説明

スラッシュ成形用樹脂粉末組成物及び成形品

【課題】成形した自動車内装部品等においてホルムアルデヒドやアセトアルデヒド等のアルデヒド化合物の飛散が少ないスラッシュ成形用樹脂粉末組成物を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂粉末(B)を主体とし、アルデヒド化合物と化学結合をなす官能基、好ましくはアミノ基、尿素結合を有する官能基、及びヒドラジノ基からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基を有する化合物(A0)、好ましくは微粉末状のものを含有することを特徴とするスラッシュ成形用樹脂粉末組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インスツルメントパネル、ドアトリム等の自動車内装部品の成形用素材として適する熱可塑性樹脂粉末を主体とするスラッシュ成形用の樹脂粉末組成物であって、該樹脂粉末組成物を使用して成形した自動車内装部品等ではホルムアルデヒドやアセトアルデヒド等のアルデヒド化合物の飛散が少ない、樹脂粉末組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車内装材について、住宅などと同様に揮発性有機化合物(Volatile Organic Compounds:以下 VOC)低減の試みがなされている。自動車内装用接着剤として使用されているゴム系、ポリウレタン系、フェノール樹脂系、アクリル系などの接着剤の中には、ホルムアルデヒドガスを発生する成分を含有する接着剤もあり、その使用環境によってはホルムアルデヒドが自動車室内に拡散する可能性がある。
これらの問題を解決するためにホルムアルデヒドガスを取り込んで閉じこめる物理吸着剤や、アルデヒドと化学反応し結合する化学吸着剤を使用して消臭に効果をあげている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、近年、接着剤だけでなく、スラッシュ成形用の熱可塑性樹脂粉末についても、成形時の成形条件や使用環境等によりホルムアルデヒドやアセトアルデヒド等のアルデヒド化合物が発生、成形品内に残留する可能性があることがわかった。
【特許文献1】特開2003−96430号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、成形した自動車内装部品等がホルムアルデヒドやアセトアルデヒド等のアルデヒド化合物の飛散が少ないスラッシュ成形用樹脂粉末組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは鋭意研究した結果、熱可塑性樹脂粉末組成物に、アルデヒドキャッチャー剤として、アルデヒド化合物と化学結合をなす官能基を有する化学吸着剤を添加することにより、アルデヒド飛散の低減が可能であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0006】
すなわち本発明は、熱可塑性樹脂粉末(B)を主体とし、アルデヒド化合物と化学結合をなす官能基を有する化合物(A0)を含有することを特徴とするスラッシュ成形用樹脂粉末組成物、およびそれからなる樹脂成形品である。
【発明の効果】
【0007】
本発明のスラッシュ成形用樹脂粉末組成物からなる樹脂成形品は、アルデヒド化合物の飛散の低減ができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
アルデヒド化合物と化学結合をなす官能基としては、例えば、−NH−結合を有する官能基を挙げることができる。
【0009】
−NH−結合を有する官能基としては、例えばアミノ基(例えば、−NH、−NHR)、尿素結合を有する官能基(例えば−NHCONH、−NRCONH、−NHCONHR、−NRCONHR等)、アミド結合を有する官能基(例えば−CONH、−CONHR、−NHCOR等)、−NHNH−結合を有する官能基[例えば、−NHNH(ヒドラジノ基;本明細書中、単にヒドラジノ基というときは、ヒドラジド(酸のヒドロキシ基をヒドラジノ基で置換した構造の化合物であり、−CONHNH構造を含有する。)中のヒドラジノ基を含む。)、−NHNHR、等)]、イミド結合を有する官能基(例えば−CONHCO−等)等が挙げられる。上記において、Rは有機基を示す。このうち、−NHNH−結合を有する官能基としては、ヒドラジノ基が好ましい。
【0010】
−NH−結合を有する官能基としては、これらのなかで、アミノ基、尿素結合を有する官能基、及び、−NHNH−結合を有する官能基が好ましく、アミノ基、尿素結合を有する官能基、及び、ヒドラジノ基がより好ましく、ヒドラジノ基が更に好ましい。
【0011】
アミノ基を有する化合物としては、脂肪族アミン類、脂環式アミン類、芳香族アミン類、グアニジン類、アミノ酸類、トリアジン化合物の誘導体、ヒドロキシルアミン類、メラミン類などが挙げられる。
【0012】
脂肪族アミンとしては、メタノールアミン、エタノールアミン、エチレンジアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、イソプロピルアミン、ブチルアミン、プロピレンジアミン、ジエチレントリアミンなどが挙げられる。
【0013】
脂環式アミン類としては、シクロヘキシルアミン、イソホロンジアミン、モルホリン、キトサン等が挙げられる。
【0014】
芳香族アミンとしては、アニリン、アミノ安息香酸、アミノ安息香酸塩、トリアミノ安息香酸などが挙げられる。
【0015】
アミノ酸類としては、グリシン、アラニン、グルタミン酸、メラニン等が挙げられる。
【0016】
グアニジン類としては、グアニン、炭酸グアニジン、グアニル酸などが挙げられる。
【0017】
トリアジン化合物の誘導体としては、2,4−ジアミノ−6−[2’−メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジンなどが挙げられる。
【0018】
その他のアミノ基を有する化合物として、ヒドロキシルアミン類、メラミン類等が挙げられる。
【0019】
さらに、熱可塑性樹脂の末端及び/又は主鎖中にアミノ結合を有する化合物などが挙げられる。上記熱可塑性樹脂としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリウレア、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリ酢酸ビニル、ポリエーテル、ポリスチレン、ポリエステル、ポリビニルアルコール、ポリアミド、ポリアクリロニトリル等が挙げられる。
【0020】
尿素結合を有する官能基を有する化合物としては、尿素、チオ尿素、エチレン尿素、アセチル尿素、グアニル尿素、アゾジカルボンアミドなどが挙げられる。
さらに、熱可塑性樹脂の末端及び/又は主鎖中に尿素結合を有する化合物などが挙げられる。上記熱可塑性樹脂としては、上記末端及び/又は主鎖中にアミノ結合を有する化合物として挙げた樹脂と同じものが挙げられる。
【0021】
アミド結合を有する官能基を有する化合物としては、フタルイミド、スクシンイミド、ヒダントイン、バルビツール酸、イソシアヌル酸などが挙げられる。
さらに、熱可塑性樹脂の末端及び/又は主鎖中にアミド結合を有する化合物などが挙げられる。上記熱可塑性樹脂としては、上記末端及び/又は主鎖中にアミノ結合を有する化合物として挙げた樹脂と同じものが挙げられる。
【0022】
−NHNH−結合を有する官能基を有する化合物としては、ヒドラジド(例えばアジピン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、アセトヒドラジド、ベンズヒドラジド、フタル酸ジヒドラジド等)、ヒドラジンなどが挙げられる。
【0023】
さらにまた、熱可塑性樹脂の末端及び/又は主鎖中に−NHNH−結合を有する化合物などが挙げられる。上記熱可塑性樹脂としては、上記末端及び/又は主鎖中にアミノ結合を有する化合物として挙げた樹脂と同じものが挙げられる。
【0024】
上記アルデヒド化合物と化学結合をなす官能基を有する化合物(A0)としてより好ましいものは、トリアジン化合物の誘導体、及びヒドラジドであり、さらに好ましくはヒドラジドであり、特に好ましくはアジピン酸ジヒドラジドである。
【0025】
上記化合物(A0)は、熱可塑性樹脂粉末(B)の製造工程中のいずれかの工程で添加して、(B)に含有させることができる。(A0)は(B)を粒子化した後の工程で添加することが好ましい。
また、(A0)は微粉末(A)として、熱可塑性樹脂粉末(B)にドライブレンドして、添加することがさらに好ましい。
【0026】
スラッシュ成形用材料としての耐ブロッキング性、粉体流動性の観点から、微粉末(A)の体積平均粒径は、好ましくは0.01μm以上、さらに好ましくは0.1μm以上であり、好ましくは20μm以下、さらに好ましくは10μm以下である。
【0027】
上記化合物(A0)は熱可塑性樹脂粉末(B)の重量に対して、好ましくは0.1〜5重量%、さらに好ましくは0.3〜4重量%使用することができる。
【0028】
上記微粉末(A)の形態としては、
(1)化合物(A0)を無機微粒子(A1)に担持させた形態、
(2)(A0)と熱可塑性樹脂(A2)と混合し、粉末状にした形態、又は、
(3)(A0)のみを粉末状にした形態
が挙げられる。
【0029】
(1)(A0)を無機微粒子(A1)に担持させた形態
無機微粒子(A1)としては、例えば無機系微粉末として、シリカ微粉末(体積平均粒径0.1〜10μm)、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム等のカルシウム系微粉末、炭酸バリウム、硫酸バリウム等のバリウム系微粉末、ケイ酸マグネシウム、酸化マグネシウム等のマグネシウム系微粉末、あるいはタルク、クレー等の鉱物系微粉末が挙げられるが、これらのうち、シリカ微粉末が好ましい。無機微粒子の体積平均粒径は、スラッシュ成形用材料としての耐ブロッキング性、粉体流動性の観点から、好ましくは0.01μm以上、さらに好ましくは0.1μm以上であり、好ましくは20μm以下、さらに好ましくは10μm以下である。担持の方法も特に限定されないが、(A0)が液状の場合は、そのまま(A1)と混合する。(A0)が0.01μm以上、20μm以下の粉状の場合は、(A1)とドライブレンドする。(A0)が20μm以上の場合は、(A0)が可溶な溶剤に溶かし、(A1)と混合、脱溶剤する方法が挙げられる。
【0030】
(2)(A0)と熱可塑性樹脂(A2)と混合し、粉末状にした形態
熱可塑性樹脂(A2)としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリウレア、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリ酢酸ビニル、ポリエーテル、ポリスチレン、ポリエステル、ポリビニルアルコール、ポリアミド、ポリアクリロニトリル等が挙げられる。混合の方法も特に限定されないが、(A0)、(A2)を溶融混合し、冷却後、粉砕し粉末状にする方法が挙げられる。
【0031】
(3)(A0)のみを粉末状にした形態
常温で固体の(A0)は、そのまま粉砕するなどして、粉末状にすることで、微粉末(A)とすることができる。
【0032】
さらに、本発明において、ブロッキング防止剤(C)として、例えば、シリカ微粉末、架橋シクロヘキシルマレイミド粉末、架橋ポリメチルメタクリレート粉末等を(A)と併用することもできる。(C)としては、スラッシュ成形用材料としての耐ブロッキング性、粉体流動性の観点から、体積平均粒径は、好ましくは0.01μm以上、さらに好ましくは0.1μm以上であり、好ましくは20μm以下、さらに好ましくは10μm以下である。
【0033】
(C)は熱可塑性樹脂粉末(B)の重量に対して、好ましくは0〜3重量%、さらに好ましくは0〜1重量%使用することができる。
【0034】
本発明において、熱可塑性樹脂粉末(B)とは、スラッシュ成形用に使用可能な樹脂粉末であれば特に制限はない。好ましい例としては、(以下、熱可塑性を省略して記載する。)ポリウレタン系樹脂粉末、塩化ビニル系樹脂粉末、ポリオレフィン系樹脂粉末、ビニル芳香族系樹脂粉末、アクリレート系樹脂粉末、共役ジエン系樹脂粉末、およびこれらの2種以上の混合物が挙げられ、特に好ましいものはポリウレタン系樹脂粉末である。
【0035】
ポリウレタン系樹脂粉末におけるポリウレタン系樹脂は、高分子ポリオール、ポリイソシアネート、必要に応じて低分子ジオール、低分子ジアミン等からなる樹脂である。
【0036】
ポリウレタン系樹脂粉末としては、例えば以下の製造方法で得られるものが挙げられる。
(1)ウレタン結合およびウレア結合を有し、水および分散安定剤存在下で、イソシアネート基末端ウレタンプレポリマーとブロックされた鎖伸長剤(例えばケチミン化合物)とを反応させる方法で製造されるもの。具体的には、例えば、特開平8−120041号公報等に記載されたものを使用することができる。
(2)ウレタン結合およびウレア結合を有するウレタンプレポリマーを、該ウレタンプレポリマーが溶解しない有機溶剤および分散安定剤存在下で、鎖伸長剤(例えばジアミンおよび/またはグリコール)と反応させる方法で製造されるもの。具体的には、例えば、特開平4−202331号公報等に記載されたものを使用することができる。
(3)ジイソシアネートと高分子グリコールと必要に応じて鎖伸長剤(低分子グリコール、低分子ジアミン)とを反応させることで熱可塑性ポリウレタン樹脂の塊状物を得る。ついで粉末化(例えば冷凍粉砕、溶融状態下に細孔を通し切断する方法)する方法で製造されるもの。
【0037】
塩化ビニル系樹脂粉末は、例えば、懸濁重合法又は塊状重合法によって製造した塩化ビニル単独重合体、塩化ビニルモノマーとエチレン酢酸ビニル共重合体等の塩化ビニルモノマーを主成分とする共重合体の樹脂粉末が挙げられる。
【0038】
ポリオレフィン系樹脂粉末は、一般的にオレフィン系熱可塑性エラストマーに属する物であればいかなるものも使用でき、さらに、例えば、エチレン−プロピレン−ジエン−ゴム(EPM、EPDM)とプロピレン系重合体等のポリオレフィン等とを複合したオレフィン系熱可塑性エラストマーを挙げることができる。また、α−オレフィン共重合体よりなるオレフィン熱可塑性エラストマー、α−オレフィン共重合体とプロピレン系樹脂から成るオレフィン熱可塑性エラストマーの微粉末も使用することができる。
【0039】
ビニル芳香族系樹脂粉末には、芳香族ビニル化合物単独重合体、芳香族ビニル化合物とビニル系モノマーの共重合体の樹脂粉末等が含まれる。芳香族ビニル化合物としては、例えば、スチレン、t−ブチルスチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスレン、ジビニルベンゼン、1,1−ジフェニルスチレン、ブロモスチレン、ビニルスチレン、ビニルキシレン、フルオロスチレン、エチルスチレンなどが挙げられ、特にスチレン、α−メチルスチレンが好ましい。
【0040】
アクリレート系樹脂粉末は、例えば、(メタ)アクリル酸エステル単独重合体、(メタ)アクリル酸エステルとビニル系モノマーの共重合体の樹脂粉末等が挙げられる。
【0041】
共役ジエン系樹脂粉末は、共役ジエン系共重合体中の共役ジエン系部分を水素添加または一部水素添加して得られる共重合体であり、例えば、芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物ランダム共重合体の水素添加物、芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物ブロック共重合体の水素添加物、共役ジエン化合物ブロック共重合体の水素添加物の樹脂粉末が含まれる。
【0042】
(B)の体積平均粒径は、好ましくは10〜500μm、さらに好ましくは70〜300μmの範囲にある。
【0043】
(B)は本発明のスラッシュ成形用樹脂粉末組成物の重量に対して、好ましくは70重量%以上、さらに好ましくは80重量%以上、特に好ましくは90重量%以上、好ましくは99重量%以下、さらに好ましくは98重量%以下、特に好ましくは97重量%以下含有される。
【0044】
また、本発明のスラッシュ成形用樹脂粉末組成物には、必要に応じて、上記の成分(A0)、(B)以外に、金型汚れを起こさずブロッキング防止を行える範囲で、添加助剤(D)が添加される。(D)としては、公知慣用の、顔料、無機充填剤、可塑剤、離型剤、有機充填剤、分散剤、紫外線吸収剤(光安定剤)、酸化防止剤等が添加出来る。
【0045】
(D)の添加量の合計は、熱可塑性ポリウレタン樹脂粉末(B)の重量に対して、好ましくは0〜60重量%、より好ましくは10〜50重量%である。
【0046】
本発明のスラッシュ成形用樹脂粉末組成物を製造する方法としては、例えば以下の方法が挙げられる。
(1)熱可塑性樹脂粉末(B)、アルデヒド化合物と化学結合をなす官能基を有する化合物(A0)からなる微粉末(A)及び、必要に応じて添加される添加助剤(D)をドライブレンドする方法。
(2)必要に応じて添加される添加剤(D)存在下で熱可塑性樹脂粉末(B)を製造し、その後微粒子粉末(A)をドライブレンドする方法。
(3)必要に応じて顔料存在下で熱可塑性樹脂粉末(B)を製造し、得られた(B)、(A)及び必要に応じて顔料以外の添加される添加助剤(D)をドライブレンドする方法。
(4)(A0)を熱可塑性樹脂粉末(B)の製造工程中のいずれかの工程で添加して、(B)に含有させる方法。
このうち(1)の方法が好ましい。
【0047】
上記混合に使用する混合装置としては、公知の粉体混合装置を使用でき、容器回転型混合機、固定容器型混合機、流体運動型混合機のいずれも使用できる。例えば固定容器型混合機としては高速流動型混合機、複軸パドル型混合機、高速剪断混合装置(ヘンシエルミキサー(登録商標)等)、低速混合装置(プラネタリーミキサー等)や円錐型スクリュー混合機(ナウタミキサ(登録商標)等)を使ってドライブレンドする方法が良く知られている。これらの方法の中で、複軸パドル型混合機、低速混合装置(プラネタリーミキサー等)、および円錐型スクリュー混合機(ナウタミキサ(登録商標、以下省略)等)を使用するのが好ましい。
【0048】
本発明のスラッシュ成形用樹脂粉末組成物からなる樹脂成形品はスラッシュ成形法で成形することができる。例えば、本発明の粉末組成物が入ったボックスと加熱した金型を共に振動回転させ、パウダーを型内で溶融流動させた後、冷却後、固化させ、表皮を製造する方法で好適に実施することができる。
上記金型温度は好ましくは200〜300℃、さらに好ましくは210〜280℃である。
【0049】
本発明のスラッシュ成形用樹脂粉末組成物で成形された表皮厚さは、0.5〜1.5mmが好ましい。成形表皮は、表面を発泡型に接するようにセットし、ウレタンフォームを流し、裏面に5mm〜15mmの発泡層を形成させて、樹脂成形品とすることができる。
【0050】
本発明の樹脂成形品は、自動車内装材、例えばインストルメントパネル、ドアトリム等に好適に使用される。
【0051】
実施例
以下、製造例、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
尚、例中、特に断りのない限り、部は全て重量部を表すものとする。
【0052】
体積平均粒径の測定方法
以下において、体積平均粒子径の測定は、日機装株式会社製、マイクロトラックHRA9320−X100にて行った。体積平均粒子径は、D50測定値の2回の測定値の平均値である。
【0053】
製造例1
プレポリマー溶液の製造
温度計、撹拌機及び窒素吹込み管を備えた反応容器に、数平均分子量(以下Mnと記す。)が1000のポリブチレンアジペート(575部)、Mnが900のポリヘキサメチレンイソフタレート(383部)、1−オクタノール(16.8部)を仕込み、窒素置換した後、撹拌しながら110℃に加熱して溶融させ、60℃まで冷却した。続いて、ヘキサメチレンジイソシアネート(242部)を投入し、85℃で6時間反応させた。次いで、60℃に冷却した後、テトラヒドロフラン(217部)、安定剤(2.5部)[チバスペシャリティーケミカルズ(株)社製、イルガノックス1010]及び酸化チタン(15.3部)[タイペークR−820、石原産業(株)製]を加え、均一に混合してプレポリマー溶液を得た。得られたプレポリマー溶液のNCO含量は、2.2%であった。
【0054】
製造例2
ジアミンのMEKケチミン化物の製造
ヘキサメチレンジアミンと過剰のMEK(メチルエチルケトン(以下同様)。ジアミンに対して4倍モル量)を80℃で24時間還流させながら生成水を系外に除去した。その後減圧にて未反応のMEKを除去してMEKケチミン化物を得た。
【0055】
製造例3
熱可塑性ポリウレタン系樹脂粉末の製造
反応容器に、製造例1で得たプレポリマー溶液(100部)と製造例2で得たMEKケチミン化合物(5.6部)を投入し、そこに分散剤[三洋化成工業(株)製サンスパールPS−8](1.3重量部)を溶解した水溶液340重量部を加え、ヤマト科学(株)製ウルトラディスパーサーを用いて9000rpmの回転数で1分間混合した。この混合物を温度計、撹拌機及び窒素吹込み管を備えた反応容器に移し、窒素置換した後、撹拌しながら50℃で10時間反応させた。反応終了後、濾別及び乾燥を行い、熱可塑性ポリウレタン樹脂粉末(B−1)を製造した。(B−1)のMnは2.5万、体積平均粒径は151μmであった。
【0056】
実施例1
100Lのナウタミキサー内に、熱可塑性ポリウレタン樹脂粉末(B−1)100部、可塑剤としてポリエチレングリコールジ安息香酸エステル[三洋化成工業(株)社製;サンフィックスEB300]20部を投入し70℃で3時間混合した。次いで離型剤として変性ジメチルポリシロキサン[信越化学工業(株)製;KF96]0.1部を投入し1時間混合した後、室温まで冷却し、樹脂粉末組成物(P−1)を得た。次いで、アルデヒド化合物と化学結合をなす官能基を有する化合物としてケムキャッチH1100[ヒドラジド化合物、大塚化学(株)製、体積平均粒径7μm](A−1)0.5部、ブロッキング防止剤として架橋シクロヘキシルマレイミド粉末(体積平均粒径3μm)0.5部を投入混合し、スラッシュ成形用樹脂粉末組成物(S−1)を得た。(S−1)の体積平均粒径は152μmであった。熱可塑性樹脂粉末(B)に対する化合物(A0)の含有量は0.5重量%であった。
【0057】
実施例2
実施例1と同様に100Lのナウタミキサー内に、樹脂粉末組成物(P−1)120.1部、(A0)としてケムキャッチN1180[大塚化学(株)製、体積平均粒径5μm](A−2)を1部、架橋シクロヘキシルマレイミド粉末(体積平均粒径3μm)0.5部を投入混合し、スラッシュ成形用樹脂粉末組成物(S−2)を得た。(S−2)の体積平均粒径は152μmであった。熱可塑性樹脂粉末(B)に対する化合物(A0)の含有量は1重量%であった。
【0058】
実施例3
実施例1と同様に100Lのナウタミキサー内に、樹脂粉末組成物(P−1)120.1部、(A0)としてトリアジン系化合物である2,4−ジアミノ−6−[2’−メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジン[商品名キュアゾール2MZ−A(四国化成工業(株)製)、体積平均粒径4μm](A−3)0.5部、架橋シクロヘキシルマレイミド粉末(体積平均粒径3μm)0.5部を投入混合し、スラッシュ成形用樹脂粉末組成物(S−3)を得た。(S−3)の体積平均粒径は152μmであった。熱可塑性樹脂粉末(B)に対する化合物(A0)の含有量は0.5重量%であった。
【0059】
実施例4
実施例1と同様に100Lのナウタミキサー内に、樹脂粉末組成物(P−1)120.1部、(A−1)を0.5部、ブロッキング防止剤として架橋ポリメチルメタクリレート粉末(体積平均粒径10μm)0.5部を投入混合し、スラッシュ成形用樹脂粉末組成物(S−4)を得た。(S−4)の体積平均粒径は153μmであった。熱可塑性樹脂粉末(B)に対する化合物(A0)の含有量は0.5重量%であった。
【0060】
実施例5
実施例1と同様に100Lのナウタミキサー内に、樹脂粉末組成物(P−1)120.1部、(A−1)を0.5部、ブロッキング防止剤としてシリカ微粉末[GRACE DAVISON製、サイロブロックS200(体積平均粒径5μm)]0.3部を投入混合し、スラッシュ成形用樹脂粉末組成物(S−5)を得た。(S−5)の体積平均粒径は151μmであった。熱可塑性樹脂粉末(B)に対する化合物(A0)の含有量は0.5重量%であった。
【0061】
実施例6
実施例1と同様に100Lのナウタミキサー内に、樹脂粉末組成物(P−1)120.1部、アジピン酸ジヒドラジド[体積平均粒径4μm]を1部、ブロッキング防止剤としてシリカ微粉末[GRACE DAVISON製、サイロブロックS200]0.3部を投入混合し、スラッシュ成形用樹脂粉末組成物(S−6)を得た。(S−6)の体積平均粒径は150μmであった。熱可塑性樹脂粉末(B)に対する化合物(A0)の含有量は1重量%であった。
【0062】
実施例7
実施例1と同様に100Lのナウタミキサー内に、樹脂粉末組成物(P−1)120.1部、アジピン酸ジヒドラジド[体積平均粒径4μm]を3部、ブロッキング防止剤としてシリカ微粉末[GRACE DAVISON製、サイロブロックS200]0.3部を投入混合し、スラッシュ成形用樹脂粉末組成物(S−7)を得た。(S−7)の体積平均粒径は150μmであった。熱可塑性樹脂粉末(B)に対する化合物(A0)の含有量は3重量%であった。
【0063】
実施例8
実施例1と同様に100Lのナウタミキサー内に、樹脂粉末組成物(P−1)120.1部、ベンズヒドラジド[体積平均粒径2μm]を2部、ブロッキング防止剤としてシリカ微粉末[GRACE DAVISON製、サイロブロックS200]0.3部を投入混合し、スラッシュ成形用樹脂粉末組成物(S−8)を得た。(S−8)の体積平均粒径は151μmであった。熱可塑性樹脂粉末(B)に対する化合物(A0)の含有量は2重量%であった。
【0064】
比較例1
実施例1と同様に100Lのナウタミキサー内に、樹脂粉末組成物(P−1)120.1部、架橋シクロヘキシルマレイミド粉末(体積平均粒径3μm)を0.5部を投入混合し、スラッシュ成形用樹脂粉末組成物(S−6’)を得た。(S−6’)の体積平均粒径は153μmであった。
【0065】
比較例2
実施例1と同様に100Lのナウタミキサー内に、樹脂粉末組成物(P−1)120.1部、アルデヒドキャッチャー剤として特開2003−70887の実施例2にあげられた消臭剤組成物0.5部、ブロッキング防止剤として架橋シクロヘキシルマレイミド粉末(体積平均粒径3μm)0.5部を投入混合し、スラッシュ成形用樹脂粉末組成物(S−7’)を得た。上記消臭剤組成物は、700℃以上で炭化焼成された体積平均粒径約5μmの備長炭(協同組合ラテスト製造)0.12部、300〜500℃の範囲で炭化焼成された体積平均粒径約4μmの黒炭(協同組合ラテスト製造)0.30部、ゼオライト粉末(日東粉化工業製造)0.06部、体積平均粒径10nmの銅フタロシアニン(チバ社製造)0.01部、鉄フタロシアニン(山陽色素製造)0.01部を混合し調製した。(S−7’)の体積平均粒径は153μmであった。
【0066】
実施例1〜8のスラッシュ成形用樹脂粉末組成物(S−1)〜(S−8)、及び比較例1〜2のスラッシュ成形用樹脂粉末組成物(S−6’)〜(S−7’)を使用して、下記に示す方法で安息角、溶融性、アルデヒド揮発量を測定し、結果を表1、表2に示した。
【0067】
【表1】

【0068】
【表2】

【0069】
<評価方法>
・安息角
スラッシュ成形用樹脂粉末組成物の粉体流動性を評価するために、パウダーテスター(ホソカワミクロン(株)製PT−R型)にて安息角を測定した。測定は、温度23±0.5℃、湿度50±2%に調節した温調室にて実施した。安息角の値が小さいほど、粉体流動性が良い。
【0070】
・溶融性
予め270℃に加熱されたしぼ模様の入ったNi電鋳型にスラッシュ成形用樹脂粉末組成物を充填し、10秒後余分な粉末樹脂粉末組成物を排出した。270℃で更に90秒加熱後、水冷して表皮(厚さ1mm)を作成した。
得られた表皮の裏面の状態を目視確認した。以下の基準で評価した。
○:均一に溶融し光沢を有している。
△:一部未溶融の粉があるが光沢を有している。
×:裏面に光沢がない。
【0071】
・アルデヒド揮発量測定
1.試験環境
試験は、原則として23±2℃、相対湿度50±5%の室内にて行った。
2.試験片の準備
上記の成形により、得られた表皮を切り、8×10cmの試験片とした。
3.試験片の加熱方法
以下の手順に従った。
(1)一口スリーブ付きの10Lテドラー(登録商標。以下省略)バック(スリーブ外径φ7)(GLサイエンス社製AA−10)にシリコンチューブ(内径φ6.5程度)を接続し、ストップバルブを取り付ける。
(2)テドラーバックに純窒素ガスを充填する。
(3)充填させた純窒素ガスをアスピレーターで抜く。
(4)(2)、(3)の操作を2回繰り返す。
(5)テドラーバックの一端をはさみで切る。
(6)2.で作成した試験片を秤量し、切断面に拡散を防ぐための保護テープ(中島化成工業チューコーフロー粘着テープ:ASF−110)を貼った後、テドラーバックの中に入れる。
(7)テドラーバックの一端を二重折りにして幅広いテープで密封する。
(8)テドラーバック内に純窒素ガスを適当量入れる。
(9)アスピレーターで中の窒素ガスを抜く。
(10)その後、4Lの純窒素ガスをフローメーターを使用してテドラーバックに充填し、シリコンチューブに取り付けたストップバルブを閉じる。
(11)シリコンチューブの先に20cm程度のテフロン(登録商標)チューブ(外径φ6)を取り付ける。
(12)循風乾燥機の中にテドラーバックを入れ、テフロン(登録商標)チューブを循風乾燥機上部温度計の穴より槽外に出し、クリップでテフロン(登録商標)チューブを留める。
(13)テフロン(登録商標)チューブの先に3cm程度のシリコンチューブ(内径φ6)を取り付ける。
(14)この状態のまま、65℃で2時間加熱する。
4.アルデヒド類の採取方法
以下の手順に従った。
(1)アルデヒド類の採取方法は、DNPHカートリッジ(Water社製Sep−Pak(登録商標)Long)を使用する。
(2)DNPHカートリッジはシリコンチューブを介して連結し、下流側をポンプ(柴田科学MP−Σ300)及び回転流量計(シナガワDC−1C)に連結する。
(3)採気速度0.1L/minでテドラーバック内のガスを全量採気する。
(4)採気終了後、DNPHカートリッジの栓を締める。
(5)分析を実施するまで、冷蔵庫で保管する。
5.高速液体クロマトグラフィーによるアルデヒド量の定量
採取が終了したDNPHカートリッジを次の手順で、分析した。
(1)アセトニトリルを6mL注射器に取り、DNPHカートリッジの一端に連結し、ゆっくり抽出する。受器は、10mLの試験管などを使用する。
(2)更に、溶媒が出た後に注射器に少量の空気を取り、DNPHカートリッジ内に残存する溶媒すべてを留去する。
(3)アセトニトリルは揮発性が高いので、直ちに密栓をする。
(4)(3)のアセトニトリル溶液は、高速液体クロマトグラフを用いて分析する。
分析条件
分析装置:島津製作所製HPLC VP
検出器:UV360nm
カラム:GLサイエンス製INTERSIL ODS−80
展開液:アセトニトリル55%−水45%
カラム温度:40℃
6.アルデヒド揮発量の算出
下記式により、試験片からのアルデヒド揮発量を算出した。ただし、上記操作を表皮なしで実施した場合をブランク値とした。
(アルデヒド揮発量μg/1個)
=(液体クロマトグラフィーによる分析値)−(ブランク値)
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明のスラッシュ成形用樹脂粉末組成物から成形される表皮は、自動車内装材、例えばインストルメントパネル、ドアトリム等の表皮として好適に使用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂粉末(B)を主体とし、アルデヒド化合物と化学結合をなす官能基を有する化合物(A0)を含有することを特徴とするスラッシュ成形用樹脂粉末組成物。
【請求項2】
前記化合物(A0)が、微粉末(A)である請求項1記載の樹脂粉末組成物。
【請求項3】
前記化合物(A0)が、アミノ基、尿素結合を有する官能基、及びヒドラジノ基からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基を有する化合物である請求項1又は2記載の樹脂粉末組成物。
【請求項4】
前記化合物(A0)が、トリアジン化合物の誘導体である請求項3記載の樹脂粉末組成物。
【請求項5】
前記化合物(A0)が、2,4−ジアミノ−6−[2’−メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジンである請求項4記載の樹脂粉末組成物。
【請求項6】
前記化合物(A0)が、ヒドラジドである請求項3記載の樹脂粉末組成物。
【請求項7】
前記微粉末(A)が、前記化合物(A0)を無機微粒子(A1)に担持させた形態、該(A0)と熱可塑性樹脂(A2)とを混合し粉末状にした形態、該(A0)のみを粉末状にした形態のいずれかである請求項2〜6いずれか記載の樹脂粉末組成物。
【請求項8】
前記微粉末(A)の体積平均粒径が0.01μm以上20μm以下である請求項2〜7いずれか記載の樹脂粉末組成物。
【請求項9】
前記化合物(A0)が、前記熱可塑性樹脂粉末(B)に対して0.1重量%以上5重量%以下含有されてなる請求項1〜8いずれか記載の樹脂粉末組成物。
【請求項10】
前記熱可塑性樹脂粉末(B)が、熱可塑性ポリウレタン樹脂粉末である請求項1〜9いずれか記載の樹脂粉末組成物。
【請求項11】
請求項1〜10いずれか記載の樹脂粉末組成物からなる樹脂成形品。
【請求項12】
自動車内装材である請求項11記載の樹脂成形品。

【公開番号】特開2006−188669(P2006−188669A)
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−349093(P2005−349093)
【出願日】平成17年12月2日(2005.12.2)
【出願人】(000002288)三洋化成工業株式会社 (1,719)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】