スポットサイズ変換器
【課題】光の移行先としての第2の材料から成るコアの形成を不要にして、作製工程を単純化する。
【解決手段】本発明のスポットサイズ変換器は、シリコン光導波路を導波する光のスポットサイズを変換して、入出射端面において外部と光入出力を行う。このスポットサイズ変換器は、基板上に形成した下部クラッドと、該下部クラッド上に形成されたシリコン導波路コアと、該コアの上に積層される一種類のみの材料よりなる上部クラッドとを備える。シリコン導波路コアは、その幅がテーパー部で絞り込まれて、入出射端面とその近傍における狭幅部につながる形状にした。
【解決手段】本発明のスポットサイズ変換器は、シリコン光導波路を導波する光のスポットサイズを変換して、入出射端面において外部と光入出力を行う。このスポットサイズ変換器は、基板上に形成した下部クラッドと、該下部クラッド上に形成されたシリコン導波路コアと、該コアの上に積層される一種類のみの材料よりなる上部クラッドとを備える。シリコン導波路コアは、その幅がテーパー部で絞り込まれて、入出射端面とその近傍における狭幅部につながる形状にした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン導波路を導波する光のスポットサイズを変換して、入出射端面において外部と光入出力を行うスポットサイズ変換器に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン細線は、光通信に用いられる波長1.3〜1.5μmの光に対して、低損失の光導波路として機能とすることが知られており、シリコンCMOSプロセスを利用して作製できることから、石英系平面光回路(Planar Lightwave Circuits, PLC)を凌駕する素子の集積性、ロジックIC混載による高機能化を実現する技術として、近年注目を集めている。
【0003】
ところが、Si細線導波路のモードフィールドの拡がりは1μm以下と小さいため、レンズ等を用いて、外部自由空間と細線の間で光の入出力を行う場合、あるいは、石英導波路と細線導波路を接続する場合など、その結合効率が小さいことが問題となる。
【0004】
その解決策として、スポット径の大きな導波モードを持つような第2のコア・クラッドを形成して、シリコン細線を導波してきた光を、そこに移行させる方法が、特許文献1〜3に開示されている。図6は、従来型のスポットサイズ変換器を示す図である。図示のように、Si細線の幅は、テーパー部で絞り込まれる。テーパー部は、入出射端面の方向に向けて、酸窒化Siまたはポリマーなど、屈折率がSiO2より大きい材料で囲まれ、更にその外側をSiO2で囲む。酸窒化Siまたはポリマーをコア、SiO2をクラッドとする導波路が、入出射端面に向けて形成されている。
【0005】
しかし、従来方法では、それぞれコア、クラッドとして働く2種類の材料を、Si細線導波路を搭載した基板の上から成膜する。典型的には、SiO2がクラッド材料、SiO2よりも屈折率の大きな酸窒化Siやポリマーがコア材料となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−122750
【特許文献2】特開2004−133446
【特許文献3】特開2004−157530
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように、従来型のスポットサイズ変換器は、クラッドとして働く第1の材料であるSiO2と、コアとして働く第2の材料である酸窒化Siまたはポリマーとから成る2種類の材料を導波路に用いる。コア材料については、その成膜後、導波路コア部を形成するためのエッチング加工が必要であり、多くの作製工程を要する。
【0008】
本発明は、係る問題点を解決して、光の移行先としての第2の材料から成るコアの形成を不要にして、作製工程を単純化することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のスポットサイズ変換器は、シリコン細線をコアとする導波路を導波する光のスポットサイズを変換して、入出射端面において外部と光入出力を行う。このスポットサイズ変換器は、基板上に形成した下部クラッドと、該下部クラッド上に形成されたシリコン細線からなる導波路コアと、該コアの上に積層される一種類のみの材料よりなる上部クラッドとを備える。シリコン導波路コアは、その幅がテーパー部で絞り込まれて、入出射端面とその近傍における狭幅部につながる形状にした。
【0010】
前記基板はシリコン基板であり、前記上部及び下部クラッドは二酸化ケイ素SiO2から形成することができる。前記シリコン導波路コアは、その断面形状として、薄板部分(スラブ)を底に残した構造を備えて、TE偏波のみを透過させる偏波フィルターとして機能させることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、光の移行先としての第2の材料から成るコアの形成が不要であり、作製工程が単純化される。変換器性能は、狭幅部の長さに依存しないため、実際の作製においては、端面の切り出し位置を任意に選ぶことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のスポットサイズ変換器の構造を示す図である。
【図2】スポットサイズ変換前後のモードフィールドを説明する図であり、(a)はスポットサイズ変換前のモード、(b)従来方法による拡大後のモード、 (c)本発明による拡大後のモードを示している。
【図3】結合効率の計算による予測を示すグラフである。
【図4】試作したスポットサイズ変換器の入出射端面を示す図である。
【図5】試作したスポットサイズ変換器を備えたSi光導波路の挿入損失測定結果を示すグラフである。
【図6】従来型のスポットサイズ変換器を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、例示に基づき、本発明を説明する。図1は、本発明のスポットサイズ変換器の構造を示す図である。図示のように、シリコンSi-基板の上に下部クラッドとして働く二酸化ケイ素SiO2が形成され、さらにその上に、導波路コアとして働く、シリコンSi細線が形成される。Si導波路コアは、図1に例示のように、その断面形状として、スラブと呼ばれる薄板部分を底に残した構造を備えることができる。Si導波路コアの上には、SiO2が形成され、上部クラッドとして働く。ここが一種類(SiO2)の材料より成っていることは、図6に示す従来方法と大きく異なるところである。図1に示す通り、スポットサイズ変換器は、先球ファイバ等を介して、外部と光入出力を行う。
【0014】
Si導波路コアの幅は、テーパー部で絞り込まれ、狭幅部につながる。上部クラッドは、下部クラッドと同じく、SiO2を想定する。Si狭幅部をコア、SiO2をクラッドとする導波路は、図2(c)に示す通り、Si狭幅部断面を越えて大きな広がりを持つ光を、安定に伝播させることができるため、狭幅部の長さは任意にとることができる。
【0015】
本発明のスポットサイズ変換器では、Si狭幅部の幅を狭くするにつれて、ここを導波する光のフィールドサイズが単調に拡大する性質を利用してスポットサイズを拡大する。図2は、スポットサイズ変換前後のモードフィールドを示す図である。(a)に示すように、スポットサイズ変換前のモードの広がりは、Si導波路コア部の断面積程度で、これは、従来方法と本発明で共通である。(b)に示す従来方法では、入出射端面とその近傍では、SiO2をクラッド、酸窒化Siまたはポリマーなど、SiO2より大きな屈折率を有する材料をコアとする、導波路が形成されており、モードはコアの寸法程度の広がりを持つ。これに対して、(c)に示す本発明では、入出射端面とその近傍では、Si狭幅部をコア、SiO2をクラッドとする導波路が形成されており、モードは大きく広がる。
【0016】
このように、従来方法では、図2(b)に示す通り、スポット径の大きなモードは、例えば、酸窒化Siまたはポリマーなどをコア、SiO2をクラッドとする導波路の固有モードであるのに対して、本発明の方法では、スポット径の大きなモードは、図2(c)に示す通り、Si狭幅部をコア、SiO2をクラッドとする導波路の固有モードである。
【0017】
しばしば、上部クラッド上にヒーターとなる抵抗体を蒸着し、そこに通電して昇温し、熱光学効果を利用した導波モードの実効屈折率を制御するような使い方がなされる。従来技術による2層構成(図6参照)では、ヒーターとSi導波路間の距離を短くするためには、酸窒化Siまたはポリマー等の上に積層されるSiO2をエッチングするか、または、酸窒化Siまたはポリマー等をスポットサイズ変換部のみに残すエッチング加工が必要である。本発明の場合、Si導波路コア部の上には、例えばSiO2など1種類の材料のみを積層するので、ヒーターからSi導波路までの距離を短くでき、電力消費を抑制できる。
【0018】
後に述べる通り、Siコア層のスラブ部分を残す構造は、p-i-n構造を用いたSi光導波路へのキャリア注入やSi光導波路からのキャリア引き抜きに多用される。本発明は、このようなスラブ部を残した構造についても適用可能である。このとき、TM-like偏波を結合しないため、TE-like偏波のみを結合させる偏波フィルターとして機能する。図6に示すような従来型構造では、このような偏波選択性は生じない。
【0019】
図3は、結合効率の計算による予測を示すグラフである。波長1550nmについて、テーパー部の長さを100 μm、狭幅部の長さを250 μmとして、結合効率の計算を行った。Siコア層は、全厚を220 nmとし、その高さHs nmをスラブとして残し、リブ部の高さを220-Hs nmとした。スポットサイズ変換部の手前でのリブ部の幅を400nmとし、これが、100 μmの長さのテーパー部を経て絞り込まれ、幅Wn nmの狭幅部につながるものとする。狭幅部の長さは250μmとする。Siコア層の上には、SiO2による上部クラッドがあることを想定した。レンズなど外部光学系が導波路端面に、直径3ミクロンのビームウエストを持つとして、この直径3ミクロンの規格化ガウシアンビームと導波モードとの重なり積分を計算した。重なり積分は、結合効率のよい近似を与える。
【0020】
幾つかのスラブ部高さ(Hs = 0, 30, 50, 110 nm)について計算した、結合効率の狭幅部幅(Wn)依存性を示している。Si光導波路を伝播する光の偏光状態として、TE-like(白抜き)、TM-like(黒)、それぞれの偏光状態について計算を行った。横軸右端は、狭幅部幅が元のSi導波路コア部の幅に等しい場合、即ちスポットサイズ変換器が無い場合に対応する。スラブ部分を残さない場合(Hs = 0 nm)、TE-like偏波についてはWn = 180 nmで、TE-like偏波についてはWn = 140 nmで、結合効率が最大となる。スポットサイズ変換器が無い場合と比べて、結合効率は、それぞれ、7.5dB、3.8dB改善される。スラブ部分を残さない場合(Hs ≠ 0 nm)、TE-like偏波については、Wn < 100 nmで結合効率は最大となり、スポットサイズ変換器が無い場合と比べて、3〜6 dB程度の結合率改善が見込まれる一方、TM-like偏波については、カットオフとなり、導波路に結合しない。
【0021】
Si導波路コア部にスラブ部分を残さない場合(Hs = 0 nm)、図3に示す通り、狭幅部の幅Wnが、TE-like 偏波については180 nm、TM-like偏波については140 nmのときに、結合効率が最大になることが予測される。スラブ部分を残した場合(Hs ≠ 0 nm)、TE-like偏波では、Wn < 100 nm で結合効率が最大値を迎えること、TM-like偏波については、Wn < 100 nmの幅では、カットオフとなるため光が結合されないことが、予測される。
【0022】
スポットサイズ変換器を備えたSi光導波路を試作し、挿入損失を測定した(図5参照)。図4は、試作したスポットサイズ変換器の入出射端面を示す図である。狭幅部幅Wn=60 nm、スラブ部高さHs = 30 nmのものである。
【0023】
図5は、試作したスポットサイズ変換器を備えたSi光導波路の挿入損失測定結果を示すグラフである。スポットサイズ変換器部を除いた導波路長(テーパー部に至るSi導波路の長さ)は1.4 mmに揃えたので、異なるWn、Hsに対する結果の違いは、結合効率のWn、Hs依存性を反映したものである。スラブ部分を残さない場合(Hs = 0 nm)、100 nm < Wn < 200 nmで結合効率が最大となること、スラブ部分を残す場合(Hs ≠ 0 nm)、TE-like偏波についてはWn < 100 nmで結合効率が最大となり、同じWnにおいて、TE-like偏波が結合されなくなることなど、図3の計算による予想と定性的には一致した結果が得られた。
【0024】
図5の結果から、伝播損失の寄与を差し引くと、結合効率の最大値は、スラブ部分を残さない場合(Hs = 0 nm)、TE-like偏波では、Wn = 140 nmで入出力の片端あたり-4.5 dB、TE-like偏波では、同じくWn = 140 nmで片端あたり-4.0 dBと評価され、これは、スポットサイズ変換器が無かった場合(図5右端、Wn = 400 nm)と比べて、それぞれ8 dB、3.8 dB、結合効率が改善されたことになる。同様に、30 nmのスラブ部分を残す場合(Hs = 30 nm)、TE-like偏波では、結合効率の最大値はWn = 80 nmで片端当たり5.7 dBとなり、スポットサイズ変換器が無かった場合に比べて、6.8 dBの改善に対応する。
【産業上の利用可能性】
【0025】
Si光導波路は、光通信に用いられる波長1.3〜1.5μmの光に対して、低損失の光導波路として機能とすることが知られており、シリコンCMOSプロセスを利用して作製できることから、石英PLCを凌駕する素子の集積性、ロジックIC混載による高機能化を実現する技術として、近年注目を集めている。石英PLCが用いられている波長合分波器やROADM、OXCと呼ばれる通信機器の、将来の小型化に本発明は利用される。
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン導波路を導波する光のスポットサイズを変換して、入出射端面において外部と光入出力を行うスポットサイズ変換器に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン細線は、光通信に用いられる波長1.3〜1.5μmの光に対して、低損失の光導波路として機能とすることが知られており、シリコンCMOSプロセスを利用して作製できることから、石英系平面光回路(Planar Lightwave Circuits, PLC)を凌駕する素子の集積性、ロジックIC混載による高機能化を実現する技術として、近年注目を集めている。
【0003】
ところが、Si細線導波路のモードフィールドの拡がりは1μm以下と小さいため、レンズ等を用いて、外部自由空間と細線の間で光の入出力を行う場合、あるいは、石英導波路と細線導波路を接続する場合など、その結合効率が小さいことが問題となる。
【0004】
その解決策として、スポット径の大きな導波モードを持つような第2のコア・クラッドを形成して、シリコン細線を導波してきた光を、そこに移行させる方法が、特許文献1〜3に開示されている。図6は、従来型のスポットサイズ変換器を示す図である。図示のように、Si細線の幅は、テーパー部で絞り込まれる。テーパー部は、入出射端面の方向に向けて、酸窒化Siまたはポリマーなど、屈折率がSiO2より大きい材料で囲まれ、更にその外側をSiO2で囲む。酸窒化Siまたはポリマーをコア、SiO2をクラッドとする導波路が、入出射端面に向けて形成されている。
【0005】
しかし、従来方法では、それぞれコア、クラッドとして働く2種類の材料を、Si細線導波路を搭載した基板の上から成膜する。典型的には、SiO2がクラッド材料、SiO2よりも屈折率の大きな酸窒化Siやポリマーがコア材料となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−122750
【特許文献2】特開2004−133446
【特許文献3】特開2004−157530
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように、従来型のスポットサイズ変換器は、クラッドとして働く第1の材料であるSiO2と、コアとして働く第2の材料である酸窒化Siまたはポリマーとから成る2種類の材料を導波路に用いる。コア材料については、その成膜後、導波路コア部を形成するためのエッチング加工が必要であり、多くの作製工程を要する。
【0008】
本発明は、係る問題点を解決して、光の移行先としての第2の材料から成るコアの形成を不要にして、作製工程を単純化することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のスポットサイズ変換器は、シリコン細線をコアとする導波路を導波する光のスポットサイズを変換して、入出射端面において外部と光入出力を行う。このスポットサイズ変換器は、基板上に形成した下部クラッドと、該下部クラッド上に形成されたシリコン細線からなる導波路コアと、該コアの上に積層される一種類のみの材料よりなる上部クラッドとを備える。シリコン導波路コアは、その幅がテーパー部で絞り込まれて、入出射端面とその近傍における狭幅部につながる形状にした。
【0010】
前記基板はシリコン基板であり、前記上部及び下部クラッドは二酸化ケイ素SiO2から形成することができる。前記シリコン導波路コアは、その断面形状として、薄板部分(スラブ)を底に残した構造を備えて、TE偏波のみを透過させる偏波フィルターとして機能させることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、光の移行先としての第2の材料から成るコアの形成が不要であり、作製工程が単純化される。変換器性能は、狭幅部の長さに依存しないため、実際の作製においては、端面の切り出し位置を任意に選ぶことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のスポットサイズ変換器の構造を示す図である。
【図2】スポットサイズ変換前後のモードフィールドを説明する図であり、(a)はスポットサイズ変換前のモード、(b)従来方法による拡大後のモード、 (c)本発明による拡大後のモードを示している。
【図3】結合効率の計算による予測を示すグラフである。
【図4】試作したスポットサイズ変換器の入出射端面を示す図である。
【図5】試作したスポットサイズ変換器を備えたSi光導波路の挿入損失測定結果を示すグラフである。
【図6】従来型のスポットサイズ変換器を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、例示に基づき、本発明を説明する。図1は、本発明のスポットサイズ変換器の構造を示す図である。図示のように、シリコンSi-基板の上に下部クラッドとして働く二酸化ケイ素SiO2が形成され、さらにその上に、導波路コアとして働く、シリコンSi細線が形成される。Si導波路コアは、図1に例示のように、その断面形状として、スラブと呼ばれる薄板部分を底に残した構造を備えることができる。Si導波路コアの上には、SiO2が形成され、上部クラッドとして働く。ここが一種類(SiO2)の材料より成っていることは、図6に示す従来方法と大きく異なるところである。図1に示す通り、スポットサイズ変換器は、先球ファイバ等を介して、外部と光入出力を行う。
【0014】
Si導波路コアの幅は、テーパー部で絞り込まれ、狭幅部につながる。上部クラッドは、下部クラッドと同じく、SiO2を想定する。Si狭幅部をコア、SiO2をクラッドとする導波路は、図2(c)に示す通り、Si狭幅部断面を越えて大きな広がりを持つ光を、安定に伝播させることができるため、狭幅部の長さは任意にとることができる。
【0015】
本発明のスポットサイズ変換器では、Si狭幅部の幅を狭くするにつれて、ここを導波する光のフィールドサイズが単調に拡大する性質を利用してスポットサイズを拡大する。図2は、スポットサイズ変換前後のモードフィールドを示す図である。(a)に示すように、スポットサイズ変換前のモードの広がりは、Si導波路コア部の断面積程度で、これは、従来方法と本発明で共通である。(b)に示す従来方法では、入出射端面とその近傍では、SiO2をクラッド、酸窒化Siまたはポリマーなど、SiO2より大きな屈折率を有する材料をコアとする、導波路が形成されており、モードはコアの寸法程度の広がりを持つ。これに対して、(c)に示す本発明では、入出射端面とその近傍では、Si狭幅部をコア、SiO2をクラッドとする導波路が形成されており、モードは大きく広がる。
【0016】
このように、従来方法では、図2(b)に示す通り、スポット径の大きなモードは、例えば、酸窒化Siまたはポリマーなどをコア、SiO2をクラッドとする導波路の固有モードであるのに対して、本発明の方法では、スポット径の大きなモードは、図2(c)に示す通り、Si狭幅部をコア、SiO2をクラッドとする導波路の固有モードである。
【0017】
しばしば、上部クラッド上にヒーターとなる抵抗体を蒸着し、そこに通電して昇温し、熱光学効果を利用した導波モードの実効屈折率を制御するような使い方がなされる。従来技術による2層構成(図6参照)では、ヒーターとSi導波路間の距離を短くするためには、酸窒化Siまたはポリマー等の上に積層されるSiO2をエッチングするか、または、酸窒化Siまたはポリマー等をスポットサイズ変換部のみに残すエッチング加工が必要である。本発明の場合、Si導波路コア部の上には、例えばSiO2など1種類の材料のみを積層するので、ヒーターからSi導波路までの距離を短くでき、電力消費を抑制できる。
【0018】
後に述べる通り、Siコア層のスラブ部分を残す構造は、p-i-n構造を用いたSi光導波路へのキャリア注入やSi光導波路からのキャリア引き抜きに多用される。本発明は、このようなスラブ部を残した構造についても適用可能である。このとき、TM-like偏波を結合しないため、TE-like偏波のみを結合させる偏波フィルターとして機能する。図6に示すような従来型構造では、このような偏波選択性は生じない。
【0019】
図3は、結合効率の計算による予測を示すグラフである。波長1550nmについて、テーパー部の長さを100 μm、狭幅部の長さを250 μmとして、結合効率の計算を行った。Siコア層は、全厚を220 nmとし、その高さHs nmをスラブとして残し、リブ部の高さを220-Hs nmとした。スポットサイズ変換部の手前でのリブ部の幅を400nmとし、これが、100 μmの長さのテーパー部を経て絞り込まれ、幅Wn nmの狭幅部につながるものとする。狭幅部の長さは250μmとする。Siコア層の上には、SiO2による上部クラッドがあることを想定した。レンズなど外部光学系が導波路端面に、直径3ミクロンのビームウエストを持つとして、この直径3ミクロンの規格化ガウシアンビームと導波モードとの重なり積分を計算した。重なり積分は、結合効率のよい近似を与える。
【0020】
幾つかのスラブ部高さ(Hs = 0, 30, 50, 110 nm)について計算した、結合効率の狭幅部幅(Wn)依存性を示している。Si光導波路を伝播する光の偏光状態として、TE-like(白抜き)、TM-like(黒)、それぞれの偏光状態について計算を行った。横軸右端は、狭幅部幅が元のSi導波路コア部の幅に等しい場合、即ちスポットサイズ変換器が無い場合に対応する。スラブ部分を残さない場合(Hs = 0 nm)、TE-like偏波についてはWn = 180 nmで、TE-like偏波についてはWn = 140 nmで、結合効率が最大となる。スポットサイズ変換器が無い場合と比べて、結合効率は、それぞれ、7.5dB、3.8dB改善される。スラブ部分を残さない場合(Hs ≠ 0 nm)、TE-like偏波については、Wn < 100 nmで結合効率は最大となり、スポットサイズ変換器が無い場合と比べて、3〜6 dB程度の結合率改善が見込まれる一方、TM-like偏波については、カットオフとなり、導波路に結合しない。
【0021】
Si導波路コア部にスラブ部分を残さない場合(Hs = 0 nm)、図3に示す通り、狭幅部の幅Wnが、TE-like 偏波については180 nm、TM-like偏波については140 nmのときに、結合効率が最大になることが予測される。スラブ部分を残した場合(Hs ≠ 0 nm)、TE-like偏波では、Wn < 100 nm で結合効率が最大値を迎えること、TM-like偏波については、Wn < 100 nmの幅では、カットオフとなるため光が結合されないことが、予測される。
【0022】
スポットサイズ変換器を備えたSi光導波路を試作し、挿入損失を測定した(図5参照)。図4は、試作したスポットサイズ変換器の入出射端面を示す図である。狭幅部幅Wn=60 nm、スラブ部高さHs = 30 nmのものである。
【0023】
図5は、試作したスポットサイズ変換器を備えたSi光導波路の挿入損失測定結果を示すグラフである。スポットサイズ変換器部を除いた導波路長(テーパー部に至るSi導波路の長さ)は1.4 mmに揃えたので、異なるWn、Hsに対する結果の違いは、結合効率のWn、Hs依存性を反映したものである。スラブ部分を残さない場合(Hs = 0 nm)、100 nm < Wn < 200 nmで結合効率が最大となること、スラブ部分を残す場合(Hs ≠ 0 nm)、TE-like偏波についてはWn < 100 nmで結合効率が最大となり、同じWnにおいて、TE-like偏波が結合されなくなることなど、図3の計算による予想と定性的には一致した結果が得られた。
【0024】
図5の結果から、伝播損失の寄与を差し引くと、結合効率の最大値は、スラブ部分を残さない場合(Hs = 0 nm)、TE-like偏波では、Wn = 140 nmで入出力の片端あたり-4.5 dB、TE-like偏波では、同じくWn = 140 nmで片端あたり-4.0 dBと評価され、これは、スポットサイズ変換器が無かった場合(図5右端、Wn = 400 nm)と比べて、それぞれ8 dB、3.8 dB、結合効率が改善されたことになる。同様に、30 nmのスラブ部分を残す場合(Hs = 30 nm)、TE-like偏波では、結合効率の最大値はWn = 80 nmで片端当たり5.7 dBとなり、スポットサイズ変換器が無かった場合に比べて、6.8 dBの改善に対応する。
【産業上の利用可能性】
【0025】
Si光導波路は、光通信に用いられる波長1.3〜1.5μmの光に対して、低損失の光導波路として機能とすることが知られており、シリコンCMOSプロセスを利用して作製できることから、石英PLCを凌駕する素子の集積性、ロジックIC混載による高機能化を実現する技術として、近年注目を集めている。石英PLCが用いられている波長合分波器やROADM、OXCと呼ばれる通信機器の、将来の小型化に本発明は利用される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン光導波路を導波する光のスポットサイズを変換して、入出射端面において外部と光入出力を行うスポットサイズ変換器において、
基板上に形成した下部クラッドと、該下部クラッド上に形成されたシリコンからなるコアと、該コアの上に積層される一種類のみの材料よりなる上部クラッドとを備え、
前記シリコン導波路コアは、その幅がテーパー部で絞り込まれて、入出射端面とその近傍における狭幅部につながる形状にしたことから成るスポットサイズ変換器。
【請求項2】
前記基板はシリコン基板であり、前記上部及び下部クラッドは二酸化ケイ素SiO2から形成される請求項1に記載のスポットサイズ変換器。
【請求項3】
前記シリコン導波路コアは、その断面形状として、スラブと呼ばれる薄板部分を底に残した構造を備えて、TE偏波のみを透過させる偏波フィルターとして機能する請求項1に記載のスポットサイズ変換器。
【請求項1】
シリコン光導波路を導波する光のスポットサイズを変換して、入出射端面において外部と光入出力を行うスポットサイズ変換器において、
基板上に形成した下部クラッドと、該下部クラッド上に形成されたシリコンからなるコアと、該コアの上に積層される一種類のみの材料よりなる上部クラッドとを備え、
前記シリコン導波路コアは、その幅がテーパー部で絞り込まれて、入出射端面とその近傍における狭幅部につながる形状にしたことから成るスポットサイズ変換器。
【請求項2】
前記基板はシリコン基板であり、前記上部及び下部クラッドは二酸化ケイ素SiO2から形成される請求項1に記載のスポットサイズ変換器。
【請求項3】
前記シリコン導波路コアは、その断面形状として、スラブと呼ばれる薄板部分を底に残した構造を備えて、TE偏波のみを透過させる偏波フィルターとして機能する請求項1に記載のスポットサイズ変換器。
【図2】
【図3】
【図5】
【図1】
【図4】
【図6】
【図3】
【図5】
【図1】
【図4】
【図6】
【公開番号】特開2011−123094(P2011−123094A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−278294(P2009−278294)
【出願日】平成21年12月8日(2009.12.8)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行所名 社団法人応用物理学会 刊行物名 THE FIFTEENTH MICROOPTICS CONFERENCE 2009 TECHNICAL DIGEST 発行日 平成21年10月25日
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年12月8日(2009.12.8)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行所名 社団法人応用物理学会 刊行物名 THE FIFTEENTH MICROOPTICS CONFERENCE 2009 TECHNICAL DIGEST 発行日 平成21年10月25日
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
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