説明

スラブヤードの置場管理方法及び装置

【課題】特定のクレーンにのみ負荷が集中することなく、スラブヤードのクレーン作業を効率的に行うことのできるスラブヤードの置場管理方法及び装置を提供する。
【解決手段】搬入搬出計画に関する情報を取得し、この情報からエリア間でのスラブ移動計画を複数作成し、それぞれのスラブ移動計画に対して使用する各クレーンを割り当て、作業完了予定時間に対する遅延時間の程度を表す第1の評価値をそれぞれのスラブ移動計画について求め、第1の評価値の高い上位から所定数のスラブ移動計画を抽出し、スラブ置場を用いてスラブ移動計画のエリアを置き換え、置き換えたスラブ移動計画について、作業終了予定時間に対する遅延時間の程度を表す第2の評価値を求め、第2評価値の最も高いスラブ移動計画を取得するスラブヤードの置場管理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スラブヤードの置場管理方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
製鉄プロセスにおいて、製鋼工場で鋳造された厚鋼板等の板状物品であるスラブは、倉庫内あるいは工場内のスラブヤードと呼ばれるスラブ置場に山積みされて一時保管される。
スラブヤード内作業には、製鋼工場や他ヤードから貨車やトレーラによって搬送されてきたスラブをクレーンで搬入する作業、保管しているスラブを圧延工場や他ヤードに輸送するために貨車・トレーラ・搬送路に積載する作業、搬入や搬出を効率的に行うために保管しているスラブ山を整理する作業などがある。
【0003】
このようなスラブヤードの置場を管理するための作業の効率は、搬入したスラブの置場をどこにするか、置場にあるスラブを何時、どのクレーンを使用して運搬あるいは搬出するか、といったクレーン作業計画に大きく左右される。
従来、スラブヤードの置場管理は、担当者の経験に基づき運用されてきた。しかし、効率を高めるとの観点からは、担当者の経験にのみ依存することが、良いとは必ずしもいえない。
【0004】
スラブヤードの効率的な置場運用方法として、特許文献1では、搬出したい複数のスラブ山の位置関係により、2基のクレーンの干渉が最も少なくなるように、2基のクレーンが移動させるスラブの順序を決定することで、効率的な搬出作業を実現できる方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−281307号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1の方法では、その適用範囲が、搬出作業だけに限られているため、搬入作業と搬出作業が発生し、またクレーンが競合する場合にはそのまま適用することができない。即ち、クレーン作業では、各クレーンの負荷が平滑化されるように考慮する必要があり、また、効率的なクレーン作業のためには、スラブの退避場所やクレーン受渡しのための一時的な置き場所を求める具体的方策が明らかになっていることが求められる。従って、クレーン作業の計画は、これらの観点を勘案して策定されなければならない。
【0007】
近年、鋼材生産量の増加や製品の多様化などの影響により、クレーンハンドリングの増加、置場管理の複雑化が顕在化し、最悪の場合には搬入や搬出作業が遅延する懸念が生じている。
【0008】
本願発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであって、ある特定のクレーンにのみ負荷が集中することなく、スラブヤードのクレーン作業を効率的に行うことのできるスラブヤードの置場管理方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明は、スラブヤードにおける複数のクレーンを用いたスラブの搬入搬出計画を作成するスラブヤードの置場管理装置において、前記搬入搬出計画に関する情報を取得する情報取得部と、取得した前記情報から前記スラブヤードを区分したエリア間でのスラブ移動計画を複数作成するエリア間移動計画作成部と、前記エリア間でのそれぞれのスラブ移動計画に対して、使用する各クレーンを割り当てるクレーン割当部と、クレーンが割当てられたスラブ移動計画から作業完了予定時間に対する遅延時間の程度を表す第1の評価値をそれぞれのエリア間でのスラブ移動計画について求める第1の評価値算出部と、前記求めた第1の評価値の高い上位から所定数のエリア間でのスラブ移動計画を抽出するエリア間移動計画抽出部と、前記スラブヤードを区分した、前記エリアよりも狭い領域であるスラブ置場を用いて、抽出したエリア間でのスラブ移動計画のエリアを置き換えた置場間でのスラブ移動計画を作成する置場間移動計画作成部と、それぞれの前記置場間でのスラブ移動計画について、作業終了予定時間に対する遅延時間の程度を表す第2評価値を求める第2の評価値算出部と、求めた前記第2評価値の最も高い置場間でのスラブ移動計画を取得する搬入搬出計画取得部とを備えた。
【0010】
また本発明は、スラブヤードにおける複数のクレーンを用いたスラブの搬入搬出計画を作成するスラブヤードの置場管理装置の置場管理方法において、前記置場管理装置は、情報取得部とエリア間移動計画作成部とクレーン割当部と第1の評価値算出部とエリア間移動計画抽出部と置場間移動計画作成部と第2の評価値算出部と搬入搬出計画取得部とを有し、前記情報取得部によって前記搬入搬出計画に関する情報を取得し、前記エリア間移動計画作成部によって取得した前記情報から前記スラブヤードを区分したエリア間でのスラブ移動計画を複数作成し、前記クレーン割当部によって前記エリア間でのそれぞれのスラブ移動計画に対して、使用する各クレーンを割り当て、前記第1の評価値算出部によってクレーンが割当てられたスラブ移動計画から作業完了予定時間に対する遅延時間の程度を表す第1の評価値をそれぞれのエリア間でのスラブ移動計画について求め、前記エリア間移動計画抽出部によって前記求めた第1の評価値の高い上位から所定数のエリア間でのスラブ移動計画を抽出し、前記置場間移動計画作成部によって前記スラブヤードを区分した、前記エリアよりも狭い領域であるスラブ置場を用いて、抽出したエリア間でのスラブ移動計画のエリアを置き換えた置場間でのスラブ移動計画を作成し、前記第2の評価値算出部によってそれぞれの前記置場間でのスラブ移動計画について、作業終了予定時間に対する遅延時間の程度を表す第2評価値を求め、前記搬入搬出計画取得部によって求めた前記第2評価値の最も高い置場間でのスラブ移動計画を取得する。
【発明の効果】
【0011】
この発明によれば、特定のクレーンにのみ負荷が集中することなく、スラブヤードのクレーン作業を効率的に行うことのできるスラブヤードの置場管理方法及び装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本実施の形態の置場管理方法が適用されるスラブヤードのレイアウトを模式的に示す図。
【図2】スラブヤード置場管理装置の構成を示す図。
【図3】搬入スラブ情報の具体的な内容を例示する図。
【図4】搬出スラブ情報の具体的な内容を例示する図。
【図5】スラブ置場情報の具体的な内容を例示する図。
【図6】クレーン作業情報の具体的な内容を例示する図。
【図7】スラブヤード置場管理装置の概略の処理手順を示すフロー図。
【図8】フロー決定処理の詳細の手順を示すフロー図。
【図9】経路候補リストを示す図。
【図10】移動経路リストの一例を示す図。
【図11】移動経路リストの移動経路をまとめた結果を示す図。
【図12】時刻を計算した結果を示す図。
【図13】ストック決定処理の詳細の手順を示すフロー図。
【図14】エリア表記を置場表記に書き替え、時刻を再計算した結果を示す図。
【図15】移動先のエリアを置場に置き換えた図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明を実施するための形態(以下、実施形態という。)について図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本実施の形態の置場管理方法が適用されるスラブヤードのレイアウトを模式的に示す図である。
【0014】
スラブヤードには、スラブの搬入・搬出を行うための3つの間口(東間口、西間口、北間口)が設けられている。東間口では、例えば、製鋼工場との間で貨車を介してスラブの搬入・搬出が行われる。西間口では、例えば、他のスラブヤードとの間でトレーラを介してスラブの搬入・搬出が行われる。北間口では、例えば、次段の圧延プロセスに対して搬送テーブルを介してスラブの搬出が行われる。
【0015】
スラブヤード内は仮想的に6つのエリア(A1、・・・A6)に分割されている。2基のクレーン(東クレーン、西クレーン)が、このそれぞれのエリアに製鋼工場や他ヤードから貨車やトレーラによって搬送されてきたスラブを積載して複数の山を形成する。
またこれら2基のクレーンは、それぞれのエリアに保管しているスラブを圧延工場や他ヤードに輸送するために貨車・トレーラ・搬送路に搬出する。さらにこれら2基のクレーンは、上述の搬入作業、搬出作業を効率的に行うため、空き時間を利用して保管しているスラブ山を整理する作業に用いられる。
【0016】
図2は、スラブヤード置場管理装置の構成を示す図である。
スラブヤード置場管理装置は、スラブヤード置場管理装置本体1、搬入搬出計画情報DB(データベース)2、置場情報DB3、クレーン作業計画DB4を備えている。
【0017】
そして、スラブヤード置場管理装置本体1には、情報読込部1a、フロー決定部1b、ストック決定部1c、評価選択部1d及び情報書込部1eが設けられている。
情報読込部1aは、スラブヤードの置場管理に必要なスラブの搬入搬出計画に関する情報を搬入搬出計画情報DB2、置場情報DB3から読み込む。フロー決定部1bは、スラブを搬送する経路(ルート)を複数作成する。なお、ここで作成する経路はエリアを単位とした経路である。
【0018】
ストック決定部1cは、フロー決定部1bで決定された経路からより詳細の作業内容を付加した経路を作成する。なお、ここで作成する経路はエリアよりも狭い置場(スラブ山)を特定したものである。評価選択部1dは、ストック決定部1cで作成された経路を評価して最も効率的な作業が行える評価の高い経路を選択する。情報書込部1eは、選択された経路をクレーン作業計画DB4に書き込む。
【0019】
なお、スラブヤード置場管理装置は、例えばパーソナルコンピュータにより実現することができる。この場合、スラブヤード置場管理装置本体1は、CPU等の演算処理手段により実現され、搬入搬出計画情報DB2、置場情報DB3、クレーン作業計画DB4は、メモリ等の記憶手段により保存される。
【0020】
続いて、それぞれのデータベースに格納されている情報について説明する。
搬入搬出計画情報DB2には、搬入スラブ情報と搬出スラブ情報が格納されている。
図3は、搬入スラブ情報の具体的な内容を例示する図である。搬入スラブ情報には、搬入予定時刻、搬入完了期限、搬入場所、スラブNo、スラブ属性、スラブ分類が含まれる。
【0021】
搬入予定時刻、搬入完了期限は、それぞれ、貨車やトレーラの到着時刻と荷卸完了期限を表している。スラブNoは、スラブを特定するための情報であり、それぞれの情報はスラブNoをキーワードとして検索することができる。
スラブ属性は、貨車やトレーラによってスラブヤードに運搬されるスラブの厚さ、幅、長さ、鋼種、次工程、推定温度、重量等の情報である。スラブ分類は、スラブ置場を決定する際に指標となる情報である。スラブは一般的に、十数種類から数十種類で分類して管理される場合が多く、同一種類であればどのスラブでも代用可能である。この分類を「スラブ分類」と呼ぶ。スラブ分類は、スラブ属性によって定まる。なお、ここではスラブ属性として、寸法、鋼種、重量等を挙げているが、これは一例であり、他の項目でも構わない。
【0022】
図4は、搬出スラブ情報の具体的な内容を例示する図である。搬出スラブ情報には、搬出完了期限、搬入場所、スラブNo、スラブ属性、スラブ分類が含まれる。搬出完了期限は、貨車・トレーラ・搬送路によってスラブヤード外に運搬されるスラブの搬出期限情報である。スラブNo、スラブ属性、スラブ分類は、上述の搬入スラブ情報と同様であるためその説明は省略する。
【0023】
置場情報DB3には、現在のヤード内のスラブ置場情報が格納されている。スラブヤードにはスラブ置場が数十〜数百あり、各スラブ置場(スラブ山)にはスラブが数段〜十数段まで積み上げられている。図5は、スラブ置場情報の具体的な内容を例示する図である。スラブ置場情報には、置場を示す山位置(行×列)、段、スラブNo、スラブ属性、スラブ分類が含まれる。
【0024】
ここで、山位置は、スラブヤード内をマトリクス状に区分した行位置と列位置で指定される。従って、山位置の行位置と列位置はスラブヤード全体の中でアドレス付番されるが、結果として上述のエリア内に複数の山位置が存在することになる。また段は一番下にあるスラブから数えて1段、2段、・・・と昇順で付番される。
【0025】
クレーン作業計画DB4には、クレーン作業情報が格納されている。クレーン作業情報とは、置場・貨車・トレーラ上にあるスラブを、どのタイミングで、どの置場に運搬するかを示した手順指示情報である。図6は、クレーン作業情報の具体的な内容を例示する図である。クレーン作業情報には、No、移動元置場、移動先置場、割当クレーン、推定発生時刻、推定完了時刻、スラブNoが含まれる。
本スラブヤード置場管理装置は、作業効率の良いクレーン作成情報を作成することを目的とする。
【0026】
移動元置場、移動先置場はエリア及び番地標記(行×列、段)で示している。なお、貨車、トレーラ、搬送路は、搬送置場、搬出置場として予め指定されているエリア、置場で表される。割当クレーンは、東クレーン、西クレーンのいずれのクレーンを使用するかを表している。推定発生時刻は、移動元置場のスラブをクレーンで吊り上げる予定時刻であり、推定完了時刻は、移動先置場の山にスラブをクレーンで積載する予定時刻である。
【0027】
Noは、スラブの搬送作業ごとに付番される。図6のNo=1の作業は、移動元置場にあるスラブNo=N2021、N2022の2枚のスラブを東クレーンで一時に吊り上げて、移動先置場に搬送することを表している。
【0028】
次にスラブヤード置場管理装置の動作について説明する。
スラブヤード置場管理装置本体1は、搬入搬出計画情報DB2に格納されている搬入スラブ情報及び搬出スラブ情報に従い、計画されたタイミングに間に合うように、スラブを運搬するクレーンの作業手順を作成する。このとき、搬入搬出計画情報DB2に格納されている搬入スラブ情報、および、置場情報DB3に格納されているスラブ山情報を用いて、移動スラブの置き場所を決定する。作成されたクレーンの作業手順は、クレーン作業計画DB4に格納される。
【0029】
図7は、スラブヤード置場管理装置の概略の処理手順を示すフロー図である。
ステップS01において、情報読込部1aは、搬入搬出計画情報DB2から搬入スラブ情報と搬出スラブ情報を、置場情報DB3から現在のヤード内のスラブ山情報を取り出す。
【0030】
ステップS02において、フロー決定部1bは、すべての搬出・搬入スラブに対して、初期置場からどのエリアを経由して最終目的置場までいく経路を決める。フロー決定部1bは、エリア単位での移動経路を決定する。ここで、エリアとは、上述のように複数の置場をひとまとまりにしたもので、図1におけるA1〜A6がエリアを表す。また、フロー決定部1bが求めた経路を解と呼ぶ。解は複数作成される。
【0031】
図8は、ステップS02のフロー決定処理の詳細の手順を示すフロー図である。
ステップS21では、初期解を作成するために、先ず、各スラブについて移動元のエリアを特定する。搬入スラブについては、間口の存在するエリアが移動元のエリアである。搬出スラブについては、スラブ山の存在するエリアが移動元のエリアである。
次に移動先エリアを特定する。搬入スラブについては当該スラブと同じスラブ分類のスラブが置いてある山、または、空山とする。搬出スラブについては、間口の存在するエリアが移動先のエリアである。
【0032】
ここで、移動元エリアから移動先エリアに至る経路には複数の候補ルートがある。そこで、図9に示す経路候補リストからルートを選択する。ルートの候補が複数あるときはランダムに選択して決定する。
なお、クレーン制約により、移動元エリアから1つのクレーンで移動できるエリアには制限が設けられている。例えば、図9に示す経路候補リストに示されているルートが認められたルートである。従って、1枚のスラブの移動に2つ以上のルートが必要となる場合もある。
【0033】
以上の操作をすべての搬入・搬出スラブに対して行い、得られた移動経路をランダムに並べなおし、一つにまとめる。ただし、同一スラブでの移動経路順は移動元から移動先に向かう順になるようにする。作成されたリストを移動経路リストとよぶ。これが初期解となる。図10は、移動経路リストの一例を示す図である。
【0034】
このような操作を複数回繰り返して、互いに異なる初期解を複数個作成する。この複数個の解を解候補集合と呼ぶ。
【0035】
ステップS22において、求めた初期解のデータについて、前後で移動エリアが同じスラブの移動経路を一つにまとめる。例えば、図10に示す移動経路リストでは、No。3と4、及びNo5と6が一つにまとめることが出来る移動経路である。図11は、このようにしてまとめた結果を示す図である。ただし、一つにまとめることが出来るものは、クレーンのハンドリング制約を満たすものに限られる。クレーンハンドリング制約とは、同時に掴むことが出来るスラブの制約のことで、最大総重量やスラブ幅の差についての制約である。この操作を解候補集合に属する全ての初期解について実施する。
【0036】
ステップS23において、各移動経路に対してクレーンを割当てる。東西のクレーンは交差できないため、それぞれのクレーンは担当するヤードのエリアが決められている。例えば、図1のエリアA1、A4を移動元とする経路については西クレーンが担当し、エリアA3、A6については東クレーンが担当する。エリアA2、A5は、下記式(1)を満たす中でランダムに割当を決定する。
【0037】
1/ε< 東クレーンの総作業時間 / 西クレーンの総作業時間 < ε
・・・(1)
ここで、εは、1より大の1近傍の任意の値である。
【0038】
総作業時間=Σ割当てられた移動経路に対する作業時間+Σ次の移動元への移動時間
割当てられた移動経路に対する作業時間 = エリア移動距離/クレーン速度+クレーン上下動作時間+クレーン掴み放し動作時間。
クレーン速度、クレーン上下動作時間、クレーン掴み放し動作時間、各エリア移動距離は固定値である。
【0039】
また、次の移動元への移動時間とは、あるスラブを移動させた後、次に運搬するスラブがある位置までのクレーンの移動時間を言う。例えば、図11の場合、No5とNo6の作業の担当は東クレーンであるが、No5の移動先A4からNo6の移動元A3への移動が、次の移動元への移動時間に該当する。
【0040】
また、上記計算を行うことで同時に、移動経路が発生する推定時刻を計算する。各クレーンに対して、図11の移動経路を上から順に作業時間と次の作業への移動時間を計算することで、現時時刻から順に作業発生時刻と作業完了時刻を推定計算していく。図12は、図11に対して時刻を計算した結果を示す図である。この操作を解候補集合に属する全ての解について実施する。
【0041】
ステップS24において、ステップS23で得られた解に対して、下記計算式に従って、各作業の期限の余裕代(遅れ度合)の評価値を求める。この評価値の算出操作を解候補集合に属するすべての解について実施する。
【数1】

【0042】
推定搬入出完了時刻とは、ステップS23で求めた各スラブの推定完了時刻である。
この式でわかるように、この評価値が大きいほど良い解であるとされる。
【0043】
ここで、解候補集合に属す解のうち、作業遅れの発生が少ない評価値が上位X%(X:任意)の解を保持しておく。これらの解は、後述する図7のステップS03での計算で使用される。以下、この評価値が上位X%の解の集合をフロー解集合と呼ぶ。このフロー解集合は、後述するステップS26において解が再構成されてループを繰り返すごとに更新される。
【0044】
ステップS25において、ステップS24で得られたフロー解が採用できるかどうかを判断する。即ち、解を再構成してループを繰り返しても評価の高い解が得られなくなった場合、それまで最も評価値の高かったフロー解集合を採用する。
例えば、ループの繰り返し回数がN回以上となった場合、あるいは最も良い評価値がM回連続して変化しなかった場合などがこのケースに該当する。
【0045】
ステップS26において、初期解を再構成する。
【0046】
このステップS26では、ステップS21(または、前回の繰り返し時のステップS25)で算出した解候補集合に属す解のうち評価値が上位Y%(Y:任意)の解から、新たな解を作成する。具体的には評価値が上位Y%(Y:任意)の解に対して、ランダムに決めたスラブを交換することによって新たな2つの解を作成する。例えば、任意の2つの解を抽出し、その2つの解の前半のクレーン作業内容を交換したあらたな2つの解を作成する。そして、新たに作成した解を解候補集合に含める。また、新たな解作成に使われた上位Y%の解は、解候補集合から排除する。
【0047】
このようにして、図7のステップS02において評価値の高いフロー解集合を得た後、ステップS03を実行する。
【0048】
ステップS03において、ストック決定部1cは、ステップS02で求めたフロー解集合から、具体的な移動先や、スラブ山の積み方や必要な掘出し手順を決定する。
図13は、ステップS03のストック決定処理の詳細の手順を示すフロー図である。
この処理フローでは、すべてのフロー解集合に対して、クレーン作業時刻が小さい移動経路から順に以下の処理を実施する。
【0049】
ステップS31において、ストック決定部1cは、移動元置場で山の一番上にないスラブの掘出し作業を計算する。例えば、図12のNo1作業のスラブN2001が山の一番上に無かった場合、このN2001が一番上になるように、邪魔なスラブを別の置場に退避させるクレーン作業を付加する。この作業を掘出しと呼ぶ。このとき、邪魔なスラブの退避場所は、邪魔なスラブと同じスラブ分類のスラブが置いてある山、または、空山とする。
【0050】
さらに、図5の置場情報を用いて、図12ではエリア表記となっている移動元を置場表記に書き替える。掘り出し作業に伴うスラブ退避作業が新たに付加されるため、ステップS23と同様の方法で推定発生時刻と推定完了時刻を再計算する。図14は、その結果を表している。
【0051】
ステップS32において、ストック決定部1cは、移動先のエリアを置場に置き換える。もし、搬出スラブで移動先が最終移動先の場合、搬出置場(貨車、トレーラ、搬送路)に置き替える。搬出スラブで最終移動先でない場合、または、搬入スラブの移動先の場合、同じスラブ分類があるスラブ山に置き換える。図15は、その結果を表している。
【0052】
以上のステップS03の処理を行うことで、すべてのフロー解について、移動元と移動先が置場に置き換え、かつ、スラブの退避処理を付加した作業リストが完成する。この解をストック解と呼び、ストック解の集合をストック解集合と呼ぶ。既に説明した図6は、このようにして求めたストック解の一例である。このようにして、ストック解集合を得た後、図7のステップS04を実行する。
【0053】
ステップS04において、評価選択部1dは、ステップS03で求めたすべてのストック解に対して、ステップS24に従って、各作業の期限の余裕代(遅れ度合)の評価値をつける。そして、最も評価の高いストック解、つまり遅れが少ないストック解を最終解として選択する。
【0054】
ステップS05において、情報書込部1eは、ステップS04で選択された最終解を、クレーン作業計画データベース4に書き込む処理を行う。
【0055】
以上説明した実施の形態のスラブヤード置場管理方法及び装置によれば種々の効果を奏することができる。
クレーン負荷を考慮して移動スラブのハンドリングロットを決めるため、特定のクレーンに負荷がかかることによるスラブ搬送の停滞を防ぐことができる。
また、スラブ搬出作業が行いやすいように、搬入スラブの置場決めと、一時的に退避させるスラブの置場決めを同じスラブ分類のスラブがあるか否かで行う。そのため、搬入・搬出・整理のためのクレーンのハンドリング回数を小さく抑えることが出来る。
【0056】
さらに、本実施の形態では、第1ステップとして大きな領域であるエリア間のスラブ搬送計画を作成して、それらから効率の良い計画を抽出し、第2ステップとして、抽出したエリア間のスラブ搬送計画に基づいて、詳細な置場間のスラブ搬送計画を作成する。このように2段階で計画を作成することにより効率的に計画を作成することができる。
【0057】
なお、スラブ搬送の効率化は、スラブの熱片比率を上げて圧延プロセスでのスラブの再加熱を低減させるため、燃料原単位削減や圧延能率向上を図ることができる。
【0058】
尚、本発明は、上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。
また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。更に、異なる実施形態に亘る構成要素を適宜組み合せてもよい。
【符号の説明】
【0059】
1…スラブヤード置場管理装置本体、1a…情報読込部、1b…フロー決定部、1c…ストック決定部、1d…評価選択部、1e…情報書込部、2…搬入搬出計画情報DB、3…置場情報DB、4…クレーン作業計画DB。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スラブヤードにおける複数のクレーンを用いたスラブの搬入搬出計画を作成するスラブヤードの置場管理装置において、
前記搬入搬出計画に関する情報を取得する情報取得部と、
取得した前記情報から前記スラブヤードを区分したエリア間でのスラブ移動計画を複数作成するエリア間移動計画作成部と、
前記エリア間でのそれぞれのスラブ移動計画に対して、使用する各クレーンを割り当てるクレーン割当部と、
クレーンが割当てられたスラブ移動計画から作業完了予定時間に対する遅延時間の程度を表す第1の評価値をそれぞれのエリア間でのスラブ移動計画について求める第1の評価値算出部と、
前記求めた第1の評価値の高い上位から所定数のエリア間でのスラブ移動計画を抽出するエリア間移動計画抽出部と、
前記スラブヤードを区分した、前記エリアよりも狭い領域であるスラブ置場を用いて、抽出したエリア間でのスラブ移動計画のエリアを置き換えた置場間でのスラブ移動計画を作成する置場間移動計画作成部と、
それぞれの前記置場間でのスラブ移動計画について、作業終了予定時間に対する遅延時間の程度を表す第2評価値を求める第2の評価値算出部と、
求めた前記第2評価値の最も高い置場間でのスラブ移動計画を取得する搬入搬出計画取得部と
を備えたことを特徴とするスラブヤード置場管理装置。
【請求項2】
前記エリア間移動計画抽出部が抽出したエリア間でのスラブ移動計画を組合わせた合成エリア間スラブ移動計画を複数作成する合成エリア間移動計画作成部と、
前記合成エリア間スラブ移動計画を新たなエリア間でのスラブ移動計画として、前記第1の評価値算出部と前記エリア間移動計画抽出部と合成エリア間移動計画作成部とを所定の条件が充足されるまで繰り返して実行させる繰返し制御部と
を更に備えたことを特徴とする請求項1に記載のスラブヤード置場管理装置。
【請求項3】
前記置場間移動計画作成部は、
移動元のエリアをスラブ置場に置き換える際、スラブ山を掘り出す必要がある場合にはスラブ掘出し作業を置場間でのスラブ移動計画に追加する掘出し作業追加部と、
移動先のエリアをスラブ置場に置き換える際、移動するスラブのスラブ分類に基づいて移動先スラブ置場を決定する移動先スラブ置場決定部と
を備えたことを特徴とする請求項1に記載のスラブヤード置場管理装置。
【請求項4】
スラブヤードにおける複数のクレーンを用いたスラブの搬入搬出計画を作成するスラブヤードの置場管理装置の置場管理方法において、
前記置場管理装置は、情報取得部とエリア間移動計画作成部とクレーン割当部と第1の評価値算出部とエリア間移動計画抽出部と置場間移動計画作成部と第2の評価値算出部と搬入搬出計画取得部とを有し、
前記情報取得部によって前記搬入搬出計画に関する情報を取得し、
前記エリア間移動計画作成部によって取得した前記情報から前記スラブヤードを区分したエリア間でのスラブ移動計画を複数作成し、
前記クレーン割当部によって前記エリア間でのそれぞれのスラブ移動計画に対して、使用する各クレーンを割り当て、
前記第1の評価値算出部によってクレーンが割当てられたスラブ移動計画から作業完了予定時間に対する遅延時間の程度を表す第1の評価値をそれぞれのエリア間でのスラブ移動計画について求め、
前記エリア間移動計画抽出部によって前記求めた第1の評価値の高い上位から所定数のエリア間でのスラブ移動計画を抽出し、
前記置場間移動計画作成部によって前記スラブヤードを区分した、前記エリアよりも狭い領域であるスラブ置場を用いて、抽出したエリア間でのスラブ移動計画のエリアを置き換えた置場間でのスラブ移動計画を作成し、
前記第2の評価値算出部によってそれぞれの前記置場間でのスラブ移動計画について、作業終了予定時間に対する遅延時間の程度を表す第2評価値を求め、
前記搬入搬出計画取得部によって求めた前記第2評価値の最も高い置場間でのスラブ移動計画を取得すること
を特徴とするスラブヤード置場管理方法。
【請求項5】
前記スラブヤード置場管理装置は、合成エリア間移動計画作成部と繰返し制御部とを更に有し、
前記合成エリア間移動計画作成部によって前記エリア間移動計画抽出部が抽出したエリア間でのスラブ移動計画を組合わせた合成エリア間スラブ移動計画を複数作成し、
前記繰返し制御部によって前記合成エリア間スラブ移動計画を新たなエリア間でのスラブ移動計画として、前記第1の評価値算出部と前記エリア間移動計画抽出部と合成エリア間移動計画作成部とを所定の条件が充足されるまで繰り返して実行させること
を特徴とする請求項4に記載のスラブヤード置場管理方法。
【請求項6】
前記置場間移動計画作成部は、掘出し作業追加部と移動先スラブ置場決定部とを有し、
移動元のエリアをスラブ置場に置き換える際、スラブ山を掘り出す必要がある場合には前記掘出し作業追加部によってスラブ掘出し作業を置場間でのスラブ移動計画に追加し、
移動先のエリアをスラブ置場に置き換える際、前記移動先スラブ置場決定部によって移動するスラブのスラブ分類に基づいて移動先スラブ置場を決定すること
を特徴とする請求項4に記載のスラブヤード置場管理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−16633(P2011−16633A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−162993(P2009−162993)
【出願日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】