説明

スライドプレートの開閉に起因する偏流を抑制する整流構造

【課題】スライドプレートの開閉に起因する偏流を抑制する。
【解決手段】整流構造10は、連続鋳造で使用するスライドプレート方式の流量調整ユニットの下流側に接続され、上端11aにおける内管形状11が円形であり、上端11aから連続的に内管形状11が変形して、下端11bにおける内管形状11が長軸11y及び短軸11xを有する扁平形状である。そして、下端11bにおける内管形状11の短軸11xが、流量調整ユニットのスライドプレートの開閉方向と平行であって、当該下端11bの直下には、内管形状が前記下端11bにおける内管形状11の長軸11y以上の直径を有する円形で且つ溶鋼吐出孔が穿孔される浸漬ノズルが接続される。また、短軸11xの長さx及び長軸11yの長さyは、0.5≦x/y≦0.8を満たすと共に、整流構造の下端から浸漬ノズルの溶鋼吐出孔の上端までの距離zは、200mm≦z≦900mmを満たす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続鋳造で使用するスライドプレート方式の流量調整ユニットの下流側に接続される整流構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、流量調整ユニットと浸漬ノズルとの間に中間ノズルなどの整流構造を設けた技術が種々提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−316460号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1では、スライドバルブ(流量調整ユニット)のスライドプレートの開閉に起因して、浸漬ノズル内における溶鋼の流動がスライドプレートの開閉方向に不均一になる。このため、スライドプレートの開閉方向が鋳型幅方向の場合には、鋳型内において鋳型幅方向の偏流につながっていた。この偏流が発生すると、鋳型コーナー部で局所的に強い流れが発生し、鋳型コーナー部におけるシェルの再溶解を促し、凝固遅れを発生させてしまう。その結果、鋳片のブレークアウトの発生につながるおそれがあった。
【0005】
そこで、この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、スライドプレートの開閉に起因する偏流を抑制することが可能な整流構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の整流構造は、連続鋳造で使用するスライドプレート方式の流量調整ユニットの下流側に接続される整流構造において、上端における内管形状が円形であり、上端から連続的に内管形状が変形して、下端における内管形状が長軸及び短軸を有する扁平形状であり、前記下端における内管形状の短軸が、前記流量調整ユニットのスライドプレートの開閉方向と平行であって、前記下端の直下には、内管形状が前記下端における内管形状の長軸以上の直径を有する円形で且つ溶鋼吐出孔が穿孔される円管部が接続され、下記の式(1)及び式(2)を満足する。
0.5≦x/y≦0.8・・・(1)
200mm≦z≦900mm・・・(2)
ただし、
xは、整流構造の下端における内管形状の短軸の長さ
yは、整流構造の下端における内管形状の長軸の長さ
zは、整流構造の下端から円管部の溶鋼吐出孔の上端までの距離
【発明の効果】
【0007】
この発明による整流構造では、上記のように、上端における内管形状が円形であり、上端から連続的に内管形状が変形して、下端における内管形状が長軸及び短軸を有する扁平形状にすることによって、短軸方向の略中心に溶鋼の流れが集まる。ここで、当該短軸方向がスライドプレートの開閉方向と平行となっているので、スライドプレートの開閉に起因する偏流を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】連続鋳造設備の全体概略図
【図2】鋳型の構成を示す図
【図3】浸漬ノズルの構成を示す図
【図4】本発明の一実施形態に係る整流構造、流量調整ユニット及び浸漬ノズルの断面図
【図5】図4に示した整流構造の詳細を示す図
【図6】凝固遅れ度の説明図
【図7】凝固遅れ度とブレークアウト発生との関係を示す図
【図8】鋳型幅方向の偏流の定量化方法を説明するための説明図
【図9】凝固遅れ度と差Δhとの関係を示す図
【図10】水モデルにおける鋳型幅方向の偏流の定量化方法を説明するための説明図
【図11】流速U1,U2,V1,V2の測定ポイントを示した図
【図12】浸漬ノズル内の偏流度と鋳型幅方向の偏流度との相関関係を示す図
【図13】浸漬ノズルの各寸法を示す図
【図14】浸漬ノズル内の偏流度と水流量との関係を示す図
【図15】浸漬ノズル内の偏流度と整流構造下端の短軸−長軸比との関係を示す図
【図16】浸漬ノズル内の偏流度と整流構造下端から溶鋼吐出孔までの距離との関係を示す図
【発明を実施するための形態】
【0009】
周知の通り、連続鋳造設備の鋳造経路に着目すると、湾曲型連続鋳造設備と垂直曲げ型連続鋳造設備なるものがある。前者は、鋳型から鋳造経路に沿って、円弧経路部と矯正経路部、水平経路部を有するものであり、後者は、上記円弧経路部の上流に垂直経路部を設け、溶鋼中の介在物浮上を図ったものである。また、連続鋳造設備の鋳造する鋳片の断面形状に着目すると、断面形状のアスペクト比が2以上であるスラブと2以下のブルーム、更に、断面形状が正方形であるビレットなるものがある。本願発明の適用対象は、上記の通りに列記したすべての連続鋳造設備であり、以下、本明細書では、一例として、本願発明をスラブ向けの垂直曲げ型連続鋳造設備に適用した例を説明する。
【0010】
以下、図1〜3に基づいて、連続鋳造設備100とその鋳型1、及び浸漬ノズル2を概説する。
【0011】
連続鋳造設備100は、注湯される溶鋼を冷却して所定形状のシェルを形成するための鋳型1と、タンディッシュ9に保持される溶鋼を鋳型1へ所定流量で滑らかに注湯するための浸漬ノズル2と、鋳型1の直下から鋳造経路Qに沿って複数で並設されるロール対3と、を備える。鋳型1の構成は図2に基づいて、浸漬ノズル2の構成は図3に基づいて後で詳細に説明する。本実施形態において前記の鋳造経路Qは、略鉛直方向に延びる垂直経路部と、この垂直経路部に接続され、円弧状に延びる円弧経路部と、更にその下流側に設けられ、水平方向に延びる水平経路部と、前記の円弧経路部及び水平経路部とを滑らかに接続するための矯正経路部と、から成る。
【0012】
前記のロール対3の夫々は、鋳造対象としての鋳片を、両広面でもって挟持する一対のロール3a・3aから構成される。この一対のロール3a・3aのロール面間の最短距離としてのロールギャップ[mm]は適宜の手段により調節可能に構成される。
【0013】
また、前記の鋳造経路Qの前半には、鋳型1内で形成され、該鋳型1から引き抜かれる凝固シェルに対して所定の流量で冷却水を噴霧する冷却スプレー4が適宜に設けられる。一般に、前記の鋳型1が1次冷却帯と称されるのに対して、この意味で、冷却スプレー4が配される経路部は2次冷却帯と称される。
【0014】
鋳型1から引き抜かれ、鋳造経路Qに沿って搬送されるシェルは、自然放熱や、上記冷却スプレー4などにより更に冷却されて収縮する。従って、上記のロール対3のロールギャップ[mm]は、一般に、鋳造経路Qの下流側へ進むに連れて緩やかに狭くなるように設定される。
【0015】
以上の構成で、スラブの連続鋳造を開始するには、鋳型1へ溶鋼を注湯する前に予め図略のダミーバーを前記の鋳造経路Q内に挿入しておき、浸漬ノズル2を介して鋳型1へ溶鋼を注湯し始めると共に上記ダミーバーを下流側へ引き抜く。この鋳型1への溶鋼の注湯量と、ダミーバーの引き抜き速度と、は、鋳造速度が所定の鋳造速度に至るまでの間、漸増させる。そして、このダミーバーは、所定のメニスカス距離に到達したときに、適宜の手段により回収する。これで、スラブが連続的に鋳造されるようになる。
【0016】
次に、上記の連続鋳造設備100の一般的な操業条件を簡単に紹介する。以下は、例示である。
・鋳型幅W[mm]は、800〜2100とする。
・鋳型厚みT[mm]は、230〜280とする。
・鋳型高さH[mm]は、800〜1000とする。
・鋳造速度Vc[m/min]は、0.8〜3.0とする。
・溶鋼過熱度ΔT[℃]は、0〜40とする。
・比水量Wt[L/kgSteel]は、0.15〜3とする。
・鋳型内電磁攪拌強度M−EMS[gauss]は、0〜1000とする。
・溶鋼成分は、当事者間の協定に基づく。代表的な成分は、CやSi、Mnである。これに、CrやCuなどが適宜に添加される。その他の不可避の不純物を含む。
【0017】
ここで、各用語を簡単に説明する。
・鋳型幅W[mm]及び鋳型厚みT[mm]は、図2に示されるように、鋳型1の上端で特定される。
・鋳造速度Vc[m/min]は、鋳片の引抜速度であって、前記複数のロール対3のうち最上流に配されるロール対3のピンチロール3bの周速度で特定される。
・溶鋼過熱度ΔT[℃]は、鋳型1内へ注湯される溶鋼の温度の指標である。
・比水量Wt[L/kgSteel]は、鋼1kgに対して用いられる冷却水の容積を意味する。
・鋳型内電磁攪拌強度M−EMS[gauss]は、鋳型1内の溶鋼を攪拌するために作用される磁場の強度の指標である。
【0018】
<鋳型1>
次に、図2を参照しつつ鋳型1の構造を説明する。図2(a)に示されるように本実施形態に係る鋳型1は、鋳造される鋳片が断面矩形であってアスペクト比が2以上となる所謂スラブ向けに構成される。この鋳型1は、一対で対向し、鋳型広面1aを構成する広面鋳型5と、広面鋳型5の間に配され、一対で対向し、鋳型狭面1bを構成する狭面鋳型6と、これら広面鋳型5及び狭面鋳型6を支持する図示しない鋳型フレームと、を主たる構成として備える。
【0019】
<浸漬ノズル2>
次に、図3を参照しつつ浸漬ノズル2の構造を説明する。図3(a)に示されるように、本実施形態において用いられる浸漬ノズル2は、有底円筒形状であって、一対の対向する溶鋼吐出孔7が内底8よりも若干上方に形成される2孔式とされる。図3(b)に示されるように、この一対の溶鋼吐出孔7は、溶鋼吐出孔7からの溶鋼吐出流の下向き角度θ[deg.]が水平を基準として15〜45に設定されるように、内周から外周へ向かって斜め下向きに形成される。この下向き角度θ[deg.]は、詳しくは、本実施形態において、浸漬ノズル2の垂直断面で特定される溶鋼吐出孔7の下端線7a(下端の輪郭)と水平との間の角度と一致する。そして、この下端線7aと、浸漬ノズル2の軸心2aと、の交点を仮想交点Pとして定義する。
【0020】
上記の浸漬ノズル2は、図2(b)に示されるように、一対の溶鋼吐出孔7が鋳型狭面1bに対して夫々対向するように鋳型1内に垂直にセットされる。換言すれば、浸漬ノズル2は、一対の溶鋼吐出孔7から吐出された溶鋼の流れが鋳型狭面1bに対して平面視で垂直に向かうように鋳型1内に垂直にセットされる。この状態で、浸漬ノズル2から鋳型1内へ溶鋼を注湯すると、浸漬ノズル2からの溶鋼流は先ず斜め下向きとなり、やがて鋳型狭面1bに衝突すると、上下方向に分岐し、もって、溶鋼の上昇流Qと下降流Rが形成される。このうち上昇流Qは、メニスカス近傍の溶鋼に対して熱を供給し、表面が凝固してしまう所謂皮張りを防ぐ役割を担っている。
【0021】
次に、本実施形態に係る連続鋳造設備100の更に具体的な構成を説明する。この連続鋳造設備100では、タンディッシュ9から浸漬ノズル2に至る溶鋼の溶鋼量をスライドプレート方式の流量調整ユニット20で調整すると共に、その流量調整ユニット20のスライドプレート22の開閉に起因する鋳型幅方向の偏流を流量調整ユニット20の下流側に設けられる整流構造10で抑制している。
【0022】
<流量調整ユニット20>
図4に示すように、タンディッシュ9の底面に設けられるインサートノズル9aの下流側には、流量調整ユニット20が設けられている。この流量調整ユニット20は、上部プレート21、中間プレート(スライドプレート)22及び下部プレート23を含む3層式の流量調整機構である。これらのプレート21〜23の略中央には、それぞれ貫通孔が形成されており、この貫通孔が連通して溶鋼流路20aが形成されている。この3層式の流量調整ユニット20では、中間プレート22が、固定された上部プレート21及び下部プレート23に対してスライドすることによって、その内部に形成される溶鋼流路20aの開度が調整され、浸漬ノズル2から鋳型1内に供給される溶鋼量が制御される。なお、中間プレート22の開閉方向は、鋳型幅方向(図2(a))と平行になっている。
【0023】
<整流構造10>
次に、流量調整ユニット20の下流側に接続される整流構造(整流ノズル)10について詳細に説明する。本実施形態の整流構造10は、浸漬ノズル2や流量調整ユニット20とは異なる独立した部品であるが、本発明はこれに限らず、整流構造10が、流量調整ユニット20や浸漬ノズル2に一体的に形成されていてもよい。この整流構造10は、図5に示すように、上端11aにおける内管形状11が円形であり、上端11aから連続的に内管形状11が変形して、下端11bにおける内管形状11が短軸11x及び長軸11yを有する扁平形状である。なお、上端11aにおける内管形状11は、流量調整ユニット20の内径、即ち下部プレート23の貫通孔の内径と同じ円形である。そして、整流構造10の下端11bにおける内管形状11の短軸11xの方向が、流量調整ユニット20の中間プレート22の開閉方向と平行になっている。すなわち、整流構造10の下端における内管形状11の短軸11xの方向は、鋳型幅方向(図2(a))と平行になっている。
【0024】
また、本実施形態では、整流構造10の内管形状11の水平断面積は、各高さ位置で略同じになるように設定されている。即ち、整流構造10を通過する溶鋼の流路断面積が各高さ位置で略同じになっている。
【0025】
ここで、整流構造10の下端11bにおける内管形状11の短軸11xの長さをxとし、長軸11yの長さをyとすると、当該短軸11xの長さx及び長軸11yの長さyの比である扁平度「x/y」は、下記式(1)を満足する。
0.5≦x/y≦0.8・・・(1)
【0026】
本願発明者らは、扁平度「x/y」が、0.5未満になると、浸漬ノズル2にノズル詰まりが発生し易くなることを見出したので、下限値を0.5とする。
また、本願発明者らは、扁平度「x/y」が、0.8より大きくなると、浸漬ノズル2内の偏流の抑制が極度に悪化することを見出したので、上限値を0.8とする。
【0027】
この整流構造10の下端11bの直下には、図4に示すように、内管形状2bが円形の上記した浸漬ノズル2が接続されている。この浸漬ノズル2の上端における円形の内管形状2bは、整流構造10の下端11bにおける内管形状11の長軸11y以上の直径を有しており、当該浸漬ノズル2の内管形状2bが、整流構造10から浸漬ノズル2に至る溶鋼流れの障害物とならないようにしている。ここで、整流構造10の下端11bから浸漬ノズル2の溶鋼吐出孔7の上端までの距離をzとすると、当該距離zは、下記式(2)を満足する。
200mm≦z≦900mm・・・(2)
そして、この浸漬ノズル2の内管形状2bは、浸漬ノズル2の上端から溶鋼吐出孔7に至るまで同一の円形状で延在している。
【0028】
本願発明者らは、整流構造10の下端11bから浸漬ノズル2の溶鋼吐出孔7の上端までの距離zが、200[mm]未満になると、浸漬ノズル2内の偏流の抑制が極度に悪化することを見出したので、下限値を200[mm]とする。
また、整流構造10の下端11bから浸漬ノズル2の溶鋼吐出孔7の上端までの距離zは、長いものでも約1[m]であるので、実用上の上限値として、900[mm]とする。
【0029】
[本実施形態の整流構造10の効果]
本実施形態では、上記のように、整流構造10の上端11aにおける内管形状11が円形であり、上端11aから連続的に内管形状11が変形して、下端11bにおける内管形状11が短軸11x及び長軸11yを有する扁平形状にすることによって、短軸11xの方向の略中心に溶鋼の流れが集まる。ここで、当該短軸11xの方向が中間プレート(スライドプレート)22の開閉方向と平行となっているので、中間プレート22の開閉に起因する鋳型幅方向の偏流を抑制することができる。
【0030】
また、本実施形態では、整流構造10の下端11bにおける内管形状11の扁平度x/yを、0.5≦x/y≦0.8の範囲にすることによって、浸漬ノズル2にノズル詰まりが発生するのを抑制しつつ、中間プレート22の開閉に起因する鋳型幅方向の偏流を抑制することができる。
【0031】
また、本実施形態では、整流構造10の下端11bから浸漬ノズル2の溶鋼吐出孔7の上端までの距離zを、200mm≦z≦900mmの範囲にすることによって、実用上の範囲内で中間プレート22の開閉に起因する鋳型幅方向の偏流を抑制することができる。
【0032】
また、本実施形態では、整流構造10の上端から浸漬ノズル2の溶鋼吐出孔7に至る溶鋼流路の形状を円形⇒楕円形⇒円形とすることによって、即ち、当該溶鋼流路の一部分を楕円形とすることによって、溶鋼吐出孔7に至るまで楕円形の流路が延びる場合に比べて、(1)鋳型幅方向の偏流が発生するのを抑制できると共に、(2)ノズル詰まりが発生するのを抑制することができる。
【実施例】
【0033】
以下、本実施形態に係る整流構造の技術的効果を確認するために行った試験について説明する。上述した各数値範囲などは、下記の確認試験により合理的に裏付けられている。下記の各試験1〜3は、鋳型と溶鋼に代えて水槽と水を採用する所謂水モデル試験であって、整流構造及び浸漬ノズルの構造やサイズなどに変更を加えながら、浸漬ノズル内の偏流度を評価した。以下の試験1〜3では、浸漬ノズル内の偏流度が0.06未満のときに、「○(ブレークアウトの危険性なし)」と評価し、浸漬ノズル内の偏流度が0.06以上のときに、「×(ブレークアウトの危険性あり)」と評価することとする。当該偏流度の閾値を0.06とした根拠については、本明細書の末尾に添付する。
【0034】
≪試験1:浸漬ノズル内の偏流度と水流量との関係≫
本試験では、浸漬ノズルに5000[cm/s],8333[cm/s],11667[cm/s],13333[cm/s],15000[cm/s]の水流量Qを供給したときの浸漬ノズル内の偏流度を評価した。試験No.1〜4が比較例であり、試験No.5〜10が実施例である。各試験No.1〜10のそれぞれの試験条件とその試験結果とを下記表1および図14に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
比較例に係る試験No.1〜4では、浸漬ノズルに供給される水流量Qが、5000[cm/s],8333[cm/s],11667[cm/s],13333[cm/s],15000[cm/s]のいずれの場合であっても、浸漬ノズル内の偏流度が0.06以上であることが分かる。
【0037】
これに対して、実施例に係る試験No.5〜10では、浸漬ノズルに供給される水流量Qが、5000[cm/s],8333[cm/s],11667[cm/s],13333[cm/s]のいずれの場合であっても、浸漬ノズル内の偏流度が0.06未満であることが分かる。
【0038】
≪試験2:浸漬ノズル内の偏流度と整流構造下端の短軸−長軸比との関係≫
本試験では、整流構造の下端における短軸と長軸との比(扁平度)x/yを変更したときの浸漬ノズル内の偏流度を評価した。試験No.11及び12が実施例であり、試験No.13が比較例である。各試験No.11〜13のそれぞれの試験条件とその試験結果とを下記表2および図15に示す。
【0039】
【表2】

【0040】
整流構造の下端の形状が楕円形状(扁平形状)であって、その楕円形状の扁平度x/yの値が0.65及び0.75(0.5≦x/y≦0.8)の実施例に係る試験No.11及び12では、浸漬ノズル内の偏流度が0.06未満であることが分かる。
【0041】
これに対して、整流構造の下端の形状が円形状であって、扁平度x/yの値が1の比較例に係る試験No.13では、浸漬ノズル内の偏流度が0.06以上であることが分かる。
【0042】
≪試験3:浸漬ノズル内の偏流度と整流構造下端から溶鋼吐出孔までの距離との関係≫
本試験では、整流構造下端から溶鋼吐出孔までの距離zを変更したときの浸漬ノズル内の偏流度を測定した。試験No.14が比較例であり、試験No.15〜17が実施例である。各試験No.14〜17のそれぞれの試験条件とその試験結果とを下記表3および図16に示す。
【0043】
【表3】

【0044】
整流構造の下端から溶鋼吐出孔までの距離zが170mm(200mm未満)の比較例に係る試験No.14では、浸漬ノズル内の偏流度が0.06以上であることが分かる。
【0045】
これに対して、整流構造の下端から溶鋼吐出孔までの距離zが220mm,580mm,600mm(200mm≦z≦900mm)の実施例に係る試験No.15〜17では、浸漬ノズル内の偏流度が0.06未満であることが分かる。
【0046】
なお、上記した各試験1〜3における構成要件以外の実験条件を以下の表4に示す。
【0047】
【表4】

【0048】
次に、上記した各試験1〜3において、浸漬ノズル内の偏流度が0.06未満のときに「○(ブレークアウトの危険性なし)」の危険性がないと評価し、浸漬ノズル内の偏流度が0.06以上のときに、「×(ブレークアウトの危険性あり)」と評価した根拠について説明する。
【0049】
<凝固遅れとブレークアウトとの因果関係>
上記実施形態に係る整流構造10を用いることにより奏される効果は、前述したように主として鋳型幅方向の偏流の抑制である。この偏流を抑制することにより、所謂凝固遅れを改善し、もって、究極的には所謂ブレークアウト(凝固シェル内の溶鋼が凝固シェル外部へ流出してしまう現象)を回避することを目的とする。そこで、ここでは、凝固遅れを定量的に評価するための凝固遅れ度を定義すると共に、この凝固遅れ度とブレークアウトとの因果関係について説明する。
【0050】
即ち、「凝固遅れ」とは凝固シェルの部分的な成長遅れをいい、その定量化には凝固遅れ度が用いられる。「凝固遅れ度」は、図6に示すホワイトバンドに基づく。「ホワイトバンド」とは、凝固中のシェル前方の溶質が溶鋼流動により洗浄されて現れる線状組織であり、凝固シェルの成長の様子を表す。コーナー部のシェルBと健全部のシェルAの厚さに差が生じると、凝固遅れ部と健全部との凝固に伴う収縮量が異なり、凝固遅れ部には鋳片幅方向の引張応力が集中し、縦割の原因となる。縦割の程度が大きくなると凝固シェル内の溶鋼が凝固シェル外部へ流出し、ブレークアウトが発生する。図7に示すように、過去のデータで、凝固遅れ度が40%を越えるとブレークアウトが発生した実績があるために凝固遅れ度40%を許容上限とした。
【0051】
<鋳型幅方向の偏流の定量化方法>
次に、実機鋳造における鋳型幅方向の偏流の定量化方法について説明する。図8を参照されたい。図8は、実機鋳造における鋳型幅方向の偏流の定量化方法を説明するための説明図である。即ち、本図に示すように、(1)鋳型狭面中央に縦一列に埋め込まれる熱電対を用いて鋳造方向における鋳型の温度分布を測定し、(2)その温度分布の変曲点を湯面レベルとみなし、(3)鋳型狭面の一方における湯面レベル(「右側湯面」に相当。)と、他方における湯面レベル(「左側湯面」に相当。)との差Δhを求め、(4)この差Δhに依って鋳型幅方向の偏流を定量化した。
【0052】
<凝固遅れ度と鋳片幅方向の偏流との因果関係>
次に、実機操業における、凝固遅れ度と鋳片幅方向の偏流との因果関係を図9を参照しつつ説明する。図9は、実機操業における凝固遅れ度と差Δhとの関係を示す図である。本図によれば、上記の差Δh(本図において「湯面レベル差」に相当する。)が10[mm]を超えると、凝固遅れ度が40%以上である凝固遅れが発生することが判る。従って、上述したブレークアウトを回避する観点からは、上記差Δh[mm]を10以下に抑えるとよい。
【0053】
<水モデルを用いた検証実験の便宜を図るための換算>
上述した鋳型幅方向の偏流の定量化方法は、溶鋼が極めて高温であることを利用するものであるから、実機に代えて行おうとする水モデルを用いた検証実験に対しては該定量化方法を直接的には適用できない。従って、この定量化方法に対して若干の工夫を為して考案した、水モデルを用いた検証実験における鋳型幅方向の偏流の定量化方法を説明する。ここで、図10を参照されたい。図10は、水モデルにおける鋳型幅方向の偏流の定量化方法を説明するための説明図である。即ち、上記の差Δh[m]は、下記式(3)で表現できる。
Δh=ρm×U12/(2×g×(ρm-ρp))-ρm×U22/(2×g×(ρm-ρp))・・・(3)
ただし、
ρm[kg/m3]:溶鋼の密度
ρp[kg/m3]:モールドパウダーの密度
U1[m/s]:鋳型狭面のうち一方の狭面の近傍における溶鋼の上昇流の流速
U2[m/s]:鋳型狭面のうち他方の狭面の近傍における溶鋼の上昇流の流速(U1>U2)
g[m/s2]:重力加速度
【0054】
例えば上記式(3)に対して、Δh[m]=0.01,g[m/s2]=9.8,ρm[kg/m3]=7000,ρp[kg/m3]=3000を代入すると下記式(4)が導かれる。
U12-U22=0.1・・・(4)
【0055】
<偏流度・無偏流・無偏流率の定義>
ところで、一般に、鋳型狭面における溶鋼の上昇流の流速は、該鋳型狭面近傍における溶鋼の表面流速と略等しいとされる(今村ら:連続鋳造内溶鋼流動の水力学的検討、鉄と鋼、Vol.78、No.3(1992)、p.439-446)から、図11に示すように鋳型狭面から30cm離れ、水面から深さ2cmの地点における水の表面流速を電磁流速計を用いて測定し、以降の説明においては、この測定した表面流速を上記変数U1及びU2とみなすこととする。要するに、水の表面流速を測定することで、鋳型幅方向の偏流を評価する。
【0056】
そして、「鋳型幅方向の偏流度」を下記式(5)のように定義する。
(鋳型幅方向の偏流度)=|U12-U22|/|U12-U22|cr・・・(5)
ただし、「|U12-U22」cr|は、上記式(4)の如く上記差Δh[m]が0.01となるときの|U12-U22|の値(つまり、0.1)を意味する。
【0057】
上記式(5)によって定義される偏流度の絶対値が1未満であるときを「無偏流」の状態と定義する。
【0058】
<浸漬ノズル内の偏流度の定義>
図11に示すように、浸漬ノズル内の吐出方向軸上で、吐出孔直上位置の壁面から1cm内側の両吐出孔側の水の流速V1及びV2を電磁流速計を用いて測定した。そして、「浸漬ノズル内の偏流度」を、下記式(6)のように定義する。
(浸漬ノズル内の偏流度)=|V1-V2|/Qw/S・・・(6)
ただし、
Qw:浸漬ノズル内の水流量[m3/s]
S:浸漬ノズル内の断面積[m3
【0059】
<浸漬ノズル内の偏流度の境界条件>
次に、「浸漬ノズル内の偏流度」と「鋳型幅方向の偏流度」との因果関係を図12を参照しつつ説明する。図12は、「浸漬ノズル内の偏流度」と「鋳型幅方向の偏流度」との相関関係を示す図である。下記の条件において、流速U1,U2,V1,V2を測定し、「浸漬ノズル内の偏流度」と「鋳型幅方向の偏流度」との相関関係を示すグラフを図12に示す。同条件において、鋳型幅方向に偏流しているとき、及び、鋳型幅方向の偏流が抑制されているとき、の流速U1,U2,V1,V2を測定して、「浸漬ノズル内の偏流度」および「鋳型幅方向の偏流度」を算出している。図12及び表5により、「浸漬ノズル内の偏流度」が0.06以下のときに鋳型幅方向の偏流が抑制されていると定義する。
【0060】
【表5】

【0061】
(試験条件)
電磁流速計:メーカー:ケネック社(型番:VM802H)
鋳型寸法[mm]:幅1260×厚み240
モデル種類:水モデル
溶鋼流量(又は水流量)Qw[cm3/s]:水流量8333
スライドプレートの開閉方向:鋳型幅方向
D[mm]:85(図13参照)
θ1[deg.]:35(図13参照)
e[mm]:100(図13参照)
f[mm]:70(図13参照)
g[mm]:30(図13参照)
【0062】
以上、本発明の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態および実施例に限定されるものでないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態および実施例の説明だけではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0063】
例えば、上記実施形態では、3層式のスライドプレート方式の流量調整ユニットを採用したが、本発明はこれに限らず、2層式のスライドプレート方式の流量調整ユニットを採用してもよい。
【0064】
また、上記実施形態では、浸漬ノズル2に一対の溶鋼吐出孔7が形成された2孔式について説明したが、浸漬ノズルの下端が開放した1孔式の形態も本発明に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明を利用すれば、スライドプレートの開閉に起因する偏流を抑制することが可能な整流構造を得ることができる。
【符号の説明】
【0066】
2 浸漬ノズル(円管部)
7 溶鋼吐出孔
10 整流構造
11 内管形状
11a 上端
11b 下端
11x 短軸
11y 長軸
20 流量調整ユニット
22 スライドプレート(中間プレート)
x 短軸の長さ
y 長軸の長さ
z 整流構造の下端から円管部の溶鋼吐出孔の上端までの距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続鋳造で使用するスライドプレート方式の流量調整ユニットの下流側に接続される整流構造において、
上端における内管形状が円形であり、上端から連続的に内管形状が変形して、下端における内管形状が長軸及び短軸を有する扁平形状であり、
前記下端における内管形状の短軸が、前記流量調整ユニットのスライドプレートの開閉方向と平行であって、
前記下端の直下には、内管形状が前記下端における内管形状の長軸以上の直径を有する円形で且つ溶鋼吐出孔が穿孔される円管部が接続され、
下記の式(1)及び式(2)を満足することを特徴とする、整流構造。
0.5≦x/y≦0.8・・・(1)
200mm≦z≦900mm・・・(2)
ただし、
xは、整流構造の下端における内管形状の短軸の長さ
yは、整流構造の下端における内管形状の長軸の長さ
zは、整流構造の下端から円管部の溶鋼吐出孔の上端までの距離

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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