対応パラメータとの比較を以下に説明する。
従来のスピードガバナ要素に通常使用される溝は、100°と105°との間のBETA溝角を有するノッチ付半円形溝、および35°と40°との間のGAMMA溝角を有する表面硬化処理を行った(または行わない)V型溝である。
【0036】
105°のBETA溝角および200mmのピッチ円直径をもつ半円形ノッチ付溝を有するシーブを備えた従来のシステムでは、ケーブルの比圧力は、テンションシーブから付与される張力に基いて、3.5N/mm2と7N/mm2との間の値が得られる。この設計によれば、0.4と0.5との間の摩擦係数「f」の値が達成され(ロープと鋳造溝との間の摩擦係数μを0.2であるとした場合)、3.5と4との間の値をもつ牽引キャパシティT1/T2の値が達成される。
【0037】
表面硬化処理していない40°のV型溝を有し、105°のBETAノッチ角を有し、200mmのピッチ円直径を有するシーブを使用する従来のシステムでは、テンションシーブにより付与される張力およびシーブの溝の摩耗に基いて、4N/mm2と8.5N/mm2との間の値をもつ比圧力がロープに発生される。この設計によれば、0.5と0.6との間の摩擦係数「f」の値が達成され(ロープと鋳造溝との間の摩擦係数μを0.2であるとした場合)、6と6.5との間の値をもつ牽引キャパシティT1/T2が達成される。
【0038】
GAMMA角が40°である表面硬化処理したV型溝を有し、200mmのピッチ円直径を有する従来のシステムでは、テンションシーブにより付与される張力に基いて、3.5N/mm2と6.5N/mm2との間の値をもつ比圧力がロープに発生される。この設計によれば、0.5と0.6との間の摩擦係数「f」の値が達成され(ロープと鋳造溝との間の摩擦係数μを0.2であるとした場合)、6と6.5との間の値をもつ牽引キャパシティT1/T2が達成される。
【0039】
金属ロープが内部に設けられた平ベルトを用いることにより、本発明は、前述した実施例で得られたのと同じ牽引キャパシティを得るのに、前述した実施例と同じ使用条件下で、1/3から1/5の間の値をもつ前記インナーロープの比圧力を有する。ベルトは、0.01mmと2mmとの間の直径dの値をもつ少なくとも2つの金属インナーロープを有するのが好ましく、ガバナ要素のシーブは、100mm以下の値をもつピッチ円直径を有する、滑らかな凹状または凸状の表面もつものとすることができる。
【0040】
2000N/mm2より大きい強度をもつワイヤを使用し、かつ、例えば、ポリウレタンのようなポリマー材料でコーティングされた金属ロープを使用することにより、本発明は、μ=0.4より大きい値に達する伝統的システムより大きい摩擦係数を有する。実験的試験によれば、μ=0.5より大きい所与の結果が得られた。これにより、8より大きい値をもつ牽引キャパシティT1/T2を有し、ケーブルに作用する張力を低減でき、従ってロープに作用する比圧力を低減でき、かつ、ロープの有効寿命を増大できるシステムが提供される。
【0041】
シーブ上のロープの30°のALPHA巻付け角をもつ半円形溝を有しかつ200mmのピッチ円直径を有する鋳造材料のシーブを備えた本発明によるガバナ機構は、テンションシーブにより付与される張力に基いて、直径d=2mmのロープの金属部分に、1.2N/mm2と1.52N/mm2との間の値の比圧力を生じさせる。この場合、この値は、従来のシステムに通常使用されている値より小さく、従来のシステムで到達される値より明らかに小さい。このため、コーティングされたロープの利益とともに、ガバナシステムの事実上メインテナンスフリーの有効寿命を確保できる。
【0042】
30°のALPHA角をもつ半円形溝を有しかつ80mmのピッチ円直径を有する鋳造材料のシーブを備えた本発明によるガバナ機構は、テンションシーブにより付与される張力に基いて、直径d=2mmのロープの金属部分に、3N/mm2と4N/mm2との間の値の比圧力を生じさせる。この場合、この値は、従来のシステムで通常使用されている値より小さい。この値は伝統的なシステムで得られる値以下であり、このため、コーティングされたロープの利益とともに、従来のガバナシステムより長いガバナシステムの有効寿命を確保できる。
【0043】
図6に示すような設計によるガバナシステム、すなわち、ガバナシステムは移動組立体と一緒に移動するが、ロープはその上部の固定された固定位置およびロープの下部のウェイトに静止され、鋳造材料からなり、かつ、30°のALPHA角および80mmのピッチ円直径をもつ半円形溝を備えたガバナシステムは、テンションシーブにより付与される張力に基いて、直径d=2mmのロープの金属部分に、1N/mm2と3N/mm2との間の値の比圧力を生じさせる。この場合、この値は、従来のシステムで通常使用されている値より小さい。伝統的なシステムで得られる値より小さいこの値は、コーティングされたロープの利益を有するとともに、従来のガバナシステムを超える、システムの有効寿命を確保できる。
【0044】
図5および図6には、2000N/mm2より大きい強度をもち、外径が5mm以下であり、かつ、いかなる材料もコーティングしていないワイヤにより形成されたガバナシステムの金属ロープが示されている。このロープは、金属で作られ、例えば、ポリウレタン等の合成材料すなわち樹脂をコーティングし、かつ、ロープとシーブとの間の摩擦係数を増大させるように設計されたガバナ要素のシーブの溝を通過する。
【0045】
図9から理解することができるように、本発明は、図5に示したような設計のシステムには通常G=50kgと100kgとの間の張力を必要とし、かつ、図6に示したような設計のシステムには、Gが25kgと50kgとの間の張力を必要とする従来のシステムより小さいロープの張力で済む。
【0046】
図9では、ループ設計形式に対して、次のことが得られる。すなわち、
F1+GR+G/2−T2=0:
T1/T2=8を表示する実験データを考察するとき、艤装設備の経路に基いて、10kgと12kgとの間の値をもつロープの張力が必要になる。本発明のロープまたはベルトの重量は、従来のロープの重量より小さく、かつ、0.04kg/mと0.1kg/mとの間の値を有する。これは、エレベータの加速時および減速時にロープの質量を移動させる慣性の効果を低減させる。
【0047】
図9において、唯一のロープ長を有する設計形式に対して、次のことが得られる。
F1+GR+G−T2=0:
T1/T2=10(ガバナ要素のシーブ上のロープの接触角を増大できるため、前の場合より大きい)を表示する実験データを考察すると、艤装設備の経路に基いて、5kgと8kgとの間の値をもつロープの張力が必要になる。この張力は従来のシステムより明らかに小さく、慣性の効果が最小化されという事実に寄与しかつケーブルがシーブを通過するときにケーブルに作用する比圧力を低下させる。従って、本発明は、実際に事実上メインテナンスフリーのシステムを暗示する。
【0048】
ロープに高張力鋼を使用することは、ロープの寿命を延長させることに寄与し、ロープの機械的疲労性能および摩耗を向上させることは、前述の効果に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明のロープの一形式を示す断面図である。
【図2】中央のストランドが、テクスタイル材料またはケブラー等の高張力材料からなる中央ストランドに置換されている他の可能なロープ断面を示す図面である。
【図3】図1に示したロープが、異なる形式の溝(この場合は、半円形の溝、および、ノッチ付きの半円形の溝)を通過するところを示すものである。
【図4a】可能なロープ設計の1つを示す断面図である。
【図4b】可能なロープ設計の1つを示す断面図である。
【図4c】可能なロープ設計の1つを示す断面図である。
【図4d】可能なベルト設計の1つを示す断面図である。
【図4e】可能なベルト設計の1つを示す断面図である。
【図5】可能なスピードガバナシステム設計であって、ロープループが移動ユニットの本体に配置された安全ギヤ要素に始端および終端を有する構成(システムの主な特徴が影響を受けることがない他の設計も可能である)のスピードガバナシステム設計を示す図面である(スピードガバナ要素は艤装設備の固定位置にある)。
【図6】可能なオーバースピードガバナシステム設計であって、ロープループが移動ユニットの本体に配置された安全ギヤ要素に始端および終端を有する構成(システムの主な特徴が影響を受けることがない他の設計も可能である)のスピードガバナシステム設計を示す図面である(この場合、スピードガバナ要素は移動ユニットと一体として移動する)。
【図7】可能なロープ張力付与要素設計を示す図面である(システムの主な特徴が影響を受けることがない他の設計も可能である)。
【図8】スピードガバナ要素が移動ユニットと一体として移動するが、前述のシステムとは異なり、応力がガバナ要素により直接伝達される構成のスピードガバナシステムを示す図面である(この場合、ロープは、ガバナ要素のシーブを回転させて、エレベータが移動する線速度を検出し、オーバースピードの場合に信号を発生させ、かつガバナ要素に必要な力を付与して安全ギヤ要素を作動させる)。
【図9】ガバナシステムが作動される瞬間に作用する力を示す概略図である。
【図10】他の可能なガバナシステムの第二形式を示す図面である。
【符号の説明】
【0050】
1 金属ワイヤ
2 コーティング
3 ストランド
4 中央ストランド
5、5′ 溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレベータのスピードガバナ用ロープにおいて、ストランド(3)として密集される、2000N/mm2より大きい強度をもつ高張力鋼ワイヤ(1)を有し、ストランド(3)の間には5mm以下の直径を有するコアが形成され、前記コアは、前記ストランド(3)の間に形成されたギャップ内に導入されるポリマー材料(2)により完全にコーティングされ、前記コアの直径より僅かに大きい直径を有するポリマー外表面が形成されていることを特徴とするスピードガバナ用ロープ。
【請求項2】
前記コアの直径は2mmと4mmとの間にあることを特徴とする請求項1記載のスピードガバナ用ロープ。
【請求項3】
前記コアには、テクスタイル材料からなる中央ストランド(4)が組込まれていることを特徴とする請求項1記載のスピードガバナ用ロープ。
【請求項4】
前記コアには、複合材料からなる中央ストランド(4)が組込まれていることを特徴とする請求項1記載のスピードガバナ用ロープ。
【請求項5】
ストランド(3)として密集される、2000N/mm2より大きい強度をもつ高張力鋼ワイヤ(1)を備えた少なくとも2つの金属ロープを有し、ストランド(3)は、0.01mmと2mmとの間の直径を有する対応金属コアを形成し、コアは、ポリマー材料(2)により完全にコーティングされていることを特徴とするスピードガバナ用ベルト。
【請求項6】
前記ベルトのポリマー材料の外表面は平らな表面を有していることを特徴とする請求項5記載のスピードガバナ用ベルト。
【請求項7】
前記ベルトのポリマー材料の外表面は波型表面を有していることを特徴とする請求項5記載のスピードガバナ用ベルト。
【請求項8】
請求項1から4のいずれか1項記載のロープに使用されるエレベータのスピードガバナ用シーブにおいて、高粘着レベルを有する半円形の設計の溝を有し、該溝のBETA溝角は0°であり、シーブ上でのロープのALPHA接触弧は25°と50°との間にあり、溝のピッチ円直径は150mm以下であることを特徴とするエレベータのスピードガバナ用シーブ。
【請求項9】
前記溝は、その半円形の設計にノッチを有していることを特徴とする請求項8記載のエレベータのスピードガバナ用シーブ。
【請求項10】
ピッチ円直径が100mmより小さいことを特徴とする請求項8記載のエレベータのスピードガバナ用シーブ。
【請求項11】
ピッチ円直径が100mmより小さいことを特徴とする、請求項5から7のいずれか1項記載のベルトに使用される、エレベータのスピードガバナ用シーブ。
【請求項12】
スピードガバナ用ロープおよびシーブにより形成される組立体において、シーブは、その溝内の合成材料コーティング層と、150mm以下のピッチ円直径とを有し、ロープは、ストランドとして密集される、2000N/mm2より大きい強度をもつ高張力鋼ワイヤを有し、ストランドの間には5mm以下の直径を有するコアが形成されていることを特徴とするスピードガバナ用のロープおよびシーブにより形成された組立体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4a】
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【図4b】
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【図4c】
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【図4d】
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【図4e】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2007−536186(P2007−536186A)
【公表日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−512229(P2007−512229)
【出願日】平成16年7月12日(2004.7.12)
【国際出願番号】PCT/ES2004/000331
【国際公開番号】WO2005/108672
【国際公開日】平成17年11月17日(2005.11.17)
【出願人】(506371268)
【Fターム(参考)】