説明

スプラウト栽培シート

【課題】 従来から、スプラウト栽培は発泡スチロール製の栽培容器を1出荷単位に栽培室に区画し、各室底部に排水孔が設け、該底部に軟質発泡ウレタンマットを敷き、これを培地として種子を蒔き、散水を繰り返すことで、発芽、育成を行って来た。しかし、軟質発泡ウレタンは自然崩壊性がなく焼却も難しいことから、これに代替するスプラウト栽培培地が要望されているが、これまで適当なものが見つかっていない。
【解決手段】 天然木材パルプ100%のパルプ繊維をケミカルボンド方式で得た、ロール状に巻き取られた乾式パルプ不織布を、正方形や長方形の1栽培出荷単位のシートに縦横に裁断したスプラウト栽培シートを採用する。また、乾式パルプ不織布の製造工程において、抗菌性を有するバインダーを使用することで、後からの抗菌処理工程を省いた、1栽培出荷単位のスプラウト栽培シートを得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カイワレ大根、そば芽、豆苗などのスプラウト栽培の培地に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、カイワレ大根、そば芽、豆苗などのスプラウトは、1出荷単位に栽培室が区画された発泡スチロール製の栽培容器の排水孔が設けられた各室底部に軟質発泡ウレタンマットを敷き、これを培地として種子を蒔き、散水を繰り返すことで、発芽、育成を行って来た。
【0003】
しかし、該軟質発泡ウレタンマットは栽培後の廃棄処理において、自然崩壊性がないことや焼却処理すると有毒ガスが発生するなど課題があり、これに対応すべく、基材にパルプを使用したいくつかの技術的試みが見られる。
【0004】
例えば、1出荷単位に栽培室が区画された集合部分を栽培容器から切り離して中枠体とし、まず栽培容器底部一面に紙マットを敷設し、次ぎに中枠体を装着して、従来法同様に栽培し、収穫時には紙マットを引き千切って1つの出荷単位にする方法がある。(特許文献1参照)
【0005】
また、最近では、古紙の再利用を目的として、古紙を粉砕、解繊して湿式法で抄紙化したものを培地とする方法がある。これには、脱水、乾燥前のスラリー組成物に防腐剤、防黴剤、抗菌剤などを配合する記載がある。(特許文献2参照)
【0006】
さらに、再生パルプを含むパルプを主な原材料として、これに増粘剤を加えて、起泡、造粒したパルプビーズを、さらに型枠内で融着加熱成形してブロックを得たり、押出し、凝固、乾燥によりシートとした植物栽培基材がある。これも、天然系抗菌剤のビーズ表面添付の記載がある。(特許文献3参照)
【0007】
また、上述した理由と違って、軟質発泡ウレタンマットは、栽培容器の各室底部に敷設したときに隙間が形成され、ここに播種した種が落ち込み、根腐れしたり、製品の見栄えを悪くするとの理由で、水によってゲル化したパルプを培地に採用する提案が行われている。(特許文献4参照)
【特許文献1】 特開平7−289103
【特許文献2】 特開2000−224934
【特許文献3】 特開2000−157078
【特許文献4】 特開2004−242576
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、スプラウト栽培用培地に軟質発泡ウレタンマットを使用すると、栽培後の廃棄処理の課題が浮上しており、自然崩壊性、燃焼容易なパルプが着目されるようになって来た。しかし、現時点で軟質発泡ウレタンマットよりもコストが安く、かつ軟質発泡ウレタンマットのもつ課題を解決した培地が、スプラウト栽培に広く普及している様子は見聞きしていない。
【0009】
即ち、上述したどの技術にも今だ課題が残されており、特許文献1の技術では、培地が栽培容器1つに対して1枚の紙マットであり、収穫時これを引き千切るのでは、自動収穫機でのトラブルが推定されるし、また抗菌処理について明確な説明がない。
【0010】
また、特許文献2および特許文献3は、いずれも再生パルプに着目しており、廃棄問題を解決していると思われるが、一度使用した紙からの湿式法での再生では、印刷インクなどの不明成分の除去や後処理工程での添加物に課題があり、食用に供される植物を栽培する上には不安な材料と言える。また、軟質発泡ウレタンより安価であることが、培地切替えの条件とも言えるので、特許文献2、3の技術では、薄い培地として1栽培出荷単位のシートにすることが難しい製造方法と思われる。ただし、両技術ともに抗菌性物質の添加については触れており、合成樹脂からなる軟質発泡ウレタンマットと違い、パルプそのものが雑菌の温床となることを懸念したためと思われる。
【0011】
特許文献4は、水でゲル化したパルプを使用しており、条件によっては播種から収穫まで散水が不要なほど保水性が維持されるとの報告があるが、これは軟質発泡ウレタンマットには吸湿性がなく、単に無数の連続気泡であるが故に、一時的な保水量は多くても水の自重が働き比較的早く流出してしまうからで、その点パルプは吸湿性からくる保水力であり保水性が長く維持されることを証明した結果であると思われる。
【0012】
しかし、固形パルプのゲル化およびこれを各1出荷単位の栽培室へ定量投入するには、過大な設備投資を必要とし、小栽培農家ではその負担に耐えられない。また、固形パルプのゲル化は予想以上難しく、均一にゲル化されていないと排水孔の目詰まりが起こり、溜まった水で均等な播種ができなかったり、各栽培室のパルプ量に差を生じたりして、スプラウトの発育にも影響するなど課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、以上の状況に鑑み、従来の軟質発泡ウレタンでは廃棄性に課題があり、今後の消費者のニーズに対応できないと考え、なんとか純水パルプでスプライト用培地が作れないものか鋭意検討して来た。
【0014】
まず、純水パルプのゲル化パルプについて試みたが、上述したようにゲルの均一化および設備上の課題を見出し、次ぎに、湿式法パルプ不織布では、空気の巻き込み量が小さく、保水能力が劣り、ソフト感がないのでスプラウトの根が侵入し難いことが分かり、湿式法の古紙再生パルプでは、印刷インクなどの不明成分の除去や後処理工程での添加物に課題があること、経済的な薄いシートができないことなどが分かった。
【0015】
そこで、天然木材パルプ100%のパルプ繊維をケミカルボンド方式で得た、ロール状に巻き取られた乾式パルプ不織布から、正方形や長方形の1栽培出荷単位のシートに縦横に裁断して得たスプラウト栽培シートが、食の安全性、形状安定(水解性防止)、保水量、保水の維持力、根の侵入容易性、悪臭を吸収する、などの理由から、少なくとも現行の軟質発泡ウレタン培地よりもスプラウト栽培用培地として好適に使用できることを見出した。
【0016】
しかし、純水パルプは天然物であり、自らが汚染微生物により腐食したり、カビの発生したり、これによりスプラウトの発育を阻害する細菌の発生を助長するなど、栽培中もさることながら、流通や一般家庭での保管時においてもその可能性が指摘される。
【0017】
そこで、天然木材パルプ100%の繊維からなる乾式パルプ不織布の製造工程において、抗菌性を有するバインダーを使用して得られた、ロール状に巻き取られた乾式パルプ不織布を、正方形や長方形の1栽培出荷単位のシートに縦横に裁断してスプラウト栽培シートを得ることを提案する。
【0018】
これは、抗菌処理を乾式パルプ不織布製造時に行うことに意義があり、パルプ繊維が積層されたマットの上下面から抗菌性を有するバインダーをスプレーするので、乾式パルプ不織布の両表面付近は勿論内部にまで、抗菌剤が浸透し、後から抗菌処理も不可能ではないが、抗菌剤の分散性、工程の省略、経済性から見て、最も好ましい方法と言える。
【0019】
本発明の抗菌性を有するバインダーとは、ケミカルボンド方式におけるバインダーに予め抗菌剤、防腐剤、防黴剤などの抗菌性を有するバインダーを混合したものを言う。
【0020】
本発明者は、ロール状に巻き取られた乾式パルプ不織布を、正方形や長方形の1栽培出荷単位のシートに縦横に裁断した時に、静電気が発生してカットシートが暴れて正常に切断できない困難に遭遇した。カットシートはいずれスプラウト栽培培地に使用するので、多少の湿度を持たせても問題がなく、カッティングナイフ周辺の不織布に霧吹きなどで、高湿雰囲気を形成させることで静電気の発生を抑えスムーズにカットできるに至った。
【0021】
本発明の乾式パルプ不織布は、天然木材パルプ100%の繊維からなる乾式パルプ不織布であり、食品衛生法厚生省告示第20号および昭和46年環食244号に準拠した食品安全性試験に合格したものであり、その物理的性質は米秤量70〜90g/m(平均80g/m)、保水倍率約20倍、引張強度(DRI MD)が2.0kg/100mm以上(平均3.0kg/100mm)、である。
【発明の効果】
【0022】
本発明のごとく、性状がある規格内にある乾式パルプ不織布、およびこれに抗菌剤を導入した物を1栽培出荷単位にカットしてスプラウト栽培シートに採用すると、食の安全性、形状安定(水解性防止)、保水量、保水の維持力、根の侵入容易性、悪臭を吸収する、抗菌剤が入っていれば栽培時から家庭での保管に至るまでスプラウトが腐敗しない、薄くできるのでコストダウンが計れるなどの理由から、少なくとも現行の軟質発泡ウレタン培地よりもスプラウト栽培用培地として好適に使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明は、ロール状に製造された乾式パルプ不織布を、カット時にカッティングナイフ周辺に霧吹きしながら、正方形や長方形などの1栽培出荷単位のスプラウト栽培シートに裁断したものを、従来の軟質発泡ウレタンに代替しようとするものである。カッティングは従来軟質発泡ウレタンシートを1栽培出荷単位にカットしていたカット機を多少改造するだけでそのまま使用できるメリットがある。
【0024】
本発明はさらに、ケミカルボンド方式による乾式パルプ不織布の製造工程において、バインダーに抗菌性を有するバインダーを用いることで、後から抗菌処理する無駄を省き、かつ工程管理が容易にできることから、1栽培出荷単位のスプラウト栽培シートに裁断しても、抗菌剤が均等に分散したシートが得られる利点を提案する。
【0025】
一般にケミカルボンド方式におけるバインダーが、熱硬化性樹脂であればプリプレグ(半硬化)、熱可塑性樹脂であれば溶剤溶解物が好ましく、このバインダー中に、抗菌剤、防腐剤、防黴剤を分散あるいは溶解含有させたものが好ましい。
【0026】
本発明では、抗菌剤を特定するものではないが、抗菌剤には有機系抗菌剤、天然系抗菌剤、無機系抗菌剤、光触媒系抗菌剤など多種あり、スプラウトは食べ物であるので、有機系抗菌剤なら食品添加物として認定を受けたもの、天然系抗菌剤ならカテキン、キトサン、ヒノキチオール、竹由来抗菌物質、プロタミン、ポリリジンなどが採用でき、無機系抗菌剤では無害な銀系抗菌剤が選択でき、光触媒系抗菌剤はスプラウト発芽過程が暗室であるので採用されないであろう。
【0027】
また、本発明の乾式パルプ不織布は、食品衛生上、天然木材パルプ100%の繊維からなる乾式パルプ不織布である必要があり、食品衛生法厚生省告示第20号および昭和46年環食244号に準拠した食品安全性試験に合格したものでなければならない。
【0028】
さらに、その物理的性質は米秤量70〜90g/m(平均80g/m)、保水倍率約20倍、引張強度(DRI MD)が2.0kg/100mm以上(平均3.0kg/100mm)である。この時、厚み1.6〜2.4mm(平均2.0mm)、密度0.03〜0.05g/cm、引張強度(WET MD)が1.0kg/100mm以上(概ね1.5kg/100mm)である。
【0029】
米秤量70g/m以下だと保水量に関係し、散水回数が同一の場合やや水量不足となる。米秤量90g/m以上だと栽培シートの価格が高くなる。引張強度(DRI MD)が4.0kg/100mm以上となると、その時の(WET MD)によるが、根の侵入が困難になると思われる。
【実施例】
【0030】
以下に実施例で本発明の具体的内容を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0031】
(実施例1)
王子キノクロス(株)製(KK−80)の米秤量80g/mのロール状乾式パルプ不織布(幅=330mm、巻長=300m、巻径650mmφ)から、カッティング時に霧吹きしながら、まず幅方向を5分割(約65mm)し、次ぎに巻き方向に65mmして、正方形のスプラウト栽培シートを切り出した。これを、4×5=20栽培室を持つ発泡ポリプロピレン製栽培箱の各室の底部(底部にはサイコロの5ノ目の位置に6mmφの排水孔が5つ配置されている。)に敷設し、予め1昼夜水中に漬け置きしたカイワレの種を、栽培シート上で1層に密集させて播種し、栽培箱どうしを多段に積み、上から散水し、暗室内で4日発芽、生育させ、次ぎに、サンルームで2日太陽光に当て、双葉の緑化および成長を行った。図1は、1栽培室のカイワレ収穫前の側面図である。栽培結果を後述の実施例2、比較例1〜3と一緒に、後述の表1で比較しているが、本実施例1の栽培結果は、カイワレの生育は、現行の軟質発泡ウレタンと殆ど変わらず良好であった。また、軟質発泡ウレタン培地でカイワレ収穫時に良く観察される、発芽時の特有の臭いが殆どなかった。(王子KK−80に抗菌剤が存在するかどうかは不明)さらに、本発明の乾式パルプ不織布による栽培シート単価は、概ね軟質発泡ウレタンの1/2となるため、経済性からも軟質発泡ウレタンからの代替が多いに期待できる。
【0032】
(実施例2)
実施例1で得た、65×65mmの正方形のスプラウト栽培シート上下面に、市販の高濃度カテキン消臭剤をスプレイして、実施例1と同様の栽培実験を行った。実施例1と全く同様の結果が得られ、栽培後室温で7日放置した後も、カビ・臭いが全くなかった。
【0033】
(比較例1)
従来から使用して来た、65×65×10mmサイズの軟質発泡ウレタン培地に、上述の実施例と同様なカイワレ栽培を行った。栽培結果は実施例1,2と同様全く良好であった。ただし、軟質発泡ウレタンは、初期の保水量は圧倒的に大きいが、含水した水分が自重で流出する傾向があり、保水の維持力が悪い。これと比較し、乾式パルプ不織布による栽培シートは保水力が強いため、結果として、軟質発泡ウレタン培地よりも散水量,散水回数を減らせることが分かった。
【0034】
(比較例2)
王子キノクロスの別グレードで、米秤量60g/m、厚み1.2mmについても上述同様のカイワレ栽培を実施した。栽培結果は、厚みが薄くて保水量が小さい為か発育がやや劣った。
【0035】
(比較例3)
湿式パルプ不織布は薄手のものばかりで、厚手のものが入手困難であったため市販のろ紙5枚(厚み1.4mm)を重ねてカイワレ栽培培地として、上述同様の栽培実験を行った。乾式パルプ不織布のようなソフト感がなく濡れても硬い素材で、カイワレの根が貫通しなかった。また、保水量の少なく散水回数を多く取らねばならなかった。栽培結果も、実施例、比較例のなかで最も成長が悪い結果であった。
【0036】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】 本発明の実施例1、2および比較例1で、良好なカイワレ栽培結果を示す1栽培室の断面図。
【符号の説明】
【0038】
1 1栽培室
2 発泡ポリプロピレン製栽培室
3 栽培シート(培地)
4 排水孔
5 カイワレスプラウト
6 カイワレの根

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然木材パルプ100%のパルプ繊維をケミカルボンド方式で得た、ロール状に巻き取られた乾式パルプ不織布を、正方形や長方形の1栽培出荷単位のシートに縦横に裁断したことを特徴とするスプラウト栽培シート。
【請求項2】
前記、天然木材パルプ100%の繊維からなる乾式パルプ不織布の製造工程において、抗菌性を有するバインダーを使用して得られた、ロール状に巻き取られた乾式パルプ不織布を、正方形や長方形の1栽培出荷単位のシートに縦横に裁断したことを特徴とするスプラウト栽培シート。
【請求項3】
前記、抗菌性を有するバインダーが熱硬化性樹脂のプリプレグか溶剤に溶かした熱可塑性樹脂に、抗菌剤、防腐剤、防黴剤を分散あるいは溶解含有させたものである請求項2に記載のスプラウト栽培シート。
【請求項4】
前記、ロール状に巻き取られた乾式パルプ不織布を、正方形や長方形の1栽培出荷単位のシートに縦横に裁断するに際し、カッティングナイフ周辺の不織布に霧吹きなどで、高湿雰囲気を形成させること特徴とする請求項1および2記載のスプラウト栽培シート。
【請求項5】
前記、天然木材パルプ100%の繊維からなる乾式パルプ不織布が、米秤量70〜90g/m(平均値80g/m)、保水倍率約20倍、引張強度(DRI MD)が2.0以上であることを特徴とする請求項1〜3に記載のスプラウト栽培シート。

【図1】
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【公開番号】特開2007−6868(P2007−6868A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−216461(P2005−216461)
【出願日】平成17年6月29日(2005.6.29)
【出願人】(503112558)株式会社海洋牧場 (5)
【出願人】(591122864)王子キノクロス株式会社 (19)
【出願人】(593187205)山村産業株式会社 (2)
【出願人】(502269882)株式会社不二工芸製作所 (5)
【出願人】(505426886)有限会社庄東ノーサン (1)
【出願人】(505426897)株式会社ミツ農研 (1)
【Fターム(参考)】