説明

スピードスプレーヤの薬液噴霧装置

【課題】 噴霧ノズル周りの機械的構造の単純化,小型化及び低コスト化に寄与するとともに、耐久性及び信頼性の向上、更には、効果的なドリフト低減を図る。
【解決手段】 薬液タンク2から複数の噴霧ノズル3a…に薬液Lを供給し、各噴霧ノズル3a…から薬液Lを噴霧するスピードスプレーヤMの薬液噴霧装置1を構成するに際して、噴霧ノズル3a…,3b…から薬液Lを噴霧する複数の噴霧系統4a,4bと、薬液タンク2から各噴霧系統4a,4bに対して異なる噴霧圧力Pa,Pbの薬液Lを供給する異圧薬液供給手段5と、各噴霧系統4a,4bに対する薬液Lの供給又は停止を切換える切換手段6とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬液タンクから複数の噴霧ノズルに薬液を供給し、各噴霧ノズルから薬液を噴霧するスピードスプレーヤの薬液噴霧装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、果樹園や農耕地等の圃場内を走行しながら薬液を散布するスピードスプレーヤは知られており、この種のスピードスプレーヤは、通常、薬液タンクから複数の噴霧ノズルに薬液を供給し、各噴霧ノズルから薬液を噴霧する薬液噴霧装置を備えている。ところで、スピードスプレーヤは、霧状の薬液を広範囲にかつ能率的に散布するため、本来、薬液の散布を回避したい場所にも散布されてしまういわゆるドリフトが発生する問題がある。したがって、ドリフトをできるだけ低減し、散布対象物に対して均一で無駄のない散布を効率的に行うとともに、非散布対象物(他の作物や河川等)への無用な散布を回避することが求められる。
【0003】
従来、このような問題に対処したスピードスプレーヤも各種知られている。例えば、特開平8−294650号公報には、スピードスプレーヤの車両本体の後部からエアを吸入し、整流筒により車両本体の側方に向けてエアを噴出させるとともに、整流筒の開口部内に薬液を供給するノズルを設置して、エア流によりノズルから薬液を噴霧させるスピードスプレーヤであって、整流筒の開口縁に沿って周方向にノズルを移動可能又はノズルの向きを可変可能に支持し、これにより、スピードスプレーヤから側方へ薬液を散布する際の散布範囲を広く可変したり、薬液の噴霧方向を可変して、圃場等の条件に応じたより適切な薬液噴霧を行えるようにしたスピードスプレーヤの薬液噴霧装置が開示されている。
【0004】
また、特開平10−174906号公報には、薬液噴霧量の異なる複数のノズルユニットを備えたノズル本体と、該ノズル本体を回動可能に支持するノズル支持部とを備え、複数のノズルユニットの各々の薬液噴霧方向の中心線をノズル本体の回動軸心線方向と平行にし、ノズル支持部が突出筒端部を有する接続管を備えると共に、ノズル本体が筒状嵌合体を備え、接続管の突出筒端部に筒状嵌合体を外嵌せしめて回動位置調節可能に取付固定し、これにより、圃場の立地条件,樹形等、その薬液散布作業の目的に応じて薬液噴霧量を調節して使用できるようにしたスピードスプレーヤ用切換ノズルが開示されている。
【特許文献1】特開平8−294650号
【特許文献2】特開平10−174906号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述した従来の薬液噴霧装置等は、いずれも噴霧機構の機械的構造に着目したものであるため、次のような解決すべき課題が存在した。
【0006】
第一に、ノズル位置の移動,ノズル向きの変更,ノズル自身の切換等のノズルに係わる機械的変更操作が必要になるため、手動及び自動のいずれの操作も大掛かりで大変になり、ノズル周りの機械的構造の複雑化,大型化及び高コスト化を招く。
【0007】
第二に、外部に露出するノズル周りの機構が複雑化及び大型化するため、土埃の付着や錆の発生等による故障や劣化が生じ易くなり、耐久性及び信頼性を確保する面からも不利になる。
【0008】
第三に、散布する薬液の噴霧量や噴霧方向を速やかに変更することができないため、ドリフトを効果的に低減するには限界がある。特に、スピードスプレーヤが走行中に方向転換したり散布対象物のすぐ近くに非散布対象物が存在する場合等では、ドリフトが発生しやすい。
【0009】
本発明は、このような背景技術に存在する課題を解決したスピードスプレーヤの薬液噴霧装置の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上述した課題を解決するため、薬液タンク2から複数の噴霧ノズル3a…に薬液Lを供給し、各噴霧ノズル3a…から薬液Lを噴霧するスピードスプレーヤMの薬液噴霧装置1を構成するに際して、噴霧ノズル3a…,3b…から薬液Lを噴霧する複数の噴霧系統4a,4bと、薬液タンク2から各噴霧系統4a,4bに対して異なる噴霧圧力Pa,Pbの薬液Lを供給する異圧薬液供給手段5と、各噴霧系統4a,4bに対する薬液Lの供給又は停止を切換える切換手段(第一切換手段)6とを備えてなることを特徴とする。
【0011】
この場合、発明の好適な態様により、噴霧系統4a,4bには、一又は二以上の噴霧ノズル3a…,3b…を有する噴霧方向の異なる複数のノズルユニット4ap,4am,4aq,4bp,4bm,4bqと、各ノズルユニット4ap,4am,4aq,4bp,4bm,4bqに対する薬液Lの供給又は停止を切換える第二切換手段11を設けることができる。なお、第二切換手段11には、運転席12の操作により各ノズルユニット4ap…,4bp…に対する薬液Lの供給又は停止を遠隔により切換える遠隔切換手段11Aを用いることができる。一方、異圧薬液供給手段5は、噴霧ポンプ13から供給される薬液Lの圧力を変更して各噴霧系統4a,4bに供給する調圧弁14a,14bを用いて構成できるとともに、他の形態として、薬液Lの圧力を変更して各噴霧系統4a,4bに供給する複数の噴霧ポンプ15a,15bを用いて構成することもできる。また、第一切換手段6は、運転席12の操作により各噴霧系統4a,4bに対する薬液Lの供給又は停止を遠隔により切換える遠隔切換手段6Aを用いることができる。
【発明の効果】
【0012】
このような構成を有する本発明に係るスピードスプレーヤMの薬液噴霧装置1によれば、次のような顕著な効果を奏する。
【0013】
(1) 薬液Lの噴霧圧力Pa,Pb(噴霧量及び噴霧距離)を変更するに際し、特に、噴霧ノズル3a…周りをはじめ、薬液噴霧装置1全体における機械的変更操作が不要になるため、手動及び自動のいずれの操作も容易化することができるとともに、噴霧ノズル3a…周りの機械的構造の単純化,小型化及び低コスト化に寄与できる。
【0014】
(2) 外部に露出する噴霧ノズル3a…周りにおける機構の単純化及び小型化により、土埃の付着や錆の発生等による故障や劣化が生じにくくなり、耐久性及び信頼性の向上に寄与できる。
【0015】
(3) 散布する薬液Lの噴霧量及び噴霧距離を速やかに変更できるため、ドリフトを効果的に低減することができ、例えば、スピードスプレーヤMが走行中に方向転換したり散布対象物のすぐ近くに非散布対象物が存在する場合等でもドリフトの発生を十分に回避できる。
【0016】
(4) 好適な態様により、噴霧系統4a,4bに、一又は二以上の噴霧ノズル3a…,3b…を有する噴霧方向の異なる複数のノズルユニット4ap…,4bp…と、各ノズルユニット4ap…,4bp…に対する薬液Lの供給又は停止を切換える第二切換手段11を設ければ、薬液Lの噴霧圧力Pa,Pb(噴霧量及び噴霧距離)の変更に加えて、薬液Lの噴霧方向の変更も容易に行うことができる。
【0017】
(5) 好適な態様により、異圧薬液供給手段5として、噴霧ポンプ13から供給される薬液Lの圧力を変更して各噴霧系統4a,4bに供給する調圧弁14a,14bを用いて構成すれば、主要構成部品として調圧弁14bを追加するのみで容易かつ低コストに実現できる。
【0018】
(6) 好適な態様により、異圧薬液供給手段5として、薬液Lの圧力を変更して各噴霧系統4a,4bに供給する複数の噴霧ポンプ15a,15bを用いて構成すれば、噴霧ポンプ15bの追加による安定した動作を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
次に、本発明に係る最良の実施形態を挙げ、図面に基づき詳細に説明する。
【0020】
まず、本実施形態に係る薬液噴霧装置1を備えるスピードスプレーヤMの概略構成について、図2を参照して説明する。
【0021】
スピードスプレーヤMにおいて、51はシャーシであり、このシャーシ51の前側に左右一対の前輪52…を備えるとともに、後側に左右一対の後輪53…を備える。これにより、スピードスプレーヤMは、搭載するエンジンにより自走する。一方、シャーシ51上のボディ54の前部には、操舵ハンドル55及び着座シート56、更には後述する操作パネル33(図1参照)等を有する運転席12を備えるとともに、この運転席12の前方におけるボンネット57には、ヘッドライト等のライト類やバックミラー等の必要な車両装備を備える。そして、運転席12の後方には、本実施形態に係る薬液噴霧装置1を搭載する。
【0022】
次に、本実施形態に係る薬液噴霧装置1の構成について、図1〜図4を参照して具体的に説明する。
【0023】
薬液噴霧装置1は、図2に示すように、運転席12の後側に配した薬液タンク2を備える。また、この薬液タンク2の後方であってボディ54の後端には、風洞カバー62に覆われた送風機61を備える。さらに、風洞カバー62と薬液タンク2の間には、噴霧空間Sを有し、この噴霧空間Sには、整流筒21,22及びこの整流筒21,22に沿って配した多数の噴霧ノズル3a…,3b…を備える。これにより、噴霧ノズル3a…,3b…から噴霧される薬液Lは、送風機61からの送風によって噴霧空間Sから、右方,左方及び上方を含む放射方向の所定範囲(図5,図6参照)に噴霧される。なお、63は、給水ポンプに接続したサクションホースである。
【0024】
また、薬液噴霧装置1は、図1〜図4に示すように、噴霧ノズル3a…,3b…から薬液Lを噴霧する高圧側噴霧系統4aと低圧側噴霧系統4bの二つの噴霧系統を備える。したがって、多数の噴霧ノズル3a…,3b…も各噴霧系統4a,4bに分けられる。この場合、高圧側噴霧系統4aには、複数の噴霧ノズル3a…を有する噴霧方向の異なる三組のノズルユニット4ap,4am,4aqを備えるとともに、低圧側噴霧系統4bには、複数の噴霧ノズル3b…を有する噴霧方向の異なる三組のノズルユニット4bp,4bm,4bqを備え、図3に示すように、ノズルユニット4ap,4bpの噴霧方向は左方向(図3中、右方向)、ノズルユニット4am,4bmの噴霧方向は上方向、ノズルユニット4aq,4bqの噴霧方向は右方向となる。
【0025】
高圧側のノズルユニット4amは、図3及び図4に示すように、風洞カバー62に沿った形状の主管部25aを有し、この主管部25aに沿って所定間隔おきに設けた複数の分岐継手部26a…からそれぞれL形に形成した分岐管部27a…を直角方向(前方向)に突出させる。この場合、分岐継手部26a…から突出した分岐継手部26a…の前部を直角方向(放射方向)に折曲し、この先端に噴霧ノズル3a…を取付ける。高圧側の他のノズルユニット4ap,4aqも、主管部25aの形状及び噴霧ノズル3a…の数量等が異なるものの、基本的な形態はノズルユニット4amと同じになる。他方、低圧側のノズルユニット4bmも高圧側のノズルユニット4amと同様であり、図3及び図4に示すように、風洞カバー62に沿った形状の主管部25bを有し、この主管部25bに沿って所定間隔おきに設けた複数の分岐継手部26b…からそれぞれL形に形成した分岐管部27b…を直角方向(前方向)に突出させる。この場合、分岐継手部26b…から突出した分岐継手部26b…の前部を直角方向(放射方向)に折曲し、この先端に噴霧ノズル3b…を取付ける。低圧側の他のノズルユニット4bp,4bqも、主管部25bの形状及び噴霧ノズル3b…の数量等は異なるものの、基本的な形態はノズルユニット4bmと同じになる。
【0026】
なお、図3及び図4では、高圧側のノズルユニット4ap…を低圧側のノズルユニット4bp…よりも内側に配した場合を示すが、低圧側のノズルユニット4bp…を高圧側のノズルユニット4ap…よりも内側に配してもよいし、高圧側のノズルユニット4ap…と低圧側のノズルユニット4bp…を相前後して配してもよい。また、噴霧ノズル3a…,3b…は、図2に示すように、高圧側の噴霧ノズル3a…を後側に揃えて配し、低圧側の噴霧ノズル3b…を前側に揃えて配した場合を示したが、噴霧ノズル3a…と噴霧ノズル3b…が交互に前後するいわゆる千鳥足状に配してもよい。
【0027】
さらに、高圧側噴霧系統4aに備える各ノズルユニット4ap,4am,4aqには、各ノズルユニット4ap…に対して薬液Lの供給又は停止を切換える開閉弁11ap,11am,11aqの二次側を接続するとともに、低圧側噴霧系統4bに備える各ノズルユニットには、各ノズルユニット4bp…に対して薬液Lの供給又は停止を切換える開閉弁11bp,11bm,11bqの二次側を接続する。各開閉弁11ap…,11bp…は、第二切換手段11となり、それぞれ後述する車載コントローラ31からの制御信号により開閉制御される電磁アクチュエータ等により構成する。
【0028】
また、薬液噴霧装置1は、図1に示すように、薬液タンク2から各噴霧系統4a,4bに対して異なる噴霧圧力Pa,Pbの薬液Lを供給する異圧薬液供給手段5を備える。この異圧薬液供給手段5は、噴霧ポンプ13から供給される薬液Lの圧力を変更して各噴霧系統4a,4bに供給する調圧弁、即ち、高圧側調圧弁14aと低圧側調圧弁14bを用いて構成する。この場合、高圧側調圧弁14aの入口ポートiaは、噴霧ポンプ13,ストレーナ28,開閉弁29を介して薬液タンク2の流出口2oに接続する。さらに、高圧側調圧弁14aの余液口ポートraは低圧側調圧弁14bの入口ポートibに接続するとともに、低圧側調圧弁14bの余液口ポートrbは、薬液タンク2の流入口(戻口)2rに接続する。これにより、高圧側調圧弁14aは、高圧側の噴霧圧力Paを設定できるとともに、低圧側調圧弁14bは、低圧側の噴霧圧力Pbを設定できる。高圧側の噴霧圧力Paは、概ね1.2〜1.7〔MPa〕に設定するとともに、低圧側の噴霧圧力Pbは、概ね0.5〜1.0〔MPa〕に設定することが望ましい。
【0029】
一方、高圧側調圧弁14aの出口ポートoaは、開閉弁6aを介して開閉弁11ap,11am,11aqの一次側に接続するとともに、低圧側調圧弁14bの出口ポートobは、開閉弁6bを介して開閉弁11bp,11bm,11bqの一次側に接続する。開閉弁6a,6bは、各噴霧系統4a,4bに対する薬液Lの供給又は停止を切換える第一切換手段6となり、それぞれ後述する車載コントローラ31からの制御信号により開閉制御される電磁アクチュエータ等により構成する。
【0030】
他方、31は車載コントローラを示す。車載コントローラ31には車載バッテリ32を接続するとともに、運転席12に備える操作パネル33を接続する。車載コントローラ31は制御信号を出力し、各開閉弁6a,6b及び開閉弁11ap,11am,11aq,11bp,11bm,11bqを開閉制御するとともに、各調圧弁14a,14bに対して制御信号を付与し、設定圧力を調整(変更)することができる。車載コントローラ31は、その他、噴霧ポンプ13の動作制御や開閉弁29の開閉制御を行うことができるとともに、スピードスプレーヤM全体における各種制御を司る機能を有している。
【0031】
したがって、第一切換手段6は、運転者(作業者)がスピードスプレーヤMの運転中に操作パネル33を操作し、各開閉弁6a,6bに対する開閉制御を遠隔操作により行う遠隔切換手段6Aとして構成されるとともに、第二切換手段11は、運転者がスピードスプレーヤMの運転中に操作パネル33を操作し、各開閉弁11ap,11am,11aq,11bp,11bm,11bqに対する開閉制御を遠隔操作により行う遠隔切換手段11Aとして構成される。
【0032】
次に、本実施形態に係る薬液噴霧装置1の使用方法(機能)について、図1〜図6を参照して説明する。
【0033】
薬液噴霧装置1は、上述したように、運転者(作業者)がスピードスプレーヤMの運転中に操作パネル33を操作し、遠隔操作により各開閉弁6a,6bに対する開閉制御を行うことができるとともに、遠隔操作により各開閉弁11ap,11am,11aq,11bp,11bm,11bqに対する開閉制御を行うことができる。
【0034】
今、運転者が操作パネル33を操作し、第一切換手段6における高圧側の開閉弁6aを開ポジションに切換え、低圧側の開閉弁6bを閉ポジションに切換えるとともに、第二切換手段11の各開閉弁11ap,11am,11aqを全て開ポジションに切換えれば、図5に示すように、高圧側のノズルユニット4ap,4am,4aqの全てからスピードスプレーヤMの左方向エリアZap(図5中、右方向),上方向エリアZam及び右方向エリアZaqに薬液Lが噴霧され、この際の噴霧圧力Paは、予め設定した例えば1.5〔MPa〕の高圧となる。これにより、比較的遠い場所まで薬液散布が可能になる。また、この状態で各開閉弁11ap,11am,11aqの一又は二を閉ポジションに切換えれば、左方向エリアZap,上方向エリアZam及び右方向エリアZaqの一又は二の各エリアに対して選択的な薬液散布が可能になる。なお、この際、各開閉弁11ap,11am,11aqの一又は二が選択された場合であっても、各調圧弁13a,13bの制御により設定した噴霧圧力Paの変動が回避される。
【0035】
同様に、第一切換手段6における低圧側の開閉弁6bを開ポジションに切換え、高圧側の開閉弁6aを閉ポジションに切換えるとともに、第二切換手段11の各開閉弁11bp,11bm,11bqを全て開ポジションに切換えれば、図6に示すように、低圧側のノズルユニット4bp,4bm,4bqの全てからスピードスプレーヤMの左方向エリアZbp(図6中、右方向),上方向エリアZbm及び右方向エリアZbqに薬液Lが噴霧され、この際の噴霧圧力Pbは、予め設定した例えば0.7〔MPa〕の低圧となる。これにより、比較的近い場所に薬液散布が可能になる。また、この状態で各開閉弁11bp,11bm,11bqの一又は二を閉ポジションに切換えれば、左方向エリアZbp,上方向エリアZbm及び右方向エリアZbqの一又は二の各エリアに対して選択的な薬液散布が可能になる。なお、この際、各開閉弁11bp,11bm,11bqの一又は二が選択された場合であっても、各調圧弁13a,13bの制御により設定した噴霧圧力Pbの変動が回避される。
【0036】
このような薬液噴霧装置1では、各開閉弁6a,6b,11ap,11am,11aq,11bp,11bm,11bqの開閉制御を行うことにより、様々な噴霧範囲となる各種噴霧パターンを選択することができるとともに、選択した噴霧パターンに速やかに変更することができる。また、高圧側の開閉弁6aと低圧側の開閉弁6bを同時に開ポジションに切換制御し、例えば、二つのノズルユニット4apと4bpから同時に噴霧することができ、これにより、右方向エリア(Zap,Zbp)の遠い場所と近い場所の双方に対して同時に薬液散布可能になる。
【0037】
よって、本実施形態に係る薬液噴霧装置1によれば、薬液Lの噴霧圧力Pa,Pb(噴霧量及び噴霧距離)を変更するに際し、特に、噴霧ノズル3a…周りをはじめ、薬液噴霧装置1全体における機械的変更操作が不要となるため、手動及び自動のいずれの操作も容易化することができるとともに、噴霧ノズル3a…周りの機械的構造の単純化,小型化及び低コスト化に寄与できる。また、外部に露出する噴霧ノズル3a…周りにおける機構の単純化及び小型化により、土埃の付着や錆の発生等による故障や劣化が生じにくくなり、耐久性及び信頼性の向上に寄与できる。さらに、散布する薬液Lの噴霧量及び噴霧距離を速やかに変更できるため、ドリフトを効果的に低減することができ、例えば、スピードスプレーヤMが走行中に方向転換したり散布対象物のすぐ近くに非散布対象物が存在する場合等でもドリフトの発生を十分に回避できる。
【0038】
一方、噴霧系統4a,4bには、一又は二以上の噴霧ノズル3a…,3b…を有する噴霧方向の異なる複数のノズルユニット4ap…,4bp…と、各ノズルユニット4ap…,4bp…に対する薬液Lの供給又は停止を切換える第二切換手段11を設けたため、薬液Lの噴霧圧力Pa,Pb(噴霧量及び噴霧距離)の変更に加えて、薬液Lの噴霧方向の変更も容易に行うことができる。しかも、異圧薬液供給手段5として、噴霧ポンプ13から供給される薬液Lの圧力を変更して各噴霧系統4a,4bに供給する調圧弁14a,14bを用いて構成したため、主要構成部品として調圧弁14bを追加するのみで容易かつ低コストに実現できる利点がある。
【0039】
次に、本発明の変更実施形態に係るスピードスプレーヤMの薬液噴霧装置1について、図7を参照して説明する。
【0040】
変更実施形態に係る薬液噴霧装置1は、図7に示すように、異圧薬液供給手段5を構成するに際して、薬液Lの圧力を変更して各噴霧系統4a,4bに供給する複数の噴霧ポンプ15a,15bを用いて構成したものである。したがって、ストレーナ28の二次側を各噴霧ポンプ15a,15bの吸入部にそれぞれ接続するとともに、高圧側に用いる噴霧ポンプ15aの吐出部は、高圧側調圧弁14aの入口ポートiaに、また、低圧側に用いる噴霧ポンプ15bの吐出部は、低圧側調圧弁14bの入口ポートibにそれぞれ接続する。一方、高圧側調圧弁14aの余液口ポートra及び低圧側調圧弁14bの余液口ポートrbは、それぞれ薬液タンク2の流入口(戻口)2rに接続するとともに、高圧側調圧弁14aの出口ポートoaは開閉弁6aの一次側に、また、低圧側調圧弁14bの出口ポートobは開閉弁6bの一次側にそれぞれ接続する。なお、その他の構成は、図1に示した実施形態と同じになる。このため、図7における図1と同一部分には同一符号を付して、その構成を明確にするとともに、その詳細な説明は省略する。
【0041】
この変更実施形態に係る薬液噴霧装置1は、高圧側の噴霧ポンプ15aにより高圧側の噴霧圧力Pa(概ね1.2〜1.7〔MPa〕)を設定できるとともに、低圧側の噴霧ポンプ15bにより低圧側の噴霧圧力Pb(概ね0.5〜1.0〔MPa〕)を設定でき、噴霧ポンプ15bの追加による安定した動作を実現できる利点がある。
【0042】
以上、最良の実施形態(変更実施形態)について詳細に説明したが、本発明は、このような実施形態に限定されるものではなく、細部の構成,形状,素材,数量,数値等において、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更,追加,削除することができる。例えば、例示の噴霧系統4a,4bは二系統の場合を示したが、三系統以上であってもよい。また、各噴霧系統4a…におけるノズルユニット4ap,4am,4aq…は三組の場合を示したが、一組又は二組或いは四組以上であってもよい。さらに、第一切換手段6(第二切換手段11)として、運転席12の操作により各噴霧系統4a,4b(各ノズルユニット4ap…,4bp…)に対する薬液Lの供給又は停止を切換える遠隔切換手段6A(11A)(自動切換手段)を示したが、直接切換える直接切換手段(手動切換手段)の採用を排除するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の最良の実施形態に係る薬液噴霧装置の回路図、
【図2】同薬液噴霧装置を備えるスピードスプレーヤの側面図、
【図3】同薬液噴霧装置におけるノズルユニットの正面レイアウト図、
【図4】同ノズルユニットの一部を示す外観構成図、
【図5】同薬液噴霧装置における高圧噴霧系統の作用説明図、
【図6】同薬液噴霧装置における低圧噴霧系統の作用説明図、
【図7】本発明の変更実施形態に係る薬液噴霧装置の回路図、
【符号の説明】
【0044】
1 薬液噴霧装置
2 薬液タンク
3a… 噴霧ノズル
3b… 噴霧ノズル
4a 噴霧系統(高圧側噴霧系統)
4b 噴霧系統(低圧側噴霧系統)
4ap… ノズルユニット
4bp… ノズルユニット
5 異圧薬液供給手段
6 切換手段(第一切換手段)
6A 遠隔切換手段
11 第二切換手段
11A 遠隔切換手段
12 運転席
13 噴霧ポンプ
14a 調圧弁(高圧側調圧弁)
14b 調圧弁(低圧側調圧弁)
15a 噴霧ポンプ
15b 噴霧ポンプ
L 薬液
M スピードスプレーヤ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬液タンクから複数の噴霧ノズルに薬液を供給し、各噴霧ノズルから薬液を噴霧するスピードスプレーヤの薬液噴霧装置において、前記噴霧ノズルから薬液を噴霧する複数の噴霧系統と、前記薬液タンクから各噴霧系統に対して異なる噴霧圧力の薬液を供給する異圧薬液供給手段と、各噴霧系統に対する薬液の供給又は停止を切換える切換手段(第一切換手段)とを備えてなることを特徴とするスピードスプレーヤの薬液噴霧装置。
【請求項2】
前記噴霧系統は、一又は二以上の噴霧ノズルを有する噴霧方向の異なる複数のノズルユニットと、各ノズルユニットに対する薬液の供給又は停止を切換える第二切換手段を備えることを特徴とする請求項1記載のスピードスプレーヤの薬液噴霧装置。
【請求項3】
前記第二切換手段は、運転席の操作により各ノズルユニットに対する薬液の供給又は停止を遠隔により切換える遠隔切換手段を用いることを特徴とする請求項2記載のスピードスプレーヤの薬液噴霧装置。
【請求項4】
前記異圧薬液供給手段は、噴霧ポンプから供給される薬液の圧力を変更して各噴霧系統に供給する調圧弁を備えることを特徴とする請求項1記載のスピードスプレーヤの薬液噴霧装置。
【請求項5】
前記異圧薬液供給手段は、薬液の圧力を変更して各噴霧系統に供給する複数の噴霧ポンプを備えることを特徴とする請求項1記載のスピードスプレーヤの薬液噴霧装置。
【請求項6】
前記第一切換手段は、運転席の操作により各噴霧系統に対する薬液の供給又は停止を遠隔により切換える遠隔切換手段を用いることを特徴とする請求項1記載のスピードスプレーヤの薬液噴霧装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−205126(P2006−205126A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−23780(P2005−23780)
【出願日】平成17年1月31日(2005.1.31)
【出願人】(000186784)株式会社ショーシン (13)
【Fターム(参考)】